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もし目が覚めたらそこがDQ世界の宿屋だったら11泊目

1 : ◆Y0.K8lGEMA :2007/10/12(金) 00:35:18 ID:5ytk/+MG0
このスレは「もし目が覚めた時にそこがDQ世界の宿屋だったら」ということを想像して書き込むスレです。
「DQシリーズいずれかの短編/長編」「いずれのDQシリーズでもない短編/長編オリジナル」何でもどうぞ。

・基本ですが「荒らしはスルー」です。
・スレの性質上、スレ進行が滞る事もありますがまったりと待ちましょう。
・荒れそうな話題や続けたい雑談はスレ容量節約のため「避難所」を利用して下さい。
・レス数が1000になる前に500KB制限で落ちやすいので、スレが470KBを超えたら次スレを立てて下さい。
・混乱を防ぐため、書き手の方は名前欄にタイトル(もしくはコテハン)とトリップをつけて下さい。
・物語の続きをアップする場合はアンカー(「>>(半角)+ 最後に投稿したレス番号(半角数字)」)をつけると読み易くなります。

前スレ「もし目が覚めたらそこがDQ世界の宿屋だったら九泊目」
ttp://game13.2ch.net/test/read.cgi/ff/1185925655/

PC版まとめ「もし目が覚めたら、そこがDQ世界の宿屋だったら」保管庫@2ch
ttp://ifstory.ifdef.jp/index.html

携帯版まとめ「DQ宿スレ@Mobile」
ttp://dq.first-create.com/dqinn/

避難所「もし目が覚めたら、そこがDQ世界の宿屋だったら」(作品批評、雑談、連絡事項など)
ttp://coronatus.sakura.ne.jp/DQyadoya/bbs.cgi

ファイルアップローダー
ttp://www.uploader.jp/home/ifdqstory/

お絵かき掲示板
ttp://atpaint.jp/ifdqstory/

300 :背水の刃【2】 ◆Y0.K8lGEMA :2007/11/11(日) 00:05:33 ID:wSm2A5uf0
ラーの鏡を入手した俺達は、修道院の一室で休息を取っている。

下着のままベッドに腰掛け、少し硬めの黒パンを齧りながら明日の作戦を練る俺達。
清楚なシスター達に見られたら”行儀が悪い”と怒られそうな、だらしない姿だが、
その表情も話の内容も真剣そのものだ。

ラインハットの異変…デール王の豹変…明日はそれらにカタをつける。
修道院を守る…人々を守る…失敗は許されない。チャンスは一度限り。

「明日はラインハットにとんぼ返りか…侵入経路は前と同じでOK?」
「いや、前回の一件で警備も厳しくなってるだろうし、同じ経路は使えないよ。」
「そっか…じゃあ、別の隠し通路とかはねえの?…ヘンリー?」
「…すぴー…ぴるるるる…」
―……☆…―

さっきまでブラウンと一緒に騒いでたわりに、やけに大人しいと思ったら
二人して爆睡してやがる…

ラインハット〜神の塔での連戦で疲れが相当溜まっていたんだろうな。
ヘンリーは作戦会議もそこそこに、ベッドに潜って寝息を立てている。
「ふわぁ…見てたら俺まで眠くなってきちまったよ。」
「バタバタした一日だったからね。僕達もたまには早く休もうか。」

真っ白でふかふかの布団に顔を埋めると太陽の香りがする。

不思議だよな。
ベッドのふかふかした感触も、布団に残るお日様の匂いも同じなのに、
こいつらは全部、俺の知らない違う世界のモノ。
理論とか生態系は全然違うけど、心地良いものを求める人間の嗜好ってのは、
世界が変わっても同じなんだな…Zzz…
布団から見えていた茶色い髪の動きが止まり、規則正しい寝息が聞こえてきた。


301 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/11/11(日) 00:07:00 ID:FTG7NxH00
しえん

302 :背水の刃【3】 ◆Y0.K8lGEMA :2007/11/11(日) 00:07:27 ID:b7cVpqUV0
「まったく…毛布を蹴飛ばすと風邪ひくよ。」

小さく震えるランプの炎に照らされ、静まり返った部屋。
寝相の悪い二人と一匹に毛布を掛け直していたサトチーが、何かに気付いたように
一点を見つめ、立ち上がる。

その目線の先には鞘に収められ、壁に立てかけられた剣。
別世界からやって来たという少し年上の若者が軽々と操って見せた伝説の剣。
サトチーの手が、ゆっくりと天空の剣に伸びる。

自分の内から響く鼓動さえもうるさく聞こえるような夜の静寂…

「…まじしましま…」
「―!!―」

伸ばしかけたその手が思わず引っ込み、壁から倒れようとする剣を寸前で支えた。
喉から飛び出そうになる大声を必死で飲み込み、そぉっと声の方向を振り向く。

「…むにゃ…Zzz…」

声の主である若者は、深く眠ったままだ。
その額にじっとりと浮かんだ冷や汗を拭い、荒くなった息を整えるサトチー。
「…寝言……ふぅ…僕もどうかしてるね…」

ふわ…と溢れる小さなあくびを口元で押さえ、ベッドに戻るサトチー。
「そんなはずないよね…」

枕元に置かれたランプの炎を吹き消し、部屋に本当の宵闇と静寂が訪れる。

―そういえば、ビアンカは元気かな…
   この件が落ち着いたら一度アルカパに行ってみようかな…―

303 :背水の刃【4】 ◆Y0.K8lGEMA :2007/11/11(日) 00:08:49 ID:b7cVpqUV0
修道院の朝は早い。
シスター達は皆、夜明け前に起床し、朝の祈りと朝一番の水を神に捧げる。
厳かな祈りが終えた後に宿泊客を起こし、顔を出す朝日の中で朝食の準備が始まる。
時計もないのに実に正確な毎日。

…の筈だが、今日の目覚めはいつもとは明らかに違った。

寝室のドアが勢いよく開け放たれ、血相を変えたシスターが飛び込んでくる。
ドアが壁にぶつかる派手な音で、俺達は叩き起こされた。

「…た…助けてくださいまし。修道長が…」
「落ち着いて。一体何があったんです?」
飛び込んできたシスターが、おろおろと震えながら話を続ける。
「い…今しがたラインハットの兵がやってきまして、ヘンリー様を出せと…
修道長が院の前で足止めされていますが、このままでは…」

ラインハット兵にシスター・シエロが?

鎖帷子を着込み、ひったくるように天空の剣を手に取る。
「サトチー!」
「わかってる。急ぐよ!」

ざわざわした多数の声。荒々しい男の声。子供の泣き声。
静かな修道院には相応しくない喧騒の先にシスター・シエロはいた。

「女を傷付けたくはない!さっさとヘンリー様を出すのだ!」
「お静かに。神の御前で無礼ですよ。迷いがおありなら私がお話を伺います。」
「黙れ黙れ!私に迷いなどあるものか!修道女に用はない!」

大声で威圧する男を前に、シスター・シエロは一歩も下がらない。

「シスター・シエロ!大丈夫か!?」

304 :背水の刃【5】 ◆Y0.K8lGEMA :2007/11/11(日) 00:10:27 ID:b7cVpqUV0
シスター・シエロの前に踊り出て、横一列の壁を作る。
相手は一人…周囲を探ってみても、仲間が隠れている気配はない。
「追っ手は君一人かい?」
サトチーが怪訝そうに甲冑の男に問い掛ける。

俺達の前に対峙する兵士は一人。どこかに仲間が隠れている様子もない。
甲冑で身を包んだ男はそれなりに強そうな風体だが、1対5のこの状況で
…今の時間だとスミスは戦えないから1対4か…ともかく負ける気はしない。
…男の背後に置いてある、布をかぶった物体は気になるが…

サトチーの質問を無視して、甲冑の男がこもった声をヘンリーに投げ掛ける。
「ヘンリー様…大人しくデール様の前に出頭して頂けませんか?」
「はぁ?」
剣の柄に手を掛けるヘンリーの口から間抜けな声が漏れる。

「非礼を詫び、王家に忠誠を誓えば、兄であるヘンリー様の命をとるような事は
 なさらないでしょう…どうか考えては…」
「却下だ。」
兵士の懇願に親指をピッと下に向けて答えるヘンリー。
「ふん。曲がっちまった子分の性根を叩き直してやるのも親分の役目だ。
 迎えなんざよこさなくても城に戻ってテメエの尻っペた引っぱたいてやる。
 城に帰ってデールの奴にそう伝えな。」
「ですがヘンリー様…」

まだ何か言いたそうな兵士の前に、サトチーと俺が進み出る。
「だ が 断 る…ってヤツだ。あんたも男なら引き際が肝心だろ?」
「この場は退いてくれません?あなたも勝ち目のない争いは望まないでしょう?」
サトチーの言葉が半ば脅しのように聞こえるがキニシナイ。

「私は…退くわけにはいかない……勝ち目のない争いをするつもりも毛頭ない…
 嘗て仕えたヘンリー様を討つのは心苦しい…ですが、今の私は軍人…」
背後の物体にかけられた布に、男の手がかけられる。

305 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/11/11(日) 00:11:46 ID:FTG7NxH00
支援

306 :背水の刃【6】 ◆Y0.K8lGEMA :2007/11/11(日) 00:12:00 ID:b7cVpqUV0
「ヘンリー様…いや、国賊ヘンリー。主君より賜った任務により討伐する!」
物体を覆い隠していた布が、男の手によって一気に引き剥がされる。

中から現れたソレ…
つるんとした曲線を描くシルバーのボディーから伸びた昆虫のような手足。
左手に大剣、右手にボウガンを搭載したソレの頭部から覗く無機質な目(?)が
俺達一人一人を順に見渡すようにサーチする。

コレは……機械?

「サラボナ地方を徘徊する古代のカラクリ…メタルハンターはご存知ですか?
 それを捕え、ラインハットの技術で改良した究極の殺人用カラクリ…
 …名付けて『プロトキラー』…まだ試作段階なので手加減は出来ませんよ。」

金属音と機械音を体中から響かせ、プロトキラーと呼ばれたソレが戦闘体勢に入る。

「こいつ…城の中庭で見たアレじゃねえか。」
「なんで…こっちの世界にこんな技術が…」
「シスター達を巻き込むわけにはいかない。修道院から離れるぞ!」
―!!!!―

サトチーの指示で四人一斉に駆け出し、修道院からの距離をとる。

考えるのは後だ。どうせ考えたって答えなんかわかりゃしねえ。
人殺しの為だけに作られた機械の兵士…
今はとにかく、この忌々しい機械をぶっ壊す。

「メタルハンターの装甲すら粉砕するプロトキラーの力…とくと思い知れ!」
兵士の合図に、プロトキラーの単眼のような光が一層赤く輝き大剣を振りかざす。

無機質な威圧感に自然と震え出す膝を一発引っぱたく。

307 :背水の刃【7】 ◆Y0.K8lGEMA :2007/11/11(日) 00:13:14 ID:b7cVpqUV0
「ヘンリーはガンガン魔法を!僕達は周囲を囲んで一斉攻撃だ!」
「マリアさんには指一本触れさせねえ!――イオ!!」

ヘンリーが放つ魔法がプロトキラーの表層で爆発を起こす。
周囲に広がる土煙を狼煙代わりに、サトチー・ブラウン・俺が同時に斬りかかる。

――ガギン!ガガン!!

耳に残る金属音と、手から体に伝わる痺れ。
機械は、その頭上に掲げた大剣一本で俺達三人の攻撃全てを無造作に受け止め、
続けざまに振るわれたその大剣で、サトチーと俺を同時に横薙ぎに斬り払う。

「…っが…」
咄嗟に背後に跳んで両断は免れたが、鎖帷子を貫通して内臓に衝撃が伝わる。
口内に溜まった血を吐き出しながら、天空の剣を支えになんとか立ち上がると、
既に機械は次の動作に移っていた。

ヤベエ…動作が速すぎる…

上段から振り下ろされる死の斬撃を横っ飛びに転がりながら避ける。
その隙をついて攻撃を試みるブラウンを返す刀で迎撃する。
回復の為に仲間の元へ走るサトチーを鋼鉄の拳で殴り飛ばし、
イオで足止めしようとするヘンリーをボウガンの矢が襲う。

「おいおい。その動きは反則だろ…っと危ねえ!」
「俺は大丈夫だ!イサミに回復魔法を!!」
「わかってる!なんとかあいつの足止めをしてくれ!このままじゃあ近付けない!」

片手で大剣を振るいながら、片手でボウガンを乱射する殺人兵器。
全ての行動が予備動作なしの最短距離で、且つ同時に飛んでくる。
さらに、全ての攻撃が致命打ときたら攻撃どころじゃねえ。
ジリ貧…避けるので精一杯だ。

308 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/11/11(日) 00:14:10 ID:ZUdjEYat0
支援

309 : ◆Y0.K8lGEMA :2007/11/11(日) 00:16:32 ID:b7cVpqUV0
支援ありがとうございました。第十話前半部分投下終了です。

プロトキラーは7仕様ではなく、あくまでもメタルハンターの改良型。
強さ的には メタルハンター<プロトキラー<キラーマシン てな感じです。

投下直後にミス発見…
【1】のデールのセリフの文頭を一字空けてませんでした。
読み難くなってしまって申し訳ないです。

310 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/11/11(日) 08:54:24 ID:xVP7tfl70
乙。
異常が少しずつあらわになっていくのは先が楽しみで堪らんな。

311 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/11/11(日) 16:31:36 ID:d5yI1GEC0
投下乙です。
プロトキラー強そうですね。
これでもキラーマシンよりは<なんですか。
とても勝てそうな気がしないorz

天空の剣、神性がなくなってしまったから、サトチーでも扱えるようになっているのでしょうか・・・。


312 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/11/12(月) 16:58:30 ID:0igRa8l8O
ドラオ……(´・ω・`)ショボーン

313 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/11/13(火) 17:35:22 ID:Soc9GWIDO
保守

314 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/11/14(水) 01:45:24 ID:gw8h2NUyO
合作もうすぐ終わり?

315 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/11/15(木) 00:36:57 ID:yHpc547oO
保守

316 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/11/15(木) 10:47:26 ID:yXuZpFbi0
合作まだまだ終らせないで〜保守

317 :冒険の書4 ◆8fpmfOs/7w :2007/11/15(木) 23:49:54 ID:UCA9Suft0
―転職の転―(>>273-277)

ドラクエ4は何度もプレイした。そのときの俺は勇者の気持ちになっていた。
だからこの世界で俺がシンシアに惚れたのは当然のことなのかもしれない。

ドラクエ4は何度もプレイした。
だからこの世界でシンシアが自分の命を賭けて何をするのか俺は知っている。

俺はこの世界で何もしないと決めた。でも本当は何もできないだけではないのだろうか。
だけど、結局何もできなかったとしても、俺はやらなきゃいけないんだと思う。

俺がシンシアに出会ったことはゲーム上の出来事には何の意味もないのかもしれない。
でも、俺にとってシンシアとの出会いは人生を変えるほどの出来事だった。

ほんの束の間の出来事であっても人生は大きく変わってしまうものなのだ。
だからこそたったひと時の夢のため、俺は全力を賭けようとしているのだろう。

ドラクエ4は何度もプレイした。どんなエンディングが待っているのかも知っている。
エンディングの最後のワンシーン。そのラストのため、俺は……

318 :冒険の書4 ◆8fpmfOs/7w :2007/11/15(木) 23:50:57 ID:UCA9Suft0
シンシアと別れたあと俺はエンドール行きの船に乗ることができた。
金なんて持っていなかったが船で雑用をすることで乗せてもらえた。

エンドールでは武術大会の準備をしている真っ最中だった。
そこで会場設置の仕事を任されている親方を紹介してもらえた。
人手が足りないらしく身元がはっきりしない俺でも仕事にありつけた。
俺は生活費を切り詰めて少しずつお金を貯めていった。

武術大会が始ると同時にカジノが開かれた。
カジノでは武術大会で出場者の勝敗を対象にした賭けが行われていた。
大会中にカジノを開くからにはこの手の賭けをやっているとは思ったのだ。
ゲームの中ではなかったことだが、このくらいの違いはあっても不思議ではない。
ちょうど今、アリーナ姫とミスターハンの試合を対象に賭けが行われていた。

「アリーナ姫が勝つほうに全財産賭ける。」
結果は当然アリーナ姫の勝ち。そこで得たコインを全て次の試合に賭ける。
アリーナ姫はラゴス、ビビアン、サイモンと次々に対戦相手を破っていく。
俺にとっては博打でもなんでもない。結果は分かっているのだ。

結果がわかるといえば、ミネアも占いで未来が分かるのだ。
敵討ちの旅に出るとき彼女にはどんな未来が見えたのだろうか。
絶望的な未来が見えたとしたら、それでも旅をやめようと思わなかったのだろうか。

319 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/11/15(木) 23:51:35 ID:WKJtaFen0
支援

320 :冒険の書4 ◆8fpmfOs/7w :2007/11/15(木) 23:51:59 ID:UCA9Suft0
俺はここで賭けをやめアリーナ対ベロリンマンの試合を見に行くことにする。
ピサロの試合は奴が強すぎたせいで賭けの対象にはならなかった。
カジノを後にしてコロシアム向かう。俺にとっての大博打はここから始まるのだ。

目の前ではアリーナ姫がベロリンマンと戦っている。
会場の隅、セコンドがいるための場所だろうか。クリフトとブライらしき2人もいる。
本当なら導かれし者たちを見て感激のひとつでもしたいところだ。
しかし俺にはそんな余裕はなかった。
俺は息を呑みながらその試合を見ていた。
ベロリンマンの分身はアリーナ姫でも見破ることができない。

試合終了後、俺はベロリンマンに接触することに成功した。
ベロリンマンは人間と友達になりたくてエンドールにやってきたらしい。
そしていつの間にか武術大会に参加していたということだ。
俺はベロリンマンと意気投合し彼を仲間にした。

……今頃アリーナ姫一行はサントハイムの住人が消えたことを知ったころだろうか。

321 :冒険の書4 ◆8fpmfOs/7w :2007/11/15(木) 23:53:01 ID:UCA9Suft0
その後、俺はベロリンマンをつれてボンモールへ渡った。
今度は多少なりとも金があったので渡航にはさほど苦労はしなかった。
ボンモール王はドン=ガアデがいないため橋が作れずやきもきしていた。
俺はドン=ガアデをつれてくることで褒美をもらう約束を取り付けた。

しかし俺はすぐにドン=ガアデを探しに行くことはしなかった。
彼がどこにいるのかは知っている。しかし俺は何もする必要はないのだ。
ボンモール城内で脱獄騒ぎが起こったところで俺は動き出した。
俺はベロリンマンを連れてきつねの村に向かった。きつねヶ原というのだっけ。

そこには村があった。いや、まるで本当にそこに村があるかのようであった。
これは1匹のキツネが神通力によって造っているものなのだ。
村の近くで様子を伺っているとトルネコと思われる男が犬を連れてやってくる。
「ベロリンマン。ひとつ俺の頼みを聞いてくれないかい。」
俺はここでいったんベロリンマンと別れ次の仕事に取り掛かった。

村は姿を消し、ドン=ガアデらしき男が村だった場所から出てきた。
「ドン=ガアデさんですね。ボンモールへご案内します。」
俺はドン=ガアデにそう話しかけ、彼をボンモールに連れて行く。
武器防具を揃えたので俺もこのあたりのモンスターとは渡り合えるようになっていた。
俺もずいぶん逞しくなったもんだ。
そして約束のとおりボンモール王から金を受け取った。

工事は順調に進み、ついには立派な橋が完成した。
落成式の後、俺はドン=ガアデに質問をしてみた。
「橋以外のもの、たとえば家なんて造るんですか?」
最近はモンスターに壊された住宅の修復もやっていると答えた。
そのあと彼の今後の予定も聞いてみた。
彼はしばらく休みを取ってそれから仕事を探すと言った。
「そのときは俺の仕事を請けてくれませんか?」
俺はドン=ガアデにそんな約束を取り付けた。

322 :冒険の書4 ◆8fpmfOs/7w :2007/11/15(木) 23:54:09 ID:UCA9Suft0
完成したばかりの橋を渡り再びエンドールに戻る。
そこで武術開会上設置のときにお世話になった親方に挨拶に行く。
俺は親方に大きな工事があるから人を集めて欲しいと頼んでおいた。

そしてエンドールの東にある洞窟に向かう。
のちにトルネコによってブランカ地方と結ばれる洞窟だ。
俺はその洞窟の奥ににいた老人に話をつける。
そしてトンネル堀を再開するときの人員の確保を任せてもらえることになった。

トルネコはエンドールで店を持ちエンドール王から仕事をもらっていた。
彼がトンネルを掘るのに必要な金を集めるのにそれほど時間はかからなかった。
親方が人を集めておいてくれていたので工事はすぐに始めることができた。

トンネル工事が進む間、俺はベロリンマンと合流した。
彼にはあの村の跡地からキツネをつれてきてもらってきた。
俺はキツネに俺の仕事に協力してくれるように頼んだ。
「ほんの少しだけでいい。君の力で幻を見せて欲しいんだ。」

俺は仲間を連れて再びブランカへ戻ってきた。
シンシアや勇者の住む村はこの地のどこにあるのだろう。
その村の場所は誰も知らない。知らないままでいて欲しい。

誰だってハッピーエンドがいいに決まってる。
けれどこれから迎える結末はハッピーエンドといえるのか分からない。
だけどほんの一瞬でもいい。夢を見る時間があってもいいじゃないか。

肝心なのはこれからだ。最後の大勝負が残っている。
でも、シンシアは、シンシアは俺のこと許してくれるかな……。

―「結晶の結」へ続く―

323 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/11/16(金) 03:20:35 ID:7vCHnK/kO
(*゚ー゚)。oO(どきどき…)

324 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/11/16(金) 03:38:21 ID:sekX5aQr0
その勝負、勝つ方に俺の魂を賭けるぜ!

325 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/11/16(金) 12:48:13 ID:pORu0PX00
もの凄く名作の予感

326 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/11/16(金) 14:06:34 ID:1IAIfOoH0
わくわくする展開

327 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/11/16(金) 18:23:40 ID:uDIbRFkB0
予想を書き込みたいけど我慢。
すっごい楽しみだ。

328 :タカハシ ◆2yD2HI9qc. :2007/11/17(土) 17:09:52 ID:S/kIWObf0
お疲れ様です。
10泊目までまとめました。
ttp://ifstory.ifdef.jp/index.html

もし不備を見つけた場合、避難所掲示板まで連絡していただけると助かります。
11泊目以降のまとめは年末〜来年を予定しています。

329 :タカハシ ◆2yD2HI9qc. :2007/11/17(土) 17:41:05 ID:S/kIWObf0
書き忘れました。
今回合作はまとめていません。
合作については進行度合いでまとめていきますのでご了承ください。

330 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/11/17(土) 20:46:19 ID:IilNZOK40
>>タカハシ殿、乙。

331 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/11/18(日) 03:45:52 ID:XEykQl5d0
タカハシ殿!いつも乙であります!


332 : ◆Y0.K8lGEMA :2007/11/19(月) 20:04:31 ID:Coz8MsIU0
予告時間になりましたので、第十話後半を投下します。

LOAD DATA 第十話前半>>299-307


333 :背水の刃【8】 ◆Y0.K8lGEMA :2007/11/19(月) 20:06:56 ID:Coz8MsIU0
刃が躍る。
弧を描く冷たい軌跡をなぞる様に、俺の頬に赤い筋が描かれる。
鉄腕が廻る。
ブラウンを掴んだまま上半身全体を回転させ、遠心力を持って地面に叩きつける。
矢の雨が降り注ぐ。
無数の風切音の一直線上、ヘンリーの肩に穴が開く。

「ヘンリー!…っ!」

無骨な鉄塊がサトチーの動きを敏感に察知し、回復を妨害する。
既に俺達は傷だらけ。対するプロトキラーのメタリックシルバーのボディーには、
さしたる損傷は見られない。

ぶっ叩かれた腹の中身がグルグルして吐き気がする。
…が、俺なんかよりもヘンリーとブラウンがヤバい。
地面に叩きつけられたブラウンは気絶しているのか、全く動かない。
肩に矢を受けたヘンリーは片手でメラを放っているものの、出血が酷い。

早く治療をしないと…

サトチーも気付いているのだろう。なんとか二人の元へ駆けつけようとするが、
無情な殺人機械が繰り出す無慈悲な猛攻がそれを許さない。

…一瞬だけ、俺があいつを足止めできれば…

背中のカバンから薬草を取り出し、ろくに噛まずに飲み込む
…苦ぇ…けど、体は少し治った。迷っている暇はない。

プロトキラーが振り回す大剣の射程内。危険地帯にあえて飛び込む。
赤く光る単眼が俺をサーチし、俺の体を両断せしめんと大剣を振り払う。

ビンゴ!こいつは俺を第一の標的に定めてくれた。

334 :背水の刃【9】 ◆Y0.K8lGEMA :2007/11/19(月) 20:10:03 ID:Coz8MsIU0
「イサミ!…っ済まない!」
サトチーは俺の行動の意味を理解してくれたらしく、ヘンリーの回復に向かう。

OK サトチーなら絶対にわかってくれると信じてた。

横薙ぎに振り払われる大剣を身を屈めて避け、そのまま水面蹴り。
四本の足で支えられた頑強なボディーが地面に倒れる事はなかったが、
それでも一瞬、鋼鉄の体がぐらりと揺らぎ安定を失う。

その隙に、近くで転がってるブラウンを抱えてダッシュ。
全力で走りながら、薬草をブラウンの口に放り込む…ブラウンはコレで大丈夫。

さて、思った通り、あいつはまだ俺を第一の攻撃目標に捉えている。
後方から飛んでくる矢の的を散らすように、ジグザグに緩急をつけて逃げ回る。

機械の扱いなら、こっちの世界の人間よりも慣れている。
機転や応用力を持ち合わせない、最速の結果だけを求める回路…それが機械の弱点。
今、こいつのセンサーには、派手に逃げ回る俺しか映っていねえ。

真正面から叩いてもこいつの鉄壁のガードに弾かれる。
ならば、サトチーとヘンリーの二人に機械の背後を叩いてもらう。
ホント格好悪りい戦法だな。

とは言え、俺の体も限界っぽい…
意思とは裏腹に、全力疾走していた俺の両足が重くなる。
疲れを知らない機械の攻撃が徐々に生身の俺を捉え始める。

情けねえ…こんな事ならタバコに手を出すんじゃなかったなあ…

脇腹を矢が掠め、大きく体勢を崩す俺の目に映ったのは、
きらきらと星屑の様に飛び散る鎖帷子の破片。
太陽の下で煌く真昼の流星群の中に、小さな影が飛び込んだ。

335 :背水の刃【10】 ◆Y0.K8lGEMA :2007/11/19(月) 20:11:59 ID:Coz8MsIU0
…ブラウン?

抱かれていた俺の腕の中から飛び出し、幽鬼の様に立ちはだかるブラウンは、
俺など意にも介さない様子で機械に向かい合う。
空虚な黒一色の中に、禍々しいまでの闇色の炎を浮かべた瞳。
普段のブラウンとは違う、怒れる鬼神の瞳。

バグン!…と、爆発音にも似た破壊音が響く。
プロトキラーが矢を放つよりも早く、ボウガンの備えられた腕が弾け飛ぶ。

続けざまに叩きつけられる、魔神の如きブラウンのハンマー。
いつにも増して大振りな動きを察知し、機械が初めて回避動作をとる。
轟音を伴わせ、地面にハンマーを食い込ませた小さな戦士に無慈悲な刃が落とされる。
振り上げたハンマーで大剣を打ち払い、再び最上段から力任せの一撃を振るう。

「おいおい…ブラウンの奴、混乱しちまったんじゃねえか?」
肩の傷を治療し終えたヘンリーが、不思議そうな表情でその光景を眺める。
俺もヘンリーも援護する事すら忘れ、ただその異様な事態を眺める事しか出来ない。

混乱?キレた?…違う…アレはもっと…

「魔物の瞳…」
サトチーが震える声で語る。
「人間とは相成れないモンスターの瞳だ。なんでブラウンが…」

―!!!!!―

プロトキラーが、その千切れた腕でブラウンを殴り飛ばす。

機械に感情があるとは思えないが、それは焦りを感じさせる行動。
プロトキラーの演算回路が、今のブラウンと片手で渡り合う事は、
大きなリスクを背負うと計算したのだろう。

336 :背水の刃【11】 ◆Y0.K8lGEMA :2007/11/19(月) 20:14:27 ID:Coz8MsIU0
「ぼんやりしてる場合じゃない。二人とも、ブラウンの援護だ!バギマ!!」
サトチーが呪文を紡ぎ、プロトキラーの足元から巨大な旋風が立ち昇る。

視野狭窄に陥っていたプロトキラーは突然の竜巻になす術もなく巻き込まれ、
その手足をあらぬ方向に捻り上げられる。
大気が轟々と渦巻く内部から、機械の発するノイズ音が聞こえる。

「ルカナンッ!!」
青白い光がヘンリーの両手から迸り、鋼鉄の体を包み込む。
「イサミ!ブラウン!強烈なのをぶちかましてやれぇ!!」

ブラウンが高く飛び上がり、上空からハンマーを振り下ろす。
その大振りに対し回避行動をとるプロトキラーだが、俺の行動の方が早い。
低い位置からプロトキラーに駆け寄り、不安定になった足元に水面蹴り。
地を低く這う俺の足が弧を描いて機械の足を刈り取り、鋼鉄のボディーが倒れる。

「無粋な機械はこっちの世界には似合わねえ。大人しく退場しやがれ!」

倒れたプロトキラーの頭上に、ブラウンの放つ魔神の如き一撃が叩き込まれた。

理性による抑制を失ったブラウンの豪腕で振るわれるハンマーと、
ヘンリーのルカナンで強度を失ったプロトキラーの装甲。

力の均衡は容易く崩れ、空気が弾ける様な音を立てて鋼鉄の装甲が砕け散る。
なおも勢いを失わず深くに喰い込むハンマーは、機械の頭部を完全に押し潰した。


―ビュッ!!


一瞬、大きく鳴り響いたノイズ音を最後に殺人機械はその機能を停止した。

337 :背水の刃【12】 ◆Y0.K8lGEMA :2007/11/19(月) 20:16:03 ID:Coz8MsIU0
試作品…って言ってたな。多分、実戦投入は初めてだったんだろう。
今回は、こいつ自身の実戦データ不足につけ込めたからなんとか勝てたけど、
綿密な実戦データをプログラミングされてたら、俺達に勝ち目はなかったろうな。

さて、残るはあの兵士…え?

―!!!!!―
「うわああぁぁぁぁ!!!」

ブラウンがハンマーを振りかざして、兵士に襲い掛かっている。
その凶声から感じられる明らかな殺意。兵士の頭蓋を砕こうとハンマーを振りかざす。

間一髪でサトチーに取り押さえられたブラウンは、狂犬のような荒んだ目をしている。
ネコの威嚇のように、フー フー と荒い呼吸をする姿は、やはり正気とは思えない。
サトチーの胸に抱きかかえられながら、自分を捕縛する腕を振り解こうと暴れまくり、
既にサトチーの両腕は傷だらけになり、血が滲んでいる。

「ブラウン…ブラウン…一体どうしたんだ?」

今のブラウンの瞳には無邪気さや優しさは感じられない。
本能のままに人間を襲い、その命を奪おうとする狂気が染み出している。

変貌したブラウンを抱くサトチーの両目に困惑の色が広がった。


イサミ  LV 15
職業:異邦人
HP:18/74
MP:12/12
装備:E天空の剣 E鎖帷子
持ち物:カバン(ガム他)
呪文・特技:岩石落とし(未完成) 安らぎの歌 足払い

338 : ◆Y0.K8lGEMA :2007/11/19(月) 20:22:37 ID:Coz8MsIU0
第十話投下終了です。
暴走ブラウンの様子は、マジバトル状態のネコを想像してください。

339 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/11/19(月) 20:47:11 ID:OpTrkWbw0
ブラウンはどうしちゃったのかwktk

340 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/11/19(月) 21:12:18 ID:1l8HjDpa0
乙。マジギレ猫の暴れっぷりは異常。wktkしながら待ってますね。

341 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/11/19(月) 23:23:54 ID:J/aNqQyc0
ブラウンのレベルのところに赤文字で「らん」って出てるんだろうな

342 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/11/20(火) 13:44:10 ID:CTSuICZ80
ブラウン気になるよブラウン・・・
それから足払い習得おめ!

343 :Stage.11 hjmn ◆IFDQ/RcGKI :2007/11/20(火) 23:34:26 ID:i1b28PFw0

アルス「ちーっす」
タツミ「どうもー。僕もいよいよ勇者試験です。うう、なんか緊張してきたなー」
アルス「俺は知らないことになってるが、うちの国王とヤベエ約束してんだろ。大丈夫か?」
タツミ「おや心配? 常に首席のこの僕が! 『試験』で不合格、なんてあるわけないネ♪」
アルス「あーさいすか。(どこが屍の目だよ。やっぱユリコパパの勘違いだと思うがなぁ……;)」
タツミ「それでは恒例サンクスコール、今日も張り切って行ってみましょー!」

アルス「>>222様、文字通りの真剣勝負! お互いに大ケガしなくて良かったよ。しかし……
   (ヒソヒソ)こいつが人殺しとか、俺も思えないんだよな。なるべく早く真実を確認してみるな」
タツミ「なにそこヒソヒソやってんの。>>223様、ゲームサイドですみません(-人-)
   物語の進行上こちらの投下になりました」

アルス「続きまして、まとめにいただいたレスへのサンクスコール」
タツミ「>>239様……とは初顔合わせ(?)になるみたいですね。ここはきちんとご挨拶を」
 R『作者の◆IFDQ/Rです。宿スレ九泊目から常駐させてもらっています。かなりDQ離れしてる上、
   やたら込み入った話を書いておりますが、楽しんでいただけたら幸いです』
アルス「>>240様、遠慮してたっつーか……実は俺もタツミに重要なことをわざと言ってなくて、
   そこを突っ込まれたくないってのもあったんだよな。じれったくさせて申し訳ない」
タツミ「またそこ読者様とコソコソやってるし。そう言えば誕生日で思い出したけど、
   僕、ドラクエ3ってクリスマスプレゼントでもらったんだよねー」
アルス「だから俺の誕生日12月24日なのかよ! ホントこだわり無えっつーか思い入れ無えっつーか!」
タツミ「ええ〜、4周もしてるんだからやり込んでる方だろ?」


アルス・タツミ『それでは本編スタートです!』


【Stage.11 勇者試験 [前編] 】
 ゲームサイド [1]〜[6]

344 :Stage.11 [1] ◆IFDQ/RcGKI :2007/11/20(火) 23:40:00 ID:i1b28PFw0
Prev >>225-237 (Game-Side Prev >>108-119)
 ----------------- Game-Side -----------------

「我々魔術師は、世界は膨大な一個のプログラムで構築されている、と考えています。そ
の根源的な構成文書の一部に、直接働きかけて実行させるのが魔法である、と」
 小難しい魔術理論の本を挟んで、テーブルの向かいに座っているエリスが説明する。僕
がうなずくと、彼女は本を閉じて横にどけ、目の前にピッと指を立てた。
「世界に起こりうるすべての事象と結果には式が存在します。たとえばメラ」
 立てた指の先に「ボッ」と火が灯もる。
「この座標に同規模の発火を生じさせる手段はいくらでもあります。ロウソクを使っても
いいし、丸めた紙の先を燃やしてもいい。実際に火が着いたのですから、結果そのものは
すでに構成文書の中に存在しています。その結果式に術者の意志をアクセスさせ、結果の
みを先回りして実行させるわけです」
「だけどロウソクや紙というのは、燃焼する物があっての結果だよね?」
「はい、物事が実働するためには対価が必要です。その実働エネルギーに代替えとして充
当されるのが術者自身の理力、つまりMPなんですね」
 なるほど。MP消費量が多ければ、より広範囲に大きく結果を出せることにもなる。
「結果式の検索にもっとも大切なのが、あらゆる『過程』を瞬時に『仮定』するイメージ
力なんです。専門用語では『検索アルゴリズムの設定』と言いますが」
 勇者様の得意分野ですよ、とエリスが微笑む。
 構成文書、つまりこの世界を構築するプログラム群の中から、必要な『結果式』を探し
出すための、もっとも効率的な手順を素早く設定する能力。
「私の場合は『精霊による力の発現』というイメージを手がかりにアクセスしています。
イメージがブレないための詠唱なので、今のメラのように慣れた呪文は省略してますね」
 逆に慣れ過ぎると意識が不用意に結果式にアクセスしてしまうことがある。そこで誤作
動を防ぐため、術の行使には実行を確定するキーワードが存在し、「メラ」や「ギラ」な
どの言葉が当てられている。パソコンで言えばEnterキーってところか。

 ここはランシールの宿屋の一室。僕はアリアハンから引き続き、エリスに呪文の講義を
受けていた。

345 :Stage.11 [2] ◆IFDQ/RcGKI :2007/11/20(火) 23:41:29 ID:i1b28PFw0

 一級討伐士の試験はランシールの単独洞窟攻略、さすがに簡単な回復呪文くらい使えな
いとマズイってんで、アリアハンを出発してからずっと詰め込み授業をしている。

 それにしても、この世界に住むエリスの口から「世界はプログラムだ」という言葉を聞
くのは不思議な気がする。
 確かにその通りで、僕が現実側から「呪文」というコマンドを選択した時に、対応プロ
グラムが実行されて画面上に結果が表示される。その成り立ちを内側から見た場合の認識
が、彼女の講義内容になるんだね。
「時間がなかったので昨日はまず実践から入りましたが、これが魔術の基本概念です。よ
ろしいですか?」
「はーい先生。僕はメラ・プログラムを実行してるわけなんだね。…… “メラ”」
 エリスのマネをして、指先に火を灯してみる。この時の感覚はなかなか口では説明しづ
らいんだけど、発火までの過程をイメージしてるうちに「これかな?」という形の無いな
にかが意識の中にフッと浮かぶ。それを捕まえて、タイミング良く呪文(実行キー)を打
ち込む。そんな感じ。

「ここまではほとんど完璧ですね。正直、かなり悔しいですよ。私、本格的に練習を始め
てメラが成功するまでに、2週間かかったんですよ?」
 苦笑するエリス。
「いやまあ……具体的にイメージする、なんてのは僕の十八番だからね」
 いきなりメラが成功した時は、エリスは目をまん丸にして「す、少し席を外しますね」
とか言いながらフラフラと部屋を出て行って、しばらく戻って来なかったっけ。
 これまで読み漁っていた本の中にも魔術書や呪文書があって、「なんとか理解はできそ
うだな」とは思っていたけど。まさか僕自身も、昨日の夜ちょっと実践的な指導を受けた
だけで呪文が発動するとは思わなかったよ。

「概念も理解できて実際に発動できたなら、あとはすべて応用させるだけです。こればか
りは実戦の中で覚えていくしかありませんから……」
 エリスは窓の方を見た。つられて目をやると、外はもう日が沈んで真っ暗だ。
 いよいよ試験は明日に迫っていた。


346 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/11/20(火) 23:44:12 ID:Gs62DHGS0
支援

347 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/11/20(火) 23:45:04 ID:Q1Smc+0bO
支援!

