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もし目が覚めたらそこがDQ世界の宿屋だったら13泊目

519 :魔法使用方法論1 ◆fzAHzgUpjU :2008/12/29(月) 15:08:59 ID:ulrUGKEH0
>>512-515の続き

 「だいじょうぶ?落ち着いた?」
「宿の主人がミルクを温めてくれたが、……飲めるだろうか?」
 イムルの宿屋でライアンさんと対峙して、ホイミンくんという名前のホイミスライムが挨拶をしてくれた瞬間、
緊張の糸が切れて混乱のドツボにはまりこんでしまった。「ここはどこ?どうしてここにいるの?」という、
忘れよう忘れようとしていた不安要素が、ライアンさんを前にして崩れ落ちてきたみたいだった。
多分、ライアンさんが強く優しい人で、なおかつ正しい道を歩んでいるから安心しちゃったんだと思う。
うぅ……まさかハタチをすぎてから人前でわーわー泣くことになるなんて。恥ずかしいよ恥ずかしいよオゥイェーア。
 ひとしきり、イムルの旅の宿のカウンターの前で泣いてから、私はありのままこの身に起きたことを彼らに話した。
すると、あまり喋るのが得意ではないライアンさんに代わり、ライアンさんが私を湖から助け出したときのことを教えてくれた。
 最近、イムルを含めこのあたりを統治しているバトランドは奇妙な事件でもちきりなんだそうで、それもタチの悪いことに、
「子どもが神隠しにあうように、ふっと目の前から消えていなくなってしまう」というものだった。
ライアンさんとホイミンくんは手にした情報を元に、イムルの村の西にある塔が怪しいと目論んでいたけれど、
塔は湖に囲まれて人の足では近寄れない。イカダを運ぼうにも、距離があり魔物も出るから難しいということだった。
 魔物だとか、ホイミスライムだとか、神隠しだとか、そういった件についてはもう割合してしまう。
目の前で見せ付けられている「青いのに黄色いぱやぱや」の生物とか、その生物が唱えた不思議な魔法とかは、
もう喋るよりも頭で整理するよりもさっさと見たほうが早いもん。
 それで、ライアンさんたちは「とりあえず、塔の近辺に行って様子を探ってこよう」と湖畔を散策することに決めた。
私を見つけた経緯だった。
 「私が湖で仰向けに浮かんでいたメイ殿を岸に上げた瞬間、メイ殿の衣服や荷物を濡らしていた水が蒸発した。
何事もなかったかのように、メイ殿はさらさらと渇いた髪を風になびかせて眠っていたのです」
「あれ、魔法の匂いだったよね。ぼく、わかるもの」
 ぬるくなりつつあったホットミルクのカップを握り締める。カップの熱とは裏腹に指先が冷たくなった。
魔法の匂いがする得体の知れない存在になってしまった自分を、せめて私だけは認めなきゃ。


520 :魔法使用方法論2 ◆fzAHzgUpjU :2008/12/29(月) 15:09:37 ID:ulrUGKEH0
 「魔法ってね、魔力を発するだけじゃダメなんだ。魔力を受け取る力と、発する力。
両方を持って理解して、初めて使えるんだよ」
 ホイミ、と口にしてライアンさんのケガを治して見せたホイミンは、
湖から引っ張り上げられた私が放つ魔法の匂いの説明をしてくれた。魔法、ねぇ……。なんかもう、信じられない。
つい昨日までは、マーシャルのアンプを力ずくで運んで、ギターのチューニングしてギュインギュイン弾いてた人間が、ね?
今は青くて黄色のぱやぱやに、人間が夢見続けてきた幻想の力について講義を受けているのですよ。
 「私のような武術を得意とする者は、たいてい魔力を発する力に長けていないからその道を選んでいる。
メイ殿は、ホイミンが言う限りでは、魔法の才が多少なりともおありなようだ。異界から来たにも関わらず。
目が覚めてここにいたのには、何か特別な理由があるように思いますぞ」
 んー……、ああ、なるほど。
インターネット回線でメールやネットするときは、受信と送信の両方が出来て初めて役に立つもんね。
送信ばっかりしてたら相手のメールの内容なんてわかんないし、受信ばっかりしてたら自分の言いたいことが言えないからか。
 魔法も、要は同じってことかなぁ。
 「魔力を受け取ることが出来ないと魔法の本質そのものを得ることができないから、受け取る力もなきゃいけないと?」
「そうそう!例えば今ぼく、魔法を唱えたよね?魔力を受け取る力がある人は、誰かが魔法を使っていたり、
何かから出てる魔力を感じて『魔法や魔力ってこういうものなんだ』って、感じられるの。
それで、魔法や魔力を理解できたら、今度はそれを自分から出すんだ。それが『魔力を発する』ってことなんだよ」
 ……えーと。うん。あれか、大切なのは習うより慣れろってことですね。
 「メイさん、魔法は使えないの?使ったこと、ない?なんだか素質ありそう〜」
 眉間を寄せてやっぱりむーむー唸っていた私の顔をホイミンくんが下から覗き込む。
 「いや……私のいた世界は、魔法なんてなかったから。素質なんてないよ。何の変哲もないただのギタリストだもん」
「おお、それなら魔法の素質があるというホイミンの言葉にも、納得がいきますな」
 今までやけに静かにしていたライアンさんがずい、と身を乗り出した。
 「音楽と踊り、詩文と言葉は魔法を介するものたち。内に秘めた力を外に出すための、最大の方法だと言いますぞ。
メイ殿はおそらく、音楽を奏でることによって、この世界の魔法に似た力を使うことが出来たのでしょうな」
「それはありませんよ」
 自分で思っていたよりもずっと、即答で否定が出てきてしまって驚いた。
 ステージの上で、音や言葉に乗せて色んな人を力で引き寄せていたのは、私ではなくて―――「彼」だ。
 「そんなことないよ!だったら、ぼくが教えてあげるから、魔法つかってみて!ね!?」
 必死なホイミンくんに苦笑しながら付き合ったら、あっという間に「ホイミ」を習得してしまった。
自分のギターの音色を、良い方向に自認しているような気がした。


