■掲示板に戻る■ 全部 1- 101- 201- 301- 401- 501- 601- 701- 最新50 [PR]ぜろちゃんねるプラス[PR]  

もし目が覚めたらそこがDQ世界の宿屋だったら10泊目

400 :Stage.7-3 [11] ◆IFDQ/RcGKI :2007/09/20(木) 22:01:58 ID:9JDH2BKU0
  Prev (マエスレ)>>605-609
 ----------------- Rial-Side -----------------

 相手の武器は、その格好に合わせたようにブレードもグリップも黒。余計な装飾がなに
もないシンプルな造りで、明らかに殺傷を目的として設計されている本格的なものだ。
 それも、先日の不良少年みたいなのがイキがって持ってるだけならともかく、この男に
はそんな素人じみた気負いなどまったくない。本物の「斬り合い」に慣れている人間だ。

 だが、軽い。
 男が振り下ろしたナイフを、俺は細長い鉄の杭で再び受け流した。こんな頼りないエモ
ノでさばけてしまうのは、相手の武器が軽量だというより、力のかけ方が散漫だからだ。
「ふむ……妙だな。うまく動かん」
 男も実力を出し切れていないことに気付いたようだ。
「現実側は制限があるとは聞いたが……どこがおかしいんだ?」
「俺に聞くなよっ」
 あのな。親切に答えるわきゃねえだろーが。

 確かに制限のせいもあるだろうが、こいつ、構えを間違ってんだよ。
 俺の基本の型であるその構えは、応用が利くのでマルチタイプと誤解されがちだが、実
はナイフのような軽い武器にはあまり向かない。筋肉の生み出すエネルギーを1エルグも
無駄にせずインパクトに変換する、ってのを追求したもんだから、武器にある程度の重量
が無いと刃が走りすぎて、パワーロスの方が大きくなってしまう。
 軽量武器には専用の型がちゃんとある。どこで習ったんだか知らねえが、親父が基礎を
創り、俺が体系化し、後にアレフガルドで「ロト流」としてまとめられるはずのそれは、
中途半端な知識で使いこなせるもんじゃねえ。


(それでも6:4ってところか……)
 こいつの言うとおり、制限がかかっているのは俺も一緒だ。身体的にどの程度までの負
荷に耐えられるのか自分でまだ把握できてない以上、いつなにが起きるかわからない。
 早めに終わらせるべきだ。だがまだ早い。一般人が歩く遊歩道から、もう少し離れない
と――。

401 :Stage.7-3 [12] ◆IFDQ/RcGKI :2007/09/20(木) 22:04:32 ID:9JDH2BKU0

 すれ違うのもやっとの狭い林道で打ち合いながら、押されているフリで奥へ誘い込む。
「おい、どこまで逃げる気だ」
「うるせえっ。てめえこそ腰が引けてるぞ」
「ふん……関係ない人間を巻き込まないように、か?」
 俺の内心を見透かしたように、男は鼻で笑った。
「しょせんあんたも、プレイヤーを身代わりにしたクチだろうに」
「!」
 男が繰り出したナイフの切っ先が、俺の左手の甲をかすめていった。一拍遅れてピリッ
とした痛みが走る。
「いまさらイイコぶるなよ」
「だからって、なにしてもいいわけじゃねえだろう」
 傷口から沁み出した血が、指先を伝って地面に滴り落ちた。いつもならホイミで簡単に
治せる傷だが、こっちじゃそうはいかない。
「この世界には回復呪文も蘇生呪文もないんだ。間違って人を傷つければ……」
「そうだな。殺せばそれで終わりってのは、ラクでいいよな」

 今まで抑えていた苛立ちが、カッと熱を持って脊髄を駆け上がった。
「てめえみてえなのが、俺の型式使ってんじゃねえ!」
 低い位置から間合いを詰め、鳩尾を狙って鉄杭を突き上げる。
 ぎりぎりで避けた男が、俺の背中にナイフを振り下ろした。俺はそのまま地面に片手を
ついて足払いをかけ、相手が飛んでかわしたのに合わせて方向転換。
 瞬間、目の前に男のブーツが迫っていた。上半身をのけぞらせたが勢いを殺し切れずに、
胸に蹴りを食らって吹っ飛ばされる。木の幹に背中がぶつかり、薄桃色の花弁が舞い散っ
た。肺から無理やり押し出された空気を補充する間もなく、次の一撃が迫ってくる。
 ギン!
 黒いブレードを、鉄杭で思わず受け止めた。
 しまった、と思った瞬間、とうてい鍔迫り合い(ツバゼリアイ)で勝てるはずのない細い鉄杭
がそこから折れ、勢いに乗ったナイフが俺の喉を斬り裂いていった。
 パッと血しぶきが飛んだのが自分で見えた。
(やばっ……)
 回復呪文がない、という恐怖感のせいで、対応が一瞬遅れる。

