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もし目が覚めたらそこがDQ世界の宿屋だったら11泊目

1 : ◆Y0.K8lGEMA :2007/10/12(金) 00:35:18 ID:5ytk/+MG0
このスレは「もし目が覚めた時にそこがDQ世界の宿屋だったら」ということを想像して書き込むスレです。
「DQシリーズいずれかの短編/長編」「いずれのDQシリーズでもない短編/長編オリジナル」何でもどうぞ。

・基本ですが「荒らしはスルー」です。
・スレの性質上、スレ進行が滞る事もありますがまったりと待ちましょう。
・荒れそうな話題や続けたい雑談はスレ容量節約のため「避難所」を利用して下さい。
・レス数が1000になる前に500KB制限で落ちやすいので、スレが470KBを超えたら次スレを立てて下さい。
・混乱を防ぐため、書き手の方は名前欄にタイトル(もしくはコテハン)とトリップをつけて下さい。
・物語の続きをアップする場合はアンカー(「>>(半角)+ 最後に投稿したレス番号(半角数字)」)をつけると読み易くなります。

前スレ「もし目が覚めたらそこがDQ世界の宿屋だったら九泊目」
ttp://game13.2ch.net/test/read.cgi/ff/1185925655/

PC版まとめ「もし目が覚めたら、そこがDQ世界の宿屋だったら」保管庫@2ch
ttp://ifstory.ifdef.jp/index.html

携帯版まとめ「DQ宿スレ@Mobile」
ttp://dq.first-create.com/dqinn/

避難所「もし目が覚めたら、そこがDQ世界の宿屋だったら」(作品批評、雑談、連絡事項など)
ttp://coronatus.sakura.ne.jp/DQyadoya/bbs.cgi

ファイルアップローダー
ttp://www.uploader.jp/home/ifdqstory/

お絵かき掲示板
ttp://atpaint.jp/ifdqstory/

501 : ◆YB893TRAPM :2007/12/12(水) 20:12:34 ID:VEX62hOd0
これで終了です。支援ありがとうございました。


そして、最終章について合作掲示板からお知らせがあります。

『合作の最終章は前半を15日21時から、後半を16日21時からそれぞれ投下される予定です。
 連投規制に引っかかる可能性があり規制が解除されるためには時間の経過が必要です。
 途中で長い時間書き込みができないことがあるかもしれませんが必ず投下します。
 そのため投下に時間がかかる可能性がありますが、ご理解とご協力をお願いします。』

502 :癒しの魔法 ◆2yD2HI9qc. :2007/12/13(木) 23:15:38 ID:POSLSzJc0
恋をする男が一人居た。
男はドラクエ世界の宿屋で目覚め、そのまま暮らしていた。
相手の女は僧侶で、一生懸命にべホイミを練習している。

男は彼女の気を引きたかった。
素直な彼女はいつも人に囲まれていた。
やっと、一人になったのを見計らい話しかけ、約束をする。

男は約束に備え彼女が練習していた魔法を習得した。
時間が足りず、それしか習得できなかった。
それでも、実際の魔法を見せて喜んでもらえると思い、努力した結果だった。

彼女の気持ちは、わからなかった。
毎日、少しでもわかってもらおうと合間を見てほんの少しだけれど会話した。
時々は一緒に話しながら帰った。

男は怖かった。
約束の日に自分の気持ちを伝えようと思っていた。
不安だった。
今の関係が無くなってしまう事が、とにかく恐ろしかった。
約束したことを後悔したこともあった。
けれども、決めたことだからと毎日を精一杯過ごした。

503 :癒しの魔法 ◆2yD2HI9qc. :2007/12/13(木) 23:17:15 ID:POSLSzJc0
とうとう約束の日の朝。
目を覚ますと現実世界の部屋に居た。

男は、複雑な気持ちだった。
彼女に振られ、その関係が壊れる事はなくなった。
けれど、その彼女に気持ちを知ってもらうことも、彼女の気持ちを知ることもなくなった。

男はつぶやく、べホイミと。
体中が暖かくなり、心が少し癒される。

男はもう二度と、彼女と会うことも魔法を唱えることもなかった。
これからずっと、焦がれた笑顔を取り戻すことは出来なかった。

504 :癒しの魔法 ◆2yD2HI9qc. :2007/12/13(木) 23:17:50 ID:POSLSzJc0
おしまい。

505 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/12/13(木) 23:41:36 ID:n/ANQ/5+0
約束の日に、元の世界に戻ってしまうとは、なんという運命のいたずら。
でも、その男の人が、彼女のために頑張った日々は、無駄ではないと信じたいですね。
ちょっとほろりと切ないお話ありがとうございました。

506 :タカハシ ◆2yD2HI9qc. :2007/12/14(金) 07:46:53 ID:Omo+nHq70
>>505
切なくなってくれてありがとうございます。
少し雑ですが、電車に乗っている人たちをみて思いつき、書きました。

そして、朝から修正します。
>>503
の最後の行は
「これからずっと、焦がれた笑顔を取り戻すことも見つけることも、しなかった。」
へ変更です。

では。

507 :作り合わされし世界 ◆ODmtHj3GLQ :2007/12/15(土) 21:03:35 ID:OGexf1c80
●作り合わされし世界〜最終章〜

人が通るには十分な高さと広さを持つ通路が真っ直ぐ続いている。
壁の上部には訪れし者を案内するかのように松明が焚かれていた。
等間隔に並べられているため、幸いにも視界の確保には困らなかった。

  「……」

それでも一人で歩くには心もとないくらいに薄暗いのは否めない。
さらに出口が見えないという事も不安の種になる。
恐ろしく長い距離を歩かねばならない洞窟なのかもしれないのだ。
だがそれでも彼女は進まなくてはいけない。
この先に神殿があるのは間違いが無いのだから。

  「お……」

手で壁を伝いながら足を運んでいると、少し俯きがちに歩いている人影に出くわした。
その後ろ姿は注意深くと言うよりは意気消沈といった感じに見えた。

  「やぁ、久し振りだな」
  「おぉ! モンスターかと思った……いきなり声かけるなよ」

知り合いに出会えた嬉しさからか、つい大きな声が出てしまう。
その声に振り返った男は、彼女にまったく気付かなかったようで少し後ずさる。

  「ん、すまなかった。しかしまた会えるとは思ってなかったもんだからな」
  「……? どこかで会ったか?」

その男、ヨウイチは彼女と一度だけ会話を交わした事があるのだが、
思考の対象が他に向かっていたためにすぐには思い出せなかった。
そんな様子を見て彼女の方からヒントを出す。

508 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/12/15(土) 21:06:40 ID:NtcNNcCf0
最終章投下開始wktk
いよいよ神殿ですね。
保守〜
しなのさんと再会どきどき。

509 :作り合わされし世界 ◆ODmtHj3GLQ :2007/12/15(土) 21:07:11 ID:OGexf1c80
  「ドラオとやらは一緒じゃないのか?」
  「あ、あぁ、今は一人なんだ……そうか、シエーナで会った?」

あぁと頷いて嬉しそうな表情をした後、彼女は残念そうに笑った。

  「何だ、今ならドラオとも仲良くできる自信があるのだが」
  「そう言えばドラオには嫌われてたっけ。あれから修行でもしたのか?」
  「まぁな!」

彼女はニヤリと自信たっぷりに笑う。
そこでヨウイチは彼女に尋ねなければならない事項があったのを思い出した。
が、まだ互いの名前も知らなかった事にも気付く。

  「そうだ、名前! 名前を教えてくれよ」
  「あぁ、失礼をしたな。しなのという。っと、敬語を使うべきかな?」
  「いや、気にしないでいいよ。俺はヨウイチ。ここに来たって事は石版を?」
  「あぁ、この先に神殿があると聞いてな。……これだな」

石版のかけらを互いに取り出して示し合わせてみる。
その二つだけではとても石版の元の姿を取り戻せそうになかった。

  「これで本当に元の世界に帰れるのか?」
  「いや、帰れるって!
   向こうと違ってここでは何が起こっても少しも不思議じゃないんだから」
  「そうか、それもそうだったな」

この世界で起こる出来事を特別に不思議なものだと感じるのは当人が異世界の人間だからだ。
そんな特有の反応を示すしなのの様子からヨウイチの推理はほぼ確信へと変わる。
つまり以前にしなのが何気なく言った「私の世界」という言葉が
自分の世界と同じなのではないかという疑問がようやく解けたという事だ。
しかし一安心したところでヨウイチはその疑問を持った時の事を思い出してしまった。

510 :作り合わされし世界 ◆ODmtHj3GLQ :2007/12/15(土) 21:11:00 ID:OGexf1c80
  「あの時ちゃんと聞いておけば……どうなったろう……」
  「ん? どうした?」
  (……ドラオの命は、もしそうしてたら変わったのかもしれない)

過ぎ去った過去とすぎようとする現実を対比し、ヨウイチはうつむいた。
そんな様子を見て、しなのは両手を軽く広げて何かを待つような仕草をした。

  「……ヨウイチ」
  「な、なんだ?」
  「いや、何だか元気がない様子だから抱きしめてやろうかと思ってな」
  「えぇ?! いい、いいよ!」
  「そうか? 寂しさが紛れるかもしれんぞ?」
  「寂しいっていうか……なんか、こっちがどうしていいのか困るよ」
  「そうか……それはすまなかった。
   ふぅん、素直になっても全てが上手くいく訳ではないんだな。難しいものだ」

それが何の事を言っているのか分からないが、
ちっともすまなさそうではないしなのにヨウイチは少し呆れる。

  (ここにいま、ドラオがいたらきっと楽しかったろうな……)

ついつい、ドラオと一緒だったらと考えてしまうヨウイチ。
あれからそれなりの時間を過ごしたはずなのに、再びその感情は甦る。
誰かの前でこんな調子ではいけない、とヨウイチは自分を鼓舞した。

  「しかしまた会えるだなんて思ってなかったな」
  「ヨウイチが私に会いたいと思ったからじゃないか?」

そんな事を話しながら洞窟を進んでいく。
すると幅の狭かった一本道が突然開け、小さな部屋へとたどり着いた。
その先へ続く道もそのまま正面に伸びているので、
ヨウイチはその部屋をそのままスルーして進もうとする。

511 :作り合わされし世界 ◆ODmtHj3GLQ :2007/12/15(土) 21:15:28 ID:OGexf1c80
  「ん……ヨウイチ」

呼びかけに振り向くと部屋の左手に赤を基調にデザインされた宝箱が置かれている。

  「おぉ、まだ誰も触ってないのかな」
  「私は宝箱というものを初めて見たよ」
  「開けてみてもいいか?」
  「あぁ、どうぞ。しかし赤いな」
  「なら近づかない方が賢明ですよ」
  「「……?」」

聞きなれない声がいきなり会話に割り込んでくる。
初めて聞く声に振り向くと、見知らぬ顔がこちらに向かって来るところだった。

  「それは赤いからなのか?」

何者なのかよく分からないが、ヨウイチはとりあえず思った事を口にしてみる。
宝箱が赤いから近づいてはいけない、という話がよく分からないし、
コイツが何者なのか知る為にもまずは相手の出方を見なくてはいけない。

