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もし目が覚めたらそこがDQ世界の宿屋だったら11泊目

1 : ◆Y0.K8lGEMA :2007/10/12(金) 00:35:18 ID:5ytk/+MG0
このスレは「もし目が覚めた時にそこがDQ世界の宿屋だったら」ということを想像して書き込むスレです。
「DQシリーズいずれかの短編/長編」「いずれのDQシリーズでもない短編/長編オリジナル」何でもどうぞ。

・基本ですが「荒らしはスルー」です。
・スレの性質上、スレ進行が滞る事もありますがまったりと待ちましょう。
・荒れそうな話題や続けたい雑談はスレ容量節約のため「避難所」を利用して下さい。
・レス数が1000になる前に500KB制限で落ちやすいので、スレが470KBを超えたら次スレを立てて下さい。
・混乱を防ぐため、書き手の方は名前欄にタイトル(もしくはコテハン)とトリップをつけて下さい。
・物語の続きをアップする場合はアンカー(「>>(半角)+ 最後に投稿したレス番号(半角数字)」)をつけると読み易くなります。

前スレ「もし目が覚めたらそこがDQ世界の宿屋だったら九泊目」
ttp://game13.2ch.net/test/read.cgi/ff/1185925655/

PC版まとめ「もし目が覚めたら、そこがDQ世界の宿屋だったら」保管庫@2ch
ttp://ifstory.ifdef.jp/index.html

携帯版まとめ「DQ宿スレ@Mobile」
ttp://dq.first-create.com/dqinn/

避難所「もし目が覚めたら、そこがDQ世界の宿屋だったら」(作品批評、雑談、連絡事項など)
ttp://coronatus.sakura.ne.jp/DQyadoya/bbs.cgi

ファイルアップローダー
ttp://www.uploader.jp/home/ifdqstory/

お絵かき掲示板
ttp://atpaint.jp/ifdqstory/

257 :作り合わされし世界 ◆2yD2HI9qc. :2007/11/06(火) 21:44:55 ID:iRpgzK9P0
二十八、 始まりへの帰路

「なぁ。 さっきのモンスターってお前より強いのかな?」
「キィ! キキィキィ」
「メイジドラキーっていうのか。
 色違いなだけじゃなくて魔法まで使うし、やっぱり強かったんだろうな」

マウントスノーからだいぶ離れた後、ヨウイチは初めて攻撃魔法というものを経験します。
ドラオをピンク色にした外見だけでなく、不思議な炎の波を起こしてきました。
炎の波はメイジドラキーのつぶやきの後に起こったので魔法だと気づいたのです。

「剣で殴ってもなかなか傷をつけられなかったけど、負ける気はしなかったよ。
 なんてったってブルジオさんにもらった革の鎧があったからな!」
「キキ?」
「いや、熱かったよ。
 炎がこう… バァーっと。 お前も見ただろ?
これが旅人の服だと思うと恐ろしいよ。
…けど鎧の下は普通に布で出来た服だし、やっぱり恐いことに変わりは無いかも」

言いながらヨウイチは銅の剣を抜き、眺めます。
刃は若干こぼれており、切れ味を感じることが出来ません。
そもそも銅の剣は斬るというより殴りつけるふうに使うので、鋭い刃ではないのです。

「銅の剣… 何度も助けてくれたんだけどそろそろ限界だよ。
 そういったって、新しいのを買う金もないし…」

ふぅとため息をついてから、銅の剣を鞘へ収めます。

258 :作り合わされし世界 ◆2yD2HI9qc. :2007/11/06(火) 21:48:29 ID:iRpgzK9P0
「まぁ、とりあえず今は大丈夫そうだからいいか」
「キキィ?」
「これからか…
 神殿の手がかりはなんにも無いし、いちどクレージュへ帰ろうか。
女将さんも心配してるだろうし」
「キー! キー!」
「ははっ。
 俺も早く女将さんのご飯を食べたいよ!」

後ろに大きな山が、だんだんと小さくなっていきます。

「この石版と… どこかにある神殿があれば元の世界に帰れるんだ、きっと……」

ドラオはふわふわ軽く飛んでいましたが、ヨウイチの足元には一歩二歩と踏み込めた後がうっすらと残っていました。

259 :作り合わされし世界 ◆2yD2HI9qc. :2007/11/06(火) 21:52:10 ID:iRpgzK9P0
二十九、 モンスター

帰りは順調に進んでいる、つもりでした。
ところが、何処で間違えたのか帰り道とは違う土地へ入り込んでいたのです。
二人は気持ちを落ち込ませないために気づかないふうを装っていましたが、
嫌でも気付かされる事があり、元の路へと引き返そうとしていました。

「くそっ… ドラオ、薬草はいくつ残ってる?」
「キ… キィ」
「五つか。 まずいな…
 お前は怪我してないか?」
「キィキ」
「大丈夫だな。
 とにかく、なんとかしてここを…」
「キキィ、キキキ」
「それは、俺も気付いてたんだけど、間違いであって欲しかったよ。
 …お前の言うとおり、ここは帰り道じゃないみたいだ。
地形が似てるから大丈夫だろうと思ってたんだけど」

メイジドラキーと遭遇したときに周りを良く見渡せばよかったのです。
あの時から方向を見失っていました。

「モンスターが強すぎる…
 もうこの剣に鎧じゃ太刀打ちできそうには…
もしかするとここで…」
「キ! キーキーッ!」
「ふぅ、そうは言っても薬草は節約しなきゃだめだよ。
 とにかく、どこでもいいから町へいける路を見つけるまではガマンするよ。
目処がたつまでとにかくモンスターからは逃げるんだ」

ヨウイチのお腹には大きな爪痕がありました。
大きく削られたそこからは勢いこそなくなりましたが血がしたたります。

260 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/11/06(火) 21:54:34 ID:aGQ9ch840
支援!

261 :作り合わされし世界 ◆2yD2HI9qc. :2007/11/06(火) 21:57:55 ID:iRpgzK9P0
「ここなら、隠れられそうだ」

ヨウイチが見つけたのは大きな岩に囲まれた平地です。
痛みと出血で弱った身体を休める事にしました。

「イテテ… まいったな…」
「キィ…」

ドラオが心配そうにヨウイチを覗き込みます。

「だいじょうぶ、少し休めば元気になるよ」
「キィ〜?」
「いや、いい。 ほんとに大丈夫だから」
「キキッキキキィィ」
「…わかったよ、薬草ひとつ食べるから。
 それだったらいいだろ? お前、戦えもしないのに探しにいくったって…」

ドラオはヨウイチのために薬草を探しに行こうとしていました。
ですが、こんなにもモンスターの強い場所で一人にさせるわけにはいきません。
ヨウイチは荷物から薬草一つを取り出し口へ放り込みました。

「むぐ、ニガイ………
 ほら、傷口がふさがったよ。 な?
もう大丈夫だ」
「キィ〜〜」

ドラオが安心したようにくるくる飛び回ります。
そんな姿を見ていると、なんだかずっと昔から友達だった気がして、ずっと一緒に旅をしたいとも思うのです。
けれどヨウイチは別世界の人間で、今まさに元の世界へ帰る方法を探しています。
帰ることが出来れば別れが訪れ、お互いは二度と会うこともないでしょう。
ですからこの瞬間をせめて楽しく、無事に旅を終わらせたいと強くつよく信じるのです。

262 :作り合わされし世界 ◆2yD2HI9qc. :2007/11/06(火) 22:01:54 ID:iRpgzK9P0
「傷も治ったし、暗くならないうちにいこうか」
「キィ」

立ち上がり一歩、感じたことの無い不穏な空気があたりを包み始めました。
ヨウイチはとても嫌な予感がして、ドラオを促し早足でもときたであろう路を引き返し始めます。
空にはとうとう夕暮れが始まろうとしていました。

「…やばいな」

その時です。
はっきりと何かが駆け始めたと感じた瞬間、目の前に不安の正体が姿を現しました。

「くそ!!」

急いで銅の剣を突き出します。
ドラオも一生懸命にヨウイチのやや後ろへと下がりました。

「なぜ人間とわれわれ魔の者が行動を共にしている?」

全身をローブで覆われ片手に杖を携えるモンスター、まどうしです。

「お、俺達に戦う意思は無い! だから─」
「ドラキーよ、貴様はこの人間に操られているのか?
 ならばいますぐその縛を解いてやろう」

ヨウイチの言葉を無視し、まどうしがスライムナイトと同じような仕草を始めます。

「やめろ!!」
「…ラリホー!」

263 :作り合わされし世界 ◆2yD2HI9qc. :2007/11/06(火) 22:06:54 ID:iRpgzK9P0
剣を振りかぶりまどうしへ切りかかりましたが、刃先が当たる瞬間身体から力が抜けてしまいます。

「う、あ、なんだねむい…」

とても我慢できるような眠気ではありません。
まどうしは何も無かったかのように再び、ドラオへおかしな術を施しています。
ドラオをみると怯えてはいましたが、目は釣りあがり明らかに変化し始めていました。

「くっ…」

ドサリと地へ身体ぜんぶを横たえ、重くなったまぶたと一緒に意識が薄れていきます。
どうにか目線だけをドラオへ向け、驚きました。
それはドラオではなく、ヨウイチを今にも襲わんとするモンスターと化していたのです。

「どう、して…… どらお… ドラオー!」

力を絞りドラオへ呼びかけます。
ドラオがどうしてしまったのかはわかりませんが、ヨウイチを見ながらただケケケと笑うだけ。

覚えているのはそこまでです。
もう完全にヨウイチは、求めない深い眠りへと落ち、生きているのか死んでいるのかわからなくなりました。

264 :タカハシ ◆2yD2HI9qc. :2007/11/06(火) 22:07:43 ID:iRpgzK9P0
今日は此処まで。
お粗末さまでした。

まとめ作業は停滞しております。
いましばらくお待ちください。

265 :タカハシ ◆2yD2HI9qc. :2007/11/06(火) 22:08:32 ID:iRpgzK9P0
>>260
支援ありがとうございました!

