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もし目が覚めたらそこがDQ世界の宿屋だったら13泊目

1 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2008/04/29(火) 23:42:43 ID:m1wsBb0V0
このスレは「もし目が覚めた時にそこがDQ世界の宿屋だったら」ということを想像して書き込むスレです。
「DQシリーズいずれかの短編/長編」「いずれのDQシリーズでもない短編/長編オリジナル」何でもどうぞ。

・基本ですが「荒らしはスルー」です。
・スレの性質上、スレ進行が滞る事もありますがまったりと待ちましょう。
・荒れそうな話題や続けたい雑談はスレ容量節約のため「避難所」を利用して下さい。
・レス数が1000になる前に500KB制限で落ちやすいので、スレが470KBを超えたら次スレを立てて下さい。
・混乱を防ぐため、書き手の方は名前欄にタイトル(もしくはコテハン)とトリップをつけて下さい。
・物語の続きをアップする場合はアンカー(「>>(半角)+ 最後に投稿したレス番号(半角数字)」)をつけると読み易くなります。

もし目が覚めたらそこがDQ世界の宿屋だったら12泊目
http://game13.2ch.net/test/read.cgi/ff/1198792331/

PC版まとめ「もし目が覚めたら、そこがDQ世界の宿屋だったら」保管庫@2ch
ttp://ifstory.ifdef.jp/index.html

携帯版まとめ「DQ宿スレ@Mobile」
ttp://dq.first-create.com/dqinn/

避難所「もし目が覚めたら、そこがDQ世界の宿屋だったら」(作品批評、雑談、連絡事項など)
ttp://jbbs.livedoor.jp/game/40919/

ファイルアップローダー
ttp://www.uploader.jp/home/ifdqstory/

お絵かき掲示板
ttp://atpaint.jp/ifdqstory/

501 : ◆DLQmf08qD. :2008/12/22(月) 13:18:35 ID:nwicmV+M0
おっさんが帰った後、洞窟の最深部になにかないかなと探しまわった。
宝箱を見つけ中身をとりだし帰ろうとする俺に誰かが話しかけてきた。
「ぷるぷる。僕は悪いスライムじゃないよ」
俺はスライムをサッカーボールみたいにドリブルしながら洞窟を出た。

道具屋のおっさんの所にいった。
「おう!さっきの坊主じゃねえか!そこの引き出しになんか入っているから持っていきな!」
引き出しを開けてみるとエロ本とておりケープがあった。
(どっちだ?どっちなんだ?)
エロ本を取りここを去ろうとしたらおっさんに引き止められた。
「そっちじゃねえ!ておりのケープだ!」
ちっ、そっちか。

村の人々の話を聞き終え家に戻る。
デブがお出迎えすると次にさっきの話をしてきた。
「なー、3人のうち1人でもいいからさ。くれよ〜」
またかよ。それにしてもうぜえな。
「黙れ。この金髪豚野郎が」
この言葉を言うとデブが怒りだした。
「ちょ、おま。金髪だと?金髪と言ったか今?金髪とかふざけんじゃねえぞ!
金髪と言った事、今すぐ取り消せ!前言撤回しろ!」
「いや、どこ怒ってんの!?金髪の他に怒るとこあるだろ!豚野郎に怒れよ!」
「あ、豚野郎は許すわ」
「許すのかよ!普通そこに怒るだろ!」
「てゆうか俺、金髪じゃないし」
「ツっコむのおせーな!」
「それよりも早く寝ろ!」
あれ?こいつツンデレ?こんな奴のツンデレなんて見たくねーよと思いつつ寝ることに。

502 : ◆DLQmf08qD. :2008/12/22(月) 13:35:24 ID:nwicmV+M0
おっさんが帰ったので最深部になにかないか探す。
宝箱を見つけて中身を取りだし帰ろうとすると誰かが話しかけてきた。
「ぷるぷる。僕は悪いスライムじゃないよ」
俺はスライムをサッカーボールみたいにドリブルしながら洞窟を出ていった。

道具屋のおっさんに会いに道具屋の店に行った。
「おう、さっきの坊主じゃねえか。そこの引き出しに入っているモン持っていっていいぞ」
話の分かる奴だ。だが引き出しを開けるとエロ本とておりのケープがあった。
(どっちだ?どっちなんだ?)
エロ本と決め持ち去ろうとするとおっさんが慌てて叫んだ。
「そっちじゃねえ!ておりのケープだ!」
ちっ、そっちか。

村の人々の話を聞き終え家に帰る。
デブがお出迎えしたと思いきや次にさっきの話をしてきた。
「なー、3人のうち1人でもいいからくれよ〜」
またかよ。それにしてもうぜえな。
「黙ってろ!この金髪豚野郎が!」
するとデブが怒りだした。
「ちょ、おま。金髪だと!?金髪とかふざけんじゃねえぞ!
金髪と言ったこと今すぐ取り消せ!前言撤回しろ!」
「いや、どこに怒ってんだよ!もっと他に怒る所あるだろ!豚野郎と言ったことに怒れよ!」
「あ、それは許すわ」
「許すのかよ!」
「てゆうか、俺金髪じゃねーし」
「いや、ツッコむのおせーな!」
「つーかさっさと寝ろ!」
あれ?こいつツンデレ?こんな奴のツンデレなんて見たくねーよと思いつつ寝ることにした。

503 : ◆DLQmf08qD. :2008/12/22(月) 13:37:09 ID:nwicmV+M0
間違えました。連投すいません。今日はここで終わりです。
こんな駄作でよければ書いていこうと思います。

504 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2008/12/22(月) 17:11:08 ID:RO0wx9a0O
何だかめちゃくちゃだ…
だがそれがいい

505 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2008/12/23(火) 00:10:12 ID:daebOWRS0
パパスwwwwwwww
サンチョwwwwwwwwww
こいつらwwwwwwwwwwwwww

続きを期待していますノシ

506 :喪失 ◆GlJDOSjJ1Y :2008/12/23(火) 12:01:55 ID:vl3rV1y4O
>>479の続き

ロマリアの夜の城下街を歩く。
この街はとても広く宿屋や酒場などが多く立ち並んでいて、どこを歩いてきたのか分からなくなってしまうほどだった。
遠くの方に微かに城らしき建物の頂上部の明かりが町並みに見え隠れしている。アリアハン城より大きいかもしれない。
夜だと言うのに人通りは少なくなく、旅人とすれ違うこともしばしばだったが皆立派な武器防具を身につけていた。
きっとあのくらいでないとこの周辺のモンスターには太刀打ち出来ないのだろう。
俺も銅の剣では少し不安ではあるが、サキは木刀でそんなモンスターを軽く蹴散らしてしまえるんだからまだ我慢すべき所か。
強い武器防具に頼っていては強くはなれないと言うし。

俺は適当に雰囲気が良さそうな酒場を見つけ、中で夜食兼情報収集をすることにした。
酒場に入る前にサキは少し躊躇っていたが例のごとく鼻に洗濯挟みを付けて中に入った。
俺は見兼ねて外で待ってろと言ったがサキは首を横にフルフルと振った。
店員が不思議そうにそれを見ていたが、「お前ら笑ったら死ぬぞ」と言うオーラを俺が出していたので誰も突っ込んではこなかった。

ルイーダ姉さんの作った弁当より遥かに劣るであろうメニューを適当に注文し、俺はそれを瞬時に食べ終えていよいよ本題へと入る。

「強い人。」
どう聞けばいいか迷ったがこれで十分な筈。
こんな世界だ。強い奴は嫌でもすぐに名前が知れ渡る。アリアハンで俺がそうだったように。

俺は複数人に尋ねた。
尋ね終えると、俺は自分の中の戦士としての心がその名前の挙がった者にすぐにでも会いたいと心臓を高鳴らせた。
なぜなら酒場にいた一般客、旅人、店員全てが口を揃えて一人の男の名前を言ったからだ。

その男の名前は「カンダタ」と言った。

507 :喪失 ◆GlJDOSjJ1Y :2008/12/23(火) 12:07:32 ID:vl3rV1y4O
「カンダタ」
詳しく話を聞いてみるとその男は大盗賊の頭であり、この国では知らぬ者はいないほどの人物だった。
悪名高く、あろうことか先日もこの国の王様から王の冠を盗んで逃走したらしい。
この国の兵士ではまったく歯が立たず、捕らえようとした兵士数十名が斧で斬り殺されたという話だ。
熊の様な大柄で巨斧を軽々と振り回し、人間をまるで紙屑の様に斬り殺す様を見た者は、
「あれは人ではなくモンスターだ。」と口を揃えて言う。

「アンタもしかしてやっつけようとか思ってるのか?」
一人の酔っ払った酒場の客が聞き返してきた。
「いや…、少し興味があっただけなんだ。」
俺は微妙な返し方をした。……嘘だな…。
「だよなぁ。悪いけどアンタ強そうには見えないしなぁ。なっはっは。」
…アリアハンでもよく言われたがやはりここでも言われたか。まぁどうでもいいことだが。

そんなことよりカンダタとか言ったか。
話しから察するに俺より上か…。例え俺より上だとしてもサキには劣るだろうか…。
ロマリアでモンスターと恐れられる盗賊の頭カンダタか…
アリアハン一の戦士の俺が怖じけづくほどの勇者の娘サキか…
………そうか…。俺が戦ってみたいんじゃなくてそのどちらが強いのか見てみたいのか。
…くそっ。なんだよ。俺ってこの程度の人間だったのか………?

「…そいづは…どこに行けば会える…?」
今度はサキが酔っ払いの客に聞き返した。やはりサキはそのカンダタと戦ってみたいのだろうか。
その酔っ払いは、「なんだこのガキは?」という表情を見せたがその少女の背中に差してある2本の剣をマジマジと見ると答えた。
「なんだい嬢ちゃん?あんたがカンダタを倒すなんて言うじゃないだろうなぁ?なっはっは、まさかな。」
「………。」
いつもの様に表情を変えずに真っ直ぐ相手を見据えたまま自分の問いを待つサキ。
「けっ。おもしれぇなぁ。アンタらよく見ると強そうじゃねえか。アンチャンも傷だらけでイイ男だしよぉ。」
「………。」
俺も無言で返してやった。酔っ払いは少し考えた様子の後、手に持つグラスの中のアルコールを一気に飲み干した。
「…っうぅっく。しゃあねぇな。カンダタってのは盗賊団だ。部下を何人か従えている。この街では無い場所にアジトがある筈だ。」
「どこにある?」
「それは分からねぇ。だがこの国の情報によれば北の方からやってくるってことは確かなようだ。」
「北か。曖昧だな。」
「北に行けばガザーブってぇ村がある。知ってるか?」
「いや…。」
「まぁ行ってみることだな。行ったところでどうにもならないかもしれないがなぁ。」
「そうか。ありがとう。」

「はぁ〜あ。俺のせいで死人が出ちまったぜ。若い男女が2人もよぉ。飲まずにいられるかちくしょぉ〜。マスター!酒!」
その酔っ払いは酒場を後にする俺達にわざと聞こえるかの様に酒のお代わりを注文していた。

508 :喪失 ◆GlJDOSjJ1Y :2008/12/23(火) 12:13:38 ID:vl3rV1y4O
酒場を出てから俺は、当初の目的が変わってしまっていたことに気が付いた。
俺達はこの街へ強い仲間を探しにやってきたんだった。
それがいつの間にやらカンダタとか言う盗賊の頭に興味が奪われて、戦うか戦わないかの問題になってしまっていた。
どうする?と若干鼻が赤く跡が残っているのを気にしているかの様に、手で隠しているサキに声をかけた。
サキは、あまり自分の顔を見るなと言うような目つきで俺を見た。
…そんなことを気にする奴だったか?やはりこいつの行動には理解し難いものがある。

「…何を…言ってる?」
「いや、だから目的変わっちまってるだろ?」
「…変わってなどない。」
「あ?」
「そいつを…仲間にする。」
「は?」
俺にはそんな発想出来る筈もなく、理解するまで少し間が空いてしまった。
「話し聞いてたのかお前!?盗賊の頭だぞ?極悪野郎だぞ?人も殺してる。」
「関係無い…。」
「か、関係無いことあるか!そんな奴仲間になるわけないだろ!?」
「力でねじふせれば…どうにでもなる…。」
「な!?」

これが女…いや、勇者の娘の言う言葉なのかと俺はその言葉にしばらく度肝を抜かれていた。

強い故に恐ろしい奴に目をつけられたもんだなカンダタとやらも…。
果たしてどうなるんだろうな…。

出発は明日。俺達は宿に戻り明日に備えて早めに眠りに着くことにした。

509 :喪失 ◆GlJDOSjJ1Y :2008/12/23(火) 12:28:36 ID:vl3rV1y4O
この先話がめんどくさくなりそうですがよろしくお願いします。
サキと主人公気に入ってもらえてよかったです

510 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2008/12/24(水) 03:09:04 ID:IPz33B+X0
サキー!!俺だー!!決闘してくれー!!

511 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2008/12/24(水) 22:16:38 ID:EFpMXNItO
一応検討しておきます。

512 :IV 第一章:プロローグ ◆fzAHzgUpjU :2008/12/26(金) 00:13:48 ID:KQ11zLxV0
 雨がひどい。少しでもアスファルトがへこんでいるところは水たまりになっていて、革のブーツがびじょびじょになる。
ジーンズの膝が色濃くなって、夜道を照らす青い街灯の光りを黒く吸い込んでいた。私は走っている。
夜なのにサングラスもとらずに、ただひたすら自宅アパートに向かった。
 組んでいるバンドのボーカルが死んだ。交通事故だった。新聞やニュースを見れば、毎日必ず一度は目にする人の死亡要因だ。
自分やその周りには降りかかる悲劇ではないと、誰もがたかをくくって生きている。
明日になれば、新聞の地域欄に彼が死んだという簡素な記事が載る。
葬儀を終えて、練習スタジオキャンセルがどうしてもできないからと密室でギターを引き続けた私も、
ドラムやベースといった私以外のメンバーも、無表情に意気消沈して時間通りに解散した。
 深い水たまりに左足がはまった。高く上がった雨水が細い柱のように伸びてきた。「え?」と思った瞬間、
水は渦を巻き私の腰を絡め取ってずるんと足のつかない感覚へ引きずり込んだ。
 反時計回りの激流の中、何が起こったのかもわからず回らない頭でドブにでも落ちたのかと考える。それにしては深すぎた。
脳味噌がかき回されているように意識が体から振りほどかれて、ぱちんと暗転した。


513 :VI第一章:イムル ◆fzAHzgUpjU :2008/12/26(金) 00:14:25 ID:KQ11zLxV0
 目蓋を開けると視界は白い太陽光に照らされて明るかった。なんだか手足が左右上下ばらばらに引っ張られているような疲れがある。
それでも頑張って体を起こして周囲を見渡した。胸までかかっていた薄い布団をとっさに握り締める。
 ここは私の部屋じゃない。
 木の板を隙間なく打ち付けた壁に、シンプルな額縁に入った風景画が飾られている。
曇りのないガラスがはめ込まれた窓枠はかなり質素な作りになっていて、必要最低限の技術で固めた建築物、
その一室に置かれたベッドに寝かされていたようだった。
 背の低いタンスがベッドの横に置いてあった。手作りらしいリリアンの上に、サングラスがある。
もう少しよく部屋を見回すと、タンスの引き出しは少し開いていて、黒光りする何かがある。
中を覗くと、さっきまで着ていた革ジャンが無理やり畳まれて入っていた。
 ドアが開く音に飛び上がる。あわててサングラスをかけてドアを凝視していると、中年の男性が部屋に入ってきた。
誰だろう? 見たこともない。鮮やかな黄緑色の帽子にそろいの上下をあわせ、白いエプロンをつけている。
エプロンはところどころ、食べ物の染みなんかで汚れていた。食事の支度でもしていたんだろうか。
 「おや!お目覚めになりましたか?で、どうです?体のぐあいは」
 男性の服は、映画や漫画でちらりとしか見たことのない装飾が施されていた。
装飾とは言っても、やっぱりそれはほんの小さなアクセントにしかならない程度のもので、私が見知ったデザインとは違う。
 「平気、です。あの、ここは」
「ここはイムル。イムルの旅の宿ですよ。あなた、この村から西にある湖に浮かんで漂っていたんですよ?
よく溺れずにいましたねぇ、あんなに重たい服を着て」
 たぶん、彼は私の革ジャンのことを言ってるんだと思う。湖に浮かんでいた、って……なんで沈まなかったんだろう。
疑問だけれど考えたって仕方がない。男性はこの「旅の宿」のご主人らしい。あなたが私を助けてくれたのかと尋ねると、
自分ではないという。隣の部屋に止まった「ライアン」という王宮戦士が、湖に浮かんでいた私を引っ張り上げて、
ここにつれてきてくれたのだそうだ。


514 :VI第一章:イムル2 ◆fzAHzgUpjU :2008/12/26(金) 00:15:00 ID:KQ11zLxV0
 湖の中にいたのにどうして沈まなかったんだろう、ということよりも、もっとわからないことがある。
イムルなんていう地名、聞いたことがない。西方に湖がある村なんて日本中探したってそうたくさんはない。
それに、周囲を形作るこれらのものたち。ここは日本じゃない。それだけしかわからない。
 宿のご主人がいなくなってから(何かあったらいつでも下の受付に来てくれと言ってくれた)、持ち物を確認した。
水たまりで溺れたときに私が持っていたのは、シザーケースに入れたお財布と携帯電話、市販の鎮痛剤にサングラスのケース、
ジーンズの後ろポケットに入れてたラークマイルドとライター。
 それから、命と家族の次に大切なジェームス・バートン・テレキャスター。
 湖に浮かんでいた、ってことは……携帯電話とテレキャスターはまさか……両方とも……?!
 でも、丁寧に革ジャンと一緒にしまってあったシザーケースの中は渇いていて、
革製のお財布もサングラスのケースもちっとも傷んでいなかった。ベッドの上でシザーケースをひっくり返す。
 出てきたのは、お財布・サングラスのケース、のみ。鎮痛剤と携帯電話がない。部屋中よく探してみても、
テレキャスターは見つからない。
 お財布を開けて見てさらにびっくりしたのは、ひとつめに硬貨の形や紙幣の絵柄がまったく違うこと。
「100G」と印刷された紙幣が6枚と、「10G」の文字と装飾の硬貨が5枚、それから、「1G」の硬貨8枚。
お財布に入れてたのはだいたい6500「円」ちょっとだったはずなのに。
ふたつめに、クレジットカードや会員証なんかのバーコードや磁気読み取りつきのカードがなかったこと。
人の手でチェックされたり、スタンプを押すようなのは無事だった。


515 :VI第一章:イムル3 ◆fzAHzgUpjU :2008/12/26(金) 00:15:42 ID:KQ11zLxV0
 私服に着替えてから一階に降りて(柔らかい布の服にいつのまにか着替えさせられてた。誰がやってくれたかはあえて考えない)、
さっきのご主人にテレキャスターやカード類の特徴を説明してそこらで見なかったか聞いてみるも、そんなものはなかったと返された。
ジーンズのポケットに手を入れると、タバコの箱は入っていたのにライターだけが見つからない。
スタンプカードやタバコはちゃんとあるのに、どうして他のものは出てこないんだろう?
 むーむー唸りながら考えていると、二階から背の高い男性が降りてきた。
 鉄製の鎧兜に身を包み鋭い槍を手にしたその人は、青くて丸いものに黄色いぱやぱやがたくさんついた奇妙な生き物と一緒だった。
 「おお、お嬢さん、この方があなたを助けたライアンさんですよ」
 口ひげをたくわえた「ライアン」さんが、私のほうを見た。まんまるい目をくりくりさせた青いのも一緒になってこっちを見ている。
お礼をしようと向き直ると、彼は私に対して一礼し、強い意志を秘めた眼差しを鉄兜を脱いで見せた。
 得体の知れない、それでもとても強くてまっすぐな「何か」に胸を貫かれた気がした。
 「ご無事なようで何よりです。私はバトランド王宮戦士のライアンと申します」
 無駄な線ひとつ描かない会釈に気をとらわれていたが、私もすぐにお礼と自己紹介を口にした。
 「助けていただいて、ありがとうございました。私は『メイ』です」
「『メイ』殿、ですな」
 彼が「王宮戦士」であることは聞いたけど、さっきこの胸を貫いたように感じたのは、
ライアンさんが持つ地位や、相手をねじ伏せるための強さとかそんな安っぽいものじゃない。
私が今まで覚えた言葉や現象を使っても、けっして説明のつかないような雰囲気を、彼は持っていた。



Lv.1 メイ
HP:14 MP:0
E −
E −
E 革の服(革ジャン)
E −
E サングラス

戦闘呪文:−
所持金:658G
※テレキャスター=アメリカのギター会社フェンダーのエレクトリック・ギター

516 : ◆fzAHzgUpjU :2008/12/26(金) 00:17:02 ID:KQ11zLxV0
新参者ですが、以後よろしくお願いします。

517 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2008/12/27(土) 04:51:10 ID:0L6iFKzzO
新人さんktkr
機械系はダメなのかなーテレキャスで戦うとか想像したw

518 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2008/12/27(土) 23:35:43 ID:05KOkQAyO
>>516
期待しちょります