  「神殿はこの先にあるのでしょう。
   ここまで来てわざわざ危険を冒す事はないと思いまして。
   モンスターが宝箱や壷に潜んでいる事も多いと聞きますから」

そんな事を言いつつ、自己紹介の為に手を差し出してきた。
その笑顔に害はなかった。

  「サクヤです。よろしく」
  「しなのだ」
  「ヨウイチです」

512 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/12/15(土) 21:16:28 ID:tIR5JtxU0
しえーん!かむばーっく

513 :作り合わされし世界 ◆ODmtHj3GLQ :2007/12/15(土) 21:19:03 ID:OGexf1c80
  「まぁすぐにお別れとなるかもしれませんがね」

と言ってサクヤは石版の欠片を取り出し、二人に見せた。
それを持っている者同士は仲間だと言いたいのだろう。

  「そうか、君も私達と同じだったんだな」
  「えぇ、色々大変だったでしょう?」
  「大変だなんてもんじゃなかったな……全く違う世界なんだから」

そうして二人はサクヤを加えて再び歩き出す。
三人はそれぞれにこの世界の事を語りながら互いを労ったのだった。
中でも、この世界が複数の世界が折り重なるようにして形成されている事や、
このままではこの世界が裂けてしまうかもしれないというサクヤの話は、
しなのとヨウイチを多少なりとも驚かせたようだった。

やがて洞窟を抜けて光に目が慣れるのを待つと、目の先に荘厳な神殿が現れた。
道が洞窟から神殿まで続いているのに目を走らせると、
湖や森が神殿を守るようにしてあり、さらに山々がそれを囲っているのが分かる。
鳥が頭上を羽ばたき、蝶々や虫たちが花畑を飛びまわっているのを横目に見れば、
ここが人の手の及んでいる場所ではない事は容易に理解できた。

緩やかなカーブが幾つか描かれている道を歩いていくと、
神殿の大きさが次第にはっきりとしてくる。
白一色で左右対称に造られていて、精密過ぎる程に精巧だった。
誰を招くためにあるのか分からない入り口は人の丈の五倍の高さを持っている。
もしかしたら神様は物凄く身長が高いからこのような造りになっているのかとも考えた。

  「ようやく着いたな……」
  「神様の宮殿、ってか。そんな感じするな」
  「さぁ入りましょう」

514 :作り合わされし世界 ◆ODmtHj3GLQ :2007/12/15(土) 21:21:58 ID:OGexf1c80
  「わんわんっ!」

神殿に入ろうとしたところに鳴き声が聞こえてくる。
振り返ると一匹の犬が元気良く駆けて来るのが見えた。

  「わんわん! わんわん!」
  「ワンコ!」
  「ゲレゲレ!」

しなのとヨウイチは同時に声を上げ、顔を綻ばせた。

  「おいヨウイチ! 私のワンコに変な名前をつけるな!」
  「いや、こいつはゲレゲレって言うんだ。自分でそう言ったんだから」
  「自分で? 喋ったのか?」
  「いや、夢の中でだけどさ」
  「ヨウイチ……いくらモンスターと仲良く出来るとは言え、
   私は君という人間が信用できなくなってきたぞ」

二人が会話してる中、犬のタロウは思った。

  (喧嘩はやめてよー!
   どうやったら仲直りしてくれるかな。
   そうだ。こういうときのための格言があるんだよね。
   夫婦喧嘩は犬も食わないって。
   ううー、なんだか犬を馬鹿にした言葉の気がする。
   それに食べてみたらおいしいかもしれないじゃないか!
   ああ、そうじゃなくって喧嘩を止めなきゃ!)

ワンワンと必死になりながらタロウはわんわんと二人に訴えかける。
しかしそんな行為も僕と遊んでくれという意味で二人には取られてしまう。
結果として二人の言い合いは止んだので、タロウの目論見は成功した事になった。

515 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/12/15(土) 21:23:31 ID:tIR5JtxU0
しぇーん

516 :作り合わされし世界 ◆ODmtHj3GLQ :2007/12/15(土) 21:24:52 ID:OGexf1c80
  「この犬の首輪に何か書いてありますね。これ、名前じゃないですか?」

サクヤの言葉にしなのがタロウの首輪に書いてある文字を見る。

  「タロウ、か。お前の名前はタロウなのか? ん?」
  「わん!」

その犬、タロウはしなのの言葉を肯定するように元気よく吠えた。

  「ゲレゲレ、じゃなくてタロウは嫁探しをしていたんじゃなかったのか……」

ヨウイチは一人つぶやく。
以前タロウとクリアベールで話した時は確かそのように言っていたと思ったのだが。

  (それとも嫁探しをしてからここに来たんだろうか……)

不思議な事が好きなヨウイチの興味は色々な意味で尽きなかった。
一方尻尾をフリフリしながら皆のやりとりを見上げていたタロウは、
会話が一段落したのに気付いたのか元気良くジャンプし、
しなのの細い脚に飛び込んだ。
以前レイクナバで会った時はしなのの付けている香水の匂いにつられたのだが、
今回はしなのの匂いをちゃんと覚えていたのだ。
香水の匂いとしなのの匂い。
その二つが良く混ざり合い、しなのという人に似合った香りになっている。

  「ペロペロペロペロ!」
  「ははっ、やめてくれ!」
  「何だ、今度は嫌われなかったな」
  「私は動物好きなんだがな。向こうが好いてくれないんだ。
   しかしこいつには良くしてくれて嬉しく思ってる」
  「わんわんっ!」

517 :作り合わされし世界 ◆2yD2HI9qc. :2007/12/15(土) 21:26:34 ID:EBpZQ6nb0
  「しかしここまで犬が来れた事が私には不思議に思えてなりません」
  「まぁ俺は再会出来たから嬉しいけどな」
  「この子はやらんぞ、ヨウイチ」
  「はっはっはっはっ」

タロウは自分と仲良くしてくれるしなのが好きだった。
そしてパタパタと飛ぶあの生き物がいなくなった今、ヨウイチともじゃれてみたかった。
だからせわしなく二人の間をピョンピョンと跳ねるのだった。
そんな姿が人に可愛く思われるのは、タロウが純心だからだろう。

  「私の勘が当たったようですね。異世界から招かれたものに犬が混ざっていた」

二人と一匹がじゃれつく間、サクヤは一人別の事を考えていた。

  「……何だそれは?」
  「いえ、占いでは石版を納める場所に人間以外の姿が見えたそうです。
   モンスターが現れるのかと心配していたのですが、どうやらこの子の事だったようです。
   そんな事より早く行きましょう。ゴールはすぐそこですよ」

いつまでも遊んでいそうな雰囲気に業を煮やしたのか、サクヤが皆を促す。
二人と一匹からしてみれば、ゴールだからこそ、という意識の方が強い。
今遊んでおかないともう会えないかもしれないのだ。
しかしそれは明確な言葉にはならなかった。
まだ旅が終わりだという実感はなかった。

神殿の中は長方形をした大きなホールになっていて、
綺麗に切り取られた白い石が隙間なく敷き詰められている。
壁には神々を模した彫刻や何かを表した壁画が描かれており、
それらが夕焼けによりオレンジ色に染まり、思わず立ち尽くしてしまうくらいに美しかった。

  「綺麗だな……」
  「あぁ……」

518 :作り合わされし世界 ◆2yD2HI9qc. :2007/12/15(土) 21:29:59 ID:EBpZQ6nb0
  「くしゅっ!」
  「ははw」

感激しているところにタロウのくしゃみが入り、思わず笑みがこぼれる。
神殿に入るのは躊躇われたが、そうも言っていられない。
厳かな雰囲気を壊してしまわないように音を立てないようにして歩いた。
段差を上がるようにして作られたホールの中央に何かのレリーフがある。
レリーフの形は直方体の台に額縁のようなものが乗せられていると言えばいいだろうか。
額縁の中に石版がはめられそうになっているところを見ると、あれが台座なのだろう。
しなの、ヨウイチ、タロウ、サクヤが台座を取り囲む。

  「やっと……やっとこの時が来たんだな……」
  「この額縁に石版をはめて完成させれば願いが叶うって訳か」
  「さぁはめていきましょう。それでこの裂けいく異世界も元通りですよ」
  「って事は俺らにとっても世界にとっても一石二鳥だな。
   まぁそれはいいんだけど、もう終わりかと思うとなんだかな……」
  「私ももう少し冒険しても良いと思ったがな」
  「くぅ〜ん……」
  「……じゃあ俺からはめてくよ」

ヨウイチが石版を少し緊張した面持ちで石版をはめ込む。
するとつなぎ目の部分が光を発し、二つの欠片が一つに繋がった。

  「すげぇ……」
  「さっきからヨウイチは驚いてばっかりだな」
  「凄いものは凄いんだから仕方ないだろ?
   しかし凄いな……この石版欲しいんだけど、貰えないかな?」
  「何を馬鹿な事を言ってるんですか。元の世界に帰りたくないのですか?」
  「う〜ん、悩ましいな」

本気で悩んでいるヨウイチにタロウとしなのは笑う。
しかしサクヤは一刻も早く帰りたいのだろうか、皆をしきりに急かした。

519 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/12/15(土) 21:31:06 ID:tuJeDFtQO
シエンタ!

520 :作り合わされし世界 ◆2yD2HI9qc. :2007/12/15(土) 21:33:10 ID:EBpZQ6nb0
  「どうしました? しなのさんも早くはめてください」
  「ん……あぁ、そうだったな。すまない」

コトリという音とともに石版がまた少しずつ形を取り戻していく。
終わりが近づいてくる。

  「めでたしめでたし、ってやつか」
  「ついにやりましたね。皆さんの冒険もこれでおしまいです」
  「ホントに短い間だったけど、これでお別れだな……」
  「ったく……今生の別れって訳じゃあるまいし」
  「また会えるさ。向こうの世界でな」
  「そうだな。 それまでのバイバイだ」

次にタロウの石版をはめ込めばちょうど完成するようだった。

  「さぁ次はタロウの番だな」
  「タロウの石版は私がやりましょう。さあ、こっちに渡して下さい」

タロウでは石版をはめる事が出来ないので、サクヤが気を使う。

  「うー! グルルル!」

しかしタロウはサクヤを威嚇するようにして唸りを上げた。

  「何だ? 今度はしなのじゃなくてサクヤが嫌われたのか」
  「タロウはあらゆる動物から嫌われ続けた私に懐くような犬だぞ……」

面白がるヨウイチとは対照的にしなのの顔が険しくなる。
途端にサクヤの様子が気になってきたからだ。

521 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/12/15(土) 21:36:41 ID:PU87BjKL0
しえん

522 :作り合わされし世界 ◆2yD2HI9qc. :2007/12/15(土) 21:37:10 ID:EBpZQ6nb0
  「サクヤ、赤は危険な色だな?」
  「えぇ、そうですね」
  「じゃあ皆で渡れば怖くないものは何だ?」
  「……橋、ですね。
   先にモンスターがいると分かっているような危険な橋を渡るのも、
   皆で渡れば怖くないという意味でしょう」