521 :湖の塔1 ◆fzAHzgUpjU :2008/12/29(月) 15:10:21 ID:ulrUGKEH0
 昨夜、ホイミンくんから教わったのは「ホイミ」と「メラ」の二つの魔法だった。
 口と声で魔法の名前である「呪文」を唱え、それに魔力を乗せて相手に飛ばす。それが「魔法」というものだった。
私にはなかなかの魔法の才能があるらしい。もといた世界に戻るのにも魔法が必要ならばと、
魔力めいた神隠しの真相を探り帰路へのヒントを掴むため、ライアンさんたちに同行させてもらうことになった。
 ちっちゃいころは女の子の大半が、ピンクや赤のふりふりがついたお洋服を着て、星やハートや三日月のついた
魔法のステッキを持って、かわいい魔女になることを夢見ていた。
 私だって、三歳や四歳のころからハードロックやヘヴィメタル一色だったわけじゃない。
今でも魔法が使えるなら、そういう「かわいい」杖を持ってシャララーンと悪いやつをやっつけたい。
 ……なんて、いい大人が持つもんじゃない考えを持っていたのは、つい三時間ほど前のことで―――。
 「しゃあッ!」
 力むときの妙なクセとなってしまった掛け声と共に私が振り下ろしたのは、ライアンさんとお揃いの「鉄の槍」。
有り金をはたいて武器を買おうと店のラインナップを見て、あんなに重たそうなもの絶対に扱えない!
って思ってました。最初のほうは。だけども悲しいことに、アンプやスピーカを移動させたりとか、
片手にマイクスタンドを三本とか四本とかまとめて持ったりするとか、
そういった肉体労働のおかげで、私はこの世界の重い武器をありがたくもないことに扱えるみたいだった。
これならテレキャスターでギャンギャン騒音聞かせたところをヘッドやネックで殴りかかったほうが私らしい気がするけど、
見つからないものはもう仕方ない。ものすごく悲しいけど。給料半年間貯金しつづけて買ったやつだけども。
 ライアンさんのお下がりの「うろこの盾」をもらいうけ「鉄の槍」を手に、私たちは湖の塔の地下を目指している。
 ライアンさんがホイミンくんと出会った古井戸で見つけた靴は魔力がこもったものだった。
ホイミンくんを左腕にしがみつかせ、右腕で私を抱きかかえて靴を履いたライアンさんは、二人と一匹分の体重なんて
ものともしないで重力に逆らい大空を舞った。飛び上がった瞬間、稲葉浩志にも負けないぐらいのシャウトをしちゃったのは、
まあここだけの話ということで。
 塔なのに地下へ向かうのはなぜか。それは、空飛ぶ靴で着陸したのが塔の屋上だったことと、
屋上から大目玉が子どもを無理やりつれて階下に向かうのを見たから。
 長い階段を下りて地下に向かうためには、まず入り組んだ塔の内部を探索して階段がどこにあるのかを探さなくちゃならない。
それに付け加えて、塔には地上とは比べ物にならないほど強い魔物がたくさん出る。
さっきからぜんぜん息が整わない私に、ライアンさんは木製の水筒を差し出しながら言った。
 「メイ殿は、力があるのに体力がありませんな。気をつけてください。体力の無さは打たれ弱さの証です。
けっして無理をしませんよう」