>>517
>テレキャスで戦うとか想像したw
俺漏れもw音撃とか斬鬼さんに変身とか妄想したw

519 :魔法使用方法論1 ◆fzAHzgUpjU :2008/12/29(月) 15:08:59 ID:ulrUGKEH0
>>512-515の続き

 「だいじょうぶ?落ち着いた?」
「宿の主人がミルクを温めてくれたが、……飲めるだろうか?」
 イムルの宿屋でライアンさんと対峙して、ホイミンくんという名前のホイミスライムが挨拶をしてくれた瞬間、
緊張の糸が切れて混乱のドツボにはまりこんでしまった。「ここはどこ?どうしてここにいるの?」という、
忘れよう忘れようとしていた不安要素が、ライアンさんを前にして崩れ落ちてきたみたいだった。
多分、ライアンさんが強く優しい人で、なおかつ正しい道を歩んでいるから安心しちゃったんだと思う。
うぅ……まさかハタチをすぎてから人前でわーわー泣くことになるなんて。恥ずかしいよ恥ずかしいよオゥイェーア。
 ひとしきり、イムルの旅の宿のカウンターの前で泣いてから、私はありのままこの身に起きたことを彼らに話した。
すると、あまり喋るのが得意ではないライアンさんに代わり、ライアンさんが私を湖から助け出したときのことを教えてくれた。
 最近、イムルを含めこのあたりを統治しているバトランドは奇妙な事件でもちきりなんだそうで、それもタチの悪いことに、
「子どもが神隠しにあうように、ふっと目の前から消えていなくなってしまう」というものだった。
ライアンさんとホイミンくんは手にした情報を元に、イムルの村の西にある塔が怪しいと目論んでいたけれど、
塔は湖に囲まれて人の足では近寄れない。イカダを運ぼうにも、距離があり魔物も出るから難しいということだった。
 魔物だとか、ホイミスライムだとか、神隠しだとか、そういった件についてはもう割合してしまう。
目の前で見せ付けられている「青いのに黄色いぱやぱや」の生物とか、その生物が唱えた不思議な魔法とかは、
もう喋るよりも頭で整理するよりもさっさと見たほうが早いもん。
 それで、ライアンさんたちは「とりあえず、塔の近辺に行って様子を探ってこよう」と湖畔を散策することに決めた。
私を見つけた経緯だった。
 「私が湖で仰向けに浮かんでいたメイ殿を岸に上げた瞬間、メイ殿の衣服や荷物を濡らしていた水が蒸発した。
何事もなかったかのように、メイ殿はさらさらと渇いた髪を風になびかせて眠っていたのです」
「あれ、魔法の匂いだったよね。ぼく、わかるもの」
 ぬるくなりつつあったホットミルクのカップを握り締める。カップの熱とは裏腹に指先が冷たくなった。
魔法の匂いがする得体の知れない存在になってしまった自分を、せめて私だけは認めなきゃ。


520 :魔法使用方法論2 ◆fzAHzgUpjU :2008/12/29(月) 15:09:37 ID:ulrUGKEH0
 「魔法ってね、魔力を発するだけじゃダメなんだ。魔力を受け取る力と、発する力。
両方を持って理解して、初めて使えるんだよ」
 ホイミ、と口にしてライアンさんのケガを治して見せたホイミンは、
湖から引っ張り上げられた私が放つ魔法の匂いの説明をしてくれた。魔法、ねぇ……。なんかもう、信じられない。
つい昨日までは、マーシャルのアンプを力ずくで運んで、ギターのチューニングしてギュインギュイン弾いてた人間が、ね?
今は青くて黄色のぱやぱやに、人間が夢見続けてきた幻想の力について講義を受けているのですよ。
 「私のような武術を得意とする者は、たいてい魔力を発する力に長けていないからその道を選んでいる。
メイ殿は、ホイミンが言う限りでは、魔法の才が多少なりともおありなようだ。異界から来たにも関わらず。
目が覚めてここにいたのには、何か特別な理由があるように思いますぞ」
 んー……、ああ、なるほど。
インターネット回線でメールやネットするときは、受信と送信の両方が出来て初めて役に立つもんね。
送信ばっかりしてたら相手のメールの内容なんてわかんないし、受信ばっかりしてたら自分の言いたいことが言えないからか。
 魔法も、要は同じってことかなぁ。
 「魔力を受け取ることが出来ないと魔法の本質そのものを得ることができないから、受け取る力もなきゃいけないと?」
「そうそう!例えば今ぼく、魔法を唱えたよね?魔力を受け取る力がある人は、誰かが魔法を使っていたり、
何かから出てる魔力を感じて『魔法や魔力ってこういうものなんだ』って、感じられるの。
それで、魔法や魔力を理解できたら、今度はそれを自分から出すんだ。それが『魔力を発する』ってことなんだよ」
 ……えーと。うん。あれか、大切なのは習うより慣れろってことですね。
 「メイさん、魔法は使えないの?使ったこと、ない?なんだか素質ありそう〜」
 眉間を寄せてやっぱりむーむー唸っていた私の顔をホイミンくんが下から覗き込む。
 「いや……私のいた世界は、魔法なんてなかったから。素質なんてないよ。何の変哲もないただのギタリストだもん」
「おお、それなら魔法の素質があるというホイミンの言葉にも、納得がいきますな」
 今までやけに静かにしていたライアンさんがずい、と身を乗り出した。
 「音楽と踊り、詩文と言葉は魔法を介するものたち。内に秘めた力を外に出すための、最大の方法だと言いますぞ。
メイ殿はおそらく、音楽を奏でることによって、この世界の魔法に似た力を使うことが出来たのでしょうな」
「それはありませんよ」
 自分で思っていたよりもずっと、即答で否定が出てきてしまって驚いた。
 ステージの上で、音や言葉に乗せて色んな人を力で引き寄せていたのは、私ではなくて―――「彼」だ。
 「そんなことないよ!だったら、ぼくが教えてあげるから、魔法つかってみて!ね!?」
 必死なホイミンくんに苦笑しながら付き合ったら、あっという間に「ホイミ」を習得してしまった。
自分のギターの音色を、良い方向に自認しているような気がした。


521 :湖の塔1 ◆fzAHzgUpjU :2008/12/29(月) 15:10:21 ID:ulrUGKEH0
 昨夜、ホイミンくんから教わったのは「ホイミ」と「メラ」の二つの魔法だった。
 口と声で魔法の名前である「呪文」を唱え、それに魔力を乗せて相手に飛ばす。それが「魔法」というものだった。
私にはなかなかの魔法の才能があるらしい。もといた世界に戻るのにも魔法が必要ならばと、
魔力めいた神隠しの真相を探り帰路へのヒントを掴むため、ライアンさんたちに同行させてもらうことになった。
 ちっちゃいころは女の子の大半が、ピンクや赤のふりふりがついたお洋服を着て、星やハートや三日月のついた
魔法のステッキを持って、かわいい魔女になることを夢見ていた。
 私だって、三歳や四歳のころからハードロックやヘヴィメタル一色だったわけじゃない。
今でも魔法が使えるなら、そういう「かわいい」杖を持ってシャララーンと悪いやつをやっつけたい。
 ……なんて、いい大人が持つもんじゃない考えを持っていたのは、つい三時間ほど前のことで―――。
 「しゃあッ!」
 力むときの妙なクセとなってしまった掛け声と共に私が振り下ろしたのは、ライアンさんとお揃いの「鉄の槍」。
有り金をはたいて武器を買おうと店のラインナップを見て、あんなに重たそうなもの絶対に扱えない!
って思ってました。最初のほうは。だけども悲しいことに、アンプやスピーカを移動させたりとか、
片手にマイクスタンドを三本とか四本とかまとめて持ったりするとか、
そういった肉体労働のおかげで、私はこの世界の重い武器をありがたくもないことに扱えるみたいだった。
これならテレキャスターでギャンギャン騒音聞かせたところをヘッドやネックで殴りかかったほうが私らしい気がするけど、
見つからないものはもう仕方ない。ものすごく悲しいけど。給料半年間貯金しつづけて買ったやつだけども。
 ライアンさんのお下がりの「うろこの盾」をもらいうけ「鉄の槍」を手に、私たちは湖の塔の地下を目指している。
 ライアンさんがホイミンくんと出会った古井戸で見つけた靴は魔力がこもったものだった。
ホイミンくんを左腕にしがみつかせ、右腕で私を抱きかかえて靴を履いたライアンさんは、二人と一匹分の体重なんて
ものともしないで重力に逆らい大空を舞った。飛び上がった瞬間、稲葉浩志にも負けないぐらいのシャウトをしちゃったのは、
まあここだけの話ということで。
 塔なのに地下へ向かうのはなぜか。それは、空飛ぶ靴で着陸したのが塔の屋上だったことと、
屋上から大目玉が子どもを無理やりつれて階下に向かうのを見たから。
 長い階段を下りて地下に向かうためには、まず入り組んだ塔の内部を探索して階段がどこにあるのかを探さなくちゃならない。
それに付け加えて、塔には地上とは比べ物にならないほど強い魔物がたくさん出る。
さっきからぜんぜん息が整わない私に、ライアンさんは木製の水筒を差し出しながら言った。
 「メイ殿は、力があるのに体力がありませんな。気をつけてください。体力の無さは打たれ弱さの証です。
けっして無理をしませんよう」


522 :湖の塔2 ◆fzAHzgUpjU :2008/12/29(月) 15:11:23 ID:ulrUGKEH0
 呼吸のたびに肺からびゅうびゅう嫌な音がするのは十四歳のころから。ライアンさんたちと同行するのを決めたとき、
覚えたてのメラで残っていたタバコすべてに火をつけて、一口ずつだけ吸ってあとは全部燃やした。
ずいぶんと突拍子のない理由で禁煙することになったけど、これから毎日こんな長距離移動が待ち受けているなら、
タールやニコチンなんて吸ってられない。バンドマンはボーカリストじゃないかぎり、大抵の人が喫煙者。
私も例外じゃないわけで、鼻でらくらく呼吸をしているライアンさんとは違い、さっきからゼーゼー言いっぱなし。
 「重い装備が出来る人って、普通は打たれ強いはずなんだけどなぁ」
「常識が通じない人間も中にはいるよ」
 気づかれないようにしていたのだろう、ソロ〜リと後ろから近寄ってきたダックスビルを槍でなぎ払う。
トドメに遠距離からメラを打って完了。着々と強くなるのが実感できて、元いた世界でよく味わってた歯がゆさも
忘れちゃいそう。
 ……ギターなんて、元から弾けたわけじゃないもの。ボーカル下ろされてギタリストにされて、弾けなくて弾けなくて。
 「……メイ殿?どうなされた?なんだか遠いところを見ていたようだが」
「っあ、いや、なんでもないです、ごめんなさい」
 危ない危ない。魔物が出るところで昔のいろいろを思い出してる時間はないんだった。
 「だいじょうぶ?痛いの?ホイミする?」
 心配そうにこっちを見つめるホイミンくんが黄色のぱやぱやにホイミの魔力を宿し始める。違う違う!
痛くないから! 大丈夫だから!
 微笑みながらも気を抜かないという、そんな矛盾に張り詰めた意識を蹴破ったのは、
ライアンさんの立てる足音が突然早く、強くなったことだった。
 「ゼノン!」
 ライアンさんが叫んだのは、人の名前らしかった。ホイミンと一緒に、走っていくライアンさんを追いかける。
壊れたバトランド王家の紋章がついた鎧の兵士が、床にはいつくばっていた。鉄の鎧を鋭い爪が抉ったあとがあり、
そこに至近距離からメラを打ち込まれたのだろう。肌が焼け焦げ、赤とピンクの内臓がはみ出している。
ホイミンくんがぎゅっと目をつぶった。私も震える手を隠すためにホイミンくんを抱きしめた。
 倒れていたのはライアンさんの仲間のバトランド王宮戦士だった。戦士は語った。
この塔の地下を拠点とした魔物たちは、世界を魔の手から救う勇者の復活を恐れているらしい。
いずれ成長し強くなる勇者を子どものうちに始末しようと、魔族たちは躍起になっているのだそうだ。
子どもたちの遊び場になっていた古井戸に、さっき履いてきた空飛ぶ靴を置いておけば、あとは待つだけというわけ。卑劣極まりない。
 「……行こう。この下だ」
 友の死に唇を噛み締めるライアンさんの後ろで、ホイミンくんが遺体にホイミをかけていた。
せめて死した後は人間らしくきれいに、と。
 「……何がいいとか悪いとか、区別が付け辛い世界なんだね」と独り言を呟いて、ライアンさんに続いた。


523 :湖の塔3 ◆fzAHzgUpjU :2008/12/29(月) 15:12:19 ID:ulrUGKEH0
 破邪の剣と鉄の槍の切っ先が、揃って「ピサロの手先」と名乗ったバケモノの喉元へ突きつけられる。
噴出される炎を避けて、召喚された大目玉たちを突き刺し、殴ったり殴られたりしながら決着をつけた。
ライアンさんは戦士というだけあって、槍づかいもすごかったけれど、塔の途中で手に入れた破邪の剣の扱いはさらにすごかった。
無駄な動きひとつせずに、最低限の一閃で敵を斬る。槍のなぎ払いでよろめいた大目玉たちを一刀両断にするさまは、
まさに剣の神様だった。
 「このまま去るか?何もせず、今後も悪事をはたらかないと誓うなら、今ここで見逃そう」
 ライアンさんの重く厳しい声に、ピサロの手先は涙を流して頷いて、子どもたちを閉じ込めていた牢の扉を開けた。
 「さあ、おいで。もう大丈夫だ」
 殺し合いの目をやめたライアンさんが、優しく子どもたちに手を差し伸べた。
 背後から火の息の熱気が襲い掛かってくる。とっさに盾で身をかばった私とライアンさんの後ろで防御したホイミンをすり抜け、
ピサロの手先は安心感に顔をほころばせていた子どものうちの一人を掻っ攫い、まるでゴキブリみたいに階段を上っていった。
 「しまった!」「嘘っ!?」「たいへんだぁ!」
 三者三様の言葉を口に、ピサロの手先を追いかける。屋上まで追い詰めたはいい。だけど、ピサロの手先が持っている
杖の先端は細く小さな首に当てられていて、今にも頚椎をへし折ってしまいそうだ。
 「うわあぁあん!助けてぇ!」
「うるせぇぞクソガキ!……おい!武器を捨てろ!」
 どこの世界にもこういうタイプはいるものなんだ。と、やけに冷静な頭で思いつつ鉄の槍を手放した。
ライアンさんも同じように破邪の剣を捨てるけど、戸惑いとかうろたえた様子なんて一切無い。
 「メイ殿」小さく、私とホイミンにしか聞こえない声でライアンさんが言った。
「メラ!」
 さっきの戦闘では肉弾戦ばっかりで使わなかった魔法を、今初めて発動する。火球はピサロの手先の顔面にぶち当たり、
断末魔によろめいて床のないところへとフラフラ後ずさっていく。武器を拾い、みんなで奴と子どものほうへ走った。
 「あっ……あ……わぁあ!」揺らぐ視界に子供が叫ぶ。
 ぐらり、とピサロの手先が子供を羽交い絞めにしたまま床を踏み外す。子供を拘束する腕の力は緩まない。
吐き気がするのをこらえて、私は鉄の槍をピサロの手先の胸に突き刺した。ライアンさんが子供をしっかり捕まえる。
 うん、まあ、お約束というかなんというか。この下は湖だから、死にはしないだろうけれど。
 「一緒に落ちるとか、本末転倒もいいとこだー……」
 せめてもの衝撃緩和に、事切れたピサロの手先の死体を下敷きに落ちていく。湖水に飲み込まれたのを認識すると、
驚いたことに痛みもショックもまったくないことがわかった。


524 :湖の塔4 ◆fzAHzgUpjU :2008/12/29(月) 15:13:45 ID:ulrUGKEH0
 早く岸に上がって、ライアンさんたちを待たなきゃ。と、思った矢先。
私の頭からつま先まですべてを包み込んでいた湖水が、突然うねり始める。波は徐々に丸まり、反時計回りに渦を巻く。
 死の匂いを含んだ雨の降るあの日、私を飲み込んだ水たまりと同じ動きを湖は始めた。
もしかしたら、もとの世界に戻れるのかもしれない。テレキャスターと携帯電話と鎮痛剤は見つからなかったけど、
そんなものまた買えばいい。今度はテレキャスターじゃなくてストラトキャスターにしよう。
 鉄の槍の柄とうろこの盾の取っ手を握り締め、続かなくなる呼吸と意識を早く手放そうと目を瞑った。
遠くでライアンさんの声が聞こえた気がする。本当はすぐにでも彼らのところに行きたい気分だったけど、
この渦は私を解放してはくれなかった。



 「メイ殿!メイ殿ぉー!」
 メイが落ちるのを、ライアンは確かに見ていた。子供を捉えたまま塔から落ちて自害しようとしたピサロの手先にトドメを刺し、
メイはそのまま落ちていった。あの場合、ああするしか子供を助ける方法はなかった。ピサロの手先は、
ライアンたちに討たれ死ぬのなら、せめて子供一人ぐらい道連れにと考えていた。メイのメラでひるんだ隙に子供だけを
連れ戻そうとしたが、執念の強さは子供を拘束する力の強さとなって現れていた。完璧に殺さなければいけなかった。
 ライアンはほんの一瞬、躊躇したのだ。あの高さから、トドメの一撃のはずみで落ちてしまうことに。
しかし、メイは躊躇うことなくピサロの手先に鉄の槍を突き刺した。まるでライアンが子供をしっかり受け取ることを
確信していたように。
 湖にメイが落ちたのは見た。しかし、一向に彼女は上がってこなかった。
塔の屋上から飛び降り、真昼の太陽がきらめく湖面を見つめたが、物影ひとつ浮かんではこなかった。
 ただひとつ―――湖の中が不自然に光っていた。白っぽい糸が集い、丸くなり、渦を巻いているように見えた。
あれはまるで、書物でしか知らない移動魔力の集合体―――旅の扉のようだった。



第一章 完


Lv.6 メイ
HP:21/26 MP:27/38
E 鉄の槍
E うろこの盾
E 革の服(革ジャン)
E −
E サングラス

戦闘呪文:ホイミ・メラ
所持金:345G(湖の塔での戦闘で獲得したゴールドを全額受け取っている)


525 : ◆fzAHzgUpjU :2008/12/29(月) 15:16:08 ID:ulrUGKEH0
テレキャスターで戦おうとはメイ本人も考えていたみたいですw
二章への移動は年明けに書かせていただきます。それでは、よいお年を!

526 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2008/12/29(月) 22:55:08 ID:h3oaDFCp0
おおお!!次は二章か…!
楽しみにしてます

527 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2008/12/30(火) 19:46:27 ID:xfml+5nr0
>>428の続き
○ヘルポイの歌姫○


 タケ「うっひょー!ついに来たでぇ!!ヘ・ル・ポ・イ〜♪イヤッッホォォォオオォオウ!」

ムーン「ちょっとぉ!何でそんなに浮かれているのよ!」
 タケ「ラゴスとアンナに会えるんやで!!新しい出会いが楽しみや!」

 もょ「タケのばあいはアンナめあてとおもうけどな。」
 タケ「余計な発言すんなや!アホ!しっかしツッコミが冴えてきたなぁ。もょは。」

ムーン「タケに全ての原因があるから仕方が無いわね。」
 タケ「何で俺が原因やねん!しっかしムーンもカリカリしているし・・・もしかしてせ・・・・」



バキッ!!



 タケ「痛い><」
ムーン「あら、ごめんね。腕が当たっちゃった。」

こいつ絶対にワザとやりやがった。全くジョークが通用しないから困る。


銀の鍵と金の鍵を使い街中へ入場した。
ヘルポイの町は銀の鍵と金の鍵が通行許可証みたいな感じで両方持っている俺達はVIP待遇で入場できた。
金の鍵だけのみなら入場料を支払い、(それでもかなり高いと思うくらいだが)身体検査をされてしまう。
銀の鍵だけのみなら囚人服みたいな番号入りの服を強制的に着せられる。


建前は犯罪防止のためと言われるのだが別の意味も込められていそうだ。



528 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2008/12/30(火) 19:47:22 ID:xfml+5nr0
町の人々の会話が聞こえてくる……………………


「おい!今日はやたら人が多いな。」


「無理も無いさ。今日から『ヘルポイの歌姫』のお披露目会だぜ!
 外部からの人間が多いから警備も厳重にしているからな。」


「しかし囚人服着てまで見たいとはイカにも罪人ですってアピールしていると思うんだがね?」

「なーに。そこまでしてでも人間離れした美しい歌を聴きたいのだろう。」

お披露目会=歌姫のコンサートのため警備が厳重ってことか。
話をこっそり聞いているうちに分かった事はこの町は紹介制でじゃないと入場できない。

紹介された人間はお金を納めて銀・金そして金銀の両方の鍵を得る事が出来るのだ。


 タケ「しかし俺らがここに入れたのは運命的やったって事かい。
    (MLMとほざいてネズミ講のと同類なシステムやな)」

ムーン「ここまで厳重なんて・・・・・ある意味怖いわね。」
 もょ「お、おい!あれはなんだ!?」

もょもとが指差したところを見ると派手な看板がある・・・・

向かってみるとそこはカジノだ。ポ−カーやビンゴ(ホイミスライム.Ver)・スロットマシーン・・・・・
それに立ち飲みバー、飲食店、さらに×××などがある。



529 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2008/12/30(火) 19:48:53 ID:xfml+5nr0
 タケ「ちっ・・・・・この町臭いわ・・・・・」
ムーン「ど、どうしたの?急に険しい表情になって。」

 タケ「こういう人間の本能を擽るモンを作るのは大概ヤクザまたはマフィアが仕切っているんよ。」
 もょ「やくざ?まふぃあ?それはなんだ?」


 タケ「こっちではそういう言葉は無かったか。すまん。分かり易く言えば悪党が資金稼ぎのために店を開いているんや。」


ムーン「ま、まさか・・・・」
 タケ「察しの通りやで。」
 もょ「しかしまちはかなりへいわだぞ?」

 タケ「警備している奴らの目を見て見ろよ。ちょっとおかしいで。関わりたくも無いのが普通やろな。」

ムーン「じゃ、じゃあどうすればいいの?」

 タケ「普通に成りすませたら問題は無いよ。騒ぎをさえ起こさへん様に頼むで。厄介事は起こしたらあかん。
     変に気張る必要は無いわ。ここは無難に歌姫のお披露目会に向かった方がベターやな。」


歌姫のお披露目会場―――――――――――――

開示時間まであと僅かと言う事もあって会場には大勢の人が集まっている。
会場を見る限りではの大規模(って言っても300人程度だが)
VIP・金持ち・囚人服ブロックに分かれている。

VIPである俺達は椅子が用意されいる。
騒ぎ声が徐々に鎮まっていく・・・・・・そろそろ始まりそうだ。


530 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2008/12/30(火) 19:50:09 ID:xfml+5nr0
「レディース&ジェントルメェェェェェン!!今夜は世界の楽園、ヘルポイにお越しに下さってありがとうございます!」
「当街のメインでありますヘルポイの・・・・いや、世界の歌姫を紹介致しまぁす!」

司会者が紹介した後には一人の女性が現れた。

「早速歌っていただきましょう・・・・・アンナの『LoveSong探して』」
http://www.nicovideo.jp/watch/sm286572(←知らない人はこれを参考に・・・・・)

歌姫とはアンナの事だった。アンナは人間離れした美しい歌声で歌っている。
確かに歌は上手い。しかし何か洗脳されそうな感じだ。
聴いていく内に何か似取り込まれる感じがする。
次第に自我が失われる・・・・
意・・織・・が・・・・・
・・・・・・・
・・・・・
・・・・
・・・
・・




「今回も上手くいったな。」
「ああ。これならラーメド様もお喜びになるだろう。」
「金持ちの豚共はどうやら威厳という虚像に弱いみたいだからな。チョロイもんだぜ。」
「女共はいつもの手で行くか。野郎共はどうする?」
「ノルマがある以上は過剰に洗脳させておくぞ。ハーゴン教団の新しい駒としてな。」



ドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!