266 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/11/06(火) 22:26:54 ID:aGQ9ch840
乙!! ヨウイチもドラオもヤバイ……(´;ω;`)ブワッ

267 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/11/06(火) 22:47:34 ID:GzrDtcvZ0
ぐあ、まどうし、こぇぇぇぇ。
無事だといいな・・・・。

268 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/11/06(火) 23:57:03 ID:8RyexqQ60
おお、何てこった!ドラオよ〜
またエライとこで終ったなあ。続きが気になるううううううう!

タカハシさん乙でした!

269 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/11/07(水) 14:29:14 ID:2VBeNSHC0
いわゆるひとつの、次回お楽しみにってことだな。

270 : ◆Tz30R5o5VI :2007/11/09(金) 03:09:47 ID:xbdIqUd9O
>>1


271 : ◆Tz30R5o5VI :2007/11/09(金) 03:19:47 ID:xbdIqUd9O
携帯版まとめのほう、ロマリア編3と4が更新されてないけど誰に頼めばいいの?

272 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/11/09(金) 05:24:56 ID:gUqg4lxWO
>>271
まとめサイトにある報告BBSに書き込んでおけば、対応してくれると思いますよ

273 :冒険の書4 ◆8fpmfOs/7w :2007/11/10(土) 07:05:39 ID:q0MZk8+R0
―承諾の承―(>>198-206

俺はゲーム上の出来事に干渉しないため何もしないと決めた。
だが本当に何もしないというわけではない。
要するに導かれし者たちのような主要キャラに接触しなければいい。
ゲームでのイベントを変えるようなことをしなければそれで良いわけだ。

そう考えればいろいろできることは多い気がする。
俺はこの世界のことを知りたいという好奇心にかられてしまっているのだ。
建物、食べ物、服装、文化、風習、動物、植物。俺の興味は尽きない。
しかし、世の中知らない方がいいことがあるものだ。
だが俺は知ってしまった。この世界のモンスターの恐ろしさを。

俺はいつの間にかブランカの敷地から外に出てしまっていた。
そして何か見たことのない生き物に出くわした。
大きなくわがたのような昆虫。
分かった。あれはモンスターの「はさみくわがた」だ。

奴は俺に気がつくといきなり襲い掛かってきた。
巨大なはさみが俺の腹部を締め付けてくる。
はさみのとげが肉にぐいっと食い込む。

痛い。

さらにぐいぐいと食い込む。信じられないような力で締め付けてくる。
ぐいっ。ぐいっ。ぐいっ、ぐい、ぐいぐいぐいぐい……

痛い痛いいたい痛いイタイいたい痛い!
異常なほど腹が熱い。苦しい。息ができない。
はさみが取れない。取れない取れない取れない。
取れない外れない動けない逃げられない助からな……

274 :冒険の書4 ◆8fpmfOs/7w :2007/11/10(土) 07:08:43 ID:q0MZk8+R0
ああ、俺も終わりなのか、と思っていると急に締め付けがなくなった。
そして、直後に何か焦げ臭い匂いが鼻を襲う。
しかしそんなことを気にする余裕はなく、俺はぜいぜい言いながら空気を吸う。
痛みと苦しみから開放され、俺はやっとこの世界が夢ではないと実感した。

「そんな格好で町の外に出るなんて自殺行為よ。」
急に声をかけられて俺は少しばかり血の気が引いた。
声のしたほうを見ると女の子がいた。しかもすごい美少女。

「そいつはもう倒したから大丈夫よ。怪我はなかった?」
そう言われてはじめて、何かが燃えていることに気づいた。
焦げた匂いをさせていたのは、はさみくわがただった。
彼女が助けてくれたのか。ああ、まるで女神のようだ。見た目も含めて。
俺は地獄からいきなり天国に来てしまったようだ。

はさみくわがたの様子を見るから判断するにおそらくは魔法で倒したのだろう。
俺は改めて自分がドラクエの世界にいるんだということを思い知った。
この娘は魔法使いなんだろうか。
ドラクエ4の魔法使いといえばマーニャかブライだ。
だが、この娘はマーニャではないだろう。
この可憐な少女があのふんどし姉さんのわけがない。
いや、決してふんどしが嫌いだというわけではないのだが。
言うまでもないが彼女がブライのわけがない。あるはずがない。

つまり俺は彼女に干渉しても問題ないわけだな。よしよし。

「助けてくれてありがとう。何かお礼をさせてもらえないかな。」
俺は思い切って彼女に言ってみた。
彼女は少し迷ったようだがすぐにこう答えた。
「それじゃ私の買い物に付き合ってくれる?」
俺は二つ返事で承った。

275 :冒険の書4 ◆8fpmfOs/7w :2007/11/10(土) 07:10:45 ID:q0MZk8+R0
買い物といっても彼女が買うのは日用品ばかりだ。
洋服やアクセサリーではないけれど、そこまでデートっぽくなくても満足だよ俺は。
聞けば彼女は田舎に住んでいて、ときどきこうしてブランカまで買い物に来るそうだ。
村人の分も含め生活に必要なものを調達するのだという。
可愛い上になんていい子なんだ。
こういう娘は幸せにならなきゃ嘘だよな。
ああ、できることなら俺が幸せにしてやりたい。それで俺も幸せになりたい。

「重くない?」
「これくらい大丈夫さ。」
俺は彼女の買う品物の荷物持ちをしている。
ああいい子だ。俺のことを気遣ってくれる。いやーホント可愛いな。
こんな可愛い娘と知り合えるなんて現実世界じゃいないよなー。

いままで知り合った可愛い子を思い出そうとすると小学生時代までさかのぼってしまう。
同級生だったリカちゃんという可愛らしい子がいたんだ。
リカちゃんは自分のことを「僕」というんだよな。
そのことで皆にからかわれていたけど、俺だけ可愛くていいじゃないかって言っちゃってさ。
小学生にありがちなことだけど、今度は俺がからかわれたりしていたっけ。いい思い出だ。
そいうえば小学校の同窓会の話があったんだよな。
行ってみようかなー。いや、無事に帰れたらの話だけど。
でもこんなかわいい娘と知り合いになれるなら帰らなくてもいいかなーなんて……

「どうしたの。何か考え事?」
「いやなんでもないよ。」
彼女が俺の顔を覗き込むように見てくる。
俺の目の前に彼女の顔がある。
改めて見てもやっぱりいい。なんというか神秘的な美しさだよ。

276 :冒険の書4 ◆8fpmfOs/7w :2007/11/10(土) 07:12:47 ID:q0MZk8+R0
何かこうして2人で日用品を買うのって夫婦みたいだよな。
こんな嫁さん欲しいよなー。
朝起きたら彼女が朝食を作ってくれているのだ。
ええのう。実にええのう。

嫁といえばこんな童話がある。ネズミの嫁入りという話だ。
ネズミが最強の婿をもらおうと太陽に嫁入りしようとする。
しかし太陽は雲に隠されてしまう。そこで次は雲にもらわれようとする。
だが雲は風に飛ばされる。その風は壁にさえぎられてしまう。
壁に嫁入りをしようとしたときその壁はネズミに向かってこう言うのだ。
「私が最も強いだなんてとんでもない。壁を簡単に破る者がいるではないですか。」
それを聞いてネズミたちは悟ったのだ。
世界で一番強いのはアリーナ姫であると。

以上ドラクエジョークでした。絶好調だな俺。

しかし幸せな時間というものは長くは続かないものだ。
そのときは突然にやってきた。

「今日は荷物を持ってくれてありがとう。」
彼女の買い物が終了した。彼女はこのまま自分の村まで帰るという。

お別れか。お別れのときなのか。
このまま終わっていいのか。

否! なんとしても次につなげなければ。
「君はどこに住んでるの? 良かったら送るよ。」
俺は再び精一杯の勇気を振り絞って聞いた。
だが……

277 :冒険の書4 ◆8fpmfOs/7w :2007/11/10(土) 07:14:19 ID:q0MZk8+R0
「私の住んでる場所を聞いてどうするつもりなの!」
ああ、ものすごい拒絶反応……。ストーカーだと思われたのだろうか。
よく考えたらモンスターの出るなか俺が送るなんてできないんだよな。
そうだよ。俺がバカだったんだ。全ては俺のせいですよ。

俺が唖然としているのを見て彼女は自分の口調のきつさに気づいたようだ。
「ごめんなさい。でも、どうしても教えられないの……」
変に気を使わないでくれ。いっそのことばっさり切り捨てておくれ。
クリフトみたいにマホカンタしてる敵にザラキ唱えれば楽に逝けるかな……

振られた。なんだろうこの悲しさ、この寂しさは。
何か最近これに似た経験をした気がする。どこでだっけ。
思い出した。姉ちゃんが子供の名前を考えているときだ。
俺が「トンヌラというのはどうだろう?」と提案したときの姉ちゃんの反応。
もちろん冗談だったのに、姉ちゃん本気で嫌がっていたっけ。
あれ昔だったら乗ってくれていたよ。ちょっと寂しかった。
でも、意外なことにお義兄さんのほうが話に乗ってくれたんだよな。
姉ちゃんはいい人を見つけたもんだ。
それなのに俺ときたらゲームの世界ですらこのありさま……

名前といえばこの娘の名前を聞いていなかったじゃないか。
「せめて、せめて名前だけでも教えてよ。俺の名前はジンって言うんだ。」
その女の子はすぐに笑顔になってこう言ってくれた。
「名前なら教えてあげられるわ。」
しかし彼女の名前を聞かないまま別れたほうが楽だったのかもしれない。
俺は世の中には知らない方がいいことがあると改めて思ったのだ。

「シンシア。私の名前はシンシアよ。」

―「転職の転」へ続く―

278 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/11/10(土) 11:40:35 ID:Hr84AUuX0
うは、女勇者きたーーー(・∀・)

279 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/11/10(土) 12:03:24 ID:Bo4/6xxCO
シンシアは勇者じゃなくてエルフの方やんw

280 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/11/10(土) 16:04:24 ID:YPLfSd2l0
おお、そうだった・・・・orz

281 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/11/10(土) 17:50:34 ID:ou84x4oN0
>>277

