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もし目が覚めたらそこがDQ世界の宿屋だったら10泊目

1 :タカハシ ◆2yD2HI9qc. :2007/08/01(水) 08:47:35 ID:SVgYayco0
このスレは「もし目が覚めた時にそこがDQ世界の宿屋だったら」ということを想像して書き込むスレです。
「DQシリーズいずれかの短編/長編」「いずれのDQシリーズでもない短編/長編オリジナル」何でもどうぞ。

・基本ですが「荒らしはスルー」です。
・スレの性質上、スレ進行が滞る事もありますがまったりと待ちましょう。
・荒れそうな話題や続けたい雑談はスレ容量節約のため「避難所」を利用して下さい。
・レス数が1000になる前に500KB制限で落ちやすいので、スレが470KBを超えたら次スレを立てて下さい。
・混乱を防ぐため、書き手の方は名前欄にタイトル(もしくはコテハン)とトリップをつけて下さい。
・物語の続きをアップする場合はアンカー(「>>(半角)+ 最後に投稿したレス番号(半角数字)」)をつけると読み易くなります。

前スレ「もし目が覚めたらそこがDQ世界の宿屋だったら九泊目」
ttp://game11.2ch.net/test/read.cgi/ff/1175450270/

PC版まとめ「もし目が覚めたら、そこがDQ世界の宿屋だったら」保管庫@2ch
ttp://ifstory.ifdef.jp/index.html

携帯版まとめ「DQ宿スレ@Mobile」
ttp://dq.first-create.com/dqinn/

避難所「もし目が覚めたら、そこがDQ世界の宿屋だったら」(作品批評、雑談、連絡事項など)
ttp://coronatus.sakura.ne.jp/DQyadoya/bbs.cgi

ファイルアップローダー
ttp://www.uploader.jp/home/ifdqstory/

お絵かき掲示板
ttp://atpaint.jp/ifdqstory/

557 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/10/05(金) 17:03:37 ID:qibKE+QeO
熱意に負けた俺が希望のSS書いてやるよ

うおのめ「ここはどこだ?」

〜中略〜

うおのめ「助けにきたぞ」
アリーナ「でかした」

〜完〜

558 :>>551のブータまんっ♪:2007/10/05(金) 20:04:16 ID:/gueIhfS0
「ガーデンブルクに漢が!?」驚愕し、そして怯えるアリーナ。
今だけは身の頼りであるはずの牢番は、うつむいていた。
屈強な男性どもに「あの、この人はやめてください」などとボソボソ、請願しているが
男が右足で少し踏み込み、鋼の盾で槍の穂先をカコンカコン叩き始めると、牢番は槍を壁に立て掛けて
隅の方に行ってしまった。黒装束の数人が、サントハイムの王家の紋章を染めた布を持ってくる。
「あの、どうぞおかまいなく・・・(怯)」。不穏な一団が、ただの女ではなく自分の身元を知った上で
何かしているのだと察して、怯えるアリーナ。それから、アリーナは頑張った。

559 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/10/05(金) 20:06:39 ID:/gueIhfS0
雑魚モンスターなら絶命するような回数、棘の鞭で素肌を打擲する!
頑丈なカラダは瑕疵ばっかり増えてゆく。苦痛に身をくねらせるアリーナ。
そこを荒塩と臭いブランデーで消毒し、薬草と毒消し草を煎じもせずに食わせる。
逆エビに緊縛して、腕脚が×字に交叉する背中に座る。
腕脚の一部に4人が腕を絡ませて、4方向に進む。
筋骨総動員で体の内側が複雑に重層的に深刻に裂けそうになるのを止める、アリーナの体。
肌は玉の汗。
肉と酒と黒パン・麦飯やオートミールを飲食した荒くれの汚物を食わせる。
毒消し草があるのを良い事に、鞭の痕に汚物を塗る。
アリーナを後ろ手にして立たせ、足の甲を鋼の鎧のクツの部分で踏む。
彼女の動物的な啼き声にビクッとなっているのは、
隅の方でレオタードから見えるケツを向けて立っている牢番のみ。
嘶くアリーナ、5秒ぐらいで声が途切れる。
そして、屈強が「いざ!」と宣言して12ダースのパンチをめり込ませる。
酢を口に注いで起こす。体力がやばくなっても、ただ休ませはしない。
土下座や誓言などの強要で心を完全に挫く。

560 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/10/05(金) 20:08:20 ID:/gueIhfS0
シンバルや怒声。地下の方から賑やかそうな音が洩れ聴こえる。
半裸でぐったり休むアリーナを、大きな騒音で地味に追い込む。
体中が虚ろに脱力している。アリーナの体に憩い無し。
泥饅頭を捏ねるライノソルジャーを見て、暗澹状態のアリーナ。
「どうして人間が嫌いなの?」「ヒト型の誰かのメイレイで、女の子をいぢめるの?」
騒音が、アリーナのか細い足掻きを掻き消す。
牢番に、準備運動の手伝いを強請する鬼畜怪物。アリーナ自身を、バーベル代わりにしたケダモノも居た。
赤毛や爪先が、床にだらしなく垂れてアーチ状の体勢になるアリーナ。後ろ手。足首は揃えて、括ってある。
足首が×字型に交叉したりしていないのは、魔物の微かな善意か。
「うわッ 臭ェッ」。腹筋等の出力が弱っていて、昨日と違って髪が魔物の腕の高さに広がる。
「シラミじゃねぇかバカ女〜〜(怒)」。背中のストレッチ効果で、ケツからも玉門からもボソボソとガス洩れする。
次にバーベル体操をした怪物に対しては、無理して上体と、それから自動的に脚を持ち上げた。もうガスも洩れなかった。
そして、笑い者が1匹現れた。「シラミ女・・・・・・そうか、俺をなめているのか」。「ち・・・・が・・・・・う・・・・」。
アリーナが数日の絶対安静に陥っても、責任を取るのは牢番の元ガーデンブルク兵(虜囚)である。

561 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/10/05(金) 20:10:24 ID:/gueIhfS0
唐突に一掴みの糞便をバッと食わせる!
三日酔いのゲボを口移し!
上から下へ!
パイン入り酢豚の匂いが残存する濃厚なゲボ!

便所臭の濃い手で少し空洞を作り、鼻と口をふさぐ!
鞭痕が発熱する全身を、よこたえることも赦さない!
後ろ手や高手小手だけじゃなく、鉄砲縛りでまで腕の間に鎖を通してアリーナの頭上のどこかに
鍵で接続する。
しかも、常に空気イス系の姿勢じゃなかったら胴から上が捻じられる位置に固定!
末期的な期間になると、その状態でサンドバック化、完全脱力して徐々に脱臼に向かって痛みが蓄積されていく。
激化する痛みと、アリーナの鼻から注ぐ酢が極限まで昏睡を赦さない。
ボロくて頑丈な麻の服の胸倉を掴むと、振動が加わるし姿勢が更に変になるしでグギャッと短く叫ぶ!!
「足払い50本」。こんな、以前のアリーナなら準備体操にもならない事柄が、○刑宣告に等しい力を持つ。
もちろん足技は50匹のモンスターが1回ずつやりにくるのだ。

562 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/10/05(金) 20:12:10 ID:/gueIhfS0
膝に8フィートぐらいのヒノキの棒を挟ませて、女の子正座をさせる。
その両脚に、1人ずつ座る。姫だっこをしておいて、胸の高さから落とす。
後ろ手縛りになっている腕に、屈強な腕を絡ませて早足で歩く。
その勢いで、アリーナを牢の床に投げ出す。
次の朝は、後ろ手のアリーナが肩が痛いと泣くのも無視して、五人掛けに挑ませる。

効力の無いワラ人形を、光の戦士特効の攻撃アイテムだと偽り、アリーナに力の注入を強要。
彼女の心が折れて、クリフト・ブライ・勇者を除く仲間たちの分から一つずつ、魂が裂ける想いで
言われたとおりの注入をする。拘禁初期にはまだ元気なアリーナ。
こういう、アリーナの心を玩ぶのもピサロらは堪能する。
不自由に拘束した手足で、土下座して最下級の女として忠誠をデスピに誓うアリーナ。
むき出しの肌には、無数の外傷が・・・・・・。

563 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/10/05(金) 20:14:32 ID:/gueIhfS0
ドラクエファンなら、「O嬢の物語」が気に入ると思うんだ。読んでみようよ、面白いから。
マンガ版も出てるよ。アマゾンで注文したらすぐ届くよ。安いよ。
宿屋SSだけど、病弱女とか腕がカタワの女とかの話もきぼり。
ゲームのマップには無い懲治館で呻吟する現代人女性とかも良いぞ。
罹患した女囚として不潔な獄で過酷な肉体的尋問に耐える現代人女性も良いぞ。
濃厚な氏の濃密な影と萌えキャラクターのコントラストも大歓迎だぞ。
監禁で氏に到る妙なんか、創作物ならではの妙なんだから。往生の物語。
ゼシカも、実家の庭に棺収容の際に化粧落し等に使う綿を作るための綿花畑があったりしたら萌える。
ドラクエで棺といえば担架みたいなもんだし、面白いのではないだろうか。
イベントも何もかもを、綿花畑を展望できるところとか同じ敷地内とか言う範囲で進めるわけだ。
儚げ属性や抗う姿は万能属性だぞ。
牢シーンで活きのいい蚯蚓をバラバラッと撒きつける責め手とかも居たら良いな。

564 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/10/05(金) 22:16:29 ID:USAPq/uF0
何を求めてこのスレに来てるか知らんが、ここはそういうスレじゃないと思うんだ

565 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/10/05(金) 22:17:42 ID:u2PXk4yD0
NGワード ID:/gueIhfS0
専ブラ入れてない奴はスルーでよろ

566 :Stage.9 hjmn ◆IFDQ/RcGKI :2007/10/05(金) 23:24:05 ID:QuQvl7z70

アルス「ちーっす」
タツミ「ちーっす、じゃないよ、なんで携帯にユリコが出るんだ! 君なにやってんの!?」
アルス「俺のせいじゃねーって! いきなり殺されかけて、こっちだって大変だったんだ」
タツミ「あーもー、勇者はプレイヤーの生活を引っかき回すのが仕事なのかと小一時間(ry」
アルス「それよりほら! まずは読者様が第一だろ! な?」
タツミ「あっと、失礼いたしました。それでは今回のサンクスコールですっ」

アルス「>>486様、勇者になるのけっこう難しいんだよな。
   俺こう見えても、家でも毎日6〜7時間は勉強してたんだぜ」
タツミ「ふぇぇ、実は努力してたんだねぇ」
アルス「実技は得意なんだが、暗記物がなぁ……。
   タツミは見ただけで頭に入るんだろ? ちょっと羨ましいぞ」
タツミ「アルスだってできるんだろ?」
アルス「俺の『おもいだす』って、お前のとはちょっと覚え方が違うんだよ」
タツミ「そうなんだ。どう違うの……って、もう行数ないね」
アルス「だな。その辺はまたいずれ本編で!」(ふぅ、話そらせたか)


タツミ「ところで、今回のは1回貸しだからね。忘れないでよ」
アルス「……ぐ」



アルス・タツミ『それでは本編スタートです!』


【Stage.9 仮免勇者と彷徨勇者】
 [7]〜[13] リアルサイド

567 :Stage.9 [7] ◆IFDQ/RcGKI :2007/10/05(金) 23:25:05 ID:QuQvl7z70
  Prev >>478-484 (Rial Side Prev >>400-407)
 ----------------- Memories of Ars -----------------

「聞いてください、アルス様! 私、とうとう『魔法使い』になりました!」
「あ、そう。……で?」
 嬉々として報告に来たエリスを、俺はいつものように冷たくあしらって、読みかけの呪
文書に目を落とした。
 街から少し離れた草原の木陰で、誰にも邪魔されないよう独りで勉強するのが俺の日課
だったが、この女はしょっちゅう訪ねてくる。うるさくて仕方ない。
「今、ルイーダさんのところにも予約してきたんです。アルス様の旅立ちの時までには、
もっともっとレベルを上げますから、絶対に指名してくださいね!」
「まだ先の話だろうが……。まあ、気が向いたらな」
 確かに、12歳で正式な冒険職ライセンスを取得するやつなど、年に何人もいないが。
 俺から言わせれば、その前に3回も試験に落ちてる時点でアウトだ。ちゃんと計画を立
てて一発で受かる方がよっぽど賢い。
 そこらの冒険者と勇者は違う。多くの人命がかかる旅で「失敗」は許されないのだから。