「な、何だ?」
「何かが爆発したぞ!!」
「クソが!周辺が待ったくみえねぇ!!」


・・
・・・
・・・・
・・・・・
・・・・・・・


531 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2008/12/30(火) 19:51:55 ID:xfml+5nr0
俺は夢を見た。元の世界で友人達と一緒に遊んでいる夢だ。
確か学生時代の楽しい一時だ。
次第に景色が歪んでくる・・・・誰かが呼ぶ声がする。いったい誰だ?

 *「ワンワン!!」
タケ「うっ・・・・ううん・・・・」
 *「ハッハッハ・・・・ワン!!」
 *「おっ!ようやく目が覚めたか。」

周りを見渡すといつの間にか森の中にいた。一人の男が俺達に話しかけてきた。

タケ「ここは・・・・?」
 *「安心しな。ヘルポイの町の外だ。ここなら安全だぜ。」

タケ「あんたが俺達を助けてくれたんか?―――――ムーンがおらへん!」
 *「一体どうしたんだ?」

タケ「いや、一緒にいた仲間がおらへんのや・・・・・」
 *「俺はお前しか助けていない。連れがいたと言う事はもしかしたら捕まった可能性が高い。」

タケ「何やと!?」
 *「落ち着け。あの町の事情を話してやる。」

男はヘルポイについて話し始めた。
ヘルポイは元々移民の町だったらしい。人口をかき集めるために犯罪者だろうが何であろうが
町を発展させるために在住の許可を簡単に出したそうだ。
そこでハーゴン教団が目を付けて洗脳させた教徒達を在住させようとした。
当時の町長はもちろん反対したのだが、時はすでに遅し。
数の力で事実上、町を乗っ取られてしまった。
ハーゴン教団にいたアンナを利用し眠りの歌を歌い、訪れた人間の金品を巻き上げたり洗脳させたりするそうだ。



まさに『庇を貸して母屋をとられる』である。



現状起きている日本国の最悪の結末がこの街で起こったのである。

532 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2008/12/30(火) 19:53:25 ID:xfml+5nr0
タケ「安易な政策が招いた結果かいな・・・・・しかし何であんたは俺を助けたんや?」
 *「こいつが俺に言ったのさ。『助けて貰った恩がある。』ってな。」


男が犬を呼び出すと犬は嬉しそうに尻尾をふっている。確かこいつはザハンにいたエロ犬だ。



 タケ「もしかして・・・・アンタがラゴスかいな?」
ラゴス「そうだ。やっと会えたな。同士よ。いや、もょもと王子。」
 タケ「!!」


ラゴス「警戒はするな。世界中を旅しているから一国の王子の名前と姿位は知っているさ。
    しかしサマルトリアの王子とは違って戦士の目つきをしているな。」


 タケ「ふん・・・・」


ラゴス「王子。俺の頼みを聞いてもらえないか?」
 タケ「頼みとは?」
ラゴス「ああ。結論から言えばアンナを助けたい。」


 タケ「何やて!?アンナはハーゴン教団の人間やろが!」


ラゴス「アンナは無理やりさせられているだけなんだ。」
 タケ「それならお前の理由を正直に話せや。何もかもな。」


ラゴスは話し始めた。
アンナは妖精族と言う種族らしく普通の人間や魔物では出来ない特技を持つ種族らしい。
歌を聴いた者は眠らせさせたり、癒されたり・・・・更には洗脳も可能なそうだ。
それをハーゴン教団が目を付けて何らかの方法で無理やり歌わされている。




533 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2008/12/30(火) 19:55:05 ID:xfml+5nr0
 タケ「しかしラゴス。アンタが何でそんなにアンナに執着しているんや?」
ラゴス「・・・・・・・・・そこまで言わないといけないのか?」
 タケ「ああ、話してもらうで。普通ならアンナは処刑するべき存在やからな。」



ラゴス「俺が惚れた女だからだ。彼女を守りたい。」



 タケ「・・・・・・・」
ラゴス「馬鹿馬鹿しい理由だろ?」


 タケ「ああ。最高級の大馬鹿野郎やで。ホンマ。
    けど悪い気はせーへん。逆にそれがエエわ。アンタには助けて貰った借りがある。」


ラゴス「それじゃあ協力してくれるのか?」
 タケ「そやで。すばらしぃ本も見せて貰ったしな。ここはスケベ同士で手を組みますか!」
ラゴス「ははっ、王子がそんな発言して良いのか?」

 タケ「まぁええんちゃう?男の本能やし。王族と言って威張り散らすなど恥ずかしいマネなんかはしたくないんや。
     俺もい・・・いや、仲間を助けんとアカンからな。」

ラゴス「へえ!変わった人間だな。王族だからといえば堅苦しい印象しかなかったんだが。」
 タケ「偉そうにしても後で自分が惨めになるだけ。それよりもお互いに協力するって事でええか?」

ラゴス「異議無しだ。それなら決まりだな。よろしく頼むぜ。王子。」


 タケ「もょもとでええよ。戦うのに王族も平民も関係あらへん。俺は仲間を助けたい。
     お前は惚れた女を助ける・・・・お互いに利害が一致したな。」


ラゴス「ああ。それなら再度ヘルポイに向かうぞ。」

Lv.19
HP:141/141
MP: 12/ 12
E鋼の剣 E鋼の鎧 E鉄兜 錆びた剣
特技 共通技:チェンジ
もょもと専用:隼斬り・魔人斬り・ドラゴン斬り
  タケ専用:かすみ二段・強撃・ゾンビ斬り・大防御・メラ・火炎斬り


534 :レッドマン ◆U3ytEr12Kg :2008/12/30(火) 19:56:50 ID:xfml+5nr0
トリップ忘れてました。すんません。
今年もありがとうございました。
では良いお年を。


535 :喪失 ◆GlJDOSjJ1Y :2008/12/31(水) 11:48:40 ID:RsBy+KRQO
>>508の続き

次の日。
カンダタの情報を求めて俺達はガザーブの村へとやってきた。
小さな村ではあるが中央にほとりがあり、それを囲むように家が建てられていて綺麗な村だった。

早速カンダタの情報収集に取り掛かると、驚くことに村人一人目にしてすぐに情報を得ることが出来た。

「カンダタ?あいつら村の酒場に時々現れては暴れていく困った奴らなんだ。」
「西のシャンパーニの塔に住んでいるらしい。」
「5人くらいの子分を連れていてそいつらも強いんだ。村の若い連中じゃ手も足も出ない。」

なんだなんだ。すぐに情報が出てきたじゃないか。ロマリアの国もたいした国じゃないのか?
それともモンスターに手一杯でカンダタを相手にするほどお国は暇じゃないってことか。

俺達はこの村で一泊することにして、サキの弱点が芽を出さぬようにたっぷりと睡眠を取り、明朝にシャンパーニの塔へと出発した。
塔は村から微かだが肉眼で見える距離にそびえ立っていたので、おかげで迷うことなく塔へと辿り着くことが出来た。

塔の中にはモンスターが住み着いていたがまるで襲いかかって来なかった。
人間を恐れている?盗賊を?カンダタを?
塔の最上階へ上ると、一人の大柄な男が俺達を待ち構えていた。

「なんだ、誰が登ってきたのかと思えばガキみてえな奴らじゃねぇか。ロマリアの兵士じゃなさそうだが誰だ?」

その男は立ち上がると手の間接をバキバキと鳴らした後に巨大な斧を軽々と手に取った。
悍ましいほどの筋肉美を晒しているがその顔は覆面に被われていて表情は読み取ることは出来ない。
盗賊団のボスだけあって、今までに感じたことのない気迫に押された俺は未だに剣を差し向けることが出来ずにいた。
しかし…奴一人?仲間が見当たらないのはなぜだ?
「んだぁ?俺様を獲りにきたんじゃねぇのか?おい坊主?」
対するカンダタは斧を俺の方へと差し向けて挑発している。
「(……やるのは俺じゃねえんだがな。)…サキ。どうする?」
「とりあえず…倒す。」
と言うと同時にサキは木刀を鞘から抜くと、一気にカンダタ目掛けて飛び出した。

ガタンッ!!!
という音と同時にサキが目の前から突然床に消える。
サキの能力かと勘違いしたがそれはカンダタの罠であったことに気づく。
床がパッカリと抜け落ちていた。

「まさかお姫さんの方から飛びかかってくるとはな。今頃下の階で俺様の子分共にメッタ刺しにされてるぜ。可哀相にな。」
「(なるほどそういう罠か。だったらサキを心配する必要も無いか…。問題は…)俺がお前とやるのか…?」

536 :喪失 ◆GlJDOSjJ1Y :2008/12/31(水) 11:54:06 ID:RsBy+KRQO
サキが戻ってくるまでの間、俺がこいつと戦わければならない。
俺はようやく銅の剣をカンダタに差し向けた。
つい先程カンダタに出会うまでの俺は、どうせサキがカンダタを一発でぶっ倒してそれで終わるんだろ、と楽観視していた。
ただの傍観者、そう思っていた俺は全くと言っていいほど俺の闘志はエンジンがかかっていなかった。

「けっ。誰だか分かんねぇが俺様に盾突いたこと後悔させてやんぜ!!」
巨体とは思えぬほどの軽々としたジャンプで落とし穴を回避したカンダタは、そのままの勢いで斧を振り回し切り掛かってきた。
咄嗟に剣と盾の両方で防ぐが、凄まじく重い一撃は皮製の盾を一瞬にして破壊し、さらに俺の体ごと吹き飛ばした。
剣は手離さなかったが握っていた手はジンジンと痺れて震えている。
「……ッ!」

ヒュンヒュンヒュンッ!!!
立ち上がる隙も与えずに風切音を立てて斧が俺目掛けて一直線に飛んできた。
ズガンッ!!!!
間一髪に避けた斧が床に鋭く突き刺さった。その斧に目を奪われた俺はカンダタを一瞬見失ってしまう。
咄嗟にガードの構えを取るが俺の身体は凄まじい衝撃を受けて壁にまで吹き飛ばされていた。

「ガハッ…、」
口から血が流れた。まるでサッカーボールのように俺は10メートル以上も蹴り飛ばされていた。

カンダタは床に突き刺さった斧を引き抜くと、舌打ちをしながら明らさまにつまらなさそうな態度を取った。
「おいおい相手にならんぜ?何しにきたんだお前は?」

「……くそっ…。」
何ボケッとしてんだよ俺…、殺されるぞ俺…。
サキがカンダタをやっつける?って今いないだろう。これじゃ時間稼ぎにすらならねーじゃねーか。

俺はその痛みでようやく目が覚めた。
床に剣を刺して寄り掛かりながらフラフラと立ち上がる。
カンダタは余りに手応えの無さにやる気を無くしてしまい追い撃ちも仕掛けてこなかった。
それどころか俺に背を向けて、階段を降りて行こうとしている。

その態度が、俺の闘志にようやく火が付きエンジンがかかりはじめる。

「まてよ…。」
俺の声に足を止めるカンダタ。
「あぁ?」
「……まだ…、まだ勝負ついてねぇだろうが!!階段降りるなら俺を殺してからにしろッ!!」
アリアハン一番の戦士と言われた俺が、完全に見下されていることに俺は許せなくなっていた。
その声にカンダタは笑みを浮かべる。
「ッハッハ!死にてぇらしいな。馬鹿が。」
「そうだな…。サキならお前を確実に倒せるだろう。…けどそうじゃない。」
俺は剣を床から思い切り引き抜いて、剣先をカンダタの眼先に真っ直ぐに差し向けた。
「サキがお前を倒すのを見たいんじゃない!!俺がお前を倒してぇんだ!!カンダタ!テメェをぶっ倒す!!」

537 :喪失 ◆GlJDOSjJ1Y :2008/12/31(水) 11:59:07 ID:RsBy+KRQO
さきほど受けたダメージはどこへいったのか分からないほど、俺は高揚し自分の体から力が沸いて来るのを感じた。
やれる。俺は闘える。「アイツを倒せる!」と身体の奥そこから湯水の様に自信が溢れ出て来る。
俺が本気になったのはこれが初めてかもしれない。

先程までの軟弱な野郎とは掛け離れる物を感じ取ったカンダタは、再び笑みを浮かべたが表情はガラリと変わっていた。
「ハッハッハッ!ぶっ殺すだぁ!?おもしれぇ!テメェみてえな野郎ますます殺したくなってきたぜぇ!かかってこいや!」

「おおおおぉ!!!!」

俺は声を張り上げ、一気にカンダタとの距離を縮めた。
少しでも躊躇えば俺の体は両断される。
奴の振り回す斧は受け止めることなんて出来やしないと先程の一撃で分かった。
避けるか攻撃の前に殺すかの二択。
あんな筋肉ゴリラ野郎の巨体にフェイントなんかいらない。先手必勝だ!
対するカンダタは斧を高く振り上げる。
「隙だらけだ馬鹿野郎!」
俺は渾身の一撃をカンダタの胴体に食らわした。
「ハッ!きかねえよ!」
血が吹き出しているのも関わらずまるで効いたそぶりも見せずに、カンダタは振り上げていた斧を一気に俺向けて振り下ろす!
俺は思い切り上体を反らしそれを紙一重で退けた。
ドガン!!!と空を斬った斧が地面を打ち砕き威力の凄まじさを物語る。

避ける自信はあった。俺の本気の一撃を受けたまま攻撃に転ずることなど出来る筈が無いからだ。
避けることが出来れば奴は隙だらけの筈。
しかし…、俺は剣を握っている手の力が一瞬抜けてしまい攻撃せずに距離をとった。
「…っつ!」と自分の右肩を見るとサックリと服が破れて血が流れ出ていた。
くそっ。確かに交わした筈。間違いなく交わした。まさか!?あの斧の風圧で!?
それに対してカンダタに本気で一撃入れた部分は分厚い筋肉によって守られてまるで致命傷には至っていなかった。
裸の癖に何と言う防御力だ。
くそっ。俺もちゃんと防具買っとくんだったぜ。…じゃねえか。もっといい武器持ってりゃ殺せていたか。
…いや、そうでもない。俺の銅の剣を見てあいつはあんな隙だらけで構えていたんだ。

「よくそんな貧相な武具で俺様と戦えたもんだ。称賛に値するぜ。」
「へっ。貴様なんかこれで十分ってことだ。」

…あの野郎、胴体に思い切り叩きこんだってのに息一つ乱れちゃいねぇのかよ。
…どうする?
「どうした?こねぇのか?怖じけづくにはまだ早ぇぜオイ。」
「作戦考えてんだよ!だったらお前から来いよ!」

その時だった。
「ソラ!」
階段を駆け登ってくる音と共にサキの声が聞こえた。

538 :喪失 ◆GlJDOSjJ1Y :2008/12/31(水) 12:04:21 ID:RsBy+KRQO
「ちっ!仲間がきやがったか。俺様の子分共がまさか負けちまうたぁなぁ。」
「へっ。言っとくがうちのお姫様はバケモンだからな。テメエどころかバラモスだって目じゃないぜ。」
サキはフロアに上がり俺達を見つけると全速力でこちらに向かってきた。
そのサキの姿を一目見て俺は一安心した。サキには万が一の弱点があるから。強いくせに心配させやがる、困った奴だ。

「来るなサキ!!お前はそこで見ていろ!!」

俺は今まで出したことのないくらいの声を張り上げてサキを制止させた。
立ち止まるサキ。
「悪い。こいつと決闘したいんだ。一対一で。邪魔したら許さないからな。」
「ソラ…。」
相変わらず無表情で分かり難かったがサキは木刀を背中にしまうと、一言だけ話しかけ壁際の方へと離れた。
「…死んだら、嫌なんだから…。」
「ああ。」
分かってる。負けたくないし負けるつもりもない。
「よし…!(一か八かアレやってみるか!)」

俺は左手をかざし意識を集中させると、ゆっくりだがジワジワと熱を帯び始めた。
「ほう、魔法か。だが戦士が魔法なんざたかが知れてるだろ。」
「やってみなきゃわかんねえぜ…。」
魔法は昨日覚え始めたばかりだ。あいつとの…サキとの差を縮めるためにロマリアの街の本屋で見つけた魔法の書。
辞書の様に分厚く活字ばかりでまだ数ページしか読んでないし、全くと言っていいほどまだ魔法力もない。
初歩の初歩であるメラでさえまともに放てるかも分からない上、放つのにタメが必要なくらい下手くそだがやるだけやってやる。
タメの時間を与えたテメェの負けになるんだ。

「そういやさっきバラモスがどうとか言ったよなぁ!?そんなもん俺様にゃ眼中ねぇんじゃ!!
 あるのはテメェみてえな熱くなれる野郎だ!!久々燃えてきたぜ!ほらどうした!?かかってこいやぁ!!」
「言われなくてもいくっつーんだよ!!」

俺は再びカンダタに距離を詰める。カンダタは俺の策略に対応するためか斧を短く持ち俺を向かい討つ気でいる。
俺は左手にメラを溜め込んだまま両手持ちで力一杯切り掛かった。
カンダタもさすがに無視出来ずに俺の攻撃を斧で弾く。
きたっ―。
弾かれた瞬間俺は左手を離しカンダタ目掛けて至近距離で溜め込んでいたメラを放つ。
上手く当たらなくてもいい、ダメージなんか考えてない。少しでも奴のバランスを崩せればそれでいいんだ!

「うぅっ!?」
メラは成功し上手くカンダタの顔面に当たった。威力は無いが目眩ましにはなる。
このチャンスを見逃すわけにはいかない!
少しは脆くはなっているであろう先程一発食らわした箇所目掛けて俺は、再び渾身の一撃を打ち込んだ。

バキバキッ!とカンダタの自慢の巨体が破壊する音とともに、「うがぁ!」と声を上げカンダタは地に臥せた。

539 :喪失 ◆GlJDOSjJ1Y :2008/12/31(水) 12:08:59 ID:RsBy+KRQO
「ハァッ……、ハァッ……。」

確かな手応えだった。普通の人間であれば確実に命を絶つほどの感触。
半分気絶しているのかカンダタは起き上がってはこない。勝負あったようだ。

俺は力尽きる様にその場に座り込み、その戦いが終わった様子を見てサキは駆け寄ってきた。
「ソラ…、大丈夫?」
「あ…あぁ…。それよりこいつ…、治療してやんなきゃな。」

俺は薬草を使い、カンダタの体力が回復するのを待つことにした。
サキが倒したカンダタの子分達は気絶させてあるだけで心配は無いとサキは言った。

しばらくしてカンダタが目を覚ました。
カンダタは起き上がると、今までに行(おこな)ってきた数々の盗品や強奪品の全てを俺達に差し出した。
「俺達の負けだ。これはお前らにやる。」
その金ぴかに輝く盗品の中にはロマリア国王の冠も含まれていた。
「いや、別に俺達はこれを奪い返しにきたわけじゃないんだ。なあサキ?」
「…うん。お前を…カンダタを仲間にする。」
「あ?俺を!?」
目を丸くして、こいつらは一体何を言ってるんだという表情のカンダタにこれまでのいきさつを説明した。

「本気かよ。俺様は世界指名手配かかってんだぜ。お前らなんかと一緒に旅はできねえよ。」
「…関係無い。」
「そうだな。世の中の人々を救える旅だ。罪を償えるってもんだぜ?」
「けっ。罪を償う気なんざさらさらねぇってんだ。」
「…そうか。だそうだサキ。諦めるか?」
「………。」

サキは背を向けて何も言わずに去っていく。俺も続いてこの場を立ち去ろうとした。

「…おい待てよテメェら。」
「…?」
「俺様…俺はこの悪行を誇りにすら思ってる。…モンスターだろうがバラモスだろうがそんなの興味も無ぇ。」
「…。」
「だがな、貴様は俺を初めて負かした野郎だ。貴様に興味がある。それじゃダメか?」
「…何が?」
「だから!テメェらについていくって行ってんだボケ!!仲間にしろや!!」
「カンダタ!聞いたかサキ!」
「ふん…。」

「だからといって言っとくけどなぁ!俺様がお前を倒すまでの話しだ!テメェを倒せりゃすぐに抜けてやるんだからな!そこんとこ覚えとけよコラ!」

まさかではあったがサキの思惑通りに盗賊の頭カンダタが仲間に加わり、俺達の旅は続いて行くのだった。

540 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2008/12/31(水) 12:54:59 ID:ha9zjzN50

最初のスレからもう4年近くたつんだよね
来年も書き手の皆さん期待しています
皆さんよいお年を!

