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もし目が覚めたらそこがDQ世界の宿屋だったら10泊目

478 :Stage.9 [1] ◆IFDQ/RcGKI :2007/09/30(日) 22:56:04 ID:4pwvblo40
  Prev >>442-452
 ----------------- Game-Side -----------------

 トントン、とボールが弾むような音がした。ヘニョだ。相変わらずの笑顔だけど、少し
手前で留まってモジモジしている。気にしてるのかな。
 おいで、と手を差し出すとピョンと飛びついてきた。
「ごめんごめん。君が悪いんじゃないよ」
 スライムも生きているんだから、100%「かわいい」だけで済むはずがない。勝手な理
想を押しつけようとした僕が悪いんだよね。
 リアル……か。

「そう言えば、ロダムは神父さんだったの?」
 さっき気になったことをそれとなく聞いてみる。ロダムは少し口ごもった。
「そうなんですがね……いや、お恥ずかしい話なんですが」
 頭をかく彼に、僕は首をひねった。「神父」と「僧侶」の違いもよくわからない僕には、
なにが「お恥ずかしい」んだかも理解できない。
 ロダムもそれに気づいたのか、「異世界の方なんでしたね……」と苦笑した。
「簡単に言うと、神父は殺生できないから、僧侶になったということですな」

 神父はあくまで「救う」職業であって、たとえ魔物でも無闇に命を奪うわけにいかない。
だが世界規模で魔物被害が拡大している昨今、彼らの強力な退魔能力を正当に利用するた
めに、殺生を許された特別な聖職が設けられた。
 それが「僧侶」。だが名目上はどうあれ、殺すために聖職に就くという矛盾は埋めよう
がなく、特に神父からの転職は「宗旨替え」と中傷を受けることも多かったという。
「最近は理解されてますがね。現実問題、きれいごとで魔物は払えませんしなぁ」
「ロダムはどうして……やっぱり、街が魔物に襲われたから、とかで?」
「よくある話ですよ。妹一家が犠牲になりまして」
 ロダムはただ穏やかに、月明かりに煌めく夜の海を見つめている。
「本来は神父の修行をする『宮廷司祭』も返上するべきなんですが、国王様が認めてくだ
さいましてね。ありがたいことですよ」
 旅が終わったあとは、たとえどんなに殺生を犯してもまた神父に戻っていいってことだ
そうだ。こんな特別待遇を設けてるのは、世界中でもアリアハンだけなんだって。

479 :Stage.9 [2] ◆IFDQ/RcGKI :2007/09/30(日) 22:58:28 ID:4pwvblo40

「へぇ、あの王様もけっこういいとこあるじゃん」
 優秀な人材が勇者にスカウトされないよう、ルイーダに手を回したりしてたけど。それ
だけ「人」の力を大事にしてるってことなのかもしれないな。


 本当に複雑だ。「現実」と同じように。
 この世界もまた、様々な人間模様があって、そこに悲哀があって、歓喜があって、みん
な一生懸命に生きている。とてもこれが「ゲーム」だなんて思えない。
 いや、ゲームだからなんだっていうんだ? そんなのは、僕の住む世界から見たときの
勝手な枠組みでしかない。ここにはここの、確かな「リアル」がある。

 でも……それでも、彼には耐えられなかったんだろうか。
 すべて投げ出してもかまわないくらい、「ゲーム」という事実が嫌だったんだろうか。

 アルスは捨ててしまった。勇者であることも、家族や恋人や、仲間も、なにもかも。
 そんなこと、アルスを信じ切っているみんなにはとても言えなくて、僕は彼の行き先も、
彼と連絡が取れることも隠している。魔王を倒せば戻ってくる、なんて嘘をついている。

 本当は、ちょっと、苦しい。


「――勇者様?」
「あ、はい! ……え、どうしたの?」
 つい考え込んでしまった僕は、ロダムがなんだか険しい顔をしているのに驚いた。
「大変なことを忘れていましたよ。職業の話で思い出したのですが、勇者様はまだ本試験
に受かっていらっしゃいませんよね?」
「ホンシケン? なにそれ」
「まずい、もう日にちがありませんぞ」
 ロダムは急に僕を船内に引っ張っていった。ヘニョもピョンピョンあとをついてくる。
 僕らに割り当てられた船室に戻るなり、そこにいたエリスやサミエルも交えて、いきな
り作戦タイムに突入。

480 :Stage.9 [3] ◆IFDQ/RcGKI :2007/09/30(日) 23:02:20 ID:4pwvblo40

 なんと僕、まだ「勇者」の仮免中なんだって。
 ……仮免?

   ◇

「そうですよ、忘れてました! アルス様、本試験の前にいなくなられましたから」
 エリスも口に手を当てて「参ったな」って顔をしている。
「よくわかんないんだけど……僕はまだ正式な勇者じゃないってこと?」
「勇者様は、『勇者』というものについてご存じですか」
 逆に問い返されて、僕はふるふる首を振った。
 ダーマで転職できないから「勇者」が職業だっていうのはわかるんだけど、勇者は勇者
だってなんとなく思ってたし。
「勇者というのは通称なんです。正式には『世界退魔機構認定特別職一級討伐士』という
んですよ」
 そ、そりゃまたご大層な。

 世界退魔機構とは、ほぼ世界中の国や街が加盟している、モンスター被害の対策機構だ。
 ダーマ神殿で認定される「戦士」や「魔法使い」などの一般の冒険職とは別に、この退
魔機構が認定しているのが特別職であり、冒険において格別の特典が与えられる。
 その特典というのが――

 ・加盟国、または加盟店のアイテムを安く提供してもらえる。
 ・ほぼ売買を拒否されない。
 ・アイテムの買取価格が、商品的価値の有無に関わらず売値の4分の3。
 ・宿屋に何時でもチェックイン可能。また宿泊拒否されない。
 ・真夜中でも教会の利用が可能。
 ・親族への生活補助金を、所属国家に支払うよう促す(強制ではない)。

 ――などなど。


481 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/09/30(日) 23:03:53 ID:mIVAYlVa0
支援!