サクヤの答えと自分の思っている事が違ったのでヨウイチは頭をかしげた。

  「え? 赤信号だろ?」
  「シンゴウ……?」

逆にサクヤはヨウイチが発した聞きなれない単語に顔をしかめる事になる。

  「なあサクヤ。さっき君は『皆さんの冒険はこれでおしまい』と言ったよな」

信号という言葉を知らない、という事が意味するところのものは一つしかない。
そう考えたしなのは、静かにサクヤに詰め寄った。

  「なぜ『私たちの冒険』と言わなかったのだ?」

痛いところをつかれたサクヤはうつむき、肩を震わせた。

  「……ふっ……っく……」
  「サクヤ……?」
  「ハハハハハハハハハ!!
   ……やれやれ。ばれちゃったみたいですね」

少しも困った様子を見せず、むしろそれを楽しむかのように呆れて見せる。
サクヤの声はまだ冷静なものだった。

523 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/12/15(土) 21:39:55 ID:tIR5JtxU0
wktkしえん

524 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/12/15(土) 21:40:30 ID:m7yCgfe5O
シエンナギロリー

525 :作り合わされし世界 ◆2yD2HI9qc. :2007/12/15(土) 21:41:03 ID:EBpZQ6nb0
  「宿屋で私が目覚めた部屋には三人の人間がいました。
   事を荒立てたくなかったので彼らの前では正体がばれないように振舞いました。
   話を聞く限り腕が立つようでしたからね。
   とんでもないところで目覚めたものです。
   でもまぁ、結局彼らに協力してもらうことでその力を逆に利用してやりましたよ。

   今はついつい油断してしまったようです。
   匂いが漂ってしまったのでしょう。
   ところでその部屋にはその彼ら三人以外の人間はいませんでした。
   どういう意味だか分かりますか?」

サクヤは舞台で役を演じるがの如く振る舞い、そしてクイズを出すかのように言った。

  「……つまり、お前は人間ですらないということか?」
  「くくく……正解です」

そう、サクヤはヨウイチ達と同じ世界の人間ではなかったのだ。

  「お前の目的は何だ!」
  「目的? 皆さんと同じですよ。石版を完成させる事です」

サクヤがおかしそうに言う。

  「実はこの石版には魔王が封印されているんですよ」
  「ま、魔王……?」

魔王という言葉にヨウイチは戦慄を覚える。
この世界に居る今の状況であってもそれは現実離れしている話だ。

526 :作り合わされし世界 ◆2yD2HI9qc. :2007/12/15(土) 21:44:16 ID:EBpZQ6nb0
  「昔々、全世界を我が物にしようと考えた一人の魔王がいました。
   彼の圧倒的な力に多くのモンスターが賛同し、世界制覇は目前でした。
   しかしある時、この世界を作った神様が魔王の非道を阻止するため、
   その存在を石版に封印してしまったのです。
   呆気なく封印されてしまった魔王にモンスター達は失望の色を隠せませんでしたが、
   中にはそれでも魔王を慕おうとする者もいたのです。
   その者は魔王の封印を解く事を決意しました。

   石版の封印をとくためには一度石版をばらさなければなりませんでした。
   それには強大な力が必要でした。
   異世界から誰かを召喚するときに発生するような力が……
   崩壊していくこの世界の、さらに外にある世界から召喚する時に生じるような、ね。
   私自身もその力によってずいぶん遠くまで飛ばされてしまいましたよ。
   まさか石版を壊す事で世界がこのようになるとは思いもしませんでしたし」

サクヤの口から次々に真実が語られていく。
その言葉をすぐには受け入れる事はできなかった。

  「だから私達をこの世界に……」
  「ちょっと待てよ!! 石版は帰る為にあるんじゃないのか?!」
  「ふふふ……
   石版を集めることで元の世界に戻れるという噂を流したのも私ですよ。
   嘘に夢を見る気分はいかがでしたか?」

サクヤは種明かしをする事が心底愉快だといった感じで楽しそうにしゃべる。

  「俺達はお前の操り人形だったというわけか……」
  「人形を操るなど造作もない事ですよ。
   しかしこうして石版を見事に揃えてまで頂けるとはね。
   くっくっくっ……
   私は本当にあなた達に感謝しています。
   まんまと噂に乗せられ我が主の復活への手助けをしてくれたのですから」

527 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/12/15(土) 21:44:25 ID:tIR5JtxU0
♪ドーはドラクエーのド(中略)シーはしえんのシー

528 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/12/15(土) 21:46:19 ID:tuJeDFtQO
サクヤ…

529 :作り合わされし世界 ◆2yD2HI9qc. :2007/12/15(土) 21:47:10 ID:EBpZQ6nb0
つまり石版で願いが叶うというのはサクヤが作り出した嘘だったのだ。

  「ところであなた達はどうやって帰るつもりなのです?」
  「どうって……」

石版が魔王を復活させる為のアイテムと判明した今、
確かにしなの達が元の世界へ帰る術はなくなってしまった。
いや、騙されていたのだから元から帰る方法など無かったと言っていいだろう。

  「ですがまだ希望はあります。私があなた達の召喚者であるという事ですよ」
  「どう、いう……」
  「私なら元の世界へ送り返す事が出来る」

分からない話ではなかった。
一方的に呼ぶ事しか出来ないのであれば中途半端だと言わざるを得ない。
封印された魔王を復活させる事が出来るなら、サクヤの言う通りの事も出来るはず。
しかし、

  「ただし素直に石版を渡してくれればの話ですがね」

こうなる。
敵であるサクヤが無償のボランティアをする訳がない。

  「せめて選択させてあげましょう。
   石版を渡して帰るか、ここで死ぬか」

ククク、と笑い声をあげるサクヤ。

  「ふざけるな! お前の片棒を担ぐなんて私は嫌だ……!」
  「わんわん!!」

530 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/12/15(土) 21:49:13 ID:m7yCgfe5O
晴れた空シエンタ♪

531 :作り合わされし世界 ◆8fpmfOs/7w :2007/12/15(土) 21:49:52 ID:rXAxpJvy0
ヨウイチとしなのがうなだれている間、タロウは警戒し続けていた。
石版をはめるにしたがってサクヤの邪悪な心が増大していくのをタロウは感じていたのだ。
怖いものから人を守るのが犬の役目。

  (たっぷりと甘えさせてくれたしなのとヨウイチは僕が守らなきゃいけないんだ!)

だからタロウは一生懸命にサクヤを睨みつける。
その小さな体を精一杯に強張らせて、二人の盾になるようにしてサクヤを威嚇した。
しかしサクヤはタロウのそんな様子にも構わずに言う。
端から気に留める対象に数えていないのだ。

  「ほぅ、戦うのですか?
   たった二人の人間と畜生一匹で私を倒せるなどと本気で思ってるのですか?」
  「やるしかないだろう? 仕方なくても、な」
  「うぅ〜!!」
  「いや、アイツの言う通りだ。 俺達が敵うとは思えない……」

ヨウイチはタロウとしなのの意気込みを打ち消すかのように言う。

  「ヨウイチ? じゃあどうするんだ!」
  「……ここはタロウにかける」
  「タロウに……?」
  「要は石版が揃わなければいいんだろ。
   俺達で時間稼ぎをしてる間にタロウには石版を持ってここから逃げてもらう」
  「しかし……」
  「タロウ、やってくれるよな?」

しかしタロウはウゥーと拒否の意を示す。
逃げてしまったら二人を守る事が出来ないからだ。
ましてやこの場に置いて行く事なんて出来るはずがない。

532 :作り合わされし世界 ◆8fpmfOs/7w :2007/12/15(土) 21:52:56 ID:rXAxpJvy0
  「そう言うなよタロウ。
   ついでに助けを呼びに行ってくれればいいんだ。
   そしたら俺達はお前に守ってもらえた事になる。
   それにこうして再会出来たのも何かの縁だろうしな。
   絶対に皆で帰れるさ」

タロウの頭をクシュッと撫でてやると気持ち良さそうに目をつぶった。
それでタロウは行く決心をする事が出来た。

  「わん!」
  「よしタロウ、これを」

しなのは荷物の中から素早さの種を取り出し、タロウに与えた。

  「行け! 走れタロウ!!」

ヨウイチがサクヤに向かってダッシュすると同時にタロウは神殿の入り口へと駆けて行く。
サクヤはすかさず爆弾岩の欠片を投げ付け、神殿に入り口を壊して逃げ道を封鎖しようとした。
しかしヨウイチの振りかざした破邪の剣に一瞬気を取られて投げ遅れる。
タロウの姿は堅い造りの壁が瓦礫となって崩れ落ちる中に消えて行った。

  「タロウ……無事で……」
  「ぐわっ!! いてて……しなのも手を貸してくれよ……」

しなのはタロウの安否を心配し、ヨウイチのサポートを怠ってしまったのだ。
サクヤに吹き飛ばされたヨウイチの鎧の肩の部分は防具として意味を成さなくなった。

  「おっと、すまない。しかしヨウイチはタロウの言葉が分かったのか?」
  「いや……タロウにも言葉が通じれば良かったんだけどな」

ドラオと同じように、という思いは口には出せなかった。

533 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/12/15(土) 21:54:17 ID:m7yCgfe5O
試演

534 :作り合わされし世界 ◆8fpmfOs/7w :2007/12/15(土) 21:55:57 ID:rXAxpJvy0
  「よしヨウイチ、お詫びにこれをやろう」
  「これをやろうって、薬草じゃないか」

薬草で詫びるというのがヨウイチにはよく分からなかったが、
サクヤに吹っ飛ばされて痛かったのでとりあえず食べておく。
するとボリボリと何か堅い感触が口に広がった。
これは何だ、とヨウイチはしなのに目で問いかける。

  「しなのちゃん特製薬草だ。
   命の木の実とスタミナの種と不思議な木の実と――」
  「分かった分かった……あぁまずい……
   しかしなぁ、
   本当にサクヤが俺達とは違う世界に帰りたいだけだったらどうするつもりだったんだ?」
  「……鎌をかけるっていうのは得てしてそんなもんだ」

それにタロウが無意味に吠えるとは思えない、としなのは考える。
動物の方が危機を察知する能力に優れている場合もあるのだから。
しかしヨウイチにはそんなしなのの言い草に頷く事しかできない。
誰かを試したりする事には慣れていないのだ。

  「ふぅん……なぁ、聞いていいかな」
  「なんだ?」
  「元の世界へ戻ったら最初に何をしたい?」
  「ヨウイチ。 今はそんな事を――」
  「俺はもう決めてあるんだ」

ヨウイチはしっかりと前を見据えながら、はっきりと言った。
その目には明確な意思が宿っているように見えた。

  「そうか……参考までに聞かせてもらえないか」
  「暖かい布団に包まりたい」
  「……すぐ叶うと思うぞ」

535 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/12/15(土) 21:57:32 ID:HgWY4szx0
しまった来てたか支援

536 :作り合わされし世界 ◆8fpmfOs/7w :2007/12/15(土) 21:58:05 ID:rXAxpJvy0
そう言った後にクスリと笑って、それは良い案だとしなのも思い直す。
ヨウイチとしなのはサクヤを神殿から出させないようにするため、武器を構える。
破邪の剣と炎のブーメラン。
使いこなすにはまだまだ慣れない二つの新しい武器だ。