541 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2008/12/31(水) 17:29:54 ID:8fOAbWemO
投下乙です。

今年は年末辺りから、投下ペースが凄かったなぁ…
古参も着々と完結に向けて進んでるし、新人も出てきた。
書き手の皆さん、来年も頑張って下さい。

542 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2009/01/01(木) 01:29:50 ID:SyIeAc+uO
新年です!あけおめあけおめ!!
作者にも読者にもいい年になりますように

543 : 【中吉】 【273円】 :2009/01/01(木) 02:21:46 ID:Z02K30370
おけおめ
サキかわいいよサキ

544 : ◆DLQmf08qD. :2009/01/01(木) 16:16:21 ID:jLIwTkOB0
第三話「もうだめぽ。レヌール城の恐怖。今夜は湯豆腐」

目が覚めてベットから降り1階に行くと
昨日のビアンカとその母が来ていた。
パパスが「こいつらをアルカパの町までおくってくるからお前も付いてこい」などと言ったので
だが断るというとパパスは「いいからついてこい。逝くぞ・・・あの世へな!」だとさ。
俺を逝かせる気か畜生。ていうか、誤字だっての。
「冗談冗談。行くぞ」
冗談いうなよ。てめーがいうと本当だと思うじゃねーかよ。
パパスに首ねっこを掴まれて無理矢理アルカパまで連れていかれた。クソが。
なんか宿屋に着きベットで寝ている、ダンカンというおっさんを発見。こいつがビアンカの父親らしい。
風邪で寝込んでいるんだってさ。
パパスは心配そうにダンカンに近寄るとダンカンの首に手刀を振り下ろした!
・・・だが、その手刀は誰かに止められた。それは、なんとビアンカの母だったのだ。
「パパス、やらせはさせないよ?」
「おのれ。息の根を止めてやろうとしたのに・・・なら、貴様から殺してやろう」
「そううまくいくかねえ?」
パパスとおばさんが殺し合いを始めた。
それを見ないふりをしてビアンカが話しかけてきた。
「ねえ、遊びにいかない?」
やれやれ、またこの子供のおもりをしなくちゃなんねえのかなどと思いつつビアンカと宿屋を出た。
「く、薬を・・・」
サンタローズから薬を持ってきたのに薬を与えてもらえないダンカンは苦しそうな表情をしていた。

545 : ◆DLQmf08qD. :2009/01/01(木) 16:29:41 ID:jLIwTkOB0
ビアンカと町を歩いてるとトラに似た魔物をいじめてるガキ共がいた。
ガキ共とビアンカは猫と思っているらしい。ガキ共とビアンカの死亡決定か?
「いじめはよくないわ。やめなさい!その子を」
ビアンカが堂々とガキに近づき言った。
「じゃあ、レヌール城のお化けを退治してきたら返してやるよ」
はあ?と思ったのでガキの胸ぐらを掴み
「ふざけんなよ?なんで、んなことしなきゃなんねえんだ。今すぐ返せや!」と叫んだ。
「お化け退治しないと返さないよ。普通に返したら負けかなと思っている。働いたら負けかなと思ってる」
「ちっ!」
将来はニートになるな、この子供。
「分かったわ。退治してきてあげる」
え?ちょ、ビアンカ、なに言ってんの?


というわけでお化け退治引き受けることになりました(泣)
宿屋に戻ると血まみれのパパスが帰るぞと言ってきた。
でも、同じく血まみれのおばさんが「ここに泊まってきな」と言ったので
この宿屋に泊まることに。ダンカンは自力で薬を飲んだのか、やすらかな表情で眠っている。

546 : ◆DLQmf08qD. :2009/01/01(木) 16:58:52 ID:jLIwTkOB0
夜になりビアンカが寝ていた俺を起こしにきたので起きてレヌール城に向かう。
レヌール城に着きガクガクブルブルしているとお化け(女)とかお化け(男)とかにあい
この城に住み着いている魔物を倒すことに。
たいまつがないと魔物の親玉の所に行けないらしくたいまつがある厨房へ向かう。
厨房に向かうとたいまつを発見。なんかめちゃ臭くてまずそうな料理があったので
何故か袋にあったリセッシュを料理に振りかけくさいにおいをきれいにする。
ダッシュで親玉の所に向かって親玉の目の前まで近づいたが床が落ちるしくみになっていて
そのまま落ちる。アーレー。
ドーンと地面に落ちた。ビアンカを見ると首の骨が折れていたが別にいい。
どうやらここはさっきの厨房らしい。ゲッ!さっきの料理の上に落っこちたよ。
なんやかんやでエレベーター的なもので上の階に行く。
魔物が「おいしそうな料理」とか言って襲いかかってきたので
「俺達みたいなメインディッシュは後に食べればどうだ?」と言ったら
魔物達は納得しリセッシュのかかった料理を食べた。
魔物達は奇声をあげながら死んだ。リセッシュつええ。

そして、また親玉の所につき戦うことに。こいつ親分ゴーストというらしい。
変な名前乙。リセッシュをかけながら攻撃しなんとか倒す。
親玉が見逃して命ごいをしてきたので見逃す。
すると、さっきのお化け(男と女)が礼を言い成仏していった。

そういえば!と思いビアンカを見ると首が折れているのに何故か自然に俺についてきていた。何故?
ホイミをかける。
「ふう、ひどいよ。すぐホイミをかけてくれれば良かったのに・・・」
そういうお前もすごい生命力だったが・・・
墓の上に金色の玉があったので貰うことに。
ゴールドオーブという名前らしいが色といい形といいアレなので
コールデンボールと呼ぶことに。
そして、アルカパに戻る。

ガキ共からトラを返してもらった。ビアンカが複数の名前を考えていたらしく
その中から一つの名前を選ぶ。そして俺が引き取ることに。

宿屋に戻るとパパスが帰るぞと言ってきたのでサンタローズの村に戻ることに。
ビアンカがトラの魔物(ベビーパンサー)にリボンをつけ「また会おう」と言いながら
帰っていく俺にバイバイと手を振っていた。あの時すぐにホイミをかければ良かったなぁと思った今日この頃。

547 : ◆DLQmf08qD. :2009/01/01(木) 17:06:46 ID:jLIwTkOB0
サンタローズの村に戻り俺の家に戻ると
サンチョの声と女のあえぎ声が聞こえた。
あの茶髪豚野郎はパパスの家でなにやっちゃってくれっちゃってんの。
パパスは怒りながら家の扉を開けるとこう言った「俺もまぜろ!」
あぁ、普通の子供だったら人生に絶望してるよ。
俺はとりあえず外をぶらついた。

548 :魔子(喪失) ◆GlJDOSjJ1Y :2009/01/02(金) 06:21:57 ID:kq7AxE6VO
ここはアリアハンの国近くの平原。
スライムやおおがらすと言った弱小モンスターが棲息する地域。
そんな場所を一人の小さな小さな女の子が歩いていた。

「メラゾーマァ!!」

現れたスライム相手に超強力呪文を放つその女の子の名前はマコ。
歳は10。フード付きの導服を頭からすっぽりと被っただけの姿は、少し走ったりするだけでもチラチラと危なっかしい。
その子は今、「満16歳にならぬ者は国外に出てはならない」というアリアハンの掟を破って一人で旅に出たのだ。

目的は内緒。なぜこんな強力な呪文を使えるのかも秘密。彼女を詮索することは許されないのだ。
なぜ許されないのか?それももちろん秘密。
なんだそりゃ?これ書いてる奴ただ設定を考えていないだけだろロリコン!!というツッコミは止めてください。
図星です。嘘です。

ともかくその女の子は少女にして超強力呪文を使いこなす危険な魔女っ娘なのだ。

「べぎらごーん!!」

おおがらすが跡形も無く燃え尽きるのを見た女の子は、「きゃっ!きゃっ!」と飛び跳ね喜んでいた。
ギラで十分倒せると言うのにわざわざ極限魔法を使う辺り、女の子はこの虐殺とも言える行為を楽しんでいるのだろう。

しかし彼女はまだまだとっても幼い女の子。魔力はすぐに使い果たしてからっぽになってしまう。

逃げるようにアリアハンに戻りお家へと帰るのだ。
「おやすみなさ〜い!!」
旅の続きはまた明日。

549 :喪失 ◆W7NBLbiJuM :2009/01/02(金) 06:35:43 ID:kq7AxE6VO
本編と同じ時間を流れる番外編です。本編の息抜き程度に投下する予定です。

新参ではありますが今年も頑張っていきたいと思います。ノシ

550 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2009/01/02(金) 14:38:38 ID:+Fst9JinO
作者の皆さん乙です

551 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2009/01/04(日) 01:03:46 ID:5MmEKvwyO
かわいい

552 :IV第二章:フレノール ◆fzAHzgUpjU :2009/01/05(月) 17:31:03 ID:WKi/GyiY0
>>519-524の続き

毎日ジャージだもんね〜。イマドキの歌も歌えないしぃ。
あーあの男女でしょ? アイツ、マジダサいもん。GLAYもタッキーも知らねぇんだってー。
キャハハハ! 時代遅れ女キモッ!
あー、ホンモノだー。ねぇ、ウチらの代わりに今日、音楽室の掃除しといてー。
ウチらお前と一緒にいたくないからー。

キャハハハ……ギャハハ……アハハハ………




 ……最悪な夢を見させてくれるなぁ、神様も。
まあ、「こんな目」にあってる時点で、神様なんて信じてるほうが変なのかも……。
ああ、もう。心臓と胃のあたりがムカムカする。なんであんな大昔の夢を今更になって見るかなぁ。
小学生だったよね、夢の中では。……あのときのことは、もう気が済んだはずなんだけど。
 覚醒し始めた意識でゆっくりと目を開ける。広がる世界が見慣れた私の部屋であることを願ったけれど、
現実はどうしても厳しくあって、優しくはなってくれないみたい。
 もともと着ていたシャツとジーンズという格好でベッドに寝かされていた私は、なんだかもう慣れてしまった感じで
革ジャンとサングラスを探し始める。革ジャンは窓辺のタンスの中、サングラスは枕元で発見。
 部屋の構造からして、ここも旅の宿屋らしい。でも、イムルの宿屋とは内装が違う。
あの渦に吸い込まれてから目が覚めるたびに宿屋にいるのはどうしてなんだろう。この世界は妙なところで親切かもしれない。
 腰にぶら下げていたシザーケースの中身を確認する。……ものっすごく不思議なことなんだけどね、
こっちに来てからというもの、この小さなシザーケースには「なん〜でも」入っちゃうようになった。
「いくらでも」ってわけじゃないけど、どう考えたって・押し込めたって、入らないでしょ〜! っていうものが、
入ってしまうのですよ。そんなこんなで、シザーケースの中にはライアンさんからもらった薬草が五個、
お財布と中身のお金(と、この世界では何の意味もないポイントカード類)、メイク道具、サングラスのケースがあった。
 ……ライアンさんとホイミンくん、あのあとちゃんとお城に戻ったのかな。
ライアンさんにはバトランドを守るっていう大事な仕事があるし、ホイミンくんは「人間になる」っていう夢があったもの。
う〜ん……心配。
 ご丁寧なことに、鉄の槍とうろこの盾は布切れにくるまれてベッドの下に置いてある。
 ブーツを履いて、とりあえずこの宿屋のご主人にお礼と挨拶をしようと部屋の出入り口のドアノブを回した。

553 :フレノール2 ◆fzAHzgUpjU :2009/01/05(月) 17:33:41 ID:WKi/GyiY0
 「おっと、それ以上近づくなよ!少しでも動いて見ろ!お姫さんの命はねぇぜ!?」
 人間は、自分で把握している常識からあまりにも外れたことが目の前で起こると、かえって冷静になるらしかった。
ドアの外、三メートル先で屈強なおじさんに両手を縛られて首筋にナイフを突きつけられている女性は、私と、
さっきからそこにいたらしい三人の人たちに声も無いまま「SAVE ME」を叫んでいる。
 「女の子を人質にするなんて卑怯よ!彼女を離しなさい!」三人いたうちの、女の子が怒鳴った。
「動くなっつってんだろ!……でなきゃあ、お姫さんのツラに傷がつくぜ」
 屈強なおじさん三人組は、じりじりとお姫様らしい人を抱えて廊下の窓から屋根づたいに逃げていく。
どうやらああいった行動には経験があるプロらしい。大変だぁああ! と思ってひとまず後を追ってみる。
 私なんかよりもずっと早く、軽い身のこなしで、さっきまで隣にいた三人のうちの一人が窓からぴょんと飛び降りた。
 ……ちょっ! 待っ! Oh Girl!? ここ二階じゃないの!? 
 鮮やかな青のマントにお揃いのとんがり帽子、ぱっと目を引くひまわりのような黄色いワンピース型のスカートに
黒のタイツを合わせたその娘は、茂みにもぐりこんで姿を消した人攫いたちに小さく舌打ちして、
私が身を乗り出して彼女を見下ろしている窓を見上げた。
 「今の、見たでしょ!?このことは私たちだけの秘密よ!いいわね!?」
「ひっ、姫様!お一人でどこに行かれます!?」
 ぐい、と私を押しのけて若い男の人が窓から飛び降りんばかりに叫んだ。……ん? 姫様?
 「あいつらの後を追うに決まってるでしょ!クリフト!あなたも一緒よ!もちろんブライもよ!」
「やれやれ……姫様の行動力には敵いませんな。年寄りにあまり無理をさせるものではありませんぞ」
 ……このおじいちゃんの髪の毛はなにか? 重力というものに魔力で逆らっていらっしゃるのですか?
とでも言いたくなるのを振り払うと、ブライと呼ばれていたらしい怒髪なおじいちゃんから、濃い魔力の匂いが立ち込めてきた。
冷静だった胸が突然激しすぎる鼓動を刻みだす。
 ああ、同じだ。ライアンさんと初めて会ったときと同じ、あの不思議な感覚。
言葉で説明できないものに全身を突き刺されるあの感触が、今度は三人分まとめて一度にやってきた。
 あまりのショックに膝から崩れ落ちそうになるのを必死にこらえて、私はあわてて武器を取りに部屋へ戻った。
 武器を持ってご主人へのお礼もそこそこに宿屋を飛び出すと、外で遊んでいた子が、
「僕の犬が手紙をくわえてきたんだ。とんがり帽子のおねえちゃんか、色めがねのお姉ちゃんに渡してねって書いてあるよ」
と、無邪気に笑いながら人攫いからの手紙を見せてくれた。南の洞窟にある「黄金の腕輪」とお姫様を交換だ、と書いてある。
 「黄金の腕輪……強大な力を秘める魔の神器じゃな」
 背後から聞こえた声に飛びのくと、さっきの怒髪おじいちゃんが後ろから手紙を覗き込んでしっかり読んでいた。
 「見たところお前さん、なかなか腕が立つようじゃの。手紙にはお前さんのことも書いてあったが……どうするかね?」
 手伝いなさいオーラをバリバリ出してるおじいちゃんに根負けし、一緒に目撃してしまったのも何かの縁だということで、
私も「黄金の腕輪」の捜索に参加することになった。

554 :魔法発動対象決定論 ◆fzAHzgUpjU :2009/01/05(月) 17:36:40 ID:WKi/GyiY0
 「お前さん、どうやら不器用なタイプらしいの。ただ、濃い魔力の匂いは強く感じ取れる。
使用適正としてはメラ系とイオ系じゃな。グループ攻撃魔法のギラ系やバギ系には残念ながら恵まれとらんのー」
 痛いところを思い切り突かれて、私はぐっと唸ってしまう。手先の器用さには多少の自信があります。
でも、性格とか内面とか気質とか、そういう精神が司ってる部分の器用さは欠如してるっていうかもう、皆無です。
「対象をひとつ、またはあなたが『味方である』と認識した相手全員に限定する、回復・味方補助の魔法も使えるようになると思います」
 暗い洞窟にもぐり、小難しく魔法理論を説いているのは、さっきの三人いた人の二人であるクリフトくんと、
さっき手紙を覗き見て私の同行を決意させたおじいちゃん、ブライ様。
クリフトくんは「サントハイム」という国の神官で、ブライ様は王宮お付の魔法使いだ。魔法に長けているのは当然だよね。
そう言われてからブライ様を見ると、重力に逆らったスーパーヘアもなんだか魔力めいたものに見えてくる。
 「ねー、あなたたち二人揃って、もっと楽しい話はできないの?メイさんだって退屈よね?ねっ?」
 先頭を堂々と進んでいくのは、彼ら二人が仕えているサントハイム王家のお姫様、アリーナちゃん。
お姫様だなんて、最初は信じられなかった。さっきの人攫いに連れて行かれちゃった娘も「お姫様」って呼ばれてたし。
 「魔法は、発動するだけじゃダメなんじゃ。『誰に』『どこに』に向けて発動した効果を影響させるのか。
魔法を使えるということがわかったら、次に重要なステップはそこ、『発動の対象』じゃ」
 魔法の効果をぶつける相手は、特例を除いて大きく分けて五つのタイプに分かれる。
ひとつめ、敵と認識した相手単体。ふたつめ、敵と認識した相手一グループ。みっつめ、敵と認識した相手全員。
よっつめ、味方と認識した相手単体。いつつめ、味方と認識した相手全員。
 「対象をひとつのグループと認識することは、とても簡単だと思う人と、とても難しいと思う人に分かれます。
メイさんはきっと、そういったことが少し苦手なんでしょうね」
 優しい苦笑を浮かべるクリフトくんが、ブライ様が私にさっきからチクチクと突き刺している「不器用」という
言葉をやわらげてくれている。むう……優しさが痛いとはこのことか。
 「『あのひと一人!』っていうのとと『あのひとたち全部!』っていうのは簡単でしょう?一か全かですから。
けれども、『あのひとたちの中のあそこだけ!』ってグループ視するのは面倒くさいですよ。
なんかこう、魔法を打ち込んだら効果がはみだしちゃいそうで」
「ぷ……。魔法の発動効果を『はみ出す』なんて言い方で表現する奴は初めて見たわい」
 長くて白いひげに隠れた口元で、ブライ様が笑った。
 「……あっ、ねぇ!メイさんの話を聞かせて!わたし、外の世界ってまだちゃんと見回れてないのー!」
 暴れ牛鳥の角を掴んで投げ飛ばしたアリーナちゃんが、まばゆい笑顔を浮かべて振り返った。
人数が多いと頼もしくてつい忘れてしまう。今が魔物との戦闘中だってことを。
 気を取り直すと、たぶん食べたっておいしくはないであろうオバケきのこに、ブライ様から習いたてのヒャドをぶつけた。

555 :フレノール南の洞窟2 ◆fzAHzgUpjU :2009/01/05(月) 17:42:12 ID:WKi/GyiY0
 「私の話……?」
「うん!メイさんって女の人なのに結構強いし、体も大きいでしょ?メイさんって、旅に出る前はどんなことしてたの?
それとも、生来の旅人なの?いいなぁ〜、やっぱり上背がある方が、攻撃リーチも長くなるし踵落としもカッコよく決まるわよね!」
 とんがり帽子を含めても私の鼻先ぐらいまでしか届いていないアリーナちゃんが、先頭から私の隣に寄ってくる。
羨ましがられてる、のかな、これは。身長一七八センチの私としては、アリーナちゃんぐらいの背丈で可愛い感じの
女の子のほうが羨ましいんだけれども。
 無邪気な質問攻めに、とりあえず体裁だけはつくろっておこうとした言葉が胸のあたりでつっかえてしまった。
この世界に放り込まれた拍子になくなったテレキャスターに対する喪失感もあった。でも、多分いま胸と喉のあたりで
ぐいぐいつまっているのは、そういう物理的な感覚じゃない。
 今朝見た夢がいやに鮮明に後ろ頭をさらさらとよぎっている。眩暈がしそうになるのを笑顔で粉飾した。
「ギタリストだったよ。作曲して、問題の打開策をテーマに歌詞を書いてた」
「ふーん、珍しいのね。音楽をやる人ってみんなマローニみたいに、竪琴持って恋愛の歌を歌ってるのかと思ってた」
 そりゃアナタ。ルドルフ・シェンカーのギター聴いて育った人間が「めちゃくーちゃー好ーきやっちゅうねん☆」
なんて歌作ってたら気持ち悪がられるでしょ……。
 「ほほう、女だてらにギター弾きとは珍しいのぅ。で?腕前はどうなんじゃ?」
「血ヘド吐くほど練習した結果程度です」
「えっ?元から才能があったわけではなくて、ですか?」
 ブライ様への回答に、クリフトくんが驚いた声を上げる。あんまり大声出すと魔物に気づかれちゃうよって言うと、
アリーナちゃんは「そのほうがいいじゃない!」って嬉しそうにぴょんぴょん身軽に飛び跳ねる。
 「誰だって元から弾けるわけじゃないよ。ボーカルと違って、自分の意志どおりに動かそうとするものに
直接自分の意志が宿ってるわけじゃないから、言うこと聞かせるのに多少なりとも時間はいるの。
……逆に、ある程度才能がなきゃ伸びの止まるボーカルと違って、ギターは練習すれば可能性は見えてくるから」
 弾けないストレスで胃をやられて血を吐いたことがある。私はもともと、ボーカリストだった。
ボーカリストとしての才能がなかったわけじゃない。それを自分でも自覚してた。……でも、ある日突然現れた
「彼」の声は、私の声よりもバンドリーダーの好みや意志に合ったものだったらしい。
強引なスカウトによってうちのバンドに入る前はヘタクソなギターを手に一人で歌っていた明るくて優しいボーカリスト。
……そんな彼に、「独り舞台」という意味のあだ名がつくのには、時間なんていらなかった。
 「それだけ頑張ってらしたなら、メイさんのファンもたくさんいらっしゃったでしょうね」
「あはは、もちろん。休みの日は友達つれてライブ三昧だったよ」クリフトくんの笑顔につられて笑ったときだった。