348 :Stage.11 [3] ◆IFDQ/RcGKI :2007/11/20(火) 23:46:29 ID:i1b28PFw0

「ここ二日間はほとんど寝てないんですから、今晩はゆっくり眠ってください」
「そうするよ。君もゆっくり休んでね」
「はい。じゃあ、私はこれで――」
 エリスは本を抱えて席を立った。

 そしてドアに向かいかけたところで、ふと彼女は振り返った。
「あの、勇者様。本当はこんなことを言うのは良くないのでしょうけど……無理しなくて
いいんですからね? 危ないと思ったらすぐ戻ってきてください」
 いつもの優しい笑みを浮かべる。たとえ勇者の肩書きなんかなくたって、私たちは今ま
でと変わりないですから、と……。
 きっとその通りだろう。もしもアリアハン国王との約束を彼女たちが知ったら、今すぐ
ルーラでとって返して猛抗議するに違いない。
「わかってるよ。ありがとう」
 僕も笑顔を作った。おやすみを言って彼女を送り出し、ドアを閉める。

 それから小さく「ごめん」と付け足した。
 こんなにいいメンバーなのに、僕は隠し事が多すぎるよね。


 ベッドに寝転がる。古びた木目の天井をじっと見つめていると、なんとなく、このずーっ
と向こうでアルスが見ているような気がした。
 ポケットから携帯を取り出すした。電源はオフのままになっているから、現実側の時間
はわからないけど、もうそろそろ帰ってきた頃だろうか。

349 :Stage.11 [4] ◆IFDQ/RcGKI :2007/11/20(火) 23:48:39 ID:i1b28PFw0


 ――たぶん僕は、意地になっている。
 王様との確執だって、アルスが起きるのを待って、携帯をつないで本人から王様に真実
を説明してもらえばそれで済んだ話だ。アルスも根はいいヤツっぽいし、僕の腕が切られ
るなんて聞いたら、そこでシラを切るようなことは絶対にしないだろう。
 でも僕は嫌だった。自分が現実に戻ることを前提に旅をしている以上、彼が最終的にこ
ちらに戻ってきたときのことを考えれば、真実は最後まで伏せておいた方がいい。
 父親が魔王討伐に失敗して、息子まで使命を投げ出して異世界に逃げたなんてレッテル
が張られたら……エリスたちや、サヤさんやデニーおじいちゃんも、アルスを好きな人た
ちみんなが嫌な思いをすることになる。それがアルス自身も傷つける。

 どんな嘘も偽りも、最後まできれいに繋がれば本当のことになるから。
 僕がうまくやればいい。最後に僕がすべて抱え込んで消えれば、それで済む話なんだ。

   ◇

 翌日、いよいよ試験という段階になって、ひとつハプニングが起きた。

「か、重なったですとぉ!?」
 ランシールの神殿の入り口で、僕の代わりに手続きを取ってくれていたロダムが、彼に
は珍しく大声を出した。なんだと思って行ってみると、そこにはもう一人、真っ黒な甲冑
に身を包んだ背の高い剣士がいた。
 美しいというか、凛々しいというか……思わず見とれてしまうほど端正な顔立ちをして
いる。その人は艶やかな黒髪を掻き上げると、僕を見て顔をほころばせた。
「やぁ青少年、久しぶりだね。ダーマの試験会場で以来だったかな。あの時は騒ぎになっ
てしまって、すまなかった」
「は、はぁ……」
 手を差し出され、つられて握手を返す。まるで厭味のない笑顔。透き通るようなアルト
の声。カッコイイとかって次元じゃない。さすがゲーム世界。

350 :Stage.11 [5] ◆IFDQ/RcGKI :2007/11/20(火) 23:50:28 ID:i1b28PFw0

「しかし、まさか君と重なるとは思わなかったよ。私の方は更新試験を受けに来たんだが、
私も君と同じく期日ギリギリなものでね。今日を逃すとまずいんだ」
 黒い剣士さんは腕を組んで難しい顔をした。
 ランシールの洞窟って、誰かが挑戦したあとは清掃やらトラップ再設置などの準備のた
めに、次の試験まで2、3日の間を置くことになるんだって。なんてこった。
「まあこれが一般職なら、どっちかが諦めろと言われておしまいだろうが。お互い一級討
伐士ともなると、神殿側も慌ててるよ。世界退魔機構の本部に指示を仰ぐそうだ」
 苦笑する剣士さんの言葉には、しかし少しだけ誇らしげな響きがある。一級討伐士とい
うことは、つまりこの人も「勇者」なのか。
 僕がまじまじ見ていると、剣士さんは不思議そうな顔をした。
「どうした青少年。もしかして忘れられてしまったかな。私だよ、レイ――」
「さー勇者様! 早くエリスたちにも知らせねば! ではレイ殿、のちほど!」
 ハッと気づいたロダムが、慌てて僕を引っ張っていく。
 そうか、アルスの知り合いらしいから、僕もそれっぽい態度を取らなきゃいけないトコ
なんだよね。……そろそろ面倒になってきたけど。
 あーあ、また絶対ややこしいことになるな。


「アレがかの有名な『東の二代目』ッスか」
 遠巻きにチラチラ見つつサミエルが感心している。レイ=サイモン。『東の勇者』とし
て名高いサマンオサの一級討伐士サイモンの、その跡取りとのこと。
 サイモンって、あの無人島の牢獄に流されて骨になってたガイアの剣の人だっけか。確
かにその子供だっていうNPCもいたね。
 でもまた原作と設定がズレてるな。
「あの人、セリフと違うんだけど……」
「セリフ?」
 おっと、ゲーム中のセリフがどうだなんて話はできないか。

351 :Stage.11 [6] ◆IFDQ/RcGKI :2007/11/20(火) 23:52:47 ID:i1b28PFw0

「いや、ルビス様に少し聞いてたんだ。サマンオサで行方不明のお父さんを探してるって」
「お父上を……そうだったんですね。ですが、あまり触れ回ってはなりませんぞ」
 ロダムが口に指を立てて「内緒」のポーズをとった。
「そういう目的があっても誰も責められるものではありませんが、やはり世間体を考える
と、『私情で勇者になった』などと誤解されそうな話は避けるべきかと」
 エリスも相づちをうつ。
「一級討伐士の一次試験を受けにアルス様がダーマに行かれたときに、たまたま用事で近
くに来ていたあの方が訪ねて来られたんです。ご本人は軽い気持ちだったと思うのですが、
『世紀の対談だ!』と神殿の前にもの凄い人だかりができてしまったとか」
「そうそう。結局5分も話してられなかったって、しばらく話題になってたッスよ」
「レイという名前も、本名ではないという噂がありますしなぁ」
 まるでハリウッドスターだなw ならプライベートを守るために、いろいろと隠す必要
も出てくるのかな。有名人も大変だ。
「まあ少し会っただけなら顔を忘れていたとしても不自然ではありませんし、レイ殿から
おっしゃらない限りは、なにも知らないフリをしていた方が得策でしょうな」
 ロダムがレイ=サイモンに対する方針をまとめる。了解したよ、司祭殿。


 なんて僕らがヒソヒソやっているところに、当の本人がやってきた。
「参ったね。競争になってしまったよ」
 世界退魔機構より指示。今回の試験は二人が競争し勝った方が合格とする、とのこと。
 はぁー? なんじゃそりゃ!!??

「完全におもしろがってるわ! なにを考えてるのかしら」
「私もそう抗議したんだが、本部の指示だ、の一点張りなんだ。よっぽど『西の二代目』
と『東の二代目』の対決を見たいらしい」
 おいおい。一級討伐士とかの特別職は、一度試験に落ちたら再試験は受けられないんだ
ろ? 落ちた方は二度と勇者に復帰できないってことじゃないのか。

352 :Stage.11 [7] ◆IFDQ/RcGKI :2007/11/20(火) 23:55:32 ID:i1b28PFw0

 僕がそう言うと、レイさんは首を振った。
「いや、それは1次試験の話で、本試験や更新試験は1年間の猶予がある。ここで不合格
になっても9ヶ月後の最終期日までに条件を満たせばいいんだ。その間は例の『特典』が
つかないんだが、まあそれは大したことじゃないがね」
 こうなったら今回は譲るよ、とレイさんは言う。どっちが勝つかはわからないが、更新
試験ならまだしも、本試験を落としたとなると今後の旅にも支障をきたすだろう、と気を
遣ってくれるんだけど――。
 それも変な話だろ。
「レイさんだって、勇者やってる一番の理由は、人々を苦しめてる魔王を倒して世の中を
平和にしたいからだろ? そういう人を支援するための制度じゃないのかよ、これ」
 僕の白けきった言葉に、レイさんもため息をついた。
「まったくだ。こんなくだらないことで貴重な人材を潰し合わせてどうする気なんだか」
「よし、私がもう一度かけ合ってみますっ」
 ロダムが憤然と立ち上がる。

 ……あーでも、ちょっと待てよ。

「ストップ、ロダム」
 いきなり止められ、つんのめりかけてレイさんに支えられるロダム。
「待って。競争はいいけど、なにを競争するの?」
「地下神殿の奥に奉られている宝物を、どちらが先に持ってくるか、だそうだよ」
「誰がそれを判定するの。同行する審判でもいるの?」
 そこで、僕が言わんとしていることを全員が理解したようだ。
「……協定を組む、ってことでいいのかな?」
 レイさんがニヤリと笑う。
 僕は、今度は自分の意志で手を差し出し、握手を交わした。



353 :Stage.11 atgk ◆IFDQ/RcGKI :2007/11/20(火) 23:56:40 ID:i1b28PFw0
本日はここまでです。
いきなり規制を食らってびっくり。文字数制限をオーバーしてました。
ギリギリ大丈夫かなーと思っていたのですが、慌てて再編成。
一度きちんと最大文字数を確認しないとダメですね。
ご支援ありがとうございました。

354 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/11/21(水) 00:31:18 ID:nbOOIxBh0
投下乙です
相変わらずすごい頭の回転の速さ・・・

355 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/11/21(水) 12:38:45 ID:dsy4PikC0
タツミさんと誕生日が同じなことが発覚(wwwww

投下乙でございます。
無事、二人とも合格できるといいですね。

356 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/11/21(水) 21:45:57 ID:dw0jLWY1O
誰か俺にこの世界の魔法原理を
もっと簡単に説明してくれ・・・

357 :冒険の書4 ◆8fpmfOs/7w :2007/11/22(木) 06:24:44 ID:bpgE70UD0
―結晶の結―(>>317-322

山奥の村を襲い勇者をしとめたつもりでいるピサロ。
生まれてから1度も出たことがない村を離れ1人で旅立つ勇者。
そこから運命的に集められ導かれし者達の物語が始まる。

やがて世界は平和になり、勇者は自分が旅立った場所に戻ってくる。
勇者の前にはシンシアの姿が現れる。
夢だろうか。幻だろうか。
いや彼女は確かにそこにいるのだ。

でも俺にはシンシアが見えない……

……昔、こんなことを言った人がいた。
「嘘をつくには覚悟が必要だ。たとえそれが相手のことを思う嘘であってもだ。」
誰が言ったことかは忘れたが何故だか印象に残っている。
この言葉のとおり、俺は嘘をつくために覚悟を決めた。

358 :冒険の書4 ◆8fpmfOs/7w :2007/11/22(木) 06:26:58 ID:bpgE70UD0
ブランカへ戻ってきた俺はシンシアを探し出した。
俺と買い物をした店を張っておけば見つかると踏んでいた。
シンシアと再会するのに思ったほどの時間はかからなかった。

俺はシンシアにこう切り出した。
「驚かないで聞いて欲しい。俺は君がやろうとしていることを知っている。」
シンシアは戸惑っていたようだが俺はかまわず続けた。
「いざというとき君が勇者の身代わりになろうとしていることだ……」
俺の言葉にシンシアはショックを受けたようだった。
当然だろう。これは絶対外に漏らしてはならないことなのだから。

これを打ち明けることで俺は彼女に殺されるかも知れないと思った。
秘密はなんとしても守る。彼女にその覚悟があることは良く知っていた。
俺が住んでいる場所を聞いたとき激しく拒絶したのも村の場所を隠すためだ。

しかし、俺は生きていた。彼女はただただ呆然としているだけだった。
自分の計画を俺が知っているという衝撃がよほど大きかったのだろう。
俺はここぞとばかりに彼女に語りかけた。
安心してくれ。勇者を守る方法がある。と。

彼女は俺の誘いに乗った。乗らざるを得なかった。
計画が外に漏れた以上、新しい計画を練る必要がある。
しかし彼女にそんなものを用意する余裕はないのだ。

それから最後の大仕事だった。
モンバーバラの姉妹が敵討ちの旅に出て、失意のうちに国を去る間。
この期間のうちに仕上げなければならない。

359 :冒険の書4 ◆8fpmfOs/7w :2007/11/22(木) 06:29:01 ID:bpgE70UD0
俺がやったことは偽りの村の作成。
偽りの村、張りぼての家、幻の住人……

俺は仲間たちとともにその作業に取り掛かる。
仲間というのはベロリンマンとキツネ。そしてシンシアだ。

親方から人を借りて山を開き土地を整備する。
シンシアの協力を得てドン=ガアデに村の外観を作ってもらう。
俺は稼いだ金で木材や石材を買いできる限り本物の村に見えるようにした。

その見てくれだけの村にキツネとベロリンマンが住人を配置する。
ベロリンマンのつくる幻の分身をキツネが人間そっくりに姿を変える。
この幻はアリーナですら見破れない。魔物でも見破れないだろう。
建物と住人が揃い、これで偽りの村の完成だ。
偽りの村という俺の嘘。この嘘がやがて大きな結晶になるのだ。

そしてこの偽りの村に魔物たちが襲い掛かってくる。ゲームのとおりに。
ただし村の住人は幻。シンシアの化けた勇者も含め全て幻。
木を隠すなら森の中。村人全てが偽者ならばかえって気づかれにくいはずだ。

ばれる危険がないわけではなかった。
だが、魔物たちはシンシアのモシャスだって見破れなかったではないか。
それにピサロは直接手を下していない。
ゲームの中では別の魔物が勇者をしとめたとピサロに報告していた。
勇者をしとめたつもりのその魔物は知能が低かったのだろう。
俺たちは安全な場所から幻の村が滅ぼされるのを待った。

山奥の村を襲い勇者をしとめたつもりでいるピサロは偽りの村を去った。
シンシアを殺そうとした罰だ。
ピサロはキツネに化かされた魔王として後世まで語り継がれてもらおう。

360 :冒険の書4 ◆8fpmfOs/7w :2007/11/22(木) 06:31:06 ID:bpgE70UD0
ここから本物の勇者が住む村に舞台は移る。
村人の住人はシンシアに説得してもらい協力してもらった。
今度は村に魔物の群れが襲い掛かってくるような幻を作り出す。
村人たちが地下の倉庫に勇者をつれて来る。
シンシアが勇者の元に行きモシャスで勇者の姿に変身する。
ただゲームと違いここでそっとラリホーを使い勇者を眠らせるのだ。
そして眠った勇者を偽りの村の跡地に連れて行く。
偽りの村にも元の村と同じつくりの地下倉庫は作っておいた。

勇者が眠りから覚めたころ魔物が襲う音をつくり勇者に聞かせる。
そして魔物とピサロのやり取りを再現して聞かせるのだ。
これは重要なことだ。勇者がピサロの名前を知るのはこのときなのだから。
勇者はまさか自分が元の村から離れた別の場所にいるとは気づかないだろう。
この極限状態だ。勇者は自分が眠ってしまったことさえ気づかなかったかもしれない。

やがて勇者は地下から出て村の惨劇を知る。偽物の村とは知らずに。
生まれてから1度も出たことがない村を離れ1人で旅立つ勇者。
勇者は村から出たことがない。だから本当の村がある場所を知らない。
このあとはゲームと同じだ。勇者は世界を回り、仲間を集め、世界を守る。

シンシアは俺のことを許してくれた。
勇者をだますことになるこの作戦に協力してくれたのだ。
村人たちの中には勇者の旅立ちに反対する者もいた。
全て嘘だったと明かし、勇者を鍛え育てようというのだ。
しかし、シンシアが彼らを説得し勇者は冒険を始めた。
「私たちは死んだの。死んでいる人間にできることは見守ることだけよ」
シンシア、君はやっぱり素敵だよ。

361 :冒険の書4 ◆8fpmfOs/7w :2007/11/22(木) 06:39:07 ID:bpgE70UD0
そして世界を平和にした勇者は自分の生まれ育った村に戻ってくる。
生まれ育った村だと信じている廃墟に。
ここで勇者の前にシンシアが現れる。エンディングのあのシーンのとおりに。
勇者は夢か幻だと思うかもしれない。でも、幻なのは襲われた村のほうだったのだ。

絶望的な未来を知ってしまったら、なんとしても回避しようとするだろう。
それができたのは俺だけだ。だけど俺はこの物語に干渉することはできない。
だからこの物語の中で俺がしたことは何もない。俺がプレイしたゲームと何も違いはない。
ゲームの出来事を変えないように俺は勇者と顔を合わせることすらしなかった。
俺は勝負に勝ったのだ。ゲーム上の表現に干渉せずシンシアを守るという大勝負に。

この嘘はピサロや勇者だけではなく画面の向こうの人間も騙したことだろう。
つまり、このドラクエ4をプレイする人間にも嘘をついたというわけだ。

ゲームのシンシアは身を挺し勇者を守って死んでしまうから美しいのかもしれない。
だけど俺はこうして出会ってしまった。そして惚れてしまったんだ。
たとえ年老いてしわくちゃになっても生き抜いて欲しいと思うのは当然じゃないか。

好きだと思う気持ちだけで人はここまでできるものなのだ。
人は好きなもののために全力を尽くす。とても凄いことじゃないか。
好きなことを素直に好きだと認めるのは勇気がいることだと思う。
人は自分が好きなものを他人に否定されることがいつの間にか怖くなるのだろう。
俺はドラクエが好きだ。姉ちゃんがドラクエから離れていっても関係ない。
姉ちゃんは自分の家族というもっと大切なものができただけなんだから。

小学生のとき俺は可愛い子を素直に可愛いと言える勇気があった。
でもだんだん臆病になって言ったんだと思う。
だから研究が好きだけどそれを素直に認めようとしなかったのかもしれない。

362 :冒険の書4 ◆8fpmfOs/7w :2007/11/22(木) 06:41:33 ID:bpgE70UD0
勇者が冒険をする間、キツネとベロリンマンは移民の町に渡った。
俺はシンシアと一緒にすごすことができた。夢のようなひと時だった。
でも、それは束の間の夢。ゲームが終了したことで俺は元の世界に帰るのだ。

不思議な声が俺に語りかけて選択を迫る。この地に残るか元の世界に戻るか。
これはマスタードラゴンの声だろうか。俺は元の世界に戻ることを選んだ。
俺の選択を受け入れて、その声は俺に気をつけて帰れよと言う。
あんたも自分の城に帰る時はトロッコに気をつけろと言いたかったがやめた。
世の中知らないほうがいいこともあるものだ。

俺はここに残らないほうがいい。これは考え抜いた末の行動なんだ。
シンシアには勇者がいる。きっと彼がシンシアを幸せにしてくれるのだろう。
ネズミの嫁入りではないが、一番近くにいた人と結ばれるのが幸せなのだ。
この結末は俺にとってハッピーエンドだといえるのか分からない。
でも、これでいいのだ。
俺は勇者の気持ちになっていた。だから勇者が本当に守りたかったものを守ったまでだ。

俺は大切なものを守るため大きな嘘をついた。偽りの村を作り出すという大きな嘘を。
だけど、それだけじゃなく俺は自分の気持ちにも嘘をついていたのではないだろうか。
……もしかしたら俺は自分に嘘をつき無理やり自分を納得させていただけかもしれない。

この世界から俺の姿が消えていく。
せめて最後に一目だけ、シンシアの、君の姿を見せてくれ。
でも俺にはシンシアが見えない。
シンシアは勇者と抱き合って、俺には勇者の後姿しか見えない。
もじゃもじゃした髪の毛しか……

え。もじゃもじゃ?
ちょっと待て! ひょっとしてこの世界の勇者って女?!

―完―

363 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/11/22(木) 08:48:51 ID:SOFYQ0x/0
完結おめ!

ちょwwwwwラストwwwwwwwwww

364 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/11/22(木) 10:01:46 ID:gjwwUmahO
乙!!
短編らしく綺麗にまとめられてて読みやすかった!

365 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/11/22(木) 10:05:13 ID:9Aaxugk50
すごい話だと感動して読んでいたらラストにふいたwwww
これは予想外wwww

366 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/11/22(木) 10:41:21 ID:0OeLdVDH0
女w勇w者wwwww

367 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/11/22(木) 11:45:48 ID:VZNdZ1LP0
いい話ぢゃのう・・。
結局、村ひとつを救ったことになるのだし、世界も平和になったものね。
まあ、勇者のために身を引いたら女勇者だったというのはorzだけど、元の世界に戻って、これでよかったのかもしれないね。

368 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/11/22(木) 12:49:29 ID:tn2+xU2J0
>>362

これは凄い
ゲーム内ネタで綺麗にまとまってるしオチも利いてる
DS版4の発売日に完結させたのもグッド
巧いね

369 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/11/22(木) 16:48:51 ID:iwK910l10
>>362
ナイスファイト!
いい話だったが、俺の30秒前の感動を返せwww

370 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/11/22(木) 19:51:38 ID:P5RRv+OkO
主人公GJ!
DS版の4は女勇者でやってみようかなw

371 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/11/22(木) 21:57:11 ID:P6XE4tfF0
最後のどんでん返しに吹いたがGJ!

372 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/11/23(金) 01:23:02 ID:t3eJ9yDfO
GJ! こんなシンシア復活説は初めて見た。
村人も皆生きてるわけだし、シナリオの隙間をうまく繋げててすごいな。

373 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/11/23(金) 03:03:13 ID:9iUBAyDg0
面白かったよ乙

>シナリオの隙間
まるで針の穴を通すようだったな。

374 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/11/23(金) 19:53:12 ID:OduXaUN10
おお、奇麗にまとめたなあ。おつかれ。
始まったときはもう少し壮大なストーリーになるかと思ってたのが残念だけど、
これはこれで驚かされた。

375 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/11/25(日) 19:51:04 ID:K9OdgXDEO


376 :作り合わされし世界 ◆YB893TRAPM :2007/11/25(日) 20:03:22 ID:q0tmYPQm0
1.宿の中の三人組

その宿屋の部屋には三人の人間がいた。
静かな部屋だった。部屋の中にあるのは窓の外から聞こえる町の雑踏の音だけだった。
その部屋に小さなうめき声がかすかにした。

「目が覚めたみたいだね。ええと、名前は何ていうの?」
緑色の頭巾をかぶった少年が尋ねた。
「私の名前ですか? そうですね、サクヤとでも呼んでください」
ベッドの上でサクヤが答える。
「ではサクヤ。君は自分に何が起きたのか分かるかい?」
今度は赤いバンダナで頭を覆った少年が聞いた。
サクヤは目をつぶり首を横に振った。
「じゃあ、君はどこに住んでいて何をしているの?」
頭巾の少年が優しく問いかける。しかしサクヤは申し訳なさそうにこう言った。
「わかりません。覚えていないのです」

緑色の頭巾をかぶった少年の名はセブン。
赤いバンダナで頭を覆った少年の名はエイト。
どちらも優しそうな目つきをしていた。

377 :作り合わされし世界 ◆YB893TRAPM :2007/11/25(日) 20:04:55 ID:q0tmYPQm0
「記憶を失っている割にはあまり焦っているようには見えないな」
エイトが冗談でも言う様な口調で話しかける。
「そうですね。弱みは見せるものではなく付け込むものですから」
サクヤも同じような口調で答える。
「なんてね。正直分からないことだらけで慌てる余裕すらないのですよ」

サクヤはどうして自分がこんなところにいるかも理解していなかった。
ただ自分はこの世界にとっていわば招かざる客であると感じていた。
そのため、安直であるとは思ったが記憶喪失を装うことにしたのだった。

「それで、なぜ私はこんなところにいるのでしょうか」
「君はこの付近の海岸で倒れていたのさ」
「だから僕たちでここに、グランエスタードの宿屋に運び込んだんだよ」
サクヤの問いかけにエイトとセブンが答える。

「君は三日間も眠っていたのさ」
この二人は見ず知らずの自分を三日間ずっと看病していてくれたのだろうか。
エイトの言葉を聞きサクヤはそんなことを思った。そして素直に礼を言うことにした。
「そうでしたか。助けていただきありがとうございました」
「サクヤはどうしてそんなとことにいたのか思い出せない?」
サクヤは再び静かに首を横に振った。

378 :作り合わされし世界 ◆YB893TRAPM :2007/11/25(日) 20:06:27 ID:q0tmYPQm0
部屋の中には音はなく、ただガヤガヤと外の音が漏れ入ってくる。

「何か身元が分かるものがあればよかったのだがな」
エイトはサクヤの持ち物を調べていた。
しかし、持ち物といえば石でできた板のようなものだけだった。
「もしかしてこれって石版のかけらじゃないかな」
セブンがその石に興味を持った。彼の世界では石版は重要な意味を持っていた。
「でも、ボクの知っているものとは少し違うみたいだね」

「よろしければあなたの知っている石版について教えていただけませんか?」
サクヤの頼みにセブンが答える。
セブンの世界では石版は世界の一部を封印するほどの力を持ったものであること。
ばらばらになった石版をひとつにあわせることで封印された世界にいけること。
その世界が封印された原因を取り除くことで封印が解かれること。
「世界を封印か。すごいアイテムがあったものだ」
エイトがため息をつく。
「世界を封印した奴は僕が倒したんだけどね」
セブンの言葉にエイトが応じる。
「それほどの魔物を倒すとは見かけによらず腕に覚えがあるんだな」
「エイトだって多くのモンスターを倒してきたんでしょ?」
セブンとエイトのやり取りを聞いてサクヤは頭を抑えた。

379 :作り合わされし世界 ◆YB893TRAPM :2007/11/25(日) 20:08:00 ID:q0tmYPQm0
「大丈夫? 頭が痛いの?」
「いえ、この異世界での身の振り方を考えていたところです」
心配するセブンに対し伏目がちにサクヤは答えた。
「身の振り方?」
「ええ、もしかしたら自分は物凄いところにいるのではないかと思いまして」
サクヤの顔色が悪くなる。
「サクヤのいた世界では魔物というのは馴染みのないことなのか」
エイトが驚いたように言った。
「僕の住んでいるところだって元々はモンスターはいなかったんだよ」
セブンの慰めの言葉はサクヤにとって何の意味もなかった。

「でも最近またモンスターが出るようになったよね」
「ああ。もしかすると新たな魔王が現れたのかもな」
セブンにエイトが答える。
「この石版もその魔王が何かを封印したものかもしれないね」

「封印されているのはサクヤ自身かもしれないわよ!」
突然部屋の隅においてある樽の陰から少女が飛び出した。
サクヤとエイトは突然の出来事に戸惑った。
「何をしてるのマリベル……」
セブンは1人困ったようにつぶやいていた。

静かだった部屋は瞬く間ににぎやかになった。

380 :作り合わされし世界 ◆YB893TRAPM :2007/11/25(日) 20:09:31 ID:q0tmYPQm0
セブンはマリベルを幼馴染だと紹介した。
マリベルはセブンがこの三日宿屋に来ているのを知り忍び込んでいた。
「つまり、マリベルはセブンのことが気になって調べようとしたのだな」
「違うわよ! 私はセブンが私に内緒で面白いことをしていると思っただけ!」
「気になるってのはそういう意味で言ったつもりだ」
にやりと笑ってそう指摘するエイトの台詞にマリベルはより慌てふためいた。

「面白いことを言っていましたね。私が封印されているとか」
エイトとマリベルのやり取りをさえぎってサクヤが話を戻す。
「そう! 私の推理では封印されているのは異世界の人間であるあなたなのよ!」
「ねえ、マリベル異世界ってどういうことなの」
「マリベル様の耳は誤魔化せないわ! サクヤは確かに異世界と言ったのよ!」
「…確かに言っていますね」
サクヤは異世界での身の振り方を考えると言っていた。
「あんたは無意識にここが異世界だと思った。つまりあんたは異世界の人間だったのよ!」

381 :作り合わされし世界 ◆YB893TRAPM :2007/11/25(日) 20:11:03 ID:q0tmYPQm0
「サクヤが異世界の人間だとして、どうして封印されているこのになるんだ?」
エイトの疑問にマリベルが答える。
「島が封印されていたとき、その島ごとこの世界から消え去ったわ!」
「そうだったね」
「逆に異世界のものが封印されればこの世界に来てもおかしくないじゃない!」
「それは無理があるんじゃ――」
セブンの言葉をさえぎってサクヤが疑問を口にする。
「封印されているとすればどうすれば封印は解かれるのでしょうか?」
「どこかに石版を納める台座があるはずよ。私たちの知っている石版と同じならね」

「でもまだサクヤが封印されているって決まったわけじゃないよ」
「私はこの話に非常に興味があります。ほかに手がかりもありませんし」
セブンの心配をよそにサクヤがマリベルの考えに関心を持った。
「ひとつこれからのことを占ってみると言うのはどうだい?」
それまで黙って話を聞いていたエイトが提案する。
「闇雲に行動するよりはこれからすべきことが見えてくるかもしれないぞ」

窓の外にはきれいな青空が広がっていた。

382 : ◆YB893TRAPM :2007/11/25(日) 20:12:12 ID:q0tmYPQm0
本日はここまでです。

383 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/11/26(月) 02:23:38 ID:0HzmuWDZ0
合作キテター
さらに主人公追加?
いつもの「→冒険をする」がないのは意味ありげな

384 : ◆Y0.K8lGEMA :2007/11/27(火) 02:04:10 ID:MvAkJ9vU0
第十一話前半投下します。

LOAD DATA 第十話後半 >>333-337

385 :紫焔一閃【1】 ◆Y0.K8lGEMA :2007/11/27(火) 02:07:37 ID:MvAkJ9vU0
太陽は高い位置から俺達を見下ろしている。
清々しい日差しがステンドグラスから差し込み、十字架を七色に照らす。
麗かな昼下がり…なのに、俺達の心はどんよりと淀んでいる。

サトチーの腕の中で一通り暴れ、突然電池が切れたように気を失ったブラウン。
ぐったりと動かなくなったブラウンは、シスター達によって治療を受けている。

「ブラウンちゃんは大丈夫。眠っているだけみたいですよ。」
寝室から出てきたマリアの言葉を聞いたサトチーの表情に安堵の色が浮かぶ。
恐らく、俺も同じ表情をしているだろう。

だが、マリアはその青い視線を床に向ける。
「ただ、目が覚めた時に正気に戻っているかどうかは…」
「…その心配はない…だろう…」

気落ちしたようなマリアの言葉を遮るのはスミス。
ブラウンが気になったのか、無理をして日光の中に歩み出たのだろう。
その濁った瞳を眩しそうにこすっている。

「…あの時…ブラウンはプロトキラーの一撃で気を失っていたな…
 …幼いモンスターにはよくある事だが…意識がない状態で強い魔性に触れた時…
 一時的にその意識が魔に支配される事がある…ブラウンの異変はそれだろう…
 意識が戻れば…魔性の呪縛からも開放されている…筈だ…」

…なるほどねぇ…って、俺にはさっぱり理解できない…

「ちょっと待って。あの場にいたのは僕達三人と、あの機械と兵士だけだよ。
 どこに強い魔性の発生源があったって言うんだい?」
サトチーの横槍に、スミスがちらりと俺の方を見る…え?俺?

「知らぬ…」

386 :紫焔一閃【2】 ◆Y0.K8lGEMA :2007/11/27(火) 02:11:28 ID:MvAkJ9vU0
「……ていっ!」 びしっ!
「……なんのつもりだ?」

ヘンリーのチョップがスミスの頭部に打ち込まれる。
痛みを感じないスミスには全然効いてねえみたいだけど…

「なんのつもり?それはこっちのセリフだろうがよ。スミスの旦那ぁ。
 大層な講釈を並べておいて知らねえはなしだろうが。」
「…ふむ…ならば表現を変えよう…確信はしているが…肝心の確証がない…
 半端な考察を論じた所で…混乱を招くだけだろう…」

チンピラのように絡むヘンリーを冷静に受け流す。
スミスの言う事はもっともだが、どうにも釈然としない。

「…教会の空気は私には合わぬ…サトチー卿…私は馬車で待たせてもらう…」

うやうやしくサトチーに礼をし、修道院から出て行こうとするスミス。
開け放たれた修道院の門から差し込む太陽の光に、眩しそうに手をかざす。
貴族のような振る舞い…従者のような気配り…学者のような知性…
生前のスミスはどんな人間だったんだろう。

「…そうだ!スミス!」

俺の呼びかけに振り向いたスミスに駆け寄り、カバンから出した物を手渡す。

「サングラス…っていうんだけどさ、これを使えば眩しくないだろ?」
「…異世界の色眼鏡か…なかなか良いものだ…ありがとう…」

サングラスを装着したスミスに礼を言われ、思わず後ずさりする。

血色の悪い顔色…バサバサの髪の毛…ボロボロの衣服…そしてサングラス…
似合ってる…似合ってるんだけど…似合い過ぎてなんかヤダ。

387 :紫焔一閃【3】 ◆Y0.K8lGEMA :2007/11/27(火) 02:15:28 ID:MvAkJ9vU0
        ◇           ◇
「しっかし、あれは説得って言うのかねえ。」
小さな鍵をチャラチャラと振り回しながらヘンリーに問い掛ける。

修道院を襲撃した兵士は、ヘンリーの説得で小さな鍵を俺達に手渡した。
『私は先代のラインハット国王に忠誠を誓った身。
 先代の王亡き今、私の主君はデール様ではなくラインハット王国そのもの。
 裏切りではなく、私は王国の未来の為にヘンリー様にこれを託します。
 …あ…だから…カエルはもう…ひいぃぃ…』

どう見ても拷問です。本当に(ry

「トムの奴もずっと苦しんでたんだろうな…」
真正面を見据えながら、ヘンリーが短く答える。

あの兵士もラインハットの異変には気付いていたに違いない。
異変に気付きながら、一介の兵士の身では何も出来ず…
愛国心と忠誠心の間で苦しんでいた。
―王国の未来の為― あれが彼の本音なのだろう。

「終わらそう。あいつの苦しみも…ラインハット王国の悲しみも全部。」
普段とは違う、静かなヘンリーの言葉で一気に気合が入る。

「俺も微力ながらお手伝いさせてもらいますぜ。お・や・ぶ・ん。」
「頼りにしてるぞ。なんてったって、ヘンリー様自慢の子分だもんな。」

緊張して然るべき状況を笑い合いながら歩く二人。
気が緩んでるわけではない。むしろ、千切れ飛びそうに張り詰めている。
それを隠すかのように、互いに笑ってみせる。

ウシッ!行くぞ。今度はこっちから仕掛ける番だ。

388 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/11/27(火) 02:16:09 ID:PuBO+dTSO
初リアル遭遇紫煙

389 :紫焔一閃【4】 ◆Y0.K8lGEMA :2007/11/27(火) 02:19:04 ID:MvAkJ9vU0
「なあ…念のためもう一度聞くけど…本当に飛び込んで平気なんだな?」
「平気だって。イサミは肝っ玉の小せえ奴だなあ。」

正直ビビってます。何にって…目の前で煌々と輝きながら渦を巻く水色の光。
これがトムから教えられた第二の抜け道。
修道院の南に広がる森からラインハット城の一室に繋がる旅の扉。
例えるなら転送装置みたいなものか…俺の世界には存在しないけど…

「…他に抜け道はないんだな?…マジでコレしかないんだな?」

自分でもヘタレだと思うが、デカイ洗濯機のような光景はマジで怖い。
そのデカイ洗濯機に飛び込もうと言うのだから、嫌でも慎重になる。

何度も念を押す俺に痺れを切らしたのか、ヘンリーが後ろから背中を押す。
「ほれ、チャッチャと行った行った。」
「…ちょ…ば…押すな!まだ心の準備がああぁぁぁ…」

濃淡のある水色が縞模様となって景色を覆い、次第に視界が水色の帯に侵食される。
どっちが上でどっちが下だかもわからない奇妙な浮遊感。
息は出来るので溺れる心配はないみたいだ…が……気持ち悪りぃ…

グニャグニャと捻じ曲がる視界にじっと耐えていると、靴の裏に固い質感を感じた。
水色の帯が霧散し、数秒前とは違った景色が視界に入る。

「な?大丈夫だっただろ?」
「…あぁ…大丈夫だ…けど…二度と使いたくねえ…」
「気分が落ち着いたら行くぞ。そろそろ予定の時間だ。」

本が散らばっている部屋…城の書庫だろうか?その部屋の扉をそぉっと開ける…
その動作は扉の向こうから聞こえる声によって止められた。

「やはりトムは裏切りましたか…まあ、予想通りですがね…」

390 :紫焔一閃【5】 ◆Y0.K8lGEMA :2007/11/27(火) 02:20:54 ID:MvAkJ9vU0
「はぁ…この国は凄腕の軍師でも雇ってるのかよ?」

ヘンリーが観念したように扉を開ける。
扉の向こう側。中庭にずらりと並ぶラインハット兵。その後方に控える金髪の王。
いい加減、気が滅入る。こっちの手はお見通しってわけですかい。

「そんなに誉められる事でもないでしょう?僕は万が一を見逃せないだけです。」

壁のように立ち塞がる兵士達が俺達に槍を向ける。
冷たい笑みをうかべ、悦に入ったような表情で続けられる王の演説。

「万が一、プロトキラーが敗れたら…次はそちらが反撃に出てくるでしょう。
 聡明な兄なら、同じ失敗は避ける筈。前回と同じ道を使うとは考えられない。
 ならば、どこから浸入してくるか…不毛な読み合いは時間と労力の無駄です。
 経路を一つ残しておけば、相手は勝手にそこから侵入してくるのですからね。」
「君は敢えてトムさんに鍵を渡しておいた…って事かい?」
「兄を可愛がっていたトムの事です。彼が本気で兄に剣を向けるとは期待しません。
 あなた達は僕の期待通りにプロトキラーを撃退し、僕の期待通りに策を巡らせ、
 期待通りの方法で侵入してくれた。感謝しますよ。期待通りの働きをありがとう。」

「そりゃどうも。俺としても、お前が頭の切れる奴で良かったよ。」
ニヤリと笑うヘンリーに、怪訝そうな顔を向けるデール。

本当、期待通り…だとしたら悪い事したなあ。

死角で起こった異変…知っていた者はいても、気付く者はいなかった。
王の背後…中庭の一角の地面が跳ね上がり、地面の下から二つの影が飛び出した。

「鏡よ!力を示せ!!」

作戦成功。見事に釣り針に食いついた。
鏡を持った本隊はサトチー・ブラウンの二人だ。

391 :紫焔一閃【6】 ◆Y0.K8lGEMA :2007/11/27(火) 02:26:21 ID:MvAkJ9vU0
兵達は突然の事態に反応できない。自分の世界に入っていた王は尚更だ。
中庭に構える隊列の背後を取ったサトチーが、ラーの鏡をデールに向ける。

太陽がもう一つ現れたかのような眩い光の奔流。
鏡から発せられた光の帯がデールを飲み込む。

旅の扉から侵入する俺達とは別に、地下から浸入していたサトチーとブラウン。
聡明で狡猾なデールの事、俺達が前回と同じ道を使うとは考えないだろう。
恐らく、兵を率いて扉の出口で待ち構えている筈だというヘンリーの読み。
なら、俺達が囮となってデール達の視線を集中させ、油断した隙を狙う作戦。

兄より優れた弟など存在しねえ!!…ちょっと違うか。

「う…ああああぁぁぁぁぁぁぁぁアアアァァァァ!!!」

王を包み込んでいた光が収縮し、次第に細くなる。
細く、それでもなお一点に集中する光の帯がデールの胸を突き刺す。

完全にもらった。不毛な読み合いは俺達の勝ちだな。

とさり…と、静かに王が倒れると同時に光は消えた。

「デール!!」
「大丈夫…呼吸はしっかりしているし外傷もない。命に別状はないよ。」

倒れたデールに駆け寄り、その身を助け起こすヘンリーと回復を施すサトチー。
兵士達は事態が飲み込めないのか、放心状態で動けない。
俺とブラウンは周囲を取り囲む兵士の動きに集中する。
烏合の衆と化した兵達をかき分け、無言のまま俺達の輪に入る女。
サトチーの手によって地下牢から助け出された大后。

母親だもんな。息子が心配にもなるだろうさ。

392 :紫焔一閃【7】 ◆Y0.K8lGEMA :2007/11/27(火) 02:27:44 ID:MvAkJ9vU0
「…デール…」

顔に付着した埃を払うでもなく、薄汚いドレスのままゆっくりと近付く大后。
感動の対面ってヤツか…大后の手に握られたナイフの輝きが目にしみるねえ。

…ん?