  「そうですか、それがあなた達の選択なら仕方ありません」

サクヤは爆弾岩の欠片を手で軽くもてあそび、懐にしまい直す。
この二人が死を望むなら殺してやろうと決めた。
武器を一つ取り出し、その重さを確かめるようにした。
身長の1.5倍はありそうな槍だ。

  「さぁ、どこからでもどうぞ?」

友人を招くかのような仕草で両手を広げる。
しかししなのたちには迂闊に切り込む事が出来ない。

  「あの武器、分かるか?」
  「いや……」

見た目だけで判断出来ないという言葉が身に染みて分かるこの世界。
その武器が本来の槍の役割しか果たせないのかどうかが分からない。
何らかの呪文効果を発揮する力を持っているかもしれない。

  「なぁサクヤ、君はどうして魔王を復活させようと思ったんだ?」
  「おいおい、それこそ今はそんな事を聞いてる場合じゃ――」

ヨウイチの制止に、時間稼ぎだとしなのはつぶやく。

  「魔王を復活させる理由、ですか。変な事を知りたがるんですね」

537 :作り合わされし世界 ◆8fpmfOs/7w :2007/12/15(土) 22:00:07 ID:rXAxpJvy0
サクヤはその質問の答えを面白そうに考えながら、槍を器用に回し始めた。
右手を中心にしてバトンの様にクルクルと綺麗な円を描く。
変な質問に答える余裕がサクヤにはあるのだ。

  「逆に魔王がいない世界こそが異常だとは思いませんか?
   そう考えれば私の行動に疑問を挟む余地などないはずです」
  「そんな訳ないだろう。この世界は明らかにおかしい、皆そう言っている!」
  「それに俺達の世界には初めから魔王なんていないしな」
  「しかし先ほどあなた達は私の言う事に参加してくれたではありませんか」
  「……え?」

何の事を言っているのか思い当たらないしなの達は思わず疑問の声をあげる。

  「"裂けいく異世界"
   この暗示的な言葉に真相は隠されていたのです。
   この文字を石版のように一度ばらばらにして集めなおす……
   するとどうですか。『再生計画』という言葉が出てくるでしょう?
   元通りにするとはそういう事ですよ」
  「それは、どういう――」

サクヤの言っている事を理解する前に、クラッと頭が揺らぐ。
慌てて頭を抑えれば、サクヤが何人もそこに立っているのが見えた。

  「マヌーサ。幻惑の中に死に行くのもロマンチックかもしれませんね」

揺らめく視界の中で、何人ものサクヤが一斉に襲い掛かってくる。
サクヤの手の中で回されていた砂塵の槍が見せた幻だ。

  「く……くそーっ!!」

ヨウイチは破邪の剣を使い、ギラの炎を辺りに撒き散らす。


538 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/12/15(土) 22:01:32 ID:m7yCgfe5O
支援

539 :作り合わされし世界 ◆8fpmfOs/7w :2007/12/15(土) 22:02:12 ID:rXAxpJvy0
しなのも炎のブーメランを投げ、火の弧を自身の周囲に描き、身を守った。
それでマヌーサの効果を打ち消す事に成功する。

  「クク……」

しかしそれでサクヤの攻撃が止む訳ではない。
サクヤは既に砂塵の槍から氷の刃へと武器を持ち替えており、
その炎を全て氷付けにしてしまった。
ヨウイチ達の持つ武器が炎系の効果を持つ事を見越していたのだ。
触れれば肌を切り裂いてしまうであろう氷塊をすり抜けてサクヤがヨウイチに迫る。
その動作は素早いと言うよりは、的確な攻撃だった。

金属のぶつかり合いと共に熱気と冷気が互いを侵食しようと激しく絡まりあった。
飛び散る火と氷の粉がサクヤとヨウイチの顔に傷を作った。
鍔迫り合いをしているところへ、しなのが背後から足払いをかけてサクヤの体勢を崩す。
足元をすくわれたサクヤは棒のように後ろへと倒れていく。
その隙を逃すまいとヨウイチは破邪の炎で氷の刃の刀身を溶かし尽くしてしまった。
そのままの勢いで剣をサクヤの顔に振り下ろす。

  「さて」

サクヤはそれでも慌てずにもう一本の剣を目の前に広がる炎にかざした。
さざなみの剣。
その剣身から光が漏れてギラを跳ね返す。
反転、直撃。
ヨウイチの皮の鎧はよく燃えた。

  「ぐわああああ!!」
  「ヨウイチ!!」

駆け寄ろうとしたしなのの背中にサクヤは切り付け、大きな傷を付けた。
血が倒れたしなのの皮膚を濡らしていく。

540 :作り合わされし世界 ◆8fpmfOs/7w :2007/12/15(土) 22:04:17 ID:rXAxpJvy0
どんな状況でも慌てずに冷静に対処していく強さがサクヤにはあった。
自分は決して戦闘が得意ではないが、
それにも劣るこの人間達の弱さにサクヤの頭脳は疑問を浮かべざるをえない。

  「そんな力量でよくこの神殿までたどり着きましたね。
   やはり運命というものがそうさせたのでしょうか」

サクヤの言う運命とは、魔王が復活するという事象に他ならない。
その事象を実現しなくてはならないという必然性があったからこそ、
自分の計画は上手くいったのだし、この人間達はここまで来れたのだと思う。

  「……」

それは違うとしなのは思う。
確かに一人ひとりの力は弱いかもしれない。
だけどサクヤの言っている事は絶対に違うんだ、と拳を握りしめた。
それを証明する術が欲しいと思った。

  「まぁ今となっては意味のない事です。 ではさようなら」

サクヤは床に突き刺しておいた砂塵の槍を引き抜き、懐からは毒牙のナイフを取り出し、
両手に構えたその武器をヨウイチとしなのの頭部目掛けて投擲した。
ヨウイチとしなのは、まだ動けない――!!



――続く――

541 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/12/15(土) 22:04:19 ID:tIR5JtxU0
しーえん支援

542 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/12/15(土) 22:05:32 ID:tIR5JtxU0
ってひとまず終わりなのかOTL

543 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/12/15(土) 22:08:02 ID:m7yCgfe5O
俺達の闘いはこれからだ





544 : ◆ODmtHj3GLQ :2007/12/15(土) 22:09:07 ID:OGexf1c80
支援してくださった方々ありがとうございました!!

最終章少しばかり長くなってしまったので二日に分けての投下となっています。
また明日の21時から投下再開という形ですので、その時はまた協力をお願いします。

ではまた明日お会いしましょう!

545 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/12/15(土) 22:35:40 ID:Cd05YfklO
乙!もう終わってしまうんだなぁ…。色んな作者による合作とても楽しめました。また明日もお願いします。

546 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/12/16(日) 14:22:49 ID:8/icVwQ+0
とりあえずたんすあさる!
あれ?KY?

547 :作り合わされし世界 ◆YB893TRAPM :2007/12/16(日) 21:08:04 ID:tiDo3Rhn0
石は古代から不思議な力を持っていると言われている。
いや、人が信仰対象の象徴としての偶像を石で形作る事でその力を具現化しようと
してきた事を考えれば、不思議な力が石を通じて表出されていると言った方がいいだろう。

ギザの大ピラミッド・ロードス島の巨像・エフェソスのアルテミス神殿などが
石基盤の構築物として世界の七不思議として有名だが、
日本でも神社に石が祀られて崇められている。
生活の身近なところでは宝石や墓石を選んだりするし、
海岸や川で綺麗な石を探すという行為は誰もがやった事があるだろう。
人は石を求める生き物なのかもしれない。

石の加工品は多数あれど、その中で石板という物がある。
石板とは黒板のように書くか、もしくは削って刻む仕方で文字を残すものだが、
加工・使用感・保存の全ての点において紙媒体に劣る故に、
現在では目にする事も極めてまれだと言わなくてはならない。

しかしこの世界において石板はとても重要な意味を持つ。
特に彼らにとって石版は自分達の世界へ帰る為の希望の道具だった。
もし石版を通して不思議な力が現れるなら、彼らを帰す為の希望となっても良かったのだ。
が、既にその光は失われてしまった。

愛と友情と絆と嘘と、たった一つの石版を巡る物語。
その結末は運命に委ねられているのか。
それとも運命を導く力が彼らに味方をするのか。
石版はただ静かにその時を待っていた。

548 :作り合わされし世界 ◆YB893TRAPM :2007/12/16(日) 21:10:10 ID:tiDo3Rhn0
作り合わされし世界〜最終章・後編〜

魔王を復活させようとする狂気のサクヤが放った砂塵の槍と毒牙のナイフは、
二人の命を確実に奪うよう寸分の狂いもなく飛んでいく凶器。
しかしそれがサクヤを狂喜させる事はなかった。
一陣の風が吹き込み、その二つの武器を破壊してしまったからだ。

  「な――」

ヨウイチ達の命を救ったその風は止むことなくサクヤにも襲い掛かり、
剣を構える腕に鋭い三本の傷を負わせた。

  「う〜わんわん!!」
  「タ、タロウ……?」

外へ逃がしたはずのタロウがそこにいた。
鉄の爪や前掛けを装備しているタロウは先ほどよりもいくらか凛々しく見えた。
しかし、助けを呼んでくるにしてもこの帰還は早すぎる。

  「タロウ……どうして戻って来たんだ……」

石版を守るという命を受け、タロウは走った。
神殿を抜け洞窟を走った。
石版をあいつに渡してはならない。
タロウは自分の使命を本能的に理解していた。
あの時どうして自分が吠えたのかタロウ自身にもわからなかった。
ただ、サクヤから嫌な匂いがした。
本当にそれだけだったのかもしれない。

549 :作り合わされし世界 ◆YB893TRAPM :2007/12/16(日) 21:12:14 ID:tiDo3Rhn0
タロウは思った。
この世界に来たばかりの僕はただの迷い犬だった。
でも、いろんな犬や人の協力を得て帰る方法を見つけようとした。
だからきっと今度は僕がみんなを助ける番なんだ。

今の僕にできることは走ることだけ。
でも、僕ならどんな人間より早く走ることができる。
石版を渡さないように逃げること。
それは僕にしかできないことだ。

  (光が見えてきたよ。もうすぐ洞窟の出口だ!)

