■掲示板に戻る■
全部
1-
101-
201-
301-
401-
501-
601-
最新50
[PR]
ぜろちゃんねるプラス
[PR]
もし目が覚めたらそこがDQ世界の宿屋だったら13泊目
552 :
IV第二章:フレノール
◆fzAHzgUpjU
:2009/01/05(月) 17:31:03 ID:WKi/GyiY0
>>519-524
の続き
毎日ジャージだもんね〜。イマドキの歌も歌えないしぃ。
あーあの男女でしょ? アイツ、マジダサいもん。GLAYもタッキーも知らねぇんだってー。
キャハハハ! 時代遅れ女キモッ!
あー、ホンモノだー。ねぇ、ウチらの代わりに今日、音楽室の掃除しといてー。
ウチらお前と一緒にいたくないからー。
キャハハハ……ギャハハ……アハハハ………
……最悪な夢を見させてくれるなぁ、神様も。
まあ、「こんな目」にあってる時点で、神様なんて信じてるほうが変なのかも……。
ああ、もう。心臓と胃のあたりがムカムカする。なんであんな大昔の夢を今更になって見るかなぁ。
小学生だったよね、夢の中では。……あのときのことは、もう気が済んだはずなんだけど。
覚醒し始めた意識でゆっくりと目を開ける。広がる世界が見慣れた私の部屋であることを願ったけれど、
現実はどうしても厳しくあって、優しくはなってくれないみたい。
もともと着ていたシャツとジーンズという格好でベッドに寝かされていた私は、なんだかもう慣れてしまった感じで
革ジャンとサングラスを探し始める。革ジャンは窓辺のタンスの中、サングラスは枕元で発見。
部屋の構造からして、ここも旅の宿屋らしい。でも、イムルの宿屋とは内装が違う。
あの渦に吸い込まれてから目が覚めるたびに宿屋にいるのはどうしてなんだろう。この世界は妙なところで親切かもしれない。
腰にぶら下げていたシザーケースの中身を確認する。……ものっすごく不思議なことなんだけどね、
こっちに来てからというもの、この小さなシザーケースには「なん〜でも」入っちゃうようになった。
「いくらでも」ってわけじゃないけど、どう考えたって・押し込めたって、入らないでしょ〜! っていうものが、
入ってしまうのですよ。そんなこんなで、シザーケースの中にはライアンさんからもらった薬草が五個、
お財布と中身のお金(と、この世界では何の意味もないポイントカード類)、メイク道具、サングラスのケースがあった。
……ライアンさんとホイミンくん、あのあとちゃんとお城に戻ったのかな。
ライアンさんにはバトランドを守るっていう大事な仕事があるし、ホイミンくんは「人間になる」っていう夢があったもの。
う〜ん……心配。
ご丁寧なことに、鉄の槍とうろこの盾は布切れにくるまれてベッドの下に置いてある。
ブーツを履いて、とりあえずこの宿屋のご主人にお礼と挨拶をしようと部屋の出入り口のドアノブを回した。
553 :
フレノール2
◆fzAHzgUpjU
:2009/01/05(月) 17:33:41 ID:WKi/GyiY0
「おっと、それ以上近づくなよ!少しでも動いて見ろ!お姫さんの命はねぇぜ!?」
人間は、自分で把握している常識からあまりにも外れたことが目の前で起こると、かえって冷静になるらしかった。
ドアの外、三メートル先で屈強なおじさんに両手を縛られて首筋にナイフを突きつけられている女性は、私と、
さっきからそこにいたらしい三人の人たちに声も無いまま「SAVE ME」を叫んでいる。
「女の子を人質にするなんて卑怯よ!彼女を離しなさい!」三人いたうちの、女の子が怒鳴った。
「動くなっつってんだろ!……でなきゃあ、お姫さんのツラに傷がつくぜ」
屈強なおじさん三人組は、じりじりとお姫様らしい人を抱えて廊下の窓から屋根づたいに逃げていく。
どうやらああいった行動には経験があるプロらしい。大変だぁああ! と思ってひとまず後を追ってみる。
私なんかよりもずっと早く、軽い身のこなしで、さっきまで隣にいた三人のうちの一人が窓からぴょんと飛び降りた。
……ちょっ! 待っ! Oh Girl!? ここ二階じゃないの!?