…何でナイフ??

「デエェルウゥ!!」
大后が夜叉の形相でデールにナイフを振りかざす。
兵士達だけではなく、突然の事態に反応できないのは俺達も同じ。

…ただ一人を除いて。

何十年も前の無声映画のように流れる光景。
鈍い輝きを放つナイフが、デールの体に吸い込まれるように突き出される。
刹那、緑色の髪が鈍い輝きの前に立ち塞がり、狂乱する鬼女を突き飛ばす。
もんどりうって倒れる鬼女をに飛びかかり、組み伏せる緑色の髪の男。
鬼女を押さえつける腕から滲み出す真紅が緑色の髪に映える。

我に返る。
何が起こったのか理解できない俺の耳に狂騒が飛び込む。

「放せ!このガキだけは…」
「何を考えてるんだ!あんたはデールの母親だろ!!」
「黙れ!黙れ黙れ黙れぇ!このガキゃあ散々俺さまに歯向かいやがって。
 挙句の果てには俺様を牢になんぞぶち込みやがった。絶対に許せねえ!!
 こいつのお陰でラインハットを乗っ取る計画は全部ぶち壊しだ!!」

は?…何を言ってるんだ?ラインハットを乗っ取る?

393 :紫焔一閃【8】 ◆Y0.K8lGEMA :2007/11/27(火) 02:30:38 ID:MvAkJ9vU0
「…見るに耐えませんね…」

澄んだ声…濁った声…どちらとも形容できる声。
いつからそこにいたのか、紫のドレスを身に纏った女がデールの傍らに佇む。
一般的な尺度でいえば綺麗の部類に属するであろう造形は作り物の様に冷たい。
その女は俺達に向き直り、目だけで笑う。それは心が焼かれるような残酷な目。

「少しだけお待ち頂けますか?今すぐにゴミを処分しますので。」

サトチーがビクリと大袈裟とも思える反応を示す。
俺もヘンリーも言葉が出て来ない…蛇に睨まれた蛙の心境ってやつか…

「俺様をゴミだと?このアマ…消し炭になって非礼を償えやぁ!」

大后の顔が、体型が、姿が変形し、その裂けた口から紅蓮の業火が迸る。
女は避けようとも防ごうともせず、そのまま燃え盛る炎に飲み込まれ…
炎が花火のように八方に散った。そこには先程の妖艶な女の姿はない。
四散した炎の中央から表れたのは…紫色の闇…

「ほっほっほ…道理はわきまえているようですね。正解ですよ。」

闇色の魔女がかざした手の先に現れたのは、紅い闇色の太陽。

「お前の言う通り、ゴミは焼却処分するのが正解ですからね。」
「な…何で大将がここに…話が違うじゃねえk…」

魔女が放つ紅い闇色の太陽は、悲鳴をあげる執行猶予すらも与えない。
肉の焼ける匂いと蒸発音だけを発し、大后であったモノは消し炭すら残さず消えた。

「ゲマァッ!!」

吼えるサトチーの瞳に、魔女が放った物と同じ色の炎が浮かぶ…そう見えた。

394 : ◆Y0.K8lGEMA :2007/11/27(火) 02:32:58 ID:MvAkJ9vU0
真打登場した所で、今日の投下はここまでです。
偽大后とのバトル?…ほっほっほ、知りませんよ。

395 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/11/27(火) 02:37:46 ID:MtPhmK3O0
まさかのゲマ登場に身震いした

396 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/11/27(火) 08:32:04 ID:r+YCHqKE0
なんか凄い展開になってる件。とりあえず乙。
真面目にwktkが止まらない。先が楽しみすぎる。

397 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/11/27(火) 10:06:55 ID:gFAChP0f0
お前等なんかせいぜいただの村人でよくてドラキーまでしか倒せないだろうからあんま考えなくていいよ

398 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/11/27(火) 10:16:11 ID:dcvAL4Cm0
まさかゲマが出てくるとは思わなかった
まだ鳥肌がおさまらん乙!

399 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/11/27(火) 11:31:24 ID:loMnsTzR0
むむむ?
ラーの鏡で、姿が戻らなかったということは、やはり悪行をつくしていたのはデール本人なのだろうか。
しかも、ゲマまで出てきてびっくり。

400 :ドラクエ3 ロマリア編5 ◆Tz30R5o5VI :2007/11/28(水) 14:06:48 ID:8sctG+82O
ロマリアの国王「わっはっは。よく来てくれたな、勇者の息子ゆきひろよ! 立ち話もなんだからどこかくつろげる所に行こうではないか。ん? うわっはははは! しかしオルテガの息子は聡明な顔立ちをしておる! わしの若いころにそっくりじゃい!!」
なるほど・・・これは確かに色々な意味でめんどくさい事になりそうではあるような・・・。
まあ拒否権などないのだから、さっさと、話を聞いてしまうしかないだろう・・・。
女武闘家エリー「で、用件はなんなのよ?」
案の定、エリーが国王に先に聞いてしまった。
女僧侶ナナ「エリー・・・」
ロマリアの国王「カンダタという小悪党がおってな・・・。我が国の国宝『金の王冠』が盗まれてしまったのじゃ! なんとかしてくれんかのう。取り戻してくれたら、なにかそのぶんの礼をさせてもらうぞ・・・うむ」
ぼく(男勇者ゆきひろ)「手がかりはありますか」
ロマリアの国王「まあ、あれじゃ。北のカザー・・・・・・??の村でカンダタを見た、・・・という情報くらいしかないんじゃ・・・すまんの」
男戦士サイモン「礼ってのは、期待していいのかい? 慈善事業とはいえ、もらえるものはもらっときたくてなあ、王サマ?」
女僧侶ナナ「サイモン! あなたは・・・」
ロマリアの国王「モチのロンじゃ、我が国の姫でも、わしの地位でも、金でも何でもやろう!! ・・・という勢いはあるほどじゃ(小声)」
とにかく北に行くか。

401 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/11/28(水) 14:31:59 ID:iLEB4Isx0
支援だよもん。
ていうか投下中なのかな?今回の投下終了なのかな。

ロマリアの王様、お調子者だのう。

402 :紫焔一閃【9】 ◆Y0.K8lGEMA :2007/11/28(水) 17:29:24 ID:c1qvqYwC0
怒り…悲しみ…嘆き…恨み…一言では到底表現しきれない感情の色。
この世界に存在する全ての負の感情が入り混じった様な色。

怖い…

サトチーを初めて怖いと思った。

「ゲマ!お前だけはっ…!!」

感情をあらわに飛び掛るサトチーの一撃に対し、魔女は一息をついただけ。
そう、小さく息を吐くだけの動作にしか見えなかった。

ふうっ と、青白い吐息を一瞬吹きかけただけで、辺りの温度が急激に低下する。
チェーンクロスはガラスのように砕け散り、一瞬固まったサトチーが崩れ落ちる。

「ほっほっほ…10年振りの再会だというのに穏やかではありませんね。
意識だけは残しておきますから、少し頭を冷やしなさい。」

零下の余波は周囲一体を飲み込み、冷たく輝く風の牙となって中庭を吹き抜ける。
まぶたが、鼻が凍りつく。一瞬で意識から引っこ抜かれそうな寒風。
ブラウンと俺は身を寄せ合って寒さを凌ぐ事しか出来ない。

ヘンリーは倒れたデールに覆い被さり、冷気の直撃から弟を守っている。
その向こう側では、体を半分凍りつかせた兵士達が次々に倒れる。

シャレにならねえ…マジで殺られる…

痛いまでに全身を突き刺していた冷気が止み、再び顔を出す太陽。

格の違い…無防備な目の前の魔女が放つ強烈な重圧に足が震え出す。
居るだけ、そこに存在するだけで周囲を圧倒する絶対的な威圧感。
横に立つヘンリーとブラウンも同じく、その両膝がガクガクと震えている。

403 :紫焔一閃【10】 ◆Y0.K8lGEMA :2007/11/28(水) 17:31:06 ID:c1qvqYwC0
「お…お前がラインハットを狂わせてた元凶だってのかよ…俺達に何の恨みが…」

寒さのせいではなく、心の底から震える声で魔女に問い掛けるヘンリー。
対して、ゲマは俺達を見下したような高笑いを発しながら語る。

「ほっほっほ…勘違いなさらないで下さい。私はただの観客ですよ。
 私は王の傍で成り行きを見ていただけ、私自身は何も手を下していませんよ。
 先程のゴミも演技力だけはあったようですが、何も出来なかったようですしね。」
「だったら…デールは…そうだ!本物の大后はどうしたって言うんだよ!」
「言ったでしょう?私は居ただけですよ。大事な兄を失った子供の傍にね。
 ほぉっほっほっほ…やはり観劇は特等席で見なければ臨場感を味わえませんね。
 消えた兄を思う弟の気持ち、遠い地で弟を思う兄の気持ち、堪能させて頂きました。
 せめてものお礼です。受け取りなさい。」

魔女が指をかざす先、何もない空間から人の姿が現れる。
刺々しい鎖で空中に縛り付けられているのは、豪華な衣装を身に纏った初老の女。

「おやおや…大后を魔界に幽閉したのは失敗でしたか?呪縛が解けませんね。」
「て…てめえ…ふざけてねえでさっさと…」

ようやく搾り出した俺の声は魔女の一睨みで止められる。
情けねえ…

「それは、天空の剣…ですか?」

俺を睨みつける表情を緩め、笑みを浮かべる魔女。
魔女が指差すのは俺の背に納められた剣。

「天空の剣の剣閃は一切の魔を祓うと伝わりますが…果たしてどうですかね?
 その剣の力をもってすれば、大后を縛り付ける呪縛を解く事も可能でしょうが、
 ほっほっほ…貴方にその剣の力が引き出せますかね?」

404 :紫焔一閃【11】 ◆Y0.K8lGEMA :2007/11/28(水) 17:32:11 ID:c1qvqYwC0
俺の背に背負われた剣。
一切の魔を祓う天空の剣
嘗て、天より舞い降りた伝説の勇者が用いた剣。
この世界と魔界との境界を切り開く伝説の剣。

でも…今、この剣を振るう俺は…

するり と、鞘から剣を引き出し構える。
…が、この後どうすれば良い?

「イサミさん!母上を助けて!」
目を覚ましたデールの懇願が俺の目を覚ます。

「イサミ…お前は俺の子分だ…俺が見込んだお前なら出来る。」
肩を叩くヘンリーの言葉が俺の背を押す。

―!!!―
ブラウンの声援が俺の両腕を持ち上げる。

「…イサミ…君なら…大丈夫だ…」
凍てついた体のまま発せられたサトチーの激励が俺の中に火を点ける。

俺は天空の勇者なんかじゃない…普通の大学生で…今はただの住所不定無職異邦人。
でも、今の状況を何とかしたいと思うのは…親友の声に応えたいと思うのは…
親友を守りたいと思うのは…勇者なんかじゃない俺でも一緒だ。

やってやる!

―オオオォォォ!!―

咆哮と共に振り上げた俺の両腕に力が発現するを感じた。
力が腕から手を伝い、剣に流れ込むのを感じた。

405 :紫焔一閃【12】 ◆Y0.K8lGEMA :2007/11/28(水) 17:33:59 ID:c1qvqYwC0
「…ッリャアアアァァァァァ!!!」

真白い光景だけが目の前を支配する…何も見えない…けど、
一心で振り下ろされた剣の先から、全ての力が流れ出すのを感じた。
俺の中の色んな物が流れ出すのを感じた。

立っていられない疲労感…思わず膝をつく。
脱力感…俺の手から力が抜け、剣が音をたてて地に落ちる。
同時に、霧が晴れるように視界が元の色を取り戻す。

支えを失ったかのように落下する大后を、デールがギリギリで受け止めた。

ウシッ!…とか、やってらんねえ…マジしんどい。
いやいや、まだへばってられねえ。あの紫の鬼ババアを…

「ほっほっほ…見事に魔界の呪縛を解きましたか。しかと見届けましたよ。」

高笑いを浮かべる魔女に剣を向ける…ハッタリだけどな。
戦う力なんか少しも残ってやいねえ。

「無理はなさらない方が良いでしょう。ここで貴方達を殺す気はありません。
 残念ながら、そこまでの自由は許されていないようですからね。」
「待て!お前だけは絶対に…」

紫色の霧に包まれる魔女にサトチーが追いすがる。
その足はふらふらとしておぼつかず、再び地面に倒れ伏す。

「ほっほっほ…それではごきげんよう。サトチーと…ホコロビ…
 いずれまたお会いしましょう。それまでその命を大事になさい。」

紫色の霧の中、高笑いを残して魔女は消えた。

406 :紫焔一閃【13】 ◆Y0.K8lGEMA :2007/11/28(水) 17:35:08 ID:c1qvqYwC0
「ゲマ!…次こそは…必ず…」
サトチーが虚空に向かって吼える。

…あの鬼ババア、何がしたかったんだ?
全然、聞き足りないのに言いたい事だけ言って帰りやがった。

いや…ここでバトらなかったのは助かったけどさ…
次こそは、か…会いたくないな、出来る事なら二度と…

「後味悪りいけど、デールのやつも正気に戻ったみたいだし…これで一段落か。」

力が抜けたように座り込むヘンリー。
デールは子供の様な表情で大后に泣きすがっている。

「まあ…一件落着なのかな?」
「本当にありがとうな。これできっとラインハットも立ち直る。
 サトチーと、イサミと…この剣のお陰だな。」

地に落ちた剣を拾い上げ、俺に手渡すヘンリー。
その手から剣を受け取り、背中の鞘に戻す。

少しずつ傾きつつある太陽の光を受け、竜のレリーフがきらりと光った。



イサミ  LV 16
職業:異邦人
HP:4/77
MP:0/15
装備:E天空の剣 E鎖帷子
持ち物:カバン(ガム他)
呪文・特技:岩石落とし(未完成) 安らぎの歌 足払い ―――

407 : ◆Y0.K8lGEMA :2007/11/28(水) 17:38:34 ID:c1qvqYwC0
第十一話投下完了です。
長かったラインハット編も次で終了です。

…そう言えば、まだラインハットだったんだ…

408 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/11/28(水) 18:10:17 ID:V+J9AxuG0
投下乙でございました。
みんなの応援で天空の剣の力の発現、かっこよかったです。

ほ、ホコロビ。
うーん、気になる。小さなホコロビでもそこから大きな穴があくことがありますからね。

409 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/11/28(水) 19:56:10 ID:8FEhk7J50
乙。ひと段落は着いたのかね。イサミくん頑張ってていい感じ。
まだ青年編の序盤、小説版なら二巻の初めってところだね。
先は長いけど楽しみにしてます。

410 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/11/28(水) 20:30:37 ID:D5ifU8230
Vは、ヘンリーと一緒の時までが面白かった・・・・

411 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/11/28(水) 20:59:02 ID:g28dQQ7E0
>>407
ちょ…仕事しろよ!サボるとムチで打たれるぞw
だが投下乙!
ゲマが天空の剣の力を引き出させる為に嗾けたような言い方も気になる
何を企んでるんだろう

412 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/11/29(木) 01:21:29 ID:1r1bMF1oO
投下乙。
最後の最後にそう持ってきたか
GEMAさんニヤニヤしてるだろうな

413 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/11/29(木) 10:22:45 ID:L5SSIzGS0
乙です。
イサミの頑張りいいな

ずっとゲマをホホホな男だと思っていた自分は、
魔女の表記に違和感を感じた
・・・んだが、この話だと不思議としっくり来るな

414 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/11/29(木) 12:33:55 ID:11wLY2i+O
呪文・特技欄の―――が気になる

415 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/12/01(土) 01:52:42 ID:jXMvelc8O
保守

416 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/12/01(土) 14:35:06 ID:Pb366fGcO
目が覚めた。天井になんか違和感がある。周りを見渡したらどうも俺んちではない。
俺はちゃんとうちに帰ったよな?昨日は大学が終わってバイトをしてからいつものようにバイクに股がりうちへ直行したはずなんだが。
ここはベッドとカンテラとタンスぐらいしかない部屋。さながらホテルのようだ。ここ、何処だ?そして何で俺はこんなところにいる?
俺は悩んでいても仕様がないのでこの部屋から出ることにした。
あ、人がいる。何処にもいそうなおばちゃんだ。あのー、すみません…と俺は話しかけようとしたその時。
「キャー!魔物よ!」
おばちゃんが血相を変えて逃げていった。えっ?ちょっ、何?魔物ってなんだ?
「出ていきなさいよ!」
血相を変えたおばちゃんは箒を持って戻ってきた。俺に向け、俺を攻撃しようと何度も叩こうとする。
何をするんだ!俺はゴキブリじゃないぞ?俺はほうほうのていでおばちゃんから難を逃れた。
俺はあれから逃げ出し近くの湖へと辿り着いた。はぁ疲れた。喉渇いたな。
湖の水は澄んでいるし飲むかと手を差しのべようとしたら手がない。いや手が出なかったんだ。そして水鏡に写った俺の姿は紛れもない、ドラクエのスライムだった。


417 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/12/01(土) 14:35:57 ID:Pb366fGcO
湖をそろそろとゆっくりと早く覗いて見ても俺の姿はどうみてもスライムです。本当に略。
何でどうしてこうして俺はスライムなんだぷるぷる!
うわー動きまでスライムっぽい。俺涙目。
…人の声がする。数人の大人と、子供の声。俺は身体を弾ませ近くの草の中に身を隠した。
姿を隠したはずだが、ちょっ、俺の目の前にスライムが現れた!
「ピキー?」
スライムが俺に話しかけてくる。あんたなんでこんなところにいるの?って言っているようだ。スライム語まで理解してしまう。切ない。
「ピキー」
逃げてきたんだ、と伝える。本当だ。
「駄目じゃないかスラリン。先に行っちゃあ。おや、そのスライムは?」
スラリンと呼ばれたスライムは紫ターバンを巻いた青年に俺の事情を話す。
「逃げてきたんだ。ここらへんはスライムはいない。モンスターが強いからスライムは生息出来ないからね。…どうやら野生ではないようだね。どこからきたんだろう?」
ここらへんは強いモンスターが出るのか…。ターバンの話を聞いて逡巡する。もし出会ったら瞬殺されるな。
なんせ今の俺の姿はドラクエ世界で最弱モンスターと銘打つスライムだもんな。
「ピキー、ぷるぷる」スラリンは身体を震わせターバ

418 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/12/01(土) 14:43:33 ID:Pb366fGcO
「ピキー、ぷるぷる」スラリンは身体を震わせターバンに請う。
「一緒に連れてってもいいか、か。どうだいビアンカ?テンとソラは?」
俺は仲間にして欲しそうに見つめている。
「いいんじゃないかしら」
とビアンカと言われた金髪の三つ編みの女性が言う。
テンとソラと言われた子供たちからも了承を得た。
良かった、俺は救われた。殺そうとする人間もあれば救う人間もいるもんだな。ターバンが俺の名前を聞いている。俺の名前はアキラだよ。
「アキラはレベル1なんだね。まだ戦闘要員にならないから馬車へ行こう」
テンと呼ばれた男の子が俺を馬車へと誘う。「君の仲間がいっぱいいるから仲良くしてね!」
女の子のソラが言う。
誘導された俺が見たものはグッドスメルのくさった死体と八本の腕が馬車内を狭くしているアームライオンと俺を鋭い目で狙うキラーパンサーだった。
アキラですが馬車内が最悪です。
そんななか、嬉しそうに寄り添って頬ずり?してきたスライム、スラリン。何とメスなんだそうだ。スラリンは何かと俺に教えてくれる。
この人間たちは家族であり、あの子供は双子とか、ターバンは魔物使いで魔物と仲良くなれることが出来ること、これから暫くレベルを上げて

419 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/12/01(土) 14:44:43 ID:Pb366fGcO
皆との旅は楽しかった。
子供たちやターバン夫婦は俺を愛してくれるし、アームライオンやキラーパンサーも見た目は怖いが所詮は猫科動物。なつけばゴロゴロと喉を鳴らす。
スラリンは当初から俺に好意を示してきた。一目惚れだったと彼女は言っていた。俺のどこがいいかは分からないが惚れられて悪い気はしなかった、スライムだが。
だから連れて行きたいと言っていたのかな?
人間の目にはスライムの顔なんてどれも一緒に見えるが、スライムの視点からみるととても表情豊かだ。
俺は幼い頃両親を早く亡くして母方の祖父母に預けられ、育てられた。とても良くしてくれ、今通っている大学だってお金を出してくれ、応援してくれている。
だが、どんなに良くてもやはり母や父から愛情を受けたいとずっと渇望していたんだ。
祖父母と俺。ターバン夫婦と子供たちと俺。俺が付け加えられ出来た家族。これだけでもとても幸せだ。
俺は今度は家族を創りたいんだ。子を成し、親になり、愛情を子供に注ぐんだ。自分が両親から受けられなかった愛情をさ。
スラリンならいいお母さんスライムになれる。スラリンも俺のことを深く愛してくれている。…俺も…。


420 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/12/01(土) 14:46:10 ID:nAUHIHyv0
緊急支援

421 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/12/01(土) 14:48:54 ID:Pb366fGcO
ターバン夫婦と子供たち、それと俺たちモンスターは死力を尽くして最終ボスを倒した。
やった!俺たち間に喜びが駆け抜ける。皆笑顔だった。ハッピーエンドだ。
と。
俺やスラリン、アームライオン、キラーパンサーが少しずつ身体が透明になってゆく。
ああそうか。俺たちモンスターはきっと最終ボスより作りだされた存在。ボスが消滅してしまえば具現する力を失う。
ドラクエは、ボスがいなくなると他のモンスターもいなくなるもんな。
スラリンが飛び付いてきた。目からぽろぽろ涙が零れている。
アームライオンも、キラーパンサーも。
「行かないで!」
仲良くなったテンとソラ、涙でぐしゃぐしゃな子供たちが俺たちの身体を抱き締めようとしたが、既に触れられなかった。
さよならだ。
ありがとう。ありがとう。俺が消えても、どうか忘れないで下さい。
俺は、ドラクエの世界から消滅した。
俺の身体はベッドに横になり顔に白い布を被されている。俺の横には祖父母が俺の手を握りしめ涙していた。俺はその光景を…天井から見てた。
そうか俺…バイト帰りでバイクに乗って…跳ねられたんだ。
それから意識がなくなっていつの間にかドラクエ5の世界のスライムになっていたんだ。


422 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/12/01(土) 15:01:28 ID:nAUHIHyv0
完結・・なのかな?
うおー、なんてこったい、ラスボスを倒すと、味方モンスターまで消滅しちゃうのか。
アキラくんにスラリンちゃん・・・(泣

最後に、死の間際にスラリンちゃんと勇者一家と幸せな思い出ができてよかったの・・・・かな。

モンスターになって勇者一家と旅をする視点は新しいとおもうし、衝撃の結末っ。
投下乙でした。

423 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/12/01(土) 15:30:38 ID:Pb366fGcO
俺がドラクエ5をプレイした時3代続く家族物語に感動した。全部のナンバリングをプレイしてきたけど俺の中で一番ずっと心に残る物語。
俺の夢見た夢をドラクエ5の世界は叶えてくれた。現実では俺の夢はもう叶わないから。
俺の身体が消えてゆく。ターバン夫婦やテンやソラ、スラリンやキラーパンサーやアームライオンとお別れした時のように。
今度は祖父母にお別れだ。さようなら。ありがとう。
消えゆく俺の視界にスラリンと両親がいた。迎えに来てくれたんだね。俺は手を差しのべた。

―了―

保守代わりの短編でした。文章が途中で切れてしまって同じ文章を投下したり最後の文章を投下するのに時間がかかったりとハチャメチャでしたが支援と感想ありがとうございました。


424 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/12/01(土) 15:45:30 ID:nAUHIHyv0
あー、終とか、了ってないから、おかしいなーとおもってたら、エピローグがあったのねん。これまた失礼しました(汗
主人公くん、迎えに来てくれたスラリンさんとあの世?かどこかの世界で、幸せに暮らせるといいですね。

良作、乙です。

425 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/12/01(土) 20:13:47 ID:+1W+BsIS0
>>423
通りすがりだがとても感動した。
死んだ祖父母を想い出してちょっと泣けた。

426 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/12/01(土) 21:41:55 ID:6IfUCI2X0
>>423
良作短編乙
話に入り込んで涙ぐんでしまった

427 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/12/02(日) 01:56:07 ID:17b69Kq8O
これは良かった


428 :ウンコ大魔王 ◆/AbS5YUejk :2007/12/02(日) 22:18:01 ID:77UN1qTT0
退屈な毎日から逃れ出るための逃避行の旅…


ある日俺は夢を見ていた。

耳の形が奇怪な、黒いマントをはおった集団が一人の少女を取り囲み、
何やら言葉を取り交わしている。

「…して……我…闇の主が……」
「……瑠璃……急…」
「エサ………剣さえ…」

少女は青みがかった白いローブに身を包ませながら、
脅えきった眼で周りの連中を見ている。

俺は全く身動きができない。

黒づくめの連中から一人、まがまがしい剣をもった奴が
一歩前に出、少女ののど元にその切っ先を突き立てた。
ゴウンゴウンという耳鳴り、くぐもった呪術の詠唱、重く垂れこめた空気。

俺は必死でもがこうと(少女を助けようとしたのか自分が動けないことが苦しかったのか、
今となっては定かではないが)、身をよじらせたが、吹き出るのは冷たい汗ばかり、
咽はからからで眼の前もだんだん暗くなってくる。

それでも必死に体中の全神経を使って失った器官の能力を再生しようともがき、

「や…め……ろ…」
と声にならない声を振りしぼった。

その瞬間、生贄に歓喜していた全ての悪魔達の眼がこちらに向けられ、
俺は目が覚めた。

429 :ウンコ大魔王 ◆/AbS5YUejk :2007/12/02(日) 22:25:15 ID:77UN1qTT0
「はは…は……夢か…」

全身汗びっしょりになりながら、不意の夢オチに虚をつかれながら俺は身体を起こした。

「だりい…風邪ひいたかな……」

などと独り言を言いながらゆっくりとベッドから足をおろす。
風邪などではないことは、はっきりとしていた。

なんだ?あの夢?

あのようなシーンは映画やゲームなどで見たような気もするが、
あんな生々しい感じではなかった。
あの夢の登場人物は現実に存在するものとしての体温や息遣い、そして
他者に対する嫌悪感を持っていた。

あんな…夢。

「まあ…仕事で疲れてんだろうな……」

ふらふらする頭をシャッキリさせるために、俺は冷蔵庫の雪印へと
向かおうと廊下へ出ようと扉をあけたその瞬間、
見たことも無い風景が俺の眼前に広がっていた。

430 :ウンコ大魔王 ◆/AbS5YUejk :2007/12/02(日) 22:36:00 ID:77UN1qTT0
「なんじゃ…こら!?」

どこまでも澄み切った青い空、その下に地平線まで広がる草原。
そこに一本、大きな樹がポーンと立っている。

「アホ…か?」

俺はとっさに振り返った。
確かに俺は、さっき自分の部屋から廊下に出たのだ。
しかし廊下に行くためのドアは無情にも俺を廊下へとはいざなわなかった。
開きっぱなしのドアが手持ちぶさたにキイキイ言いながら
さわやかな草原の風に揺られている。

待てよ待てよ。

俺は昨日どうやって家に帰った?
酒につぶれて帰宅したのか?
それとも知らないうちに死んでて、ここは天国だったりするのか?

「シュールすぎる。」

いつもあり得ないことが起こったときに使う言葉を吐いてみたものの、
世界に存在するのは俺一人じゃないかと思われるように
言葉は空気に散って、目の前にある風景だけが残った。

「会社……行か…なきゃ……」

そう言いながら俺は夢遊病者、はたまたアル中患者みたいに
白昼夢の中をパジャマのままふらふらと歩きだした。


「コンビニ…行かなきゃ……」

431 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/12/02(日) 22:38:50 ID:17b69Kq8O
名前気になるw的支援

432 :ウンコ大魔王 ◆/AbS5YUejk :2007/12/02(日) 22:58:03 ID:77UN1qTT0
「ストップ!」

突然脳内に高い声がキインと響いた。

「そこから離れちゃ、いけないよ坊や。」

声から察するに小人、いやもっと小さい虫が、
精一杯羽音をばたつかせているようなか細く高い声。
しかしよく通るだけに、混乱した頭をいらつかせる声。

「自分の場所をそう簡単に捨てるもんじゃない。」

自分の場所?

「そうさ。あんたは言わば新参者。そう簡単にこの世界に飛び出すんじゃないよ」

こいつ、知ってる。
俺がこんな馬鹿げた状況になってる理由を知ってるぞ。

俺は少々ムカついてきた。
早くこんな馬鹿げた状況から抜け出て会社へ行かなきゃ。
遅刻などしたら、日頃の俺の業績に付け込んで上司が面倒なことになる。

「誰だよ!姿を現わせ!」

俺は宙に向かって叫んだ。

433 :ウンコ大魔王 ◆/AbS5YUejk :2007/12/02(日) 22:59:25 ID:77UN1qTT0
「ハハハハ。鬼さんこちら、手の鳴る方へ。」

なんだこいつ。完全にバカにしてやがる。

「何がしたいのか知らねえがとっとと元の世界へ戻せ!」

「元の世界?今いる世界が元の世界だとしても?」

「ハア!?俺は会社行かなきゃなんねえんだよ、
いちいちお前のお遊びに付き合ってられるかこのバカ!」

「バカはあんたさ、ぼ・う・や☆」

今度はどこから声がしたのかハッキリわかった。

俺は怒りで一杯の表情で、元いた自分の部屋(今は隔絶された空間にポーンと存在している)
を振り返り、ベッドの上にそいつ、つまり「妖精」を見つけた。

「ようこそ、初めまして。
そして、久し振り」

434 :ウンコ大魔王 ◆/AbS5YUejk :2007/12/02(日) 23:02:35 ID:77UN1qTT0
疲れた。これからドラクエになる予定。
ヒマなとき頑張ります

435 : ◆Y0.K8lGEMA :2007/12/03(月) 02:04:02 ID:8NHbfLAI0
第十二話投下します。

LOAD DATA 第十一話前半 >>385-393  後半 >>402-406

436 :比翼連理の双星【1】 ◆Y0.K8lGEMA :2007/12/03(月) 02:06:17 ID:8NHbfLAI0
あのゴタゴタの後、城の中はそれ以上にゴタゴタになっちまった。
当然だよな。国の在り方を変えちまう様な大事件だったんだもんな。

一堂に集められたラインハットの王族や貴族達で緊急対策会議中。
今回の事件を、どのような形で国民に発表するか、誰が発表するか、
どこまでの内容を発表するか…会議は揉めに揉めているらしい。

まず人選。強いカリスマを持つ大后は、長い幽閉の影響で床に伏せっている。
大后が無理のきかない体である以上、発表はおのずとデールからになるだろう。
次に内容。『散々国民の皆さんを苦しめていた王は正気じゃありませんでした。』
…なぁんて発表したって誰も納得しないのは火を見るより明らか。

長い会議の結果、
『王と大后は偽物だった。長旅から凱旋したヘンリー様とその一行が偽者を成敗し、
本物の王と大后を無事に助け出した。めでたしめでたし。』
…って内容の声明を国民に発表する事になったんだ。
大后が偽者だったのは事実だけど、王まで偽物だったいう内容にしたのは、
国民の反発心を最小限に抑える為…らしい。偉い人ってのは大変だな。

その夜、城の中庭には多数の国民が集められた。
不審そうな…不安そうな表情の国民達は皆ざわざわと落ち着かない様子。

バルコニーから国民の前に姿を現すデール。水を打ったように静まり返る中庭。

「この国を狂わせ、大事な国民を苦しめたのはこのデール。弁解の余地はない。」

皆の顔が凍りついた。勿論、俺達の顔も。

「国の混乱は全てこのデールの弱さが招いた事。謝って許される事ではないが…
 償いはさせて欲しい…兄さん、こちらへ…」

バルコニーのデールに手招かれ、ヘンリーがデールの横に立つ。

437 :比翼連理の双星【2】 ◆Y0.K8lGEMA :2007/12/03(月) 02:08:28 ID:8NHbfLAI0
「兄さん…この場で僕を斬り捨てて下さい。」

デールが悲しい笑みを浮かべながらヘンリーに剣を手渡す。

「僕の命で許されるとは思っていませんが…せめてもの償いです。
 兄さんなら国を立て直せる…どうか…国をお願いします。」

償いって…命を捨ててどうするんだよ!ヘンリーと一緒に国を立て直せば…
間に入ろうとした俺達を制したのはヘンリー。

「そうか…俺も覚悟を決めていた事だ。そこになおれ。」

冠を外したデールは、ヘンリーの前に進み出て目を瞑る。
駄目だ…そんなの絶対に…やめろ…

「……でえぇぇぇい!!」 ばちぃぃっ!
「痛あぁっ!!!」

ヘンリーの渾身の平手がデールの尻を引っぱたく。
うわぁ…痛そう……って、アレ?

「覚悟決めてたんだ。国が乱れた原因がデールの弱さによるものだったら、
 城に戻ってその尻っペた引っぱたいてやる…ってな。」

ヘンリーが民衆に向かい合い、大声で叫ぶ。

「国の皆!こいつのしでかした事がこれっぽっちで許されるとは思っちゃいねえ!
 だから…今日は皆の気が晴れるまでこいつに灸をすえてやる!!」
ばちぃぃっ!
「痛あぁっ!!!」

438 :比翼連理の双星【3】 ◆Y0.K8lGEMA :2007/12/03(月) 02:10:25 ID:8NHbfLAI0
「まだまだぁ!!」 ばちぃぃっ!
「痛あぁっ!!!」

延々と繰り広げられる公開お仕置き尻叩き。
最初は唖然としていた民衆だが、次第にその中から笑い声が漏れ始める。

「おらあっ!反省しやがれえっ!!」 ばちぃぃっ!
「痛あぁっ!!!」

笑い声は次第に大きくなり、やがて歓声となって中庭を埋め尽くす。

「子分のクセにでしゃばりやがってぇっ!!」 ばちぃぃっ!
「痛あぁっ!!!」
「俺が帰ったからには二度と好き勝手はやらせねえぞ!!」 ばちぃぃっ!
「痛あぁっ!!!」
『いいぞ!もっとやれー!!』 『ヘンリー様が戻られれば国は安泰だー!!』
『デール様ー!応援しておりますー!!』 『思いっきり引っぱたいてやれー!!』

「これからは…ずっとずっと俺と二人で国を守るぞおっ!!」 ばちいぃぃっ!!!
「痛あぁぁぁっ!!!」

涙で顔中をグシャグシャにするデールを引き起こすヘンリー。
ヘンリー自身も涙目で荒い息をしているが、息も正さずに民衆に向かって叫ぶ。

「俺は王家に戻って国を建て直す!!この泣き虫な馬鹿王と一緒にだ!!
 親分が直々に後見人になるからには、二度と国民に苦しい思いはさせねえ!!
 今宵、俺達兄弟の姿を目に焼き付けろ!!俺達の働きを見届けろーーーっ!!!」

わあっ と、一際大きな歓声が中庭に挙がる。
ヘンリーを讃える声…デールの名を呼ぶ声…二人を応援する声。
さながら大物ミュージシャンのライブ会場の如く盛り上がる民衆。
俺も素直に感心した。やっぱり、ヘンリーのカリスマは天才的だ。

439 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/12/03(月) 02:10:42 ID:BbAuWo3YO
し…えん……?