タロウは大きく遠吠えをして、再び神殿に戻る事に決めた。

  「その犬がどうして戻ってきたか。それは逃げることができなかったからですよ」

サクヤがタロウの行動などお見通しといった感じでそんなことを言い出す。

  「こんなこともあろうかと洞窟の入り口に配下のゴーレムをおいておきました。
   とても犬一匹では太刀打ちできる相手ではありません」

しなのたちに絶望が広がる。
サクヤの計画は完璧だった。

  「この状況で石版を守る方法。
   それは二人と一匹で協力して私を倒すことでしょうね。
   その犬はそう判断したのでしょうか。
   愚かですね。 素直に石版を渡せばいいものを」

タロウは低い声を出してうなる。
サクヤが暗に無理だと言っている事をまだ諦めてないのだ。

550 :作り合わされし世界 ◆YB893TRAPM :2007/12/16(日) 21:14:16 ID:tiDo3Rhn0
  「そうそう、ゴーレムといえば前にも役に立ってくれましたよ。
   私の協力者さん達に私の正体を怪しまれたと思ってね。
   ゴーレムに私を襲わせたんです。
   そのとき弱みを見せることで私が弱い人間であると印象付けたんですよ。
   ちょっとした道化師でしたね。 笑いをこらえるのに苦労しました。
   一度私を疑ったことへの後ろめたさか、彼らはそれまで以上に協力してくれました」

サクヤの非情がヨウイチ達の心を奮わせる。
誰かを騙す事に苦労した、などという話を聞いて穏やかでいられるはずがない。
それにタロウが戻ってきてくれたのだ。
そして一緒に戦おうとしてくれている。
タロウも仲間なんだと再確認した今、サクヤに負ける訳にはいかない。

  「ベホマラー!」

回復の光が二人を包み、火傷と裂傷を癒していく。
しかししなののベホマラーはあまり効果が高くないのだが、
それでも何とか痛みによる気持ち悪さを我慢しながら立ち上がった。

  「ふぅん、まだやるというのですか。
   仲間と一緒なら何でも出来るというところですか。
   仲間を思う気持ちで何ができるのです?
   どこまでも愚か者は愚か者なんですね」
  「本当に愚かなのはどっちか教えてやるよ!!」

ダンに鍛えられた心がヨウイチにそんな事を言わせた。

  「とは言ったものの、どうしたもんかなぁ……」
  「……なぁヨウイチ、サクヤは呪文が使えないんじゃないか?」

傷口に布をあてがいながら止血をするサクヤを見て、しなのがそんな事を言う。
そう言えばサクヤは戦闘中も一切呪文を使っていない。

551 :作り合わされし世界 ◆YB893TRAPM :2007/12/16(日) 21:16:41 ID:tiDo3Rhn0
神殿の入り口を破壊した時も、今だって腕の傷を呪文で治そうともしない。

  「なるほど。 そう言えば特殊武器ばかり使ってるな。
   とりあえずあの武器さえどうにかしてしまえばいいのか」
  「まぁ痛手を与え続けるのも手だとは思う。
   が、呪文が跳ね返されてしまうのはいささかやっかいだからな」
  「具体的にはどうするんだ?」
  「ん……」

しなのは改めて神殿内を見渡す。
辺りは大分暗くなってきており、もう少しで日が落ちるだろう。
その時灯りのないこの神殿内は真っ暗になるはずだ。

  「……タロウは夜目が利くはずだ」
  「嫁?」
  「わんわん!」

タロウはその言葉でリリアンの事を思い出した。
そういえば「あの子が僕のお嫁さんになったんだよ」と二人に報告するのを忘れていた!!

  「違う違う。夜の目だよ」
  「あぁ……」
  「くぅん……」
  「タロウ、光が消えた瞬間を狙ってサクヤの動きを封じて欲しい」
  「わんっ!!」
  「俺はどうする?」
  「サクヤの気を逸らしてくれればいい。後は私が何とかしよう」
  「何とか?」

それには答えずしなのは行くぞ、と一声かけた。


552 :作り合わされし世界 ◆YB893TRAPM :2007/12/16(日) 21:18:43 ID:tiDo3Rhn0
暗くなるまでもう時間がない。
気付かれてはどうにもならない。
上手くいくかも分からない。
けれどこれが決まれば、きっと自分達の勝ちだと信じた。
そう信じなければ失敗してしまいそうで、無理矢理信じるしかなかったのかもしれない。
それでも二人と一匹は互いを見やって頷き合った。

太陽の光がまた一筋、この地から消えた瞬間にどちらからとも無く動き出す。
ヨウイチ達はサクヤを取り囲むようにして攻撃を開始した。
これで必ず誰かがサクヤの死角にいる事が出来る。
しかし決定的なチャンスは得られなかった。
死角から狙ってくる事に早々に気付いたサクヤは見事に対処してのけた。
サクヤとのレベルが違い過ぎたのだ。
もうほんの少しでもタロウ達のレベルが高ければサクヤに勝る事は出来ただろう。
現状ではさざなみの剣一本でしなの達とやり合うのに十分なのだ。
しかしその剣も残りものだった。
氷の刃と砂塵の槍と毒牙のナイフは既に破壊している。
もうこれ以上武器を持っているとは考えにくい。
故にこの策を成功させられれば優位に立てる。

  (沈む……!!)

しなのが頷いたのを見て、ヨウイチはわざと隙を見せる。
サクヤは正確にそこを狙って剣を突き出してきた。
その切っ先がヨウイチの胸が刺されるかという時、
闇に光が吸い込まれるようにして全員の視界を黒に染め上げる。
何事なのかと一瞬躊躇したサクヤに飛びつくタロウ。
そしてタロウはその体勢のまま装備している風の帽子を使った。
ルーラの効果を持つ風の帽子によってタロウとサクヤの体は飛び上がる。

  「がっ……」

553 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/12/16(日) 21:18:51 ID:vNN5WzhwO
wktk

554 :作り合わされし世界 ◆YB893TRAPM :2007/12/16(日) 21:20:44 ID:tiDo3Rhn0
タロウによって下から持ち上げられる形となったサクヤは、
天井に穴が開く程の勢いで頭をぶつけた。
当然タロウにかかる負担もゼロではないが、サクヤの方が影響は大きい。
天井から落ちて背中を強かに打ち、衝撃でサクヤの脳はさらに揺れる。

  「よし!!」

しなのは、炎のブーメランを大きな弧を描かせるようにして投げ、灯りを作り出す。
それで暗闇の中からサクヤの居場所を特定し、懐から爆弾岩の欠片を取り出した。
そのアイテムをサクヤが持っているのをしっかりと覚えていたのだ。

  (これで!!)

しかしその時サクヤはしなのを突き飛ばそうともがいた。
しなのはあわよくばサクヤへの止めの一撃にしようと思っていたが、
何とか武器を持つサクヤの右手に爆弾岩の欠片を押し付ける。
互いの力が交差する中で、炎のブーメランが使用者であるしなのの手元に戻ってくる。
その炎が爆弾岩の欠片の着火剤となる。
ドンッ、と花火が爆発した時のような音がそこにあるものを吹き飛ばした。
さざなみの剣と、サクヤの右手と、しなのの体を。

  「やったか?!」

しなのが成功したであろう事を信じて今度はヨウイチが松明に火をつける。
松明を掲げて最初に視界に入ったのは、サクヤの不気味な笑顔だった。
ヨウイチは驚きのあまり体を動かす事が出来ない。

  「な――」
  「いい加減しつこいですね」

サクヤがマグマの杖を振りかざす。
まだ武器があったのか、という思いは焼かれる痛みの中に消えていった。

555 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/12/16(日) 21:22:04 ID:vNN5WzhwO
支援

556 :作り合わされし世界 ◆YB893TRAPM :2007/12/16(日) 21:22:51 ID:tiDo3Rhn0
  「わんっ!!」

ガブリとタロウがサクヤの肩口に噛み付き、鉄の爪でひっかく。
が、サクヤは少しも痛がらずにタロウを体から引っぺがして地面へと強く叩きつけた。

  「キャンッ……!!」

痛みに吠えるタロウを面白くなさそうにサクヤは杖で殴り飛ばした。
鉄の胸当てにヒビが入り、使い物にならなくなった。
タロウの体は神殿の壁に当たって止まる。

  「……夜が来たんですね」

マグマの杖を支えにするようにしてサクヤは息を整えようとした。
先ほどの爆発で右手を失い、余波で体中に火傷を負っていた。
しかし痛みに焼かれる体から血が抜けていく感覚でさえ、サクヤには快感だった。

  「もう終わりしましょう」

そう、終わりなのだ。
もうタロウ達は戦えないだろう。
後は犬から欠片を奪い返して石版を完成させるだけなのだ。
それでこの計画は完遂する。
長く遠回りしてしまった気もするが、かけた時間が長い程感慨も一塩なのだ。
そんな感覚が痛みを興奮に変えていた。

  (その前に始末しておきますか)

石版が並みの衝撃では壊れない事を知っているサクヤは、
しなのが取った手段と同じようにマグマの杖を爆弾岩の欠片で破壊する。
杖に込められた呪文の力と爆弾岩の爆発が混ざり合い、相乗効果で威力を高める。
そしてそれはヨウイチ達を確実に死に至らしめる巨大な爆発力を生み出すのだ。

557 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/12/16(日) 21:24:18 ID:vNN5WzhwO
shien

558 :作り合わされし世界 ◆YB893TRAPM :2007/12/16(日) 21:24:55 ID:tiDo3Rhn0
いや、生み出すはずだった。
しかしそれが留めの一撃とはならない。
呪文による横槍が入った為に被害が及ばない所で効果が霧散してしまった。

  「……まだ何か奥の手があったのでしょうか」

煙が晴れ、サクヤの視界が確保されるとそこには八人の勇者がずらりと勢ぞろいしていた。

  「おーいしなの〜助けに来てやったぞ〜!」
  「ふぅ……どうやら間に合ったみたいですね」
  「酷い怪我だ……早く手当てを」
  「ゲレゲレ! やっぱりあの遠吠えはゲレゲレだったのか!!」
  「人も魔物も動物もみんな分かり合えるはずなのに、どうしてできないんだろう」
  「すべての元凶はこいつだったわけだ。こういう悪夢は消し去らなきゃな」
  「せっかく友達になれたと思ったのに、君には始めからその気はなかったんだね」
  「サクヤ、君が元凶だったとはね。すっかり騙されたよ」

口々にものを言うものだから、正確に全員が何を言っているのかは分からない。
しかしサクヤはこれで形勢が悪くなったのをひしひしと感じていた。

  「……どうして神殿での異変に気付いたのです?」
  「タロウが教えてくれたんだ」
  「この子はみんなとは別の小さな穴から洞窟に入ったんだ。そこから出て教えてくれた」
  「俺たちは正面から入ってくる必要があったからちょっと時間がかかっちまったけどな」
  「言葉は通じなくても思いは通じるものさ」

サクヤの頭がガクリとうなだれる。
完璧だと思われたサクヤの計画は実は既に崩れていたのだ。
ゴーレムによるタロウの足止めは成功していなかった。
そして勇者達がこの神殿に来る事までは予想出来なかった。

559 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/12/16(日) 21:26:15 ID:vNN5WzhwO
ドキドキムネムネ

560 :作り合わされし世界 ◆ODmtHj3GLQ :2007/12/16(日) 21:28:00 ID:Ml8tKtBe0
  「な……何故……」
  「あなたたちは洞窟の外にいたのですか、かな?」
  「世界の異変を調べてたらみんなここにたどり着いたって訳さ」
  「僕はサクヤ君が無事に元の世界へ帰れるか心配で、
   やっぱり近くで見守ろうと思っただけなんだけどね」
  「まぁ他人を利用することしか考えていないお前には分からないことだろうな」
  「な……何故……何故邪魔をするんですか!! あなた達はいつも、いつも……!!」

ブルブルと体を震わせ嘆くサクヤ。
そんなサクヤにしなのが声をかけた。

  「サクヤ、君に足りなかったのは仲間だよ。
   心を通じ合わせられる仲間が、ね」

運命は決まっているものではない。
仲間がいたからこそ、ここまで成し遂げる事が出来たのだ。
それが結果として運命を位置づけたに過ぎない。
運命とは人が命をかけて運んでいくものなのだから。