402 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/09/20(木) 22:06:17 ID:FNn50Umu0
支援ぬ

403 :Stage.7-3 [13] ◆IFDQ/RcGKI :2007/09/20(木) 22:08:34 ID:9JDH2BKU0

 男は容赦なく俺の足を払い、顔面をつかんで後頭部を地面に叩きつけた。
「が……!」
 頭の中が白く弾けた。腹にズシッと重いものが乗っかって、息ができなくなる。
「なにが伝説の英雄だ。ただのガキじゃないか」
 喉にヤツの指がかかった。目の前に、血のせいでよけい黒光りするブレードが突きつけ
られた。
 うわー、もしかして俺、めっちゃピンチじゃね? 人の首を締め上げながら、男はなん
かブツブツ言いだしてるしっ。
「普通に血も赤いしな。あれか、開いたら中身は違うとか? どうなんだ」
 ちょwwwww中身っておまwwwwwwwwww
 いーやー! こんなサイコさんに解体されるなんてゴメンだー!!

 俺は地面の土をえぐって、力任せに相手の顔に叩きつけた。使える物はなんでも使うの
がオレ流だ!
「なっ……」
 ひるんだ一瞬の隙に、折れた鉄杭を男の腹に突き立て、ひざで腹を蹴飛ばした。男の下
から這い出して、必死に息を整える。
 首に手を当てて傷の程度を確かめてみると、どうやら頸動脈やリンパなんかは無事みた
いだ。一応よけたつもりではいたが、思ったより血が出てヒヤッとしたんだよな。
 相手も浅かったのか、腹に手を当ててから小さく息をついている。

「……あまりきれいな戦い方ではないな」
 顔についた土をぬぐいながら男が言った。
「ケホッ。ア、アホか。戦いなんてたいがい泥臭いもんだろうが」
 そんなスマートにキマる戦闘なんて、強者が弱者をいたぶる時くらいのものだ。

 ――そう続けようとして、俺はそのあとの言葉を飲み込んだ。
 男がジッとこちらをにらんでいる。あの薄笑いはもうなかった。
「なんだそれは。伝承と違うじゃないか」
 そこにはなんの表情もなく、瞳だけが氷のように冷たい。
 背筋がゾッとした。

404 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/09/20(木) 22:12:16 ID:+bLd1D0s0
支援

405 :Stage.7-3 [14] ◆IFDQ/RcGKI :2007/09/20(木) 22:13:09 ID:9JDH2BKU0

   ◇

「おかしいな。『勇者は常に華麗に戦うもの』じゃないのか?」
「なんだよそれ」
 俺が警戒していると、男は急に背筋を伸ばして、ナイフを持ち直して眼前に立てた。
「俺はアレフ。アレフィスタ=レオールド。あんたは?」
 左手を十字にクロスさせ、アレフガルド流の騎士の礼を取る。
「……本気かよ。せっかく平和な国に来て、バカじゃねえのか」
 戦いの最中に名乗るのは、たいていの場合、敵を殺すときの死出のみやげだ。
 それでも相手が名乗ってきたからには、こちらも名乗りを返さなきゃならない。
「アルスだ。――アルセッド=D=ランバート」
 俺は次の武器とする鉄杭を地面から引き抜いた。強度こそ足りないが、リーチと「刺す」
ことに特化してる分、まだナイフとは相性がいい。無いよりはマシ、という程度だが。
 正直、ちょっとヤバイ。どうもさっきから身体が重くてしょうがないのだ。 
 現実側の制限のせいか? それにしても、あまりに消耗が早すぎる――。


 そのときだ。
 葉ずれの音とともに、俺の視界にパステルブルーが現れた。
 男の後ろでユリコが、恐ろしい物でも見たように、両手で口を押さえている。
「タツミ……!? そんなに血が……」
「バカ! 逃げろユリコ!」
 俺が叫ぶと同時に、男が再びニヤリと笑った。身を翻し、真っ直ぐ彼女に向かっていく。
「関係ねえやつに手ぇ出すな!」
 追いかけようとした瞬間、ガクっと足から力が抜けた。
 なんだ? さっきの後頭部への一撃で脳震盪でも起こしたか? いや違う、なにかおか
しい。まるでタイムリミットでも来たような。
 ちくしょう、どうなってやがんだ!