鮮やかな青のマントにお揃いのとんがり帽子、ぱっと目を引くひまわりのような黄色いワンピース型のスカートに
黒のタイツを合わせたその娘は、茂みにもぐりこんで姿を消した人攫いたちに小さく舌打ちして、
私が身を乗り出して彼女を見下ろしている窓を見上げた。
「今の、見たでしょ!?このことは私たちだけの秘密よ!いいわね!?」
「ひっ、姫様!お一人でどこに行かれます!?」
ぐい、と私を押しのけて若い男の人が窓から飛び降りんばかりに叫んだ。……ん? 姫様?
「あいつらの後を追うに決まってるでしょ!クリフト!あなたも一緒よ!もちろんブライもよ!」
「やれやれ……姫様の行動力には敵いませんな。年寄りにあまり無理をさせるものではありませんぞ」
……このおじいちゃんの髪の毛はなにか? 重力というものに魔力で逆らっていらっしゃるのですか?
とでも言いたくなるのを振り払うと、ブライと呼ばれていたらしい怒髪なおじいちゃんから、濃い魔力の匂いが立ち込めてきた。
冷静だった胸が突然激しすぎる鼓動を刻みだす。
ああ、同じだ。ライアンさんと初めて会ったときと同じ、あの不思議な感覚。
言葉で説明できないものに全身を突き刺されるあの感触が、今度は三人分まとめて一度にやってきた。
あまりのショックに膝から崩れ落ちそうになるのを必死にこらえて、私はあわてて武器を取りに部屋へ戻った。
武器を持ってご主人へのお礼もそこそこに宿屋を飛び出すと、外で遊んでいた子が、
「僕の犬が手紙をくわえてきたんだ。とんがり帽子のおねえちゃんか、色めがねのお姉ちゃんに渡してねって書いてあるよ」
と、無邪気に笑いながら人攫いからの手紙を見せてくれた。南の洞窟にある「黄金の腕輪」とお姫様を交換だ、と書いてある。
「黄金の腕輪……強大な力を秘める魔の神器じゃな」
背後から聞こえた声に飛びのくと、さっきの怒髪おじいちゃんが後ろから手紙を覗き込んでしっかり読んでいた。
「見たところお前さん、なかなか腕が立つようじゃの。手紙にはお前さんのことも書いてあったが……どうするかね?」
手伝いなさいオーラをバリバリ出してるおじいちゃんに根負けし、一緒に目撃してしまったのも何かの縁だということで、
私も「黄金の腕輪」の捜索に参加することになった。
554 :
魔法発動対象決定論
◆fzAHzgUpjU
:2009/01/05(月) 17:36:40 ID:WKi/GyiY0
「お前さん、どうやら不器用なタイプらしいの。ただ、濃い魔力の匂いは強く感じ取れる。
使用適正としてはメラ系とイオ系じゃな。グループ攻撃魔法のギラ系やバギ系には残念ながら恵まれとらんのー」
痛いところを思い切り突かれて、私はぐっと唸ってしまう。手先の器用さには多少の自信があります。
でも、性格とか内面とか気質とか、そういう精神が司ってる部分の器用さは欠如してるっていうかもう、皆無です。
「対象をひとつ、またはあなたが『味方である』と認識した相手全員に限定する、回復・味方補助の魔法も使えるようになると思います」
暗い洞窟にもぐり、小難しく魔法理論を説いているのは、さっきの三人いた人の二人であるクリフトくんと、
さっき手紙を覗き見て私の同行を決意させたおじいちゃん、ブライ様。
クリフトくんは「サントハイム」という国の神官で、ブライ様は王宮お付の魔法使いだ。魔法に長けているのは当然だよね。
そう言われてからブライ様を見ると、重力に逆らったスーパーヘアもなんだか魔力めいたものに見えてくる。