440 :比翼連理の双星【4】 ◆Y0.K8lGEMA :2007/12/03(月) 02:13:02 ID:8NHbfLAI0
        ◇           ◇
そして よがあけた …ってやつ?
ラインハット城下町を一望できる国賓用の寝室で朝を迎えた。
うん、なんて清々しい朝だ。

…この二日酔いの気分以外は…

昨日の演説の後、悪ノリしたヘンリーが国をあげての大宴会を宣言。
王族も兵士も国民も死体も一緒になって朝け方まで飲み明かした…ってわけ。

「昨夜はお疲れ様でした。僕も王という身分を忘れて楽しませて頂きました。」

旅立ちの前に謁見の間に立ち寄り、デールに別れの挨拶をする。
サトチーもデールも昨日の宴ではだいぶ酔っていた筈なのに清々しい顔をしている。
下戸のフリして実はザルなんじゃねえの?

「国を救って頂いた事、国民を代表してお礼を申しあげます。本当にありがとう。」

デールは玉座から降り、俺達の前に片膝をついて頭を下げるデール。
その肩に手を置きながら、サトチーが優しく語りかける。

「頭を上げて下さい。デール王。あなたが頭を下げる相手は僕達ではありません。
 あなたを…国を信じて進み続けたヘンリーこそラインハットの救世主です。」
「ヘンリーの活躍がなかったら、俺達もとっくの昔に全滅してましたからねえ。」

…あれ?いつもならここで入る筈のヘンリーの茶々がない。

「えぇ、兄には一番にお礼を言おうと思っていたのですが…」

途端に難しいものになるデールの表情に思わず俺も身構える。

まさか…ヘンリーの身に何か…

441 :比翼連理の双星【5】 ◆Y0.K8lGEMA :2007/12/03(月) 02:15:14 ID:8NHbfLAI0
「朝から兄の姿がないのです。城中どこを探しても…」
「いない?こんな時に一体どこに…」

デールの顔が横に振られ、嘆息した様な深い溜息をつく。
家出した子を案じる親の様なデールの表情を見ていると、どっちが兄だかわからない。

「ご存知の通り、兄は堅苦しい王家のしきたりを好まない性格の人ですから…
 勝手に城を抜け出してハメを外してなければ良いのですが…」
「これから苦労しそうですね。」

サトチーとデールの乾いた笑い声が謁見の間に響く。
二人とも声では笑っているが、顔は笑っていない。

「ところで…連絡ではビスタ港に船が入港するのは明日だったはずです。
 もしよろしかったら、今夜も城に泊まられてはいかがでしょう?」
「ありがとうございます。ですが、船出の前に立ち寄りたい所がありますので…」
「そうですか…何の力にもなれませんが、お二人の旅の無事をお祈りしております。
 どうか道中お気をつけて。」

開かれた城門をくぐり抜け、メインストリートから城を振り返る。
固く重く閉ざされていた城門は、全てを受け入れるかのように大きく開かれ、
その城の景観は、道行く人々の幸せそうな顔を見渡すように雄々しくそびえる。
町で無法を働いていた傭兵達は国外に追放され、代わりに子供達が走り回る。
常に耳にしていた怒声の代わりに聞こえるのは、王家を讃える詩人の歌声。
忌まわしい兵器の生産工場は、建築木材の加工場に改造するらしい。
町が元の姿を取り戻すのには、たいして長い時間はかからないだろう。

「そろそろ行こうか。スミス達が町外れで待ってる。」

町外れで俺達を待つ一台の馬車と二頭の白馬。

お待たせパトリシア…と……誰?

442 :比翼連理の双星【6】 ◆Y0.K8lGEMA :2007/12/03(月) 02:18:41 ID:8NHbfLAI0
「遅せえ!子分の分際で親分をいつまで待たせやがる!」

パトリシアの隣。もう一頭の白馬の上から声が投げかけられる。
王族らしい豪華な衣服を身に纏い白馬にまたがるヘンリー。その手には花束。

「何やってんの?そんな似合わな…じゃなくって、珍しい格好して。」
「ん…世話になった修道院のシスター達に今回の件のお礼を言いに行くついでに、
 旅立つ子分達を見送ってやろうと思ってな。」

見送り…それはつまり、俺達との別れの証。
わかりきっていた事だけど、実際にその言葉を耳にすると…どうもね…

「そんな情けない顔すんな。最初からわかってたことだろう?それに…
 それにさ…場所が離れてたって俺達はずっと…その…」
「大事な仲間だからね。」

サトチーが発した言葉に、ヘンリーの顔が真っ赤になる。
…本当、素直じゃねえの。

「…っまぁ、辛い奴隷の生活も旅の間もさ…お前達と一緒で…その…楽しかったよ。
 本当に………ありがとうな。」

ぷいっ と、目線を逸らしながらヘンリーが言う。

「ヘンリー…君は本当に大事な仲間だ。体に気をつけて…」
「女の尻ばっか追いかけて、デールさんを困らせるんじゃねえぞ。」
「ふん。お前達が次に来るまでには、この国を今以上に立派な国にしてみせるさ。」

三人、拳を合わせて互いを讃え合う。そのエールに言葉はない。
それでも、そのエールはどんな言葉よりも俺の体の真ん中らへんを揺さぶる。
 ―負けるなヘンリー…負けるなサトチー。 何があっても負けるな…俺―
二頭の白馬が行く道は途中で二つに別れる。 それでも…俺達はずっと仲間だ。

443 :比翼連理の双星【7】&後書き ◆Y0.K8lGEMA :2007/12/03(月) 02:22:26 ID:8NHbfLAI0
イサミ  LV 16
職業:異邦人
HP:77/77
MP:15/15
装備:E天空の剣 E鎖帷子
持ち物:カバン(ガム他)
呪文・特技:岩石落とし(未完成) 安らぎの歌 足払い ―――



―――
第十二話 ラインハット編エピローグを投下しました。
次回からは新章突入です。

その前に小ネタを挟む予定ですが…

444 :レッドマン ◆U3ytEr12Kg :2007/12/03(月) 09:35:48 ID:Ish8Z3lR0
○微かな癒し○

ムーン達と別れた後、もょもとに上薬草を煎じて貰ったがあまり回復していない。
やはりゼシカの言う通りいきなり上位呪文を唱えると体の負担が大きい。
死なずに済んだのが不思議なくらいだ。

もょ「だいじょうぶか?タケ?」
タケ「すまんのう…少しはマシになったんやけどまだ本調子やないわ。」
もょ「じょうやくそうでもだめなのか!?」
タケ「そうやな。まだ5、6分力が戻ったっていう所やで……全力で動くのはちょっとしんどいかも。」
もょ「そうか…しばらくはおれががんばるよ。」
タケ「最悪の結果を招いてしまったな。サマルやムーン達の関係が修復は不可能レベルまでなったやろ。
   ああ〜 やり過ぎてもうた…」
もょ「もうすんだはなしだ。きにするな。ぎゃくにおれはうれしかったぞ。」
タケ「な、なんでやねん?」
もょ「おれのことがほんとうにだいじだとおもってくれたのがすごくかんじたよ。これほどうれしいものはない。
   それにおれがタケのたちばならおなじことしていた。おれ、バカだからうまくいえないけど。」
タケ「ホンマに悪かったな……」
もょ「もうきりかえていこうぜ!!」
タケ「そうやな………話は変わるが現実問題どうするよ?」
もょ「まずはククールたちとごうりゅうしよう。そのほうがまちがいなくさいぜんさくだろう。」

タケ「そうやな。パワーのヤンガス、スピードと回復のククール、魔法のゼシカ、結構バランスも取れているで。」

もょ「じゃあきまりだな!」

俺達が行動を起こそうとした時誰かがやってきた。

もょ「タケ…ここはおれにまかせろ!」
タケ「ヤバくなったらとんずらするのもありやで。気をつけろ!」   

戦闘体制に入って構えているとやってきたのがリアだった。

445 :レッドマン ◆U3ytEr12Kg :2007/12/03(月) 09:36:52 ID:Ish8Z3lR0
もょ「リ、リアちゃん!?どうしたんだ?」
リア「ま、間に合って良かった〜 どうしてもお礼が言いたくて。――――――――タケさんに。」
もょ「しかし…」
リア「お願い!タケさんにお礼が言いたいの!」

真剣な眼差しにもょもとも承諾するしかなかった。

もょ「タケ…リアちゃんがはなしたがっているぞ。」
タケ「わかったで………………………はじめましてやな、リアちゃん。一体どないしたん?」

リア「は、初めましてタケさん………そ、その……助けてくれてありがとう……」

タケ「ええんよ。俺は当然の事しただけやで。それにもょとの約束もあったしな。」
リア「そ、それとごめんなさい!お兄ちゃんやムーンさんがあんな事言うなんて…」
タケ「もう済んだ話やから別に構へんよ。しかしよく抜け出せてここに来れたなぁ。」


リア「お兄ちゃん達とケンカしちゃって居辛くなったの…」
タケ「マジかいな……やっぱやりすぎたんやで!/(^o^)\ナンテコッタイ」
リア「だって………タケさんは……グスッ…助けてくれたんだもん……2回も……」
タケ「お、おいおい!泣く事もあらへんやんか!今回がともかく、以前いつ助けたっけ?」
リア「ラーの鏡を……取りに行ったとき。」
タケ「ああ……あ、あれはもょがやってくれたんやで。俺やないよ。」
リア「ううん…トーマスさんやカタリナさんが私に話してくれたの。その時の状況を――――――――」



――――――――――――――――――――――――
――――――――――――――――
――――――――
――――


446 :レッドマン ◆U3ytEr12Kg :2007/12/03(月) 09:38:17 ID:Ish8Z3lR0
〜 ムーンペタ出発前夜 〜

カタリナ「リア様。報告があります。」
  リア「どうしたの?カタリナさん。」
カタリナ「実はもょもと様の事でお話が。」
  リア「もょもとさんの事?」
トーマス「その先からは私から話そう。カタリナ。リア様、結論から言います。もょもと様には別の人格がいます。」
  リア「ええっ!?どう言う事なの?」
トーマス「つまり二重人格です。もょもと様の体内にもう一人分の人間がいるのです。」
  リア「そ、そんな…」
トーマス「確かに信じられない話ですがその御方に私やサマル様、リア様も助けられたのですよ。勿論もょもと様も含まれます。
     その御方の名前はタケと仰っておられました。レオン様と同様、異世界からきた人間らしいのです。」

  リア「そのタケって言う人がもょもとさんの体内にいるわけ?」

トーマス「仰る通りでございます。しかしタケ殿は私達にとって命の恩人なのです。
     もょもと様達が敵の呪文で眠らされた時、タケ殿が代わりに戦ってくださったのです。そこでリア様にお願いがあるのです。」

  リア「お願いって………………私に?」

トーマス「はい。この事実は知っているのは、私達三人のみ。
     もし、王女様やサマル様にこの事実が発覚した場合、もょもと様達と対立するという事がありえるかと思われます。
     仮にその情況が訪れた場合、もょもと様やタケ殿を助けていただきたいのです。」

  リア「で、でも……………」

トーマス「カタリナの報告ではタケ殿は自分を犠牲にしてでも、もょもと様を守る様な御方だと聞いております。
     私もタケ殿が悪人とは思えません。どうかお願いを受け入れて頂けないでしょうか?」

カタリナ「私からもお願いします!リア様!」
  リア「うん………私はもょもとさん達に協力するわ。」
トーマス「ありがとうございます!くれぐれも口外無用でお願い致します!」

447 :レッドマン ◆U3ytEr12Kg :2007/12/03(月) 09:40:41 ID:Ish8Z3lR0
リア「って言う事なの。」

タケ「ちっ、あいつら…余計な事言いやがって……ホンマに………」

リア「それにダースドラゴンの時でも私を守ってくれた……」
タケ「あ、あれはたまたまや。気にすることはないで。」
リア「グスッ……グスッ……ごめんなさい…………」

タケ「よしよし、もう泣いたらアカン。可愛い顔が台無しやで。」

リア「うん……」

もょ「くっくっく…………よかったな、タケ。」
タケ「な、何やねんお前……不気味な笑いをしやがって。」
もょ「リアちゃんみたいなりかいしゃがあらわれたのいいことだろ?」
タケ「うっ…………ま、まぁ結果的にはそうなるわな。俺にとっては嬉しい話やで。」


もょ「それならいいじゃないか。それにタケはいじょうにリアちゃんにはやさしいしなw」


タケ「お、おい!ゴルァ!これ以上アホな発言していたらブン殴るで!!」
もょ「ふだんのおかえしだ。それにじぶんじしんをなぐるつもりなのか?すこしおちつけ。」

タケ「…………クソったれ!!俺からおちょくりのスキルをパクりやがって!」

リア「くすくす………もょもとさんとタケさんて凄く仲良しなんだね。」
もょ「そうなのか?タケ、おまえはどうおもう?」
タケ「うーん、何かこの関係が当たり前って感じやからなぁ……仲が良いとか悪いとかあんまり意識はしてへんで。」
もょ「おれもそんなかんじだな。」
リア「へぇー…自然な感じなんだね。話は変わるけどタケさんはどうして私達に力を貸してくれるの?」


448 :レッドマン ◆U3ytEr12Kg :2007/12/03(月) 09:42:10 ID:Ish8Z3lR0
タケ「そやなー もょの前やから恥ずかしいけど黙秘権は無さそうやし…………
    俺自身がこの男について行こうと決心したからやな。」

リア「タケさん自身が?」

タケ「うん。最初のもょは頼りねー奴だと思っていたけど、処がドッコイ今はすげえ頼れる奴になったんよ。
   それに赤の他人がイキナリ自分の体内に入ったら気持ち悪いにも拘らず受け入れてくれたのもあるわ。
   話は変わるけど、もょの人生でアカンかった所は良き指導者と仲間に出会えてなかった事やと思う。
   そこで俺が少し教えただけで、有り得ないほど成長しやがったからな。ある意味怖いで。
   今後の成長を見たみたいっていう個人的な事情もあるんやけどね。
   それに命の恩人やしな。俺も2回助けてもらっているんよ。」

リア「どういう時に助けてもらったの?」

タケ「ドルマゲス戦と今のサマル&ムーン戦やな。その時どれほど嬉しかった事やら。
   唯一の友達がかなり協力的にやってくれた御蔭で今が自分があるって感じやね。」

完全にリアのペースに乗せられて話してしまった。『この娘の前では素直に本音で話そうか。』って感じになったのだ。ククールもこれにやられた訳か。
タケ「しかし、まぁ…なんや…そういうこっちゃ。」
これ以上あんまり追求されたくなかったので話を打ち切る事にした。

もょ「し、しかしてれるなぁ…そこまでタケがおもっていたとは…」
タケ「しゃーないやろ!かなり本音トークやで!もうこれ以上ネタはないで!!お客さん!!」
もょ「タケ、おまえがこんなにじぶんのことをはなすのは、はじめてじゃないのか?」
タケ「そうやで。もーこの話題は無しや。はい、しゅ〜〜〜〜〜〜〜りょ〜〜〜〜〜〜〜〜
   で、話は変わるが今後はどうするん?」
リア「タケさんを助けるためには紋章を集めないといけないんでしょ?」
もょ「そうだな。リアちゃんもいるし3人でさがそうか。ククールたちにたよるひつようがなくなったしな。」
タケ「それならこれで決まりか。二人共ホンマにありがとう…今後もよろしゅうな!」

3人で談笑していると1人の女がやってきた。どー見てもオロオロしている………
一体何が起きたのか理解していないみたいだ。そいつは俺達に話しかけてきた。

449 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/12/03(月) 09:44:56 ID:akkEbyxiO
支援

450 :レッドマン ◆U3ytEr12Kg :2007/12/03(月) 09:47:02 ID:Ish8Z3lR0
 *「あんた達。ここがどこ何かわかるかい?」
リア「えっと、竜王の城の近くだよ。どうしたのお姉さん?」
 *「竜王の城!?何だいそれは?」
もょ「もしかして……いせかいからきたのか?」
 *「えっ!?」
もょ「このあたりはたいがいこのせかいにいるにんげんはしっているぞ。まったくしらないひとはいないんだ。」
 *「そうなのかい…弱ったね。まずはどこか街にでも行きたいね。」
リア「それなら近くにラダトームまたはリムルダールっていう街があるよ。」
 *「ありがとう……その前に金も貰おうか!」
リア「えっ!?」
女はいきなりナイフで脅してきた。

 *「金が無ければ何も出来ないからねぇ……あんた達には恨みが無いが――――――拒んだら刺すよ。」

もょもともリアも戦闘態勢に入ったが咄嗟に止める事にした。
 タケ「待てぇ!!」
もょ・リア「えっ!?」
 タケ「金が要るんだろ?100Gくれてやる。」
俺は金を女に渡した。
 *「キップがいい男だね。一体どうしちまったんだい?」
タケ「フン。俺の気まぐれだ。その代わりにアンタがこの世界で見た事や聞いた事、全ての情報を話して貰おうか。」
 *「取引かい?いいよ。金も貰ったし。あんた達位の細身の男とほっかむりをかぶった女がこの先モンスター達に襲われているよ。」
リア「ええっ!」

間違いなくサマルとムーンだ。

 *「助けるのであればさっさと行ってやりな。じゃないとあの二人は死んでしまうからねぇ。」
タケ「サンキュー!恩にきるぜ!でも俺は……」
リア「急ごう!お兄ちゃんとムーンさんが危ない!!」
もょ「そうだな。いまはたすけにいくぞ!」

さすがにこの情況では拒否は出来ず、俺達はサマル達の元に向かった。

451 :レッドマン ◆U3ytEr12Kg :2007/12/03(月) 09:47:46 ID:Ish8Z3lR0
サマルとムーンがマンイーターや泥人形達と戦っているのだがどうも様子がおかしい。  
ムーンの得意な呪文が唱えられないみたいだしサマルも相変わらず腰が引けてまともな攻撃が出来ていない。

ムーン「くっ…こんな奴らごときに手こずるなんて…サマル!!しっかりしなさいよ!」
サマル「で、でも泥人形達の不思議な踊りの影響で魔法力が無くなっているよ!」
ムーン「うるさいわね!言い訳は無用なのだわ!!」
サマル「こんな時に……もょ達がいれば……」
ムーン「あ、あいつらがいなくても私達だけで乗り切らないといけないのだわ!!」

ムーンは相変わらず強情を張っている。

 タケ「…………あいつ(ムーン)はアホか!変に意地を張りやがってホンマに……
    しゃーないのう!もょ!俺の呪文で火炎斬りを出来る様にするから戦闘は任せていいか?」
 もょ「ああ!ここはおれにまかせてくれ。きっちりふたりをたすけるよ。いくぞ!リアちゃん!」
 リア「うん!」

もょもととリアがモンスター達に立ち向かっていった。

サマル「も、もょ…それにリアまで…」
ムーン「い、一体何しに来たのよ!」
 もょ「はなしはあとだ!いまはこいつらをやっつけるぞ!」

 リア「もょもとさん!まずは私に任せて!!え〜〜いっ!!ベギラマ!!」

リアから大きな火炎が繰り出して大半のモンスター達をやっつけたのだが血を吐いている。
まだ不慣れな証拠だ。

 もょ「だ、だいじょうぶか!?」
 リア「う、うん…」
 もょ「あとはおれがやるからまかせろ。いくぞ!かえんぎり!」

もょもとがモンスター達を勢い良く斬り込んで行った。火炎の影響がある御蔭かすんなりとモンスターを倒すことが出来た。

452 :レッドマン ◆U3ytEr12Kg :2007/12/03(月) 09:49:14 ID:Ish8Z3lR0
もょ「ふー。それにしてもまほうけんってすごいな。かなりらくにたおせたぞ。ちょっとやけどしてしまったけどな。」
タケ「しかし俺の場合と比べたら火炎の持続時間が短いな。」
もょ「おれがじゅもんをつかえないからじかんがみじかいとおもう。」
タケ「かもな。それより二人を手当てしてやれ。無事でよかった。」
もょ「よし、わかった。」

もょもと達はサマル、ムーンの手当てを始めた。

ムーン「ど、どうして助けに来たのよ!誰も助けろとは頼んでいないのだわ!!」
 タケ「大概にせえ!もょやリアちゃんに感謝するんやな。そうじゃないと誰がお前等など助けるか!ボケェ!!」
 もょ「ふたりともいいかげんにしろ!!けんかしているばあいじゃないだろう!!」
 タケ「す、すまねぇ……」
ムーン「ご、ごめんなさい……」
流石にマジギレしたもょもとには俺もムーンも少し竦み上がった。

 もょ「はなしをかわるがおれとタケ、リアちゃんはもんしょうをさがすことにするがふたりはどうする?」
サマル「ええっ!?どういう事だい?」
 もょ「おれたちとわかれてハーゴンをたおしにいくのはかまわない。しかしいまのままでは
    ハーゴンどころかドルマゲスすらおれたちはたおすことができない。いまはちからをあわせるときなんだ。」
ムーン「………………確かに現実問題はそれが最善策なのだわ。」
サマル「そ、それじゃあ………」
ムーン「仕方がないのだわ。サマル。確かに今の私達だけじゃ無駄死にするだけだわ。
    タケがいるのは気に食わないだけど。」

こいつは………もう、あきれて何も言えへん…しかし回復呪文が使えない俺達にとっても
欠点が塞がる訳だからここは我慢して妥協するか。

 もょ「それならきまりだ!タケもリアちゃんもそれでいいだろ。」
 リア「…………………………うん。」
 タケ「成り行きやし、しゃーないわ…………お前に従うよ。もょ。」

ムーン「何か文句あるのならハッキリいいなさいよ!!」

453 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/12/03(月) 09:51:15 ID:akkEbyxiO
支援

454 :レッドマン ◆U3ytEr12Kg :2007/12/03(月) 10:44:34 ID:Ish8Z3lR0
 タケ「はいはい。こんなに見苦しい馬鹿女は俺の世界でもめったにおらへんわ。これだけ言っといてやるわ!
   『思い込む』という事は何よりも『恐ろしい』事や。
    しかも自分の能力や才能を優れたものと過信している時はさらに始末が悪いしな。
    その場合、我が身だけではなく回りの仲間にも迷惑をかける事になるんや!
    後、お前がアホ過ぎて反論する気にもならへん。」

ムーン「フ、フン!!何よ!!え、偉そうな事ばっかり言って……」

ムーンが反論したが流石に欠点を突かれたらしく無理に反論した感じだった。

 タケ「あっそ。もう終了な。キリが無いから。もょ。話は変わるが今から紋章探しか?」
 もょ「ああ。もんしょうをそろえることができたらせいれいルビスにあえるからな。それにタケもじったいかするかもしれない。」
サマル「そ、そうするのが今後の計画なんだね………?」

サマルがビビリながら発言するのは無理もない。
 タケ「今は仲良くしようや。言っておくがこっちから仕掛けることは無いから安心せえ。」
サマル「し、信用してもいいのかい?」
 タケ「勿論や。ただし、そっちから仕掛けてきたら………………確実に殺すで。ええな?」

サマルは震えながら頷いた。

もょ「よし。じょあもんしょうさがしにいくとするか。」

もょもと&タケ
Lv.18
HP: 56/130 
MP: 0/  9
E鋼の剣 E鋼の鎧 E鉄兜 錆びた剣
特技 共通技:チェンジ
もょもと専用:隼斬り・魔人斬り・ドラゴン斬り
  タケ専用:かすみ二段・強撃・ゾンビ斬り・大防御・メラ
       火炎斬り

455 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/12/03(月) 20:39:08 ID:akkEbyxiO
二人とも乙!なかなかの力作だった。

>>GEMAさん
良い感じな兄弟愛だな。
呼んでいるだけでも和んだ。
>>レッドマンさん
物語より人間賛歌が重視しているみたいだな。
色々と考えさせる。

しかしヘンリーもタケもちょっとツンデレかw

456 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/12/03(月) 21:12:49 ID:1u+Pe9e70
お二方とも乙。
それにしても嫁を差し置いて比翼連理とは、マリアが嫉妬するぞw

457 :作り合わされし世界 ◆YB893TRAPM :2007/12/04(火) 19:32:00 ID:HHfoHnmT0
2.人形劇の舞台裏 (>>376-381)

サクヤはエイトとセブンとの二人とともに占い師ルイネロの元に行った。
マリベルもついていこうとしたが親のアミットに止められてかなわなかった。
ルイネロの占いでは次のような結果が出た。


まず、この世界が、いくつもの世界が合わさって出来上がっている世界だということ。

例えばセブンとエイト、本当ならばこの二人が出会うはずはなかった。
この二人はそれぞれ長い旅しており、それぞれの世界をよく知っていた。
しかし二人の知っている世界はまったく違うものだった。
それは二人は違う世界の住人なのだから当然なのだが。
しかし、こうして出会っている。
二人の住む世界がつながってしまっていたのだ。
さらにつながっているのは二つの世界だけではなかった。
二つ以上の世界が合わさろうとしているようだった。

458 :作り合わされし世界 ◆YB893TRAPM :2007/12/04(火) 19:34:11 ID:HHfoHnmT0
次に、異世界の人間が複数この世界に迷い込んでいるらしいこと。

異世界とは、合わさっているこの世界のさらに外にある世界の事である。
その世界の人間がある一枚の石版に封印されたのだ。
セブンやエイトとはまた異なる世界で生きてきたサクヤが、
この世界にとって招かざる客だと感じたのは、自分が彼らとは違う存在だからだ。
マリベルの勘はある意味正しかったのだ。


最後にこの異変は、先の石版がバラバラに砕けてしまったのが原因だということ。

サクヤの持っている石版の欠片は、その石版のパーツで間違いないだろうということ。
そしてそれらの石版をあわせることで世界が元に戻るということ。
合わせる場所はどこかの神殿であること。
この神殿に異世界の人間が集まり石版を合わせる姿が見えること。
ただし、その場所には人間でないものもいるようであること……

459 :作り合わされし世界 ◆YB893TRAPM :2007/12/04(火) 19:36:45 ID:HHfoHnmT0
「世界が元に戻ると言うことは異世界の人間である君も元の世界に戻れると言うことだろう」
ルイネロの占いの結果を受けエイトが言う。
「石版をあわせるときに人間でないものの姿も見えると言っていたのが気になるね」
「モンスターが待ち構えているのかもしれないな」
「在り得るね」
エイトとセブンがうなずきあう。
「封印されたものの中に犬か何かが混ざっているなんてことかもしれませんよ」
二人の心配をよそにサクヤは楽観的な意見を述べた。
「そんな都合のいい話があると思うのか?」
「この世界ではそういうところにボスが待ち構えていると考えるのが定石だよ」
一番奥にボスがいる。どこの世界もそういうものなのかとサクヤは思った。

「そうだ。ボスと戦うとなるとサクヤを鍛えないといけないな。お前何か得意な武器は?」
サクヤはないと答えた。
サクヤは自分がモンスターと戦う姿を想像できなかった。
だがここではそれをしなければならないのだろう。
「それなら効果つきアイテムをいくつか渡しておくから使うといい」


「とにかく占いにしたがって石版を集めることにしましょう」
サクヤは石版集めの話を進めることにした。
「占いのとおりにするためには石版のほかに異世界の人間を神殿に集めなきゃいけないね」
「異世界の人間を探すとなると結構骨が折れるな」
「…その異世界の人たちはサクヤと同じように石版を持っているのかな」
セブンがふとそんな疑問を抱く。
「どうでしょうね。私がたまたま石版を握りしめていただけかもしれません」
「人も石版も別々の場所に現れたとしたら全部見つけるのは一苦労だな」
「これで占いが外れていたら目も当てられないよね」
「それは…そうだ。――サクヤは占いの結果を信じるのか?」
エイトの質問にサクヤは静かに答える。
「私にはこれに頼るしか道はないですから」

460 :作り合わされし世界 ◆YB893TRAPM :2007/12/04(火) 19:39:09 ID:HHfoHnmT0
そんな話をしているうちに日が暮れてきていつの間にか空には星が瞬いていた。
夜はモンスターが活発になる。一向は寝泊りできる場所を探すことにした。
屋敷があったので一晩の宿をお願いしようということになった。
しかしその屋敷には人の気配はない。中は暗い。人はいないのかもしれない。
サクヤたちは大きな扉を開けて屋敷の中に入る。不気味なほど静かな闇の中に。


――ばたん。

扉が閉まる。

静かな屋敷は一変する。屋敷の中には人ならざるものの気配で満ち溢れていた。
サクヤたちの前に泥人形やミステリードールが現れ、襲い掛かってくる。

「サクヤは下がってて!」
セブンとエイトは剣を構える。
二人は襲ってくる人形たちを次々に打ち倒していく。
ザクザクと斬っていく。
しかし人形は何度倒されても起き上がってくる。
サクヤは部屋の隅でその戦いを見守るしかなかった。

461 :作り合わされし世界 ◆YB893TRAPM :2007/12/04(火) 19:41:14 ID:HHfoHnmT0
――わけではなかった。
サクヤは自分の横のタンスにナイフを突き立てた。
「うがッ!」
悲鳴とともにモンスターが飛び出す。
「あれはパペット小僧!」
エイトが叫ぶ。

「ど、どうして分かった?」
パペット小僧が叫ぶように言った。
「人形がいるからには近くに人形遣いがいると考えるのが自然ではありませんか」
「しかし、隠れている場所まで見破ったのはどういうわけだ」
「人形たちは私に襲い掛かってきませんでした。何故か」
それは私があなたの死角にいたからでしょう。
私が見えない地にあって誰かが隠れられそうなのはこのタンスだけですからね」
サクヤは淡々と説明していった。

「見つけたのは褒めてやろう。だが貴様一人で何ができる?」
気がつけばサクヤの周りを人形が取り囲んでいた。
「ははっ! お前が得意げに解説している間に呼び寄せた!」
「しまった! 奴の特技は巧みな話術で人を引き付けることなんだ!」
エイトが叫ぶ。エイトとセブンの位置はサクヤを助けるには離れすぎていた。
「俺がちょいと合図を送れば人形どもがお前を地獄に送るのだ」

462 :作り合わされし世界 ◆YB893TRAPM :2007/12/04(火) 19:43:25 ID:HHfoHnmT0
「うーん。奇遇ですね」
緊迫した空気に場違いな軽い口調でサクヤがしゃべる。
「会話によって時間を稼いでいたのは私も同じなんですよ」
「何だと?」
「そろそろ毒が回ってくるころじゃないですか?」
サクヤがタンスに刺したナイフを引き抜きながら言う。
「これ毒牙のナイフって言うらしいですね。かすっただけでも相手の動きを封じるとか」
「そんな! ひぃ!」
パペット小僧は小さく悲鳴を上げた。サクヤはマグマの杖を構えているのだ。
「何か言いたいことがあれば聞いてあげますよ?」
「俺が悪かった! 助けてくれ!」
パペット小僧の台詞を聞くとサクヤはにっと笑いこう言った。
「確かに聞くことはしましたよ。じゃあ、バイバイ……」

サクヤはマグマの杖を振りかざした。

463 :作り合わされし世界 ◆YB893TRAPM :2007/12/04(火) 19:45:31 ID:HHfoHnmT0
「こんな状況だと言うのに恐ろしく冷静だったな」
エイトは驚きを隠せない。
「そう見えますか? 背中は冷や汗でびっしょりですよ」
「サクヤ、君って何者なの?」
セブンの質問にサクヤは答える。
「実のところですね、まだ思い出せないのです」
サクヤは続けて言った。
「きっと人に言えるようなことはしていなかったでしょうね」

「石版を集めるいい方法を思いつきました。彼に協力してもらいましょう」
サクヤの指差す先には虫の息のパペット小僧がいた。
マグマの杖でおきた炎は氷の刃によって消されていた。
「石版で元の世界に戻れると言う噂を流せばいんです。彼の話術は使えますよ」
「どういうことだ?」
サクヤの思いつきの解説をするようにエイトが促す。
「異世界から来た人が自分で石版を探し集まるようにする。
そうすることで異世界の人間と石版を探す手間がはぶけます」
サクヤはパペット小僧に近づくとこう聞いた。
「協力していただけませんか。そうすれば止めを刺さずに済みますし」
「は、はいよろこんでぇやらせていただきますぅ」
「それは良かった。名前はあるんですか?」
サクヤの問いにパペット小僧が答える。
「あやつりヨシキィと申します」
涼しげな顔で脅迫してくるサクヤによってパペット小僧が仲間になった。
「…サクヤってこの世界でもたくましく生きていけそうだよね」
少し呆れたようにセブンが言ったのだった。

464 :作り合わされし世界 ◆YB893TRAPM :2007/12/04(火) 19:47:40 ID:HHfoHnmT0
今日はここまでです。

465 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/12/05(水) 13:47:59 ID:15rtfcBn0
激しく乙
いよいよ完結編か

466 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/12/06(木) 15:52:01 ID:oB9qruab0
サクヤ冷静だな。

467 :目覚めた武闘家、エリー編1 ◆Tz30R5o5VI :2007/12/06(木) 19:43:17 ID:JivhPQorO
前回までの話>>400

巨大国、ロマリアを離れて北へ向かうことになった我ら勇者一向…。
装備をそろえたものの、あいかわらずこの地域は強いモンスターがよく現れる。
エリーはほぼ素手だったので、敵の防御力についていけないようだったのだが…。
エリーはすこし何かに、悩んでいるようだった。
なんなのだろうか。
ぼく(男勇者ゆきひろ)「エ…」
男戦士サイモン「ふう…。なんか嫌な予感がするんだよな」
エリーと話そうと思ったがタイミングが悪かったようだ。
ぼく(男勇者ゆきひろ)「嫌な予感って」
男戦士サイモン「あのロマリアの国王さ。あの王サマが、俺にひどい災いをもたらす気がするんだ」
ぼく(男勇者ゆきひろ)「国宝を見つけて渡すだけだし、変な事にならないと思うけど……」
男戦士サイモン「まっ、そうであることを祈るだけだ…俺、嫌な予感は七割の確立で当たるんだ」
不幸な特技だな…。
ぼく(男勇者ゆきひろ)「もう、日が暮れるね…。今夜はあそこでキャンプにしよう」
パチパチと薪の火の音がする。静かな夜…。
その静寂さのなか、夜行性の怪物達のうめき声が時折聞こえる。
街や村のベッドが恋しい。
サイモンとナナは先に眠った。
ぼくとエリーはその間、二時間の番をするわけだ。キャンプは危険だから、交替で寝るのである。
母は元気だろうか……。
長い夜は始まったばかり。

468 :目覚めた武闘家、エリー編2 ◆Tz30R5o5VI :2007/12/06(木) 19:47:08 ID:JivhPQorO
美しい月だった。
どの世界でも夜空はキレイなんだ。
女武闘家エリー「ねえ」
ぼく(男勇者ゆきひろ)「あ、うん」
女武闘家エリー「あたしのコトどう思ってるの」
ぼく(男勇者ゆきひろ)「どうしたの」
女武闘家エリー「あたしは、力じゃサイモンに勝てないし…。ちゃんと、役に立ててるかな?」
ぼく(男勇者ゆきひろ)「ぼくも、そんなこと言われたらさ、魔法使いにも僧侶にも戦士にも、武闘家にも勝ててないと思う…。あと、申し訳ないけど」
女武闘家エリー「…うん」
ぼく(男勇者ゆきひろ)「エリーはサイモンよりも、力とスピード、あるって。きっとどこかで、その力をセーブしているんだ」
女武闘家エリー「……あたしは、自信がないんだ。偉大な人のために役立ちたくて、でも、その人は、遠くて、身近すぎて、考えるほど、自分が分からなくなってくるの」
ぼく(男勇者ゆきひろ)「その人ってオルテガのこと?」
女武闘家エリー「って、偉大なのはあんた!…あなたの事よ」
ぼく(男勇者ゆきひろ)「ぼくが…偉大…?」
女武闘家エリー「…違うわ、これからあなたは偉大になるの…、きっと。血と使命が、将来あなたを偉大にするわ、誰もがあなたを讃える。その時に平和が……訪れてるの」
買いかぶりすぎだ。
オルテガの名は重すぎる、ぼくには…。
ぼく(男勇者ゆきひろ)「じゃあ、平和が訪れたら、エリーも偉大な仲間として語られていくよ。ぼくと一緒に」
エリーの瞳にぼくがおおきくうつっている。
女武闘家エリー「一緒ね!」
エリーはその時笑顔で笑った―。

469 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/12/06(木) 19:52:13 ID:RbQLZ9W00
リアルタイム遭遇支援

470 :目覚めた武闘家、エリー編3 ◆Tz30R5o5VI :2007/12/06(木) 19:56:07 ID:JivhPQorO
ガサ…と音がした。
剣は…!
女武闘家エリー「誰!!?」
薪の火がいつのまにか消えていた。姿はよく見えないが、この体重を感じられる足音や、鼻からなくような声には覚えがあった。
イノシシによく似ていて、ドラキーなどの飛行系の仲間とよく出現するモンスターの気配である。
こいつらを相手にするのには、ぼくらが四人揃っていなければ勝ち目がない。
しかし、テントには二人が眠っている。逃げることはできない。
大声で叫べば二人は気づくかもしれない、しかし、周囲のモンスターを呼び寄せることにもなってしまう。
つまるところエリーとぼくが倒すしかない!!
ぼく(男勇者ゆきひろ)「エリー!離れるな!エリーならこいつらの気配が分かるだろ、ぼくはとどめをさす、だからっ!!」
女武闘家エリー「わかったわ!!!」
そう! その最速のスピードですべての攻撃をかわし、先制攻撃できる!それがエリーの力だ。
エリーはきっと今、目を瞑り、五感を研ぎ澄ましているだろう。
女武闘家エリー「はああっ!!」
ドッ!!と殴った音! 拳がモンスターをとらえる!!!
至近距離でようやく見えた倒れたモンスターをぼくがとどめをさす。あと何匹だ?!
ぼく(男勇者ゆきひろ)「大丈夫か?エリー、あと…」
女武闘家エリー「もう一匹は、あんたの後ろよ!!!!」
後ろ! 振り向き、剣を振り下ろした………手応えはあった!!!!
あと…。
ようやく目が暗やみになれてきた…。
エリーに襲いかかるモンスターの影!! あのモンスターは一人じゃだめだ。
そのモンスターに斬りかかろうとしたら。
女武闘家エリー「大丈夫! あたしにまかせて!」
ぼくは見た。その数百キロの巨体をエリーは一撃できめたのだ。
倒した瞬間、その巨体が地面にめりこみ、森がゆれた…。
女武闘家エリー「はあ、はぁ…」
ぼく(男勇者ゆきひろ)「エリー…」
テントからサイモンの声。
男戦士サイモン「うるせえよバカ、なにやってんだよ…」

471 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/12/06(木) 20:02:31 ID:W077HCBN0
支援!!