 恐怖で身がすくんでいるのか、彼女は動かない。男がナイフを振り上げた。
「ユリコ……!」

406 :Stage.7-3 [15] ◆IFDQ/RcGKI :2007/09/20(木) 22:15:31 ID:9JDH2BKU0



 スパーン!
 ……といい音がして、彼女のハイキックが男のあごに決まった。



「あんた、あたしのタツミになにすんのよぉ!」
 しかも二段蹴り。
 そのまま流れるように回転し、ふわっとワンピースが広がって(ピンクのレースでした)、
気合いも腰も入りまくった見事な回し蹴りが男の脇腹にメリ込んだ。
 たまらずよろけた男の顔を両手でムンズとつかむと、さらにひざを叩き込む。
 2発、3発と入り、最後の仕上げとばかりの腹蹴りをくらって吹っ飛ばされると、男は
地面に転がったまま動かなくなった。

 マジっすか。

「タツミ! タツミ、大丈夫!!??」
「いえ、大丈夫です。ええもう」
 思わず逃げ腰になる俺に駆け寄ってくるユリコちゃん。
「やだ、こんなに血が出てるッ。待ってね、すぐお医者さんに連れて行くからね」
 グシャグシャに泣きながら俺をギュムっと抱きしめるユリコちゃん。ちょっデカ、柔ら
かいんですがっ。かなり着やせするタイプですねオネーサン。
 これバレたらおっかねえなぁ、と思いつつも、役得だしまぁいいかと浸ることに決定。


「……邪魔が入ったな」
 だぁ! サイコ男(アレフだっけ?)起きてくるし。お前はもう黙って寝てろ。
「なによ、まだヤル気? 沈めるわよ?」
 ユリコがギロっとにらむ。俺でさえゾッとした男の眼力にもまったく怯んでない。

407 :Stage.7-3 [16] ◆IFDQ/RcGKI :2007/09/20(木) 22:17:59 ID:9JDH2BKU0

 アレフは自分の左腕の袖を上げると、腕時計を見て忌々しげに舌打ちした。
「完全に時間切れか」
 小さくつぶやいて、もはや俺たちなんか完全無視で背中を向ける。まるでなにごとも無
かったかのように、ガサガサと林の奥に消えてしまった。
 ああいう切り替えの早さは一流戦士のそれらしいのに。狂気じみた言動がアンバランス
で、はっきり言って気味が悪い男だ。
「通報した方がいいだんだろうけど……」
 ユリコが悔しそうに唇を噛んだ。ああそうか、「奨学金」だかなんだかの関係で、ケー
サツはダメなんだっけ?


 それにしても、やっぱり変だ。なんか頭がボーッとする。まるで全MPを一気に消費し
たみたいな疲労感が襲ってきて、身体が動かない。本当にどうなってるんだろう。
「あ、あれ、タツミ……? あんたコンタクトなんかしてたっけ?」
 は? なんだいきなり。こんたくと、とはナンデスカ。
「今確かに……でも、そう言えば……」

 彼女がなにやら動揺しているが、急激に理解力が低下していて、意味が入ってこない。
 よくわかんねえけど、ただ、ユリコちゃんせっかく可愛い服だったのに、血やら草キレ
やらでドロドロになっちゃってて、なんか悪かったなぁとか。
 そんなことがグルグル回って。

「あなた、誰? タツミじゃないの……?」

 彼女の呆然としたような言葉を最後に、俺の意識はすうっと闇に呑まれた。



                      ――To be Continued Stage.8
                      Writing BGM "No Reason" by SUM41.


500KB
続きを読む

名前: E-mail(省略可)
READ.CGI - 0ch+ BBS 0.7.4 20131106
ぜろちゃんねるプラス