「ねー、あなたたち二人揃って、もっと楽しい話はできないの?メイさんだって退屈よね?ねっ?」
先頭を堂々と進んでいくのは、彼ら二人が仕えているサントハイム王家のお姫様、アリーナちゃん。
お姫様だなんて、最初は信じられなかった。さっきの人攫いに連れて行かれちゃった娘も「お姫様」って呼ばれてたし。
「魔法は、発動するだけじゃダメなんじゃ。『誰に』『どこに』に向けて発動した効果を影響させるのか。
魔法を使えるということがわかったら、次に重要なステップはそこ、『発動の対象』じゃ」
魔法の効果をぶつける相手は、特例を除いて大きく分けて五つのタイプに分かれる。
ひとつめ、敵と認識した相手単体。ふたつめ、敵と認識した相手一グループ。みっつめ、敵と認識した相手全員。
よっつめ、味方と認識した相手単体。いつつめ、味方と認識した相手全員。
「対象をひとつのグループと認識することは、とても簡単だと思う人と、とても難しいと思う人に分かれます。
メイさんはきっと、そういったことが少し苦手なんでしょうね」
優しい苦笑を浮かべるクリフトくんが、ブライ様が私にさっきからチクチクと突き刺している「不器用」という
言葉をやわらげてくれている。むう……優しさが痛いとはこのことか。
「『あのひと一人!』っていうのとと『あのひとたち全部!』っていうのは簡単でしょう?一か全かですから。
けれども、『あのひとたちの中のあそこだけ!』ってグループ視するのは面倒くさいですよ。
なんかこう、魔法を打ち込んだら効果がはみだしちゃいそうで」
「ぷ……。魔法の発動効果を『はみ出す』なんて言い方で表現する奴は初めて見たわい」
長くて白いひげに隠れた口元で、ブライ様が笑った。
「……あっ、ねぇ!メイさんの話を聞かせて!わたし、外の世界ってまだちゃんと見回れてないのー!」
暴れ牛鳥の角を掴んで投げ飛ばしたアリーナちゃんが、まばゆい笑顔を浮かべて振り返った。
人数が多いと頼もしくてつい忘れてしまう。今が魔物との戦闘中だってことを。
気を取り直すと、たぶん食べたっておいしくはないであろうオバケきのこに、ブライ様から習いたてのヒャドをぶつけた。
555 :
フレノール南の洞窟2
◆fzAHzgUpjU
:2009/01/05(月) 17:42:12 ID:WKi/GyiY0
「私の話……?」
「うん!メイさんって女の人なのに結構強いし、体も大きいでしょ?メイさんって、旅に出る前はどんなことしてたの?
それとも、生来の旅人なの?いいなぁ〜、やっぱり上背がある方が、攻撃リーチも長くなるし踵落としもカッコよく決まるわよね!」
とんがり帽子を含めても私の鼻先ぐらいまでしか届いていないアリーナちゃんが、先頭から私の隣に寄ってくる。
羨ましがられてる、のかな、これは。身長一七八センチの私としては、アリーナちゃんぐらいの背丈で可愛い感じの
女の子のほうが羨ましいんだけれども。
無邪気な質問攻めに、とりあえず体裁だけはつくろっておこうとした言葉が胸のあたりでつっかえてしまった。
この世界に放り込まれた拍子になくなったテレキャスターに対する喪失感もあった。でも、多分いま胸と喉のあたりで
ぐいぐいつまっているのは、そういう物理的な感覚じゃない。
今朝見た夢がいやに鮮明に後ろ頭をさらさらとよぎっている。眩暈がしそうになるのを笑顔で粉飾した。
「ギタリストだったよ。作曲して、問題の打開策をテーマに歌詞を書いてた」
「ふーん、珍しいのね。音楽をやる人ってみんなマローニみたいに、竪琴持って恋愛の歌を歌ってるのかと思ってた」