スラスラと読めてしまうのは文章の巧さか
物語も今までのSSと違う切り口で絶妙!
続き楽しみにしてるよ

282 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/11/10(土) 20:42:17 ID:IAR8AtOx0
干渉しちまったわけだなw
面白い。続き楽しみにしてます

283 :作り合わされし世界 ◆2yD2HI9qc. :2007/11/10(土) 21:23:32 ID:s21p2SaR0
作り合わされし世界

           FF・ドラクエ板

 『もし目が覚めたらそこがDQ世界の宿屋だったら』

         10スレ記念合同作品


    〜作り合わされし世界〜

    → 冒険をする
        1:しなの  Lv10
     → 2:ヨウイチ Lv10
        3:タロウ  Lv6


>>263より

284 :作り合わされし世界 ◆2yD2HI9qc. :2007/11/10(土) 21:26:37 ID:s21p2SaR0
三十、 こころ

クレージュの宿屋にいました。
身体は調子よく、天気はカラカラで気持ちよい気候です。

「女将さん、おはよう」
「ああ、今ちょうど暇になったところだよ」

そういって女将さんがお茶の入った器二つと一緒にヨウイチを席へ座らせます。

「おはよう。
 …どうだい、落ち着いたかい?」

まどうしとの戦いから、ヨウイチは眠ることもせずただクレージュを目指したのです。
宿屋へつく頃にはすっかり疲弊しきってあまり話もせず一晩を過ごしていました。

「うん…」

ヨウイチは一つうなずき話し始めました。

「…ドラオなんだけど、さ。
 ドラオは死んでしまったんだ。 理由、全部は俺が弱いせいだった」



285 :作り合わされし世界 ◆2yD2HI9qc. :2007/11/10(土) 21:33:15 ID:s21p2SaR0

「キ、キィィィ!」

瞳がぼんやりと世界を写し、ドラオの声と戦いの風を感じます。

「う… ど、ドラオ?」

まどうしが放つ魔法「ギラ」を素早い動きでかわすドラキー。
ヨウイチにはわかりませんでした。
ドラキーの身体は白く、まどうしと同じ攻撃魔法を使うのです。
ドラオのような雰囲気を持ちながら、けれどもドラオとは違っていました。

「お、おい! ドラオ… なのか!?」

まどうしはかなり弱っていましたが、巧みにギラをドラキーへと引火させます。
炎を浴びるドラキーもまた火傷や傷を負いつつ、鋭いツメで応戦していました。

「なぁ!!」

とっさに、戦いのさなかだというのに声を荒げてモンスターへと近づこうとしましたが、
どうやら眠らされている間に攻撃されてしまったようです。
足や腕に激痛が走り立ち上がるのがやっとでした。

「キッ!!」
「ぐぅっ!!」

286 :作り合わされし世界 ◆2yD2HI9qc. :2007/11/10(土) 21:38:44 ID:s21p2SaR0
その時、戦いは決着を見ます。
ドラキーの胴体にはまどうしの杖が飲み込まれ、まどうしの首はドラキーのツメによって切り裂かれたのです。
ヨウイチは動けず、お互いが崩れ落ちていくのをただ見ているしか出来ません。
やがてまどうしの首から噴出した血はわずかになり、地面をじわりと染めるだけになりました。
ドラキーは杖の当たり所が悪かったのかそのまま地面へ落ち、大きくゆっくりと呼吸を繰り返すだけです。

「あ… おい! お前はドラオなのか?!」

ヨウイチがようやく我を取り戻す頃には、白いドラキーの息も絶えつつありました。
腕に抱え上げるとその身体はとても重く、力が失われつつあることを知らしめます。
そして、顔を見てはっとしました。
表情はいつも見慣れたドラオだったのです。
色は違いますが元のドラオに戻り、戦っていたのです。

「き… きぃききぃきききききぃ…
 き、キィキー、キィー……」

ヨウイチの身体の傷が治るのと一緒に、ドラオの身体が不思議な光に包まれすぅと消えてしまいます。
両の腕は軽くなりそのまま空を抱くだけでした。

287 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/11/10(土) 21:40:53 ID:BU4ljMjbO
支援(T_T)

288 :作り合わされし世界 ◆2yD2HI9qc. :2007/11/10(土) 21:43:39 ID:s21p2SaR0

「…ドラオが守ってくれたんだね」

女将さんはショックをうけていましたが、優しく言います。

「そう、ドラオ。
 最後に回復魔法をかけてくれて、それから言い残して…
どうして白い身体になったのかはわからないけど、そんなことより…」

悔しくて仕方がありません。
大事な友達が、ずっと一緒に歩いてきた友が、自分を守るために命を落としたのです。

「ヨウイチ」
「……俺はずっと、ずっと一緒に旅したいって。
 俺が守っていくはずだった、なのに眠って……
女将さん、ドラオは俺を恨んだりしてないかな」

女将さんは少し黙って、それからヨウイチの肩に手を置いて言いました。

「あんたはなんにも悪くないんだよ。
ただのモンスターから戻ったのも、ドラオのこころにヨウイチがいたからなんだから。
最後の言葉はきっと、守れてうれしかったんだろうね。
…恨んだりなんかしないよ、ドラオはヨウイチが大好きだったんだよ」

289 :作り合わされし世界 ◆2yD2HI9qc. :2007/11/10(土) 21:49:06 ID:s21p2SaR0
三十一、 旅の続き

「じゃあ、女将さん。
 たくさん、返せなかったけどいっぱい、ありがとう」
「いいんだよ。
 私もあんたと出会えてうれしかったし。
きっと、目的を果たせるといいね。
良い意味で、もう会うことがない事を祈ってるよ。
……まぁ、どうしようもなくなったらいつ戻ってきてもいいんだよ!」

その言葉にうなずいて宿屋を離れ、なるべく振り返らずクレージュの町を後にします。
少し外れた大地の上で大きな空を見上げて深呼吸し、それからまた歩き始めました。



それから二週間ほど後の晩、海の見える森の中にドラオの墓を立て言いました。

「いろいろあったよなぁ」

ネックレスをその墓へおき、旅やドラオやシエーナの女の人、そしてゲレゲレを思い出しくすりと笑います。

「しっかし、女将さんもよくこんな剣を手に入れられたな」

体のすぐ側に銅の剣よりもっと強力な破邪の剣を携えます。
女将さんが神殿の噂と一緒に入手しておいてくれたものでした。

290 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/11/10(土) 21:52:50 ID:q0MZk8+R0
.

291 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/11/10(土) 21:55:00 ID:NYRwan280
支援

292 :作り合わされし世界 ◆2yD2HI9qc. :2007/11/10(土) 21:56:05 ID:s21p2SaR0
「…ドラオ、本当ならお前と一緒にこの場所にいたかもしれない。
 俺はお前が本当に俺と旅をしてよかったのかってまだ迷ってる。
もし、女将さんと一緒だったら死なずにすんだのに…
ほんとに俺を守れてうれしかったのか?」

クレージュを出てからどの町へ立ち寄ってもキレイな場所を見つけても、素直に喜べませんでした。
それは、今までならドラオと分け合ってきた喜びや感動が半分になってしまったからです。
もし、ちゃんとした別れが出来たなら半分にはならなかった、ヨウイチはそう考えていました。

「お前の行動に報いるには、俺はぜったいに帰らなきゃならない。
 …叶うならお前に会って一言だけでも交わしたい」

空は答えを与えず願いは叶いません。
流れ星がいくつか線を引いた後、やがてまどろみ始めます。

陽が昇ればまた旅は続きます。
目が覚めればいつものようにドラオを探してしまうでしょう。
それでも、歩かなければならないのです。
よく聞くことがあります。

293 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/11/10(土) 22:02:43 ID:Sv/zpao+0
支援

294 :作り合わされし世界 ◆2yD2HI9qc. :2007/11/10(土) 22:03:24 ID:s21p2SaR0
『時間が全てを癒してくれる』

それは確かなことでしょう。
これからの路は全てが悲しいものではありません。
苦しくも楽しく、辛くとも幸せな事の繰り返しです。
そうやって悲しい記憶はたくさんの思い出の一つになって、ほんの少しだけ薄れるのです。
忘れるのではありません。

ヨウイチもそれは知っていました。
ですが、時間は過ごさなければ流れません。
その時間を過ごす間をどうすればいいのか、まだわかりませんでした。

考えているうちに眠りへと落ちます。
その困難な時間を過ごす明日を迎えるためにそして、元の世界へと帰るため。





最終章へ

295 :タカハシ ◆2yD2HI9qc. :2007/11/10(土) 22:05:08 ID:s21p2SaR0
合作のヨウイチ編は以上です。
迷う表現もありましたが、思い切って。
最終章でまた。

あ、まとめはとっても停滞してます…

296 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/11/10(土) 22:05:38 ID:CY6aEvyb0
投下乙でございました。
いよいよ最終章、wktk


297 :タカハシ ◆2yD2HI9qc. :2007/11/10(土) 22:50:34 ID:s21p2SaR0
大事なことを忘れていた。

>>支援
ありがとうごいざいました!