522 :湖の塔2 ◆fzAHzgUpjU :2008/12/29(月) 15:11:23 ID:ulrUGKEH0
 呼吸のたびに肺からびゅうびゅう嫌な音がするのは十四歳のころから。ライアンさんたちと同行するのを決めたとき、
覚えたてのメラで残っていたタバコすべてに火をつけて、一口ずつだけ吸ってあとは全部燃やした。
ずいぶんと突拍子のない理由で禁煙することになったけど、これから毎日こんな長距離移動が待ち受けているなら、
タールやニコチンなんて吸ってられない。バンドマンはボーカリストじゃないかぎり、大抵の人が喫煙者。
私も例外じゃないわけで、鼻でらくらく呼吸をしているライアンさんとは違い、さっきからゼーゼー言いっぱなし。
 「重い装備が出来る人って、普通は打たれ強いはずなんだけどなぁ」
「常識が通じない人間も中にはいるよ」
 気づかれないようにしていたのだろう、ソロ〜リと後ろから近寄ってきたダックスビルを槍でなぎ払う。
トドメに遠距離からメラを打って完了。着々と強くなるのが実感できて、元いた世界でよく味わってた歯がゆさも
忘れちゃいそう。
 ……ギターなんて、元から弾けたわけじゃないもの。ボーカル下ろされてギタリストにされて、弾けなくて弾けなくて。
 「……メイ殿?どうなされた?なんだか遠いところを見ていたようだが」
「っあ、いや、なんでもないです、ごめんなさい」
 危ない危ない。魔物が出るところで昔のいろいろを思い出してる時間はないんだった。
 「だいじょうぶ?痛いの?ホイミする?」
 心配そうにこっちを見つめるホイミンくんが黄色のぱやぱやにホイミの魔力を宿し始める。違う違う!
痛くないから! 大丈夫だから!
 微笑みながらも気を抜かないという、そんな矛盾に張り詰めた意識を蹴破ったのは、
ライアンさんの立てる足音が突然早く、強くなったことだった。
 「ゼノン!」
 ライアンさんが叫んだのは、人の名前らしかった。ホイミンと一緒に、走っていくライアンさんを追いかける。
壊れたバトランド王家の紋章がついた鎧の兵士が、床にはいつくばっていた。鉄の鎧を鋭い爪が抉ったあとがあり、
そこに至近距離からメラを打ち込まれたのだろう。肌が焼け焦げ、赤とピンクの内臓がはみ出している。
ホイミンくんがぎゅっと目をつぶった。私も震える手を隠すためにホイミンくんを抱きしめた。
 倒れていたのはライアンさんの仲間のバトランド王宮戦士だった。戦士は語った。
この塔の地下を拠点とした魔物たちは、世界を魔の手から救う勇者の復活を恐れているらしい。
いずれ成長し強くなる勇者を子どものうちに始末しようと、魔族たちは躍起になっているのだそうだ。
子どもたちの遊び場になっていた古井戸に、さっき履いてきた空飛ぶ靴を置いておけば、あとは待つだけというわけ。卑劣極まりない。
 「……行こう。この下だ」
 友の死に唇を噛み締めるライアンさんの後ろで、ホイミンくんが遺体にホイミをかけていた。
せめて死した後は人間らしくきれいに、と。
 「……何がいいとか悪いとか、区別が付け辛い世界なんだね」と独り言を呟いて、ライアンさんに続いた。