 俺が黙っていると、エリスは肩を落とした。見るからに落胆している。
 ったく、面倒くさいやつだ。
「今晩、お前の部屋の窓を開けておけ」
「え?」
「いいな。邪魔だからもう行ってくれ」
「あ、はい」
 シッシッと追い払う。エリスは何度も振り返りながら街へと戻っていった。


 その夜、俺はエリスの生家である宿屋に向かった。2階の彼女の部屋を見上げる。言い
つけ通り開けてあった窓に、その場で小石を拾って放り込んだ。
 エリスは待機していたようで、すぐに顔を出した。
「アルス様♪」
「静かにしろ。こっそり降りてこい」
 彼女をつれて、城に向かう。

568 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/10/05(金) 23:25:42 ID:+CbdOfoh0
偶然支援

569 :Stage.9 [8] ◆IFDQ/RcGKI :2007/10/05(金) 23:26:46 ID:QuQvl7z70

「あのどちらに……?」
 不安そうなエリスを、口に人差し指を立てて黙らせる。城の裏門に回ると、夜番のサミ
エルが俺の顔を見てニカッと笑った。こいつは親父の信者で、他の奴らと違って俺にも悪
い態度は取らない。事情を話し、中庭に通してもらう。

 庭の中心に、ジパングから運ばれてきた「桜」という大きな木があった。
 天頂から照らす月明かりに、満開の桜は薄桃色にぼんやりと輝いている。はらはらと散
る花びらは妖精が戯れているようで、幻想的な情景に、エリスは言葉も出ない様子だ。
「合格祝いだ。きれいだろ」

 が、ふと見るとエリスは両手で顔を覆ってしまっている。
「おい、どうした?」
「アルス様……。私、アルス様みたいに頭も良くないし、剣技も武術も全然ダメです」
 肩を小刻みに震わせて、絞り出すように言う。
「お役に立ちたくて……でも本当は……ヒック……ちっとも自信なくて……ヒック……」
「な、泣くことないだろ。そんなの最初からわかってる。ってか、俺と比べようってのが
おこがましいぞ。そうだろ?」
 困っている俺に、彼女は必死に嗚咽を飲み込んで、そして泣き笑いを浮かべた。
「その通りですね。ごめんなさい、やっぱり私バカですね」
「エリス……」
 彼女の部屋はいつも遅くまで明かりがついている。試験の前にはほとんど寝てなくて、
根を詰めすぎて倒れたのも1回や2回じゃないらしい。暇があれば城の書庫や宮廷魔術師
のもとに通い詰め、呪文学の成績はダントツでトップだ。
 それがすべて俺のためだと、彼女は真っ直ぐに答える。どんなに俺が邪険にしても。

 たまらなくなって、抱きしめた。
 本当はずっと前から、俺も彼女のことが好きだった。なにせひねくれたガキだったから、
この時まで認めようとしなかったけれど。「もしエリスまで他の連中みたいに裏切ったら」
と、怖かったのかもしれない。

 大好きだ。あの時から――そして今でも。

570 :Stage.9 [9] ◆IFDQ/RcGKI :2007/10/05(金) 23:28:52 ID:QuQvl7z70


 でも。
 そんな想い出も、彼女も………………すべて作りもの、なんだよな?

 俺自身も、おふくろも親父も、あそこに暮らす人々の誰もが、あの世界のなにもかもが、
ただのゲームでしかなくて。
 俺と仲間たちが命懸けで魔王と戦ったことも、その魔王でさえも、誰かが作り出した虚
構の物語でしかなくて。


 そして……だからこそ、あの世界には決定的なものが欠けている。
 決して救われない。どんなにあがいたところでどうしようもない。
 世界を救うはずの俺だけが、まるで救いがないことを知っている。


 ――なにも知らなければ良かった。
 なにも知らないまま、ゲームの中におとなしく収まっていたなら、俺はただのキャラク
ターとして戦っていられたのに。
 課せられた使命の重さに悩むことはあっても、まさか、今まで信じていたものすべての
価値を見失うなんてことは、なかっただろうに。


 どうして俺は、タツミのことを知ってしまったんだろう。
 どうして俺は、現実への境界を越えてしまったんだろう。


 ただ一人、知ってはならない世界の秘密を知ってしまった勇者は、
 どこへ行けばいい……? 




571 :Stage.9 [10] ◆IFDQ/RcGKI :2007/10/05(金) 23:30:53 ID:QuQvl7z70

 ----------------- Rial-Side Yuriko -----------------

(うなされてる……?)
 嫌な夢でも見ているのだろうか。片岡百合子は、眠り込んでいる少年の髪にそっと手を
置いた。
「あの……大丈夫だよ、ここは安全だから。安心して、ね?」
 そう語りかけると、少し表情が和らいだ気がした。
 三津原辰巳によれば、彼こそが家庭用ゲーム界きっての有名RPG「ドラゴンクエスト3」
の主人公だということだ。夢みたいな話だが、入れ替わった本人がそう言うのだから、信
じるしかない。
 それに、確かにあの戦いの跡は尋常なものではなかった。途中で折れていた鉄杭……な
にか刃物で押し切られたようだったが、並の人間同士なら、ああはならない。互いにもの
凄い力をぶつけ合った結果だ。
(でも、見た感じは普通よねぇ……)
 治療にあたっていた掛かりつけの医師は、特に不審に思っている様子はなかった。ケガ
も深い傷はないということでホッとしたが、なかなか目を覚まさないのは心配だ。
「過労のようですね、しばらく安静にしていれば、じき意識も戻るでしょう」
 医師はそう言っていたが、もう5時間は経過している。
(まあ、異世界に来て生活するって大変だよね。よっぽど疲れてたのかな……)
 少年が持っていた時代遅れの携帯電話を見つめ、ユリコは何度目かのため息をついた。


『それで、アルスの様子はどうなの!? ちょっとヘニョおとなしくして、今大事な話をし
てるんだから! え? ああ、ヘニョってスライムの名前なんだけどね』
 スライムって……。自分でなければ、絶対にふざけていると思うだろう。昔から変わっ
たヤツだと思っていたが、異世界で勇者やってます、というのはどうなのだ。
(しかも、戸惑ってるあたしのことなんかそっちのけで、この子の心配してるし……)
 よほど相方(?)が心配なのか、電話も5分置きにかけてくる始末。いい加減しつこい
ので抗議すると、時差がどうのと言っていた。なんのことやら。「寝ている本人にも障り
が出るから、目が覚めたらこちらからかけ直す」と説得して、ようやく静かになった。
 毎度のように思っていることだが、惚れる相手を間違えたかもしれない。

572 :Stage.9 [11] ◆IFDQ/RcGKI :2007/10/05(金) 23:32:53 ID:QuQvl7z70

「う…ん……」
 それにしても、よく眠っている。
 こちらも見事に騙してくれたものだ。ロクに知らない相手と「友人」として花見につい
て来るその大胆さに、ユリコは逆に怒る気になれなかった。
 騙された方が悪いというか。
 もっとも、目の前にそっくりの人間がいて、そいつも本人の名を名乗っていれば、多少
様子がおかしいからといって「別人が成り代わっている」とは疑わない。
 だからこそ眠っているこの少年も、タツミ本人も、そう簡単にはバレないと気楽に構え
ていたのだろう。
(そんな電波な発想をしろって方が無理よね)
 違うのはせいぜい瞳の色くらいか。実は少し青みがかって見えた。それも光の角度によ
るのか、通常は普通の黒にしか見えない。起きたらもう一度確かめてみよう。
 
(だいたい、こんな顔がゴロゴロいてたまるかっての。男の子のくせにさぁ)
 この少年もさすが有名ゲームの主人公なだけあって――
(いいなぁ……まつげ長いし。肌とかすっごくキレイだし)
 頬をおそるおそるなぜてみる。
(やーん、やっぱりツルツルだぁ。洗顔料なに使ってんの? ちょっと悔しいかも)
 フニっとつまんでみる。
(向こうの子って、みんなこんなのかなぁ。そりゃこっちの「理想」を形にした世界なん
だから、当然だろうけどぉ)
 フニフニ……。
(かわいい女のコも多いのかな。あいつも勇者なんてご身分ならモテるだろうし……)
 フニフニフニフニ……。
(そういえば、ぱふぱふとかあったじゃない! 3はギャグだったっけ? でもなぁ)


「あお〜、あいやっへんほ?」
「キャアアア!」

 ――あ、起きた。

573 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/10/05(金) 23:32:57 ID:KDAlYdDl0
支援クエスト

574 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/10/05(金) 23:33:21 ID:+CbdOfoh0
つい読みふけってしまった支援

575 :Stage.9 [12] ◆IFDQ/RcGKI :2007/10/05(金) 23:34:52 ID:QuQvl7z70

「えーと、アルス君、だっけ?」
 身を起こした彼は、今の一言で状況を察したらしい。
「もうタツミに聞いてるんだな。……アルセッド=D=ランバートだ。騙してすまない」
「あ、いえ」
 アルセッドというのが本名なのか。さすが勇者は名前もカッコイイのね。
(って、そうじゃないでしょ。反射的に許しちゃってるし)
 セルフツッコミを入れているユリコに、少年はふと首をかしげた。
「ここずいぶん広いけど、あんたの部屋か? それにその服……他と違うね」
 幾重にも合わせた襟元や、華やかな金糸の帯を、珍しげに見ている。
「やっ、変でしょう? 今時、普段着が着物とかあり得ないよねっ」
「キモノ?」
 さらに首をかしげるランバート少年。そうか、そもそも「着物」を知らないか。
「日本の民族衣装っていうか、昔の正装っていうか、そんな感じ……かな」
 異世界の勇者だとか言われると、どうにも気持ちが焦ってしまう。どこかユーロ諸国
の王子様がお忍びで日本旅行に来ていた、とかの方がまだピンと来るのだが。
(ってどこの厨設定よ。まあでも、要はそんなもんよね)
「そ、それはともかく。キミ、やっぱり呪文とか使えるの? メラとか?」
 まずは気を楽にしてもらおうと、ひとまず笑顔で会話を続けてみる。
 が、少年は「はぁ?」と呆れたような声を出した。
「ここは現実だろ。呪文なんか使えるワケないじゃん、常識で考えて」
 ――意外とリアリストらしい。

 言葉に詰まってしまったユリコを、少年はなんだか不審そうに見ている。
「なあ……あいつ、俺のこと、あんたになんて言ったんだ?」
「え?」
 入れ替わることになった経緯だよ、と彼は視線をそらす。ユリコも気まずくなった。
「それは……なんかタツミが無理に頼んだんだってね。すっかり迷惑かけちゃって。あ
いつも悪気は無かったと思うんだ、許してあげて?」
 手を合わせるユリコに、少年はきょとんとしている。そして盛大にため息をついた。
「ったく、お人好しもほどほどにしろよな……」
 なんのことだろう? ユリコが聞こうとした、その時だ。

576 :Stage.9 [13] ◆IFDQ/RcGKI :2007/10/05(金) 23:35:52 ID:QuQvl7z70

 廊下をドスドスと乱暴に踏み鳴らし、誰かが近づいてくる。バンと大きな音を立てて、
障子が左右に開けられた。
 古風な衣装をまとった初老の男が立っていた。ギロリと二人を睨みつける。
「お、お父さん……!」
 ユリコが慌てて間に立ちふさがったが、その彼女を乱暴に突き飛ばし、父親はズカズカ
少年の元まで近づいていくと、
 パーン!
 問答無用で横っ面をひっぱたいた。
「娘には二度と近づくなと、忠告したはずだがね。危険な目に遭わせおって……どう責任
を取るつもりかね」
「いきなりなにするのよ! だいたい人違い……あ、いや、そうじゃないけど」
 なるべく彼の正体をバラさないでくれ、とタツミに頼まれている手前、別人だとも言え
ない。どうしたものか。

 少年はあまりのことに呆然としている様子だった。が、なにか得心したのか、
「なるほどねぇ……」
 小さくうなずくと、いきなり妙なことを父親に尋ねた。
「すみませんね。ところで、お父さんもなにか武芸を嗜(タシナ)んでおられます?」
 ぽかんとしているユリコのとなりで、父親はひたいに血管を浮き上がらせている。
「君にお父さんなどと呼ばれる筋合いはないがね。剣なら多少の心得はあるが、それがど
うかしたのか」
「へぇ……。あそこに飾ってあるカタナ、レプリカじゃなさそうですね」
 そう言いつつ立ち上がると、思ったよりしっかりした足取りで床の間に歩いていく。飾
られていた日本刀を手に取ると、少年は片腕で簡単に持ち上げてしまった。
 本物の日本刀はかなりの重量がある。父親の顔つきが変わった。
 そして――

「試合、してみませんか。お父さん?」
 その瞳が、一瞬だけサファイア・ブルーに煌めく。
 まるでとっておきのイタズラを思いついた子供のような笑顔だった。


577 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/10/05(金) 23:39:44 ID:+CbdOfoh0
あれ?支援

578 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/10/05(金) 23:41:51 ID:+ZLslmraO
漏れも支援

579 :Stage.9 atgk ◆IFDQ/RcGKI :2007/10/05(金) 23:42:08 ID:QuQvl7z70
本日はここまでです。
だいぶ話が込み入ってきたので、次かその次のステージの間に、簡単なまとめをやろうかと思ってます。
読者様からの質問コーナーなんかもできればなぁ、とか。
もしあればですが、なにか疑問などありましたら、よろしくお願いいたします。
あ、でも本スレでこういうのはまずいのかな……?