556 :フレノール南の洞窟3 ◆fzAHzgUpjU :2009/01/05(月) 17:43:24 ID:WKi/GyiY0
「うそ」
 唐突に口を開いたアリーナちゃんの言葉に、私はびくんと背筋をこわばらせた。そんなことする必要はないはずだった。
完璧に作り上げた表情と台詞の言い回しに、クリフトくんもブライ様も聞き入っていた。
 「うそついても、わたしにはわかるのよ。メイさんがギタリストだってことも、すごく上手いのも、うそじゃない。
でも、最後の言葉だけはうそよ。そういううそをついたあと、メイさん必ずひとりで落ち込むでしょ?ねぇ?」
 嘘をついたことを咎めるわけでも、嘘を見抜いたことを自慢したいわけでもなさそうなアリーナちゃんの口調が怖い。
目の前にいる相手の髪にゴミがついているのを教えるぐらい「当然」のことを口にしているとしか思えなかった。
 休日はライブ三昧、ファンも多い。それは真実。でも、「友達つれて」ってのは真っ赤な嘘。友達なんて、
大学で知り合った数少ない人たちしかカテゴライズできない。バンドのメンバーは、友達というよりも「仲間」だと思う。
 でも、私が生きてきた社会は「友達がいて当たり前」「人間関係を円滑に進められない奴はコミュニケーション能力に
欠けている」「自分の主義主張や趣味が他者と合わないのは空気を読めないからだ」って言われてるところだった。
 ―――「違う」ということは、それだけで「悪」で「罪」だから。
 「……なんで『わかる』の?」
「『見える』からよ」
 いまひとつ、アリーナちゃんが言う理由を理解できないでいると、なんだか残念そうな顔で彼女は先頭に戻ってしまった。
二番目に続く私には、暴れ牛鳥を投げ飛ばすようには見えない小さな背中と肩しか見えない。
 「サントハイム王家の血を引く方は、予知能力があるのです。姫様はおそらく、
『嘘をついた後に落ち込むあなた』を、先に見たのでしょう」
 理解のための補足を入れるクリフトくんはやけに慣れた様子だった。
 「……嘘ついてごめんね。あんまり昔の話はできないけど、今度機会があったらアリーナちゃんたちの前でギターを演奏するよ」
「……ほんと?」
 赤茶色の目がくるくる輝きながらこっちを向いた。しっかり頷いてみせると、アリーナちゃんは笑って前を向いた。
 「……メイさん、この世界でギターは」
「クリフト。今は何も言うな。ほとぼりが冷めたときに、いずれわかるじゃろうて」
 後ろでクリフトくんとブライ様が何か言った気がしたけど、まあいっか。少し安心したところで、洞窟の地下へ
続く階段が見えてくる。
 「気味が悪いわね……。なんだか怖いものがいるみたいな気配がするわ」
 言いながら、アリーナちゃんが鎖鎌を構える。クリフトくんもブライ様も同じように武器を構えている。
 どうにもこうにも、三人が感じ取っているらしい「怖いものがいるみたいな気配」がわからないけど、
私もとりあえず鉄の槍を構えた。

557 :フレノール南の洞窟4 ◆fzAHzgUpjU :2009/01/05(月) 17:43:59 ID:WKi/GyiY0
 洞窟の一番下の一番奥に、古びた宝箱が置いてあった。錆びた金属細工の装飾が、いかに昔のものかを物語る。
さび付いて動きの鈍い宝箱の蓋をアリーナちゃんがこじ開けると、中身だけ時の経過を忘れていたように輝いていた。
黄金の腕輪。その名が示すとおり、何もかもが純金で作られているバングルだ。
 「おお……なんと禍々しい力を発するのか……」
「……神よ。このような恐るべきものを生み出した人とは、愚かなのですか?」
 魔力を感じ取って宝箱の中を覗き込むブライ様、その隣には強すぎる力の生誕の正誤を問い十字を切るクリフトくんがいる。
腕輪の輝きは洞窟内の乏しい明かりも貪欲に取り込んでいた。つるんとしたブライ様の額に腕輪の光が反射して
ピカピカしてるのを見て噴出しそうになったけど、そんな空気じゃないことはわかっているから耐える。
 「で……誰が持つ?」
 こめかみから汗を流すアリーナちゃんの冷静な言葉が、パーティ全員の視線を集める。古びた宝箱の中で
時間の概念を忘れた金色が、爛々とその目を輝かせていた。拳を握り締め、クリフトくんが何も言わずに宝箱の中へ手を伸ばす。
 「待て、クリフト。お主は神に仕える者じゃろ。そんな奴がこんなもの持っちゃいかん」
「ですが……姫様やブライ様にこのような危険なものを……!私は、……嫌です」
 このメンバー内でのクリフトくんの発言権なんて、ほぼ皆無に等しい。ブライ様は最年長者でサントハイムのお城では
クリフトくんよりもずっと地位があるだろうし、アリーナちゃんにいたってはお姫様だもん。私だって、見知らぬ旅人って
ことになってはいるけど、明らかに彼よりも年上だ。そんなクリフトくんが自分の意志を強く主張するほど、
この腕輪は危なっかしいものらしい。私にはどう見ても趣味の悪いアンティークアクセサリーにしか見えないけれど。
 「ですが、お二人とも!」
「ああもう!命令よ!わたしが持ちます!」
「姫様!めったなことを言うものではありませんぞ!」
 ぎゃーぎゃー、わーわー、……これってさぁ、「フリ」なの? そうじゃなかったら、私っていま完璧に外野扱い
されちゃってる?
 フレノールの街まで持っていくのすら嫌になるような腕輪ってわけでもなさそうなのに。お姫様が偽物だったんだから、
この腕輪だって偽物ってこともありえるんじゃないのかなぁ。なんて、考えていたら出てくるのはため息だけで、
だったらさっさと持って帰ってあの偽者のお姫様を助けてあげないと……。
 鉄の槍を小脇に抱えて、うろこの盾をはずす。革ジャンの固い袖を無理やり捲り上げて、むき出しになった肌に
ぐいぐいと腕輪を食い込ませた。手首にするにはちょっと大きくて、限界まで押し込んで行ったら手首と肘の間で止まった。
 「なぁんだ。何でもないですよ。さあ、探し物は見つかりましたし、帰りましょう」
 ぴったりと私の腕にはまってしまった黄金の腕輪を見て、三人分の悲鳴と驚嘆と叫びが混ざり合って洞窟の天井に
共鳴する。向こうから響いてくるドドドド……って音は、暴れ牛鳥や大ニワトリの足音で、タバコがくすぶるような音は
メラゴーストがこっちにやってきてるってことだろう。
 ……だから「大声出すと魔物が来るよ」って言ったのに。

558 :フレノール:夜 ◆fzAHzgUpjU :2009/01/05(月) 17:44:43 ID:WKi/GyiY0
 「その腕輪、本当にあいつらに渡していいのかしら……」
 不安げな声でアリーナちゃんが呟いたのは、夕方に差し掛かる前にフレノールへ戻ってきたときだった。
人攫いたちからの手紙には「黄金の腕輪を持って『夜』、墓場へ来い」と書いてあった。夜までにはまだ時間がある。
 確かにね、お三方の言うように、この腕輪が本当に強大すぎる力を持っているものだったら、悪い人に渡したところで
悪いことにしか使われないだろうって考えるのは当然のことだよね。……だけど、なんでよりによって
「黄金の腕輪の偽物を作りましょうよ!それをあいつらに渡して、これはもう一回あの洞窟へ戻しましょう!」
「さすが姫様!このクリフト感激いたしましたぞ!」「バレたとしても、あの娘さんを助け出す時間稼ぎになればいいじゃろ」
ってなるんですか。そんでもって、なぜその腕輪の偽物を私が作るはめになるんですか。
 クリフトくんがもっていた聖なるナイフの柄に取り付けてあった金細工をひとつずつはがしていく。ありがたいことに、
私のメイク道具の中にあった金属製の毛抜きや眉きりバサミが、金細工をギリギリはがすのにはぴったりだった。
 武器屋のおじさんに取り外した金細工を溶かしてもらってから、道具屋で買ってきた玩具の腕輪にぴったりはまるよう、
形を整えてもらう。玩具の腕輪と外側にする金をくっつけてから、聖なるナイフの柄にはまっていた青い宝石を入れて、完成。
 「……ねえ、アリーナちゃん。ちょっと見た目がチープすぎる気がするんだけど」
「大丈夫よ!渡すのはどうせ夜だもの。暗いから奴らの目を欺くには丁度いいわ。それに、人質さえいなくなってくれれば
それでいいの。バレたとしても、あんな連中わたしがぶっとばしてやるんだから!」

 静かな墓場の森の影から、腕輪を渡せと人攫いが言う。アリーナちゃんが神妙な面持ちで投げたフェイクの腕輪は、
月の光の中で鈍く光りながら人攫いたちの足元に落ちる。赤いドレスの偽お姫様が突き飛ばされて解放された。
アリーナちゃんが転びそうになる偽お姫様を受け止めると、人攫いはフェイクの腕輪を拾い上げてすたこらさっさとどこかへ
行ってしまった。……神様。今までうそをついたことは何度もありますが、人に対して詐欺をはたらいたことはありません。
今回一度限りでいいので、今だけ見逃してください……。
 「ああ、ありがとう。あたしメイ。ごめんなさい、もう気づいていると思うけど、お姫様でもなんでもないただの旅芸人よ。
……そうだ、助けてくれたお礼に、このカギをあなたたちにあげるわ」
 アリーナちゃんの手にそっと、変わった形のカギを握らせて、私と同じ名前の旅芸人はドレスの裾を夜風に翻し、
付き人役の男性二人と闇の中へ消えていった。
 「……ああまで簡単に騙される悪人なんざ、かわいいもんじゃのぅ」
 つぶやいたブライ様が大あくびをしながら宿へ向かって戻っていく。みんなで続いていくさなか、私は左腕にしっくりと
納まっている黄金の腕輪を革ジャンの上から撫でた。魔力の匂いも力の気配も、微塵も感じないのは変わらない。



Lv.9 メイ
HP:34/44 MP:23/51
E 鉄の槍
E うろこの盾
E 革の服(革ジャン)
E −
E サングラス・黄金の腕輪

戦闘呪文:ホイミ・メラ・ヒャド
所持金:647G

559 :フレノール:夜 ◆fzAHzgUpjU :2009/01/05(月) 17:47:23 ID:WKi/GyiY0
あけましておめでとうございます。
今年もこのスレッドや板が大いに盛り上がる年でありますように!

>>554のタイトルですが、文字数制限に引っかかって「フレノール南の洞窟1」
であることが書けませんでしたorz 多めに見てやってください。

560 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2009/01/05(月) 18:27:49 ID:ltaZEiGu0
腕輪を渡さなかったってことは本編とちょっと歴史が変わるんだな。楽しみ。

561 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2009/01/05(月) 22:14:31 ID:LdlT2SC60
>>559
伏線が多くて次が楽しみです
ボーカルの正体はあだなから考えると…

562 :Stage.? ご挨拶 ◆IFDQ/RcGKI :2009/01/06(火) 04:08:56 ID:7CHDLACm0
 ※今日の雑談は主人公sに、新年のご挨拶も含めてお願いします。


アルス「ということで」
タツミ「少々遅くなりましたが――」


アルス「あけましておめでとうございます!」
タツミ「本年もよろしくお願いいたします!」


タツミ「そういえば、アルスは日本の正月の習慣とか、ちゃんとわかってる?」
アルス「正直あんまり。俺は『夢』の中で、お前の意識を通して現実世界の知識を得ていたんだが、
   なぜか季節のイベントについての記憶はほとんどねえんだよ。
   お正月もクリスマスも、名前しか知らねぇって感じなんだよな」
タツミ「でもその『夢』って断片的なものなんだろ。たまたまじゃない」
アルス「そうかもな。見事になんにも無いのも妙だと思うが……」
タツミ(イベントって誰かと一緒にはしゃぐってのが多いからねー。
   虚しくなるから無意識に妄想しないようにしてたんだろうな、僕)

アルス「んでさっそく聞きたいんだが、コレはなんだ?」
タツミ「ああ、『鏡もち』か。見ればわかるだろ、頭に乗せるんだよ」
アルス「食い物をか?」
タツミ「神様にお供えする意味を込めて、もっとも高いところに掲げるんだよ。
   黄色いミカンを乗せることで、上から目立つようにしてるんだ」
アルス「首が凝りそうだな……。じゃあこの薄っぺらいのはなんだ?」
タツミ「それは『たこ』だね」
アルス「ほぉ。なんかヤワな作りだが、どう使うんだ」
タツミ「素っ裸になって『前』に貼り付けるんだよ。お正月の挨拶まわりの正装だね。
   その長いたこ糸で、外れないようにしっかり身体に縛りつけるのがちょっと難しいんだ」
アルス「か、変わった風習だな」
タツミ「身体ひとつで出向いて、『今年も敵対せず仲良くしましょう』という意思表示をするんだ」
アルス「なるほど。もの凄く寒そうだが、現実の日本には露天で混浴なんておおらかな習慣もあるしな。
   じゃあこっちのコレはなんだ?」
タツミ「それは『門松』という武器で、嫌な人間が来たら抱えて全力突進するんだよ」
アルス「さっきと大きく矛盾してないか!?」
タツミ「新年早々外敵の侵入を許すわけにいかないもの。『今年も気を引き締めていこう』という決意表明なんだ」
アルス「な、なるほど。しかしさっきの『たこ』と合わせると、あまりに防御力が低すぎる気が……」
タツミ「なに言ってんだ、守りに入ったらダメだろ。常に特攻の精神で行くんだよ!
   アルスも現実で生きていく気なら、日本の武士の魂を理解しなきゃ」
アルス「おいおい、騙された相手にそんな熱心に教えていいのかよ」
タツミ「それも日本の和の心ってやつさ。それに一応さ、友達だろ、僕たち?」
アルス「……ったく、どこまでお人好しなんだよお前は」









アルス「……ところで俺とお前は見分けがつかないほどソックリだという設定なわけだが、
   いいんだな? モチかぶって素っ裸にたこ一枚で門松抱えて突進して来るぞ、エージあたりに」
タツミ「すみませんごめんなさいちゃんと本当のこと教えるのでやめてください」
アルス「わかればよろしい」


563 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2009/01/06(火) 13:00:17 ID:UTTxytTd0
>>562
想像して爆笑www

564 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2009/01/06(火) 15:53:33 ID:8qsHzmPV0
クソワラタwww

565 :※DISPOSABLE HEROS ◆fzAHzgUpjU :2009/01/07(水) 21:51:21 ID:R3LU84zu0
>>552-558の続き

 チビとノッポとデブ、三人とも男だった。三対九本の手足は誰のものにも濃い体毛が生えている。
気を遣われたことなどただの一度もないのであろう粗末な衣服とそろいの青銅の鎧が、
彼らのみすぼらしさと汚らしさをさらに引き立てていた。
 「兄ィ、これを届けたら、おれたち大金持ちだよなぁ」
「そしたらよぉ、モンバーバラまで行って、オッパイのでっかい踊り子いっぺぇはべらして、イイコト三昧しようぜ」
 チビとデブが、黄色い歯をむき出しにして下品な笑いをげはげはと浮かべる。
だが、闇に溶ける笑い声に「兄ィ」と呼ばれたノッポは反応しない。
 「お前ら、そんな『消耗品』に金使って楽しいのか?」ノッポの淀んだ琥珀色の目がぎらりと光った。
 「いいかお前ら。この腕輪をエビルプリーストの旦那に渡したら、おれたちに入るのは十万ゴールドなんていう大金だ。
それを元手にしてさらに金を増やし、武力を蓄える。……そうすりゃ、南方のボンモール王国みてぇな小せぇ国ぐらいなら、
おれたちの手に落ちる。……一国の王にだって、やり方によっちゃあなれるんだぜ?」
 計画されつくされた大きな夢に、チビとデブはひゃー、と甲高い歓声を上げながら飛び上がった。足取りも軽くノッポを
追い抜きながら、「エビルプリースト」と落ち合う約束の場所であるテンペ地方の山深い場所を目指した。
 人間のような生活臭でも、エルフのような花の香りでも、純潔なる魔族の闇の匂いでもない、混濁した気配が三人の
鼻を突く。悪趣味な細工が施された肩当に、魔界では死を表す色の白いローブを身に纏い、「エビルプリースト」は
そこにいた。
 「エビルプリーストの旦那、約束のモンだ。さあ、金を払ってもらおうか」
「おお、おお、ありがたやありがたや……。これでピサロ様もさぞかしお喜びになろうぞ。よくやってくれたの。
褒美の金じゃ。受け取れ」
 伸びて尖った十の爪の先で丁寧に腕輪を受け取ると、足元にあった麻袋を蹴って三人の前に放り出した。
紙の束がぶつかり合う幸せな音がバサバサと袋の中で踊っている。
 「……む……?」皺だらけの顔の上部、眉間と額にさらに深い皺を刻み込んで、エビルプリーストは短く唸った。
 「まずは祝杯と行くかぁ。サランの町の酒場で一杯ひっかけて、明日からはエンドールを目指して、
資金捻出の策を練ろう」
 でこぼこの高さで折線を描く、高さの違う頭が同時に弾けとんだ。脳髄をぶちまけて周りの木々にこびりつかせる
三人の男たちは、ノッポの手からずり落ちて地面に倒れた麻袋が立てる幸せの音を最期に聴くことも叶わなかった。
 「誰がこのようなまがい物を持って来いと言った?」
 地面に叩きつけられるようにして落ちた反動で、麻袋の口を閉めていた紐が緩んだ。
重力に逆らわずするすると落ちてくる麻袋の中身は紙幣ではなく、インクの染みの一滴もないただの紙束だった。
 「黄金の腕輪を取りに行ったのはサントハイムの王女一行だったはずだ……。ククク、面白い。
このワシを出し抜こうなど、よくぞ考え付いた。褒美に、ワシの力のほんのひとかけらをお前たちにくれてやろう」
 血の臭いを嗅ぎつけて、暴れ狛犬の群れが涎を垂らしながら集まってきた。
食欲という本能にぎらついたいくつもの赤い双眸を尻目に、エビルプリーストはサントハイム方面に向かって歩き出した。

566 :さえずりの塔1 ◆fzAHzgUpjU :2009/01/07(水) 21:52:08 ID:R3LU84zu0
 お城って初めて見たけど、綺麗だったな〜。ヨーロッパの観光名所なんて、きっと比べ物にならないくらい。
本音を言えばもうちょっとゆっくりお城の中を案内してもらいたかったけど、そうは問屋がおろさないって奴だった。

 旅芸人のメイさんを助けたあと、フレノールの南の洞窟へ黄金の腕輪を戻しに行こうとしたら、とんでもない問題が
起きてしまいました。うん、話を聞けば誰だって想像はつくだろうけど、案の定……抜けなくなっちゃってました。
 腕輪がきつくて抜けないんじゃないのがまたタチが悪いの! なんで抜けないかって言うとね、手首のところまで
きたら、腕輪がきゅう〜っと縮まるのよ、これが! で、二の腕のほうまで持っていくと、ぐい〜っと輪の部分が
広がるの。別に私としては汗疹が出来ないなら困ることもないけど、ほかの三人の心配と不安が痛くて仕方ない。
 まーまー、なんとかなりますって〜なんて言いながら、私たち四人は砂漠のバザーにたどり着いた。
この世界のドライフルーツを食べ歩きながら武器屋や防具屋を回って装備を整えていると、
サントハイムの紋章をつけた兵隊さんが、アリーナちゃんを見つけるなり吹っ飛んできた。
 こんなところまで兵隊さんが探しにくるなんて、よっぽどのことがあったに違いない! ということで、
バザー見物も終わったからと彼女たちの国、サントハイムに。戻る途中の魔物は鬱陶しかったけど、
クリフトくんと新しく買った「ホーリーランス」はものすごく使い勝手がよくて戦闘が苦にならなかった。

 サントハイムに着くと、すぐに玉座の間に通された。アリーナちゃんのお父様であるサントハイム王が、必死に
身振り手振りで何かを訴えようとしていた。なんと、突然声が出なくなってしまったのだそうだ。
 泣き出しそうなのを我慢してアリーナちゃんは拳を固く握り締め、玉座に座るお父さんの前から立ち上がった。
 「待っててねお父様。絶対に、お父様のお声を取り戻してみせるわ!」
 意気込みも強く、アリーナちゃんは旅芸人のメイさんからもらった盗賊のカギで、お城のすみっこにあった
小屋みたいに小さな部屋の扉を開けた。部屋の中では、ブライ様なんかまだ若いって思えるほどよぼよぼの
おじいちゃんが、一生懸命ノートに羽ペンを走らせていた。ゴンじいと呼ばれているその人の話によると、
サランの町にいる吟遊詩人のマローニさんは、喉を痛めたことがあるのに今も美しい声で歌っているから、
話を聞きに言ってみてはどうかと言われた。
 マローニさんは「私が喉を痛めたときは砂漠のバザーで見つけた『さえずりの蜜』を飲んだのです」と言う。
砂漠のバザーに行けば「今はもうさえずりの蜜はないんだよ。西にあるさえずりの塔にはエルフが降りてくるって
言うけど、ひょっとしたら……」と、なんとも見事な堂々巡りをやってのけてしまった。