472 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/12/06(木) 20:05:52 ID:RbQLZ9W00
> じゃあ、平和が訪れたら、エリーも偉大な仲間として語られていくよ。ぼくと一緒に
か・・・かっこいい。

倒し終わった頃に出てくるサイモン、テラワロス。

473 :目覚めた武闘家、エリー編4 ◆Tz30R5o5VI :2007/12/06(木) 20:06:37 ID:JivhPQorO
その次の朝に出発し、カザーブの村についたのは二時間後。
看板が汚れていてよく読めなかったが、村の人に聞いて村名が分かったのだ。
秘境という言葉がぴったりくる村…。ここがロマリアの国王が言っていた村に間違いなさそうだ。
村人「ああカンダタね、その盗賊なら子分らと一緒に村にたまに来るよ。ていうか西のシャンパーニの塔は奴らのアジトだから今はそこにいるだろうな」
有力な情報である。
ぼく(男勇者ゆきひろ)「ありがとうございました。たすかりました」
村人「いやいや、いいさ」
この後、村をまわってみた。宿屋は高く、武具屋などはなし…。やはり物静かな雰囲気の村であることがあらためてわかった。楽しみといえば温泉があることだった。夜に入ろうかな。
女武闘家エリー「ねえ、ゆきひろ、あれ…」
ん…墓だ。
『素手で熊を殺した、偉大なる武闘家、ここに眠る』
ぼく(男勇者ゆきひろ)「名前は誰なんだろう…」
汚れていて読めなかった。
女武闘家エリー「すごい人だったのね」
ぼく(男勇者ゆきひろ)「うん……」
男戦士サイモン「お、さっきのおっさんが来たぞ?」
村人「見たところ、冒険者だね、昔やってた店の武器やらがあるから、うちの家にこないか? 格安にしとく」
ぼく(男勇者ゆきひろ)「へえ…。じゃ伺います」
そんなわけで、行くことになった。普通の民家、そのうらの物置に。
女武闘家エリー「えっ!!」
村人「どうだい、何か欲しいのはあるか?」
女武闘家エリー「これ、鉄の爪じゃない! きゃあ、やった!!!!」
ロマリアにもなかった武闘家専用の武器だった。なぜか武闘家の武器はレアのようで、これまで見たことはなかった。
女武闘家エリー「すごいね、ゆきひろ! あたしの武器、見つかったわ!」
ぼく(男勇者ゆきひろ)「うん、すごいな!」
思わず、いきおいで抱擁しあってしまった…。
男戦士サイモン「おまえら、そんなに仲よかったっけ」
女僧侶ナナ「よかったですねエリー!」
村人「武闘家さんなら武闘着もあるから、武器と一緒で1000Gでいいよ」
高い攻撃力の鉄の爪と、高い防御力の武闘着がやすく買えてしまった。
偉大なる武闘家が眠る村には、すばらしい武闘家の装備品が売っている。
バラモス、着実におまえに近づいているんだ。

474 :目覚めた武闘家、エリー編5 ◆Tz30R5o5VI :2007/12/06(木) 20:11:49 ID:JivhPQorO
次の日、村を出発し西へと向かった。
ぼくらの旅に休日はない…。
『さまようヨロイが現れた。』
ロマリアのあたりでエリーが苦戦したモンスターだった。
女武闘家エリー「来たわね!!!!!はあっ!!!」
エリーが跳んだ!
頭部へと強烈な一撃を繰り出したのだった。
男戦士サイモン「おいおい! 強いな…。どうしたんだよ?!」
おそろしく強くなっていた。
サイモンも、負けていられないとシャンパーニの塔までの道中、めずらしく戦闘に気合いが入っている。
そういうぼくも負けてはいられない。
男戦士サイモン「ははは、なかなか張りがあっていいよな、なあ、ゆきひろ」
ぼく(男勇者ゆきひろ)「うん」
女僧侶ナナ「ふふ」
エリーが誇らしげに鉄の爪を見ている。
その表情は、不安などどこにもみられなかった。
これならどんな敵にも勝てると、その時はそう思っていた。
そして…。
目的地である塔が見えたのだ。
ぼく(男勇者ゆきひろ)「いくぞ、シャンパーニへ!!」
サイモン&エリー&ナナ「おお!」
そこはカンダタ達のアジトだ!

475 : ◆Tz30R5o5VI :2007/12/06(木) 20:16:18 ID:JivhPQorO
>>469
>>471

支援されてよかった
行数ではじかれて焦った
どうもありがとう。投下は終わりです

476 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/12/06(木) 20:29:04 ID:RbQLZ9W00
新作&投下乙でございました。
装備も整えて、パーティーのみんなもコンディション最高で、エリーさんといい雰囲気ですね。

> その時はそう思っていた。
波乱の予感・・・。

477 :Stage.? 雑談 ◆IFDQ/RcGKI :2007/12/07(金) 22:24:21 ID:MXoTTvC/0
※本日の雑談はタツミ君とエリスさんにお願いします。

エリス「みみ皆様こんにちは! エ、エリス=ダートリーと、も、申します!」
タツミ「そんなに緊張しなくても大丈夫だよw
   えーと今回は、>>356様のご質問にお答えしよう、というのが主旨らしいね」
エリス「やはりわかりにい部分ですよね」
タツミ「でもぶっちゃけさぁ……作者が設定厨なだけで、わからなくても問題ないよね?
   どうせこの話だけのオリジナル設定だし、今後もほとんどストーリーに絡まないだろうし」
エリス「それを言ってしまうと、雑談ここで終わっちゃうんですが」

タツミ「タネ明かしをすると、実は僕のように『現実』から来た人間には、
   この世界の魔法の習得はものすご〜く簡単なんだ」
エリス「そうなんですか?」
タツミ「以前、アルスに外側から僕のステータスを画面で確認してもらったことがあったけど、
   あの時、僕は頭の中でコマンド指定の流れを想像しただけで、それが実現したでしょ」
エリス「あっ、ゲームの中から直接コマンド指定ができるなら……」
タツミ「呪文の発動も同じ要領でできちゃうわけ」
エリス「では私たちのように『着火までの過程をできるだけ具体的に想像してー……』
   なんてプロセスを踏まなくてもいいんですね」
タツミ「もっとも実際やってみると、イメージウィンドウでのコマンド入力の方が難しいけど」
エリス「なぜですか」
タツミ「目の前にモンスターがぐわーっと迫ってるところで、
  『のほほんとテレビにゲーム画面が映ってる状態』を想像しろって方がムリだよ。
  『大爆発が起きてモンスターをぶっ飛ばす!』ってイメージの方が咄嗟に浮かぶし、爽快だしね」
エリス「その場合、勇者様はどのような過程をイメージされるんですか?」
タツミ「簡単だよ、モンスター周囲の大気成分が位相反転して反物質になったと仮定して……」
エリス「それ、たぶん現実の方々でもそう簡単にイメージできるとは思えないんですが」


タツミ「結局、全然答えになってないような」
エリス「そうですね」

478 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/12/07(金) 22:43:22 ID:7POy2A/A0
おお、コマンド入力をイメージするですか。
確かに反物質と物質が接触すると対消滅してエネルギーになりますね。
物質を構成する電子を陽電子に、陽子を反陽子に変換する過程のイメージは慣れるまではちょっとだけ難しそうですね。

479 :幕間 街角にて… ◆Y0.K8lGEMA :2007/12/08(土) 00:56:50 ID:IEWvA9510
※時間軸はサンタローズ攻略直後くらいでしょうか。
『寄ってらっしゃい見てらっしゃい!旅に欠かせない道具の実演販売だ!』
「へぇ、あんなチビッコを引き連れて路上販売?珍しいな。」
「オラクルベリーらしい商売だね。少し見ていこうか?」
『お、兄さんノリが良いねえ。セル君、準備はOK?』
『OKOK準備万端だよ。兄ちゃん。それじゃあ今日の商品は…コレだあ。』
『一見何の変哲もない袋。 この中に…そうだ、兄さんの剣でも入れてみようか?』
「はぁ?こんな小さい袋に剣が入るわけが…」

―すぽっ!―

「!?」
「…いや…袋ってのはこういうもn…「SUGEEEEEEE!中国雑技団みてえ!!」
『驚くのはまだ早いよ。それじゃあセル君、兄さんの剣を返してあげようか?』
『OKOK勿論勿論。借りたものは返さなきゃね。ハイヨッ!!』

ポイッ! ⊃鋼の剣  ポイッ! ⊃マジックシールド  ポイッ! ⊃亀の甲羅
ポイッ! ⊃破邪の剣  ポイッ! ⊃うまのふん …(ry

「SUGEEEE!!なんかいっぱい出て来たあっ!!」
「…だから…袋ってのはこうi…「ブラボー!おぉブラボー!!」
『兄さんノリが良くて気持ち良いねえ。それじゃあそろそろ剣を返そうか。』

ポイッ! ⊃天空の剣

『はい、兄さんありがとうね。』
『さぁ!この袋に今なら福引券をつけて、たったの¥5000ゴールドだ!』
「かっけえぇぇぇ!!あの袋欲しい!ちょっと天空の剣売って金作ってくるわ。」

「「駄目!!」」

(´・ω・`)

480 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/12/08(土) 11:43:18 ID:2IQBwLulO
ふくろって不思議だなぁ…

481 :作り合わされし世界 ◆YB893TRAPM :2007/12/08(土) 20:45:45 ID:eAdcY7Kg0

 〜作り合わされし世界〜

    → 冒険をする
      →0:サクヤ
        1:しなの  
        2:ヨウイチ 
        3:タロウ 

482 :作り合わされし世界 ◆YB893TRAPM :2007/12/08(土) 20:50:10 ID:eAdcY7Kg0
3.風の噂と道化師(>>457-463)

異世界の人間が石版を集めることで元の世界に戻れると言う物語。
話はヨシキィによって人形劇として演じられる。
これを本当の話であることを匂わせて人々に噂を広めることにした。

「匂わせるんじゃなくて本当のことをきちんと言ったほうがいいんじゃないか?」
「噂なんていうのはどこか秘密めいていたほうが広まるものですよ」
エイトの質問にサクヤはにやりと笑いながら答える。
「噂を広めるなら人の出入りが多い場所がいいよね」
「そうですね。どこかよさそうな町を見つけ次第取り掛かりましょう」

一向は人々でにぎわう町を見つけた。噂を広めるにはよさそうな町である。
活気にあふれた町は人々が集まりザワザワと大いににぎわっていた。
「僕たちは町の人たちから情報を集めてくるよ」
新しい町にきたら隅々まで調べる。それは旅をする者の習慣のようなものだった。
「町の中とはいえ悪魔のつぼやミミックがいるかもしれないからサクヤは待っててくれ」
セブンはつぼや宝箱に化けたモンスターが襲ってくることがあると説明した。
「そういう擬態を見破るインパスという呪文がある。赤く光ったらモンスターだ」
「自分たちの仲間が多いときは戦うのも手だけど人数が少ないと脅威なんだよ。
危ない橋は渡るなってね」
そんなことを言った後セブンとエイトはサクヤを残して情報収集に向かった。

483 :作り合わされし世界 ◆YB893TRAPM :2007/12/08(土) 20:52:12 ID:eAdcY7Kg0
サクヤはヨシキィとともに人形劇を準備を始める。
「おうおう、お前ら誰の許可をもらって仕事をしようって言うんだ?」
そこへ見るからに柄の悪い男が因縁をつけてきた。
「おや、許可が必要だったのですね。それは知りませんでした」
「分かったんなら場所代を払ってもらおうじゃないか」
「すみませんね。あいにく今手持ちがないのですよ」
「なめた口利くんじゃねぇ! この町のルールってのを教えてやるよ!」
男はこぶしを振り上げた。
「この人は知らなかったと言っているんだ。そのくらいにしておくんだな」
誰かが男の手を掴んでいた。見るからに屈強そうな男だった。
その男を見て柄の悪い男は舌打ちをしてその場を去った。

「助かりました。お礼を言わせていただきます。ありがとうございました」
「礼はいい。金があれば飯でもおごってもらうところだがな」
サクヤの礼に男は少しおどけた調子で答えた。
「ええ、それくらいはさせてもらいます」
「おいおい手持ちがないんじゃなかったのか?」
「あの男に払うようなお金は持っていないと言う意味ですよ」
サクヤはおかしそうにそう言ったのだった。

484 :作り合わされし世界 ◆YB893TRAPM :2007/12/08(土) 20:54:15 ID:eAdcY7Kg0
町で知り合った男はダンと名乗った。サクヤはダンとともに町の食堂で食事を取る。
この町に来る途中モンスターと戦い少しばかりのお金は持っていたのだ。
「以前この町に来たときはあんな連中はいなかった。裏に誰かいるかもしれないな」
「困りましたね。この町での公演はあきらめたほうがいいかもしれません」
「そのモンスターに人形劇をやらせようってのかい。大丈夫か?」
ヨシキィも食堂についてきていた。
「手なずけてありますから。でも裏切ったときは遠慮なくどうぞ」
ダンが腰に挿しているナイフを指差してサクヤは言った。
ちょっと趣味の悪い冗談だとダンは思った。
「どうもただの人形劇じゃなさそうだな」
「石版を集めたいのですよ。それを神殿にもって行けば私の願いが叶うのです」
サクヤの言葉にダンは少し眉をひそめた。
「願いというのは私のような異世界の人間が元の世界に戻ることです」
サクヤはそういうと防具袋の中から石版のかけらを取り出した。
「こんな石版なのですがどこかで見かけませんでしたか?」
「いや、知らないな。なんなんだイセカイというのは」
「遠いところです。もし異世界の人間がいたら石版の話をしてあげてください」
そんな会話を交わした後サクヤたちは食堂を出た。

485 :作り合わされし世界 ◆YB893TRAPM :2007/12/08(土) 20:56:18 ID:eAdcY7Kg0
「見つけたぞお前たち!」
食堂を出てすぐ先ほどサクヤに絡んできた男が再び現れた。
「先生お願いします!」
男は自分では敵わないと思い用心棒を連れてきていた。
その先生と呼ばれたのはモンスターだった。
「あれは地獄のピエロだ。強力な攻撃のほか魔法まで使ってくるぞ」
モンスターを見てダンがサクヤに忠告する。
「戦いは避けられそうにないですね。先手必勝です」
そういうとサクヤは一本の槍を振りかざした。
「砂塵の槍。道具として使うと目くらましになるそうです」
地獄のピエロは幻に包まれた。
「あれあれー、自慢の攻撃も当たらなきゃ意味がないですねー」
サクヤが地獄のピエロを挑発する。
「おい、こいつには魔法攻撃があることを忘れるな!」
ダンが忠告したまさにそのとき地獄のピエロがメラミを放つ。

「楽でいいですね。こんな煽りに簡単に乗るなんて」
メラミの炎はサクヤの手前で進行を止め、術者に戻っていく。
「さざなみの剣。道具として使うと魔法を跳ね返す効果があるそうです」
サクヤは燃え上がる地獄のピエロに向かって解説した。
「まだやりますか?」
サクヤは柄の悪い男に向かってにっこり微笑む。

その後ダンはクレージュという町に行くといってサクヤと別れた。
邪魔が入らなくなったことでサクヤは人形劇を始める。

「ねえ、見てよ。変なのがいる」
情報収集から戻ってきたセブンがエイトに話しかける。
セブンが見たものはサクヤの人形劇の呼び込みをしている焦げたピエロだった。

486 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/12/08(土) 20:57:02 ID:OacaC8DMO
シエンナ

487 :作り合わされし世界 ◆YB893TRAPM :2007/12/08(土) 20:58:20 ID:eAdcY7Kg0
「サクヤってさ何者なの?」
何が起きたのかを知ったセブンがサクヤに尋ねる。
「何度も言いますけど覚えてないです」
セブンの質問にサクヤはしれっと答える。
「さすがに何も覚えてないってことはないだろ」
エイトの言葉にサクヤは少し間を空けたあと口を開いた。
「たとえばの話ですよ。
私が目を覚ましたら見知らぬ宿屋にいました。私は異世界の人間です。
――なんていう人間がいたとして信じられますか?」

「僕は信じてもいいと思う」
「…もう少し人を疑うことを覚えたほうがいいですよ」
セブンの言葉に少し呆れたようにサクヤが言う。
「何も教えてくれない人間よりは信じてみようって気になるさ」
エイトがサクヤを非難するように言う。
「それにさ。誰だって自分のことを信じて欲しいものだろ」

「信じてくれなくてもかまいません。私はずっと独りで生きてきたんですから」
そう言うとサクヤはその場から去ろうとする。
「どこ行くんだよ」
「少し一人になりたいんです」
「待ってよ」
「ほうっておけ」
あとを追おうとするセブンをエイトが引き止める。

488 :作り合わされし世界 ◆YB893TRAPM :2007/12/08(土) 21:00:24 ID:eAdcY7Kg0
サクヤは町の外に出ていた。
そしてあの二人、セブンとエイトとのやり取りを思い出していた。
自分はずっと独りで生きてきた。それは間違いないことだ。
だから自分はこんなところにいても物怖じせずにいることができるのだ。
しかしそれ故に自分は他人に信じてもらうということが苦手なのかもしれない。
人に弱みを見せることができない。それこそが自分の弱点なのかもしれない。
…自分はこれからどうすべきなんだろう。

サクヤは外の空気を吸って深呼吸をしていた。
あたりはすっかり暗くなっている。
頭を冷やしたことでとてもすっきりした気分になった。
なんだかあの二人ともうまくやっていける気がする。

ドシン。

静かな夜を打ち破る大きな音がした。サクヤの前にはゴーレムがいた。

サクヤは目の前にいるモンスターを見る。
力が強そうな魔物だ。
この魔物と戦うならば直接やりあうのは得策ではないだろう。
サクヤはすかさず眠りの杖を振りかざした。

しかしゴーレムには効かなかった。

「そんな!」
ゴーレムのこぶしがサクヤに振り下ろされる。
こんなものを普通の人間が一撃でも食らったらひとたまりもない。これで終わりだ。
サクヤは静かに目を閉じた。

489 :作り合わされし世界 ◆YB893TRAPM :2007/12/08(土) 21:02:26 ID:eAdcY7Kg0
「こんなことで諦めちゃ駄目だ!」
「お前は元の世界に帰るんだろ!」
セブンとエイトがゴーレムの攻撃を受け止めていた。
この二人が力を合わせればゴーレムといえどもひとたまりもない。
ゴーレムはその場に崩れ落ちた。

「大丈夫、サクヤ?」
「夜はモンスターの動きが活発になる。気をつけろよ」
サクヤはしばらく黙っていた。そしておもむろに口を開いた。
「私は…ずっと一人で生きてきました。誰の力も頼らず…
だからこの見知らぬ土地に来て…ここでも独りで生きていこうと…」
その声はほどんど聞き取れないほど小さなものだった。

「もっと僕たちを信じてよ」
「自分を信じて欲しかったら他人を信じることも必要だぞ」
「私のこと…私のこと、信じてくれますか?」

490 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/12/08(土) 21:03:07 ID:OacaC8DMO
シエンナギロリー

491 :作り合わされし世界 ◆YB893TRAPM :2007/12/08(土) 21:03:28 ID:eAdcY7Kg0
今日はここまでです。

492 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/12/08(土) 21:42:16 ID:JaRqtPRr0
焦げたピエロの呼び込み和良た(wwww

エイトも、セブンもいい奴ですね。

493 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/12/10(月) 13:59:32 ID:yXLN9vqH0
>477-478
すごく…光子魚雷です

494 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/12/11(火) 19:56:20 ID:uS1qVh+KO
ベビーデーモンは保守を唱えた!

しかしMPが足りなかった!

495 :作り合わされし世界 ◆YB893TRAPM :2007/12/12(水) 20:01:44 ID:VEX62hOd0

〜作り合わされし世界〜

    → 冒険をする
      →0:サクヤ
        1:しなの
        2:ヨウイチ
        3:タロウ

496 :作り合わされし世界 ◆YB893TRAPM :2007/12/12(水) 20:04:17 ID:VEX62hOd0
4.裂けいく異世界

「私ってよっぽど怪しい人間だと思われていたみたいですね」
「ああ。こいつ絶対裏があるって思ってた」
「そんなこと言っちゃ悪いよ」
「いえ、今にして思えば私も警戒するあまり不審な態度をとっていました」
「確かに見知らぬ世界にすんなり馴染む人間がいたらそっちのほうがよっぽど怪しいよな」
「それ言いすぎだよ」
町で戻る途中サクヤとエイトとセブンはそんな会話を繰り広げていた。

帰り着いたあとセブンとエイトがサクヤに集めた情報を伝える。
「面白い話が聞けたよ。魔王が現れたけど急にいなくなったんだって」
「その原因は不明だけどな。そして同じころ世界がおかしくなり始めたようだ」
魔王という言葉にまたもやサクヤの表情が険しくなる。

「消えた魔王っていうのが世界の崩壊と関係あるのかもね」
ふとセブンがそんなことを言い出した。
「どういうことでしょう?」
サクヤが少し不安そうに尋ねる。
「魔王がこの世界の外側に行ってそこから世界を壊しているのかもしれない」
「面白いですね。いえ、面白いなんて言っちゃいけないですね」
「もしかしたらその世界を崩壊させる方法ってのがサクヤたちなのかもね」
「私にそんな力はありませんよ」
セブンの言葉をサクヤは否定する。しかしセブンはこう続けた。
「石版にはそんな力があるかもしれないよ。
異世界の人間を封印することで世界が変になったんじゃないかって思ったんだ」

497 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/12/12(水) 20:05:55 ID:0cCMlwTHO
キング支援が あらわれた!

498 :作り合わされし世界 ◆YB893TRAPM :2007/12/12(水) 20:06:21 ID:VEX62hOd0
「封印されているのはこの世界そのものなのかもな」
それまで黙っていたエイトが口を挟む。
「つまり、この世界がおかしくなっているのは封印されている状態だってこと?」
「私が封印されているわけではないというわけですね」
エイトの意見にセブンとサクヤが興味を示す。
「この世界は封印されて壊れ始めた。
その影響でできた次元の裂け目みたいなものにサクヤたちは飲み込まれてきたのかもな」

「封印されて壊れだした世界。裂けいく異世界というわけですね」
「裂けいくってよりも合わされし世界って感じじゃない?」
サクヤの言葉にセブンが反論する。
「裂けいく異世界。なんとも暗示的な言葉ではありませんか」
しかしサクヤはその言葉が気に入ったらしく何度かつぶやいていた。
「そうかなあ。そもそも世界が封印されているって決まったわけじゃないんだよね」
「とにかく石版を集めれば分かることだ」

町から町へ渡り歩きヨシキィの人形劇が演じられる。
モンスターが客をひき演じるその話は人々の心をつかんでいく。
劇に魅せられた人は石版の話をまた別の誰かに話し噂を広める。
噂話は町から町、国から国、そして夢の世界にまで広まっていった。

夢の世界のある町での出来事。
二人の子供、イリヤとジーナが宝探しごっこをしている。
探す宝は不思議な石版。
その様子を一人の少女――バーバラが見つめていた。
こうして石版の噂は異世界からきた者の元へ届いていくのであった。

499 :作り合わされし世界 ◆YB893TRAPM :2007/12/12(水) 20:08:26 ID:VEX62hOd0
「今回はこの教会で劇をやらせてもらうことにしましょう。
近くには勇者の泉と言うものがあってこの教会には旅人が集まるそうですよ」
教会は荘厳な雰囲気の中にありパイプオルガンの音が似合いそうだった。
ステンドグラスの窓がキラキラと輝いていた。
「俺はどうにも教会って言うのが苦手なんで――いえ、やりますやります」
ヨシキィはセブンとエイトを見てすぐさま抵抗を諦めた。
二人はサクヤを元の世界に返そうと一生懸命になっている。
サクヤを仲間だと思うようになっていたのだ。
「私も教会なんて落ち着かないですよ。でもこれも石版を集めるためです」
サクヤの言葉に促され、地獄のピエロが人を集める。

「近頃石版の噂をよく聞くと思ったが、君たちの人形劇のせいだったのか」
人形劇を見た神父がこんな感想を述べた。人のよさそうな神父である。
「ここはすでに噂は広まっていたのですね」
「ふむ、噂を信じて4人連れが石版を見つけると言っていたがどうなったのだろうか」
神父はその旅人のことが気にかかっているようだった。それはサクヤも同じだった。
その言葉を聴いてサクヤは自分の狙い通りになっていると確信した。

「どうやら私たちの旅も終わりのようですね」
石版の噂は十分広まった。これ以上旅を続ける理由はないのだ。
「神殿に向かうんだね。祭壇がある場所まで送るよ」
「やめておこう。異世界の人間が元の世界へ戻るのに巻き込まれる可能性がある」
セブンの提案にエイトが反対する。
「そうですね。最後くらいは自分一人の力だけでいきましょう」
「ああそうだ。ヨシキィはスカモンとして俺が預かろう」
「地獄のピエロはモンスターパークに入れるよ」

500 :作り合わされし世界 ◆YB893TRAPM :2007/12/12(水) 20:10:31 ID:VEX62hOd0
「サクヤともお別れだ。寂しくなるな」
一人神殿へと向かうサクヤの背中を見てエイトが漏らした。
「別れた者のその後の幸福を願うなら決してその別れを嘆いてはいけない」
セブンのいつもとは違う力強い言葉を放つ。
「僕の言葉じゃないよ。でも、僕にとってとても意味のある言葉なんだ」
すぐにいつもの調子に戻ってそう続けた。
「そうだな。サクヤのことは笑顔で送り出そう」
こうしてサクヤの人形劇を利用した石版を集めるための旅は終わった。

サクヤは神殿へ向かう。
靴の音だけがカツカツと聞こえる。
もうすぐこの世界ともお別れだ。
裂けいく異世界。
このばらばらになった石版のような世界から。


――最終章へ

501 : ◆YB893TRAPM :2007/12/12(水) 20:12:34 ID:VEX62hOd0
これで終了です。支援ありがとうございました。


そして、最終章について合作掲示板からお知らせがあります。

『合作の最終章は前半を15日21時から、後半を16日21時からそれぞれ投下される予定です。
 連投規制に引っかかる可能性があり規制が解除されるためには時間の経過が必要です。
 途中で長い時間書き込みができないことがあるかもしれませんが必ず投下します。
 そのため投下に時間がかかる可能性がありますが、ご理解とご協力をお願いします。』

502 :癒しの魔法 ◆2yD2HI9qc. :2007/12/13(木) 23:15:38 ID:POSLSzJc0
恋をする男が一人居た。
男はドラクエ世界の宿屋で目覚め、そのまま暮らしていた。
相手の女は僧侶で、一生懸命にべホイミを練習している。

男は彼女の気を引きたかった。
素直な彼女はいつも人に囲まれていた。
やっと、一人になったのを見計らい話しかけ、約束をする。

男は約束に備え彼女が練習していた魔法を習得した。
時間が足りず、それしか習得できなかった。
それでも、実際の魔法を見せて喜んでもらえると思い、努力した結果だった。

彼女の気持ちは、わからなかった。
毎日、少しでもわかってもらおうと合間を見てほんの少しだけれど会話した。
時々は一緒に話しながら帰った。

男は怖かった。
約束の日に自分の気持ちを伝えようと思っていた。
不安だった。
今の関係が無くなってしまう事が、とにかく恐ろしかった。
約束したことを後悔したこともあった。
けれども、決めたことだからと毎日を精一杯過ごした。

503 :癒しの魔法 ◆2yD2HI9qc. :2007/12/13(木) 23:17:15 ID:POSLSzJc0
とうとう約束の日の朝。
目を覚ますと現実世界の部屋に居た。

男は、複雑な気持ちだった。
彼女に振られ、その関係が壊れる事はなくなった。
けれど、その彼女に気持ちを知ってもらうことも、彼女の気持ちを知ることもなくなった。

男はつぶやく、べホイミと。
体中が暖かくなり、心が少し癒される。

男はもう二度と、彼女と会うことも魔法を唱えることもなかった。
これからずっと、焦がれた笑顔を取り戻すことは出来なかった。

504 :癒しの魔法 ◆2yD2HI9qc. :2007/12/13(木) 23:17:50 ID:POSLSzJc0
おしまい。

505 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/12/13(木) 23:41:36 ID:n/ANQ/5+0
約束の日に、元の世界に戻ってしまうとは、なんという運命のいたずら。
でも、その男の人が、彼女のために頑張った日々は、無駄ではないと信じたいですね。
ちょっとほろりと切ないお話ありがとうございました。

506 :タカハシ ◆2yD2HI9qc. :2007/12/14(金) 07:46:53 ID:Omo+nHq70
>>505
切なくなってくれてありがとうございます。
少し雑ですが、電車に乗っている人たちをみて思いつき、書きました。

そして、朝から修正します。
>>503
の最後の行は
「これからずっと、焦がれた笑顔を取り戻すことも見つけることも、しなかった。」
へ変更です。

では。

507 :作り合わされし世界 ◆ODmtHj3GLQ :2007/12/15(土) 21:03:35 ID:OGexf1c80
●作り合わされし世界〜最終章〜

人が通るには十分な高さと広さを持つ通路が真っ直ぐ続いている。
壁の上部には訪れし者を案内するかのように松明が焚かれていた。
等間隔に並べられているため、幸いにも視界の確保には困らなかった。

  「……」

それでも一人で歩くには心もとないくらいに薄暗いのは否めない。
さらに出口が見えないという事も不安の種になる。
恐ろしく長い距離を歩かねばならない洞窟なのかもしれないのだ。
だがそれでも彼女は進まなくてはいけない。
この先に神殿があるのは間違いが無いのだから。

  「お……」

手で壁を伝いながら足を運んでいると、少し俯きがちに歩いている人影に出くわした。
その後ろ姿は注意深くと言うよりは意気消沈といった感じに見えた。

  「やぁ、久し振りだな」
  「おぉ! モンスターかと思った……いきなり声かけるなよ」

知り合いに出会えた嬉しさからか、つい大きな声が出てしまう。
その声に振り返った男は、彼女にまったく気付かなかったようで少し後ずさる。

  「ん、すまなかった。しかしまた会えるとは思ってなかったもんだからな」
  「……? どこかで会ったか?」

その男、ヨウイチは彼女と一度だけ会話を交わした事があるのだが、
思考の対象が他に向かっていたためにすぐには思い出せなかった。
そんな様子を見て彼女の方からヒントを出す。

508 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/12/15(土) 21:06:40 ID:NtcNNcCf0
最終章投下開始wktk
いよいよ神殿ですね。
保守〜
しなのさんと再会どきどき。

509 :作り合わされし世界 ◆ODmtHj3GLQ :2007/12/15(土) 21:07:11 ID:OGexf1c80
  「ドラオとやらは一緒じゃないのか?」
  「あ、あぁ、今は一人なんだ……そうか、シエーナで会った?」

あぁと頷いて嬉しそうな表情をした後、彼女は残念そうに笑った。

  「何だ、今ならドラオとも仲良くできる自信があるのだが」
  「そう言えばドラオには嫌われてたっけ。あれから修行でもしたのか?」
  「まぁな!」

彼女はニヤリと自信たっぷりに笑う。
そこでヨウイチは彼女に尋ねなければならない事項があったのを思い出した。
が、まだ互いの名前も知らなかった事にも気付く。

  「そうだ、名前! 名前を教えてくれよ」
  「あぁ、失礼をしたな。しなのという。っと、敬語を使うべきかな?」
  「いや、気にしないでいいよ。俺はヨウイチ。ここに来たって事は石版を?」
  「あぁ、この先に神殿があると聞いてな。……これだな」

石版のかけらを互いに取り出して示し合わせてみる。
その二つだけではとても石版の元の姿を取り戻せそうになかった。

  「これで本当に元の世界に帰れるのか?」
  「いや、帰れるって!
   向こうと違ってここでは何が起こっても少しも不思議じゃないんだから」
  「そうか、それもそうだったな」

この世界で起こる出来事を特別に不思議なものだと感じるのは当人が異世界の人間だからだ。
そんな特有の反応を示すしなのの様子からヨウイチの推理はほぼ確信へと変わる。
つまり以前にしなのが何気なく言った「私の世界」という言葉が
自分の世界と同じなのではないかという疑問がようやく解けたという事だ。
しかし一安心したところでヨウイチはその疑問を持った時の事を思い出してしまった。

510 :作り合わされし世界 ◆ODmtHj3GLQ :2007/12/15(土) 21:11:00 ID:OGexf1c80
  「あの時ちゃんと聞いておけば……どうなったろう……」
  「ん? どうした?」
  (……ドラオの命は、もしそうしてたら変わったのかもしれない)

過ぎ去った過去とすぎようとする現実を対比し、ヨウイチはうつむいた。
そんな様子を見て、しなのは両手を軽く広げて何かを待つような仕草をした。

  「……ヨウイチ」
  「な、なんだ?」
  「いや、何だか元気がない様子だから抱きしめてやろうかと思ってな」
  「えぇ?! いい、いいよ!」
  「そうか? 寂しさが紛れるかもしれんぞ?」
  「寂しいっていうか……なんか、こっちがどうしていいのか困るよ」
  「そうか……それはすまなかった。
   ふぅん、素直になっても全てが上手くいく訳ではないんだな。難しいものだ」

それが何の事を言っているのか分からないが、
ちっともすまなさそうではないしなのにヨウイチは少し呆れる。

  (ここにいま、ドラオがいたらきっと楽しかったろうな……)

ついつい、ドラオと一緒だったらと考えてしまうヨウイチ。
あれからそれなりの時間を過ごしたはずなのに、再びその感情は甦る。
誰かの前でこんな調子ではいけない、とヨウイチは自分を鼓舞した。

  「しかしまた会えるだなんて思ってなかったな」
  「ヨウイチが私に会いたいと思ったからじゃないか?」

そんな事を話しながら洞窟を進んでいく。
すると幅の狭かった一本道が突然開け、小さな部屋へとたどり着いた。
その先へ続く道もそのまま正面に伸びているので、
ヨウイチはその部屋をそのままスルーして進もうとする。

511 :作り合わされし世界 ◆ODmtHj3GLQ :2007/12/15(土) 21:15:28 ID:OGexf1c80
  「ん……ヨウイチ」

呼びかけに振り向くと部屋の左手に赤を基調にデザインされた宝箱が置かれている。

  「おぉ、まだ誰も触ってないのかな」
  「私は宝箱というものを初めて見たよ」
  「開けてみてもいいか?」
  「あぁ、どうぞ。しかし赤いな」
  「なら近づかない方が賢明ですよ」
  「「……?」」

聞きなれない声がいきなり会話に割り込んでくる。
初めて聞く声に振り向くと、見知らぬ顔がこちらに向かって来るところだった。

  「それは赤いからなのか?」

何者なのかよく分からないが、ヨウイチはとりあえず思った事を口にしてみる。
宝箱が赤いから近づいてはいけない、という話がよく分からないし、
コイツが何者なのか知る為にもまずは相手の出方を見なくてはいけない。

  「神殿はこの先にあるのでしょう。
   ここまで来てわざわざ危険を冒す事はないと思いまして。
   モンスターが宝箱や壷に潜んでいる事も多いと聞きますから」

そんな事を言いつつ、自己紹介の為に手を差し出してきた。
その笑顔に害はなかった。

  「サクヤです。よろしく」
  「しなのだ」
  「ヨウイチです」

512 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/12/15(土) 21:16:28 ID:tIR5JtxU0
しえーん!かむばーっく

513 :作り合わされし世界 ◆ODmtHj3GLQ :2007/12/15(土) 21:19:03 ID:OGexf1c80
  「まぁすぐにお別れとなるかもしれませんがね」

と言ってサクヤは石版の欠片を取り出し、二人に見せた。
それを持っている者同士は仲間だと言いたいのだろう。

  「そうか、君も私達と同じだったんだな」
  「えぇ、色々大変だったでしょう?」
  「大変だなんてもんじゃなかったな……全く違う世界なんだから」

そうして二人はサクヤを加えて再び歩き出す。
三人はそれぞれにこの世界の事を語りながら互いを労ったのだった。
中でも、この世界が複数の世界が折り重なるようにして形成されている事や、
このままではこの世界が裂けてしまうかもしれないというサクヤの話は、
しなのとヨウイチを多少なりとも驚かせたようだった。

やがて洞窟を抜けて光に目が慣れるのを待つと、目の先に荘厳な神殿が現れた。
道が洞窟から神殿まで続いているのに目を走らせると、
湖や森が神殿を守るようにしてあり、さらに山々がそれを囲っているのが分かる。
鳥が頭上を羽ばたき、蝶々や虫たちが花畑を飛びまわっているのを横目に見れば、
ここが人の手の及んでいる場所ではない事は容易に理解できた。

緩やかなカーブが幾つか描かれている道を歩いていくと、
神殿の大きさが次第にはっきりとしてくる。
白一色で左右対称に造られていて、精密過ぎる程に精巧だった。
誰を招くためにあるのか分からない入り口は人の丈の五倍の高さを持っている。
もしかしたら神様は物凄く身長が高いからこのような造りになっているのかとも考えた。

  「ようやく着いたな……」
  「神様の宮殿、ってか。そんな感じするな」
  「さぁ入りましょう」

514 :作り合わされし世界 ◆ODmtHj3GLQ :2007/12/15(土) 21:21:58 ID:OGexf1c80
  「わんわんっ!」

神殿に入ろうとしたところに鳴き声が聞こえてくる。
振り返ると一匹の犬が元気良く駆けて来るのが見えた。

  「わんわん! わんわん!」
  「ワンコ!」
  「ゲレゲレ!」

しなのとヨウイチは同時に声を上げ、顔を綻ばせた。

  「おいヨウイチ! 私のワンコに変な名前をつけるな!」
  「いや、こいつはゲレゲレって言うんだ。自分でそう言ったんだから」
  「自分で? 喋ったのか?」
  「いや、夢の中でだけどさ」
  「ヨウイチ……いくらモンスターと仲良く出来るとは言え、
   私は君という人間が信用できなくなってきたぞ」

二人が会話してる中、犬のタロウは思った。

  (喧嘩はやめてよー!
   どうやったら仲直りしてくれるかな。
   そうだ。こういうときのための格言があるんだよね。
   夫婦喧嘩は犬も食わないって。
   ううー、なんだか犬を馬鹿にした言葉の気がする。
   それに食べてみたらおいしいかもしれないじゃないか!
   ああ、そうじゃなくって喧嘩を止めなきゃ!)