そりゃアナタ。ルドルフ・シェンカーのギター聴いて育った人間が「めちゃくーちゃー好ーきやっちゅうねん☆」
なんて歌作ってたら気持ち悪がられるでしょ……。
「ほほう、女だてらにギター弾きとは珍しいのぅ。で?腕前はどうなんじゃ?」
「血ヘド吐くほど練習した結果程度です」
「えっ?元から才能があったわけではなくて、ですか?」
ブライ様への回答に、クリフトくんが驚いた声を上げる。あんまり大声出すと魔物に気づかれちゃうよって言うと、
アリーナちゃんは「そのほうがいいじゃない!」って嬉しそうにぴょんぴょん身軽に飛び跳ねる。
「誰だって元から弾けるわけじゃないよ。ボーカルと違って、自分の意志どおりに動かそうとするものに
直接自分の意志が宿ってるわけじゃないから、言うこと聞かせるのに多少なりとも時間はいるの。
……逆に、ある程度才能がなきゃ伸びの止まるボーカルと違って、ギターは練習すれば可能性は見えてくるから」
弾けないストレスで胃をやられて血を吐いたことがある。私はもともと、ボーカリストだった。
ボーカリストとしての才能がなかったわけじゃない。それを自分でも自覚してた。……でも、ある日突然現れた
「彼」の声は、私の声よりもバンドリーダーの好みや意志に合ったものだったらしい。
強引なスカウトによってうちのバンドに入る前はヘタクソなギターを手に一人で歌っていた明るくて優しいボーカリスト。
……そんな彼に、「独り舞台」という意味のあだ名がつくのには、時間なんていらなかった。
「それだけ頑張ってらしたなら、メイさんのファンもたくさんいらっしゃったでしょうね」
「あはは、もちろん。休みの日は友達つれてライブ三昧だったよ」クリフトくんの笑顔につられて笑ったときだった。
556 :
フレノール南の洞窟3
◆fzAHzgUpjU
:2009/01/05(月) 17:43:24 ID:WKi/GyiY0
「うそ」
唐突に口を開いたアリーナちゃんの言葉に、私はびくんと背筋をこわばらせた。そんなことする必要はないはずだった。
完璧に作り上げた表情と台詞の言い回しに、クリフトくんもブライ様も聞き入っていた。
「うそついても、わたしにはわかるのよ。メイさんがギタリストだってことも、すごく上手いのも、うそじゃない。
でも、最後の言葉だけはうそよ。そういううそをついたあと、メイさん必ずひとりで落ち込むでしょ?ねぇ?」
嘘をついたことを咎めるわけでも、嘘を見抜いたことを自慢したいわけでもなさそうなアリーナちゃんの口調が怖い。
目の前にいる相手の髪にゴミがついているのを教えるぐらい「当然」のことを口にしているとしか思えなかった。
休日はライブ三昧、ファンも多い。それは真実。でも、「友達つれて」ってのは真っ赤な嘘。友達なんて、
大学で知り合った数少ない人たちしかカテゴライズできない。バンドのメンバーは、友達というよりも「仲間」だと思う。
でも、私が生きてきた社会は「友達がいて当たり前」「人間関係を円滑に進められない奴はコミュニケーション能力に
欠けている」「自分の主義主張や趣味が他者と合わないのは空気を読めないからだ」って言われてるところだった。
―――「違う」ということは、それだけで「悪」で「罪」だから。
「……なんで『わかる』の?」
「『見える』からよ」
いまひとつ、アリーナちゃんが言う理由を理解できないでいると、なんだか残念そうな顔で彼女は先頭に戻ってしまった。