580 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/10/05(金) 23:46:16 ID:+CbdOfoh0
>>579
いつもながらGJ
ここで「続く」とは正直たまりません
リアルタイム支援は初めてだったんでドキドキしたw

581 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/10/05(金) 23:55:57 ID:94CfT0hN0
>>579
投下乙
何ともいいとこで終わったwww
次回楽しみだ

582 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/10/06(土) 00:37:46 ID:GpFDZ4uW0
【萌畑】@御名前を貴女の実名カタカナ表記に差し替えて保存等して遊びましょう。

三日酔いライノサウルスの蕎麦や麺とかの具が多いゲロ。卵焼き系の臭さが特徴的な糞。
8時間の肉体鍛錬の後に酒と加工食品をしこたま食った中量級モンスターの尿。 それらを御名前が、クチ枷の強制力によって完食する。
「う”えええぇぇ・・・御名前どこー」「こっちや、ここや、御名前おるぞ」ドタドタと足音を立てて、そして、 かがんだライノサウルスが
御名前の口をエチケット箱と同様に使用する!
またはおもむろにグレー色の作業員ズボンをずりさげたライノサウルスが。
ぶば ぶちぶちぶち ばふっ 「はー」ケツを拭くと糞で汚れた藁クズを御名前の柔肌に貼る。
赤黒い系の色彩も混じってる尿でグズグズになった糞便が、一筋分ほどこぼれてムネの谷間を垂れていく・・・。最下等食糞女・御名前。



583 :滄海の一涙【1】 ◆Y0.K8lGEMA :2007/10/06(土) 02:05:33 ID:vPdBw58i0
LOAD DATA 第二話後半>>525-533

「ひぎゃああぁぁぁぁ!!」
ウシッ! と、空手の決めポーズを決めた俺の後方から悲鳴が上がる。
振り返るとサトチーもまた、もう片方のムチ男をノックアウトした所だった。

「ありがとう。サトチーの援護がなかったら俺はやられてたよ。」
俺の言葉にサトチーが微笑みを見せる。
くじけそうな俺を何度も救ってくれたあの微笑み。
「お礼を言うのは僕の方だよ。」

??

その言葉の意味が理解できない俺にサトチーが続ける。
「ありがとう。ヘンリーの事で怒ってくれて。」

あぁ…そうか…
サトチーとヘンリーはずっと二人でこの最悪の状況を生き延びてきたんだよな。



―人として、明日を生きるために―



「あっ!」
何かを思い出したようにサトチーが珍しく間の抜けた大声を上げる。


「…ヘンリー…」

584 :滄海の一涙【2】 ◆Y0.K8lGEMA :2007/10/06(土) 02:06:22 ID:vPdBw58i0



「………あっ!!」
サトチーの呟きを聞いて、俺も間抜けな大声を上げる。


頭に血が上って忘れてた。
ヘンリーの容態は?

「…すぴーー…ぴるるるる……すぴーー……」

俺達の死闘を知らず、女性の膝枕で幸せそうに寝息を立てて眠るヘンリー。

拝啓 お父様、お母様。
 ムチ男よりもコイツをぶちのめしたいと思ってしまいました。


「大丈夫。ベホイミはちゃんと効いたみたいだ。」
ヘンリーの様子を見て安心しきった表情を浮かべるサトチー。

釈然としない物があるが、ヘンリー以上に幸せそうなサトチーの横顔を見ていると、
俺の中のモヤモヤもスッキリと晴れ渡るような気が……モヤモヤ……

…あれ?何だ?…


…視界が…モヤモ……ヤ………し…て………

585 :滄海の一涙【3】 ◆Y0.K8lGEMA :2007/10/06(土) 02:08:23 ID:vPdBw58i0

女が泣いている。

黒い翼の男を抱いて泣いている。

女が泣いている。

女が泣きながら男を抱きしめる。

男の体がさぁっと溶ける。

紫色の霧となって男の体が四散する。

女が泣いている。

紫色の霧の中で女が泣いている。

女が呟く。

霧の中で女が呟く。

紫一色の中で霧の中で女が呟く。

呪いの言葉を呟く。

女が笑っている。

…夢に違いないよな…まったく酷い夢だ…



586 :滄海の一涙【4】 ◆Y0.K8lGEMA :2007/10/06(土) 02:09:07 ID:vPdBw58i0
こんなにゆっくりと眠ったのはいつ以来だろう。
たっぷりと寝た次の日は実に気持ちがいい。夢はアレだったけど。
奴隷になってから毎日まともに睡眠なんてとってないもんな。
それでも毎朝、定刻の数分前に目が覚めるのは人体の神秘。
寝過ごして鞭で叩き起こされるよりはマシだけどさ。
たまには邪魔されずに心ゆくまで惰眠を貪りたいじゃん?
ま、もう充分に睡眠を楽しんだ。
こんな朝の目覚めはきっと素晴らしいものだろう。

ゆっくりとまぶたが持ち上がる。

「お。やっと目が覚めたなイサミ。」
「よかった。丸二日も起きないから心配したよ。」
「まったく…経験も積まないでいきなり大技を使うからだ。ぶっ倒れて当然だろ。」

もうすっかり見慣れた紫のターバンと緑の髪がぼやけた視界に入る。
二日…そんなに俺は眠っていたのか。
二人ともホッとしたような顔をしているが、心なしか表情に疲労の色が見える。

「サトチーに感謝しろよ。この二日間寝ないでイサミの看病してたんだからな。」
「ふふっ ヘンリーだって心配してほとんど寝てなかったじゃないか。」
「ばっ…俺はただあれくらいの戦闘でへばる子分が不甲斐無くてだな…」

よく見ると二人とも目の下にクマを作っている。
サトチーの息が少し荒いのは、目を覚まさない俺に回復魔法をかけ続けたからだろう。

「ごめん。俺、助けられてばっかだ…」

587 :滄海の一涙【5】 ◆Y0.K8lGEMA :2007/10/06(土) 02:11:10 ID:vPdBw58i0
「……ていっ!」 びしっ!
「痛!」

ヘンリーのチョップが俺の頭に打ち込まれる。

「覚えておけ。俺は弱い男は例え土下座しても絶対に子分になんかしない。
 もし、お前が本当に情けない性根の腐った奴なら俺はお前を見捨ててる。
 お前は俺が子分として認めてやったんだ。子分のお前が情けない顔してたら、
 親分の俺まで情けない性根の腐った奴に思われちまうだろ。」
ヘンリーが怒ったように早口でまくし立てる。
キツイ口調だが、その言葉には彼なりの優しさを感じる。

「…うん…ごめ…」
「ふん!情けない男も嫌いだが、言葉を知らない男も嫌いだな。」

イサミの言葉を遮ったヘンリーの背後で、サトチーがクスッと笑みを漏らす。

言葉…あぁ、そうか…

「そうだよな…ありがとうサトチー。それに親分。」
その言葉に、ずっと頬を膨らませていたヘンリーがニヤリと笑う。
「上出来だ。さすがはこのヘンリー様の見込んだ子分。」

いつものように笑いながら俺の肩をバンバン叩…こうとしたヘンリーの手をすり抜け、
サトチーに向き合う。(背後でヘンリーが派手に転んだようだがキニシナイ。)


「…で、ここは…石牢?」

588 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/10/06(土) 02:12:13 ID:l8Yjy7xSO
サトチー支援!

589 :滄海の一涙【6】 ◆Y0.K8lGEMA :2007/10/06(土) 02:16:13 ID:vPdBw58i0
重い規則違反をした奴隷達が投げ込まれる石牢。
奴隷達の宿舎として提供されている薄暗い部屋よりもなお暗い部屋。
奴隷達の寝床として配給されている湿ったゴザよりもなお冷たい石床。

奴隷管理人であるムチ男に歯向かった罰として俺達は投獄された。

朝晩の食事すら支給されず、飢えて死ぬまでただ放置される刑場。

ここに入れられる事は即ち死刑宣告。


「雨水が壁の隙間から染み出してるから飲み水は何とかなるけど、
 それでも水だけじゃ長くは持たねえよなあ。」

奴隷宿舎に取り付けられた扉よりも、はるかに頑強な鉄格子が俺達の生と死を遮断する。
腹が減ったな。二日間何も食わないで寝てたんだから当然だけど…
そう言えば、サトチーとヘンリーは二日間一睡もせず何も食わずに俺の看病をしていた?
俺よりもよっぽど極限状態なはずなのに、そんなそぶりは全く見せない。
一番休んだ俺が真っ先に根を上げてどうするんだ。

「この鉄格子を壊せればいいんだろ?」


俺はゆっくりと立ち上がり、拳を天に向け…


「ちょ…イサm…」


その拳を全力で地面に叩きつける!!

590 :滄海の一涙【7】 ◆Y0.K8lGEMA :2007/10/06(土) 02:17:54 ID:vPdBw58i0
「おりゃああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」






ゴキッ!






うん…手が痛い…

サトチーが慌てて変な方向に曲がった俺の手に治療を施す。


「……ていっ!」 びしっ!
「痛!」
ヘンリーのチョップが再び俺の頭に打ち込まれる。

「ばっかやろ。経験不足のお前にその技はまだ無理だって言っただろ!
 今度こそ本当に目を覚まさなくなったらどうするんだ!!」
「…でも…」
「だぁ!口答えするな子分のクセに!!」 びしっ!
「痛!」
ヘンリーのチョップが三度俺の頭に打ち込まれる。

591 :滄海の一涙【8】 ◆Y0.K8lGEMA :2007/10/06(土) 02:20:26 ID:vPdBw58i0
「まあ、ヘンリーの言う通りだね。僕達が考えなきゃいけないのはただ一つ。
 『三人とも無事に』ここを出る方法だ。無理はしちゃいけないよ。
 イサミに何かあるとヘンリーが心配するからね。」
そこまで言ってサトチーがクスクス笑い出す。

「だから俺は別に…もういい!」
壁のほうを向いてふて腐れるヘンリーを見てサトチーがまた笑う。
それを見て俺の顔にも笑みが漏れる。

緊迫する状況なのに、なぜか俺達は笑っていた。


「石牢で笑うとは変わった奴等だな…」


背後からの声に、俺とサトチーの顔から笑みが消える。

振り向いた俺の目に入ったのは鉄格子の向こうに立つ男。
その男が身につける純白の鎧の胸に下げられているのは 教団シンボルのエンブレム。

神殿衛兵…ムチ男の上に位する教団の兵士。

ひょっとして、ここで俺達を始末する気か。

俺とサトチーの体に力が入る。
来るなら来い!