298 : ◆Y0.K8lGEMA :2007/11/10(土) 23:56:38 ID:wSm2A5uf0
では、そろそろ時間ですので第十話前半を投下します。

LOAD DATA 第九話>>242-249

299 :背水の刃【1】 ◆Y0.K8lGEMA :2007/11/11(日) 00:03:35 ID:wSm2A5uf0
進軍を告げる太鼓が打ち鳴らされる。
勇ましい太鼓の音に合わせ、足音が通り過ぎる。
人々の歓声は聞こえない。
枠だけの窓にボロのカーテンを閉め、静まり返った町並みを足音が通り過ぎる。
鬨の声は挙がらない。
聞こえるのは一人の兵士の足音と、金属同士が擦れ合う不快な音。
静まり返った町並みを、一人と一個が通り過ぎる。
誰にも祝福されない二つの影が、城下町を通り過ぎる。

城下を一望するラインハット城のバルコニーから、その光景を眺める三つの人影。
血のように赤い酒の注がれたグラスを優雅に傾ける金髪の王。
一歩下がった場所で、ラベルの擦り切れた瓶を抱える初老の大臣。
王の座る椅子の真横に控えるのは、紫のドレスにその身を包んだ女。

「首尾は?」
「上々で御座います。仰せの通り、討伐隊は南の修道院に向かいました。」
「討伐隊…ね…」

若い王が、大臣の言葉にイタズラな少年のような笑みを返す。
「生きた兵士が一人。それで一隊を編成できるとはね…」
「デール王もお人が悪い。アレの戦力を一番よくご存知なのはデール王でしょうに。」
「さてね…結局アレも、人の力がなければ何も出来ない木偶(デク)に過ぎないさ。」
皮肉に笑う王の持つ空のグラスに酒の追加を注ぎながら、大臣も笑ってみせる。

「人々を束ねるのが王。そして、世の愚鈍な王を束ねるのはラインハット王国。
ならば、世の愚鈍な王どもを束ねるラインハット王国の国王である僕…
デリシア=ドラード=コロナ=ド=ラインハットは…神か?」
注がれた酒を一息にあおり、椅子から立ち上がった王が笑う。
その姿を見て、目だけで笑う女。

王の高笑いも届かない静かな城下町を、一人きりの討伐隊が進軍する。

300 :背水の刃【2】 ◆Y0.K8lGEMA :2007/11/11(日) 00:05:33 ID:wSm2A5uf0
ラーの鏡を入手した俺達は、修道院の一室で休息を取っている。

下着のままベッドに腰掛け、少し硬めの黒パンを齧りながら明日の作戦を練る俺達。
清楚なシスター達に見られたら”行儀が悪い”と怒られそうな、だらしない姿だが、
その表情も話の内容も真剣そのものだ。

ラインハットの異変…デール王の豹変…明日はそれらにカタをつける。
修道院を守る…人々を守る…失敗は許されない。チャンスは一度限り。

「明日はラインハットにとんぼ返りか…侵入経路は前と同じでOK?」
「いや、前回の一件で警備も厳しくなってるだろうし、同じ経路は使えないよ。」
「そっか…じゃあ、別の隠し通路とかはねえの?…ヘンリー?」
「…すぴー…ぴるるるる…」
―……☆…―

さっきまでブラウンと一緒に騒いでたわりに、やけに大人しいと思ったら
二人して爆睡してやがる…

ラインハット〜神の塔での連戦で疲れが相当溜まっていたんだろうな。
ヘンリーは作戦会議もそこそこに、ベッドに潜って寝息を立てている。
「ふわぁ…見てたら俺まで眠くなってきちまったよ。」
「バタバタした一日だったからね。僕達もたまには早く休もうか。」

真っ白でふかふかの布団に顔を埋めると太陽の香りがする。

不思議だよな。
ベッドのふかふかした感触も、布団に残るお日様の匂いも同じなのに、
こいつらは全部、俺の知らない違う世界のモノ。
理論とか生態系は全然違うけど、心地良いものを求める人間の嗜好ってのは、
世界が変わっても同じなんだな…Zzz…
布団から見えていた茶色い髪の動きが止まり、規則正しい寝息が聞こえてきた。


301 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/11/11(日) 00:07:00 ID:FTG7NxH00
しえん

302 :背水の刃【3】 ◆Y0.K8lGEMA :2007/11/11(日) 00:07:27 ID:b7cVpqUV0
「まったく…毛布を蹴飛ばすと風邪ひくよ。」

小さく震えるランプの炎に照らされ、静まり返った部屋。
寝相の悪い二人と一匹に毛布を掛け直していたサトチーが、何かに気付いたように
一点を見つめ、立ち上がる。

その目線の先には鞘に収められ、壁に立てかけられた剣。
別世界からやって来たという少し年上の若者が軽々と操って見せた伝説の剣。
サトチーの手が、ゆっくりと天空の剣に伸びる。

自分の内から響く鼓動さえもうるさく聞こえるような夜の静寂…

「…まじしましま…」
「―!!―」

伸ばしかけたその手が思わず引っ込み、壁から倒れようとする剣を寸前で支えた。
喉から飛び出そうになる大声を必死で飲み込み、そぉっと声の方向を振り向く。

「…むにゃ…Zzz…」

声の主である若者は、深く眠ったままだ。
その額にじっとりと浮かんだ冷や汗を拭い、荒くなった息を整えるサトチー。
「…寝言……ふぅ…僕もどうかしてるね…」

ふわ…と溢れる小さなあくびを口元で押さえ、ベッドに戻るサトチー。
「そんなはずないよね…」

枕元に置かれたランプの炎を吹き消し、部屋に本当の宵闇と静寂が訪れる。

―そういえば、ビアンカは元気かな…
   この件が落ち着いたら一度アルカパに行ってみようかな…―

303 :背水の刃【4】 ◆Y0.K8lGEMA :2007/11/11(日) 00:08:49 ID:b7cVpqUV0
修道院の朝は早い。
シスター達は皆、夜明け前に起床し、朝の祈りと朝一番の水を神に捧げる。
厳かな祈りが終えた後に宿泊客を起こし、顔を出す朝日の中で朝食の準備が始まる。
時計もないのに実に正確な毎日。

…の筈だが、今日の目覚めはいつもとは明らかに違った。

寝室のドアが勢いよく開け放たれ、血相を変えたシスターが飛び込んでくる。
ドアが壁にぶつかる派手な音で、俺達は叩き起こされた。

「…た…助けてくださいまし。修道長が…」
「落ち着いて。一体何があったんです?」
飛び込んできたシスターが、おろおろと震えながら話を続ける。
「い…今しがたラインハットの兵がやってきまして、ヘンリー様を出せと…
修道長が院の前で足止めされていますが、このままでは…」

ラインハット兵にシスター・シエロが?

鎖帷子を着込み、ひったくるように天空の剣を手に取る。
「サトチー!」
「わかってる。急ぐよ!」

ざわざわした多数の声。荒々しい男の声。子供の泣き声。
静かな修道院には相応しくない喧騒の先にシスター・シエロはいた。

「女を傷付けたくはない!さっさとヘンリー様を出すのだ!」
「お静かに。神の御前で無礼ですよ。迷いがおありなら私がお話を伺います。」
「黙れ黙れ!私に迷いなどあるものか!修道女に用はない!」

大声で威圧する男を前に、シスター・シエロは一歩も下がらない。

「シスター・シエロ!大丈夫か!?」

304 :背水の刃【5】 ◆Y0.K8lGEMA :2007/11/11(日) 00:10:27 ID:b7cVpqUV0
シスター・シエロの前に踊り出て、横一列の壁を作る。
相手は一人…周囲を探ってみても、仲間が隠れている気配はない。
「追っ手は君一人かい?」
サトチーが怪訝そうに甲冑の男に問い掛ける。

俺達の前に対峙する兵士は一人。どこかに仲間が隠れている様子もない。
甲冑で身を包んだ男はそれなりに強そうな風体だが、1対5のこの状況で
…今の時間だとスミスは戦えないから1対4か…ともかく負ける気はしない。
…男の背後に置いてある、布をかぶった物体は気になるが…

サトチーの質問を無視して、甲冑の男がこもった声をヘンリーに投げ掛ける。
「ヘンリー様…大人しくデール様の前に出頭して頂けませんか?」
「はぁ?」
剣の柄に手を掛けるヘンリーの口から間抜けな声が漏れる。

「非礼を詫び、王家に忠誠を誓えば、兄であるヘンリー様の命をとるような事は
 なさらないでしょう…どうか考えては…」
「却下だ。」
兵士の懇願に親指をピッと下に向けて答えるヘンリー。
「ふん。曲がっちまった子分の性根を叩き直してやるのも親分の役目だ。
 迎えなんざよこさなくても城に戻ってテメエの尻っペた引っぱたいてやる。
 城に帰ってデールの奴にそう伝えな。」
「ですがヘンリー様…」

まだ何か言いたそうな兵士の前に、サトチーと俺が進み出る。
「だ が 断 る…ってヤツだ。あんたも男なら引き際が肝心だろ?」
「この場は退いてくれません?あなたも勝ち目のない争いは望まないでしょう?」
サトチーの言葉が半ば脅しのように聞こえるがキニシナイ。

「私は…退くわけにはいかない……勝ち目のない争いをするつもりも毛頭ない…
 嘗て仕えたヘンリー様を討つのは心苦しい…ですが、今の私は軍人…」
背後の物体にかけられた布に、男の手がかけられる。

305 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/11/11(日) 00:11:46 ID:FTG7NxH00
支援

306 :背水の刃【6】 ◆Y0.K8lGEMA :2007/11/11(日) 00:12:00 ID:b7cVpqUV0
「ヘンリー様…いや、国賊ヘンリー。主君より賜った任務により討伐する!」
物体を覆い隠していた布が、男の手によって一気に引き剥がされる。

中から現れたソレ…
つるんとした曲線を描くシルバーのボディーから伸びた昆虫のような手足。
左手に大剣、右手にボウガンを搭載したソレの頭部から覗く無機質な目(?)が
俺達一人一人を順に見渡すようにサーチする。

コレは……機械?

「サラボナ地方を徘徊する古代のカラクリ…メタルハンターはご存知ですか?
 それを捕え、ラインハットの技術で改良した究極の殺人用カラクリ…
 …名付けて『プロトキラー』…まだ試作段階なので手加減は出来ませんよ。」

金属音と機械音を体中から響かせ、プロトキラーと呼ばれたソレが戦闘体勢に入る。

「こいつ…城の中庭で見たアレじゃねえか。」
「なんで…こっちの世界にこんな技術が…」
「シスター達を巻き込むわけにはいかない。修道院から離れるぞ!」
―!!!!―

サトチーの指示で四人一斉に駆け出し、修道院からの距離をとる。

考えるのは後だ。どうせ考えたって答えなんかわかりゃしねえ。
人殺しの為だけに作られた機械の兵士…
今はとにかく、この忌々しい機械をぶっ壊す。

「メタルハンターの装甲すら粉砕するプロトキラーの力…とくと思い知れ!」
兵士の合図に、プロトキラーの単眼のような光が一層赤く輝き大剣を振りかざす。

無機質な威圧感に自然と震え出す膝を一発引っぱたく。

307 :背水の刃【7】 ◆Y0.K8lGEMA :2007/11/11(日) 00:13:14 ID:b7cVpqUV0
「ヘンリーはガンガン魔法を!僕達は周囲を囲んで一斉攻撃だ!」
「マリアさんには指一本触れさせねえ!――イオ!!」

ヘンリーが放つ魔法がプロトキラーの表層で爆発を起こす。
周囲に広がる土煙を狼煙代わりに、サトチー・ブラウン・俺が同時に斬りかかる。

――ガギン!ガガン!!