二番目に続く私には、暴れ牛鳥を投げ飛ばすようには見えない小さな背中と肩しか見えない。
「サントハイム王家の血を引く方は、予知能力があるのです。姫様はおそらく、
『嘘をついた後に落ち込むあなた』を、先に見たのでしょう」
理解のための補足を入れるクリフトくんはやけに慣れた様子だった。
「……嘘ついてごめんね。あんまり昔の話はできないけど、今度機会があったらアリーナちゃんたちの前でギターを演奏するよ」
「……ほんと?」
赤茶色の目がくるくる輝きながらこっちを向いた。しっかり頷いてみせると、アリーナちゃんは笑って前を向いた。
「……メイさん、この世界でギターは」
「クリフト。今は何も言うな。ほとぼりが冷めたときに、いずれわかるじゃろうて」
後ろでクリフトくんとブライ様が何か言った気がしたけど、まあいっか。少し安心したところで、洞窟の地下へ
続く階段が見えてくる。
「気味が悪いわね……。なんだか怖いものがいるみたいな気配がするわ」
言いながら、アリーナちゃんが鎖鎌を構える。クリフトくんもブライ様も同じように武器を構えている。
どうにもこうにも、三人が感じ取っているらしい「怖いものがいるみたいな気配」がわからないけど、
私もとりあえず鉄の槍を構えた。
557 :
フレノール南の洞窟4
◆fzAHzgUpjU
:2009/01/05(月) 17:43:59 ID:WKi/GyiY0
洞窟の一番下の一番奥に、古びた宝箱が置いてあった。錆びた金属細工の装飾が、いかに昔のものかを物語る。
さび付いて動きの鈍い宝箱の蓋をアリーナちゃんがこじ開けると、中身だけ時の経過を忘れていたように輝いていた。
黄金の腕輪。その名が示すとおり、何もかもが純金で作られているバングルだ。
「おお……なんと禍々しい力を発するのか……」
「……神よ。このような恐るべきものを生み出した人とは、愚かなのですか?」
魔力を感じ取って宝箱の中を覗き込むブライ様、その隣には強すぎる力の生誕の正誤を問い十字を切るクリフトくんがいる。
腕輪の輝きは洞窟内の乏しい明かりも貪欲に取り込んでいた。つるんとしたブライ様の額に腕輪の光が反射して
ピカピカしてるのを見て噴出しそうになったけど、そんな空気じゃないことはわかっているから耐える。
「で……誰が持つ?」
こめかみから汗を流すアリーナちゃんの冷静な言葉が、パーティ全員の視線を集める。古びた宝箱の中で
時間の概念を忘れた金色が、爛々とその目を輝かせていた。拳を握り締め、クリフトくんが何も言わずに宝箱の中へ手を伸ばす。
「待て、クリフト。お主は神に仕える者じゃろ。そんな奴がこんなもの持っちゃいかん」
「ですが……姫様やブライ様にこのような危険なものを……!私は、……嫌です」
このメンバー内でのクリフトくんの発言権なんて、ほぼ皆無に等しい。ブライ様は最年長者でサントハイムのお城では
クリフトくんよりもずっと地位があるだろうし、アリーナちゃんにいたってはお姫様だもん。私だって、見知らぬ旅人って
ことになってはいるけど、明らかに彼よりも年上だ。そんなクリフトくんが自分の意志を強く主張するほど、
この腕輪は危なっかしいものらしい。私にはどう見ても趣味の悪いアンティークアクセサリーにしか見えないけれど。
「ですが、お二人とも!」
「ああもう!命令よ!わたしが持ちます!」
「姫様!めったなことを言うものではありませんぞ!」
ぎゃーぎゃー、わーわー、……これってさぁ、「フリ」なの? そうじゃなかったら、私っていま完璧に外野扱い
されちゃってる?