ワンワンと必死になりながらタロウはわんわんと二人に訴えかける。
しかしそんな行為も僕と遊んでくれという意味で二人には取られてしまう。
結果として二人の言い合いは止んだので、タロウの目論見は成功した事になった。

515 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/12/15(土) 21:23:31 ID:tIR5JtxU0
しぇーん

516 :作り合わされし世界 ◆ODmtHj3GLQ :2007/12/15(土) 21:24:52 ID:OGexf1c80
  「この犬の首輪に何か書いてありますね。これ、名前じゃないですか?」

サクヤの言葉にしなのがタロウの首輪に書いてある文字を見る。

  「タロウ、か。お前の名前はタロウなのか? ん?」
  「わん!」

その犬、タロウはしなのの言葉を肯定するように元気よく吠えた。

  「ゲレゲレ、じゃなくてタロウは嫁探しをしていたんじゃなかったのか……」

ヨウイチは一人つぶやく。
以前タロウとクリアベールで話した時は確かそのように言っていたと思ったのだが。

  (それとも嫁探しをしてからここに来たんだろうか……)

不思議な事が好きなヨウイチの興味は色々な意味で尽きなかった。
一方尻尾をフリフリしながら皆のやりとりを見上げていたタロウは、
会話が一段落したのに気付いたのか元気良くジャンプし、
しなのの細い脚に飛び込んだ。
以前レイクナバで会った時はしなのの付けている香水の匂いにつられたのだが、
今回はしなのの匂いをちゃんと覚えていたのだ。
香水の匂いとしなのの匂い。
その二つが良く混ざり合い、しなのという人に似合った香りになっている。

  「ペロペロペロペロ!」
  「ははっ、やめてくれ!」
  「何だ、今度は嫌われなかったな」
  「私は動物好きなんだがな。向こうが好いてくれないんだ。
   しかしこいつには良くしてくれて嬉しく思ってる」
  「わんわんっ!」

517 :作り合わされし世界 ◆2yD2HI9qc. :2007/12/15(土) 21:26:34 ID:EBpZQ6nb0
  「しかしここまで犬が来れた事が私には不思議に思えてなりません」
  「まぁ俺は再会出来たから嬉しいけどな」
  「この子はやらんぞ、ヨウイチ」
  「はっはっはっはっ」

タロウは自分と仲良くしてくれるしなのが好きだった。
そしてパタパタと飛ぶあの生き物がいなくなった今、ヨウイチともじゃれてみたかった。
だからせわしなく二人の間をピョンピョンと跳ねるのだった。
そんな姿が人に可愛く思われるのは、タロウが純心だからだろう。

  「私の勘が当たったようですね。異世界から招かれたものに犬が混ざっていた」

二人と一匹がじゃれつく間、サクヤは一人別の事を考えていた。

  「……何だそれは?」
  「いえ、占いでは石版を納める場所に人間以外の姿が見えたそうです。
   モンスターが現れるのかと心配していたのですが、どうやらこの子の事だったようです。
   そんな事より早く行きましょう。ゴールはすぐそこですよ」

いつまでも遊んでいそうな雰囲気に業を煮やしたのか、サクヤが皆を促す。
二人と一匹からしてみれば、ゴールだからこそ、という意識の方が強い。
今遊んでおかないともう会えないかもしれないのだ。
しかしそれは明確な言葉にはならなかった。
まだ旅が終わりだという実感はなかった。

神殿の中は長方形をした大きなホールになっていて、
綺麗に切り取られた白い石が隙間なく敷き詰められている。
壁には神々を模した彫刻や何かを表した壁画が描かれており、
それらが夕焼けによりオレンジ色に染まり、思わず立ち尽くしてしまうくらいに美しかった。

  「綺麗だな……」
  「あぁ……」

518 :作り合わされし世界 ◆2yD2HI9qc. :2007/12/15(土) 21:29:59 ID:EBpZQ6nb0
  「くしゅっ!」
  「ははw」

感激しているところにタロウのくしゃみが入り、思わず笑みがこぼれる。
神殿に入るのは躊躇われたが、そうも言っていられない。
厳かな雰囲気を壊してしまわないように音を立てないようにして歩いた。
段差を上がるようにして作られたホールの中央に何かのレリーフがある。
レリーフの形は直方体の台に額縁のようなものが乗せられていると言えばいいだろうか。
額縁の中に石版がはめられそうになっているところを見ると、あれが台座なのだろう。
しなの、ヨウイチ、タロウ、サクヤが台座を取り囲む。

  「やっと……やっとこの時が来たんだな……」
  「この額縁に石版をはめて完成させれば願いが叶うって訳か」
  「さぁはめていきましょう。それでこの裂けいく異世界も元通りですよ」
  「って事は俺らにとっても世界にとっても一石二鳥だな。
   まぁそれはいいんだけど、もう終わりかと思うとなんだかな……」
  「私ももう少し冒険しても良いと思ったがな」
  「くぅ〜ん……」
  「……じゃあ俺からはめてくよ」

ヨウイチが石版を少し緊張した面持ちで石版をはめ込む。
するとつなぎ目の部分が光を発し、二つの欠片が一つに繋がった。

  「すげぇ……」
  「さっきからヨウイチは驚いてばっかりだな」
  「凄いものは凄いんだから仕方ないだろ?
   しかし凄いな……この石版欲しいんだけど、貰えないかな?」
  「何を馬鹿な事を言ってるんですか。元の世界に帰りたくないのですか?」
  「う〜ん、悩ましいな」

本気で悩んでいるヨウイチにタロウとしなのは笑う。
しかしサクヤは一刻も早く帰りたいのだろうか、皆をしきりに急かした。

519 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/12/15(土) 21:31:06 ID:tuJeDFtQO
シエンタ!

520 :作り合わされし世界 ◆2yD2HI9qc. :2007/12/15(土) 21:33:10 ID:EBpZQ6nb0
  「どうしました? しなのさんも早くはめてください」
  「ん……あぁ、そうだったな。すまない」

コトリという音とともに石版がまた少しずつ形を取り戻していく。
終わりが近づいてくる。

  「めでたしめでたし、ってやつか」
  「ついにやりましたね。皆さんの冒険もこれでおしまいです」
  「ホントに短い間だったけど、これでお別れだな……」
  「ったく……今生の別れって訳じゃあるまいし」
  「また会えるさ。向こうの世界でな」
  「そうだな。 それまでのバイバイだ」

次にタロウの石版をはめ込めばちょうど完成するようだった。

  「さぁ次はタロウの番だな」
  「タロウの石版は私がやりましょう。さあ、こっちに渡して下さい」

タロウでは石版をはめる事が出来ないので、サクヤが気を使う。

  「うー! グルルル!」

しかしタロウはサクヤを威嚇するようにして唸りを上げた。

  「何だ? 今度はしなのじゃなくてサクヤが嫌われたのか」
  「タロウはあらゆる動物から嫌われ続けた私に懐くような犬だぞ……」

面白がるヨウイチとは対照的にしなのの顔が険しくなる。
途端にサクヤの様子が気になってきたからだ。

521 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/12/15(土) 21:36:41 ID:PU87BjKL0
しえん

522 :作り合わされし世界 ◆2yD2HI9qc. :2007/12/15(土) 21:37:10 ID:EBpZQ6nb0
  「サクヤ、赤は危険な色だな?」
  「えぇ、そうですね」
  「じゃあ皆で渡れば怖くないものは何だ?」
  「……橋、ですね。
   先にモンスターがいると分かっているような危険な橋を渡るのも、
   皆で渡れば怖くないという意味でしょう」

サクヤの答えと自分の思っている事が違ったのでヨウイチは頭をかしげた。

  「え? 赤信号だろ?」
  「シンゴウ……?」

逆にサクヤはヨウイチが発した聞きなれない単語に顔をしかめる事になる。

  「なあサクヤ。さっき君は『皆さんの冒険はこれでおしまい』と言ったよな」

信号という言葉を知らない、という事が意味するところのものは一つしかない。
そう考えたしなのは、静かにサクヤに詰め寄った。

  「なぜ『私たちの冒険』と言わなかったのだ?」

痛いところをつかれたサクヤはうつむき、肩を震わせた。

  「……ふっ……っく……」
  「サクヤ……?」
  「ハハハハハハハハハ!!
   ……やれやれ。ばれちゃったみたいですね」

少しも困った様子を見せず、むしろそれを楽しむかのように呆れて見せる。
サクヤの声はまだ冷静なものだった。

523 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/12/15(土) 21:39:55 ID:tIR5JtxU0
wktkしえん

524 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/12/15(土) 21:40:30 ID:m7yCgfe5O
シエンナギロリー

525 :作り合わされし世界 ◆2yD2HI9qc. :2007/12/15(土) 21:41:03 ID:EBpZQ6nb0
  「宿屋で私が目覚めた部屋には三人の人間がいました。
   事を荒立てたくなかったので彼らの前では正体がばれないように振舞いました。
   話を聞く限り腕が立つようでしたからね。
   とんでもないところで目覚めたものです。
   でもまぁ、結局彼らに協力してもらうことでその力を逆に利用してやりましたよ。

   今はついつい油断してしまったようです。
   匂いが漂ってしまったのでしょう。
   ところでその部屋にはその彼ら三人以外の人間はいませんでした。
   どういう意味だか分かりますか?」

サクヤは舞台で役を演じるがの如く振る舞い、そしてクイズを出すかのように言った。

  「……つまり、お前は人間ですらないということか?」
  「くくく……正解です」

そう、サクヤはヨウイチ達と同じ世界の人間ではなかったのだ。

  「お前の目的は何だ!」
  「目的? 皆さんと同じですよ。石版を完成させる事です」

サクヤがおかしそうに言う。

  「実はこの石版には魔王が封印されているんですよ」
  「ま、魔王……?」

魔王という言葉にヨウイチは戦慄を覚える。
この世界に居る今の状況であってもそれは現実離れしている話だ。

526 :作り合わされし世界 ◆2yD2HI9qc. :2007/12/15(土) 21:44:16 ID:EBpZQ6nb0
  「昔々、全世界を我が物にしようと考えた一人の魔王がいました。
   彼の圧倒的な力に多くのモンスターが賛同し、世界制覇は目前でした。
   しかしある時、この世界を作った神様が魔王の非道を阻止するため、
   その存在を石版に封印してしまったのです。
   呆気なく封印されてしまった魔王にモンスター達は失望の色を隠せませんでしたが、
   中にはそれでも魔王を慕おうとする者もいたのです。
   その者は魔王の封印を解く事を決意しました。

   石版の封印をとくためには一度石版をばらさなければなりませんでした。
   それには強大な力が必要でした。
   異世界から誰かを召喚するときに発生するような力が……
   崩壊していくこの世界の、さらに外にある世界から召喚する時に生じるような、ね。
   私自身もその力によってずいぶん遠くまで飛ばされてしまいましたよ。
   まさか石版を壊す事で世界がこのようになるとは思いもしませんでしたし」

サクヤの口から次々に真実が語られていく。
その言葉をすぐには受け入れる事はできなかった。

  「だから私達をこの世界に……」
  「ちょっと待てよ!! 石版は帰る為にあるんじゃないのか?!」
  「ふふふ……
   石版を集めることで元の世界に戻れるという噂を流したのも私ですよ。
   嘘に夢を見る気分はいかがでしたか?」

サクヤは種明かしをする事が心底愉快だといった感じで楽しそうにしゃべる。

  「俺達はお前の操り人形だったというわけか……」
  「人形を操るなど造作もない事ですよ。
   しかしこうして石版を見事に揃えてまで頂けるとはね。
   くっくっくっ……
   私は本当にあなた達に感謝しています。
   まんまと噂に乗せられ我が主の復活への手助けをしてくれたのですから」

527 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/12/15(土) 21:44:25 ID:tIR5JtxU0
♪ドーはドラクエーのド(中略)シーはしえんのシー

528 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/12/15(土) 21:46:19 ID:tuJeDFtQO
サクヤ…

529 :作り合わされし世界 ◆2yD2HI9qc. :2007/12/15(土) 21:47:10 ID:EBpZQ6nb0
つまり石版で願いが叶うというのはサクヤが作り出した嘘だったのだ。

  「ところであなた達はどうやって帰るつもりなのです?」
  「どうって……」

石版が魔王を復活させる為のアイテムと判明した今、
確かにしなの達が元の世界へ帰る術はなくなってしまった。
いや、騙されていたのだから元から帰る方法など無かったと言っていいだろう。

  「ですがまだ希望はあります。私があなた達の召喚者であるという事ですよ」
  「どう、いう……」
  「私なら元の世界へ送り返す事が出来る」

分からない話ではなかった。
一方的に呼ぶ事しか出来ないのであれば中途半端だと言わざるを得ない。
封印された魔王を復活させる事が出来るなら、サクヤの言う通りの事も出来るはず。
しかし、

  「ただし素直に石版を渡してくれればの話ですがね」

こうなる。
敵であるサクヤが無償のボランティアをする訳がない。

  「せめて選択させてあげましょう。
   石版を渡して帰るか、ここで死ぬか」

ククク、と笑い声をあげるサクヤ。

  「ふざけるな! お前の片棒を担ぐなんて私は嫌だ……!」
  「わんわん!!」

530 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/12/15(土) 21:49:13 ID:m7yCgfe5O
晴れた空シエンタ♪

531 :作り合わされし世界 ◆8fpmfOs/7w :2007/12/15(土) 21:49:52 ID:rXAxpJvy0
ヨウイチとしなのがうなだれている間、タロウは警戒し続けていた。
石版をはめるにしたがってサクヤの邪悪な心が増大していくのをタロウは感じていたのだ。
怖いものから人を守るのが犬の役目。

  (たっぷりと甘えさせてくれたしなのとヨウイチは僕が守らなきゃいけないんだ!)

だからタロウは一生懸命にサクヤを睨みつける。
その小さな体を精一杯に強張らせて、二人の盾になるようにしてサクヤを威嚇した。
しかしサクヤはタロウのそんな様子にも構わずに言う。
端から気に留める対象に数えていないのだ。

  「ほぅ、戦うのですか?
   たった二人の人間と畜生一匹で私を倒せるなどと本気で思ってるのですか?」
  「やるしかないだろう? 仕方なくても、な」
  「うぅ〜!!」
  「いや、アイツの言う通りだ。 俺達が敵うとは思えない……」

ヨウイチはタロウとしなのの意気込みを打ち消すかのように言う。

  「ヨウイチ? じゃあどうするんだ!」
  「……ここはタロウにかける」
  「タロウに……?」
  「要は石版が揃わなければいいんだろ。
   俺達で時間稼ぎをしてる間にタロウには石版を持ってここから逃げてもらう」
  「しかし……」
  「タロウ、やってくれるよな?」

しかしタロウはウゥーと拒否の意を示す。
逃げてしまったら二人を守る事が出来ないからだ。
ましてやこの場に置いて行く事なんて出来るはずがない。

532 :作り合わされし世界 ◆8fpmfOs/7w :2007/12/15(土) 21:52:56 ID:rXAxpJvy0
  「そう言うなよタロウ。
   ついでに助けを呼びに行ってくれればいいんだ。
   そしたら俺達はお前に守ってもらえた事になる。
   それにこうして再会出来たのも何かの縁だろうしな。
   絶対に皆で帰れるさ」

タロウの頭をクシュッと撫でてやると気持ち良さそうに目をつぶった。
それでタロウは行く決心をする事が出来た。

  「わん!」
  「よしタロウ、これを」

しなのは荷物の中から素早さの種を取り出し、タロウに与えた。

  「行け! 走れタロウ!!」

ヨウイチがサクヤに向かってダッシュすると同時にタロウは神殿の入り口へと駆けて行く。
サクヤはすかさず爆弾岩の欠片を投げ付け、神殿に入り口を壊して逃げ道を封鎖しようとした。
しかしヨウイチの振りかざした破邪の剣に一瞬気を取られて投げ遅れる。
タロウの姿は堅い造りの壁が瓦礫となって崩れ落ちる中に消えて行った。

  「タロウ……無事で……」
  「ぐわっ!! いてて……しなのも手を貸してくれよ……」

しなのはタロウの安否を心配し、ヨウイチのサポートを怠ってしまったのだ。
サクヤに吹き飛ばされたヨウイチの鎧の肩の部分は防具として意味を成さなくなった。

  「おっと、すまない。しかしヨウイチはタロウの言葉が分かったのか?」
  「いや……タロウにも言葉が通じれば良かったんだけどな」

ドラオと同じように、という思いは口には出せなかった。

533 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/12/15(土) 21:54:17 ID:m7yCgfe5O
試演

534 :作り合わされし世界 ◆8fpmfOs/7w :2007/12/15(土) 21:55:57 ID:rXAxpJvy0
  「よしヨウイチ、お詫びにこれをやろう」
  「これをやろうって、薬草じゃないか」

薬草で詫びるというのがヨウイチにはよく分からなかったが、
サクヤに吹っ飛ばされて痛かったのでとりあえず食べておく。
するとボリボリと何か堅い感触が口に広がった。
これは何だ、とヨウイチはしなのに目で問いかける。

  「しなのちゃん特製薬草だ。
   命の木の実とスタミナの種と不思議な木の実と――」
  「分かった分かった……あぁまずい……
   しかしなぁ、
   本当にサクヤが俺達とは違う世界に帰りたいだけだったらどうするつもりだったんだ?」
  「……鎌をかけるっていうのは得てしてそんなもんだ」

それにタロウが無意味に吠えるとは思えない、としなのは考える。
動物の方が危機を察知する能力に優れている場合もあるのだから。
しかしヨウイチにはそんなしなのの言い草に頷く事しかできない。
誰かを試したりする事には慣れていないのだ。

  「ふぅん……なぁ、聞いていいかな」
  「なんだ?」
  「元の世界へ戻ったら最初に何をしたい?」
  「ヨウイチ。 今はそんな事を――」
  「俺はもう決めてあるんだ」

ヨウイチはしっかりと前を見据えながら、はっきりと言った。
その目には明確な意思が宿っているように見えた。

  「そうか……参考までに聞かせてもらえないか」
  「暖かい布団に包まりたい」
  「……すぐ叶うと思うぞ」

535 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/12/15(土) 21:57:32 ID:HgWY4szx0
しまった来てたか支援

536 :作り合わされし世界 ◆8fpmfOs/7w :2007/12/15(土) 21:58:05 ID:rXAxpJvy0
そう言った後にクスリと笑って、それは良い案だとしなのも思い直す。
ヨウイチとしなのはサクヤを神殿から出させないようにするため、武器を構える。
破邪の剣と炎のブーメラン。
使いこなすにはまだまだ慣れない二つの新しい武器だ。

  「そうですか、それがあなた達の選択なら仕方ありません」

サクヤは爆弾岩の欠片を手で軽くもてあそび、懐にしまい直す。
この二人が死を望むなら殺してやろうと決めた。
武器を一つ取り出し、その重さを確かめるようにした。
身長の1.5倍はありそうな槍だ。

  「さぁ、どこからでもどうぞ?」

友人を招くかのような仕草で両手を広げる。
しかししなのたちには迂闊に切り込む事が出来ない。

  「あの武器、分かるか?」
  「いや……」

見た目だけで判断出来ないという言葉が身に染みて分かるこの世界。
その武器が本来の槍の役割しか果たせないのかどうかが分からない。
何らかの呪文効果を発揮する力を持っているかもしれない。

  「なぁサクヤ、君はどうして魔王を復活させようと思ったんだ?」
  「おいおい、それこそ今はそんな事を聞いてる場合じゃ――」

ヨウイチの制止に、時間稼ぎだとしなのはつぶやく。

  「魔王を復活させる理由、ですか。変な事を知りたがるんですね」

537 :作り合わされし世界 ◆8fpmfOs/7w :2007/12/15(土) 22:00:07 ID:rXAxpJvy0
サクヤはその質問の答えを面白そうに考えながら、槍を器用に回し始めた。
右手を中心にしてバトンの様にクルクルと綺麗な円を描く。
変な質問に答える余裕がサクヤにはあるのだ。

  「逆に魔王がいない世界こそが異常だとは思いませんか?
   そう考えれば私の行動に疑問を挟む余地などないはずです」
  「そんな訳ないだろう。この世界は明らかにおかしい、皆そう言っている!」
  「それに俺達の世界には初めから魔王なんていないしな」
  「しかし先ほどあなた達は私の言う事に参加してくれたではありませんか」
  「……え?」

何の事を言っているのか思い当たらないしなの達は思わず疑問の声をあげる。

  「"裂けいく異世界"
   この暗示的な言葉に真相は隠されていたのです。
   この文字を石版のように一度ばらばらにして集めなおす……
   するとどうですか。『再生計画』という言葉が出てくるでしょう?
   元通りにするとはそういう事ですよ」
  「それは、どういう――」

サクヤの言っている事を理解する前に、クラッと頭が揺らぐ。
慌てて頭を抑えれば、サクヤが何人もそこに立っているのが見えた。

  「マヌーサ。幻惑の中に死に行くのもロマンチックかもしれませんね」

揺らめく視界の中で、何人ものサクヤが一斉に襲い掛かってくる。
サクヤの手の中で回されていた砂塵の槍が見せた幻だ。

  「く……くそーっ!!」

ヨウイチは破邪の剣を使い、ギラの炎を辺りに撒き散らす。


538 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/12/15(土) 22:01:32 ID:m7yCgfe5O
支援

539 :作り合わされし世界 ◆8fpmfOs/7w :2007/12/15(土) 22:02:12 ID:rXAxpJvy0
しなのも炎のブーメランを投げ、火の弧を自身の周囲に描き、身を守った。
それでマヌーサの効果を打ち消す事に成功する。

  「クク……」

しかしそれでサクヤの攻撃が止む訳ではない。
サクヤは既に砂塵の槍から氷の刃へと武器を持ち替えており、
その炎を全て氷付けにしてしまった。
ヨウイチ達の持つ武器が炎系の効果を持つ事を見越していたのだ。
触れれば肌を切り裂いてしまうであろう氷塊をすり抜けてサクヤがヨウイチに迫る。
その動作は素早いと言うよりは、的確な攻撃だった。

金属のぶつかり合いと共に熱気と冷気が互いを侵食しようと激しく絡まりあった。
飛び散る火と氷の粉がサクヤとヨウイチの顔に傷を作った。
鍔迫り合いをしているところへ、しなのが背後から足払いをかけてサクヤの体勢を崩す。
足元をすくわれたサクヤは棒のように後ろへと倒れていく。
その隙を逃すまいとヨウイチは破邪の炎で氷の刃の刀身を溶かし尽くしてしまった。
そのままの勢いで剣をサクヤの顔に振り下ろす。

  「さて」

サクヤはそれでも慌てずにもう一本の剣を目の前に広がる炎にかざした。
さざなみの剣。
その剣身から光が漏れてギラを跳ね返す。
反転、直撃。
ヨウイチの皮の鎧はよく燃えた。

  「ぐわああああ!!」
  「ヨウイチ!!」

駆け寄ろうとしたしなのの背中にサクヤは切り付け、大きな傷を付けた。
血が倒れたしなのの皮膚を濡らしていく。

540 :作り合わされし世界 ◆8fpmfOs/7w :2007/12/15(土) 22:04:17 ID:rXAxpJvy0
どんな状況でも慌てずに冷静に対処していく強さがサクヤにはあった。
自分は決して戦闘が得意ではないが、
それにも劣るこの人間達の弱さにサクヤの頭脳は疑問を浮かべざるをえない。

  「そんな力量でよくこの神殿までたどり着きましたね。
   やはり運命というものがそうさせたのでしょうか」

サクヤの言う運命とは、魔王が復活するという事象に他ならない。
その事象を実現しなくてはならないという必然性があったからこそ、
自分の計画は上手くいったのだし、この人間達はここまで来れたのだと思う。

  「……」

それは違うとしなのは思う。
確かに一人ひとりの力は弱いかもしれない。
だけどサクヤの言っている事は絶対に違うんだ、と拳を握りしめた。
それを証明する術が欲しいと思った。

  「まぁ今となっては意味のない事です。 ではさようなら」

サクヤは床に突き刺しておいた砂塵の槍を引き抜き、懐からは毒牙のナイフを取り出し、
両手に構えたその武器をヨウイチとしなのの頭部目掛けて投擲した。
ヨウイチとしなのは、まだ動けない――!!



――続く――

541 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/12/15(土) 22:04:19 ID:tIR5JtxU0
しーえん支援

542 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/12/15(土) 22:05:32 ID:tIR5JtxU0
ってひとまず終わりなのかOTL

543 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/12/15(土) 22:08:02 ID:m7yCgfe5O
俺達の闘いはこれからだ





544 : ◆ODmtHj3GLQ :2007/12/15(土) 22:09:07 ID:OGexf1c80
支援してくださった方々ありがとうございました!!

最終章少しばかり長くなってしまったので二日に分けての投下となっています。
また明日の21時から投下再開という形ですので、その時はまた協力をお願いします。

ではまた明日お会いしましょう!

545 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/12/15(土) 22:35:40 ID:Cd05YfklO
乙!もう終わってしまうんだなぁ…。色んな作者による合作とても楽しめました。また明日もお願いします。

546 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/12/16(日) 14:22:49 ID:8/icVwQ+0
とりあえずたんすあさる!
あれ?KY?

547 :作り合わされし世界 ◆YB893TRAPM :2007/12/16(日) 21:08:04 ID:tiDo3Rhn0
石は古代から不思議な力を持っていると言われている。
いや、人が信仰対象の象徴としての偶像を石で形作る事でその力を具現化しようと
してきた事を考えれば、不思議な力が石を通じて表出されていると言った方がいいだろう。

ギザの大ピラミッド・ロードス島の巨像・エフェソスのアルテミス神殿などが
石基盤の構築物として世界の七不思議として有名だが、
日本でも神社に石が祀られて崇められている。
生活の身近なところでは宝石や墓石を選んだりするし、
海岸や川で綺麗な石を探すという行為は誰もがやった事があるだろう。
人は石を求める生き物なのかもしれない。

石の加工品は多数あれど、その中で石板という物がある。
石板とは黒板のように書くか、もしくは削って刻む仕方で文字を残すものだが、
加工・使用感・保存の全ての点において紙媒体に劣る故に、
現在では目にする事も極めてまれだと言わなくてはならない。

しかしこの世界において石板はとても重要な意味を持つ。
特に彼らにとって石版は自分達の世界へ帰る為の希望の道具だった。
もし石版を通して不思議な力が現れるなら、彼らを帰す為の希望となっても良かったのだ。
が、既にその光は失われてしまった。

愛と友情と絆と嘘と、たった一つの石版を巡る物語。
その結末は運命に委ねられているのか。
それとも運命を導く力が彼らに味方をするのか。
石版はただ静かにその時を待っていた。

548 :作り合わされし世界 ◆YB893TRAPM :2007/12/16(日) 21:10:10 ID:tiDo3Rhn0
作り合わされし世界〜最終章・後編〜

魔王を復活させようとする狂気のサクヤが放った砂塵の槍と毒牙のナイフは、
二人の命を確実に奪うよう寸分の狂いもなく飛んでいく凶器。
しかしそれがサクヤを狂喜させる事はなかった。
一陣の風が吹き込み、その二つの武器を破壊してしまったからだ。

  「な――」

ヨウイチ達の命を救ったその風は止むことなくサクヤにも襲い掛かり、
剣を構える腕に鋭い三本の傷を負わせた。

  「う〜わんわん!!」
  「タ、タロウ……?」

外へ逃がしたはずのタロウがそこにいた。
鉄の爪や前掛けを装備しているタロウは先ほどよりもいくらか凛々しく見えた。
しかし、助けを呼んでくるにしてもこの帰還は早すぎる。

  「タロウ……どうして戻って来たんだ……」

石版を守るという命を受け、タロウは走った。
神殿を抜け洞窟を走った。
石版をあいつに渡してはならない。
タロウは自分の使命を本能的に理解していた。
あの時どうして自分が吠えたのかタロウ自身にもわからなかった。
ただ、サクヤから嫌な匂いがした。
本当にそれだけだったのかもしれない。

549 :作り合わされし世界 ◆YB893TRAPM :2007/12/16(日) 21:12:14 ID:tiDo3Rhn0
タロウは思った。
この世界に来たばかりの僕はただの迷い犬だった。
でも、いろんな犬や人の協力を得て帰る方法を見つけようとした。
だからきっと今度は僕がみんなを助ける番なんだ。

今の僕にできることは走ることだけ。
でも、僕ならどんな人間より早く走ることができる。
石版を渡さないように逃げること。
それは僕にしかできないことだ。

  (光が見えてきたよ。もうすぐ洞窟の出口だ!)

タロウは大きく遠吠えをして、再び神殿に戻る事に決めた。

  「その犬がどうして戻ってきたか。それは逃げることができなかったからですよ」

サクヤがタロウの行動などお見通しといった感じでそんなことを言い出す。

  「こんなこともあろうかと洞窟の入り口に配下のゴーレムをおいておきました。
   とても犬一匹では太刀打ちできる相手ではありません」

しなのたちに絶望が広がる。
サクヤの計画は完璧だった。

  「この状況で石版を守る方法。
   それは二人と一匹で協力して私を倒すことでしょうね。
   その犬はそう判断したのでしょうか。
   愚かですね。 素直に石版を渡せばいいものを」

タロウは低い声を出してうなる。
サクヤが暗に無理だと言っている事をまだ諦めてないのだ。

550 :作り合わされし世界 ◆YB893TRAPM :2007/12/16(日) 21:14:16 ID:tiDo3Rhn0
  「そうそう、ゴーレムといえば前にも役に立ってくれましたよ。
   私の協力者さん達に私の正体を怪しまれたと思ってね。
   ゴーレムに私を襲わせたんです。
   そのとき弱みを見せることで私が弱い人間であると印象付けたんですよ。
   ちょっとした道化師でしたね。 笑いをこらえるのに苦労しました。
   一度私を疑ったことへの後ろめたさか、彼らはそれまで以上に協力してくれました」

サクヤの非情がヨウイチ達の心を奮わせる。
誰かを騙す事に苦労した、などという話を聞いて穏やかでいられるはずがない。
それにタロウが戻ってきてくれたのだ。
そして一緒に戦おうとしてくれている。
タロウも仲間なんだと再確認した今、サクヤに負ける訳にはいかない。

  「ベホマラー!」

回復の光が二人を包み、火傷と裂傷を癒していく。
しかししなののベホマラーはあまり効果が高くないのだが、
それでも何とか痛みによる気持ち悪さを我慢しながら立ち上がった。

  「ふぅん、まだやるというのですか。
   仲間と一緒なら何でも出来るというところですか。
   仲間を思う気持ちで何ができるのです?
   どこまでも愚か者は愚か者なんですね」
  「本当に愚かなのはどっちか教えてやるよ!!」

ダンに鍛えられた心がヨウイチにそんな事を言わせた。

  「とは言ったものの、どうしたもんかなぁ……」
  「……なぁヨウイチ、サクヤは呪文が使えないんじゃないか?」

傷口に布をあてがいながら止血をするサクヤを見て、しなのがそんな事を言う。
そう言えばサクヤは戦闘中も一切呪文を使っていない。

551 :作り合わされし世界 ◆YB893TRAPM :2007/12/16(日) 21:16:41 ID:tiDo3Rhn0
神殿の入り口を破壊した時も、今だって腕の傷を呪文で治そうともしない。

  「なるほど。 そう言えば特殊武器ばかり使ってるな。
   とりあえずあの武器さえどうにかしてしまえばいいのか」
  「まぁ痛手を与え続けるのも手だとは思う。
   が、呪文が跳ね返されてしまうのはいささかやっかいだからな」
  「具体的にはどうするんだ?」
  「ん……」

しなのは改めて神殿内を見渡す。
辺りは大分暗くなってきており、もう少しで日が落ちるだろう。
その時灯りのないこの神殿内は真っ暗になるはずだ。

  「……タロウは夜目が利くはずだ」
  「嫁?」
  「わんわん!」

タロウはその言葉でリリアンの事を思い出した。
そういえば「あの子が僕のお嫁さんになったんだよ」と二人に報告するのを忘れていた!!

  「違う違う。夜の目だよ」
  「あぁ……」
  「くぅん……」
  「タロウ、光が消えた瞬間を狙ってサクヤの動きを封じて欲しい」
  「わんっ!!」
  「俺はどうする?」
  「サクヤの気を逸らしてくれればいい。後は私が何とかしよう」
  「何とか?」

それには答えずしなのは行くぞ、と一声かけた。


552 :作り合わされし世界 ◆YB893TRAPM :2007/12/16(日) 21:18:43 ID:tiDo3Rhn0
暗くなるまでもう時間がない。
気付かれてはどうにもならない。
上手くいくかも分からない。
けれどこれが決まれば、きっと自分達の勝ちだと信じた。
そう信じなければ失敗してしまいそうで、無理矢理信じるしかなかったのかもしれない。
それでも二人と一匹は互いを見やって頷き合った。

太陽の光がまた一筋、この地から消えた瞬間にどちらからとも無く動き出す。
ヨウイチ達はサクヤを取り囲むようにして攻撃を開始した。
これで必ず誰かがサクヤの死角にいる事が出来る。
しかし決定的なチャンスは得られなかった。
死角から狙ってくる事に早々に気付いたサクヤは見事に対処してのけた。
サクヤとのレベルが違い過ぎたのだ。
もうほんの少しでもタロウ達のレベルが高ければサクヤに勝る事は出来ただろう。
現状ではさざなみの剣一本でしなの達とやり合うのに十分なのだ。
しかしその剣も残りものだった。
氷の刃と砂塵の槍と毒牙のナイフは既に破壊している。
もうこれ以上武器を持っているとは考えにくい。
故にこの策を成功させられれば優位に立てる。

  (沈む……!!)

しなのが頷いたのを見て、ヨウイチはわざと隙を見せる。
サクヤは正確にそこを狙って剣を突き出してきた。
その切っ先がヨウイチの胸が刺されるかという時、
闇に光が吸い込まれるようにして全員の視界を黒に染め上げる。
何事なのかと一瞬躊躇したサクヤに飛びつくタロウ。
そしてタロウはその体勢のまま装備している風の帽子を使った。
ルーラの効果を持つ風の帽子によってタロウとサクヤの体は飛び上がる。

  「がっ……」

553 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/12/16(日) 21:18:51 ID:vNN5WzhwO
wktk

554 :作り合わされし世界 ◆YB893TRAPM :2007/12/16(日) 21:20:44 ID:tiDo3Rhn0
タロウによって下から持ち上げられる形となったサクヤは、
天井に穴が開く程の勢いで頭をぶつけた。
当然タロウにかかる負担もゼロではないが、サクヤの方が影響は大きい。
天井から落ちて背中を強かに打ち、衝撃でサクヤの脳はさらに揺れる。

  「よし!!」

しなのは、炎のブーメランを大きな弧を描かせるようにして投げ、灯りを作り出す。
それで暗闇の中からサクヤの居場所を特定し、懐から爆弾岩の欠片を取り出した。
そのアイテムをサクヤが持っているのをしっかりと覚えていたのだ。

  (これで!!)