耳に残る金属音と、手から体に伝わる痺れ。
機械は、その頭上に掲げた大剣一本で俺達三人の攻撃全てを無造作に受け止め、
続けざまに振るわれたその大剣で、サトチーと俺を同時に横薙ぎに斬り払う。

「…っが…」
咄嗟に背後に跳んで両断は免れたが、鎖帷子を貫通して内臓に衝撃が伝わる。
口内に溜まった血を吐き出しながら、天空の剣を支えになんとか立ち上がると、
既に機械は次の動作に移っていた。

ヤベエ…動作が速すぎる…

上段から振り下ろされる死の斬撃を横っ飛びに転がりながら避ける。
その隙をついて攻撃を試みるブラウンを返す刀で迎撃する。
回復の為に仲間の元へ走るサトチーを鋼鉄の拳で殴り飛ばし、
イオで足止めしようとするヘンリーをボウガンの矢が襲う。

「おいおい。その動きは反則だろ…っと危ねえ!」
「俺は大丈夫だ!イサミに回復魔法を!!」
「わかってる!なんとかあいつの足止めをしてくれ!このままじゃあ近付けない!」

片手で大剣を振るいながら、片手でボウガンを乱射する殺人兵器。
全ての行動が予備動作なしの最短距離で、且つ同時に飛んでくる。
さらに、全ての攻撃が致命打ときたら攻撃どころじゃねえ。
ジリ貧…避けるので精一杯だ。

308 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/11/11(日) 00:14:10 ID:ZUdjEYat0
支援

309 : ◆Y0.K8lGEMA :2007/11/11(日) 00:16:32 ID:b7cVpqUV0
支援ありがとうございました。第十話前半部分投下終了です。

プロトキラーは7仕様ではなく、あくまでもメタルハンターの改良型。
強さ的には メタルハンター<プロトキラー<キラーマシン てな感じです。

投下直後にミス発見…
【1】のデールのセリフの文頭を一字空けてませんでした。
読み難くなってしまって申し訳ないです。

310 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/11/11(日) 08:54:24 ID:xVP7tfl70
乙。
異常が少しずつあらわになっていくのは先が楽しみで堪らんな。

311 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/11/11(日) 16:31:36 ID:d5yI1GEC0
投下乙です。
プロトキラー強そうですね。
これでもキラーマシンよりは<なんですか。
とても勝てそうな気がしないorz

天空の剣、神性がなくなってしまったから、サトチーでも扱えるようになっているのでしょうか・・・。


312 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/11/12(月) 16:58:30 ID:0igRa8l8O
ドラオ……(´・ω・`)ショボーン

313 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/11/13(火) 17:35:22 ID:Soc9GWIDO
保守

314 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/11/14(水) 01:45:24 ID:gw8h2NUyO
合作もうすぐ終わり?

315 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/11/15(木) 00:36:57 ID:yHpc547oO
保守

316 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/11/15(木) 10:47:26 ID:yXuZpFbi0
合作まだまだ終らせないで〜保守

317 :冒険の書4 ◆8fpmfOs/7w :2007/11/15(木) 23:49:54 ID:UCA9Suft0
―転職の転―(>>273-277)

ドラクエ4は何度もプレイした。そのときの俺は勇者の気持ちになっていた。
だからこの世界で俺がシンシアに惚れたのは当然のことなのかもしれない。

ドラクエ4は何度もプレイした。
だからこの世界でシンシアが自分の命を賭けて何をするのか俺は知っている。

俺はこの世界で何もしないと決めた。でも本当は何もできないだけではないのだろうか。
だけど、結局何もできなかったとしても、俺はやらなきゃいけないんだと思う。

俺がシンシアに出会ったことはゲーム上の出来事には何の意味もないのかもしれない。
でも、俺にとってシンシアとの出会いは人生を変えるほどの出来事だった。

ほんの束の間の出来事であっても人生は大きく変わってしまうものなのだ。
だからこそたったひと時の夢のため、俺は全力を賭けようとしているのだろう。

ドラクエ4は何度もプレイした。どんなエンディングが待っているのかも知っている。
エンディングの最後のワンシーン。そのラストのため、俺は……

318 :冒険の書4 ◆8fpmfOs/7w :2007/11/15(木) 23:50:57 ID:UCA9Suft0
シンシアと別れたあと俺はエンドール行きの船に乗ることができた。
金なんて持っていなかったが船で雑用をすることで乗せてもらえた。

エンドールでは武術大会の準備をしている真っ最中だった。
そこで会場設置の仕事を任されている親方を紹介してもらえた。
人手が足りないらしく身元がはっきりしない俺でも仕事にありつけた。
俺は生活費を切り詰めて少しずつお金を貯めていった。

武術大会が始ると同時にカジノが開かれた。
カジノでは武術大会で出場者の勝敗を対象にした賭けが行われていた。
大会中にカジノを開くからにはこの手の賭けをやっているとは思ったのだ。
ゲームの中ではなかったことだが、このくらいの違いはあっても不思議ではない。
ちょうど今、アリーナ姫とミスターハンの試合を対象に賭けが行われていた。

「アリーナ姫が勝つほうに全財産賭ける。」
結果は当然アリーナ姫の勝ち。そこで得たコインを全て次の試合に賭ける。
アリーナ姫はラゴス、ビビアン、サイモンと次々に対戦相手を破っていく。
俺にとっては博打でもなんでもない。結果は分かっているのだ。

結果がわかるといえば、ミネアも占いで未来が分かるのだ。
敵討ちの旅に出るとき彼女にはどんな未来が見えたのだろうか。
絶望的な未来が見えたとしたら、それでも旅をやめようと思わなかったのだろうか。

319 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/11/15(木) 23:51:35 ID:WKJtaFen0
支援

320 :冒険の書4 ◆8fpmfOs/7w :2007/11/15(木) 23:51:59 ID:UCA9Suft0
俺はここで賭けをやめアリーナ対ベロリンマンの試合を見に行くことにする。
ピサロの試合は奴が強すぎたせいで賭けの対象にはならなかった。
カジノを後にしてコロシアム向かう。俺にとっての大博打はここから始まるのだ。

目の前ではアリーナ姫がベロリンマンと戦っている。
会場の隅、セコンドがいるための場所だろうか。クリフトとブライらしき2人もいる。
本当なら導かれし者たちを見て感激のひとつでもしたいところだ。
しかし俺にはそんな余裕はなかった。
俺は息を呑みながらその試合を見ていた。
ベロリンマンの分身はアリーナ姫でも見破ることができない。

試合終了後、俺はベロリンマンに接触することに成功した。
ベロリンマンは人間と友達になりたくてエンドールにやってきたらしい。
そしていつの間にか武術大会に参加していたということだ。
俺はベロリンマンと意気投合し彼を仲間にした。

……今頃アリーナ姫一行はサントハイムの住人が消えたことを知ったころだろうか。

321 :冒険の書4 ◆8fpmfOs/7w :2007/11/15(木) 23:53:01 ID:UCA9Suft0
その後、俺はベロリンマンをつれてボンモールへ渡った。
今度は多少なりとも金があったので渡航にはさほど苦労はしなかった。
ボンモール王はドン=ガアデがいないため橋が作れずやきもきしていた。
俺はドン=ガアデをつれてくることで褒美をもらう約束を取り付けた。

しかし俺はすぐにドン=ガアデを探しに行くことはしなかった。
彼がどこにいるのかは知っている。しかし俺は何もする必要はないのだ。
ボンモール城内で脱獄騒ぎが起こったところで俺は動き出した。
俺はベロリンマンを連れてきつねの村に向かった。きつねヶ原というのだっけ。

そこには村があった。いや、まるで本当にそこに村があるかのようであった。
これは1匹のキツネが神通力によって造っているものなのだ。
村の近くで様子を伺っているとトルネコと思われる男が犬を連れてやってくる。
「ベロリンマン。ひとつ俺の頼みを聞いてくれないかい。」
俺はここでいったんベロリンマンと別れ次の仕事に取り掛かった。

村は姿を消し、ドン=ガアデらしき男が村だった場所から出てきた。
「ドン=ガアデさんですね。ボンモールへご案内します。」
俺はドン=ガアデにそう話しかけ、彼をボンモールに連れて行く。
武器防具を揃えたので俺もこのあたりのモンスターとは渡り合えるようになっていた。
俺もずいぶん逞しくなったもんだ。
そして約束のとおりボンモール王から金を受け取った。

工事は順調に進み、ついには立派な橋が完成した。
落成式の後、俺はドン=ガアデに質問をしてみた。
「橋以外のもの、たとえば家なんて造るんですか?」
最近はモンスターに壊された住宅の修復もやっていると答えた。
そのあと彼の今後の予定も聞いてみた。
彼はしばらく休みを取ってそれから仕事を探すと言った。
「そのときは俺の仕事を請けてくれませんか?」
俺はドン=ガアデにそんな約束を取り付けた。

322 :冒険の書4 ◆8fpmfOs/7w :2007/11/15(木) 23:54:09 ID:UCA9Suft0
完成したばかりの橋を渡り再びエンドールに戻る。
そこで武術開会上設置のときにお世話になった親方に挨拶に行く。
俺は親方に大きな工事があるから人を集めて欲しいと頼んでおいた。

そしてエンドールの東にある洞窟に向かう。
のちにトルネコによってブランカ地方と結ばれる洞窟だ。
俺はその洞窟の奥ににいた老人に話をつける。
そしてトンネル堀を再開するときの人員の確保を任せてもらえることになった。

トルネコはエンドールで店を持ちエンドール王から仕事をもらっていた。
彼がトンネルを掘るのに必要な金を集めるのにそれほど時間はかからなかった。
親方が人を集めておいてくれていたので工事はすぐに始めることができた。

トンネル工事が進む間、俺はベロリンマンと合流した。
彼にはあの村の跡地からキツネをつれてきてもらってきた。
俺はキツネに俺の仕事に協力してくれるように頼んだ。
「ほんの少しだけでいい。君の力で幻を見せて欲しいんだ。」

俺は仲間を連れて再びブランカへ戻ってきた。
シンシアや勇者の住む村はこの地のどこにあるのだろう。
その村の場所は誰も知らない。知らないままでいて欲しい。

誰だってハッピーエンドがいいに決まってる。
けれどこれから迎える結末はハッピーエンドといえるのか分からない。
だけどほんの一瞬でもいい。夢を見る時間があってもいいじゃないか。

肝心なのはこれからだ。最後の大勝負が残っている。
でも、シンシアは、シンシアは俺のこと許してくれるかな……。

―「結晶の結」へ続く―

323 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/11/16(金) 03:20:35 ID:7vCHnK/kO
(*゚ー゚)。oO(どきどき…)

324 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/11/16(金) 03:38:21 ID:sekX5aQr0
その勝負、勝つ方に俺の魂を賭けるぜ!