  「そんな……そんな事で……」

サクヤはその一言で力が抜けてしまったかのように、地に膝をついた。

  「私は負けない……あともう一歩……たった一歩……!!」

そんな言葉を繰り返しながらサクヤは自分の敵達を睨みつけた。
その目に暗い光が再び宿る。
波に削られて今にも崩れてしまいそうな砂の城を建て直そうとするかのように、
サクヤは再生計画が破れるのを諦めきれずにもがこうとする。

561 :作り合わされし世界 ◆ODmtHj3GLQ :2007/12/16(日) 21:29:52 ID:Ml8tKtBe0
  「さて、そろそろ帰りたいと思うのは僕だけかな」
  「いーや、もうこんな世界はうんざりだね」
  「よし、決めるぞ!!」
  「君達のマジックパワーも借りる! 協力してくれ!」

エイトがヨウイチ達に声をかける。

  「今こそ心を一つに……」

その声を頼りにして心を束ねていく。
他人に心を許す感覚が力に変わっていくのが分かった。

  「「「「ミナデイィィィィィーン!!」」」」

呼び起こすは圧倒的な光の束。
その光が神殿の天井の穴からサクヤの頭上に落ちてくる。
ライトのように白く照らされたサクヤは何故か不気味に笑っていた。

  「ククク……」
  「……?」
  「あえて動揺してみせるのも時には有効な手段ですね」

絶望的な状況であるはずなのに、
そこに先ほどまでのうろたえた様子は一切見受けられなかった。
これが役者なら最高の演技だと言われる程に、嘘をやってのけたのだ。

  「私は呪文を使えないのではありません。切り札は最後までとっておく主義なのです」
  「しまった!!」

サクヤの意図を察した勇者達は素早く反応する。

562 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/12/16(日) 21:30:48 ID:vNN5WzhwO
支援

563 :作り合わされし世界 ◆ODmtHj3GLQ :2007/12/16(日) 21:32:26 ID:Ml8tKtBe0
しかしサクヤは笑いながら天に手を掲げ、呪文反射の文句を唱えた。

  「マホカンt――」
  (キィキィーー!!)

――聞き覚えのある声がヨウイチの頭の中にだけ響く。
  その声に押された腹の底からの叫び――

  「ドラオォォォォーーーー!!」

ミナデインの発生させた落雷が叫びをかき消す。
ヨウイチには出会った時と同じ、青い体でふわふわ浮かぶドラオが見えていた。
時間が止まったかのように、その表情は詳しく感じ取れる。

  「ドラオ!」
  「キィ!」

心で交わしたたった一つずつの言葉は、多くの気持ちを含んでいた。
ドラオの笑顔がだんだんと薄れ消えてゆく。
と同時に、ヨウイチの心に置かれた大きな固まりも少し、小さくなっていた。

ミナデインのもたらした音響はバリバリと余韻を神殿に響かせている。
サクヤの呪文は発動する事はなかった。
怖がりなドラオが口を塞いでまた呪文を封じ込めてくれたのだ。

  「……クン……」

光が止み、稲妻に焼かれたサクヤの体は地に伏し塵と化した。
その魂は雷と共に天へと昇っていったのだろう。

564 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/12/16(日) 21:35:20 ID:vNN5WzhwO
あんなに一緒だったのに

565 :作り合わされし世界 ◆ODmtHj3GLQ :2007/12/16(日) 21:35:28 ID:Ml8tKtBe0
  「ありがとうドラオ」
  「やったな!」
  「ん。アレンは?」
  「外に出ていった。恥ずかしいんだろう」
  「お手柄だったぞ〜タロウ!」
  「わんわんっ!」
  「おい、見てみろよ」
  「あ……」

指差す方を見上げると、
月夜の光が天井に開いた穴から差し込み台座を暗闇の中に浮かび上がらせる。
夕暮れに見た光景とはまた違った神秘的な雰囲気を作り出していた。
穴を見上げると戦闘の勝利を祝福しているかのような綺麗な満月が望める。
絶妙な光加減に見とれていると、その中から何かが舞い降りてきた。

  「……人?」
  「あ、あなたは……?」
  「ふぁぁ……よく寝たわい……わしは神様だよー」
  「は……?」

一同は思わず目を丸くしてしまう。
今この人は何と言ったのだろうか。

  「大きな音がしたから起きて来てみれば……
   ふぅむ、こりゃ他の世界の神に本格的に怒られるかもしれんなぁ。
   ま、そういうシナリオもありじゃと思うがの」

いきなり現れては何か意味深な事を言うこの方が神様だとは到底思えなかった。

566 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/12/16(日) 21:36:50 ID:vNN5WzhwO
夕暮れはもう違う色

567 :作り合わされし世界 ◆ODmtHj3GLQ :2007/12/16(日) 21:38:47 ID:Ml8tKtBe0
  「わんわんっ!!」

しかしタロウがすぐに自称神様へと飛びつく。
それでこの自称神様が少なくとも悪い奴ではないと分かる。

  「神様……あなたはこの状況を分かっておいでで?」

神様の名にたじろぐ事のないセブンが問う。
タロウの頭をナデナデしながら神様はつまらなさそうに答えた。

  「……
   今この作り合わされし世界は元に戻ろうという動きをし始めておる。
   その動きは結果として互いを排除する行為に等しくなっとるがな。
   その力が臨界点を超えると、全ての世界が崩壊してしまうかもしれんのじゃ!
   ふん、これで良いか? ワシを誰じゃと思っとる」
  「くぅん……」
  「おーよしよし。
   あのサクヤとかいう奴は石版を壊したからこうなったと思ってるみたいじゃが、
   異変は魔王を封印した時から始まとるんじゃ」
  「どういう事ですか?」

確かにサクヤは多くの嘘をついていたが、この世界に関する事だけは間違っていなかった。
その事は今の自称神様の話で分かる。

  「世界を作る時のルールがある。そのルールをワシは破ってしまった。
   どうにも我慢できなくての……」
  「世界の、ルール?」
  「魔王は勇者によって倒されなければならない。 それが絶対条件」
  「じゃあ何で破ったんだよ」
  「名前じゃよ、名前」
  「名前……?」

568 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/12/16(日) 21:39:52 ID:7H9yAvKC0
sien

569 :作り合わされし世界 ◆ODmtHj3GLQ :2007/12/16(日) 21:41:24 ID:Ml8tKtBe0
  「ポックンブリードという名前が気に入らなかったんじゃ。
   魔王なのに全然強そうじゃないじゃん?
   それで新しい魔王を生み出そうと思ったんじゃが、勇者が現れるのを待ちきれんかった。
   つまり悪いのはぜーんぶワシって事!」

ハハハと陽気に笑う神様。
対して一同は呆れるばかりだった。

  「ならどうすればいいのです?
   もしあなたが本当に神様なら、全てをきちんと元通りに出来るのでは?」
  「……疑いに勝る偽り事はない。故に信じる者は救われると言うじゃろ」
  「……?」
  「石版を」

急に真剣な顔になった神様が腕を伸ばし、その手に乗せるように促す。
石版を調べるようにしばらく眺めた後、その唇が静かに言葉を紡ぐ。

  「引き裂かれし大地――
   世界の裏側へと落ちた星々――
   闇の中へと消える心の光――
   全ては在るべき姿へと――
   全ては輝ける力へと――
   全ては帰る場所へと――」

残っていた割れ目が光り、石版は完全に元の姿を取り戻した。

  「さぁこの石版をその台座にはめるんじゃ。
   それで間違いなくお前達は元の世界へと帰れる」

再度、台座へと石版をはめこむ。

570 :作り合わされし世界 ◆ODmtHj3GLQ :2007/12/16(日) 21:44:29 ID:Ml8tKtBe0
しなのはタロウを片手に抱え上げ、ヨウイチの腕を取った。
そして互いを見やって、微笑み合う。
光がみんなを包み込んでいく。

  「これで世は全て事もなし、じゃ。
   重なっていた幾つもの世界――
   複雑に作り合わされし世界――」

その言葉にようやく安堵の表情を浮かべる勇者達。
神様はその表情を順に見回して優しく微笑んだ。

  「――そして石版に封印されし魔王も」
  「え?! 魔王も?!」

みんなの体が少しずつ世界から消えていく。

  「世界に秩序を取り戻す為にはそれしか方法がない。
   そしてお前達を安全に帰す為にも、な」

幾つもの不安そうな顔を前に神様は笑った。

  「じゃが心配するでない。
   ワシには見える。
   再び世界を覆いつくすであろう闇に勝る大きな大きな光が。
   そしてその様が語り尽くされぬ物語となって語り続けられる事が。
   お前達はその物語の一部となった。
   だから、礼を言うぞ」

神様の言葉を全て聞き終わる前に彼らはそれぞれの場所へと帰りついた。

そしてこの世界に魔王が復活した。

571 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/12/16(日) 21:45:18 ID:vNN5WzhwO
支援

572 :作り合わされし世界 ◆ODmtHj3GLQ :2007/12/16(日) 21:45:56 ID:Ml8tKtBe0
【合作イメージ画像作成】
【フラッシュ作成】
【ヨウイチ編】
【最終章】

               ――タカハシ◆2yD2HI9qc.

【タロウ編】
【サクヤ編】
【最終章】
                    ――◆8fpmfOs/7w
               (=◆YB893TRAPM 二役)

【企画立案】
【しなの編】
【最終章】

               ――暇潰し◆ODmtHj3GLQ

【スペシャルサンクス】

                    ――◆IFDQ/RcGKI
                    ――◆u9VgpDS6fg



           FF・ドラクエ板
 『もし目が覚めたらそこがDQ世界の宿屋だったら』
         10スレ記念合同作品

         〜作り合わされし世界〜
             〜END〜

573 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/12/16(日) 21:47:22 ID:vNN5WzhwO
感動のエンディングだ

574 :作り合わされし世界 ◆ODmtHj3GLQ :2007/12/16(日) 21:53:01 ID:Ml8tKtBe0
終わったー!!!!

さて、作り合わされし世界、いかがでしたでしょうかか。
合作自体がはじめての試みという事もあって色々と至らないところがあったと思いますが、
少しでも楽しんでいただけたのなら幸いです。

当初考えていたよりも遥かに長くかかった合作作成もようやく終わりを見る事が出来ました。
実はエピローグがまだ残っているのですが、
それはEDフラッシュの公開と同時に発表という形を取りたいと思いますので、
どうか楽しみにしていて下さい。

実は一つだけ、本当に残念で、失敗したなぁと思っている事があるんです。
それがもしや合作としての一体感を損なってしまったのではないかとさえ思います。
つまり僕のキャラだけカタカナではないという事。
本当に残念でなりません。

そういった反省点を次の課題として、僕はまた真理奈編の執筆に戻りたいと思います。
また合作等の企画があれば参加してみたいと思います。
それまでにまたレベルアップしたいです。

さぁ個人的な事ばかりを書いてしまいましたが、
合作を作ろうなどと提案した張本人がまだまだ技術的に未熟であるにも関わらず、
作り終える事が出来たのは参加者の皆さんのおかげであると、感謝感謝であります。
僕のワガママに付き合ってくれたタカハシ◆2yD2HI9qc.さん・◆8fpmfOs/7wさん、
そして話し合いに参加していただいた◆IFDQ/RcGKIさん、◆u9VgpDS6fgさん、
本当にありがとうございました。

最後に合作投下にご協力いただいた他の書き手さん達、
投下の際に支援をしていただいた方々、
そして何より読んで下さった皆さんに御礼を言って去りたいと思います。
ありがとうございました!!