フレノールの街まで持っていくのすら嫌になるような腕輪ってわけでもなさそうなのに。お姫様が偽物だったんだから、
この腕輪だって偽物ってこともありえるんじゃないのかなぁ。なんて、考えていたら出てくるのはため息だけで、
だったらさっさと持って帰ってあの偽者のお姫様を助けてあげないと……。
鉄の槍を小脇に抱えて、うろこの盾をはずす。革ジャンの固い袖を無理やり捲り上げて、むき出しになった肌に
ぐいぐいと腕輪を食い込ませた。手首にするにはちょっと大きくて、限界まで押し込んで行ったら手首と肘の間で止まった。
「なぁんだ。何でもないですよ。さあ、探し物は見つかりましたし、帰りましょう」
ぴったりと私の腕にはまってしまった黄金の腕輪を見て、三人分の悲鳴と驚嘆と叫びが混ざり合って洞窟の天井に
共鳴する。向こうから響いてくるドドドド……って音は、暴れ牛鳥や大ニワトリの足音で、タバコがくすぶるような音は
メラゴーストがこっちにやってきてるってことだろう。
……だから「大声出すと魔物が来るよ」って言ったのに。
558 :
フレノール:夜
◆fzAHzgUpjU
:2009/01/05(月) 17:44:43 ID:WKi/GyiY0
「その腕輪、本当にあいつらに渡していいのかしら……」
不安げな声でアリーナちゃんが呟いたのは、夕方に差し掛かる前にフレノールへ戻ってきたときだった。
人攫いたちからの手紙には「黄金の腕輪を持って『夜』、墓場へ来い」と書いてあった。夜までにはまだ時間がある。
確かにね、お三方の言うように、この腕輪が本当に強大すぎる力を持っているものだったら、悪い人に渡したところで
悪いことにしか使われないだろうって考えるのは当然のことだよね。……だけど、なんでよりによって
「黄金の腕輪の偽物を作りましょうよ!それをあいつらに渡して、これはもう一回あの洞窟へ戻しましょう!」
「さすが姫様!このクリフト感激いたしましたぞ!」「バレたとしても、あの娘さんを助け出す時間稼ぎになればいいじゃろ」
ってなるんですか。そんでもって、なぜその腕輪の偽物を私が作るはめになるんですか。
クリフトくんがもっていた聖なるナイフの柄に取り付けてあった金細工をひとつずつはがしていく。ありがたいことに、
私のメイク道具の中にあった金属製の毛抜きや眉きりバサミが、金細工をギリギリはがすのにはぴったりだった。
武器屋のおじさんに取り外した金細工を溶かしてもらってから、道具屋で買ってきた玩具の腕輪にぴったりはまるよう、
形を整えてもらう。玩具の腕輪と外側にする金をくっつけてから、聖なるナイフの柄にはまっていた青い宝石を入れて、完成。
「……ねえ、アリーナちゃん。ちょっと見た目がチープすぎる気がするんだけど」
「大丈夫よ!渡すのはどうせ夜だもの。暗いから奴らの目を欺くには丁度いいわ。それに、人質さえいなくなってくれれば
それでいいの。バレたとしても、あんな連中わたしがぶっとばしてやるんだから!」
静かな墓場の森の影から、腕輪を渡せと人攫いが言う。アリーナちゃんが神妙な面持ちで投げたフェイクの腕輪は、
月の光の中で鈍く光りながら人攫いたちの足元に落ちる。赤いドレスの偽お姫様が突き飛ばされて解放された。
アリーナちゃんが転びそうになる偽お姫様を受け止めると、人攫いはフェイクの腕輪を拾い上げてすたこらさっさとどこかへ
行ってしまった。……神様。今までうそをついたことは何度もありますが、人に対して詐欺をはたらいたことはありません。
今回一度限りでいいので、今だけ見逃してください……。
「ああ、ありがとう。あたしメイ。ごめんなさい、もう気づいていると思うけど、お姫様でもなんでもないただの旅芸人よ。
……そうだ、助けてくれたお礼に、このカギをあなたたちにあげるわ」
アリーナちゃんの手にそっと、変わった形のカギを握らせて、私と同じ名前の旅芸人はドレスの裾を夜風に翻し、
付き人役の男性二人と闇の中へ消えていった。
「……ああまで簡単に騙される悪人なんざ、かわいいもんじゃのぅ」
つぶやいたブライ様が大あくびをしながら宿へ向かって戻っていく。みんなで続いていくさなか、私は左腕にしっくりと
納まっている黄金の腕輪を革ジャンの上から撫でた。魔力の匂いも力の気配も、微塵も感じないのは変わらない。
Lv.9 メイ
HP:34/44 MP:23/51
E 鉄の槍
E うろこの盾
E 革の服(革ジャン)
E −
E サングラス・黄金の腕輪
戦闘呪文:ホイミ・メラ・ヒャド
所持金:647G
500KB
続きを読む
掲示板に戻る
全部
前100
次100
最新50
名前:
E-mail
(省略可)
:
READ.CGI - 0ch+ BBS 0.7.4 20131106
ぜろちゃんねるプラス