325 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/11/16(金) 12:48:13 ID:pORu0PX00
もの凄く名作の予感

326 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/11/16(金) 14:06:34 ID:1IAIfOoH0
わくわくする展開

327 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/11/16(金) 18:23:40 ID:uDIbRFkB0
予想を書き込みたいけど我慢。
すっごい楽しみだ。

328 :タカハシ ◆2yD2HI9qc. :2007/11/17(土) 17:09:52 ID:S/kIWObf0
お疲れ様です。
10泊目までまとめました。
ttp://ifstory.ifdef.jp/index.html

もし不備を見つけた場合、避難所掲示板まで連絡していただけると助かります。
11泊目以降のまとめは年末〜来年を予定しています。

329 :タカハシ ◆2yD2HI9qc. :2007/11/17(土) 17:41:05 ID:S/kIWObf0
書き忘れました。
今回合作はまとめていません。
合作については進行度合いでまとめていきますのでご了承ください。

330 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/11/17(土) 20:46:19 ID:IilNZOK40
>>タカハシ殿、乙。

331 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/11/18(日) 03:45:52 ID:XEykQl5d0
タカハシ殿!いつも乙であります!


332 : ◆Y0.K8lGEMA :2007/11/19(月) 20:04:31 ID:Coz8MsIU0
予告時間になりましたので、第十話後半を投下します。

LOAD DATA 第十話前半>>299-307


333 :背水の刃【8】 ◆Y0.K8lGEMA :2007/11/19(月) 20:06:56 ID:Coz8MsIU0
刃が躍る。
弧を描く冷たい軌跡をなぞる様に、俺の頬に赤い筋が描かれる。
鉄腕が廻る。
ブラウンを掴んだまま上半身全体を回転させ、遠心力を持って地面に叩きつける。
矢の雨が降り注ぐ。
無数の風切音の一直線上、ヘンリーの肩に穴が開く。

「ヘンリー!…っ!」

無骨な鉄塊がサトチーの動きを敏感に察知し、回復を妨害する。
既に俺達は傷だらけ。対するプロトキラーのメタリックシルバーのボディーには、
さしたる損傷は見られない。

ぶっ叩かれた腹の中身がグルグルして吐き気がする。
…が、俺なんかよりもヘンリーとブラウンがヤバい。
地面に叩きつけられたブラウンは気絶しているのか、全く動かない。
肩に矢を受けたヘンリーは片手でメラを放っているものの、出血が酷い。

早く治療をしないと…

サトチーも気付いているのだろう。なんとか二人の元へ駆けつけようとするが、
無情な殺人機械が繰り出す無慈悲な猛攻がそれを許さない。

…一瞬だけ、俺があいつを足止めできれば…

背中のカバンから薬草を取り出し、ろくに噛まずに飲み込む
…苦ぇ…けど、体は少し治った。迷っている暇はない。

プロトキラーが振り回す大剣の射程内。危険地帯にあえて飛び込む。
赤く光る単眼が俺をサーチし、俺の体を両断せしめんと大剣を振り払う。

ビンゴ!こいつは俺を第一の標的に定めてくれた。

334 :背水の刃【9】 ◆Y0.K8lGEMA :2007/11/19(月) 20:10:03 ID:Coz8MsIU0
「イサミ!…っ済まない!」
サトチーは俺の行動の意味を理解してくれたらしく、ヘンリーの回復に向かう。

OK サトチーなら絶対にわかってくれると信じてた。

横薙ぎに振り払われる大剣を身を屈めて避け、そのまま水面蹴り。
四本の足で支えられた頑強なボディーが地面に倒れる事はなかったが、
それでも一瞬、鋼鉄の体がぐらりと揺らぎ安定を失う。

その隙に、近くで転がってるブラウンを抱えてダッシュ。
全力で走りながら、薬草をブラウンの口に放り込む…ブラウンはコレで大丈夫。

さて、思った通り、あいつはまだ俺を第一の攻撃目標に捉えている。
後方から飛んでくる矢の的を散らすように、ジグザグに緩急をつけて逃げ回る。

機械の扱いなら、こっちの世界の人間よりも慣れている。
機転や応用力を持ち合わせない、最速の結果だけを求める回路…それが機械の弱点。
今、こいつのセンサーには、派手に逃げ回る俺しか映っていねえ。

真正面から叩いてもこいつの鉄壁のガードに弾かれる。
ならば、サトチーとヘンリーの二人に機械の背後を叩いてもらう。
ホント格好悪りい戦法だな。

とは言え、俺の体も限界っぽい…
意思とは裏腹に、全力疾走していた俺の両足が重くなる。
疲れを知らない機械の攻撃が徐々に生身の俺を捉え始める。

情けねえ…こんな事ならタバコに手を出すんじゃなかったなあ…

脇腹を矢が掠め、大きく体勢を崩す俺の目に映ったのは、
きらきらと星屑の様に飛び散る鎖帷子の破片。
太陽の下で煌く真昼の流星群の中に、小さな影が飛び込んだ。

335 :背水の刃【10】 ◆Y0.K8lGEMA :2007/11/19(月) 20:11:59 ID:Coz8MsIU0
…ブラウン?

抱かれていた俺の腕の中から飛び出し、幽鬼の様に立ちはだかるブラウンは、
俺など意にも介さない様子で機械に向かい合う。
空虚な黒一色の中に、禍々しいまでの闇色の炎を浮かべた瞳。
普段のブラウンとは違う、怒れる鬼神の瞳。

バグン!…と、爆発音にも似た破壊音が響く。
プロトキラーが矢を放つよりも早く、ボウガンの備えられた腕が弾け飛ぶ。

続けざまに叩きつけられる、魔神の如きブラウンのハンマー。
いつにも増して大振りな動きを察知し、機械が初めて回避動作をとる。
轟音を伴わせ、地面にハンマーを食い込ませた小さな戦士に無慈悲な刃が落とされる。
振り上げたハンマーで大剣を打ち払い、再び最上段から力任せの一撃を振るう。

「おいおい…ブラウンの奴、混乱しちまったんじゃねえか?」
肩の傷を治療し終えたヘンリーが、不思議そうな表情でその光景を眺める。
俺もヘンリーも援護する事すら忘れ、ただその異様な事態を眺める事しか出来ない。

混乱?キレた?…違う…アレはもっと…

「魔物の瞳…」
サトチーが震える声で語る。
「人間とは相成れないモンスターの瞳だ。なんでブラウンが…」

―!!!!!―

プロトキラーが、その千切れた腕でブラウンを殴り飛ばす。

機械に感情があるとは思えないが、それは焦りを感じさせる行動。
プロトキラーの演算回路が、今のブラウンと片手で渡り合う事は、
大きなリスクを背負うと計算したのだろう。

336 :背水の刃【11】 ◆Y0.K8lGEMA :2007/11/19(月) 20:14:27 ID:Coz8MsIU0
「ぼんやりしてる場合じゃない。二人とも、ブラウンの援護だ!バギマ!!」
サトチーが呪文を紡ぎ、プロトキラーの足元から巨大な旋風が立ち昇る。

視野狭窄に陥っていたプロトキラーは突然の竜巻になす術もなく巻き込まれ、
その手足をあらぬ方向に捻り上げられる。
大気が轟々と渦巻く内部から、機械の発するノイズ音が聞こえる。

「ルカナンッ!!」
青白い光がヘンリーの両手から迸り、鋼鉄の体を包み込む。
「イサミ!ブラウン!強烈なのをぶちかましてやれぇ!!」

ブラウンが高く飛び上がり、上空からハンマーを振り下ろす。
その大振りに対し回避行動をとるプロトキラーだが、俺の行動の方が早い。
低い位置からプロトキラーに駆け寄り、不安定になった足元に水面蹴り。
地を低く這う俺の足が弧を描いて機械の足を刈り取り、鋼鉄のボディーが倒れる。

「無粋な機械はこっちの世界には似合わねえ。大人しく退場しやがれ!」

倒れたプロトキラーの頭上に、ブラウンの放つ魔神の如き一撃が叩き込まれた。

理性による抑制を失ったブラウンの豪腕で振るわれるハンマーと、
ヘンリーのルカナンで強度を失ったプロトキラーの装甲。

力の均衡は容易く崩れ、空気が弾ける様な音を立てて鋼鉄の装甲が砕け散る。
なおも勢いを失わず深くに喰い込むハンマーは、機械の頭部を完全に押し潰した。


―ビュッ!!


一瞬、大きく鳴り響いたノイズ音を最後に殺人機械はその機能を停止した。

337 :背水の刃【12】 ◆Y0.K8lGEMA :2007/11/19(月) 20:16:03 ID:Coz8MsIU0
試作品…って言ってたな。多分、実戦投入は初めてだったんだろう。
今回は、こいつ自身の実戦データ不足につけ込めたからなんとか勝てたけど、
綿密な実戦データをプログラミングされてたら、俺達に勝ち目はなかったろうな。

さて、残るはあの兵士…え?