575 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/12/16(日) 22:05:55 ID:5esvMC610
おお、1〜8の勇者勢ぞろい。
8人分+ヨウイチ、しなのさん(もしかしたらタロウも?)のミナデイン、萌えた。

ポックンブリード噴いた( http://www5.atwiki.jp/dq_dictionary_2han/pages/3483.html

投下乙でございます&エピローグたのしみです。

576 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/12/16(日) 23:54:43 ID:QSrX1TTQ0
合作終了 超々々々々乙っした!!!111
けっこう長くかかったよなあ。楽しませてもらったよ。
しっかしポックンwww

エピローグwktkして待ってます!

577 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/12/17(月) 15:17:40 ID:y0nbb6wZO
合作乙
良い感じにコラボレーションできていたと思います

578 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/12/20(木) 00:53:51 ID:x5SbEfecO
合作乙(゚д゚)

579 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/12/22(土) 00:15:20 ID:8ag1nOKVO
上げてみる。
職人さん何処へ行っちゃったの(´;ω;`)合作で疲れちゃいましたか。戻ってきてまだ容量あるよ

580 :◆qLjap6DEzk :2007/12/22(土) 00:50:32 ID:ojXLm7mQ0
彼女なんて希少生物に出会ったことのない俺は
今日も健やかにエロゲーで一日二回オナニーの日課を順調にこなしていた。

繰り返されるニートの毎日。
漠然とした不安を抱えながらも、某有名なメーカーを自主退社してから
かれこれ五年は経つ。31歳童貞ニート。

朝方になってから、やっとPCの電源を落とす。
最近夜に寝られなくなったなぁと思いつつ消灯。
・・・したはずなのに、モニター画面は明るいままだ。

「???」
電源不良かなぁ、と思い、モニターの電源ボタンを押してみる。
すると「パヂ!!」という電撃音と共に俺の思考回路はショート寸前。
「あばばばばっばばばっばばばばば」
友達をまた一人無くしそうな奇声を発しながら、俺の視界は暗転した。

なにか身体が宙に浮いている。
手足の感覚がまるでなく、堂と頭だけを頼りにぷかぷか浮いてる感じ。
宇宙(そら)ってこんな感じなのかなぁと思いつつ、さきほどの出来事を思い出す。

あれ?これってやべーんじゃね?臨死体験?

そう思うと、おぼろげながらも手足の感触も求めてもがく。
そうやって必死になっていると段々手足の感覚が蘇ってくる。
まるで身体から血管を伸ばし、その伸びた先から順に血肉が現れてるかのような錯覚を覚える。
徐々に、腕や太腿が形成されていくような気がする。

うおおおおお死にたくねぇぇぇぇぇっぇぇ!!!

気張る、とにかく気張る。これが夢だったら絶対寝ながらウンコ漏らしてる。


581 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/12/22(土) 00:52:22 ID:0c3etcWg0
年末でリアルワーキングがビジーなのですゴメンヨ.....

582 :タカハシ ◆2yD2HI9qc. :2007/12/22(土) 00:55:06 ID:8/Y6oWwz0
みなさん、お疲れ様です。

合作、無事に終わらせることが出来て、協力してくださった住人の方々や一緒に作った方々には感謝です。
個人的に良い勉強になりました。
途中、現実逃避を兼ねて書いた「癒しの魔法」もヨウイチ編のおかげで出来た感じです。
「癒しの魔法」は、内容はともかく少し早いスレへのクリスマスプレゼントですw
反省点としては、後半時間を取れなくなり最終章に関しては本当に少ししか協力できなかったこと。
それから書き手同士の意思の疎通がうまくいかなかった事もありました。
次回、どなたかがやられるとするなら、少しでもIRCなり会話しておいたほうがいいかなと感じました。

合作本編は終わりましたが、エピローグフラッシュを制作するので、完成したらまた告知させていただきます。
たぶん、来年のいつごろか… もうちょっと先になると思います。
まとめ作業は、出来れば年内に11スレと合作をまとめる予定でいます。

>>579
合作で少しだけ、燃え尽きた感はありますw
が、今度はタカハシ編の旅を続けていきます。

583 :◆qLjap6DEzk :2007/12/22(土) 01:10:07 ID:ojXLm7mQ0
やっとの思いで、身体の感覚が大体蘇ってきた。なんとなく、指先をピクピク動かすこともできる。
おし、後は起きるだけだな、起きろ俺!起きろ!!
そう願ったやいなや、突然視界が回復する。

「フー、蘇生成功?くわばらくわばら」

心地の良い朝日を浴びながら、臨死体験だか金縛りだかから、抜け出せた俺。
貴重な体験したなぁと思いつつ、今ある確実な現実感に感謝。
なんてスバラシイ朝日!空気!緑!生きてるってサイコウ!!

「ん?緑?」

辺りをよく見回してみる。
そこには見慣れたエロゲーのポスターはない。フィギュア(魔改造)もない。
積んでるエロゲーもない。チン○にやさしい、愛用のカシミヤのボックスティッシュもない。
カシミヤはチン○にへばりつくのが難点なのだけれど・・・

いやいやいや、それはどうでもいいが、緑っぽかったのは木々だと認識。周りは野原。壁なんてどこにもない。

「へ?外?なんで?」
「ええええええ!俺生き返ってなかったんか!ここ天国か?」

夢にしては存在感のありまくる景色に戸惑いを隠せない。
しかもなんてキレイな景色。とうとう俺は天に召されたのか。
ヤダヤダヤダ。せめて童貞卒業してから死にてーよぉぉぉぉぉ!
懐かしいAAを回想しながら、ジタバタする俺。すると異様な臭いに気が付く。

なんだ、これは・・・。もしかして・・・ここは見た目はキレイだけど、実は地獄の一丁目?!
うそぉ!俺地獄行きだったのかよ!確かに!納得!合点承知!!
でも、それにしてはお尻の辺りに違和感が・・・

あ、ウンコ漏らしてただけだった。

584 :◆qLjap6DEzk :2007/12/22(土) 01:35:11 ID:ojXLm7mQ0
「ん?地獄にウンコ?いやまだ天国かもわからんか。天国にウンコ?」

血の池地獄なんて物もあるくらいだし、排泄物くらいできるのかなぁ。
そう思いつつ、このままでは如何ともしがたいので近くに洗面所と洗濯機がないか探す。

ない。つーか大自然の中だから、あるわけない。チクショウ。
近くに水の流れる音がしていたので近寄ってみると小川発見。
とりあえず、ここで洗うしかないのかなぁ・・・。

シャアアアァァァァァァッ

やっと乾いたパンツを履いていると、後ろから奇声が。
振り返ってみると、なんか口が鋏っぽくなっているバカデカイ蟲を発見。
うぇっ!!蟲がガキの頃から苦手は俺は驚きすくみあがってしまう。
眼が真っ青でキモイ・・・。向こうも警戒しているのか、それ以上は寄ってこない。
逃げたら追いかけてくるんだろうなぁ・・・
そう思いつつ、半ば諦めながら脱兎のごとく戦線離脱!
もれなくついてくる青眼鋏蟲!

「やっぱりぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!ぃいいいやああぁぁぁぁっぁぁぁぁ!!!」

逃げる逃げる逃げる。どこまでも逃げる。
全力疾走してるはずなのに、中々体力は尽きない。
人間やればできるもんだ。

しかしそうこう言っている内に、崖に突き当たってしまった。後ろには今だにデカ蟲。
何気にヤバくね?スネークだったら崖から飛び降りても助かるんだろうか・・・
そう思いつつも、やっぱこれは夢なんじゃ。という淡い期待と逃避。
こんな時こそあれだ。お決まりの懐かしいアレを言うときだ!

「もうダメぷぉ!!」
ダメだ、力んでしまって叫んでしまった。悲壮感がない・・・。

585 :◆qLjap6DEzk :2007/12/22(土) 01:49:32 ID:ojXLm7mQ0
あぁ、俺の人生やっぱりこれまでなのかな。
お母さんごめんなさい。お父さんごめんなさい。
姉ちゃん借りた金返さないで死んでごめんなさい。

一通り懺悔は済んだ。よし後は無謀だが特攻おぉぉぉぉぉ!!
倒せるかもしれんもんね!!こっち素手だけど!!
勝てたらラッキー!死んで元々!カナたん俺を守って!!

「きいえぇぇぇぇぇぇえぇ!!」

生まれて初めてこんなに叫ぶ。これが最後の言葉かと思うとカッコわるい。
くらえ!とか、いくぞ!最速風神拳!とかの方がかっこよかったかな。
後悔先にたたず。とはよく言ったもの。

眼前にデカ鋏蟲が迫る。いや、青眼デカ鋏蟲だったか?
そんなのどうでもいい!しかしキメェェェェェ!

飛び掛ろうとした時、横から物凄い速さで何かが蟲に突き刺さる!
よく見ると剣だ。剣が蟲の頭を貫通してる。
青かった眼が光を失い、横にドウっと倒れる。
うはぁぁぁぁ、なんじゃこりゃ。
展開についていけないでいる俺。

「大丈夫ですか〜!」

横から声がかかり、茂みから緑の何かが這い出てくる。
女の子だった。ちょっと露出気味ながらもボ−イッシュな服をまとった女の子。
珍しい。というか初めて見た。緑色の巻き毛(クセ毛?)をしている。

586 :◆qLjap6DEzk :2007/12/22(土) 01:58:51 ID:ojXLm7mQ0
「ケガとかないですか?」

あっけにとられている俺に、緑の髪の女の子が続ける。

「なんか変な叫び声とかして騒がしかったので探ってみたら・・・」
「素手ではさみくわがたに突撃してる人がいるじゃないですか」
「どう見ても武術に長けてるようには見えなかったので、援護させていただきました。」

顔を見るとかなりカワエエ・・・。

「大丈夫?」

顔を覗き込まれる。
こんなカワイイ子にこんなに近くに寄られたのは何年ぶりだろうか。
不慣れなのも手伝って、真っ赤になってしまう。

「へ?いや!全然ダイジョーブ!」
「き、君が助けてくれたのか!あ、あ、ありがとう!!」

「いえ、いいんですよ・・・。あなたは助けられてよかった」
フッと緑髪の彼女が寂しそうな笑顔をする。

「え?」
「え?」
「いや、どうしたのかなって。」
「え、いや、なんでも、ないです、よ?」

どう見ても何でもなくはなさそうだ。
でもこれ以上聞くのは、彼女に悪い。
何か話題を変えようか・・・。

587 :◆qLjap6DEzk :2007/12/22(土) 02:11:53 ID:ojXLm7mQ0
「君って天使?」
「え?」
「ここってあの世かなぁ?」

リアルで発したら、大昔のドラマでもやらないような口説き文句とも取れないことを言う俺。
しかし、今は状況確認が先決だ。

「あの、どういうことですか?」
「いや、俺って死んでるんじゃないかと思ってさ」
「・・・。」
「だって俺s」
「生きてるに決まってるじゃないですか!さっき私が助けたでしょう?!」
「いや、そういう意味じゃなk」
「もう!何言ってるんですかアナタは!せっかく・・・助けることができたのに・・・ひっく」

おおおおお、何だか泣きはじめてしまった!
ぐはぁ!なんじゃこれ!なんで泣くんじゃ!