523 :湖の塔3 ◆fzAHzgUpjU :2008/12/29(月) 15:12:19 ID:ulrUGKEH0
 破邪の剣と鉄の槍の切っ先が、揃って「ピサロの手先」と名乗ったバケモノの喉元へ突きつけられる。
噴出される炎を避けて、召喚された大目玉たちを突き刺し、殴ったり殴られたりしながら決着をつけた。
ライアンさんは戦士というだけあって、槍づかいもすごかったけれど、塔の途中で手に入れた破邪の剣の扱いはさらにすごかった。
無駄な動きひとつせずに、最低限の一閃で敵を斬る。槍のなぎ払いでよろめいた大目玉たちを一刀両断にするさまは、
まさに剣の神様だった。
 「このまま去るか?何もせず、今後も悪事をはたらかないと誓うなら、今ここで見逃そう」
 ライアンさんの重く厳しい声に、ピサロの手先は涙を流して頷いて、子どもたちを閉じ込めていた牢の扉を開けた。
 「さあ、おいで。もう大丈夫だ」
 殺し合いの目をやめたライアンさんが、優しく子どもたちに手を差し伸べた。
 背後から火の息の熱気が襲い掛かってくる。とっさに盾で身をかばった私とライアンさんの後ろで防御したホイミンをすり抜け、
ピサロの手先は安心感に顔をほころばせていた子どものうちの一人を掻っ攫い、まるでゴキブリみたいに階段を上っていった。
 「しまった!」「嘘っ!?」「たいへんだぁ!」
 三者三様の言葉を口に、ピサロの手先を追いかける。屋上まで追い詰めたはいい。だけど、ピサロの手先が持っている
杖の先端は細く小さな首に当てられていて、今にも頚椎をへし折ってしまいそうだ。
 「うわあぁあん!助けてぇ!」
「うるせぇぞクソガキ!……おい!武器を捨てろ!」
 どこの世界にもこういうタイプはいるものなんだ。と、やけに冷静な頭で思いつつ鉄の槍を手放した。
ライアンさんも同じように破邪の剣を捨てるけど、戸惑いとかうろたえた様子なんて一切無い。
 「メイ殿」小さく、私とホイミンにしか聞こえない声でライアンさんが言った。
「メラ!」
 さっきの戦闘では肉弾戦ばっかりで使わなかった魔法を、今初めて発動する。火球はピサロの手先の顔面にぶち当たり、
断末魔によろめいて床のないところへとフラフラ後ずさっていく。武器を拾い、みんなで奴と子どものほうへ走った。
 「あっ……あ……わぁあ!」揺らぐ視界に子供が叫ぶ。
 ぐらり、とピサロの手先が子供を羽交い絞めにしたまま床を踏み外す。子供を拘束する腕の力は緩まない。
吐き気がするのをこらえて、私は鉄の槍をピサロの手先の胸に突き刺した。ライアンさんが子供をしっかり捕まえる。
 うん、まあ、お約束というかなんというか。この下は湖だから、死にはしないだろうけれど。
 「一緒に落ちるとか、本末転倒もいいとこだー……」
 せめてもの衝撃緩和に、事切れたピサロの手先の死体を下敷きに落ちていく。湖水に飲み込まれたのを認識すると、
驚いたことに痛みもショックもまったくないことがわかった。


524 :湖の塔4 ◆fzAHzgUpjU :2008/12/29(月) 15:13:45 ID:ulrUGKEH0
 早く岸に上がって、ライアンさんたちを待たなきゃ。と、思った矢先。
私の頭からつま先まですべてを包み込んでいた湖水が、突然うねり始める。波は徐々に丸まり、反時計回りに渦を巻く。
 死の匂いを含んだ雨の降るあの日、私を飲み込んだ水たまりと同じ動きを湖は始めた。
もしかしたら、もとの世界に戻れるのかもしれない。テレキャスターと携帯電話と鎮痛剤は見つからなかったけど、
そんなものまた買えばいい。今度はテレキャスターじゃなくてストラトキャスターにしよう。
 鉄の槍の柄とうろこの盾の取っ手を握り締め、続かなくなる呼吸と意識を早く手放そうと目を瞑った。
遠くでライアンさんの声が聞こえた気がする。本当はすぐにでも彼らのところに行きたい気分だったけど、
この渦は私を解放してはくれなかった。



 「メイ殿!メイ殿ぉー!」
 メイが落ちるのを、ライアンは確かに見ていた。子供を捉えたまま塔から落ちて自害しようとしたピサロの手先にトドメを刺し、
メイはそのまま落ちていった。あの場合、ああするしか子供を助ける方法はなかった。ピサロの手先は、
ライアンたちに討たれ死ぬのなら、せめて子供一人ぐらい道連れにと考えていた。メイのメラでひるんだ隙に子供だけを
連れ戻そうとしたが、執念の強さは子供を拘束する力の強さとなって現れていた。完璧に殺さなければいけなかった。
 ライアンはほんの一瞬、躊躇したのだ。あの高さから、トドメの一撃のはずみで落ちてしまうことに。
しかし、メイは躊躇うことなくピサロの手先に鉄の槍を突き刺した。まるでライアンが子供をしっかり受け取ることを
確信していたように。
 湖にメイが落ちたのは見た。しかし、一向に彼女は上がってこなかった。
塔の屋上から飛び降り、真昼の太陽がきらめく湖面を見つめたが、物影ひとつ浮かんではこなかった。
 ただひとつ―――湖の中が不自然に光っていた。白っぽい糸が集い、丸くなり、渦を巻いているように見えた。
あれはまるで、書物でしか知らない移動魔力の集合体―――旅の扉のようだった。



第一章 完


Lv.6 メイ
HP:21/26 MP:27/38
E 鉄の槍
E うろこの盾
E 革の服(革ジャン)
E −
E サングラス

戦闘呪文:ホイミ・メラ
所持金:345G(湖の塔での戦闘で獲得したゴールドを全額受け取っている)


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