482 :Stage.9 [4] ◆IFDQ/RcGKI :2007/09/30(日) 23:04:39 ID:4pwvblo40

 言われてみれば納得できる。普通は使い古しのステテコパンツなんて絶対に買い取るわ
けないもんな。
 武器や防具なんかも、本当は僕たちが買ってた値段の1.2倍〜1.5倍はするんだとか。

 それだけの特典があるので、当然のように特別職に就くための道は険しい。
 ただし、基本的にこの世界における「職業」はすべて「やる気のある初心者を支援する
ため」の制度であり、特別職においても試験で実務経験を問われることはない。「Lv.1」
の勇者が存在するのもそのためだ。
 でも怠けられても困るから、取得後3ヶ月間は仮免で、その後の本試験を経て正式に認
められる。さらに1年ごとに更新試験があり、資格を維持する方が大変なんだって。

「その本試験ってどんなの? 正直、実技だったらキツイよ僕」
 ペーパーだったら自信あるんだけどなぁ。
「一級討伐士の場合、本試験も更新試験も内容は一緒でして、期限までに次の3つの条件
の内、いずれかをクリアしていればいいんですが……」

 1)なにか大きな人助けをする。
 2)魔物から街や村、教会など慈善組織(海賊等は含まれない)を護る、救う。
 3)世界退魔機構が指定する試練をクリアする。

 サミエルがぽんとひざを叩いた。
「なーんだ、それなら今までの旅の中で、どれか当てはまりそうじゃないッスか?」
「そうですね、それを退魔機構に申請すればいいんですよね」
 エリスもほっと胸を押さえている。が、ロダムはまだ難しい顔をしたままだ。
「無理でしょうなぁ。たとえば大きな人助け、なにかしましたか?」
「金の冠を取り返したじゃないッスか」
「……では、ロマリア国王がそれを認めますか? 対象者が認めない限り、審査を通りま
せんよ」
 申請内容の真偽を確認されるのは当然として。なるほど、冠を盗まれるなんて失態、あ
のロマリア国王が公に認めるわけないよな。魔法の鍵についても同じく。

483 :Stage.9 [5] ◆IFDQ/RcGKI :2007/09/30(日) 23:07:28 ID:4pwvblo40

「バハラタでも、カンダタ一党をこらしめましたが……」
 そう言うエリスも自信なさげだ。答えは聞くまでもない。
「あくまで『人さらいらしい』という噂の範囲で、実害が出ていたわけではありませんか
らね。私たちが向かったのも、勇者様がさらわれたためですし」
 そうそう、変にストーリー狂ったんだよね。思い出したくもない……あの変態オヤジに
は二度と会いたくないよ。
 あ、誤解がないように言っておきますが、宿スレ的にヤバイことはされてませんよ。

「となると3番だけか。『世界退魔機構が指定する試練』って、たとえば?」
「そうですな、今の勇者様でもこなせそうなものとなると……」
 ロダムはしばらくうなっていたが、ようやく言葉を絞り出した。
「……ランシール、でしょうな」

 ガターン! と椅子ごとひっくり返る僕。全員が驚いた顔で僕を見ている。
「ど、どうなされたんですか勇者様!?」
 みんなが助け起こそうとしてくれてるんだけど、さすがに身体に力が入らない。
 じょ、冗談じゃないよ。ポルトガからすぐエジンベアに直行したいからこそ、あれだけ
根回ししたのに! 消え去り草を売っているランシールに先に行くんだったら、同じこと
じゃないか。なんなんだよソレ。

「軌道修正されてるのか……?」
 ロマリアからピラミッド行きを強制されたときにも感じたことだけど。
 確かに、勇者職の話も試験の話もおかしいとは思わない。でもなんでそれが「今」なん
だ? まるでなにか見えない力が、ドラクエ3のストーリーに無理やり当てはめようとし
て、圧力をかけてるように思える。

 それに、考えてみればアルスもアルスだ。こんな大切なことは先に教えておいてくれて
もいいじゃないか。あの夜……ピラミッドで、少しは見直したのに。
「ごめん。ちょっと甲板に出てくる」
「こんな時間にですか?」

484 :Stage.9 [6] ◆IFDQ/RcGKI :2007/09/30(日) 23:11:57 ID:4pwvblo40

「頼むから人を来させないで。しばらく1人にして欲しい」
 言い捨てて、僕は部屋を飛び出した。ついてこようとしたヘニョをどうするか一瞬迷っ
たけど、立ち止まった途端に飛びついてきたスライムを抱きしめて、また小走りに甲板に
向かう。

 そろそろハッキリ言ってやらなきゃダメだ。あの人は僕をクリアさせたくないみたいだ
けど、それがどういうことなのかわかってないのか?
 故郷に戻れなくなる。そのつらさは、ゾーマを倒したあとに嫌なほど味わってるだろう
に、なんで自分から帰り道を閉ざそうとするんだ。

 プルルルルルル! プルルルルルル! ……ッピ
 
「もしもし、アルス? 楽しんでるところ悪いけど、大事な話があるんだ。ちょっと長く
なると思うんだけど、ユリコたちから離れられる?」
 


『……………………タツミなの?』



 頭の中が、真っ白になった。
 片岡百合子。どうして。

『タツミ? アルスってこの子の名前? ねえ、あんたいったいドコにいるのよ!』
 叫ぶようなユリコの声を、僕はただ呆然と聞いているしか、できなかった。

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