 そんなわけで、私たちは今、さえずりの塔にいるんです。が、……。

567 :さえずりの塔2 ◆fzAHzgUpjU :2009/01/07(水) 21:52:51 ID:R3LU84zu0
 「きゃあ、やだ!人間よ!逃げなくちゃ!」
「あっ……さえずりの蜜が……」
「そんなのいいから!早く!捕まって虐められてしまうわ!」
 肺にこびりついたタールがまだ抜けない私と、高所恐怖症のクリフトくんがひーひー言いながら最上階に
たどり着いてみれば、あっからさまに酷すぎる言われようをされてエルフの子たちに逃げられてしまいました。
堂々巡りの次はいわれのない誹謗中傷ですか……。第一、私には弱者を捕まえて虐めるような趣味なんて
ありません。―――虐めるぐらいなら虐められたほうが、人間としてまだマシです。
 逃げ出したエルフたちが落っことしていったさえずりの蜜を手に、元来た道を通って塔を降りる。
 「げほっ……げほっ、ごほごほ……っうー……げんげんげん!」
「ひどい咳ですね……大丈夫ですか……?」
 私のこと心配するよりも自分の心配したほうがいいんじゃないかってぐらい真っ青なクリフトくんが、
震える手で私の背中をさすってくれる。
 「平気……。タバコの悪いものがまだ体から抜けてないだけ」
 咳のしすぎで頭までぼんやりしてきた。喉が痛い。階段の上り下りで膝関節がびしびししてる。
 塔から出てキメラの翼でサントハイムまで戻った。戻る途中、空へ引っ張られる感覚が気持ち悪くなったけど、
空中でそんなことになったらものすごく悲惨なことになるから我慢した。

 「わしは恐ろしい夢を見たのじゃ……。闇の帝王が蘇り、世界を滅ぼそうとしている夢を」
 さえずりの蜜でお声を取り戻した王様は、サントハイム王家の血が見せる予知夢の詳細を話した。
闇の帝王が蘇り、世界を滅ぼそうとしている。帝王の名前はわからない。だけど、同じ形で色の違う怪物が
三体、不気味な肉体形成を繰り返して世界を死で包み込もうとする。そんな恐ろしい夢を見たと、王様は言った。
 「アリーナよ。お前の強さと意志の固さはよくわかった。世界を見て来なさい。そして、よからぬことが
起きているのなら、その手で止めて来なさい。……行け、アリーナよ。わしはいつでもそなたの身を案じておるぞ」
 親子が理解しあうときって、どんなリレーションシップでも勝てない絆が生まれると思う。
しっかりとアリーナちゃんを抱きしめて、王様は彼女たちの旅立ちをようやく快諾してくれた。
 よかったね、アリーナちゃん。これで世界を見て回れるね。そんなことを考えたら、安心したのか世界が
回り始めた。いやいや、世界は回らなくてもいいのよ。世界を回るの。私じゃなくて、アリーナちゃんが。
だから、世界は回らなくてもいいんだってば。あららら、膝がガクガクしてぐらぐらり〜……?
 「こ、こりゃいかん!すごい熱……カゼじゃな。喉も腫れておるようじゃ。これ、大臣。
残ったさえずりの蜜を、この娘に飲ませてやりなさい。呼吸や喉の痛みがやわらぐだろう」
 たかがカゼっぴきで倒れた奴にさえずりの蜜はもったいないからいいです。
 と、言おうにも、リンパ腺が腫れてて言葉にならなかった。

568 :エンドールへの旅の扉 ◆fzAHzgUpjU :2009/01/07(水) 21:53:31 ID:R3LU84zu0
 キメラの翼でフレノールに行き、南下して小さな祠にたどり着いた。朽ち果てたブロック積みの壁が
崩れて、向こう側が見通せるようになっている。アリーナちゃんたちに敬礼してから見張りのサントハイム兵が
見せてくれたものは、……私をこの世界に連れてきてイアンさんから引き離した、あのぐるぐる水だった。
 「この先はエンドール国領となります。出現する魔物もサントハイム国領とは違いますので、どうか、
お気をつけて行かれますよう……。我々は姫様たちのご無事をお祈りしております」
 姫様「たち」とは言ってるけど、この兵隊さん絶対アリーナちゃんのこと好きだ。目で語ってる。
クリフトくん。うかうかしてられないんじゃないの……? こんなに優しくて大丈夫なのかな、この人は。
 「ここから先がエンドールなのね。武術大会に選手として出場できるだなんて……!きゃ〜っ!夢みたい!」
 喜びにくるくる回るアリーナちゃんが、私の目には大回転しているように見える。喉の腫れや呼吸のつらさは
王様がくれたさえずりの蜜の残りでよくなったけど、相変わらず熱は下がらない。
ただ、熱があるのに全然体はつらくないんだよね。我ながらおかしな体だなぁ。
 「よーし!行くわよ!いざ行かん、武術大会へ!」
「エンドールへ、じゃろうに……。姫様のおてんばには本当に先が思いやられるわい。
旅の扉なんぞ、老体をいじめるもの以外の何物でもありませんぞ」
 ぶつぶつ文句を言いながら、さっさと「旅の扉」に飛び込んでしまったアリーナちゃんを追ってブライ様が
渦の中に脚を入れ、ゆっくり沈んでいった。続くクリフトくんも、新天地への期待と不安で複雑な顔をしながら
入っていく。
 もしかしたら元の世界に帰れるかもしれないと淡い期待を抱いた。でも、あのときの渦は「反時計回り」だった。
この旅の扉は、時計回り。右回転をゆっくりと繰り返している。
 ものはためしだ。戻れたらそれでラッキー、戻れなかったらまたアリーナちゃんたちについて反時計回りの
渦の謎を突き止めればいい。

 洗濯機で洗われている服の気持ちがよく理解できた。向こう側の旅の扉につくなり併設の宿屋のご主人に
「お手洗い貸してください!」と言って返事も待たずトイレ駆け込んで、今朝食べたものと盛大な再会を
決め込んでしまう程度には理解できた。具合が悪いときに旅の扉はヤバイ。本当にヤバイ。
 白い顔で出てきてうがいをする私を見るなり、アリーナちゃんは私の横で何か言いたそうにこっちを見ている。
「どしたの?」と聞くと、ぐにゃー、と視界がぶれた。

569 :※THE OUTER MISSION ◆fzAHzgUpjU :2009/01/07(水) 21:54:44 ID:R3LU84zu0
 旅の扉から抜けるなり嘔吐し倒れたメイをアリーナが背負い、三人で魔物と戦いながら一行はエンドールに
たどり着いた。人々の賑わいが八方を流れ、様々な体臭や声や文化が混在している。ブライが宿に部屋を取り、
荷物を置いてメイをベッドに寝かせた。固い革の服を脱がせると、半袖のシャツから伸びる腕にはやはりあの
不気味な金の塊がそこにある。肘と手首の間で眠るように静かな黄金の腕輪は、誰の目から見ても信じがたいほど
当たり前のように落ち着いていた。
 「ひとまず、メイはここに置いて行っても平気じゃろう。姫様、この街には大勢の人々が集まる大きなカジノが
ございます。まずはそこで武術大会についての情報を集めるのが先決かとブライは思いますぞ」
 一刻も早く出場手続きをしに行きたいと目で訴えていたアリーナを制するように、ブライはクロスボウをテーブルに
寝かせて椅子に腰を下ろした。
 「では、私はメイさんを看ていますので、ブライ様と姫様はエンドール見物も兼ねてカジノへ行かれては?」
 気を利かせたのであろうクリフトが、青銅の鎧をはずし言う。しかし、ブライは腰を上げようとはしない。
 「冗談はよせい。これ以上この年寄りに鞭打つようなことはせんでくれ。お主と姫様で行くがよい」
「で、ですが」「『ですが』は禁止じゃ。ほれほれ、さっさと行けい。姫様がうずうずしとるじゃないか」
 クリフトの言葉をさえぎり、ブライは二人に背を向けるように椅子の向きを変えてしまう。
 「……ま、ブライがそう言うなら仕方ないわね。ほら、行きましょ!」
「ひ、姫様!あっ、お、お待ちを!わわっ!」
 顔を真っ赤にしたクリフトの手を引いて装備もはずさぬまま部屋を飛び出していくアリーナを尻目で見送ると、
ドアが閉まったのを確認してブライはメイの左腕を薄い掛け布から取り出して見つめる。
 ―――この娘、これほど禍々しい魔力を肌に当ててもなお、ひとの姿を保つとは。……何者じゃ?
 メイはまったく意に介していないようだが、彼女を背負ってここまで来たアリーナは武術大会への期待を
その心から抜けば、肉体は疲弊によって倒れこむ寸前だろう。魔力を受けることに才がない代わり、アリーナは
魔法が使えない。幼い頃は父王もアリーナ本人もそれを気に病んでいたことがあったが、ブライは今ここで彼女に
魔法の才がないことに対し、神に感謝した。もしもアリーナに魔法の才があれば、メイの腕に光る黄金の腕輪の
魔力にあてられ、武術大会どころの話ではなくなっていたからだ。
 ―――ちょっと上背と乳がでかい以外は、異界からやってきたとはいえ何の変哲もない人間じゃ。
だが、普通の人間が黄金の腕輪を身に付ければ、心は壊れ、『命』が無理な進化を遂げるはず。だのに、なぜ。
 眉ひとつ動かないメイの顔からサングラスを取り、その顔を覗き込む。切れ長のつり目を閉じた、ただの娘だ。
 ―――異界からやってきた者に対して我々がとやかく考えをめぐらせるのは粋なことではない、ということか。
 ふう、とひとつため息をついて、ブライはメイが眠るベッドから椅子を離した。
黄金の腕輪の魔力に少しあたってしまったらしい。
 ―――クリフトは姫様と上手くやっているじゃろか?……それこそわしが考えるのは粋ではないか。
 備え付けのポットで茶を入れて、老魔道士は一度思考を停止した。

570 :※THE OUTER MISSION 2 ◆fzAHzgUpjU :2009/01/07(水) 21:55:24 ID:R3LU84zu0
 「もし、そこの人。わたしはバトランド王宮戦士のライアン。つかぬことをお伺いするが、
あなたは『伝説の勇者』と呼ばれるお方について、何か知っていることはありませぬか?」
 重装備に身を包んだ戦士は、小柄な少女と一緒にモンスター格闘場を見物していた青年に声をかけた。
見たところ、旅の神官らしい。血沸き肉踊る魔物同士の戦いの興奮にすっかり支配された少女が闘技場の柵から
身を乗り出そうとしているのをそっと止め、青年は戦士のほうを振り返る。
 「伝説の勇者、ですか……。古い書物では何度かその話を読みましたが、残念ながら私の知っていることは
既存の記録を少し齧った程度です。お役に立てず申し訳ありません」
「伝説の勇者?その人って、勇者ってぐらいだから、やっぱり強いのかしら?もし本当にいるなら一度手合わせ
してみたいわね」
 少女の言葉に苦笑する青年を微笑ましい気持ちで見ながらも、戦士は心の中で落胆した。この大きな国でなら、
少しは頼れる情報を得られると思っていたのだが、それも見当違いのようだった。
 「……ならば、もうひとつ聞きた」
「ねぇ、あなたも武術大会に出場するの?」
「姫さ……、アリーナ様。初対面の方に失礼ですよ」
「いや、構いません。アリーナさんと言いましたか。残念ながら、わたしにはかのような催しに参加する余裕は
ありませぬ。ですが、こちらから見る限り、あなたも相当腕の立つ方と感じられる。いずれ、またどこかで会った
ときは、ぜひ手合わせ願いたいものですな」
 戦士の言葉に気をよくしたアリーナは、にっこり笑って青年を見上げた。花のような笑顔に目を白黒させる
青年に丁寧に礼を言って、戦士は賑わうカジノを静かに去った。
 三年前―――バトランド地方イムルの村では、子供が神隠しに遭う事件が頻発していた。子供たちをさらった
魔物を倒す旅に同行した女が、湖の中央に聳え立つ塔の屋上から落ちて、湖水に飲まれ姿を消した。
女とは、未だ再会できていない。ほんの数日の間、旅を共にしただけの女が、なぜか三年という月日が経った今でも
忘れられない。伝説の勇者を探す旅を続ける限り、この広い世界をくまなく見て回ることになるだろう。
その旅の一端に、水の中で姿を消した「メイ」という心優しい異邦人を見つけ出すことも、彼の目的であった。
 戦士の大きな背中を見送り、再び闘技場に視線を戻したアリーナがぽつりと呟く。
 「ねえ、クリフト。メイさんも今日、ここに来られたらよかったのにね。……あ、見て見て。あそこのステージ。
ギター弾いてる人がいる。帰ったらメイさんにも教えてあげよ?カゼひいて来れなかった分も、いっぱい教えて
あげなくちゃ」
「そうですね。……アリーナ様。柵を乗り越えてはいけません」
「はぁい」
 広いエンドールの街の隅にある安宿に戦士が帰り着いたころ、カジノの上に併設された宿の一室でメイは目を覚ました。



Lv.12 メイ
HP:51/51 MP:53/53
E ホーリーランス
E うろこの盾
E 革の服(革ジャン)
E −
E サングラス・黄金の腕輪

戦闘呪文:ホイミ・メラ・ヒャド
所持金:821G(メイ個人の所持金額)

571 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2009/01/07(水) 22:03:03 ID:R3LU84zu0
>>562
パンツマスクよりも変態な格好になるwww

572 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2009/01/08(木) 02:31:52 ID:bVvHuQyWO
>>570乙でした。
黄金の腕輪を装着していても大丈夫な身体。何故だろうか?
続きが気になります〜。

573 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2009/01/09(金) 01:34:59 ID:W/93EgOf0
>>570
こいつはくせえッー! 名作のにおいがプンプンするぜッーーーーッ!!
wktkが止まらねえッー!

574 : ◆DLQmf08qD. :2009/01/10(土) 18:43:07 ID:utovRnZF0

第四話 「邪悪な存在」

家がアレなのでサンタローズの村を散歩することにする。
だが、のんびり歩いている俺に女が話しかけてきた。
見た目からしておばさんと思えるが・・・
「ねえ、あんたパパスの子供だね。これお食べ」
そういいおばさんは俺に箱を渡してきた。
「パパスさんによろしく伝えておいてね」
ニッコリと笑いながらおばさんはで去っていった。

おかしい。あのおばさんはこの前パパスに殺されかけた人だ。
というより殺されたんたんだよな。でも、神父のザオリクでなんとか生き返った。
普段、パパスに世話になっていたとしても自分を殺した相手に物なんかあげるか普通?
まあ、この世界の人々はわけ分からん人が多いからあまり気にしないでおこう、うん。

箱を開けて中を見てみると美味しそうなクッキーがたくさん入っている。
あまりにも美味しそうだったのでその場で食べることにした。
「こりゃ、うまそうだな。いただきまー・・・」
クッキーを口に入れようとしていると、連れていたベビーパンサーが俺の事を見つめていた。
「お前も食べたいのか?」
そう聞くとベビーパンサーは「くぅ〜ん」と物欲しそうな声を上げた。
「そうか、ほら、お食べ」
クッキーをベビーパンサーの口に近づけてやると一口でぺロリと食べてしまった。
「さて、俺も食べるか」
俺はクッキーをもぐもぐと食べて飲み込む。
しかし、ベビーパンサーはいきなり泡を吹いて倒れた。
「な、どういうことだ!?ま、まさか・・・うっ」
俺は倒れて薄れゆく意識の中こう思った。
(あのババア・・・許さん・・・)

575 : ◆DLQmf08qD. :2009/01/10(土) 18:44:14 ID:utovRnZF0
その頃、クッキーをやったおばさんは

/〃// / 〃l lヽ∨,〈ヾ、メ〈 }} ;l リ ハ l`!ヽ.
          //' /,'  ,' 〃 l l川/,ヘ丶\;;ヽ/:'/〃∧ l ト、:l !
         〃,'/ ;  ,l ,'' ,l| レ'/A、.`、\;;ヽ∨〃/,仆|│l }. |、
         i' ,'' l| ,l ' l. !| l∠ニ_‐\ヽ;\,//,イ| l | l ト/ λ!   、
.        l ;  :|| ,'i:/ l| |:|: |``'^‐`ヾ∨`゙//|斗,l ! | ,タ /l.| l  三__|__
       l ' l |」,' l' lハ |'Ν    ̄´ /` ,|l_=ミ|! ly' ,〈 :|| |  口 |
        |l .l H|i: l | ゙、| l        _.::: ,!: l厂`刈/ /!} :l|    ‐┬‐
        |! :l |)!| ! |  ヽ      '´ ’/'_,.   ノイ.〃/|!    │田│
        l|l |l 「゙|l |`{             ..   _   |}/,ハ l     ̄ ̄
       |!l |l、| !l :|.      ‘ー-‐==ニ=:、__j:)  l'|/|l リ    、 マ
ヽ ̄ニ‐、__.」乢!L!lヱL」__           ー、 `'''´   从「 /     了 用
 \ `ヽ\      /l |       / ̄´     //        '"`ー‐
.  ,、  l  ゙、    / ' |、      {        /l/         ,
   '}  l  ゙,    /   |:::\      }     ,.イ/          レ |
   l  l   l  ,.イ   l:::::::::\__   `'-‐::"// |′          ノ
   l   !   K ヽ,、 \「`''''''''"´:::::::;;:" //
.    l   l   ト、\( _.... ヽ  .:.::::::::;;″ /'       _
\   |  l|  八、ヽi´    | .:.:::::::::::::i' .:/'"´ ̄ ̄ ̄ ,.へ\


576 : ◆DLQmf08qD. :2009/01/10(土) 18:46:17 ID:utovRnZF0
あのパパスのガキは今頃、死にかけているだろう。
ガキにやったクッキーには動物の嗅覚でも気づかない猛毒が入っている。
これと同様の手でパパスを殺してみせる。
そして、世界の人間達や魔物共を殺し私は・・・


     新世界の神となる。


数分後、このおばさんは村の兵士に連行された。
理由はおばさんがクッキーを主人公に渡し
そのクッキーを食べた主人公が倒れたという状況を見ていた村人が通報したためである。


「ふう、ひどい目にあったな・・・」
俺とベビーパンサーが毒のクッキーを食べて倒れた後、
この村によって旅人がどくけし草っていうどんな毒でも消し去る草を俺達に食べさせてくれたので
死なずすんだ。やっぱりこの村にもいい人がいるんだな。
「あの、ありがとうございました」
俺が素直に礼を言う。恩人に礼を言うのは当たり前のことだ。
「別にいいよ」
その旅人を見てみるとどこがでみたことがある。なにやら俺と同じ格好をしてるし・・・
・・・あっ!もしかして未来の・・・・

577 : ◆DLQmf08qD. :2009/01/10(土) 18:47:50 ID:utovRnZF0
「もしかしてあなたは未来の・・・」
だが、その旅人は俺の言葉をさえぎるように別の話しをしてきた。
「ん?君はきれいな玉を持っているね。ちょっと見せてくれるかい?」
きれいな玉ってこのゴールドオーブか。
でも、これってどこからみてもゴールデンボールじゃねえかと下ネタを思う俺。
我ながらツマンネ、もうゴールデンボールなんて言わないでおこうと思いつつ旅人に渡す。
「うん、きれいだね。ありがとう」

ゴールドオーブを見ている旅人にアレを言ってみるか。
「俺のゴールドオーブを見てどう思う?」
「すごく大きいです・・・」
やっぱり!こいつ俺だ!!見た目は未来の俺の姿っぽかったけど中身の人格とかが
別人だったら恥ずかしい事になるので聞かなかったけど・・・
ん?こんな方法で未来の俺かどうか確かめている時点で恥ずかしいんじゃ?
ま、まあいい。とにかくこんなノリをしてくるってことはこいつ俺だ!