「そう身構えるな。お前らをここから出してやる。」

592 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/10/06(土) 02:21:08 ID:l8Yjy7xSO
再度支援

593 :滄海の一涙【9】 ◆Y0.K8lGEMA :2007/10/06(土) 02:22:33 ID:vPdBw58i0
聞き間違いか?俺達をここから出す?牢の外に?
いや、さては俺達を天国に送ってやるって意味か?
俺達を舐めやがって。ここに一歩でも入ってきたらフルボッコにしてやr…

ガチャ…

入ってキタ――――――――!!
「出してやる代わりに一つ頼みがある。マリア、こちらへ。」

マリア様にお祈りして安らかに逝けってか。上等じゃねえか。
よし、そっちがその気ならムチ男を一撃粉砕した俺の爆熱ゴッドフ○ィンガーで瞬殺…
いや、こいつを気絶させて人質にして奴隷解放を要求してやろうか…

背後に隠した拳に全力を集中する俺の前に、金髪の女性が歩み出る。
人質?卑怯な…てめえの血は何色だあー!!
「このたびは助けていただいてありがとうございました。」

…ん?この女の人は確かヘンリーに膝枕をしていた人…
衛兵への怒りが急速に冷める。(と同時にヘンリーへの嫉妬が沸々と湧き上がる…)

「紹介が遅くなったが、私はヨシュア。そしてこっちが妹のマリアだ。」
兄が神殿衛兵で妹が神殿の奴隷…妙な兄妹だな。

「頼みというのはマリアの事だ。お前らにはマリアを連れてここから逃げて欲しい。」
…ん?今度こそ聞き間違いか?奴隷の管理者が奴隷に対して逃げろ?おかしくね?

「…失礼、あなたは神殿衛兵ですよね?そのあなたの妹が奴隷として働いている。
 さらに、神殿衛兵のあなたが俺達奴隷に対して妹さんを連れて逃げろと頼む。
 正直あなたの言動は神殿衛兵としても、兄としても疑問だらけなんですよね。」
俺の中で渦巻いていた疑問をヘンリーが言葉にしてヨシュアに投げかける。
そんな虫の良い話、にわかには信じられない。


594 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/10/06(土) 02:52:12 ID:sncsb/yf0
支援効果あるかな

595 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/10/06(土) 02:55:31 ID:ljdZIKsR0
支援射撃 撃ち方はじめ

596 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/10/06(土) 02:56:56 ID:JdzCIZXV0
ダイの大冒険VSドラゴンボール
面白映像
http://jp.youtube.com/watch?v=OQbYaMlR1do&mode=related&search=dragon%20quest%20las%20aventuras%20de%20fly%20avan%20pop%20man%20dragonball%20papunica%20heroes%20sacrificio%20hola


597 :滄海の一涙【10】 ◆Y0.K8lGEMA :2007/10/06(土) 03:08:13 ID:vPdBw58i0
ヨシュアが重々しく口を開く。
「私を信じられないのも当然だ。確かに私は妹を…お前達を苦しめてきた側の人間だ。
 妹を見殺しにしたと言われても仕方がない…妹が奴隷になると告げられた時も、
 妹がその細腕で大岩を運んでいる時も、私には何もできなかったのだからな…
 衛兵としての自分の身を案じた訳ではない……私は恐れていた…
 教祖様の思想に反する行動をとれば、恐らく私もマリアも教団の手によって…」

搾り出すように続けられるヨシュアの言葉。
その言葉から感じられるのは妹を救えなかった兄の後悔…悔恨…懺悔…

「だが…マリアのために戦うお前達を見て、私は自分の成すべき事を悟った。」
はっきりした口調で言い放つヨシュアの右手がヨシュア自身の胸に当てられる。

「ただ一人の妹を救えずに何が兄か! 最愛の妹をこの地獄から救えるならば…」
胸に当てられていたヨシュアの手が持ち上がる。
その手に握られているのは…


「愚かしくも敬愛した教団も、愚かな私自身の命も…喜んで捨ててやる!!」
ヨシュアの手に握られていたものが石の床に叩きつけられ砕け散る。


砕け散ったそれは 教団のエンブレム

衛兵が教団エンブレムを破壊する…

それは、教団への決別の意思…

そしてその行動は、懐疑的だった俺達の心を溶かすのに充分すぎる熱情を放つ。

「わかりました。妹さんの件は責任を持ってお引き受けします…
 ただし、こちらからも条件を出します。」

598 :滄海の一涙【11】 ◆Y0.K8lGEMA :2007/10/06(土) 03:09:22 ID:vPdBw58i0
黙ってヨシュアの言葉を聞いていたサトチーが口を開く。
「僕の出す条件は二つです…一つは、自分の命を捨てるなんて二度と口にしない事。
 二つ目は、妹さんと生きて再会する事。この二つをここで誓って下さい。」

サトチーとヨシュアの視線が交差する…

「わかった…神に…いや、偉大なる精霊ルビスの名に誓おう。」
ヨシュアの手が、再度ヨシュア自身の胸に当てられる。
偽りのエンブレムで飾られる事のない、自分自身の心に誓うように…

「そうと決まれば早速。さあ、見回りが来る前に急いでこっちへ。
 神殿裏手通路を抜けた先にある死体処理用の水路。そこから逃げてもらう。」
ヨシュアに促され、石牢を後にする。

何度も夢見たここからの脱出…
もうすぐこの手に掴める自由…

自由…


自由になったら…


俺は何をすれば良い?

元いた世界でも、こっちの世界でも感じた事のない自由。
自由という物を俺は知らないのかもしれない…

自由という言葉の意味を知らないまま、俺は走り出す。

自由を手に入れるために。

599 :滄海の一涙【12】 ◆Y0.K8lGEMA :2007/10/06(土) 03:12:45 ID:vPdBw58i0
「静かに…止まれ…」

建設中の神殿裏手通路を駆ける俺達に、先頭を走るヨシュアが告げる。
「まずい…通路の先から見回りが来る…隠れろ。」
「隠れろったって…隠れる場所なんかないぜ。」

神殿裏手通路は狭い一本道、隠れられるドアも資材の山もない。

「…くっ…騒ぎを起こすのはマズイが…やるしかない。」

息を潜め、曲がり角で身構える…一撃で昏倒させれば…



ガラガラガラガラ……ガシャーーン!!!



「何だぁ?お前等、何をやっている!!」
通路の先で響き渡る何かが崩れるような音。
それを耳にした見回りのムチ男が通路の先に走ってゆく。

『スミマセンねぇ。突然資材の山が崩れちまいまして。
 あぁ、危ないんで今は通路を通らない方が良いッスよ。』

高所作業等の足場の上から男の声が聞こえる。
ナイスタイミング!ナイスアクシデント!!

「ふひゅー…焦ったぜ。」
「危なかったな…今のうちに通路を抜けるぞ。」

ナイスタイミングだけどさ…タイミング良すぎじゃね?

600 :滄海の一涙【13】 ◆Y0.K8lGEMA :2007/10/06(土) 03:16:03 ID:vPdBw58i0
ふと目をやると、足場の上から建設現場を見下ろす屈強な奴隷の姿。
奴隷宿舎の室長で、いつも俺達の面倒を見てくれたアルバニーのオヤっさん。

俺と目が合うと、親指を立て"ニッ"と笑ってみせる。

…ありがとう。

通路の先から水路まで不自然なくらい一直線に建築資材が積まれている。

資材の山の上から元踊り子のベイラルちゃんが俺達にウィンクをする。
誰よりも頑固だけど、誰よりも優しかったテルコ爺さんが小さく手を振る。


…みんな、ありがとう。


俺は泣きながら走っていた。
サトチーもヘンリーも泣きながら走っていた。

水路に繋がる小屋へ駆け込み、ヨシュアが用意した大樽に乗り込む。



…必ずみんなを助ける…だから…生きて…

水門が開放され、俺たちを乗せた樽が自由な世界へ放たれる。

俺は今、生まれて初めての自由の中での確かな道標を見つけた。

601 :滄海の一涙【14】 ◆Y0.K8lGEMA :2007/10/06(土) 03:16:34 ID:vPdBw58i0
イサミ  LV 5
職業:建設作業員 改め 異邦人
HP:41/41
MP:7/7
装備:Eブルゾン

持ち物:カバン

呪文・特技:岩石落とし(未完成)

602 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/10/06(土) 03:25:06 ID:sncsb/yf0
残った奴隷のみんな…(´;ω;`)良いやつらだ
笑いどころと泣き所があるのが面白いな

603 : ◆Y0.K8lGEMA :2007/10/06(土) 03:34:23 ID:vPdBw58i0
第三話はここまでです。
原作には登場しない奴隷仲間(チョイ役ですが)登場。
作業現場の気の良い仲間達…ってイメージです。
隣の水牢からジャー…では味気ない感じがしまして…


途中、後先考えない連投で見事にバイバイさるさんに引っ掛かりました。
支援してくれていた皆様に申し訳ないです。ゴメンナサイ。
そして、支援ありがとうございます。ゲマの目にも涙です。

604 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/10/06(土) 04:03:59 ID:4V9FMkIEO
投下終了まで起きて待ってて良かった。

…(´;ω;`)<ブワッ!
優しい仲間達に泣いた。

605 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/10/06(土) 07:57:02 ID:rHmMWW570
いい奴の話は泣ける。ありがとう。

606 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/10/06(土) 11:57:15 ID:xz3SmQVE0
右手は挙手。
脚は135度に曲がった姿勢。
右手の高さは調節してあり、ピンッと張っている。これ以上、下に行けない。
行こうとすれば、右の中指から肩口までが重力で地獄を見る。
アリーナの両足首の枷とウエストの鉤付きコルセットは、鎖でつないで連動関係にあるから、
これ以上脚を伸ばして立つこともできない。
「調子どうよ」。アリーナの肩をユサユサする。
2時間近い空気イス、足の可動域はとても狭いけど、意外に様々な姿勢に変えて耐えてきたアリーナ。
肩ユサユサで、ついに「ヴァギャーーーアアア!!!!!」の絶叫。
「唾がかかったぞ・・・こら」。
その頃、ブライとクリフトは魔物側を動揺させるべく、人員を探していた。
「どこの村落や都市社会にも属してなくて、脚気や骨粗鬆症なんか無縁の健康状態で、
地動説を受け入れるぐらい見識と度量があって、冒険が嫌いではない善良な女は居ないものかのー」。
「ついでに姫様が大好きな方がいいですよね。どこかに居られないだろうか・・・・・・」。

607 :作り合わされし世界 ◆2yD2HI9qc. :2007/10/06(土) 13:43:40 ID:qNl9ubYi0
    〜作り合わされし世界〜

    → 冒険をする
        1:しなの  Lv8
     → 2:ヨウイチ Lv7
        3:タロウ  Lv6

608 :作り合わされし世界 ◆2yD2HI9qc. :2007/10/06(土) 13:44:23 ID:qNl9ubYi0
>>215 から

二十一、 私の世界

まぶたを開けると元の森の中でした。
火は消え、陽は昇りすっかり朝です。

「ふぁぁ…… っと。 二人で寝ちゃったのか」
「キ… キィ…」

はっと気が付き荷物を調べます。
荷物はどうやら無事なようでとりあえず安心しました。

「魔物にも泥棒にも襲われなくてよかったよな。
 完全に無防備だったし」
「キ?」
「大丈夫だ。 さー、いくか!」
「キィ!」

二人は立ち上がり焚き火へ土をかぶせ、森の出口を探し始めます。
しばらく森を迷い、もう出られないのではと思ったところでようやく外の景色を見つけました。
そこを抜けると目の前には路が横断し、その路へ乗り北へと向かう事にします。

「どれくらい遠いんだろうな?」
「キー」
「うーん、そうだよな。 お前はほとんど町から出たことなかったんだっけ」
「キィキィ」
「はは。 そうだな、歩いてればいつかはたどり着くか」

均された土を踏み、とにかく進むことにします。
しばらく歩いてヨウイチが思い出したようにドラオに話しかけます。

609 :作り合わされし世界 ◆2yD2HI9qc. :2007/10/06(土) 13:45:22 ID:qNl9ubYi0
「ああ、そういえばシエーナ、だっけ。
 あの町で会った女の人覚えてるか?」
「キィ、キキ」
「そうだった。 お前が最初に話かけ… ちょっかいだしたんだもんな」
「キ!」
「怒るなよ、ほんとだろ?
 でさ、ゲレゲレもだけどあの人もなんか周りの人たちとは違ったよな。
なんていうか、こう…」
「キ? キィ… キーッ!」
「な、馬鹿なこというな!
 鼻の下のばしてなんかないし別にそんなやましいことなんか…!」
「キ〜キ〜〜」
「ぬ… おまえ、ちょっと止まれ、いいから」
「キー!」
「あ! おい逃げるな!」