しかしその時サクヤはしなのを突き飛ばそうともがいた。
しなのはあわよくばサクヤへの止めの一撃にしようと思っていたが、
何とか武器を持つサクヤの右手に爆弾岩の欠片を押し付ける。
互いの力が交差する中で、炎のブーメランが使用者であるしなのの手元に戻ってくる。
その炎が爆弾岩の欠片の着火剤となる。
ドンッ、と花火が爆発した時のような音がそこにあるものを吹き飛ばした。
さざなみの剣と、サクヤの右手と、しなのの体を。

  「やったか?!」

しなのが成功したであろう事を信じて今度はヨウイチが松明に火をつける。
松明を掲げて最初に視界に入ったのは、サクヤの不気味な笑顔だった。
ヨウイチは驚きのあまり体を動かす事が出来ない。

  「な――」
  「いい加減しつこいですね」

サクヤがマグマの杖を振りかざす。
まだ武器があったのか、という思いは焼かれる痛みの中に消えていった。

555 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/12/16(日) 21:22:04 ID:vNN5WzhwO
支援

556 :作り合わされし世界 ◆YB893TRAPM :2007/12/16(日) 21:22:51 ID:tiDo3Rhn0
  「わんっ!!」

ガブリとタロウがサクヤの肩口に噛み付き、鉄の爪でひっかく。
が、サクヤは少しも痛がらずにタロウを体から引っぺがして地面へと強く叩きつけた。

  「キャンッ……!!」

痛みに吠えるタロウを面白くなさそうにサクヤは杖で殴り飛ばした。
鉄の胸当てにヒビが入り、使い物にならなくなった。
タロウの体は神殿の壁に当たって止まる。

  「……夜が来たんですね」

マグマの杖を支えにするようにしてサクヤは息を整えようとした。
先ほどの爆発で右手を失い、余波で体中に火傷を負っていた。
しかし痛みに焼かれる体から血が抜けていく感覚でさえ、サクヤには快感だった。

  「もう終わりしましょう」

そう、終わりなのだ。
もうタロウ達は戦えないだろう。
後は犬から欠片を奪い返して石版を完成させるだけなのだ。
それでこの計画は完遂する。
長く遠回りしてしまった気もするが、かけた時間が長い程感慨も一塩なのだ。
そんな感覚が痛みを興奮に変えていた。

  (その前に始末しておきますか)

石版が並みの衝撃では壊れない事を知っているサクヤは、
しなのが取った手段と同じようにマグマの杖を爆弾岩の欠片で破壊する。
杖に込められた呪文の力と爆弾岩の爆発が混ざり合い、相乗効果で威力を高める。
そしてそれはヨウイチ達を確実に死に至らしめる巨大な爆発力を生み出すのだ。

557 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/12/16(日) 21:24:18 ID:vNN5WzhwO
shien

558 :作り合わされし世界 ◆YB893TRAPM :2007/12/16(日) 21:24:55 ID:tiDo3Rhn0
いや、生み出すはずだった。
しかしそれが留めの一撃とはならない。
呪文による横槍が入った為に被害が及ばない所で効果が霧散してしまった。

  「……まだ何か奥の手があったのでしょうか」

煙が晴れ、サクヤの視界が確保されるとそこには八人の勇者がずらりと勢ぞろいしていた。

  「おーいしなの〜助けに来てやったぞ〜!」
  「ふぅ……どうやら間に合ったみたいですね」
  「酷い怪我だ……早く手当てを」
  「ゲレゲレ! やっぱりあの遠吠えはゲレゲレだったのか!!」
  「人も魔物も動物もみんな分かり合えるはずなのに、どうしてできないんだろう」
  「すべての元凶はこいつだったわけだ。こういう悪夢は消し去らなきゃな」
  「せっかく友達になれたと思ったのに、君には始めからその気はなかったんだね」
  「サクヤ、君が元凶だったとはね。すっかり騙されたよ」

口々にものを言うものだから、正確に全員が何を言っているのかは分からない。
しかしサクヤはこれで形勢が悪くなったのをひしひしと感じていた。

  「……どうして神殿での異変に気付いたのです?」
  「タロウが教えてくれたんだ」
  「この子はみんなとは別の小さな穴から洞窟に入ったんだ。そこから出て教えてくれた」
  「俺たちは正面から入ってくる必要があったからちょっと時間がかかっちまったけどな」
  「言葉は通じなくても思いは通じるものさ」

サクヤの頭がガクリとうなだれる。
完璧だと思われたサクヤの計画は実は既に崩れていたのだ。
ゴーレムによるタロウの足止めは成功していなかった。
そして勇者達がこの神殿に来る事までは予想出来なかった。

559 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/12/16(日) 21:26:15 ID:vNN5WzhwO
ドキドキムネムネ

560 :作り合わされし世界 ◆ODmtHj3GLQ :2007/12/16(日) 21:28:00 ID:Ml8tKtBe0
  「な……何故……」
  「あなたたちは洞窟の外にいたのですか、かな?」
  「世界の異変を調べてたらみんなここにたどり着いたって訳さ」
  「僕はサクヤ君が無事に元の世界へ帰れるか心配で、
   やっぱり近くで見守ろうと思っただけなんだけどね」
  「まぁ他人を利用することしか考えていないお前には分からないことだろうな」
  「な……何故……何故邪魔をするんですか!! あなた達はいつも、いつも……!!」

ブルブルと体を震わせ嘆くサクヤ。
そんなサクヤにしなのが声をかけた。

  「サクヤ、君に足りなかったのは仲間だよ。
   心を通じ合わせられる仲間が、ね」

運命は決まっているものではない。
仲間がいたからこそ、ここまで成し遂げる事が出来たのだ。
それが結果として運命を位置づけたに過ぎない。
運命とは人が命をかけて運んでいくものなのだから。

  「そんな……そんな事で……」

サクヤはその一言で力が抜けてしまったかのように、地に膝をついた。

  「私は負けない……あともう一歩……たった一歩……!!」

そんな言葉を繰り返しながらサクヤは自分の敵達を睨みつけた。
その目に暗い光が再び宿る。
波に削られて今にも崩れてしまいそうな砂の城を建て直そうとするかのように、
サクヤは再生計画が破れるのを諦めきれずにもがこうとする。

561 :作り合わされし世界 ◆ODmtHj3GLQ :2007/12/16(日) 21:29:52 ID:Ml8tKtBe0
  「さて、そろそろ帰りたいと思うのは僕だけかな」
  「いーや、もうこんな世界はうんざりだね」
  「よし、決めるぞ!!」
  「君達のマジックパワーも借りる! 協力してくれ!」

エイトがヨウイチ達に声をかける。

  「今こそ心を一つに……」

その声を頼りにして心を束ねていく。
他人に心を許す感覚が力に変わっていくのが分かった。

  「「「「ミナデイィィィィィーン!!」」」」

呼び起こすは圧倒的な光の束。
その光が神殿の天井の穴からサクヤの頭上に落ちてくる。
ライトのように白く照らされたサクヤは何故か不気味に笑っていた。

  「ククク……」
  「……?」
  「あえて動揺してみせるのも時には有効な手段ですね」

絶望的な状況であるはずなのに、
そこに先ほどまでのうろたえた様子は一切見受けられなかった。
これが役者なら最高の演技だと言われる程に、嘘をやってのけたのだ。

  「私は呪文を使えないのではありません。切り札は最後までとっておく主義なのです」
  「しまった!!」

サクヤの意図を察した勇者達は素早く反応する。

562 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/12/16(日) 21:30:48 ID:vNN5WzhwO
支援

563 :作り合わされし世界 ◆ODmtHj3GLQ :2007/12/16(日) 21:32:26 ID:Ml8tKtBe0
しかしサクヤは笑いながら天に手を掲げ、呪文反射の文句を唱えた。

  「マホカンt――」
  (キィキィーー!!)

――聞き覚えのある声がヨウイチの頭の中にだけ響く。
  その声に押された腹の底からの叫び――

  「ドラオォォォォーーーー!!」

ミナデインの発生させた落雷が叫びをかき消す。
ヨウイチには出会った時と同じ、青い体でふわふわ浮かぶドラオが見えていた。
時間が止まったかのように、その表情は詳しく感じ取れる。

  「ドラオ!」
  「キィ!」

心で交わしたたった一つずつの言葉は、多くの気持ちを含んでいた。
ドラオの笑顔がだんだんと薄れ消えてゆく。
と同時に、ヨウイチの心に置かれた大きな固まりも少し、小さくなっていた。

ミナデインのもたらした音響はバリバリと余韻を神殿に響かせている。
サクヤの呪文は発動する事はなかった。
怖がりなドラオが口を塞いでまた呪文を封じ込めてくれたのだ。

  「……クン……」

光が止み、稲妻に焼かれたサクヤの体は地に伏し塵と化した。
その魂は雷と共に天へと昇っていったのだろう。

564 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/12/16(日) 21:35:20 ID:vNN5WzhwO
あんなに一緒だったのに

565 :作り合わされし世界 ◆ODmtHj3GLQ :2007/12/16(日) 21:35:28 ID:Ml8tKtBe0
  「ありがとうドラオ」
  「やったな!」
  「ん。アレンは?」
  「外に出ていった。恥ずかしいんだろう」
  「お手柄だったぞ〜タロウ!」
  「わんわんっ!」
  「おい、見てみろよ」
  「あ……」

指差す方を見上げると、
月夜の光が天井に開いた穴から差し込み台座を暗闇の中に浮かび上がらせる。
夕暮れに見た光景とはまた違った神秘的な雰囲気を作り出していた。
穴を見上げると戦闘の勝利を祝福しているかのような綺麗な満月が望める。
絶妙な光加減に見とれていると、その中から何かが舞い降りてきた。

  「……人?」
  「あ、あなたは……?」
  「ふぁぁ……よく寝たわい……わしは神様だよー」
  「は……?」

一同は思わず目を丸くしてしまう。
今この人は何と言ったのだろうか。

  「大きな音がしたから起きて来てみれば……
   ふぅむ、こりゃ他の世界の神に本格的に怒られるかもしれんなぁ。
   ま、そういうシナリオもありじゃと思うがの」

いきなり現れては何か意味深な事を言うこの方が神様だとは到底思えなかった。

566 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/12/16(日) 21:36:50 ID:vNN5WzhwO
夕暮れはもう違う色

567 :作り合わされし世界 ◆ODmtHj3GLQ :2007/12/16(日) 21:38:47 ID:Ml8tKtBe0
  「わんわんっ!!」

しかしタロウがすぐに自称神様へと飛びつく。
それでこの自称神様が少なくとも悪い奴ではないと分かる。

  「神様……あなたはこの状況を分かっておいでで?」

神様の名にたじろぐ事のないセブンが問う。
タロウの頭をナデナデしながら神様はつまらなさそうに答えた。

  「……
   今この作り合わされし世界は元に戻ろうという動きをし始めておる。
   その動きは結果として互いを排除する行為に等しくなっとるがな。
   その力が臨界点を超えると、全ての世界が崩壊してしまうかもしれんのじゃ!
   ふん、これで良いか? ワシを誰じゃと思っとる」
  「くぅん……」
  「おーよしよし。
   あのサクヤとかいう奴は石版を壊したからこうなったと思ってるみたいじゃが、
   異変は魔王を封印した時から始まとるんじゃ」
  「どういう事ですか?」

確かにサクヤは多くの嘘をついていたが、この世界に関する事だけは間違っていなかった。
その事は今の自称神様の話で分かる。

  「世界を作る時のルールがある。そのルールをワシは破ってしまった。
   どうにも我慢できなくての……」
  「世界の、ルール?」
  「魔王は勇者によって倒されなければならない。 それが絶対条件」
  「じゃあ何で破ったんだよ」
  「名前じゃよ、名前」
  「名前……?」

568 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/12/16(日) 21:39:52 ID:7H9yAvKC0
sien

569 :作り合わされし世界 ◆ODmtHj3GLQ :2007/12/16(日) 21:41:24 ID:Ml8tKtBe0
  「ポックンブリードという名前が気に入らなかったんじゃ。
   魔王なのに全然強そうじゃないじゃん?
   それで新しい魔王を生み出そうと思ったんじゃが、勇者が現れるのを待ちきれんかった。
   つまり悪いのはぜーんぶワシって事!」

ハハハと陽気に笑う神様。
対して一同は呆れるばかりだった。

  「ならどうすればいいのです?
   もしあなたが本当に神様なら、全てをきちんと元通りに出来るのでは?」
  「……疑いに勝る偽り事はない。故に信じる者は救われると言うじゃろ」
  「……?」
  「石版を」

急に真剣な顔になった神様が腕を伸ばし、その手に乗せるように促す。
石版を調べるようにしばらく眺めた後、その唇が静かに言葉を紡ぐ。

  「引き裂かれし大地――
   世界の裏側へと落ちた星々――
   闇の中へと消える心の光――
   全ては在るべき姿へと――
   全ては輝ける力へと――
   全ては帰る場所へと――」

残っていた割れ目が光り、石版は完全に元の姿を取り戻した。

  「さぁこの石版をその台座にはめるんじゃ。
   それで間違いなくお前達は元の世界へと帰れる」

再度、台座へと石版をはめこむ。

570 :作り合わされし世界 ◆ODmtHj3GLQ :2007/12/16(日) 21:44:29 ID:Ml8tKtBe0
しなのはタロウを片手に抱え上げ、ヨウイチの腕を取った。
そして互いを見やって、微笑み合う。
光がみんなを包み込んでいく。

  「これで世は全て事もなし、じゃ。
   重なっていた幾つもの世界――
   複雑に作り合わされし世界――」

その言葉にようやく安堵の表情を浮かべる勇者達。
神様はその表情を順に見回して優しく微笑んだ。

  「――そして石版に封印されし魔王も」
  「え?! 魔王も?!」

みんなの体が少しずつ世界から消えていく。

  「世界に秩序を取り戻す為にはそれしか方法がない。
   そしてお前達を安全に帰す為にも、な」

幾つもの不安そうな顔を前に神様は笑った。

  「じゃが心配するでない。
   ワシには見える。
   再び世界を覆いつくすであろう闇に勝る大きな大きな光が。
   そしてその様が語り尽くされぬ物語となって語り続けられる事が。
   お前達はその物語の一部となった。
   だから、礼を言うぞ」

神様の言葉を全て聞き終わる前に彼らはそれぞれの場所へと帰りついた。

そしてこの世界に魔王が復活した。

571 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/12/16(日) 21:45:18 ID:vNN5WzhwO
支援

572 :作り合わされし世界 ◆ODmtHj3GLQ :2007/12/16(日) 21:45:56 ID:Ml8tKtBe0
【合作イメージ画像作成】
【フラッシュ作成】
【ヨウイチ編】
【最終章】

               ――タカハシ◆2yD2HI9qc.

【タロウ編】
【サクヤ編】
【最終章】
                    ――◆8fpmfOs/7w
               (=◆YB893TRAPM 二役)

【企画立案】
【しなの編】
【最終章】

               ――暇潰し◆ODmtHj3GLQ

【スペシャルサンクス】

                    ――◆IFDQ/RcGKI
                    ――◆u9VgpDS6fg



           FF・ドラクエ板
 『もし目が覚めたらそこがDQ世界の宿屋だったら』
         10スレ記念合同作品

         〜作り合わされし世界〜
             〜END〜

573 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/12/16(日) 21:47:22 ID:vNN5WzhwO
感動のエンディングだ

574 :作り合わされし世界 ◆ODmtHj3GLQ :2007/12/16(日) 21:53:01 ID:Ml8tKtBe0
終わったー!!!!

さて、作り合わされし世界、いかがでしたでしょうかか。
合作自体がはじめての試みという事もあって色々と至らないところがあったと思いますが、
少しでも楽しんでいただけたのなら幸いです。

当初考えていたよりも遥かに長くかかった合作作成もようやく終わりを見る事が出来ました。
実はエピローグがまだ残っているのですが、
それはEDフラッシュの公開と同時に発表という形を取りたいと思いますので、
どうか楽しみにしていて下さい。

実は一つだけ、本当に残念で、失敗したなぁと思っている事があるんです。
それがもしや合作としての一体感を損なってしまったのではないかとさえ思います。
つまり僕のキャラだけカタカナではないという事。
本当に残念でなりません。

そういった反省点を次の課題として、僕はまた真理奈編の執筆に戻りたいと思います。
また合作等の企画があれば参加してみたいと思います。
それまでにまたレベルアップしたいです。

さぁ個人的な事ばかりを書いてしまいましたが、
合作を作ろうなどと提案した張本人がまだまだ技術的に未熟であるにも関わらず、
作り終える事が出来たのは参加者の皆さんのおかげであると、感謝感謝であります。
僕のワガママに付き合ってくれたタカハシ◆2yD2HI9qc.さん・◆8fpmfOs/7wさん、
そして話し合いに参加していただいた◆IFDQ/RcGKIさん、◆u9VgpDS6fgさん、
本当にありがとうございました。

最後に合作投下にご協力いただいた他の書き手さん達、
投下の際に支援をしていただいた方々、
そして何より読んで下さった皆さんに御礼を言って去りたいと思います。
ありがとうございました!!

575 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/12/16(日) 22:05:55 ID:5esvMC610
おお、1〜8の勇者勢ぞろい。
8人分+ヨウイチ、しなのさん(もしかしたらタロウも?)のミナデイン、萌えた。

ポックンブリード噴いた( http://www5.atwiki.jp/dq_dictionary_2han/pages/3483.html

投下乙でございます&エピローグたのしみです。

576 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/12/16(日) 23:54:43 ID:QSrX1TTQ0
合作終了 超々々々々乙っした!!!111
けっこう長くかかったよなあ。楽しませてもらったよ。
しっかしポックンwww

エピローグwktkして待ってます!

577 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/12/17(月) 15:17:40 ID:y0nbb6wZO
合作乙
良い感じにコラボレーションできていたと思います

578 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/12/20(木) 00:53:51 ID:x5SbEfecO
合作乙(゚д゚)

579 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/12/22(土) 00:15:20 ID:8ag1nOKVO
上げてみる。
職人さん何処へ行っちゃったの(´;ω;`)合作で疲れちゃいましたか。戻ってきてまだ容量あるよ

580 :◆qLjap6DEzk :2007/12/22(土) 00:50:32 ID:ojXLm7mQ0
彼女なんて希少生物に出会ったことのない俺は
今日も健やかにエロゲーで一日二回オナニーの日課を順調にこなしていた。

繰り返されるニートの毎日。
漠然とした不安を抱えながらも、某有名なメーカーを自主退社してから
かれこれ五年は経つ。31歳童貞ニート。

朝方になってから、やっとPCの電源を落とす。
最近夜に寝られなくなったなぁと思いつつ消灯。
・・・したはずなのに、モニター画面は明るいままだ。

「???」
電源不良かなぁ、と思い、モニターの電源ボタンを押してみる。
すると「パヂ!!」という電撃音と共に俺の思考回路はショート寸前。
「あばばばばっばばばっばばばばば」
友達をまた一人無くしそうな奇声を発しながら、俺の視界は暗転した。

なにか身体が宙に浮いている。
手足の感覚がまるでなく、堂と頭だけを頼りにぷかぷか浮いてる感じ。
宇宙(そら)ってこんな感じなのかなぁと思いつつ、さきほどの出来事を思い出す。

あれ?これってやべーんじゃね?臨死体験?

そう思うと、おぼろげながらも手足の感触も求めてもがく。
そうやって必死になっていると段々手足の感覚が蘇ってくる。
まるで身体から血管を伸ばし、その伸びた先から順に血肉が現れてるかのような錯覚を覚える。
徐々に、腕や太腿が形成されていくような気がする。

うおおおおお死にたくねぇぇぇぇぇっぇぇ!!!

気張る、とにかく気張る。これが夢だったら絶対寝ながらウンコ漏らしてる。


581 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/12/22(土) 00:52:22 ID:0c3etcWg0
年末でリアルワーキングがビジーなのですゴメンヨ.....

582 :タカハシ ◆2yD2HI9qc. :2007/12/22(土) 00:55:06 ID:8/Y6oWwz0
みなさん、お疲れ様です。

合作、無事に終わらせることが出来て、協力してくださった住人の方々や一緒に作った方々には感謝です。
個人的に良い勉強になりました。
途中、現実逃避を兼ねて書いた「癒しの魔法」もヨウイチ編のおかげで出来た感じです。
「癒しの魔法」は、内容はともかく少し早いスレへのクリスマスプレゼントですw
反省点としては、後半時間を取れなくなり最終章に関しては本当に少ししか協力できなかったこと。
それから書き手同士の意思の疎通がうまくいかなかった事もありました。
次回、どなたかがやられるとするなら、少しでもIRCなり会話しておいたほうがいいかなと感じました。

合作本編は終わりましたが、エピローグフラッシュを制作するので、完成したらまた告知させていただきます。
たぶん、来年のいつごろか… もうちょっと先になると思います。
まとめ作業は、出来れば年内に11スレと合作をまとめる予定でいます。

>>579
合作で少しだけ、燃え尽きた感はありますw
が、今度はタカハシ編の旅を続けていきます。

583 :◆qLjap6DEzk :2007/12/22(土) 01:10:07 ID:ojXLm7mQ0
やっとの思いで、身体の感覚が大体蘇ってきた。なんとなく、指先をピクピク動かすこともできる。
おし、後は起きるだけだな、起きろ俺!起きろ!!
そう願ったやいなや、突然視界が回復する。

「フー、蘇生成功?くわばらくわばら」

心地の良い朝日を浴びながら、臨死体験だか金縛りだかから、抜け出せた俺。
貴重な体験したなぁと思いつつ、今ある確実な現実感に感謝。
なんてスバラシイ朝日!空気!緑!生きてるってサイコウ!!

「ん?緑?」

辺りをよく見回してみる。
そこには見慣れたエロゲーのポスターはない。フィギュア(魔改造)もない。
積んでるエロゲーもない。チン○にやさしい、愛用のカシミヤのボックスティッシュもない。
カシミヤはチン○にへばりつくのが難点なのだけれど・・・

いやいやいや、それはどうでもいいが、緑っぽかったのは木々だと認識。周りは野原。壁なんてどこにもない。

「へ?外?なんで?」
「ええええええ!俺生き返ってなかったんか!ここ天国か?」

夢にしては存在感のありまくる景色に戸惑いを隠せない。
しかもなんてキレイな景色。とうとう俺は天に召されたのか。
ヤダヤダヤダ。せめて童貞卒業してから死にてーよぉぉぉぉぉ!
懐かしいAAを回想しながら、ジタバタする俺。すると異様な臭いに気が付く。

なんだ、これは・・・。もしかして・・・ここは見た目はキレイだけど、実は地獄の一丁目?!
うそぉ!俺地獄行きだったのかよ!確かに!納得!合点承知!!
でも、それにしてはお尻の辺りに違和感が・・・

あ、ウンコ漏らしてただけだった。

584 :◆qLjap6DEzk :2007/12/22(土) 01:35:11 ID:ojXLm7mQ0
「ん?地獄にウンコ?いやまだ天国かもわからんか。天国にウンコ?」

血の池地獄なんて物もあるくらいだし、排泄物くらいできるのかなぁ。
そう思いつつ、このままでは如何ともしがたいので近くに洗面所と洗濯機がないか探す。

ない。つーか大自然の中だから、あるわけない。チクショウ。
近くに水の流れる音がしていたので近寄ってみると小川発見。
とりあえず、ここで洗うしかないのかなぁ・・・。

シャアアアァァァァァァッ

やっと乾いたパンツを履いていると、後ろから奇声が。
振り返ってみると、なんか口が鋏っぽくなっているバカデカイ蟲を発見。
うぇっ!!蟲がガキの頃から苦手は俺は驚きすくみあがってしまう。
眼が真っ青でキモイ・・・。向こうも警戒しているのか、それ以上は寄ってこない。
逃げたら追いかけてくるんだろうなぁ・・・
そう思いつつ、半ば諦めながら脱兎のごとく戦線離脱!
もれなくついてくる青眼鋏蟲!

「やっぱりぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!ぃいいいやああぁぁぁぁっぁぁぁぁ!!!」

逃げる逃げる逃げる。どこまでも逃げる。
全力疾走してるはずなのに、中々体力は尽きない。
人間やればできるもんだ。

しかしそうこう言っている内に、崖に突き当たってしまった。後ろには今だにデカ蟲。
何気にヤバくね?スネークだったら崖から飛び降りても助かるんだろうか・・・
そう思いつつも、やっぱこれは夢なんじゃ。という淡い期待と逃避。
こんな時こそあれだ。お決まりの懐かしいアレを言うときだ!

「もうダメぷぉ!!」
ダメだ、力んでしまって叫んでしまった。悲壮感がない・・・。

585 :◆qLjap6DEzk :2007/12/22(土) 01:49:32 ID:ojXLm7mQ0
あぁ、俺の人生やっぱりこれまでなのかな。
お母さんごめんなさい。お父さんごめんなさい。
姉ちゃん借りた金返さないで死んでごめんなさい。

一通り懺悔は済んだ。よし後は無謀だが特攻おぉぉぉぉぉ!!
倒せるかもしれんもんね!!こっち素手だけど!!
勝てたらラッキー!死んで元々!カナたん俺を守って!!

「きいえぇぇぇぇぇぇえぇ!!」

生まれて初めてこんなに叫ぶ。これが最後の言葉かと思うとカッコわるい。
くらえ!とか、いくぞ!最速風神拳!とかの方がかっこよかったかな。
後悔先にたたず。とはよく言ったもの。

眼前にデカ鋏蟲が迫る。いや、青眼デカ鋏蟲だったか?
そんなのどうでもいい!しかしキメェェェェェ!

飛び掛ろうとした時、横から物凄い速さで何かが蟲に突き刺さる!
よく見ると剣だ。剣が蟲の頭を貫通してる。
青かった眼が光を失い、横にドウっと倒れる。
うはぁぁぁぁ、なんじゃこりゃ。
展開についていけないでいる俺。

「大丈夫ですか〜!」

横から声がかかり、茂みから緑の何かが這い出てくる。
女の子だった。ちょっと露出気味ながらもボ−イッシュな服をまとった女の子。
珍しい。というか初めて見た。緑色の巻き毛(クセ毛?)をしている。

586 :◆qLjap6DEzk :2007/12/22(土) 01:58:51 ID:ojXLm7mQ0
「ケガとかないですか?」

あっけにとられている俺に、緑の髪の女の子が続ける。

「なんか変な叫び声とかして騒がしかったので探ってみたら・・・」
「素手ではさみくわがたに突撃してる人がいるじゃないですか」
「どう見ても武術に長けてるようには見えなかったので、援護させていただきました。」

顔を見るとかなりカワエエ・・・。

「大丈夫?」

顔を覗き込まれる。
こんなカワイイ子にこんなに近くに寄られたのは何年ぶりだろうか。
不慣れなのも手伝って、真っ赤になってしまう。

「へ?いや!全然ダイジョーブ!」
「き、君が助けてくれたのか!あ、あ、ありがとう!!」

「いえ、いいんですよ・・・。あなたは助けられてよかった」
フッと緑髪の彼女が寂しそうな笑顔をする。

「え?」
「え?」
「いや、どうしたのかなって。」
「え、いや、なんでも、ないです、よ?」

どう見ても何でもなくはなさそうだ。
でもこれ以上聞くのは、彼女に悪い。
何か話題を変えようか・・・。

587 :◆qLjap6DEzk :2007/12/22(土) 02:11:53 ID:ojXLm7mQ0
「君って天使?」
「え?」
「ここってあの世かなぁ?」

リアルで発したら、大昔のドラマでもやらないような口説き文句とも取れないことを言う俺。
しかし、今は状況確認が先決だ。

「あの、どういうことですか?」
「いや、俺って死んでるんじゃないかと思ってさ」
「・・・。」
「だって俺s」
「生きてるに決まってるじゃないですか!さっき私が助けたでしょう?!」
「いや、そういう意味じゃなk」
「もう!何言ってるんですかアナタは!せっかく・・・助けることができたのに・・・ひっく」

おおおおお、何だか泣きはじめてしまった!
ぐはぁ!なんじゃこれ!なんで泣くんじゃ!

「ごめんごめん!そういうんじゃないんだ!うん、助けてもらってありがとう!」
「グス・・・ひっく・・・」
「俺死んでない死んでない!死ぬなんてことも言わない!ごめん!ごめん!だから泣かないで!」
「・・・・・・はい・・・」

なんだ、この痛少女は。
カワイイから甘やかされてるのか。今時の小学生でもここまで酷くないぞ。小学生ハァハァ。
いや、小学生に萌えるのはどうでもいい。

「とりあえずさ、俺はケイイチって言うんだけど、ここはどこなの?」
聞き方を変えることにした。

「ここですか?私の村の近くです。地域でいうとブランカという国の近くですよ」
ブランカ?それなんてストU?

588 :◆qLjap6DEzk :2007/12/22(土) 03:45:06 ID:ojXLm7mQ0
「ブ、ブランカ?なにそれ、国なの?」
「? はい。」
ブランカなんて国あったっけ・・・?

「んー、つーか日本って知らない?」
「ニホン?」
「もしくはジャパンとかジパングとか」

「ジャパン???聞いたことないです・・・」
「私も村から出たことないので、地理に疎いんですけど・・・旅人さんですか?」
「いや、旅とかじゃないんだけど・・・気付いたからここにいたってだけで」

なんだか怪しまれてしまったかな?
居心地が悪くなってくると、彼女がハっとしたように見上げてくる

「も・・・もしかして、魔物に攫われていたんですか?」
「魔物?」
「あなたももしかしたら、私と同じように村を襲われて・・・?」
「村を襲う?」
「あぁ!そこから逃げ出してきたんですね!」
「???」
「デスピサロとかいう魔族は知りませんか?!」
「デピスロト?」

なんだか変な話になってきた。

589 :◆qLjap6DEzk :2007/12/22(土) 04:01:42 ID:ojXLm7mQ0
「あの・・・何がなんだか・・・というか魔物とか全然わからないんだけど」
さっきの蟲とかのことだろうか。

要領を得ない俺を見て彼女がまたハっとした顔をする。
しかし、この子カワイイな〜。頭がヤバそうなのが玉に傷だけど。

「あまりの恐怖に記憶喪失になってしまったんですね・・・」

マテ。

「大丈夫!私がついてます!とりあえず私と一緒にブランカのお城まで向かいましょう!」
「え?城?」
「そうです!お城に行けば何とかなるかもしれない・・・少なくともずっとここに居るわけにもいきません」
「私はソニアっていいます!アナタはケイイチさんって言うんでしたっけ?よろしくお願いします!」
「道中は私が命に代えても守って見せます!命に代えても・・・もう二度と・・・」

自分の知らない間に話がドンドン進む。喋る隙が全然ない。
元気で勢いのある娘だなぁ。てーかテンパってる気がするのは気のせいか?
でも、今は従うしかないのかなぁ・・・。少なくともあの世ではなさそうだし。
外国なのかな。
ハァ、なんだか疲れた。

「ブランカだっけ?そこって近いの?」
「ええ、ここからだと恐らく半日ほどで着きます」
「半日?!それ凄い遠いじゃん!車は?バイクは?・・・まさか徒歩?」
「クルマ?というのはよくわからないですけど、徒歩で半日くらいですよ」

マジか。
近くに、他に村はないのかとか、途中で休憩所とかないのか聞いてみるも
一切ないとのこと。夜になる前にブランカに着いた方が良いとのこと。
出発したときは、まだ昼にもなってないようだったが、俺の歩行ペースが遅いらしく
ブランカとやらに着いた時には、もう日がとっぷりと暮れていた。

590 :◆qLjap6DEzk :2007/12/22(土) 04:26:05 ID:ojXLm7mQ0
話は戻り、ブランカへの道中、暇だったので
せっかくだから記憶喪失のフリをして、この国(世界?)の常識とやらについて聞いてみた。
どうやらマヂで魔物とかそういうのがいるらしい。
まぁ、考えたらあの青眼鋏蟲(なんかクワガタの仲間らしいが)も魔物とのこと。
凶暴な動物=魔物ってわけでもなく、人語を解する奴らもいるとのこと。

なんか面倒な世界だなぁ・・・。これってファンタジーじゃね?
リアルにファンタジーな所に来ると結構厄介なんだなと、認識。
普通にのんべんだらりと暮らせるところはないものか。
日本って良いところだったんだなぁと、しみじみ思う。

フと、日本に戻れるんだよな?と不安になった。残してきた物が大きすぎる。
11年待った、やりかけのゲームが先日出たばかりなのだ。
二番目に来週発売されるフィギュアが届くことが気になった。
両親や友達のことを思ったのは6番目だった。

道中、何度かカワイイ魔物に出くわした。
ソニアはえらい強かった。
剣を振り回して必死に自分に敵をひきつけ、俺を守ってくれる。
結構グロいシーンもあったが、虹黒・三次黒の住人でもあるので、むしろ大好物だった。
蟲は嫌だけど・・・

驚いたのがトイレで、設備とか何もないためにその辺ですることに。
当然ソニアも二度ほど用を足しに行っていた。
魔物が出たら困るので、つかず離れずの距離にいてくださいといわれたので
無類の尻フェチ、尻マイスターでもある俺は当然覗いた。ごちそうさまでした。
若い子の生尻をリアルで見れる日が来るとは・・・!感涙モノですな。

足が棒になるのと魔物に襲われるのを除けば、こんな旅なら何度でもしたいと思った。

591 : ◆qLjap6DEzk :2007/12/22(土) 04:27:20 ID:ojXLm7mQ0
スレ汚し失礼しました。

新たにこちらで書かせてもらおうと思いました。
拙い文ですが、これからどうぞお付き合いいただければと思います。
こういうの書くの初めてなんで、キリは悪いですが、今日はこれにて。

592 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/12/22(土) 08:28:21 ID:HGX/PaTk0
>579
ヒント1:職人の都合もあり毎日書けるものではない
ヒント2:書き上げたとしても誤字脱字チェックがある

>591
乙!
カオスな予感にwktkw

593 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/12/22(土) 09:25:45 ID:8ag1nOKVO
職人さんいたんだね(´;ω;`)
すぐじゃなくてもいい、待ってます。


594 :約束 ◆2yD2HI9qc. :2007/12/22(土) 11:58:55 ID:8/Y6oWwz0
待ち合わせをしていた。
先日、仕事の帰りに見つけた目立たないこの喫茶店で、コーヒーを飲みながら。

もう結構たつのに来る気配を感じない。
なんだか眠たくなってきた。
店に張り巡らされた地味な電飾が、ぱちぱち眠気を誘ってくる。
だいぶ待ってるんだ。
少し、居眠りするくらいは構わないよな… ……

595 :約束 ◆2yD2HI9qc. :2007/12/22(土) 11:59:43 ID:8/Y6oWwz0
「そろそろ起きて。 今日は約束してた日じゃない」

目を開くと場所が、喫茶店ではない部屋の中になっている。

「きたか……」

俺はこのドラクエ世界へ来た事があった。
そんなに離れていない過去に、だ。

「なんのこと?」
「…夢の、話だ」

宿屋を出て町を歩く。
町は以前と何も変わっていなかった。

「私との約束、覚えてる?」

前、この夢みたいな世界へ始めて訪れたとき彼女と出会った。
約束を交わし、約束の朝にはこの夢から覚めてしまったんだ。

「もちろん、覚えてるよ」
「よかった。 さっそく行こう」

見渡す限り緑に包まれる平地を並んで歩く。
やがて町と建物と人の波が押し寄せ、二人で混ざる。

596 :約束 ◆2yD2HI9qc. :2007/12/22(土) 12:01:31 ID:8/Y6oWwz0
「今日はやっぱり人が多いね。 またにする? どうしよう」
「…いや、このまま行こう。 次の約束は、しないほうがいい」
「どうして?」
「約束をしてしまうと… いいんだ、なんでもない」

人をなんとかかきわけ、その場所へようやく着いた。

「わぁ…!」

彼女が喜ぶ。
その姿を見る事ができて、もちろん俺はうれしい。

「今日は連れてきてくれてありがとう」
「いいんだ。 けど、もう約束は無いから、会えなくなるな…」

少し、寂しくなりうつむく。

597 :約束 ◆2yD2HI9qc. :2007/12/22(土) 12:03:37 ID:8/Y6oWwz0
「何を言ってるの? それより遅れてごめん!」

顔を上げると彼女が居る。
場所は、もとの喫茶店だ。

「電車が遅れちゃって。 携帯の電池もなくなっちゃったんだ。
 公衆電話から電話したのに出ないから…」

ポケットに収まるマナーモードの携帯にはたくさんの着信が入っている。

「…大丈夫だよ、俺も寝てたから。 じゃあ行こうか」

ゆっくりとした時間が流れる店を出た。
外は暗く、ツンとした寒さがコートを通して伝わってくる。

「なぁ。 前に約束してた場所に行ってみないか?」
「いいの? だって人が多いから…」
「構わないよ。 ここからならそう遠くないんだし」

人が行き交う大通りへ出て人の波と二人で混ざる。
姿は完全に波の一部となり、やがて消えていった。

598 :約束 ◆2yD2HI9qc. :2007/12/22(土) 12:06:03 ID:8/Y6oWwz0
おしまい。

ドラクエと全く関係ない内容で申し訳ない。
書いた後に気付いたんです orz

599 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/12/22(土) 13:25:22 ID:Q8Tt2V++0
>>591
ケイイチのダメっぷりが他人の気がしない。次回にも期待っ!
> 日本に戻れるんだよな?と不安になった。残してきた物が大きすぎる。
黒歴史モナー。処分を友人に頼んでおかないから・・・。

> 11年待った、やりかけのゲームが先日出たばかりなのだ。
11年待ち、テラわろす。
女勇者(?)の生尻、和露た。

>>598
わわ、癒しの魔法の続ききたー。
現実でも彼女さん(?)できたんですね。よかった。
でも、僧侶ちゃん・・・・゚・(つД`)・゚・

600 :タカハシ ◆2yD2HI9qc. :2007/12/22(土) 14:34:57 ID:8/Y6oWwz0
>>599
感想ありがとうございます。
まぎらわしくてごめんなさい。 実は「癒しの魔法」の続きじゃないんです。
設定はおんなじのを使ってるんですが、テーマというかそういうのを共有した「短編」でした。
次からは名前欄に短編て入れておきます。
もちろん、タカハシやまとめ作業の合間に創る話なので、今後いつ書くのかはわかりません。
一ついえるのは、年内にまた書くかもしれないってことだけですw

601 :タカハシ ◆2yD2HI9qc. :2007/12/23(日) 11:01:05 ID:FexaC70o0
おはようございます。
朝から修正を。

>>597
「顔を上げると彼女が居る。」
    ↓
「顔を上げると、夢のままの彼女が居る。」
へ修正します。

602 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/12/23(日) 23:39:20 ID:dDBxb/Ck0
いつからネタスレに、キモイ厨房の恋愛小話書くようになったんだ

603 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/12/24(月) 01:33:17 ID:HL5wo8i70
完全に出遅れたが合作超乙!
面白かった〜!

エピローグ期待してます!(・∀・)ノ

604 :ネガティブ君とおバカ君:プロローグ1/2:2007/12/24(月) 02:46:03 ID:zchPHpDM0
―――うおー、頭が痛い。昨日は飲みすぎたか?

ってか、やべぇ。昨日、居酒屋出てからの記憶が全くねーんですけど。
こんなんでよく帰宅できたな、俺。犬並みの帰巣本能だ。

ああ、朝日が眩しい。溶けちまう。俺は夜が好きなんだ。どっかいってくれ、太陽。

* 「ううん…」

俺 「おわっ!?…って加藤じゃねえか。驚かすんじゃねぇよ」
俺の隣のベッドにいたのは、親友の正志だった。茶髪のベリーショート。見間違える筈もない。

正志「おはよー、竜司。ってかなんでお前、俺の部屋にいんの?」
と、とぼけた顔でとぼけた事をいいやがる。ちなみに、竜司ってのは俺の名前だ。

俺 「ふざけんな、ここは俺の…」
言いかけて、違和感を覚える。
あれ?ここ、俺の部屋じゃなくね?そもそも、俺の部屋にはベッド1つしかないもんな。
じゃあやっぱ、ここは正志の部屋なのか?

俺 「わり、たぶん俺、間違えて…」
正志「あれー、ここ俺の部屋じゃないやー。ここどこー?」



605 :ネガティブ君とおバカ君:プロローグ2/2:2007/12/24(月) 02:48:07 ID:zchPHpDM0
あれ?正志の部屋でもねぇのか?
じゃあ、ここはいったい何処なんだ?
…考えてても埒があかねぇな。正志に昨日のことでも聞いてみるか。
こいつに期待はしてねぇけど、手がかりにはなんだろ。外に出てみるのが一番早いんだろうけど、心の準備ってやつがな。
俺 「なぁ、正志。昨日のこととか覚えてる?」
正志「えー、ごめん。居酒屋出てからのことは覚えてないやー。竜司は?」
俺 「俺もお前と同じだわ。起きたらここにいた」
正志「マジかぁー。うわー、ありえねー」

こいつも記憶にないのか。やべぇ、怖くなってきた。
ここは一体どこなんだよ。ってか、そもそも日本なのか?
家具とか家の造りが、普段目にしてるのと全然違うぞ。
―――もしかして、拉致られた?