「あんた未来の俺なんだろう?」
「さあね。今の君が知る事じゃないよ。このオーブ返すよありがとう」
旅人は俺にオーブを渡すと「どんな事があっても絶対に負けちゃいけない」といい去っていった。
あいつは本当に未来の俺なのだろうか?それとも俺が変わっていったのだろうか?
・・・俺はしばらくしてから散歩を再会した。


578 : ◆DLQmf08qD. :2009/01/10(土) 18:49:45 ID:utovRnZF0
村では変な事が次々、起こっていることが分かった
それは民家のタンスの中に入れてあった物がタンスの別の段にあったりとか
作ってあったシチューがなくなっていたりとか
最近、妻に浮気の疑いをかけられている夫がいるとか・・・まあ、最後のは多分関係ないと思うが。
とりあえず、気になるので情報の調査をしている。
「まだ情報を聞いてない所は・・・酒場か。よし行ってみよう」

酒場にいるとなんと人間ではない生き物、そう妖精がいた。
「な、なんですか?この妖精と言わんばかりの妖精っぷりは!?」
思わず口に出してしまった。
だが妖精は何故か嬉しそうな表情になり俺に近寄ってきた。
「あなた私の姿が見えるの?」
「え?見えるけど・・・」
「良かった!他の人間達は私の姿が見えなかったみたいだから困ってたの!」
「へ、へえ・・・」
「ねえ、私達の世界に来て!今、妖精の世界で大変な事が起こっているの!」
暇だったので行く事にした。ちなみにこの妖精はベラという名前らしい。
べラはとある所に来て欲しい。そこで待ってるといい一足先にその場所へと向かった。
妖精の世界の入り口は俺の家の地下室にあるらしい。
そんな所にあったっけ?そんに疑問を持ちながら家へと向かった。

キイ、俺は家のドアを開く。
すると目の前にはパパスに血祭りにされたサンチョの死体があった。
「たぶん、なんか知らないけどパパスの怒りを買ったんだな・・・」
そう言い、俺は地下室の階段を下り地下室に向かった。
地下室に着くとべラがいた。
「ふう、じゃあ行きましょ。くわしくはポワン様から聞いて!」
ポワンという人は精霊の世界の村で偉い人らしい。
「どんな人か早くみてみたいな」
「とてもきれいな人よ。あっ、誰か来るわ!」

579 : ◆DLQmf08qD. :2009/01/10(土) 18:50:54 ID:utovRnZF0
コツコツコツ、階段を下ってくる音が聞こえた。
そして、その人物が俺達の所に来た。その人物はパパスだった!
「お前、誰かと話してなかったか?」
パパスにも妖精の姿は見えないらしい。
なのでべラの姿も見えないのであろう。
「だ、誰もいないけど」
俺が答えるとパパスはチッと舌打ちすると「次に間際らしい事をしたら殺す」と小声でいい
殺気だった顔をしながら階段を登り戻っていった。
(恐い・・・・!恐!・・・逃・・・この家を出るとどうやって生きる?無理!!
この家にとどまる?無事で?出来る!?否・・・死!!)
色んな事を俺は思っていた。
「やっぱり大人には誰も妖精の姿が見えないのね・・・まあいいわ」
べラは俺の様子に気づかないのかそう言っていた。
そして、いきなり光の階段が出てきた。これで妖精の世界へ行けるらしい。
俺、そして空気だったベビーパンサーが光の階段を渡るべラについていった。

妖精の世界とはどんな所なのだろうか?俺は少し緊張していた。
一方、ベビーパンサーは将来の事を不安に思っていた。

レベル 10
最大HP 76
最大MP 28

装備 ブーメラン 皮の鎧 うろこの盾 木の帽子

呪文 ホイミ キアリー バギ スカラ

580 :※STILL LOVING YOU ◆fzAHzgUpjU :2009/01/11(日) 01:51:36 ID:KE3rVZ1b0
>>565-570の続き

 「ギター弾けるようになった?」
「そんなにすぐにはなれないよ。……私は『佐呂間さん』と違って弦楽器弾く天才じゃないんだから」
 高校の制服姿のままでスタジオに入ったボーカリストは、椅子に腰掛けるメイの足元に座り、
床に置かれた譜面を覗き込んでいる。
成長途中のボーカリストと練習中のギタリストは、他のメンバーよりも早くスタジオに入ることが自然と多くなっていた。
 「ごめんね。元はと言えば俺が『佐呂間さん』のベースで歌えたら最高なのに〜!
なんてミーハーなこと言ったから悪いんだよなー。……反省してるから恨まないで?」
「恨まないよ。今はもう、あなたの歌を引き立てる音を出そうと夢中なんだから。ね?」
 笑顔の裏にある邪とも取れるであろう思いを隠すため、メイはギタリストになってからサングラスを
かけるようになった。演奏中、手元から目を離した時、真っ先に視線を向けるのはまだあどけなさの残る顔で
歌うボーカリストだった。悪魔が味方しているのか、サングラスをかけて鋭さを増したメイの評判は、
男性人口の多いメタル系バンドの世界にいても引けをとらないと噂になった。
 「……俺がボーカルになったこと、後悔してない?」
 黒いレンズに隠れた瞳を覗こうと、ボーカルは精一杯メイの顔を見つめた。
薄く小さなメイの唇が優しくつりあがり、子どもを相手にするための笑顔を作る。
 「してないよ。……この先、『木暮くん』が高校を卒業しても大学生になっても、社会人になったって、
ずっとこうして隣でギターを弾いていられればいいなって、いつも思ってる」
「ほんと?ずっとだぜ?ずーっと。俺たち一蓮托生?」
「うん。……私たち、ずっと一緒にいられたらいいのにね。『佐呂間さん』も『木暮くん』も私も、ほかのみんなも」
「……ねー、メイさんはいつになったら俺のことあだ名で呼んでくれるの?
『木暮くん』って呼ばれるたびに、なんか背中のあたりがもぞもぞするんだけど」
「えー……?あだ名呼びってなんか恥ずかしいなぁ。おばさん、『木暮くん』みたいな若い子と違うんだから」
「何言ってんだよ。十分若いじゃん。ほら、一回呼んだら癖になるかもしれないよ?はい、呼んで呼んで?」
「んー……じゃあ。―――」

 ―――目が覚めて、よかった。呼んでしまってからじゃ遅かった。この歳になって起き抜けに泣くとかは勘弁。
思春期の中高生じゃあるまいし。よりによって一番楽しかった頃の夢を見るなんて。何年前の話なんだか。
私が彼を苗字で呼んでいたのは、彼がバンドに加わってから間もない時期だけ。一緒に活動してきた四年間、
ずっとあだ名で呼んでいた。この世界に来てから忘れてた。彼はもういない。忘れようとすると、ふとした
瞬間に記憶は蘇ってくるものらしい。
 落ち着けと言い聞かせても、嫌な汗は止まらずに寝間着をぐっしょり濡らしている。
……未だ夢に出るほど、私は彼のことを好きでいたんだと痛感した。そして、……違う世界にいるときぐらいは
聴きたくも口にしたくもない名前が出てきたことに、年甲斐も無く強烈なダメージを受けているのを自覚した。

581 :エンドール1 ◆fzAHzgUpjU :2009/01/11(日) 01:52:15 ID:KE3rVZ1b0
 無責任な発言は結局のところ自分の身を滅ぼすことになる。これをよく覚えておこうと思った。
 「頼む、アリーナ姫よ。どうかこの武術大会で優勝し、モニカの結婚をなかったことに!」
 最近、魔物の動きが活発になっているからと、エンドール王はつわものを集めるためにこの武術大会を開いたそうで。
武術大会で優勝した人はなんと、この国のお姫様と結婚する権利が与えられる。
つまり、王様の隣の玉座で浮かない顔をしているモニカ姫は、優勝者が男性だった場合、嫌でも結婚させられてしまう。
 少しだけむっとしたアリーナちゃんがエンドール王の前でスカートをつまみ頭を下げ、無理な頼みを聞き入れる。
 「……王様、ひとつお願いしたいことがございます」
 跪いて顔を上げ、アリーナちゃんはとんでもないことを口にした。
 「ギターを、ください。わたしの後ろで控えている色眼鏡の者は、人々を魅了する音色を奏でるギタリストです。
ですが、旅の道中に魔物に襲われてギターを壊されてしまいました。わたしたちの旅の資金では、高価なギターを
買うことはできません。ですので、どうかわたしが優勝した暁には、この国にある最高のギターをお与えください」
 ななななな何を言い出すのこの子は! 魔物に壊されたなんて大嘘までついて!
 いや……理由はあるんだ。昨日は一日中ずっと熱出して寝込んでいた私を、ステージでギターを弾いていた人が
いるから観に行こうとアリーナちゃんがカジノへ誘ってくれた。砂漠を放浪する民の衣装を着てギターを爪弾く
男性を、ステージが終わったあと二人で訪ねて「一度そのギターを貸してくれませんか?」と申し出た。
すると、返ってきた答えは悲しいものだった。
 この世界ではギターはすごく高価な楽器で、ひとつ買うだけでも二万ゴールド近くかかるのだという。
そんな高価なものを、見ず知らずの他人に貸すわけにはいかないと突っぱねられてしまった。
 そうなると、いつかギター演奏を聴かせると約束した私も、それを楽しみにしてくれていたアリーナちゃんも、
意気消沈してがっくり来てしまう。とぼとぼと宿に戻った私たちを見て、ブライ様とクリフトくんは
「いつかご自分で気づいたほうがよいと思い、フレノールの洞窟では何も言わなかったのです」と頭を下げた。
確かに、あのときは「いつかギターを弾いてあげる」という約束でその場の空気を取り持ったから、
真実を伝えられれば一気にしらけてしまっただろう。
 けれども、なんかなぁ……。出場するのはアリーナちゃんなのに、高価なギターをもらえるのは私、
っていうのも、ちょっと腑に落ちない部分がある。……よし。決めた。
 「……姫様、わたくしなどのために貴重な優勝賞品を選ぶ権利を棒に振ってはいけません」
「で、でも、メイさん……、わたし、メイさんのギターが聴きたいよ」
「ええ、ですから、姫様」
 床に置いて攻撃の意はないという態度を取らせていたホーリーランスを握り、切っ先を天井へ向けた。
 「わたくしも、武術大会に参加させてください。もしも決勝戦でわたくしと姫様が戦い、わたくしが勝ったら、
その時は国王陛下からギターをいただきます」
 王様に拒否権なんかなかった。むしろ拒否する理由がない。女が二人、決勝戦まで残れば、大事な娘を嫁にやる
必要なんかなくなるからだ。

582 :エンドール2 ◆fzAHzgUpjU :2009/01/11(日) 01:52:41 ID:KE3rVZ1b0
 これだけ大きな街だと、武器や防具の品揃えもすごく豊富だった。防具屋でうろこの盾を「鉄の盾」に
買い換え、クリフトくんは今まで装備していた青銅の鎧を売って鉄の鎧を買い、武器屋でブライ様は
毒蛾のナイフを買った。でも、アリーナちゃんのような武道家が装備できる軽くて丈夫な防具は売ってなかった。
 何かいいものはないかと探していたところで、さっき立ち寄ったカジノの景品リストを思い出す。
景品の中に「スパンコールドレス」っていうキラキラのドレスがあった。交換所のバニーさんの話を聞いても、
優秀な防具として、旅する女性に大人気だって。
 それじゃあコインを買うお金をどうやって捻出しようかと、カジノの入り口付近で考える四人。
 「……ん?ステージの上にギターが置きっぱなしになっとるぞい。ははぁ、さてはあのヘタギタリスト、
休憩時間に入ったんじゃな。……こりゃ、何をぼんやりしとるか。さっさと行ってこんかい」
 はい? 行ってこんかいって、どこにですかブライ様。
 「ぼやぼやしとるとあのヘタクソが帰ってきてしまうぞ。さっさと一曲弾いて、おひねりを稼いで来なさい」
「無茶言わないでくだ」「メイさんギター弾くの!?聴きたーい!」「わ、私も興味があります!」
 トリプルアタックに負けて、しぶしぶ私はステージに向かった。深呼吸ともため息ともつかない二酸化炭素を
吐き出して、なるべく人目につかないようにステージに上がる。
ギター欲しさにここまでやるなんて、例のテレキャスターの購入を決めたとき以来だよ、もう……。
 木製のスタンドに立てかけられているギターを勝手に拝借して、バンドを肩にかけた。
曲目はー……、よし、スタンダードに「禁断の遊び」で行ってみよう。
 爪の長さはあまり変わっていない。むしろまったく伸びてない。こっちに来てから体質が変わったんだろうか。
前は爪でアコギ弾いてよく爪の先をぼそぼそにしてたのに。
 一番細い弦を弾くと、思いのほか澄んだ音がした。エレキではないけど、
シンプルな造りのギターはこの世界でもちゃんとしている。
 ……この腕輪はギターの音を聴けるだろうか。聴けるんだったらこの曲を聴いて、
禍々しいとか怖いとか言われるその魔力を、少し優しいものにできないだろうか。
 左手に何かが乗り移ったようにフレッドを抑えた。久しぶりの感触に指先が喜んでいる。指すべてにそれぞれの
意志が宿ったように右手が動いた。鈍ってはいない。あー、私、ギターが弾きたかったんだなぁ。
 黄金の腕輪が熱を持ち始めた。火傷をするとか、そういう熱じゃない。ホットコーヒーを注いだマグカップを
当てるような、よく働いてくれたアンプに触れるような、そんな熱だった。
 ―――心なしか、ギターの音が大きくなる。弦の弾き方は変えていないのに、左手に伝わる振動が強まった。
 あっという間に一曲を弾ききってしまうと、ライブとは違う歓声がどっと沸きあがった。
ステージに投げ入れられる硬貨と時折見える紙幣を一つ一つ丁寧に集めてステージを降りると、
さっきのギタリストに恨めしそうな目で睨まれてしまった。おひねりは全部で三千ゴールドちょっと。
これを元手にして私がポーカーテーブルでちまちまダブルアップを繰り返していると、
アリーナちゃんに引っ張られてスロットマシンをプレイしていたクリフトくんが、なんとスリーセブンをたたき出した。
 ……カジノでの手柄は取られたけど、装備は整った。コロシアムからは、観客の気配が地響きのように伝わってくる。 

583 :武術大会1 ◆fzAHzgUpjU :2009/01/11(日) 01:53:19 ID:KE3rVZ1b0
 回復魔法の素質があってくれて、本っ……当に良かった。私の世界のどこに、人に向けて弓矢を打つ人がいると。
 アリーナちゃんと戦うまでに、四回の「予選」があった。予選の「せん」は「戦闘」の「せん」のほうが、
この場合しっくり来そうだけれども。二回目の予選で戦った弓使いのクラウスとかいう人に、思いのほか苦戦を
強いられてしまった。こっちは接近戦向きの槍、あっちは遠距離戦向きの弓矢。刺さったところが悪かったらと
考えると、今でもぞっとする。鉄の盾で必死に防御しながら、ホイミと物理攻撃を何とか駆使してここまできた。
途中の魔法使いの踊り子さんも、女の子なせいか打たれ弱くて助かった。
 なんか分身する変な魔物は、ホーリーランスを横凪に振り払えば必ずどれかには当たったから、意外とすんなり。
今まで、槍は「突く」とか「振り上げる」しかしなかったけれど、こういう使い方もあるんだね。
この方法なら、ブライ様に「グループ魔法の才能がないのぅ」と言われたのも、ある程度カバーできそう。
 アリーナちゃんと当たるのは決勝戦かと思ってたけど、実際は準決勝でぶつかった。
 「デスピサロ」という、やたらと強くて残酷な人がいるらしい。コロシアムに入ったときも、中の人たちはその
デスピサロの話題で盛り上がっていた。対戦相手を殺すまで攻撃をやめないらしい。物事にはたまに、手加減と
容赦が必要なのを知らない人なんだろうなぁ。……そんな危ない人とアリーナちゃんを戦わせるわけにはいかない。
彼女は曲がりなりにも、一国のお姫様だ。何かあったらサントハイムの国中が大変なことになっちゃう。
ギターのため、そして彼女のためにも、ここでアリーナちゃんに負けるわけにはいかない。

 試合開始の声がかかった。アリーナちゃんは良い意味での手加減なしに、こっちに向かって飛び掛ってくる。
彼女の動作は風みたいに速い。ときどき目で終えなくなることもあるぐらい。強烈な蹴りを鉄の盾で受け止める。
左手に伝わってくる衝撃はすごかった。鉄を蹴ったら脚が痛くなるだろうと思って心配すると、
そんなそぶりはまったく見せずに次の攻撃動作に入っていた。
 ホーリーランスを振り上げると、アリーナちゃんの「鉄の爪」についている鉤と鉤の間に受け止められてしまう。
盾を装備できないアリーナちゃんは、とてつもない動体視力で相手の攻撃を見切っている。
腕力では彼女のほうが上。ってことは、ここで私が勝つには、温存していた魔力で魔法攻撃に出るしかないってこと。
 ちょっと情けなく映るけど、私はアリーナちゃんに背中を向けて走り、距離をとった。外野からちょっとした
ヤジが飛んできたけど、……そんな言葉程度で傷ついちゃうほどこっちは若くないんです。くぅ……。
 「メラ!」
 ハンドボール大の火球が飛ぶ。予想では、アリーナちゃんにメラがぶつかるのはもっと遠い場所のはずだった。
けれど、背中を向けて距離を取ろうとする相手をみすみす逃がすほど、アリーナちゃんは容赦を持ち合わせてない。
 アリーナちゃんのスパンコールドレスにぶつかって煙を上げる火球が弾けるのと同時に、右腰のあたりを思い切り
蹴られた。吹っ飛ばされて壁際に転がる。かなり痛いけれども、寝っ転がってる暇はない。わああ来た来た来た来た!
やばい! 距離はあんまりない! 回復しないとノックアウトされちゃう! でも攻撃もしないと勝てない!
 ……よし決めた。ヒャドを唱えよう。それでなんとか距離を作って、そのあとはホイミで行く!

584 :武術大会2 ◆fzAHzgUpjU :2009/01/11(日) 01:53:42 ID:KE3rVZ1b0
 ……確かに、「ヒャド!」って、二回唱えた。ほら、人間あせると同じこと何回も繰り返して言っちゃうでしょ。
それだよね。うん、それだったんだ。
 左手から発動したヒャドは、唱えた回数どおり、ふたつの氷をアリーナちゃんに飛ばした。こんなこと初めてだった。
魔法は、一度唱えるなら一回しか発動しない。魔力で魔法を発動したら、次の魔法を唱えるまでには魔力の「タメ」が
必要だから、連続して一度に二回、今みたいに発動するはずなんてない。
出会ったばかりのころ、戦闘でメラを連呼していた私に、ブライ様は確かにそう言っていた。
 左腕で、黄金の腕輪が熱くなる。嫌な熱ではないけど、私は初めてこの腕輪のことが怖くなった。
今、魔法を連続で唱えられたのは黄金の腕輪のせいだとはっきりと自覚できた。
アリーナちゃんの選択は正しかった。こんなことが出来てしまうものを悪い人に渡したら、一体なんのために悪用されていたんだろう。
 「くっ……」
 氷の塊に吹っ飛ばされたアリーナちゃんが起き上がり、薬草を齧る。咥えている葉っぱをそのままに、
アリーナちゃんは戦いの意志を宿したまんまの目で私を見据え、笑った。今まで見たアリーナちゃんの笑顔の中で、
一番いい笑顔だった。つられて私も笑う。距離は十分に取れた。
クリフトくんから即興で教えてもらった「スカラ」とホイミを一度ずつ唱えて、ホーリーランスを握りなおす。
 この戦いではもう、黄金の腕輪には頼らない。彼女は純粋に私との戦いを楽しんでくれている。だったらもう、
アリーナちゃんが使えない「魔法」なんてナシ。向こうも薬草を持ってるし、スパンコールドレスと革ジャンの
耐久性の差があるから、ホイミとスカラは使わせてもらうけど、それ以外は唱えっこなしだ。条件は互角だ。
 「てやあああ!」
 気合一発、アリーナちゃんは掛け声と共に鉄の爪を繰り出す。この一撃に耐えたら、勝算は十分すぎるほど整う。
スカラで耐久性は上がってる。防御すればなんとかなるはず……だったんだけど。
 ―――姫様の「会心の一撃」には十分ご注意ください。武器による攻撃は時折、体で繰り出すのに最高の条件が
整うことがあります。いつものように攻撃をしたら、とても上手く決まった、ということが、メイさんにも
あるでしょう?姫様のお体はそういった、会心の一撃を打ち出す条件が整いやすいという特徴があります。
打たれたが最後、物理的な防御力など一切関係なくなります。いくらスカラを唱えていても、です。
……姫様に優勝していただきたいのはやまやまですが、私は……姫様がデスピサロと戦うことがとても心配なのです。
身勝手とはわかっています。ですが、どうか……。メイさんがデスピサロと戦うことになったら、私はルールを無視して
加勢いたします。
 スカラを教わったとき、クリフトくんがロザリオを握り締めながら言ってたことが今更になって蘇ってくる。
そ、走馬灯……!? いやいや、アリーナちゃんも多分、死なない程度に力は抜いてくれてるはずだよね……。
 ボディに入れられた強烈な一撃は、「吹っ飛ぶ」なんて表現では表しきれないほど綺麗に私の体を宙に跳ね上げた。
あんまりにも強烈なのを叩き込まれると、いくらみぞおちに入ったとしても出るものは出ないらしい。
 壁に背中をぶつけて地面に落ちる。ホーリーランスを杖代わりに立ち上がってみたものの、背中を打った拍子に
衝撃が肺にまで伝わってきてたものだから、呼吸困難になって結局倒れこんでしまった。遠くで試合終了の声がする。

585 :武術大会4 ◆fzAHzgUpjU :2009/01/11(日) 01:56:08 ID:KE3rVZ1b0
 コロシアムの救護室で目を覚ました私は、まだずきずきする体を起こしてあたりを見回した。
 「デ、デスピサロは?」
 隣のベッドで横になっていた武道家さんにいきなり尋ねると、「棄権したんだ」と教えてくれた。
私がアリーナちゃんにやられて気を失っている間に、決勝戦が行われたらしい。相手はやっぱり、あの悪評高い
デスピサロって人で、アリーナちゃんも相当緊張していたって話だった。だけど、待てども待てどもデスピサロは
決勝戦の場に現れず、痺れを切らした王様が控え室を兵士に調べさせたら、なんとまあそこはもぬけの殻だったそうだ。
 「じゃ、じゃあ、優勝は」
「サントハイムのアリーナ姫だよ。なあ、アンタはサントハイムつきのギタリストらしいけど、
ありゃホントにお姫様か?男の俺よりも強烈な拳打を打ち出しやがる。並の剣士だって彼女にゃ勝てねぇよ」
 ああ、思い出した。この人「ミスター・ハン」って人だ、一回目の予選で、アリーナちゃんにやられちゃってた。
 「よっ……こいしょ」
 ホイミを唱えて体のずきずきを消して、ベッドから起き上がる。やっぱり優勝はアリーナちゃんだったんだ。
それにしても、デスピサロが棄権してくれてよかった。あの子にはまだ、「世界を見て回る」っていう夢が残ってる。
ギターがどうのって、そんなことこの際どうでもいいや。早くあの子の顔が見たい。
 「メイさぁん!」
 美しすぎる放物線を描き、アリーナちゃんが飛び込んできた。ベッドに腰掛けていたのにぼすんと押し倒されて、
脚が天井向いて体がL字になる。……一応けが人なんですけど、私。
 「あっはは……。アリーナちゃん、優勝おめでとう」
「へ?なんで知ってるの?」
「そこの人から聞いた。……でも良かった。デスピサロが棄権したんだってね」
「いくじなしのデスピサロなんて、わたしにかかれば秒殺よ!それであの、メイさん。これ、優勝商品。はい」
 柔らかい木綿の布にくるまれた、何か大きなものを差し出された。な、なんですかコレは。……ん?
こ、の、輪、郭は、ま、まさか……。
 「……うっそ!?えっ、いや、何これ何これ、うわあああホントに!?あっ、ありがとう!」
 布を取り去ってそこに現れたのは、上品な木目の茶色が存在感を強く引き立たせる一本のアコースティックギター
だった。この世界でも普及している楽器製造の技術がふんだんに使われているみたい。喜びに興奮して、ギターの
細部の特徴を若い娘みたいに口に出した。
 「すっごい、うわ、ソリッドボディになってる!しかもネックはデタッチャブルワンピースメイプルネック!?
信じられない……この世界にもこんな技術があって、しかもそんなギターが私の手にあるー!」
 遅れて、王様の従者さんから黒い革で造られたハードケースが届いた。幸せの絶頂でふわふわ足のつかない地面を
歩きながらみんなでお城を出た。
 その直後、嬉々とした気分をぶち壊すようなとんでもない光景が目に飛び込んできた。