からかいながらドラオがすいすい空中を泳ぎ、ヨウイチは合わせて飛び跳ねながら追いかけます。
三分くらいそうやって遊んで、ふとヨウイチがいいました。

「もっと話を聞いておくべきだったかも、しれない。
 あの時は違うかもって思ったけど…
 "私の世界"ってどういう事なのか、もしかして俺と同じなのか……
もう一度、どこかで会えたらその時はちゃんと聞こう。
…俺は、一人じゃないのかって」

610 :作り合わされし世界 ◆2yD2HI9qc. :2007/10/06(土) 13:46:06 ID:qNl9ubYi0
ドラオがいてくれるから今はなんともありませんでした。
ですが夜になり一人でおきているとどうしても考えてしまうのです。
これが元の世界で一人だったなら、きっといまよりぜんぜん平気でした。

「そういえば名前も聞かなかった」

顔を上げ周りを見渡します。
遠くには薄色の山がそびえ、路はまっすぐに東西南北、それぞれ運んでくれようとしていました。

611 :作り合わされし世界 ◆2yD2HI9qc. :2007/10/06(土) 13:48:16 ID:qNl9ubYi0
二十二、 凍えるやま

何度もモンスターと戦い、商人や旅人と挨拶を交わしながら順調に進んできました。
何日、何十日かかったかわかりません。
二人は疲れていましたが、目の前の景色にそれはそれは感動していました。

「この山にマウントスノーの町があるらしい」

目の前はいちめん真っ白な山とふもとに広がる森に覆われています。
話に聞いていたマウントスノーがある山にたどり着いたのです。

「キィ」
「うん。 すごいな、山や周りの大地だけに雪が積もってる」
「キキー」
「そうだと思う、絶対さむい。
 けどお金ないし、節約で町に寄ったりしなかったからな。
お前はどうかわからないけど、俺はこんな薄っぺらな服で…」

途中いくつかの町を横目に見ましたが節約のためだと立ち寄ったりはしませんでした。

「けど大丈夫だろ、たぶん。
 山頂に登るわけじゃないんだし、ふもとからそんなに遠くないって聞いたし。
それに近くまできてるのにそんなに寒くないだろ?
けっこう平気でいけるんじゃないかな、たぶん」

不安はいっぱいありましたが、それでも進まなければなりませんから二人は森へと入ります。
森の中はしっかり路が作られ、それにそんなに寒くもありません。
もしかしたら平気なんじゃないかと二人は顔を見合わせ、どんどん進んでいきました。

612 :作り合わされし世界 ◆2yD2HI9qc. :2007/10/06(土) 13:54:50 ID:qNl9ubYi0

「さ、さむい……」
「……」

ヨウイチは自分の甘さを後悔していました。
森を抜け雪の積もる山を登り始めた最初はよかったのです。
足をとられ汗をかき、暑いとさえ感じていました。
ですが体が慣れてくるとそれはもう寒くてたまりません。
毛布で体を包みますが多少マシなだけでした。
ドラオはというと、寒さで凍ってしまったかのように口をつぐみ道具袋の中へ身を隠しています。
歩みは極端に遅くなり、きつくなる山の斜面はなかなか思うように進ませてはくれません。

「おい。 す、少しはしゃべって体を温めたほうがいいぞ…」
「……」
「…ったく。 しょうがないやつだな…」

風もびゅうびゅう吹き、細かい雪の粉が舞い、視界を遮ります。
時々やってくる強風に体が押され倒れそうになりますがなんとか堪えます。
そしてドラオには言いませんでしたが、この時点で方向を見失っていました。
雪に覆われどこに路があるのかぜんぜんわからなかったのです。
後ろを見てもどこを見渡しても飛び回る粉雪に隠されてしまいます。

「はぁ… 俺はなんで… こんなことしてるんだろ…」

山に入って丸二日、ほとんど食べず眠らずで進んできましたが一向に町は見えません。
夜だって早く町へ到着するために這いながら進んだのです。
ですがあまりの寒さと疲労で頭はもうろうと、あんまりよく考えられなくなってしまいます。

 もう、いいじゃないか。
ここまで頑張ったんだ。
ここで眠って目が覚めれば、きっと元の世界だ。
これは夢だ、夢に違いないんだ。

613 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/10/06(土) 13:55:51 ID:up//Ht/i0
支援

614 :作り合わされし世界 ◆2yD2HI9qc. :2007/10/06(土) 13:59:06 ID:qNl9ubYi0
甘い考えが頭をよぎり、ですがどうしても振り払うことが出来ず、やがてヨウイチはその場にうずくまってしまいます。

「ラーメン… 喰いたいなぁ……
 あ? あの灯りは、屋台かな。
おおーい、客が、ここにいる、ぞぉ…………!!」

ハッと体に力が入り勢い良く立ち上がり、その灯りへ向け雪をもぐり進み始めます。
そうしてとうとう、どうやら人気のある場所へとたどりついたのです。
さっきまでの疲れや眠気がまるでなくなって、もう頭の中はラーメンでいっぱいでした。

「あっはっ!!」

感覚で一時間くらい、実際は十五分です。
思わず笑ってしまいました。

「町だぞ! おいドラオ!!
 ついたんだよマウントスノーに違いない!!」

道具袋がもぞもぞしてドラオが顔を覗かせます。
町は、すっかり雪に埋もれていましたが窓から漏れる明かりはとても暖かく感じました。

615 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/10/06(土) 13:59:45 ID:up//Ht/i0
支援

616 :作り合わされし世界 ◆2yD2HI9qc. :2007/10/06(土) 14:08:29 ID:qNl9ubYi0
二十三、 マウントスノー

「どうだ、体調は」

年老いた男の声で意識がはっきりしてきます。
体を動かしてみると、ふかふかのベッドに寝かされているのがわかりました。

「ここは… 屋台は…?」
「なんの事だ? 私はブルジオといい、ここはマウントスノーで私の家だ。
 君は五日のあいだ眠っていたのだよ」
「あ、俺はヨウイチです。 確か、町に到着したのは覚えてるけど…」
「町の入り口で倒れていたのだ。
 あの吹雪だったろう。 私は町長として外の様子が心配になり数人と見回りをし、騒ぐドラキーを見つけた」
「気を失ったんだ… あ、助けてくれてありがとうございます。
 なんていったらいいか… 本当に感謝します」
「礼には及ばん。 いつもの事で慣れているしな。
 今はすっかりいい天気で、雪もほとんど溶けてなくなった」

ホッとし、ベッドから起き上がってドラオを探しますが見当たりません。

「ドラキー、どこにいますか?」
「さっき広間で─」
「キィーーッ!」

バタバタ飛びながらドラオがヨウイチの顔にしがみついてきました。
羽が当たって痛いのですが、無事で安心します。

「見ての通り元気だし食欲もある。
 君をずっと心配していたよ」

部屋はきらきらした飾りがたくさんあり、暖炉まであります。
床には複雑な刺繍を施した絨毯が敷かれ裕福な家であると教えてくれています。

617 :作り合わされし世界 ◆2yD2HI9qc. :2007/10/06(土) 14:18:49 ID:qNl9ubYi0
「しかし、ずいぶんと軽い格好で来たようだな。
 それにこの時期のあの三日間だけは山が吹雪いてしまうから、誰も外へは出ないというのに。
下の町で聞かなかったかね?
毎年、君のように迷い運ばれてくる者がいる」
「町へは寄らなかったもので… すみません、そういう時期があるとは…」
「準備も無しに山を登るとは。
 まぁ時期でなければ過ごしやすい気候だから、運がなかったな。
ここマウントスノーは他とは違い特別なのだ」

なんだか恥ずかしくて、ヨウイチは自分の姿を見返します。
ですが旅人の服ではなくて、まるで着た事のない厚手の服に着替えさせられていました。

「元の服はすまないが処分させてもらった。
 もう防具としては機能しないほどにボロボロだったのでな」
「し、しょぶん?!
 それは困る! 俺はまだ旅をしなきゃならないんだから!」
「ふむ。
 なぜ旅をしている? ここマウントスノーに来た理由はなんだね?」

自分の装備を捨てられびっくりしましたが、ブルジオの冷静な質問に落ち着きます。

「…目的は、まぁいろいろあって。
 マウントスノーにきたのは不思議な石版をみてみたいと、思ったからです」
「ほう… 石版を知っているのか。
 見てどうするんだね?」
「それは─」

言われて気づきました。
見るだけでは駄目なのです。
石版を手にし、それを神殿へと持っていかなければ意味がないのです。
ヨウイチは考えを改めることにします。

618 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/10/06(土) 14:26:13 ID:S+ds57ZqO
支援

619 :作り合わされし世界 ◆2yD2HI9qc. :2007/10/06(土) 14:26:32 ID:qNl9ubYi0
「……正直に言えばその石版を譲ってもらいにきました」
「ふむ。 石版を持っているのは私だ。
 …欲しいのなら一つ、条件を出そう」
「条件? なんです?」
「武器を持っているということは、君は戦いを知っているわけだ。
 そこで頼みがある。
 町の北にある洞窟に、スライムナイトというモンスターが住み着いたのだ。
普段なら町の中まで入ってくるモンスターなどおらないのだが…
あろうことか町へ忍び込みいたずらするようになった。
町の設備を壊したり畑を荒らしたり店の品物を盗んだり貢物を要求したりと、だんだん手におえなくなったのだ」
「え。 まさかそのスライムナイトを退治してくれと?」
「そうだ。
 これまで町に訪れる商人や旅人に依頼してきたが、失敗している」

ブルジオがごそごそ数枚の紙を取り出します。
ドラオがなぜか目を輝かせているのがわかりました。

「これはすごろく券といい、信用できる商人から仕入れたものだ。
 私は行ったことはないがなんでも広大なすごろく場で遊べるものらしい。
これをスライムナイトに渡してきて欲しいのだ」

すごろく券を手渡されますが、ヨウイチはどうにも納得できません。
モンスターがすごろくをするなんて考えられないからです。

「あの… 俺はそのモンスターを知らないんですが、こんな紙切れで大丈夫なんでしょうか」
「いや、大丈夫だ。
 様子を見に行ったときスライムナイトが"どうしてもすごろく場で遊びたい"と話しているのを聞いたからな」
「…そうですか。
 けど、そんな簡単な事でどうして失敗を?」

620 :作り合わされし世界 ◆2yD2HI9qc. :2007/10/06(土) 14:39:21 ID:qNl9ubYi0
「それは… すごろく券と一緒に誰もが約束を果たさず逃げてしまうんだ。
すごろく場はよっぽど魅力的なのだろう… 私は旅の者と出会うたびに頼んでおる。
もちろん、君は特別に信用している」
「はぁ… で、この券を渡せばモンスターもすごろく場へ行ってくれると。
 でも、券がなくなれば戻ってくると思うんだけど」
「戻るだろう。
 が、それまでに対策を考える。
その時間稼ぎのために、一時でもいいから洞窟をからっぽにしたいのだよ」

なるほど、と考えましたがやっぱり納得できないところもありました。

「でも、渡すだけならそれこそブルジオさんだって出来る事だし」
「いいや。 もし券を渡して襲い掛かってきたら、我々は戦えない」
「あー… なるほど」
「うまくいったら石版は譲ろう。
 頼んだよ、ヨウイチくん」

621 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/10/06(土) 14:52:10 ID:Edfd1jenO
ゐるぽ

622 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/10/06(土) 15:09:07 ID:l8Yjy7xSO
規制に引っ掛かってしまうとは情けない!