「ごめんごめん!そういうんじゃないんだ!うん、助けてもらってありがとう!」
「グス・・・ひっく・・・」
「俺死んでない死んでない!死ぬなんてことも言わない!ごめん!ごめん!だから泣かないで!」
「・・・・・・はい・・・」

なんだ、この痛少女は。
カワイイから甘やかされてるのか。今時の小学生でもここまで酷くないぞ。小学生ハァハァ。
いや、小学生に萌えるのはどうでもいい。

「とりあえずさ、俺はケイイチって言うんだけど、ここはどこなの?」
聞き方を変えることにした。

「ここですか?私の村の近くです。地域でいうとブランカという国の近くですよ」
ブランカ?それなんてストU?

588 :◆qLjap6DEzk :2007/12/22(土) 03:45:06 ID:ojXLm7mQ0
「ブ、ブランカ?なにそれ、国なの?」
「? はい。」
ブランカなんて国あったっけ・・・?

「んー、つーか日本って知らない?」
「ニホン?」
「もしくはジャパンとかジパングとか」

「ジャパン???聞いたことないです・・・」
「私も村から出たことないので、地理に疎いんですけど・・・旅人さんですか?」
「いや、旅とかじゃないんだけど・・・気付いたからここにいたってだけで」

なんだか怪しまれてしまったかな?
居心地が悪くなってくると、彼女がハっとしたように見上げてくる

「も・・・もしかして、魔物に攫われていたんですか?」
「魔物?」
「あなたももしかしたら、私と同じように村を襲われて・・・?」
「村を襲う?」
「あぁ!そこから逃げ出してきたんですね!」
「???」
「デスピサロとかいう魔族は知りませんか?!」
「デピスロト?」

なんだか変な話になってきた。

589 :◆qLjap6DEzk :2007/12/22(土) 04:01:42 ID:ojXLm7mQ0
「あの・・・何がなんだか・・・というか魔物とか全然わからないんだけど」
さっきの蟲とかのことだろうか。

要領を得ない俺を見て彼女がまたハっとした顔をする。
しかし、この子カワイイな〜。頭がヤバそうなのが玉に傷だけど。

「あまりの恐怖に記憶喪失になってしまったんですね・・・」

マテ。

「大丈夫!私がついてます!とりあえず私と一緒にブランカのお城まで向かいましょう!」
「え?城?」
「そうです!お城に行けば何とかなるかもしれない・・・少なくともずっとここに居るわけにもいきません」
「私はソニアっていいます!アナタはケイイチさんって言うんでしたっけ?よろしくお願いします!」
「道中は私が命に代えても守って見せます!命に代えても・・・もう二度と・・・」

自分の知らない間に話がドンドン進む。喋る隙が全然ない。
元気で勢いのある娘だなぁ。てーかテンパってる気がするのは気のせいか?
でも、今は従うしかないのかなぁ・・・。少なくともあの世ではなさそうだし。
外国なのかな。
ハァ、なんだか疲れた。

「ブランカだっけ?そこって近いの?」
「ええ、ここからだと恐らく半日ほどで着きます」
「半日?!それ凄い遠いじゃん!車は?バイクは?・・・まさか徒歩?」
「クルマ?というのはよくわからないですけど、徒歩で半日くらいですよ」

マジか。
近くに、他に村はないのかとか、途中で休憩所とかないのか聞いてみるも
一切ないとのこと。夜になる前にブランカに着いた方が良いとのこと。
出発したときは、まだ昼にもなってないようだったが、俺の歩行ペースが遅いらしく
ブランカとやらに着いた時には、もう日がとっぷりと暮れていた。

590 :◆qLjap6DEzk :2007/12/22(土) 04:26:05 ID:ojXLm7mQ0
話は戻り、ブランカへの道中、暇だったので
せっかくだから記憶喪失のフリをして、この国(世界?)の常識とやらについて聞いてみた。
どうやらマヂで魔物とかそういうのがいるらしい。
まぁ、考えたらあの青眼鋏蟲(なんかクワガタの仲間らしいが)も魔物とのこと。
凶暴な動物=魔物ってわけでもなく、人語を解する奴らもいるとのこと。

なんか面倒な世界だなぁ・・・。これってファンタジーじゃね?
リアルにファンタジーな所に来ると結構厄介なんだなと、認識。
普通にのんべんだらりと暮らせるところはないものか。
日本って良いところだったんだなぁと、しみじみ思う。

フと、日本に戻れるんだよな?と不安になった。残してきた物が大きすぎる。
11年待った、やりかけのゲームが先日出たばかりなのだ。
二番目に来週発売されるフィギュアが届くことが気になった。
両親や友達のことを思ったのは6番目だった。

道中、何度かカワイイ魔物に出くわした。
ソニアはえらい強かった。
剣を振り回して必死に自分に敵をひきつけ、俺を守ってくれる。
結構グロいシーンもあったが、虹黒・三次黒の住人でもあるので、むしろ大好物だった。
蟲は嫌だけど・・・

驚いたのがトイレで、設備とか何もないためにその辺ですることに。
当然ソニアも二度ほど用を足しに行っていた。
魔物が出たら困るので、つかず離れずの距離にいてくださいといわれたので
無類の尻フェチ、尻マイスターでもある俺は当然覗いた。ごちそうさまでした。
若い子の生尻をリアルで見れる日が来るとは・・・!感涙モノですな。

足が棒になるのと魔物に襲われるのを除けば、こんな旅なら何度でもしたいと思った。

591 : ◆qLjap6DEzk :2007/12/22(土) 04:27:20 ID:ojXLm7mQ0
スレ汚し失礼しました。

新たにこちらで書かせてもらおうと思いました。
拙い文ですが、これからどうぞお付き合いいただければと思います。
こういうの書くの初めてなんで、キリは悪いですが、今日はこれにて。

592 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/12/22(土) 08:28:21 ID:HGX/PaTk0
>579
ヒント1:職人の都合もあり毎日書けるものではない
ヒント2:書き上げたとしても誤字脱字チェックがある

>591
乙!
カオスな予感にwktkw

593 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/12/22(土) 09:25:45 ID:8ag1nOKVO
職人さんいたんだね(´;ω;`)
すぐじゃなくてもいい、待ってます。


594 :約束 ◆2yD2HI9qc. :2007/12/22(土) 11:58:55 ID:8/Y6oWwz0
待ち合わせをしていた。
先日、仕事の帰りに見つけた目立たないこの喫茶店で、コーヒーを飲みながら。

もう結構たつのに来る気配を感じない。
なんだか眠たくなってきた。
店に張り巡らされた地味な電飾が、ぱちぱち眠気を誘ってくる。
だいぶ待ってるんだ。
少し、居眠りするくらいは構わないよな… ……

595 :約束 ◆2yD2HI9qc. :2007/12/22(土) 11:59:43 ID:8/Y6oWwz0
「そろそろ起きて。 今日は約束してた日じゃない」

目を開くと場所が、喫茶店ではない部屋の中になっている。

「きたか……」

俺はこのドラクエ世界へ来た事があった。
そんなに離れていない過去に、だ。

「なんのこと?」
「…夢の、話だ」

宿屋を出て町を歩く。
町は以前と何も変わっていなかった。

「私との約束、覚えてる?」

前、この夢みたいな世界へ始めて訪れたとき彼女と出会った。
約束を交わし、約束の朝にはこの夢から覚めてしまったんだ。

「もちろん、覚えてるよ」
「よかった。 さっそく行こう」

見渡す限り緑に包まれる平地を並んで歩く。
やがて町と建物と人の波が押し寄せ、二人で混ざる。

596 :約束 ◆2yD2HI9qc. :2007/12/22(土) 12:01:31 ID:8/Y6oWwz0
「今日はやっぱり人が多いね。 またにする? どうしよう」
「…いや、このまま行こう。 次の約束は、しないほうがいい」
「どうして?」
「約束をしてしまうと… いいんだ、なんでもない」

人をなんとかかきわけ、その場所へようやく着いた。

「わぁ…!」

彼女が喜ぶ。
その姿を見る事ができて、もちろん俺はうれしい。

「今日は連れてきてくれてありがとう」
「いいんだ。 けど、もう約束は無いから、会えなくなるな…」

少し、寂しくなりうつむく。

597 :約束 ◆2yD2HI9qc. :2007/12/22(土) 12:03:37 ID:8/Y6oWwz0
「何を言ってるの? それより遅れてごめん!」

顔を上げると彼女が居る。
場所は、もとの喫茶店だ。

「電車が遅れちゃって。 携帯の電池もなくなっちゃったんだ。
 公衆電話から電話したのに出ないから…」

ポケットに収まるマナーモードの携帯にはたくさんの着信が入っている。

「…大丈夫だよ、俺も寝てたから。 じゃあ行こうか」

ゆっくりとした時間が流れる店を出た。
外は暗く、ツンとした寒さがコートを通して伝わってくる。

「なぁ。 前に約束してた場所に行ってみないか?」
「いいの? だって人が多いから…」
「構わないよ。 ここからならそう遠くないんだし」

人が行き交う大通りへ出て人の波と二人で混ざる。
姿は完全に波の一部となり、やがて消えていった。

598 :約束 ◆2yD2HI9qc. :2007/12/22(土) 12:06:03 ID:8/Y6oWwz0
おしまい。

ドラクエと全く関係ない内容で申し訳ない。
書いた後に気付いたんです orz

599 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/12/22(土) 13:25:22 ID:Q8Tt2V++0
>>591
ケイイチのダメっぷりが他人の気がしない。次回にも期待っ!
> 日本に戻れるんだよな?と不安になった。残してきた物が大きすぎる。
黒歴史モナー。処分を友人に頼んでおかないから・・・。

> 11年待った、やりかけのゲームが先日出たばかりなのだ。
11年待ち、テラわろす。
女勇者(?)の生尻、和露た。

>>598
わわ、癒しの魔法の続ききたー。
現実でも彼女さん(?)できたんですね。よかった。
でも、僧侶ちゃん・・・・゚・(つД`)・゚・

600 :タカハシ ◆2yD2HI9qc. :2007/12/22(土) 14:34:57 ID:8/Y6oWwz0
>>599
感想ありがとうございます。
まぎらわしくてごめんなさい。 実は「癒しの魔法」の続きじゃないんです。
設定はおんなじのを使ってるんですが、テーマというかそういうのを共有した「短編」でした。
次からは名前欄に短編て入れておきます。
もちろん、タカハシやまとめ作業の合間に創る話なので、今後いつ書くのかはわかりません。
一ついえるのは、年内にまた書くかもしれないってことだけですw

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