586 :サントハイムへ ◆fzAHzgUpjU :2009/01/11(日) 01:57:58 ID:KE3rVZ1b0
(※>>585のタイトルは「武術大会3」でした。すみません)

 「ひ、姫様……姫様……!ああ、ようやくお会いできた……。大変、です。サントハイムのお城が……っぐ、ふ」
 傷一つ無いサントハイム王家の紋章がついた鎧が、がしゃんと崩れ落ちた。鎧の中には今この瞬間まで、人がいた。
なのに、突然おびただしい量の血と最後の呼吸を吐きながら、サントハイム兵士さんは白い煙になって消えるように
いなくなった。
 「フレディ!お、おい、フレディ!」空っぽの鎧にすがりつくようにクリフトくんが地面にはいつくばった。
 「ああ……なんということだ……!ひ、姫様!」
 たぶん、今ここで事切れた兵士さんはクリフトくんの知り合いだったんだろう。この街にはこんなにたくさんの
人がいるのに、誰一人として空っぽになった鎧にもクリフトくんの嘆きにも気づいていない。幸か、それとも不幸か。
 「いったい我がサントハイムに何が起こったと言うんじゃ?……姫様、ここは一度サントハイムに戻りましょう!」
「……っええ!急ぐわよ!旅の扉まで走りましょう!」
 空っぽの鎧を持ち上げてみる。鉄製の重く頑丈なもののはずなのに、片手ひとつで軽々と持ててしまった。
密度が薄くなったように軽い鉄の鎧は、私の手からちぎれ落ちて、鉄くずとなって風に吹かれ飛んでいく。
尋常じゃない、大変なことが、サントハイムのお城で起こっている。それぐらいしかわからないけれど、
ただ風邪を引いただけの見ず知らずの女に貴重なさえずりの蜜を分けてくれた王様や、倒れた私を甲斐甲斐しく世話して
くれた大臣やメイドさんたちの国が危機に瀕している。みんなの後を追って私が走る理由なんて、それだけあればもう
十分だった。背中に背負い込んだギターが揺れる。
 息切れは以前と比べて大分らくになった。少しずつだけど禁煙の効果が出てきてるみたい。
 旅の扉でアリーナちゃんや私たちの無事を祈ってくれた見張りの兵士さんはいなかった。彼も消されてしまったんだ。
……いったい誰がそんなことを? そこらじゅうをちらほらと舞っている「闇の帝王」の話は、噂じゃなくて真実だった
とでも言うの?
 「お父様……お父様!」
 アリーナちゃんが真っ先に旅の扉へ飛び込んだ。クリフトくんがそれに続き、ブライ様も老体に鞭打つように、
ゆっくりではあったけど彼なりの速さで時計回りの渦に入った。私もそれに続こうと、旅の扉へ続く短い階段をとばし、
中へ飛び込む。

587 :エンドール国領側、旅の扉 ◆fzAHzgUpjU :2009/01/11(日) 02:02:44 ID:KE3rVZ1b0
 回転の向きが変わった。途中までは確かに時計回りだったはずなのに、いつのまにか渦は反時計回りを繰り返している。
まさか、こんな大変なときに元の世界に戻そうって言うの?
 ……冗談じゃない。
 アリーナちゃんの優勝商品としてもらったギターを、まだ彼女たちに聞かせてない。
お世話になったサントハイムの人たちの安否を確認してもいない。
 やめて! 誰がこの渦を回してるのか知らないけど、邪魔しないで! サントハイムへ行かせて!
 回転が止まった。恐る恐る目を開けてみると、そこはエンドール側の旅の扉だった。もう一度渦に入りなおしてみても、
時計回りの渦は内部に私を抱いたままで、反時計回りに切り替わってしまう。
 本当に移動すらしてないの?と思って、確認のために外へ出た。
 「なに、これ……」
 ギターをもらったときと同じ台詞なのに、その意味合いはまったく違う。
 武術大会が開かれたついさっきまで、エンドール国領は春の盛りだった。淡い色の花がたくさん咲いていて、
ちょうちょが飛んでいた。だけど、ここは……。
 ぎらつく陽光がサングラス越しにも眩しかった。木々の青々とした若葉は、夏空に向かって精一杯伸びている。
遠くからも近くからもセミの鳴き声が耳を劈くように充満していた。じっとりと水気を含んだ暑い空気が、
ぬるくてのろまな風に吹かれて革ジャンの中へもぐりこむ。
 どこをどう見ても夏だった。肌は暑いのを感じ取っているのに、不快感がまったくないのが怖かった。
汗ひとつかいていない。そういえば、あのときはまったく気にしていなかったけれど、ライアンさんとイムルで
出会ったのは、確か秋口だったはずなのに、アリーナちゃんたちとフレノールで出会ったときは、さっきみたいな
うららかな春だった。
 時を越えて、魔力めいた渦に移動させられている―――。
 真夏の気温だというのに暑苦しいとも感じず革ジャンを着ているのもばかばかしかった。
彼女たちを追えないなら、この世界で行く当てなんかどこにあるって言うんだろう。背中のギターの重みだって、
ただ単に虚しいだけなのに。
 久々に覚えた苛立ちに唇を噛み締めながら、私は革ジャンを脱いだ。
攻撃的な太陽光線は、サングラスの黒いレンズ越しに私の目を突き刺している。それが痛くて、涙が出た。


 第二章 完
 


Lv.12 メイ
HP:51/51 MP:53/53
E ホーリーランス
E 鉄の盾
E 革の服(革ジャン)
E −
E サングラス・黄金の腕輪

戦闘呪文:ホイミ・スカラ・メラ・ヒャド
戦闘特技:なぎ払い・連続魔法(黄金の腕輪の効果)
所持金:171G

※ソリッドボディとかデタッチャブル〜は本編とは関係ないので気にしないで下さい。
 興奮のあまり小難しい単語を喋ってるだけですw

588 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2009/01/11(日) 21:55:02 ID:meuPJ9D50
>>574-579
>>580-587
乙です。

480Kbを超えたので次スレ立ててきます。

589 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2009/01/11(日) 21:56:42 ID:meuPJ9D50
立てました。

もし目が覚めたらそこがDQ世界の宿屋だったら14泊目
ttp://schiphol.2ch.net/test/read.cgi/ff/1231678560/l50

590 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2009/01/12(月) 08:50:22 ID:xXO0Jb0w0
>589
乙です!

591 :喪失 ◆GlJDOSjJ1Y :2009/01/12(月) 18:52:09 ID:TRZaC1kXO
>>539の続き

「おいおいおい!なんなんだあの化け物は!!」

カンダタは目の前の光景に驚愕していた。
遭遇した暴れ猿やキャットフライなどのモンスターの群。その群れが一瞬にして花火の様に飛び散っていた。
バキッ!ガスッ!ボキッ!ドガッ!ガンッ!
見えるのは敵が吹き飛ぶ姿のみ。
十匹以上のモンスターが一瞬の内に葬らさられた所で、ようやく木刀を背にしまうサキの姿を見つけることが出来た。

「あの女、あんなに強かったのか!?」
「カンダタ、やっぱりお前でも驚いたか。」
「驚くっつーかよぉ!動きが早過ぎて目がついていかねえ!!」

より強いモンスターが生息していると言うロマリアから東の地を目指していた俺達。
10匹以上にもなるモンスターの群れを見つけるやいなや、サキは一目散に切り掛かりあっという間に蹴散らしたのだった。
その姿をカンダタは俺と同じようにただ唖然として見ているだけだった。

「モンスター以上にバケモンじゃねえか!!あの女!!俺様の子分共が簡単にやられるわけだぜ!」

カンダタの子分達はアジトに残してきた。
カンダタが仲間に加わり、子分達もついてくるつもりだったのをサキは「いらない」と一喝していた。

「おいおいこんなんじゃ俺なんか仲間にして意味あんのかよ!聞いてねーぞあの強さは!」
「あぁ…それ俺も思った。だけどな、アイツには弱点がある。」
「あぁ!?弱点だぁ!?あんなバケモンのどこに弱点があるってんだ…。」

サキはモンスターをひとしきり倒し終え、俺達の所へと戻ってくると満足したのかあくびを上げた。

「ふぁぁ……んん…。ソラ。眠くなった…。」
「もうかよ。ペース考えられないのか?」
「そんなこと知らん…。あと頼む…。」
それだけ言うとサキはその場に倒れ込んだ。
「ったく…。ほら、な?」
「なにが?」
「コイツは力を使い果たすと眠ってしまうんだ。所構わずな。おかげで俺は死にかけた。」
「な、なんだそりゃ…。」

アッサラームの町まではまだ距離がある。
仕方なく俺は眠りこむサキを背負い、俺とカンダタで出くわすモンスターと戦いながら町へと向かった。

592 :喪失 ◆GlJDOSjJ1Y :2009/01/12(月) 18:56:59 ID:TRZaC1kXO
アッサラームの街に着いた。
この街の南にはすぐ砂漠が広がっていて、砂漠の国イシスへと向かう者の立ち寄り場として名が知れている。
サキを背負いながら俺とカンダタもこの街へと立ち寄っていくにした。

「おい。着いたぜサキ。って言ってもなかなか起きないんだよな…。」
「とんだ眠り姫じゃねーかよ。モンスターが襲ってこようがぐっすり眠りやがって。コイツ殴っていいか?」
「よしておけよ。バレたら死ぬぞ多分。」
「けっ。いつか俺様の実力でぶっ倒してやるぜ。」
「ん…んん………。」
そんな眠りについているサキから微かな声が聞こえた。
「起きたのかサキ?」
「ん…。もう夜……。ソラ。」
「なんだ?」
「面倒だからこのまま宿屋まで頼む……zzz……。」
「お、おい寝るなよ!お前背負ってんの疲れるんだよおい!……ったく眠りやがった。なぁカンダタ交代してくれ。」
「けっ。そんなガキの面倒なんざゴメンだね。もっと胸のある魅力的な女だったらおぶってやってもいいがな。」
「ちぇっ。仲間が増えればコイツのおもりもしなくていいと思ったんだけどな…。」

仕方なく宿屋を探す。
しかし割と広い街。知らない間に俺達は路地裏へと迷い込んでいた。

「あ〜ら素敵なお兄さん!ねえぱふぱふしましょっ。いいでしょ?」
そう言いながら一人のあられもない格好をした女が話しかけてきた。それを見たカンダタが興奮している。
「おお!ソラ!分かるだろ?俺はこういうナイスバディな女がいいんだ!!はぁはぁ!喜んで行くぜねぇちゃんよ!」
「ちょ!ちょっとあなたじゃないわよ!あなたみたいな変態に声かける訳無いでしょ?」
「な、なにぃ!?」
上半身裸でパンツ1枚のカンダタは、変態ではないと否定するもののまるで説得力が無かった。
「お、俺?」
「そう!お兄さんぱふぱふしましょっ。いいでしょ?」

…………………ごくりっ。

「お、おいカンダタ。サキ頼む。後でなんかおごってやるから。」
「嬉しい!じゃああたしについて来て!」
「あっ!おいテメエ!!卑怯だぞテメエばっか!」

593 :喪失 ◆GlJDOSjJ1Y :2009/01/12(月) 19:08:23 ID:TRZaC1kXO
その女はサキには備わっていない、たわわなものを俺の腕にぐいぐいと押し付けて、路地裏のさらに裏へと連れて行こうとした。

「………ん……、ソラ…?…どこへ行くんだソラ?…その女は誰だ?」
眠りが浅かったのかサキは再び目を覚ました。
……ちっ、起きてしまったのか。肝心な所では起きないくせになんで今目覚めるんだまったく。
「あの野郎、女とぱふぱふするんだってよ。ヘッヘッヘ。」
「ばっ!カンダタ!何言って!」
薄ら笑っているカンダタ。わざとバラシやがったに違いない。くそっ、軽蔑されるのか俺。ほんのちょっとした過ちで…。
恐る恐るサキの方を見る。
相変わらず表情は読み取ることがが出来ない。

「………ぱふ、ぱふ…?ぱふぱふってなんだ?」

……助かった。サキはぱふぱふを知らない。
纏わり付いている女を振りほどいて何事もなかったのようにごまかして事を済ませよう。
「気にするな…。さあ宿に…」
「あぁ?ぱふぱふも知らねぇのかこのガキは?…あぁそうか、お前無いもんなぁ。」
「…無い?私の何が無いんだ?」
「カッ!カンダタお前!!気にするなサキ!なんでも無い!なんでもな…っ!」
「黙れソラ。」
突如俺の顔面に突き付けられる木刀。切っ先が俺の鼻先に数ミリの所で止まっていた。
「自分に無い」ということに苛立ちを感じているのか、今のサキは戦闘モードのサキになっていた。

(なんでこんなことに…!!)

なす術が無い俺。サキはカンダタから真意を聞くだろう。そして俺は軽蔑される。
いや、それだけじゃなく俺は仲間から外されるかもしれない。いやいや、数秒後には俺はこの世にいないかもしれない。
どっちにしろ俺は選択肢を間違えたのか。こんなのでバッドエンドか…。

バキッ!!!

鈍い音が鳴り響いた。木刀で骨を打ち折る音。サキがモンスターをぶっ倒すときによく聞こえる音。
しかし俺は無事だった。
サキはなぜかカンダタをぶっ叩いていたのだった。

「わ、わたしはぺったんこなんかじゃない!!!ぺったんこなんかじゃないんだから!!!」
既に倒れて泡を吹いているカンダタに対して、サキは別人に変わってしまったかのように叫んでいた。
「お…おいサキ…。」
俺の声に反応し、今度は俺を睨むサキ。
「私はぺったんこなんかじゃないぞ!!」
「わ、わかったから落ち着けよ、な?」
「……ソラ。ひょっとしてソラも私がぺったんこだと思ってるのか?」
俺はぶんぶんっと首を横に振った。縦に振ることは間違いなく選択肢を間違えるということ。
「…ふん、私はまだ16歳なんだ…。これからおっきく…な……zzz……。」
言い終えぬままにその場に倒れるサキ。
「おいまさか眠った…のか?…ったく、なんで急に眠れるんだお前は……。」

ともかく助かった俺はサキを背負い、カンダタを引きずって宿屋を探すことにした。

(やっぱ胸無いなコイツ…)

594 :魔子 ◆GlJDOSjJ1Y :2009/01/12(月) 19:14:44 ID:TRZaC1kXO
>>548の続き

旅に出たアリアハン生まれの超弩級の魔女っ娘。マコ。

今日も彼女はアリアハン城近くの平原でスライムを見つけるなり大はしゃぎ。
たった1匹に関わらずメラゾーマを3発も放ち、跡形も無く消し去るとまたしても跳びはね喜んでいた。
そこへおおがらすが彼女を発見。遥か上空の死角から鋭いくちばしで急襲をしかけてきたのだ。
普通の人間であれば頭が割れてしまうくらいの勢いがついている。
しかし彼女の頭にくちばしが触れる寸前。
ぶしゅ〜!!!
まるでマグマの中に飛び込むかの様におおがらすは蒸発。
なんと彼女は魔法の不思議な力によって体全体をガードしているのだ。

まさに完全無欠!無敵!すうぱあようじょ!ぱんつ!

「もう〜!ばりあ張ったら魔力無くなっちゃったじゃない!!カラスさんのばかぁ!」

今日も先へと進めずにアリアハンのお家へと帰るマコなのであった。

595 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2009/01/12(月) 22:04:42 ID:oJHu/lMoO


596 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2009/01/13(火) 01:48:14 ID:VOzRYPRG0
>>594
ダブルで乙乙
まだあと11KB逝けるぜ


597 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2009/01/15(木) 01:11:20 ID:eyiT6iyk0
ひとまず保守だ

598 :1/5:2009/01/15(木) 01:57:33 ID:CTI4cp3N0
1主「あのさ。」
3主「何?」
1主「なにかおかしくないか。」
3主「そんなことないだろ。」
1主「だったらいいんだ。」
3主「ああ。」
1主「……あのさ。」
3主「何?」
1主「やっぱりおかしくないかな。」
3主「どこが?」
1主「どこかが。」
3主「どこかがじゃ分からないだろ。」
1主「そうだけど、何か違和感があるんだ。」
3主「お前霊感強い方だっけ?」
1主「そんなことないと思うけど。」
3主「やだー、ここ何かいるーとか言っちゃう?」
1主「言わないよ。あ、でもさ。」
3主「何。」
1主「ゴーストってモンスターは普通に見えていたな。」
3主「ああ。じゃあ霊感あるんじゃないか?」
1主「そうなのかな。」
3主「きっとそうなんだろ。」
1主「じゃあ、ここに何かいるのか。」
3主「何で?」
1主「だから違和感があるんだって。」
3主「ああ、そう言う話だったな。」

599 :2/5:2009/01/15(木) 01:58:49 ID:CTI4cp3N0
2主「ご先祖様も何か変だと思うのか?」
3主「お前も何か感じるのか?」
2主「何かいつもと違う気がするぞ。」
8主「そんなことないですよ。」
2主「そんなことないか。」
1主「変な横槍を入れるなよ。」
8主「何がいつもと違うと思うんですか?」
2主「いつもと景色が違う気がするんだ。」
8主「それは2主さんの経験値が増えたからですよ。」
2主「そうなのか。」
8主「そうですよ。経験を積めば同じものを見ても違って見えるものです。」
2主「俺はレベルが上がったんだな。」
8主「きっとそうですね。」
2主「ロンダルキア攻略ももうすぐできるかな。」
8主「きっとできますよ。」

3主「お前も経験を積んだってことで済ませていい?」
1主「できればもう少し真剣に聞いてもらいたい。」
4主「おい、何か変だよな。」
1主「4主も異変に気づいたか。」
6主「そうか?」
4主「絶対何か変だって。」
6主「3の倍数の主人公と、3人でロンダルキアを目指す主人公と、
   3人の候補から嫁を選ぶ主人公と、3つの国を作った主人公と、
   海でサンマを捕る主人公と、山でサン菜を採る主人公と、
   錬金釜でサンザンな目にあう主人公だけがアホになるいつもの宿舎じゃないか。」
4主「全員アホかよ。」
6主「おかしなことなんてないさ。そんなこと言う4主がおかしいのさ。」
4主「いや、絶対おかしいって。」
6主「おかしかったら笑えばいいさ。ウヒヒ、グヘヘ、うひょひょひょー!」
4主「少なくともお前はいつもと同じようにおかしいな。」
3主「さすがにいつもより変だとは思うが今は放置しておこう。」
7主「放置プレー?」
1主「違います。」

5主「なにか根本的なことが間違っている気がするんだけど……」
6主「根本的と言うと、まさかこの中に主人公じゃない人物が紛れ混んでていると?」
5主「いや、そう言うことじゃないと思うんだ。」
7主「犯人はこの中にいる!」
1主「偽物が紛れているかもしれなら一人ずつ尋問をして確かめてみよう。」

600 :3/5:2009/01/15(木) 01:59:50 ID:CTI4cp3N0
3主「じゃあ、まずは1主への質問。お前が愛用する乗り物と言えば何?」
1主「いきなりひっかけかよ。俺は乗り物なんて使わない。」
3主「でも、なにか乗ってるんじゃないのかなあ。」
1主「……強いて言えば、玉の輿に乗っている。あ、逆玉って言うのか。」
3主「こいつは調子に乗ってる。まあ、本物っぽいな。」
1主「じゃあ次は2主への質問。ムーンが呪いによって変えられていた動物は?」
2主「犬だぞ。ラーの鏡を使って元の姿に戻ったんだ。」
1主「正解だ。」
6主「もう少し難しい問題じゃないと判断できないと思うぞ。」
8主「それじゃもう一問。2500Gの剣を25%引きで買ったときの値段はいくらでしょう?」
2主「むむむ。ちょっと待ってくれ。2500Gの10%が250Gだから……」
3主「考え込んでしまった。本物っぽいな。」
1主「じゃあ次はご先祖への問題。ラーミア復活のためのオーブの色全部言ってくれ。」
3主「レッド、パープル、ブルー、イエロー、グリーン、シルバー」
4主「正解みたいだな。」
3主「そんな俺は今むしょく。って、誰がニートやねん!」
1主「まあ、本物と見て間違いないだろ。問題は残っているが。」
5主「次4主。英雄リバスト伝説のある温泉町と言えば……」
4主「アネイル。」
5主「アネイルですが、女性だけの城と言えば……」
4主「ガーデンブルグ。」
5主「ガーデンブルグですが、歌と踊りの町と言えば……」
4主「モンバーバラ。」
5主「モンバーバラですが……」
3主「もういいだろ。たぶん本物だ。5主の方は。」
7主「ちなみに4主さん、好きな武器は?」
4主「ドラゴンキラー。」
7主「本物だよね。」

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