623 :作り合わされし世界 ◆2yD2HI9qc. :2007/10/06(土) 15:09:28 ID:qNl9ubYi0
二十四、 名もない洞窟

あくる日。
町は初めて見たときと全く違って雪はほとんどなくなっていました。
気候も陽のおかげか少し暖かく、あの吹雪が嘘のようです。
ブルジオの家で一泊した二人はぬかるんだ土をじゃぶじゃぶ踏んで北の洞窟へ向かいました。

「キィーキ−キー!」
「え、だめだよ。
 石版をもらうんだから。
革の鎧だって借りたし、持ち逃げなんて出来ない。
それよりほら! 剣と鎧、似合うだろ?」
「キィ…」
「……おまえ、そんなにすごろく場いきたいのか。
 でもなんで知ってる? 町から出たことないのに。」
「キ? …キー キーィ」
「知らないけど知ってる? なんだそれ。
 この世界の常識ってやつか? モンスターの本性ってやつか?」

洞窟は町からあまり離れてはいません。
話しながら歩いているうちに、丘へぽっかり口を開いた洞窟へとたどり着きました。

「ここみたいだ。 なんか薄気味悪いな」
「キキー」
「うん、暗くならないうちに帰ろう。
 中は一本道で短いっていってたし、すぐさ。
それにスライムナイトっていったってスライムなんだろ。 たいしたことなさそうだ」

ランプに灯りをともし洞窟へと入ります。
溶け始めた雪や暖かい日差しのせいでしょう。
中はとても湿っていて嫌な雰囲気です。

624 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/10/06(土) 15:11:33 ID:VQqXW+gb0
リアルタイム遭遇ktkr
支援です〜。


625 :作り合わされし世界 ◆2yD2HI9qc. :2007/10/06(土) 15:19:46 ID:qNl9ubYi0
「うわぁ。 なんかこんなとこ、ずっといるのはヤだな…」

ところが、ヨウイチの予想と違って二、三分まっすぐ進んだだけで最深部へと着いてしまいました。

「あ、あれ。 なんだもう奥か…」
「なんだおまえ!」

ドキリとして声のした暗がりを見ます。

「マウントスノーの人間か? 貢物ならさっさとよこせ」

そこにはおおきいスライムと鎧を着た人間に近い、背の低いモンスターがいました。
一匹だと思っていたのでヨウイチはあせってしまいます。

「あ、俺は… すごろく券を渡しに来たんだ」
「すっ?! すっ、すごろく券!!」

券の束を差し出すとスライムナイトは素早く奪い取りました。
束を数え、それからヨウイチとドラオをじろじろ見ます。

「間違いない本物だ。 俺は早速遊びにいきたいが、お前が邪魔だ」
「なら、俺はもういくよ」
「ちがうちがう、そういう意味じゃない」

人間みたいなモンスターがおおきいスライムにまたがり、スライムナイトが言いました。

「お前の着てるもの持ってるもの、全部いただくとする。
 だから生身は邪魔だ。 全部置いて帰れ」

626 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/10/06(土) 15:28:11 ID:UOTk8ALo0
支援。

627 :作り合わされし世界 ◆2yD2HI9qc. :2007/10/06(土) 15:29:35 ID:qNl9ubYi0
二十五、 スライムのくち

「くそっ! やっぱりこんな事になるのかよ!」

ヨウイチは身構えます。
相手は弱そうですが二人、油断はできません。

「ほー。 歯向かって来るなんて生意気だ。
 俺は強いんだぞ? いいのか? 痛い目にあうぞ?」
「うるさい! 目の前に悪党がいるのに引き下がれるか!」
「う、むぅ。 ん、おいドラキー。
 なんで人間の味方してるんだ、さっさとこっちへこい!」
「キィーー!!」
「な、なんだ。
 おまえ、堕落しきった人間にすっかり染まってしまってるな。
ようし…」

スライムに乗った戦士がなにやらドラオへ指を指しゆらゆらさせます。
ヨウイチはドラオをかばうように前へと出て剣でひゅうと威嚇しました。

「あっ! なんだ人間!
 じゃまをするんじゃない!」
「うるさい!
 とっととすごろく券を持って行け!」
「…まぁいい。 中途半端だがもうそのドラキーは俺達の仲間に戻った。
だてにスライムと一緒にいるわけじゃあないぞ!」

ハッとしてドラオへ振り返ります。
ドラオの目はとろんとしてしまい、意識がもうろうとしているみたいでした。

628 :作り合わされし世界 ◆2yD2HI9qc. :2007/10/06(土) 15:36:58 ID:qNl9ubYi0
「お、おい! ドラ─」

ドカリと背中に重い衝撃が加わりました。
スライムナイトのスライムが体当たりしてきたのです。
その衝撃でドラオを思わず抱えこんで地面へと転がってしまいました。

「このやろう! 卑怯だぞ!」
「こっちはお前の物がぜんぶほしいんだ。
 綺麗もひきょうもない!」

今度はナイトが剣をびゅうとふるいました。
ドラオをぽいと投げ、剣を構えなおしながらごろごろ転がって避け、しっかりと構えなおします。

「今度はこっちからだ!」

土をけってまるで野球のように剣をぶうんと振り、それをスライムナイトがひょいとよけます。
あんまりに思い切り振ったものですから、ヨウイチは剣に引かれてトトトと横を向いてしまいます。

「ちょろい!」

スライムナイトの剣が風を切ってヨウイチの肌を切り裂きます。

「ピー!!」
「いっつつ!!」

今度はスライムに足をかみつかれてしまいました。
ヨウイチは痛みをこらえて後ろへ下がり、大勢を整えようとします。
切られた腕は思ったより深い溝ができ、足にはスライムの口型が残ってとても痛くてたまりません。

629 :作り合わされし世界 ◆2yD2HI9qc. :2007/10/06(土) 15:45:39 ID:qNl9ubYi0
「きぃ」
「お?! おお、ありがとう」

ふらふらしながらドラオが薬草を手渡してくれました。
様子がおかしいので気になりますが、今はそれどころではありません。
薬草を飲み込み傷を癒し、考えます。

 あいつはあまり剣はうまくないし動きも早くない。
それに都合のよいことにとても油断している。
良く見ろ。
落ち着けば必ずかてるぞ。
 弱点だってあるはずだ…

深呼吸を一回、二回。
足元のちょっぴり大きめな石を片手に取りスライムナイトへ駆けていきます。

「もうあきらめて荷物を全部よこすんだな!
 正直ちょっとビビってたがなんともないぜ!」

びゅうんと大振りなナイトの剣がヨウイチの胸すれすれを通り過ぎ、体勢が少しだけくずれます。
ヨウイチはこの瞬間を狙っていました。
油断しているので気にせず剣を振り回すだろうと予想したのです。
そのまま予定通り、スライムの開きっぱなしになっている口へ思いっきり石を投げ込みました。

「ビギッ!! ビーッ!!」
「な! な! スラぼうどうしたのだ?!」

スライムはとても痛がって、それはもう暴れる牛みたいになりました。
そんな状態で、上に乗っているナイトはたまりません。

630 :作り合わされし世界 ◆2yD2HI9qc. :2007/10/06(土) 15:54:19 ID:qNl9ubYi0
「こらー! 落ち着けー!!」

どすんと、暴れるスライムからナイトがすべりおち、スライムはさっそく口に入った石をぺっぺと吐き出しています。

「ば、ばかっ! 俺をおろすやつが─」
「さー逆転だ。 どうする?」

地面へへたるナイトへ切っ先をたて、大きいスライムを片足で抑えていいました。

「あ… いや、いや。
 お、俺は地面の上ではちゃんと戦えないんだ…
だから、許してくれ!!」

ナイトが必死に頭をさげます。
スライムは気の毒そうにその様子を見ていましたが、ガツンとした音と一緒にぺったんこになってしまいました。

「なにしてるんだよ! ドラオ!」

見るとドラオが大きな石をスライムめがけて投げつけていたのです。
表情はまるで今までみたことのないこわい顔をしていました。

631 :作り合わされし世界 ◆2yD2HI9qc. :2007/10/06(土) 15:58:25 ID:qNl9ubYi0
みなさまお疲れ様です。
今日の投稿はここまでです。
支援、ありがとうございました。

ついでに、まとめサイトへ絵板に投稿された画像のまとめページを新設しました。
ttp://ifstory.ifdef.jp/index.html

632 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/10/06(土) 16:01:21 ID:VQqXW+gb0
お疲れ様でした。
なんとか形勢逆転ですね。
それにしても、ドラオさんの豹変、気になりますね・・・・。

催眠術かなにかでしょうか・・・。

633 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/10/06(土) 23:17:08 ID:sncsb/yf0
ドラオ野生化?

634 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/10/07(日) 01:44:45 ID:kTrpigk90
ドキュン世界の宿屋だったら嫌だな。
田舎の学ラン・リーゼントのグループと今風の20代肉体労働者が混在してるのを、
時空的にもカオスな世界だとか勘違いしたりして。
宿屋は通称ドヤ。

635 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/10/07(日) 10:33:42 ID:4rst9skZ0
しかもタコ部屋だったりする。
二階には圧力鍋爆弾を作ってるDQNが住み着いている。

636 :冒険の書3 ◆8fpmfOs/7w :2007/10/08(月) 00:30:54 ID:gO/7QA3i0
―下の巻― (>>505-512)

宝物庫のおっさんが死んだ。

俺たちは魔王バラモスを倒しアリアハンに凱旋した。
おっさんはラッパを鳴らして俺たちを祝福していた。
勝利の報告を国王にしようとしたまさにそのとき。
恐ろしい声が響き渡った。次の瞬間、雷のような、何か黒い力がおっさんに襲い掛かった。
やったのは大魔王ゾーマ。それはゾーマの俺たちに対する煽りだった。
奴にとっては何てことない煽りだったのだろう。つまらない、呆れるほどつまらない理由だ。

ゲンは怒りを隠そうとはしなかった。それは自分の無力さへの怒りかもしれない。
ポンドは手に負えないと分かっていてもおっさんの治療を止めようとはしない。
ユーロは泣きそうな顔をしていたが決して涙は流さなかった。
そうだよ、もう泣かないって俺と約束したもんな。……くそッ!
俺はこの光景をどんな間抜け面で眺めていたのだろうか。

国王は突然の出来事にまるで魂が抜けれいるようだった。
ポンドは王様を介抱するためここに残ると言ってきた。
「それに、今のあなたたちに必要なのは神の力ではないでしょう。」
ポンドは自分の引き際を知っているかのようにそう言った。
俺は父親が自分の生きたいように生きろと言っているような妙な錯覚を覚えた。
その苦労人に礼を言うと俺はゲンとユーロとともにアリアハンを後にした。

637 :冒険の書3 ◆8fpmfOs/7w :2007/10/08(月) 00:32:58 ID:gO/7QA3i0
ドルの入っていた牢屋はなくなっていた。
最悪の事態を想像したがそれは杞憂に終わった。
町の人間はドルを許したようだ。
許したと言うよりはドル以外誰も町をコントロールできなかったのだろう。
追い出しておいて彼女に頼らざる得なくなる。情けない奴らだ。
そして、その情けない奴は今の俺でもある。
俺たちはドルにこれまでのことを話した。
「そっか。辛かったね……」
自分だって理不尽にも牢屋につながれていたと言うのに。
「この町は私の子供のようなものよ。あれはちょっと反抗期を迎えただけ。」
女は強いな。
「ねえ、もう一度私を冒険に連れてってくれる?」
「お前がいなくてこの町は平気なのか? お前の子供みたいなものなのだろう。」
ゲンが当然の疑問を投げかけてくる。
「町の代表をみんなで選ぶシステムを作ったわ。この町はもう大丈夫よ。」
自分がいなくても町が動くシステムまで作り上げたのか。
「それに……」
「それに?」
「子供はね、いつか親から独り立ちするものよ!」
本当に女は強いな。
「でもさ、いまさらパーティーに商人なんて要らないわよね。」
いや、必要なのは商人じゃない。おまえ自身なんだ。
「だから、私ね、賢者に転職する!」