―!!!!!―
「うわああぁぁぁぁ!!!」

ブラウンがハンマーを振りかざして、兵士に襲い掛かっている。
その凶声から感じられる明らかな殺意。兵士の頭蓋を砕こうとハンマーを振りかざす。

間一髪でサトチーに取り押さえられたブラウンは、狂犬のような荒んだ目をしている。
ネコの威嚇のように、フー フー と荒い呼吸をする姿は、やはり正気とは思えない。
サトチーの胸に抱きかかえられながら、自分を捕縛する腕を振り解こうと暴れまくり、
既にサトチーの両腕は傷だらけになり、血が滲んでいる。

「ブラウン…ブラウン…一体どうしたんだ?」

今のブラウンの瞳には無邪気さや優しさは感じられない。
本能のままに人間を襲い、その命を奪おうとする狂気が染み出している。

変貌したブラウンを抱くサトチーの両目に困惑の色が広がった。


イサミ  LV 15
職業:異邦人
HP:18/74
MP:12/12
装備:E天空の剣 E鎖帷子
持ち物:カバン(ガム他)
呪文・特技:岩石落とし(未完成) 安らぎの歌 足払い

338 : ◆Y0.K8lGEMA :2007/11/19(月) 20:22:37 ID:Coz8MsIU0
第十話投下終了です。
暴走ブラウンの様子は、マジバトル状態のネコを想像してください。

339 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/11/19(月) 20:47:11 ID:OpTrkWbw0
ブラウンはどうしちゃったのかwktk

340 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/11/19(月) 21:12:18 ID:1l8HjDpa0
乙。マジギレ猫の暴れっぷりは異常。wktkしながら待ってますね。

341 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/11/19(月) 23:23:54 ID:J/aNqQyc0
ブラウンのレベルのところに赤文字で「らん」って出てるんだろうな

342 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/11/20(火) 13:44:10 ID:CTSuICZ80
ブラウン気になるよブラウン・・・
それから足払い習得おめ!

343 :Stage.11 hjmn ◆IFDQ/RcGKI :2007/11/20(火) 23:34:26 ID:i1b28PFw0

アルス「ちーっす」
タツミ「どうもー。僕もいよいよ勇者試験です。うう、なんか緊張してきたなー」
アルス「俺は知らないことになってるが、うちの国王とヤベエ約束してんだろ。大丈夫か?」
タツミ「おや心配? 常に首席のこの僕が! 『試験』で不合格、なんてあるわけないネ♪」
アルス「あーさいすか。(どこが屍の目だよ。やっぱユリコパパの勘違いだと思うがなぁ……;)」
タツミ「それでは恒例サンクスコール、今日も張り切って行ってみましょー!」

アルス「>>222様、文字通りの真剣勝負! お互いに大ケガしなくて良かったよ。しかし……
   (ヒソヒソ)こいつが人殺しとか、俺も思えないんだよな。なるべく早く真実を確認してみるな」
タツミ「なにそこヒソヒソやってんの。>>223様、ゲームサイドですみません(-人-)
   物語の進行上こちらの投下になりました」

アルス「続きまして、まとめにいただいたレスへのサンクスコール」
タツミ「>>239様……とは初顔合わせ(?)になるみたいですね。ここはきちんとご挨拶を」
 R『作者の◆IFDQ/Rです。宿スレ九泊目から常駐させてもらっています。かなりDQ離れしてる上、
   やたら込み入った話を書いておりますが、楽しんでいただけたら幸いです』
アルス「>>240様、遠慮してたっつーか……実は俺もタツミに重要なことをわざと言ってなくて、
   そこを突っ込まれたくないってのもあったんだよな。じれったくさせて申し訳ない」
タツミ「またそこ読者様とコソコソやってるし。そう言えば誕生日で思い出したけど、
   僕、ドラクエ3ってクリスマスプレゼントでもらったんだよねー」
アルス「だから俺の誕生日12月24日なのかよ! ホントこだわり無えっつーか思い入れ無えっつーか!」
タツミ「ええ〜、4周もしてるんだからやり込んでる方だろ?」


アルス・タツミ『それでは本編スタートです!』


【Stage.11 勇者試験 [前編] 】
 ゲームサイド [1]〜[6]

344 :Stage.11 [1] ◆IFDQ/RcGKI :2007/11/20(火) 23:40:00 ID:i1b28PFw0
Prev >>225-237 (Game-Side Prev >>108-119)
 ----------------- Game-Side -----------------

「我々魔術師は、世界は膨大な一個のプログラムで構築されている、と考えています。そ
の根源的な構成文書の一部に、直接働きかけて実行させるのが魔法である、と」
 小難しい魔術理論の本を挟んで、テーブルの向かいに座っているエリスが説明する。僕
がうなずくと、彼女は本を閉じて横にどけ、目の前にピッと指を立てた。
「世界に起こりうるすべての事象と結果には式が存在します。たとえばメラ」
 立てた指の先に「ボッ」と火が灯もる。
「この座標に同規模の発火を生じさせる手段はいくらでもあります。ロウソクを使っても
いいし、丸めた紙の先を燃やしてもいい。実際に火が着いたのですから、結果そのものは
すでに構成文書の中に存在しています。その結果式に術者の意志をアクセスさせ、結果の
みを先回りして実行させるわけです」
「だけどロウソクや紙というのは、燃焼する物があっての結果だよね?」
「はい、物事が実働するためには対価が必要です。その実働エネルギーに代替えとして充
当されるのが術者自身の理力、つまりMPなんですね」
 なるほど。MP消費量が多ければ、より広範囲に大きく結果を出せることにもなる。
「結果式の検索にもっとも大切なのが、あらゆる『過程』を瞬時に『仮定』するイメージ
力なんです。専門用語では『検索アルゴリズムの設定』と言いますが」
 勇者様の得意分野ですよ、とエリスが微笑む。
 構成文書、つまりこの世界を構築するプログラム群の中から、必要な『結果式』を探し
出すための、もっとも効率的な手順を素早く設定する能力。
「私の場合は『精霊による力の発現』というイメージを手がかりにアクセスしています。
イメージがブレないための詠唱なので、今のメラのように慣れた呪文は省略してますね」
 逆に慣れ過ぎると意識が不用意に結果式にアクセスしてしまうことがある。そこで誤作
動を防ぐため、術の行使には実行を確定するキーワードが存在し、「メラ」や「ギラ」な
どの言葉が当てられている。パソコンで言えばEnterキーってところか。

 ここはランシールの宿屋の一室。僕はアリアハンから引き続き、エリスに呪文の講義を
受けていた。

345 :Stage.11 [2] ◆IFDQ/RcGKI :2007/11/20(火) 23:41:29 ID:i1b28PFw0

 一級討伐士の試験はランシールの単独洞窟攻略、さすがに簡単な回復呪文くらい使えな
いとマズイってんで、アリアハンを出発してからずっと詰め込み授業をしている。

 それにしても、この世界に住むエリスの口から「世界はプログラムだ」という言葉を聞
くのは不思議な気がする。
 確かにその通りで、僕が現実側から「呪文」というコマンドを選択した時に、対応プロ
グラムが実行されて画面上に結果が表示される。その成り立ちを内側から見た場合の認識
が、彼女の講義内容になるんだね。
「時間がなかったので昨日はまず実践から入りましたが、これが魔術の基本概念です。よ
ろしいですか?」
「はーい先生。僕はメラ・プログラムを実行してるわけなんだね。…… “メラ”」
 エリスのマネをして、指先に火を灯してみる。この時の感覚はなかなか口では説明しづ
らいんだけど、発火までの過程をイメージしてるうちに「これかな?」という形の無いな
にかが意識の中にフッと浮かぶ。それを捕まえて、タイミング良く呪文(実行キー)を打
ち込む。そんな感じ。

「ここまではほとんど完璧ですね。正直、かなり悔しいですよ。私、本格的に練習を始め
てメラが成功するまでに、2週間かかったんですよ?」
 苦笑するエリス。
「いやまあ……具体的にイメージする、なんてのは僕の十八番だからね」
 いきなりメラが成功した時は、エリスは目をまん丸にして「す、少し席を外しますね」
とか言いながらフラフラと部屋を出て行って、しばらく戻って来なかったっけ。
 これまで読み漁っていた本の中にも魔術書や呪文書があって、「なんとか理解はできそ
うだな」とは思っていたけど。まさか僕自身も、昨日の夜ちょっと実践的な指導を受けた
だけで呪文が発動するとは思わなかったよ。

「概念も理解できて実際に発動できたなら、あとはすべて応用させるだけです。こればか
りは実戦の中で覚えていくしかありませんから……」
 エリスは窓の方を見た。つられて目をやると、外はもう日が沈んで真っ暗だ。
 いよいよ試験は明日に迫っていた。


346 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/11/20(火) 23:44:12 ID:Gs62DHGS0
支援

347 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/11/20(火) 23:45:04 ID:Q1Smc+0bO
支援!