正志「ねーねー」
俺 「…なんだよ。今、考え事してんだけど」
正志「ちょっと外出てみよーよー」

うーん……。まぁ、ここにいてもしょうがねぇな。不安になるだけだ。うし、心の準備完了!
俺 「だなー。その前に、とりあえず着替えよ―か。俺ら、いつの間にかパジャマだし」
正志「うわ、ホントだー。誰かが着せてくれたんかなー」

そんなことを話しながら支度を済まし、ドアの前に立つ。
歯磨きくらいはしたかったけど、洗面所がねぇからしょうがねぇ。
そして俺は、ドアノブに手を掛ける。だが、そこで固まる。
目の前のドアを開け放つ勇気が、どうにも湧いてこねぇ。
もしも、そこが言葉も通じねぇ異郷の地だったら。もしも、ワケのわからん事件に巻き込まれてしまっていたら。もしも―――
正志「さっさと開けちゃいなよー」ドンッ
俺 「わッバカッ!!」
正志の糞バカに背中を押され、俺はドアを開け放った。
そこで目にした風景は俺の想像を遙かに上回るものだった。
【すいません、続きは後日で】

606 :タカハシ ◆2yD2HI9qc. :2007/12/24(月) 17:23:35 ID:VYR8vZVE0
お疲れ様です。
ここまでまとめました。
恐らく、今年のまとめは今回で最後になるかと思います。
来年もよろしくお願いします。
ttp://ifstory.ifdef.jp/index.html

>>602
そういうつもりはなかったのだけれど、不快にさせて申し訳ない。
自重します。

607 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/12/24(月) 18:26:33 ID:jgq26otQO
>>606
乙リークリスマス!!
確かに>>602の言いたいことも分かるのでアレだけど、自重し過ぎないように頼むぜw

608 :ネガティブ君とおバカ君:2007/12/25(火) 09:43:45 ID:cIQ0wfwc0
投下します。

609 :ネガティブ君とおバカ君:ボッツ登場:2007/12/25(火) 09:46:01 ID:cIQ0wfwc0
―――何だこりゃ?
目に入ったのは、見渡す限りの草原。遠くにはでっかい城(?)みたいなもんが見える。さらに遠くには…何だありゃ?塔か?
まぁ、それだけでもここが日本じゃねぇことは解るんだが、問題はそこじゃねぇ。
青くてプルプルした気持ちわりぃ物体やら、やたらでかいなめくじやらが、
嬉しそうにそこら中を跳ねまわってやがることだ。

…ああ、これ夢だわ。最近疲れてるもんなぁ…。だからこんな幼稚な夢を見るんだ。
よし、決めた。冬休みには、久々に実家に帰ろう。たまにはゆっくりして、親孝行でもしてやらなきゃな。母さん、元気かなぁ…。

正志「ねーねー」

うるせぇぞ、夢の住民。俺は今、てめぇの相手をしてる暇はねぇんだ。

正志「あの青いの、スライムだよな?で、その横にいるのがファーラット。かわいーな
ー」

ああ、スライム。ドラクエの。そういやそうだな、似てるわ。
ホントに幼稚な夢見てるなぁ、俺…。

正志「なんかこっちに向かってきてるよー。逃げよーよー」

ほっとけ、どうせ夢だ。痛みなんざ感じねぇし、運がよけりゃ目も覚めるかもな。
ん?頭の中に数字が…?HP 30 MP 0?
さすがは夢。ここまでゲーム通りとは。

正志「わ、来たー!!竜司、そっちにスライム行ったよー!」

だから、大丈夫だっての。夢の中でまでうざったい奴―――
ド ン ッ !
次の瞬間、俺はあばらに強い衝撃を受け、2,3m吹っ飛ばされていた。


610 :ネガティブ君とおバカ君:ボッツ登場:2007/12/25(火) 09:47:58 ID:cIQ0wfwc0
クソが、なんだよこれ…!!めちゃくちゃ…痛ぇじゃねぇか…!
呼吸が……できね…ぇ!夢じゃ…ねぇのかよ…!!

正志「りゅ、竜司!誰か!たっけてー!!」

* 「おーい!大丈夫か!?」

ん…この声…誰か…きてくれ…たの…か?
これが…大丈夫な様に…見え…るのかよ…クソが…。
ぜってーアバラいってるぞ…これ…。痛恨の…一撃ってやつか…。

* 「大丈夫じゃないみたいだな…ホイミ!」
ん…?あ、あれ…!?痛くねぇ!!
すげぇ!これは…呪文か!?

* 「これでだいぶ良くなったはずだけど…」

顔を上げ、俺を助けてくれた男を見る。やたら毒々しい色遣いだな…特に髪。
真っ青はねぇだろ…。まぁ、助けてくれたわけだし、礼は言っとくか。

俺 「ありがとな。助かったわ」
* 「礼は後でいい!今は敵を倒すことだけ考えて!」

倒すっつったってなぁ…元剣道部員とはいえ、素手じゃ到底無理だろう。

* 「何してんだ!その腰の剣は飾りか!?」

何言ってんだ、剣なんてどこに…。あ、あれ?
刀がある…。そんなバカな、ついさっきまでは無かっただろうが!

正志「戦おう、竜司!元剣道部員、なめんな!」
俺 「あぁ!?」

611 :ネガティブ君とおバカ君:ボッツ登場:2007/12/25(火) 09:48:49 ID:cIQ0wfwc0
見れば、正志は既に刀を抜き、正眼に構えている。
なんて適応力のある奴だ…バカの癖に。
しょうがねぇ。俺もぼちぼち行くか。死にたくはねぇしな。
しかし、いきなり武器が現れるとは。しかも、「刀」なんて俺らにお誂えの物が。
都合が良すぎねぇか?やっぱ…夢なのか?

* 「早く!」

分かったよクソが。そう急かすな。
考えてても仕方ねぇ。やっぱりここは、戦うしかねぇか。得物もある事だしな。
腹を括った俺は、腰に差した刀を抜き、右上段に構えた。息を整え、心を落ち着ける。
そして…

「りゃあ!!」

気合を発する!心なしか目の前の青い化け物が、怯んだように感じる。
その機を逃さず、抱えた刀を振り下ろす!

「っ面ーーーん!!」

ビチャア!と水を叩いたような音がした。
命中。当然だ。こちとら、高校時代は掌が豆だらけになるまで、何万回、何憶回と練習
してたんだ。化け物如きに、避けられてたまるか。

口の辺りまで真っ二つになったスライムは、一度、二度と点滅したかと思うと、幻か何かのように消え去っちまった。

…ん?頭の中に文字が流れ込んできやがった。なんだこれ?…
「スライムAをたおした!」 だぁ?…ゲーム通りってことか。ご親切にどうも。もう何が起きても驚かねえよ。
正志の方を振り返ると、あいつもちょうど化け物を始末し終わった様だ。荒い息をついている。

612 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/12/25(火) 09:48:53 ID:5/BH2zZNO
クリスマスは仕事支援

613 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/12/25(火) 09:51:06 ID:lzIAHH870
リアルタイムktkr!支援

614 :ネガティブ君とおバカ君:ボッツ登場:2007/12/25(火) 09:51:15 ID:cIQ0wfwc0
普段はとぼけてるが、やる時はやる奴だからな。
「スライムBをたおした!」アナウンス(?)が聞こえた。
正志「竜司!今、変なのが頭ん中にきた!すっげー!」
俺 「俺もだよ。何なんだろうな?」

で、あのツンツン青髪野郎は、と。
今まさに、モコモコした緑色の化け物(ファーラットだっけ?)に止めを刺そうとしている所だった。
手にした剣で、化け物を袈裟掛けに斬りつける。化け物は、俺の時と同じように、明滅して消えた。
「ファーラットをたおした!」

どうやら、これで全部片付け終わったようだ。…ああ、疲れた。
ひと息ついていると、そこでまた、アナウンスが流れる。
「まもののむれを やっつけた!
 それぞれ 10ポイントの けいけんちを かくとく!
 りゅうじは レベル2に あがった!
 りゅうじは メラを おぼえた!」

ああ?俺か?…そういや、なんか強くなった気がするぞ。
メラってあれか?火の呪文か?
そんなことを考えていると、頭の中に、また何かが流れ込んでくる。
…どうやら今度は、呪文の使い方を教えてくれるらしい。
…えーと、何?「メラを使いたいと念じ、相手に手をかざす」…か。
随分と簡単だな、オイ。まぁ、今はMPが無いから、使えないんだろうな。
…なんだかんだ言って、適応しつつあるな、俺も。

「まさしは レベル2に あがった!
 まさしは ホイミを おぼえた!
 8ゴールドを てにいれた!」

今度は正志か。あいつはホイミ、か。イメージ合わねぇな、オイ。


615 :ネガティブ君とおバカ君:ボッツ登場:2007/12/25(火) 09:53:07 ID:cIQ0wfwc0
どうやら、あの青髪はレベルアップしねぇらしいな。
元のレベルが高いからか。

正志「竜司ぃ!俺、レベル2だってさー!ホイミ覚えちゃったー!!ホイミ!ホイミ!
   あれ?MP足りないや!あはは!!」
俺 「うるせぇよバカ」
正志とそんなやりとりをしていると、先ほど助けてくれた青髪が、話しかけてきた。

* 「いやー、強いな、あんたら!レベル1とは思えないよ!こりゃ、助けなくても
   よかったかな?」
などと笑っている。親しみやすそうな奴だ。
俺 「いや、危なかったよ。ホントにありがとな。えっと―――」
そういや、こいつの名前、聞いてねえな。
俺が困っていると、青髪はそれに気付いたのか、自分から名乗ってくれた。
* 「ごめん、まだ名前を言ってなかったな!俺はボッツ!ライフコッドのボッツだ!
   よろしくな!」

【ここまで。支援ありがとうございます。最早ネガティブでもなんでもない件。
 本来ライフコッド周辺にはスライムは出現しないんですが、
 最初の敵はやはりスライムがいいと思ったのでこうなりました。】


616 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/12/25(火) 11:50:08 ID:08NlY5mR0
おお、続きが投下されている〜〜〜。
剣道部員強ぇぇぇ〜。
しかも早速レベルあがって呪文も覚えているし。
wktk

617 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/12/25(火) 12:01:41 ID:3LMeX1tqO
まさしきゅんハァハァ

618 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/12/28(金) 01:32:49 ID:MTVm6yA+O
埋め用短編投下します。

619 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/12/28(金) 01:35:00 ID:MTVm6yA+O
腰まで届く桔梗色の髪をブラシでとかして艶をだす。軽く化粧を施し頭からシルクのローブを身に纏う。セットしたあと手に気品ある緋色の天鵞絨に包んだ水晶玉を携える。
ドレッサーの鏡に写る自分の姿はまるで占い師の様な風貌。否、今の私は占い師だ。
目が覚めた時、知らぬ場所にいた。ココハドコワタシハダレと軽く混乱していると丁度よくドアから現れたのが…。
ちらり、とベッドでだらしない格好で寝ている踊り子マーニャを見た。
踊り子マーニャとくれば私はマーニャの妹、占い師ミネア。そう、何故か私はミネアになっていたのである。もうかれこれ一ヶ月たつと思う。
私には年子の姉がいる。背丈も顔もそっくりだが姉は運動好きで明るくムードメーカー。対する私は占いが好きな大人しいタイプ。
丁度小学生高学年に流行っていたドラクエ4のキャラクター、モンバーバラの姉妹の設定が似ていると良く言われた。
ドラクエ4。そう言われたからプレイした。姉ちゃんは見ているだけだった。確かに似てるねって二人で話していたことがある。
顔は似ていても性格は真逆だから喧嘩やぶつかり合いも多かったし、姉ちゃんなんていなければいいなんて何度も考えた。
そんな私たちも歳をとるにつれて生活スタイルも変わっていった。
私は地元の専門学校を卒業してから地元で就職。姉ちゃんは都会の大学へ行き卒業してそのまま就職した。
仕事は忙しい、だけどやり甲斐はあると以前電話で話してた。
大型連休がとれても遊ぶことがメインになってるようで、地元には一年に数回程度にしか帰郷することしかなくなった。海外旅行に行った時はお土産だけは荷物で送ってくれてた。
仕事も遊びも楽しんでやる姉ちゃん。最後にうちに帰ってきたのは結婚すると将来の旦那さんを連れてきた時かな。もう随分前だ。
小さい頃から一緒に過ごしていた姉ちゃんがいつの間にか私の知らない他人の妻になり、やがてそのうち母になるなんて身内としては複雑だけれど…。
…姉ちゃん最近連絡を寄越さないな。きっとまた忙しくしているんだろう。
あ、もう仕事の時間だ。行かなければ。私は寝ているマーニャを起こさないようにこの宿屋兼踊り子の寝所から離れた。



620 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/12/28(金) 01:44:22 ID:MTVm6yA+O
私は小さいながらも街の隅に店を構えていた。お店っていってもテントだけど。
野外でやってもいいけど天候に左右されるのが難点だったので。
テント内の光源は数本の蝋燭だけにしている。お香も焚いて雰囲気作り。
お客さんとは基本的には一対一。カップルを相手することもある。
テントの外には既にお客さんは何名か待機中。準備が整い次第お客さんを招き入れた。
私は小さい頃から占いが好きで占星術、風水、血液と様々な占いを勉強してきたけどタロットは一番得意だ。姉ちゃんは占いは見向きもしなかったけど。
幸いドラクエ世界のタロットは現実世界と一緒だから占い方法も一緒だ。
私はお客さんに悩みを聞いてからタロットをシャッフル、その悩みに似合った展開をし、ガードから意味を読み取る。それを悪い内容ならやんわりと、良いようならそのまま伝える。
もう一つの占い、水晶占いも人気。これは「ミネア」になってから見えるようになったんだよね。水晶から未来が見えるなんて嘘臭かったけど実際見えるんだからびっくりだ。
透視ではないから部分的なものを伝えるだけどね。
今が変われば未来が変わる。自分が変われば未来が変わる。これは私の持論。
占いはあくまでもより良い

621 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/12/28(金) 01:46:48 ID:MTVm6yA+O
翌朝私とマーニャはモンバーバラの街を離れた。
殺された父親の仇討ちの旅に…。
私はミネアではないが外見はミネアなのでマーニャは普段変わりなく話しかけてくる。どうやらバレていないようだ。まさか外見がミネアで中身は別人だなんて理解していないとは思うが。
私はゲーム内のミネアの言葉使いを思い出しながら言葉を選ぶ。姉ちゃんと呼んできた私に姉さんと呼ぶのは照れがあるがそれは慣れだ。
性格もちゃらけた姉をみるしっかりものの妹のように。
私たちはモンバーバラを離れ、モンスターと戦いながら北へ向かう。途中生まれ故郷コーミズに寄り、飼い犬のペスタと戯れたり洞窟に潜り父さんの弟子のオーリンを仲間にして…とゲームでいう第四章をリアルに体験してゆく。
私はこの物語の結末を知っている。私にとってこの旅はドラクエとしてプレイした『ゲーム』だからだ。
これから何処へ行き、誰と対面して敗れ、逃げるようにして何処へ行くのか…。
だからこそ岬の御告げ所の占い師にあなたはこれから先を視ていると指摘されたとき頷いた。マーニャはそのことに驚いていたが私は冷静であった。
「そう、分かっていた。今の私たちではバルザックに勝ち目のないこと…ううん何でもな

622 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/12/28(金) 01:50:49 ID:MTVm6yA+O
私たちはエンドールで暮らすことになった。世界の中心地。大都会エンドール。
ここで私たちは劇的な出逢いを果たすことになる。それがいつになるか分からない。だが待たなければならない。それまでに生活もしなければ食べていけないので仕事をしていた。
占いが好きで自分で占いをするようになってから実は恥ずかしながら占い師になりたいとは思っていた。
だが現実は厳しいもので得られる金額が微々たるものと知ると副業にするには良いがそれだけではご飯は食べれないと。
副業といっても現実世界では本業が忙しく副業にまで手が出せないのでせめて趣味でと占いをしていたのだが。
都会で人が多いからなのか、占いの腕がいいからなのか。連日お客さんは途切れなかった。
外見は違うけど中身は私。占い一本でごはんが食べれるようになり夢が叶った。仕事は大変でも好きなことをしていく苦労は辛くなかった。
エンドールで生活をして数ヶ月たったある日。その日はやって来た。絶望に打ちひしがれた顔でこの都会をさ迷う緑髪の青年。勇者と定められた者の姿を。
勇者を加え、エンドールを離れ、私たち姉妹の旅はまた始まる。旅の途中同じ光を持つ仲間たちを導く。
最後の戦士を迎える為に私た

623 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/12/28(金) 01:54:41 ID:MTVm6yA+O
マーニャは火炎呪文メラゾーマを唱え、巨大な火炎球を進化の秘法を使い進化した巨大な敵にぶつける。
敵は開口し冷たく輝く息を吐いた。
「フバーハ!」
私はすかさず光の粒子の衣で仲間を守る。
「ありがとミネア」
マーニャがウインクした。
「進化の秘法は父さんのものよ。あんなものに悪用されてたまりますか!」
マーニャは再度メラゾーマを唱えた。
私は回復呪文ベホマを唱え、仲間の傷を全快する。回復呪文で傷を癒すのが私ならば精神的なフォローをしていたのはいつもマーニャだった。そして今日も。
以前から思っていた。この戦いが終わったらもしかしたら私、元の世界に帰還するんじゃないかって。だってこれで『ゲーム』は終わりだもの。
隣で攻撃呪文を舞うように放つマーニャ。そこにいるのはマーニャなのに、何故だろう。自分の姉ちゃんに見えてしまっていた。
「姉さん…」
「こら、これは戦いよ。ぼっとしている間もないわ!」
「姉ちゃん!」
マーニャは驚愕した顔だった。
「姉ちゃん、わたし、姉ちゃんが結婚してもずっとずっと好きだから。喧嘩しても、離れてしまっても。だって、二人っきりの姉妹だもの!」
私は何を口走っているんだろう。だけど言わずにはい

624 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/12/28(金) 01:56:39 ID:MTVm6yA+O
『昔ドラクエに出てきたモンバーバラの姉妹っていたじゃん?あたしが姉のマーニャであんたがミネアになっているの。それで最後の敵いるじゃん。その時ミネアが姉ちゃんってあたしに話しかけるの。姉ちゃん好きだって。なんだかすんごくリアルだったんだ』
え…もしかして…。
姉ちゃんの告白に私は驚きを隠せない。
『離れてしまっても、ずっと思っている。だって、二人っきりの姉妹だもの』
姉ちゃんには、私も同じ夢を見たよとメールを打ち返した。

―――了―――


625 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/12/28(金) 02:05:56 ID:GmSZKpP+0
GJだが途切れてるぞ。

626 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/12/28(金) 02:08:44 ID:MTVm6yA+O
そうなんです!ごめんなさい。文字数も確認したんですけど。もう一回最初から投下させてください!

627 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/12/28(金) 02:11:36 ID:MTVm6yA+O
腰まで届く桔梗色の髪をブラシでとかして艶をだす。軽く化粧を施し頭からシルクのローブを身に纏う。セットしたあと手に気品ある緋色の天鵞絨に包んだ水晶玉を携える。
ドレッサーの鏡に写る自分の姿はまるで占い師の様な風貌。否、今の私は占い師だ。
目が覚めた時、知らぬ場所にいた。ココハドコワタシハダレと軽く混乱していると丁度よくドアから現れたのが…。
ちらり、とベッドでだらしない格好で寝ている踊り子マーニャを見た。
踊り子マーニャとくれば私はマーニャの妹、占い師ミネア。そう、何故か私はミネアになっていたのである。もうかれこれ一ヶ月たつと思う。
私には年子の姉がいる。背丈も顔もそっくりだが姉は運動好きで明るくムードメーカー。対する私は占いが好きな大人しいタイプ。
丁度小学生高学年に流行っていたドラクエ4のキャラクター、モンバーバラの姉妹の設定が似ていると良く言われた。
ドラクエ4。そう言われたからプレイした。姉ちゃんは見ているだけだった。確かに似てるねって二人で話していたことがある。
顔は似ていても性格は真逆だから喧嘩やぶつかり合いも多かったし、姉ちゃんなんていなければいいなんて何度も考えた。
そんな私たちも歳をとるにつ

628 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/12/28(金) 02:12:11 ID:MTVm6yA+O
腰まで届く桔梗色の髪をブラシでとかして艶をだす。軽く化粧を施し頭からシルクのローブを身に纏う。セットしたあと手に気品ある緋色の天鵞絨に包んだ水晶玉を携える。
ドレッサーの鏡に写る自分の姿はまるで占い師の様な風貌。否、今の私は占い師だ。
目が覚めた時、知らぬ場所にいた。ココハドコワタシハダレと軽く混乱していると丁度よくドアから現れたのが…。
ちらり、とベッドでだらしない格好で寝ている踊り子マーニャを見た。
踊り子マーニャとくれば私はマーニャの妹、占い師ミネア。そう、何故か私はミネアになっていたのである。もうかれこれ一ヶ月たつと思う。
私には年子の姉がいる。背丈も顔もそっくりだが姉は運動好きで明るくムードメーカー。対する私は占いが好きな大人しいタイプ。
丁度小学生高学年に流行っていたドラクエ4のキャラクター、モンバーバラの姉妹の設定が似ていると良く言われた。
ドラクエ4。そう言われたからプレイした。姉ちゃんは見ているだけだった。確かに似てるねって二人で話していたことがある。
顔は似ていても性格は真逆だから喧嘩やぶつかり合いも多かったし、姉ちゃんなんていなければいいなんて何度も考えた。



629 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/12/28(金) 02:14:30 ID:MTVm6yA+O
私は地元の専門学校を卒業してから地元で就職。姉ちゃんは都会の大学へ行き卒業してそのまま就職した。
仕事は忙しい、だけどやり甲斐はあると以前電話で話してた。
大型連休がとれても遊ぶことがメインになってるようで、地元には一年に数回程度にしか帰郷することしかなくなった。海外旅行に行った時はお土産だけは荷物で送ってくれてた。
仕事も遊びも楽しんでやる姉ちゃん。最後にうちに帰ってきたのは結婚すると将来の旦那さんを連れてきた時かな。もう随分前だ。
小さい頃から一緒に過ごしていた姉ちゃんがいつの間にか私の知らない他人の妻になり、やがてそのうち母になるなんて身内としては複雑だけれど…。…姉ちゃん最近連絡を寄越さないな。きっとまた忙しくしているんだろう。
あ、もう仕事の時間だ。行かなければ。私は寝ているマーニャを起こさないようにこの宿屋兼踊り子の寝所から離れた。

630 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/12/28(金) 02:17:59 ID:MTVm6yA+O
私は小さいながらも街の隅に店を構えていた。お店っていってもテントだけど。
野外でやってもいいけど天候に左右されるのが難点だったので。
テント内の光源は数本の蝋燭だけにしている。お香も焚いて雰囲気作り。
お客さんとは基本的には一対一。カップルを相手することもある。
テントの外には既にお客さんは何名か待機中。準備が整い次第お客さんを招き入れた。
私は小さい頃から占いが好きで占星術、風水、血液と様々な占いを勉強してきたけどタロットは一番得意だ。姉ちゃんは占いは見向きもしなかったけど。
幸いドラクエ世界のタロットは現実世界と一緒だから占い方法も一緒だ。
私はお客さんに悩みを聞いてからタロットをシャッフル、その悩みに似合った展開をし、ガードから意味を読み取る。それを悪い内容ならやんわりと、良いようならそのまま伝える。
もう一つの占い、水晶占いも人気。これは「ミネア」になってから見えるようになったんだよね。水晶から未来が見えるなんて嘘臭かったけど実際見えるんだからびっくりだ。
透視ではないから部分的なものを伝えるだけどね。
今が変われば未来が変わる。自分が変われば未来が変わる。これは私の持論。


631 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/12/28(金) 02:19:58 ID:MTVm6yA+O
占いはあくまでもより良い未来への手助けに過ぎない。それに頼り過ぎたり占い内容を丸のにしてしまったりしてしまうのは違うと思っている。
占いの捉え方は人それぞれだからそれはその人に任せる。
そうこう考えているうちにお客さんはひっきりなしに入る。いつもの倍かな?それは今日でお店を終うからだと思うんだ。別れを惜しむ人も多い。だけど明日から父さんの仇討ちにマーニャと旅立つんだ…。
翌朝私とマーニャはモンバーバラの街を離れた。
父親の仇討ちの旅に…。
私はミネアではないが外見はミネアなのでマーニャは普段変わりなく話しかけてくる。どうやらバレていないようだ。まさか外見がミネアで中身は別人だなんて理解していないとは思うが。
私はゲーム内のミネアの言葉使いを思い出しながら言葉を選ぶ。姉ちゃんと呼んできた私に姉さんと呼ぶのは照れがあるがそれは慣れだ。
性格もちゃらけた姉をみるしっかりものの妹のように。
私たちはモンバーバラを離れ、モンスターと戦いながら北へ向かう。途中生まれ故郷コーミズに寄り、飼い犬のペスタと戯れたり洞窟に潜り父さんの弟子のオーリンを仲間にして…とゲームでいう第四章をリアルに体験してゆく。


632 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/12/28(金) 02:21:18 ID:MTVm6yA+O
私はこの物語の結末を知っている。私にとってこの旅はドラクエとしてプレイした『ゲーム』だからだ。
これから何処へ行き、誰と対面して敗れ、逃げるようにして何処へ行くのか…。
だからこそ岬の御告げ所の占い師にあなたはこれから先を視ていると指摘されたとき頷いた。マーニャはそのことに驚いていたが私は冷静であった。
「そう、分かっていた。今の私たちではバルザックに勝ち目のないこと…ううん何でもないの。姉さん」

そして、本懐を遂げられないまま私たちは大陸を離れる―――。



633 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/12/28(金) 02:23:51 ID:MTVm6yA+O
私たちはエンドールで暮らすことになった。世界の中心地。大都会エンドール。
ここで私たちは劇的な出逢いを果たすことになる。それがいつになるか分からない。だが待たなければならない。それまでに生活もしなければ食べていけないので仕事をしていた。
占いが好きで自分で占いをするようになってから実は恥ずかしながら占い師になりたいとは思っていた。
だが現実は厳しいもので得られる金額が微々たるものと知ると副業にするには良いがそれだけではご飯は食べれないと。
副業といっても現実世界では本業が忙しく副業にまで手が出せないのでせめて趣味でと占いをしていたのだが。
都会で人が多いからなのか、占いの腕がいいからなのか。連日お客は途切れなかった。
外見は違うけど中身は私。占い一本でごはんが食べれるようになり夢が叶った。仕事は大変でも好きなことをしていく苦労は辛くなかった。
エンドールで生活をして数ヶ月たったある日。その日はやって来た。絶望に打ちひしがれた顔でこの都会をさ迷う緑髪の青年。勇者と定められた者の姿を。


634 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/12/28(金) 02:25:12 ID:MTVm6yA+O
勇者を加え、エンドールを離れ、私たち姉妹の旅はまた始まる。旅の途中同じ光を持つ仲間たちを導く。
最後の戦士を迎える為に私たちは大陸を渡る。故郷の地。再度踏むことが出来た。
二人では不可能だったことが仲間を得てようやく叶った。本壊を遂げられた。仲間たちは我が身のように喜んでくれた。今度は私たちが皆にお返しをしてゆく。
旅の仲間は面白い人たちばかりだった。時には深い話しもした。深い話しが出来るほど仲間たちの絆は深まっていた。
だがやはりマーニャ以上にはなれない。
それは血の繋がった二人っきりの姉妹だからなのか。旅の仲間たち以上に長い時間を過ごしてきたからなのか。
ミネア一人では仇討ちを決意しなかった。性格上泣き寝入りしていただろう。姉が、マーニャがいたから、行動に移すことが出来た。
それはきっと―――マーニャも同じだっただろう。
苦労した。だけどそれ以上に笑顔で旅が出来た。あんな散々に姉のことを愚痴っていたけどそれは愛嬌。他者がマーニャのことを悪く言ったらミネアは怒り狂っているかもしれない。
私は…ミネアは…悔しいけれど…マーニャが大好きだった。
それは…真逆の性格をした私の姉に対する感情と同じだった。


635 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/12/28(金) 02:28:58 ID:MTVm6yA+O
旅を続け、大いなる運命に導かれ、私たちは最後の戦いに挑む。

マーニャは火炎呪文メラゾーマを唱え、巨大な火炎球を進化の秘法を使い進化した巨大な敵にぶつける。
敵は開口し冷たく輝く息を吐いた。
「フバーハ!」
私はすかさず光の粒子の衣で仲間を守る。
「ありがとミネア」
マーニャがウインクした。
「進化の秘法は父さんのものよ。あんなものに悪用されてたまりますか!」
マーニャは再度メラゾーマを唱えた。
私は回復呪文ベホマを唱え、仲間の傷を全快する。回復呪文で傷を癒すのが私ならば精神的なフォローをしていたのはいつもマーニャだった。そして今日も。
以前から思っていた。この戦いが終わったらもしかしたら私、元の世界に帰還するんじゃないかって。だってこれで『ゲーム』は終わりだもの。
隣で攻撃呪文を舞うように放つマーニャ。そこにいるのはマーニャなのに、何故だろう。自分の姉ちゃんに見えてしまっていた。
「姉さん…」
「こら、これは戦いよ。ぼっとしている間もないわ!」
「姉ちゃん!」
マーニャは驚愕した顔だった。
「姉ちゃん、わたし、姉ちゃんが結婚してもずっとずっと好きだから。喧嘩しても、離れてしまっても。だって、二人っきりの姉妹だもの!」

636 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/12/28(金) 02:30:18 ID:MTVm6yA+O
私は何を口走っているんだろう。だけど言わずにはいられなかった。
マーニャは私を見つめ…そしていつものように笑った。
「あたしもミネアがいて良かったよ。ありがとう。結婚して離れてもあたしたちはずっと一緒よ」

まだ感傷に浸るのは早いわ。さぁ、片付けちゃいましょとマーニャは再度メラゾーマの呪文を紡ぎ出した。

私たちは敵を倒した。魔族と人間の戦いに人間が勝った。
父エドガンが発見した進化の秘法は私たち姉妹が奪回し封印した。
マーニャはまたモンバーバラのステージを踏んだ。私はまた占いを始めようとしていた。そこで…記憶は途切れた。
…私はどうやら夢を見ていたようである。現実と間違えてしまいそうな長い長い夢を。
部屋の中は真っ暗。今日が休みだとはいえ一日潰して夜まで寝込んでいたようである。身体を伸ばすと間接がパキポキ乾いた音を立てた。
携帯をチェックする。メールが届いていた。姉ちゃんからだ。久々だ。


637 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/12/28(金) 02:33:24 ID:MTVm6yA+O
『おひさー。元気でいる?あたしは元気だよっ。別に用事はないんだけどさ、夢にあんたが出てきたんだ。だからどうしているかなって』
更に続く。
『昔ドラクエに出てきたモンバーバラの姉妹っていたじゃん?あたしが姉のマーニャであんたがミネアになっているの。それで最後の敵いるじゃん。その時ミネアが姉ちゃんってあたしに話しかけるの。姉ちゃん好きだって。なんだかすんごくリアルだったんだ』
え…もしかして…。
姉ちゃんの告白に私は驚きを隠せない。
『離れてしまっても、ずっと思っている。だって、二人っきりの姉妹だもの』
姉ちゃんには、私も同じ夢を見たよとメールを打ち返した。

―――了―――

投下しました。連投や文章が途切れてしまい散々でした。ごめんなさい。今度は気を付けます。読んでくれた人ありがとう。

638 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/12/28(金) 06:44:30 ID:kjslZuu70
乙です。

次スレ立ててきます。

639 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/12/28(金) 06:52:59 ID:kjslZuu70
立てました。

もし目が覚めたらそこがDQ世界の宿屋だったら12泊目
ttp://game13.2ch.net/test/read.cgi/ff/1198792331/l50

640 :作り合わされし世界・外伝 ◆8fpmfOs/7w :2007/12/28(金) 06:57:11 ID:kjslZuu70
・タロウの犬活躍

「ジロウ聞いて。僕の大冒険した物語を!」
「冒険なんてどこでしたのタロウお兄ちゃん。」
「不思議な世界だよ。僕はそこでお嫁さんまで貰ったんだ!」
「わー! お兄ちゃん現地妻ゲットだね!」
「ジロウ、どこでそんな言葉覚えたの?」
「それでそれで、その世界でどうしたの?」
「いろんな人や犬に助けられていろんなところを冒険したよ。」

「知らない人ばっかりで寂しかった?」
「はじめはね。でもみんな親切だったよ。それにね。」
「それに?」
「しなのさんとヨウイチさんっていうこっちの世界の人もいたんだ。」
「お兄ちゃんと同じようにその世界に行っちゃったんだね。」
「そうみたい。それでね、僕はその世界で石版を手に入れたんだ。」
「石版?」
「うん。それでおうちに帰れるっていう話だったからね。」
「ふーん。不思議だねー。」

「でもね。石版で帰れるっていうのはサクヤって人の嘘だったんだ。」
「えー、悪い奴だね。」
「しかもね、石版は魔王を復活させるためのものだったんだ!」
「怖いよぉ! でも、魔王って何?」
「凄く悪い奴だよ。僕が吠えたおかげで復活を阻止したんだぞ。えっへん!」
「お兄ちゃんすごいねー。」

641 :作り合わされし世界・外伝 ◆8fpmfOs/7w :2007/12/28(金) 06:58:13 ID:kjslZuu70
「それからみんなでサクヤと戦ったんだ。酷いんだよ。嘘ばっかりつくんだ。」
「サクヤというよりヤクザだね。」
「最初は仲間の振りをしていて最後に正体を現したんだ。」
「飼い主に手をかまれるとはこのことだね。」
「そうだね。……あれ、ちょっと違わない?」
「そいつはお兄ちゃんがやっつけたの?」
「やっつけたのは勇者さんたちだよ。でも僕も活躍したんだぞ。」
「魔王は復活しなかったんだね。」
「ううん。最後は魔王が復活して僕はこっちに帰ってきたんだ。」
「なにそれー。」
「あのね。魔王は勇者に倒されなきゃいけないんだって。」
「うーん、不思議な世界は複雑だね。」
「魔王が復活して全てが元通りになって僕も帰ってこれたんだ。」

「ところでさお兄ちゃん。」
「なんだいジロウ。」
「お兄ちゃんが吠えなきゃもっと簡単に帰ってこれたんじゃないの?」
「駄目ー! それは言っちゃ駄目なの!」

642 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/12/28(金) 14:02:05 ID:oCswVue70
>>639
スレ立て乙!

なんというほんわか後日談(*´Д`)
しなのさんやヨウイチさんもアレンやドラオの事思い返しているのかな…

643 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/12/28(金) 22:41:22 ID:YhkjIkomO
埋め

644 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/12/29(土) 22:44:28 ID:RijOQ0BPO
アリスちゃん出ておいで〜

645 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/12/29(土) 23:21:52 ID:SW0lqWxmO
残り少ないから厳しいかもな
今年もこのスレにはお世話になったな〜

646 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/12/31(月) 12:31:04 ID:y7GL1IO30
「今年ももう終わりだね」
「何勘違いしてるんだ! 俺の2007年はまだ終了してないぜ!」

647 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/12/31(月) 18:06:56 ID:y7GL1IO30

  ∧_∧   / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 ( ´・ω・) < 目が覚めたらドラクエ世界の宿屋だったよ
 ( つと )   \___________________
 と_)_)



  ∧_∧   / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 ( ´・ω・) < 仕方ないから魔王を倒しに行くよ
 ( つと )   \_______________
 と_)_)

648 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/12/31(月) 18:07:58 ID:y7GL1IO30
∧_∧ コソーリ
( ´・ω・)
( つ  つ◇
._    ∵パラパラ
|毒|    旦
. ̄


∧_∧
( ´・ω・) 魔王様、お茶が入りましたよー……。
( つ つ ∫
と_)_) 旦

649 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/12/31(月) 18:08:59 ID:y7GL1IO30
  _, ._
  ( ゚ Д゚)   イタダキマス
  ( つ旦O
  と_)_)

    _, ._
  ( ゚ ◎゚)   ズズ…
  ( ゙ノ ヾ
  と_)_)

    _, ._
  ( ゚ Д゚)   …………
  ( つ旦O
  と_)_)

    _, ._
  ( ゚ Д゚)   ガシャ
  ( つ O. __
  と_)_) (__()、;.o:。
          ゚*・:.。

      _ _  ξ
    (´   `ヽ、     __
  ⊂,_と(    )⊃  (__()、;.o:。
                  ゚*・:.。

650 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/12/31(月) 18:10:26 ID:y7GL1IO30

 ∧_∧   / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 (´ ・ω・) < 世界が平和になったよ
 ( つと )   \_______________
 と_)_)

651 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/12/31(月) 18:39:38 ID:BcpUj+sSO
埋め乙

652 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/12/31(月) 20:06:08 ID:fbAEu9tn0
 └(´・ω・`)┘
ミ\丿('A`)\ノミ
   ┌V┐
   彡  ミ

653 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/12/31(月) 21:57:38 ID:y7GL1IO30
        , -‐―― 、
      /O      ヽ、 ,-、
     /r‐,         V l
    // /         L_ `ー-、     / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
   ///, '⌒ヽ /⌒ヽ   \\ ヽ   / 11泊目は終わりだよ
  / し' ( ○ l l ○ )    ヽ l  l  <   12泊目もよろしくね
 l     `ー‐'  `ー '     l .|  |   \_________
 ヽ、    (`ー―'⌒)     ノ /  l
   `ー-、_ニ二二ニ-―=ニ二/ /
     _ノ _/ ∧ l ヽ` 、___ノ
    (  (/ /l .l ∧  iヽ、`、
     ) l l 〉' 人ヽ l   ) ヽ
     し'l  V 入 V  l  / /
      L_/ / )l  / (__/
        し'  L|  l
           ヽ、_)

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