638 :冒険の書3 ◆8fpmfOs/7w :2007/10/08(月) 00:34:13 ID:gO/7QA3i0
俺とドルは2人でラーミアの背中に乗り竜の女王の城に向かっていた。
ドルが集めた情報では竜の女王は光の玉と言うものを持っていると言う。
ゲンとユーロは悟りの書と言う賢者になるために必要な本を探している。
ユーロのことは心配なのだが何かしていたほうが気が紛れるだろう。
「本当にいいのか? ……転職。商人はお前の誇りだろ。」
「商人としてやりたかったことはやっちゃったから。いろいろあったけどね。」
「……町のみんなに許してもらえてよかったな。」
「ねえ、覚えてる? 町を作るときエンが言ったこと。」
なんだっけ。どうしてバラモスが小指を柱にぶつけて悶絶する姿が頭に浮かぶんだ?
「私、みんなが幸せに暮らせる町、作れなかった……」
「そんなことない。あの町はみんなが幸せになるところに変わろうとしている。」
「……本当はね、牢屋に入れられたとき、とても辛かった。」
「泣きたいなら泣いていいぞ。……ここには誰もいない。」
そうさ。泣きたいとき人が泣くのを止めさせることなんて誰にもできやしないのだ。
「あなたがいるじゃない。」
「言っただろ。俺は違う世界の人間なんだって。だからカウントしなくていい。」
「……今だったら信じるかも。」
「変わったよな。昔は信じられるのはお金だけって言ってたのに。」
「ふふ、変わったと言うならエンの方よ。」
「俺が?」
そうか、俺は変わったのか。

俺たちは竜の女王から光の玉を託された。その直後、女王は出産とともに亡くなった。
女王は子供のために光のある世界を望んだ。俺たちができることは大魔王を倒すことだけだ。
誰も他人を泣くのを止めさせることなんてできやしない。
だが、暗闇が怖くて泣いている人のために光を灯すことはできるかもしれない。

その後ユーロたちが見つけてきた悟りの書を使いドルは賢者になった。
賢者は魔法のエキスパート。転職すると雰囲気も変わるようだ。
魔法を一から覚える。それがどんなに大変なことでもドルならやってのけるだろう。
そして俺たちは大魔王ゾーマのいる世界に通じるギアガの大穴の中へ飛び込んだ。

639 :冒険の書3 ◆8fpmfOs/7w :2007/10/08(月) 00:36:16 ID:gO/7QA3i0
穴の中にあったのはアレフガルドと言う闇の世界だった。
イメチェンしたカンダタを華麗にスルーし、大魔王の城へ渡る方法を見つけることにした。
そして奴に対抗できるような強力な武器防具を手に入れることも考えなければ。

強力な防具である勇者の盾、光の鎧は見つけた。鎧のあった塔ではルビスが封印されていた。
全てを司るのに封印されるとは情けない。聞きたいことは山ほどあるが大魔王を倒したあとだ。
封印をといたルビスから聖なる守りを受け取り魔王の城へ行くための虹の雫を手にいれた。
そして王者の剣の情報をドルが手に入れ、その材料となるオリハルコンをユーロが見つけた。
これをマイラと言う村の刀鍛冶に剣にしてもらおうと思ったが話が進まない。
俺は気晴らしに温泉に入ることにした。しばらくたった後ユーロがきた。
「オリハルコンを剣にしてもらえるよ! 今ドル姉ちゃんとゲンあんちゃんが話をしてる!」
「本当か! あの鍛冶屋どういう風の吹き回しだ?」
「鍛冶屋の奥さんがモンスターに襲われていたところをゲンあんちゃんが助けたんだよ!」
「それなんてエロゲ?」
俺はそうつぶやいていた。

「ねえねえ、エンあんちゃん。聞いてもいい? エロゲって何?」
聞かれていた。
昔の俺だったら「自分で調べようね。」という意味のことを3文字で言い放っていたろう。
だがこの世界にはパソコンも検索サイトもない。教えてやることにしよう。
「エロゲというのは男の人と女の人の物語で男にとって魅力的なお話のことだ。」
俺は嘘にならない程度に答えておいた。
「ふーん。ねえ、エンあんちゃんもエロゲしてみたい?」
「ああ、してみたいなー。」
「そっかー、おいらもできるかな?」
「ははははー、ユーロにはまだ早いなー。」
などと、ほのぼのとした会話を繰り広げた。俺っていいあんちゃんだな。
この世界にエロゲを知っている人間はいないのでほのぼのとした会話にしか聞こえまい。

こうして俺たちはエロゲ的な展開で手に入れた剣を持ち、ゾーマの城に乗り込んだ。
……うーん、様にならんな。

640 :冒険の書3 ◆8fpmfOs/7w :2007/10/08(月) 00:37:17 ID:gO/7QA3i0
ゾーマの城では男がでかいドラゴンのモンスターと戦っていた。
「私はもう駄目だ……。そこの旅の人よどうか伝えてほしい。私はアリアハンのオルテガ。」
戦いに敗れた男は俺に何かを話しかけてくる。
「エンを訪ねオルテガがこう言っていたと伝えてくれ。」
エンとは俺のことではないか。
「平和な世界にできなかったこの父を許してくれ……とな ぐふっ!」
父。そうか、この男はエンの父親なのか。
だが、どうすればいいんだ。エンは俺だがこの男の言うエンは俺ではない。
この男のいうエンにどうやって伝えればいいというのだ。
本当のエンはどこにいるのだ?

そんなことをゆっくり考える間もなく魔物たちは容赦なく襲ってくる。
大魔王の側近どもをなぎ倒し俺たちはついに大魔王と対峙した。

負ける気はしなかった。
力のゲン。鍛え抜かれた肉体から放たれる拳は会心の一撃となり大魔王を襲う。
すばやさのユーロ。誰よりも速く賢者の石をかざし味方の危機を何となく救う。
賢さのドル。その英知から繰り出される数々の魔法は仲間を守り大魔王を討つ。
俺の仲間は強い。
差し詰め元デイトレーダーである俺のとりえは運のよさか。
運のよさ。そうだな、こんな仲間と旅ができた俺は幸せものに違いない。

641 :冒険の書3 ◆8fpmfOs/7w :2007/10/08(月) 00:38:19 ID:gO/7QA3i0
「光あるかぎり闇もまたある……。わしには見えるのだ。再び何者かが闇から現れよう……。」
滅び行く大魔王が最後の捨て台詞を吐く。
……俺はどこまでも大魔王とは気が合わないらしい。
俺に言わせれば光があるから闇があるんじゃない。闇があるから光があるのだ。
誰だって闇は怖い。勇者だって暗闇は怖い。だからこそ人は光を求めるのだろう。
絶望の闇に落とされたからこそ俺たちは誰よりも強く光を求めた。
どうやら絶望を食らうのは大魔王だけではないらしい。人もまた絶望を糧に生きていけるのだ。

642 :冒険の書3 ◆8fpmfOs/7w :2007/10/08(月) 00:39:21 ID:gO/7QA3i0
大魔王を倒したことで俺はロトという称号を手に入れた。
「エン、エン、私の声が聞こえますか?」
そしてタイミングよくルビスの声が聞こえてくる。どこかで見てやがったか。
「大魔王のいなくなった今なら、あなたの記憶を戻すことができます。」
何を言っているんだ? 意味が分かっていない俺の頭はひとりでに何かを深く思い出す。

……そうだ。思い出した。俺はアリアハンのエン。オルテガの息子だ。
「あの16歳の誕生日、あなたは大魔王の力によってエンとしての記憶を失いました。」
エンはここにいた。じゃあ、デイトレーダーの俺はいったい誰なんだ?
「記憶を失ったあなたに私ができたことは、前世の記憶を呼び出すことだけでした。」
前世の記憶。俺はエンとしての記憶を失いあたかも突然この世界に目覚めたようになったのか。
やはり俺は1度死んでいた。そして生まれ変わった。だがそれは十数年も前のことだった……
そもそも生まれ変わったとして16歳からスタートするなんておかしな話なのだ。
何ってこった。エンと言う名前は思いついたのではなくかろうじて覚えていたことだったのか。
あのときルビスが質問攻めにしたのは前世の俺に対して探りを入れていたというわけだ。
「よくやってくれましたね。エン。」
「褒めるなら仲間たちも一緒にしてくれないか。俺1人ではどうしようもなかった。」
「ええ、もちろんです。ドル、商人としも賢者としてもみなの助けになってくれました。」
「私もみんなに助けられました。」
「ユーロ、子供ながら辛い戦いを乗り越えましたね。」
「えへへ。おいらがんばったよ。」
「そしてゲン。異世界の人間であるにもかかわらずよくやってくれました。」
「……ああ。」
……何を言っているんだ。
「俺はこの世界の人間ではないのだ。ある日、目を覚ましたらこの世界の宿屋にいた。」
まったく最後でこんなどんでん返しが待っているとは。
ゲンは前世の俺がいたまさにその世界から迷い込んできたらしい。
そしてこの世界に体ひとつでやってきたゲンは武闘家として生きることにしたのだ。
俺は異世界からただ1人この世界にきたと思っていたがそれも違っていた。
この衝撃の事実を知って俺が最初に何を思ったか。
それは「やべ、エロゲ知ってる人間いたよ。」ということだった。

643 :冒険の書3 ◆8fpmfOs/7w :2007/10/08(月) 00:40:23 ID:gO/7QA3i0
大魔王はいなくなりこれから俺たちの新しい生活が始まる。
ゲンは元の世界には帰らなかった。
俺は元の世界では死んでいるので帰れるわけはない。
不思議なことに、今だったら両親が俺の墓の前で泣いている姿が想像できる。
だが俺は涙を見たくない。誰も俺のために泣かないでほしい。
俺はこの世界でこうして生きているのだから!

この世界で俺は勇者になった。ロトと言う最高の称号も手に入れた。
だが、俺がいなくてもこの世界が闇に覆われることはないはずだ。
明るく照らす光によって見たくもないものが見えてしまうかもしれない。
俺の灯した光はすぐに消えてしまうかもしれない。
それでも人は闇を恐れる。人には光が必要なのだ。
だからきっと誰かが光を灯すだろう。
誰もが光を灯すことをできるわけではないかもしれない。
光を灯すことができなくても嘆き悲しまないで欲しい。
闇の暗さを恐れる人は光の大切さを知っているのだから。
光を望む思いがきっと誰かの力になるはずだから。

この世界に案中を求めるより、もう少しこの仲間と冒険を続けたい。
俺やゲンが住んでいた世界に行く方法を探すのも面白い。
どこかまったく違う世界で自分の国をつくってみるのもいい。
世界のどこかにはなんでも願いをかなえてくれる竜がいるという。
まずはそいつを探してみるのもいいかもしれないな。
親父や宝物庫のおっさんも生き返らせることができるかもしれない。

644 :冒険の書3 ◆8fpmfOs/7w :2007/10/08(月) 00:41:25 ID:gO/7QA3i0
「そういえば、お前たちの本当の名前ってどんなものなんだ?」
「教えない。」
ドルがいたずらっ子のような顔をして言う。
「何で?」
「私はね、あなたのつけてくれた名前が気に入ってるのよ。」
「おいらも!」
「俺もいまさら昔の名前を名乗る気はしないな。」
「もうアリアハンへは帰れないもん。」
「ギアガの大穴が閉ざされてしまったからな。」
ユーロとゲンが口々に言う。
帰れない。俺も母を母だと分かった今もう会うことはできなくなった。
いや、俺は希望を捨てない。もう一度上の世界に行く方法を探すというのもいいかもしれない。

そういえば、元の世界でも名前を変わることがある。主に女の苗字が男のものに変わる現象だ。
「帰れないし仕事も捨てたし、これはもう一生面倒見てもらわないと割に合わないわね。」
「おいおい、一生俺から搾り続けようってのか?」
「何でそういう発想しかできないの?」
「だってそれくらいの覚悟が必要だろ。結婚するなら。」
「……ばか。」
ああ、泣かしてしまった。でも、こういう涙ならありかな。


最後に言っておかねばならないことがある。
それは、俺がどこにいてどんな立場なのかを考えれば分かることだ。
俺は「もし目が覚めたらそこがDQ世界の宿屋だったら」スレにいて実家で目覚めた。
だが、宿屋で目覚めたのはゲンだ。だからこの物語の主人公は奴だったのだ。
反論は認める。

―完―

645 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/10/08(月) 00:47:24 ID:9VyNVymT0
乙でした!
リアルタイム遭遇でドキドキしながら読ませていただきました。
最後の五行にはやられましたw

646 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/10/08(月) 02:41:41 ID:9UYElayPO
なんという展開www

647 :晴闘雨読【1】 ◆Y0.K8lGEMA :2007/10/08(月) 03:09:02 ID:F1lHfvAb0
LOAD DATA 第三話>>583-601   