348 :Stage.11 [3] ◆IFDQ/RcGKI :2007/11/20(火) 23:46:29 ID:i1b28PFw0

「ここ二日間はほとんど寝てないんですから、今晩はゆっくり眠ってください」
「そうするよ。君もゆっくり休んでね」
「はい。じゃあ、私はこれで――」
 エリスは本を抱えて席を立った。

 そしてドアに向かいかけたところで、ふと彼女は振り返った。
「あの、勇者様。本当はこんなことを言うのは良くないのでしょうけど……無理しなくて
いいんですからね? 危ないと思ったらすぐ戻ってきてください」
 いつもの優しい笑みを浮かべる。たとえ勇者の肩書きなんかなくたって、私たちは今ま
でと変わりないですから、と……。
 きっとその通りだろう。もしもアリアハン国王との約束を彼女たちが知ったら、今すぐ
ルーラでとって返して猛抗議するに違いない。
「わかってるよ。ありがとう」
 僕も笑顔を作った。おやすみを言って彼女を送り出し、ドアを閉める。

 それから小さく「ごめん」と付け足した。
 こんなにいいメンバーなのに、僕は隠し事が多すぎるよね。


 ベッドに寝転がる。古びた木目の天井をじっと見つめていると、なんとなく、このずーっ
と向こうでアルスが見ているような気がした。
 ポケットから携帯を取り出すした。電源はオフのままになっているから、現実側の時間
はわからないけど、もうそろそろ帰ってきた頃だろうか。

349 :Stage.11 [4] ◆IFDQ/RcGKI :2007/11/20(火) 23:48:39 ID:i1b28PFw0


 ――たぶん僕は、意地になっている。
 王様との確執だって、アルスが起きるのを待って、携帯をつないで本人から王様に真実
を説明してもらえばそれで済んだ話だ。アルスも根はいいヤツっぽいし、僕の腕が切られ
るなんて聞いたら、そこでシラを切るようなことは絶対にしないだろう。
 でも僕は嫌だった。自分が現実に戻ることを前提に旅をしている以上、彼が最終的にこ
ちらに戻ってきたときのことを考えれば、真実は最後まで伏せておいた方がいい。
 父親が魔王討伐に失敗して、息子まで使命を投げ出して異世界に逃げたなんてレッテル
が張られたら……エリスたちや、サヤさんやデニーおじいちゃんも、アルスを好きな人た
ちみんなが嫌な思いをすることになる。それがアルス自身も傷つける。

 どんな嘘も偽りも、最後まできれいに繋がれば本当のことになるから。
 僕がうまくやればいい。最後に僕がすべて抱え込んで消えれば、それで済む話なんだ。

   ◇

 翌日、いよいよ試験という段階になって、ひとつハプニングが起きた。

「か、重なったですとぉ!?」
 ランシールの神殿の入り口で、僕の代わりに手続きを取ってくれていたロダムが、彼に
は珍しく大声を出した。なんだと思って行ってみると、そこにはもう一人、真っ黒な甲冑
に身を包んだ背の高い剣士がいた。
 美しいというか、凛々しいというか……思わず見とれてしまうほど端正な顔立ちをして
いる。その人は艶やかな黒髪を掻き上げると、僕を見て顔をほころばせた。
「やぁ青少年、久しぶりだね。ダーマの試験会場で以来だったかな。あの時は騒ぎになっ
てしまって、すまなかった」
「は、はぁ……」
 手を差し出され、つられて握手を返す。まるで厭味のない笑顔。透き通るようなアルト
の声。カッコイイとかって次元じゃない。さすがゲーム世界。

350 :Stage.11 [5] ◆IFDQ/RcGKI :2007/11/20(火) 23:50:28 ID:i1b28PFw0

「しかし、まさか君と重なるとは思わなかったよ。私の方は更新試験を受けに来たんだが、
私も君と同じく期日ギリギリなものでね。今日を逃すとまずいんだ」
 黒い剣士さんは腕を組んで難しい顔をした。
 ランシールの洞窟って、誰かが挑戦したあとは清掃やらトラップ再設置などの準備のた
めに、次の試験まで2、3日の間を置くことになるんだって。なんてこった。
「まあこれが一般職なら、どっちかが諦めろと言われておしまいだろうが。お互い一級討
伐士ともなると、神殿側も慌ててるよ。世界退魔機構の本部に指示を仰ぐそうだ」
 苦笑する剣士さんの言葉には、しかし少しだけ誇らしげな響きがある。一級討伐士とい
うことは、つまりこの人も「勇者」なのか。
 僕がまじまじ見ていると、剣士さんは不思議そうな顔をした。
「どうした青少年。もしかして忘れられてしまったかな。私だよ、レイ――」
「さー勇者様! 早くエリスたちにも知らせねば! ではレイ殿、のちほど!」
 ハッと気づいたロダムが、慌てて僕を引っ張っていく。
 そうか、アルスの知り合いらしいから、僕もそれっぽい態度を取らなきゃいけないトコ
なんだよね。……そろそろ面倒になってきたけど。
 あーあ、また絶対ややこしいことになるな。


「アレがかの有名な『東の二代目』ッスか」
 遠巻きにチラチラ見つつサミエルが感心している。レイ=サイモン。『東の勇者』とし
て名高いサマンオサの一級討伐士サイモンの、その跡取りとのこと。
 サイモンって、あの無人島の牢獄に流されて骨になってたガイアの剣の人だっけか。確
かにその子供だっていうNPCもいたね。
 でもまた原作と設定がズレてるな。
「あの人、セリフと違うんだけど……」
「セリフ?」
 おっと、ゲーム中のセリフがどうだなんて話はできないか。

351 :Stage.11 [6] ◆IFDQ/RcGKI :2007/11/20(火) 23:52:47 ID:i1b28PFw0

「いや、ルビス様に少し聞いてたんだ。サマンオサで行方不明のお父さんを探してるって」
「お父上を……そうだったんですね。ですが、あまり触れ回ってはなりませんぞ」
 ロダムが口に指を立てて「内緒」のポーズをとった。
「そういう目的があっても誰も責められるものではありませんが、やはり世間体を考える
と、『私情で勇者になった』などと誤解されそうな話は避けるべきかと」
 エリスも相づちをうつ。
「一級討伐士の一次試験を受けにアルス様がダーマに行かれたときに、たまたま用事で近
くに来ていたあの方が訪ねて来られたんです。ご本人は軽い気持ちだったと思うのですが、
『世紀の対談だ!』と神殿の前にもの凄い人だかりができてしまったとか」
「そうそう。結局5分も話してられなかったって、しばらく話題になってたッスよ」
「レイという名前も、本名ではないという噂がありますしなぁ」
 まるでハリウッドスターだなw ならプライベートを守るために、いろいろと隠す必要
も出てくるのかな。有名人も大変だ。
「まあ少し会っただけなら顔を忘れていたとしても不自然ではありませんし、レイ殿から
おっしゃらない限りは、なにも知らないフリをしていた方が得策でしょうな」
 ロダムがレイ=サイモンに対する方針をまとめる。了解したよ、司祭殿。


 なんて僕らがヒソヒソやっているところに、当の本人がやってきた。
「参ったね。競争になってしまったよ」
 世界退魔機構より指示。今回の試験は二人が競争し勝った方が合格とする、とのこと。
 はぁー? なんじゃそりゃ!!??

「完全におもしろがってるわ! なにを考えてるのかしら」
「私もそう抗議したんだが、本部の指示だ、の一点張りなんだ。よっぽど『西の二代目』
と『東の二代目』の対決を見たいらしい」
 おいおい。一級討伐士とかの特別職は、一度試験に落ちたら再試験は受けられないんだ
ろ? 落ちた方は二度と勇者に復帰できないってことじゃないのか。

352 :Stage.11 [7] ◆IFDQ/RcGKI :2007/11/20(火) 23:55:32 ID:i1b28PFw0

 僕がそう言うと、レイさんは首を振った。
「いや、それは1次試験の話で、本試験や更新試験は1年間の猶予がある。ここで不合格
になっても9ヶ月後の最終期日までに条件を満たせばいいんだ。その間は例の『特典』が
つかないんだが、まあそれは大したことじゃないがね」
 こうなったら今回は譲るよ、とレイさんは言う。どっちが勝つかはわからないが、更新
試験ならまだしも、本試験を落としたとなると今後の旅にも支障をきたすだろう、と気を
遣ってくれるんだけど――。
 それも変な話だろ。
「レイさんだって、勇者やってる一番の理由は、人々を苦しめてる魔王を倒して世の中を
平和にしたいからだろ? そういう人を支援するための制度じゃないのかよ、これ」
 僕の白けきった言葉に、レイさんもため息をついた。
「まったくだ。こんなくだらないことで貴重な人材を潰し合わせてどうする気なんだか」
「よし、私がもう一度かけ合ってみますっ」
 ロダムが憤然と立ち上がる。

 ……あーでも、ちょっと待てよ。

「ストップ、ロダム」
 いきなり止められ、つんのめりかけてレイさんに支えられるロダム。
「待って。競争はいいけど、なにを競争するの?」
「地下神殿の奥に奉られている宝物を、どちらが先に持ってくるか、だそうだよ」
「誰がそれを判定するの。同行する審判でもいるの?」
 そこで、僕が言わんとしていることを全員が理解したようだ。
「……協定を組む、ってことでいいのかな?」
 レイさんがニヤリと笑う。
 僕は、今度は自分の意志で手を差し出し、握手を交わした。



353 :Stage.11 atgk ◆IFDQ/RcGKI :2007/11/20(火) 23:56:40 ID:i1b28PFw0
本日はここまでです。
いきなり規制を食らってびっくり。文字数制限をオーバーしてました。
ギリギリ大丈夫かなーと思っていたのですが、慌てて再編成。
一度きちんと最大文字数を確認しないとダメですね。
ご支援ありがとうございました。

354 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/11/21(水) 00:31:18 ID:nbOOIxBh0
投下乙です
相変わらずすごい頭の回転の速さ・・・

355 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/11/21(水) 12:38:45 ID:dsy4PikC0
タツミさんと誕生日が同じなことが発覚(wwwww

投下乙でございます。
無事、二人とも合格できるといいですね。

356 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/11/21(水) 21:45:57 ID:dw0jLWY1O
誰か俺にこの世界の魔法原理を
もっと簡単に説明してくれ・・・

357 :冒険の書4 ◆8fpmfOs/7w :2007/11/22(木) 06:24:44 ID:bpgE70UD0
―結晶の結―(>>317-322

山奥の村を襲い勇者をしとめたつもりでいるピサロ。
生まれてから1度も出たことがない村を離れ1人で旅立つ勇者。
そこから運命的に集められ導かれし者達の物語が始まる。

やがて世界は平和になり、勇者は自分が旅立った場所に戻ってくる。
勇者の前にはシンシアの姿が現れる。
夢だろうか。幻だろうか。
いや彼女は確かにそこにいるのだ。

でも俺にはシンシアが見えない……

……昔、こんなことを言った人がいた。
「嘘をつくには覚悟が必要だ。たとえそれが相手のことを思う嘘であってもだ。」
誰が言ったことかは忘れたが何故だか印象に残っている。
この言葉のとおり、俺は嘘をつくために覚悟を決めた。

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