コバルトブルーの海を臨む小さな修道院の裏にひっそりと存在する小さな十字架。
朝焼けの中を吹きつける潮風に浸食され、墓碑銘すら読めない朽ち果てた墓。
「シスター・シエロ。ずっと気になっていたんだけど、あの墓は誰の墓なんだ?」

「あの十字架の下に眠るのは、一つの愛に殉じた修道女だと伝えられています。
 ずっと昔…記録には残っていませんが、この修道院ができた頃でしょうか…
 シスター・ビオレッタという修道女が行き倒れの異国の男と恋に落ちました。
 修道女と異国の男が密かに愛し合っているという噂はすぐに教会の耳に入り、
 ビオレッタと男は異端として捕えられ、二人は激しい拷問の末に処刑されました。
 二人は気が狂うような拷問の最中でも互いの不利になる事を口にせず、
 火刑台に上がった時でも最後の瞬間まで互いを愛し続けたと言われています。
 その姿が他の修道女の心を動かし、せめて神の下で二人一緒になれるように…と、
 一つの十字架の下に二人の灰を埋葬したそうです。」

「神の下で一緒に…か…二人で生きる方法はなかったのかな…」

「時代が違いますから…命と引き換えに愛を求めた事を誰も責められないでしょう。」

俺の手が自然と足元に咲く花を一輪摘み、朽ち果てた墓前にそれを供える。
そんな俺を見て、シスター・シエロ…この修道院の院長が微笑む。
「イサミ様はお優しいのですね。シスター・ビオレッタもきっと喜んでましょう。
 …さあ、そろそろ戻りましょうか。そろそろ朝食の準備を始めませんと…
 皆さんと頂く最後の朝食ですからね。」

海の向こうから昇る朝日が小さな墓をゆるやかに照らす。

自由の身になってから一日たりと欠かした事のない毎朝の散歩。
この光景とも今日でお別れか…

つい感傷的になる俺の足元を、さっき供えた花が潮風に吹かれて飛んでいった。

648 :晴闘雨読【2】 ◆Y0.K8lGEMA :2007/10/08(月) 03:14:26 ID:F1lHfvAb0
二週間前…俺達を乗せた樽が流れ着いたのは、小さな岬の修道院。
嵐に巻き込まれ、樽の中で気を失っていた俺達はここのシスター達に救助された。

四人全員が無事なまま土を踏めた事を全員で泣いて喜び、
久しぶりに口にする温かい食事を全員で泣きながら食べた。

『行き先がないなら好きなだけ修道院にいても構わない。』
修道院長のシスター・シエロが微笑みながら言った。

サトチーは父親の遺志を継いで、旅を続けると言う…
ヘンリーはラインハットに帰ると言う…
マリアはこの修道院で兄の無事を祈り続けると言う…
「俺は…残してきた仲間達を助ける。何年かかっても絶対だ。」

昨夜、今後の予定を話し合った席で俺は迷わず皆に告げた。
少し前の俺なら、元の世界に帰る方法を探す事を最優先しただろう。
だが、今の俺にはこっちの世界での確固たる目的がある。
仲間達を助けて…その後の事はその時考える。

最初の目的地はこの修道院の北の町 商業都市オラクルベリー。


自由とは、夜明け前の闇を手探りで進むような恐ろしさを併せ持つ。
負けるものか…

…俺は絶対に強くなる。


朝焼けに染まる海を眺めて自分を鼓舞する。

…強くなって、必ずあの神殿に戻る。

649 :晴闘雨読【3】 ◆Y0.K8lGEMA :2007/10/08(月) 03:16:08 ID:F1lHfvAb0
「イサミ様…」

シスター・シエロの呼びかけにハッとして振り向く。

「イサミ様はお強い方。ご自身のお悩みも必ず解決できましょう…
 ですが、イサミ様が道に迷った際はいつでもここを訪れてくださいませ。」


朝焼けに照らされたシスター・シエロの姿はいつもより優しそうで…
いつになく寂しそうに見えた。
「…突然申し訳ありません…では、修道院に戻りましょう。」

そう言って背を向け歩き出すシスター・シエロの背中は小さくて…
でも、とても広くて温かく見える。





…確か、母ちゃんの背中もあんなんだったけか…





「長い事お世話になりました。このご恩は忘れません。」
「皆様の旅の安全をお祈りしております。どうかお気をつけて。」
サトチーが代表してシスター達にお礼を述べる。

修道院を後にし、俺達はそれぞれの目的のために歩き出す。

650 :晴闘雨読【4】 ◆Y0.K8lGEMA :2007/10/08(月) 03:16:42 ID:F1lHfvAb0
天気は快晴。広い草原の草花を揺らす風が気持ち良い。

へえー、地平線なんて実際に見るの初めてだよ。
あっちの世界じゃあ360°どこを向いても灰色の建物ばっかりだったよなあ。

生まれて初めて見る一面緑の景色に、俺は半ば感動しながら歩く。

「なあ、サトチー。イサミは何でさっきからキョロキョロして歩いてるんだ?」
「さあ?イサミの世界では建物の外に出ない生活が主流なんじゃないかな?」
「はぁ〜〜…それで、外の景色が珍しいって?どうにも退屈な世界だなあ。」
「まあ、僕も想像で言ってるだけだからわからないけど…確かに不健康だよね。」

列の一番後ろを歩く俺の前で、サトチーとヘンリーがヒソヒソと話し込んでいる。
うん、物凄くよく聞こえてるし、明らかに俺の世界が誤解されているな。
確かに『ここ数ヶ月、太陽を見ていませんが何か?』なヒトも一部存在するけど、
それが俺の世界の人間全てだと思われるのは心外d…… どむっ!!

「痛っ!何すんだよヘンリー……??」
背後に何かがぶつかるような衝撃を受け、前に突き飛ばされる。
どうせまたヘンリーの悪ふざけだろうと思った…けど、ヘンリーは俺の前を歩いている。


そぉーっと振り返った俺の目に入ってきたのはアレ。

あぁ、すっかり忘れてたよ。コッチでは出るんだったよね…

やあ、久しぶりだね。モンスター達…


「…って、落ち着いてる場合じゃねえ!モンスターだあ!!」
うん?デジャビュを感じるな…

651 :晴闘雨読【5】 ◆Y0.K8lGEMA :2007/10/08(月) 03:17:33 ID:F1lHfvAb0
俺達をぐるりと取り囲むモンスター。

青いタマネギみたいなプルプル…あぁ〜コイツどっかで見たことあるなぁ…
でかいハンマーを担いだ小人みたいなヤツ…アレで殴られたのか…
そして、灰色のイタチみたいなヤツ…でも妙に首が長くてキモイ…


「二人とも落ち着いて。背後を取られないように円陣を組むんだ!
 ヘンリーは魔法で右のスライム達を頼む。数が多いから気を付けて!
 僕が前方のガスミンクを引き受ける。イサミは後方のブラウニーだ。」

サトチーが的確に指示を出し、ガスミンクにチェーンクロスを振るう。
ムチ男との戦闘のときにも思ったが、やはり場慣れしている。

「よぉし、かかって来やがれスライムども!」
ヘンリーがスライム達にメラを放つ。

よし!俺も……  ―!!―



ドゴッ!



不意打ち…いや、戦闘中によそ見をしていた俺が悪いか…
ブラウニーのハンマーは辛うじて俺の頭部を掠めるにとどまったが、
アレを頭に喰らったら大怪我じゃ済まないな。

サトチーから譲り受けた銅の剣を構え、一回深呼吸…

行くぞ!!

652 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/10/08(月) 03:22:03 ID:T+32Y4EE0
支援!

653 : ◆Y0.K8lGEMA :2007/10/08(月) 03:23:36 ID:F1lHfvAb0
今日の投下はここまでです。

地平線…一度でいいから本物を見てみたいな。

654 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/10/08(月) 08:46:24 ID:FYvz4DZ8O
>>644
展開も面白かったし、オチも最高w やられたwww
だいぶシナリオはしょってるのにそんな気がしなかった。
これでロト編は完結か。天空シリーズも期待してます。

>>653
奴隷仲間のことはプレイ中に気になってたから、
これを目標にする主人公はいいなぁ。
これから長いけど頑張ってください。

655 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/10/08(月) 12:28:16 ID:E4A24FDB0
gO/7QA3i0さん、完結乙でございました。かっこよすぎる。
ゲンさんが、まさかそんな展開だったとは。
オルテガの死を本当のエンさんに伝えられないと悩む主人公(仮)さんもよかったです。

F1lHfvAb0さん、残してきた仲間を助けると決意した主人公、かっこいいです。
レベル5 異邦人、がんがれ。超がんがれ。


656 :晴闘雨読【6】 ◆Y0.K8lGEMA :2007/10/09(火) 02:48:17 ID:31EFKMrf0
俺の脳天目掛けて振り下ろされるハンマーをサイドステップでかわす。
そんな大振り、不意打ちじゃなきゃ誰が喰らうかってんだ。

空振ったハンマーを足で押さえつけ、剣でブラウニーの胴体を薙ぎ払う。


―!?!?!?!!―

ブラウニーの小さな体は宙を舞い、草むらに頭から突っ込んで動かなくなった。
切れ味の悪い銅の剣だから殺しちゃいないと思うんだけど…後味悪いなあ…

「お疲れさま。二人とも怪我はないかい?」
「はん。俺様がスライム如きに遅れをとるかっての。」
ガスミンクとスライムの群れを撃退した二人の表情は余裕が感じ取れる。
…これがコッチの普通なんだよな…

「イサミは大丈夫かい?」
「…え?…うん、俺も平気。何とか一撃も喰らわないで勝てたよ。」
「そう…なら良いんだけど、難しい顔をしてたからさ。」
参ったな。俺が表情に出やすいのか、サトチーが鋭いのか…
「ああ…ホラ、俺の世界じゃあモンスターなんていなかったからさ、
 どうにも戦闘に慣れていないって言うかさ…」
「…他の生き物の命を奪う事に慣れていない…って?」
本当…鋭いな、サトチーは…


「……ていっ!」 びしっ!
「痛!」
久しぶりにヘンリーのチョップが俺の脳天に叩き込まれる。

…正直、今のは結構痛いツボだったんですけど…

657 :晴闘雨読【7】 ◆Y0.K8lGEMA :2007/10/09(火) 02:50:35 ID:31EFKMrf0
「まぁたイサミはグジグジ言いやがって。お前の目的は何だ?言ってみろ!!
 お前がどんだけ甘い事言ってたって、モンスターにはそんな事お構いなしだ。
 むしろ、相手は無防備・無抵抗な人間を喜んで殺しに来るんだぞ?
 平和な世界を引き摺ったままの考えじゃあ、目的達成の前にモンスターの晩飯だ。
 それが嫌ならさっさと気持ちを切り替えろ!!」
いつも見せるおちゃらけた表情とは違う真面目な顔でヘンリーが俺に語りかける。

…そうだ、平和ボケした考えじゃあこの先を生き残れない。
負けない。強くなる。そう誓ったばかりじゃないか。

「イサミ。ヘンリーの言う通り、これがコッチの世界で生きるための最低条件なんだ。
 すぐには気持ちを切り替えられないかもしれないけど、でなければ生き残れない。
 それに、僕やヘンリーだって相手の命を奪う事に慣れてなんかいないよ。
 いや、人間なら誰だってそうじゃないのかい?」

俺は二人を見つめ、黙って頷いた。
…生き残る…そのためには、降りかかる火の粉は払わなければ…

「まあ…いきなりコッチの世界の常識に合わせるのはは難しいよなあ。
 もし俺がソッチに行って、『家の外に一歩も出ない生活がコッチの常識だ。』
 …なあんて言われたら退屈で退屈で死んじまうよ。」
「そうだよねえ。モンスターが出ない世界なんて羨ましいと思ったけど、
 そう考えるとイサミの世界で生きるのも大変なんだろうね。」

…やっぱり誤解されてるよ…

「だから、俺の世界ってのはそうじゃなくってさあ…」

―この二人に俺の世界の正しい姿を伝える―
…俺の旅にもう一つの目標が加わったが、自動車も電気もガスもコンクリートも…
そもそも科学の概念が通じない二人に説明するのは奴隷の救出よりも難しいのかも…

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