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もし目が覚めたらそこがDQ世界の宿屋だったら九泊目

1 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/04/02(月) 02:57:50 ID:XgSwbg4B0
このスレは「もし目が覚めた時にそこがDQ世界の宿屋だったら」ということを想像して書き込むスレです。
「DQシリーズいずれかの短編/長編」「いずれのDQシリーズでもない短編/長編オリジナル」何でもどうぞ。

・DQ世界であれば宿屋でなくても、すでに書かれているDQシリーズでも、大歓迎です。
・基本ですが「荒らしはスルー」です。
・スレの性質上、スレ進行が滞る事もありますがまったりと待ちましょう。
・荒れそうな話題や続けたい雑談はスレ容量節約のため「避難所」を利用して下さい。
・レス数が1000になる前に500KB制限で落ちやすいので、スレが470KBを超えたら次スレを立てて下さい。
・混乱を防ぐため、書き手の方は名前欄にタイトル(もしくはコテハン)とトリップをつけて下さい。
・物語の続きをアップする場合はアンカー(「>>(半角右アングルブラケット二つ)+半角数字(最後に投稿したレス番号)」)をつけると読み易くなります。

前スレ
もし目が覚めたらそこがDQ世界の宿屋だったら八泊目
ttp://game10.2ch.net/test/read.cgi/ff/1162106116/

まとめサイト(書き手ごとのまとめ/過去ログ)
「もし目が覚めたら、そこがDQ世界の宿屋だったら」保管庫@2ch
ttp://ifstory.ifdef.jp/index.html

避難所「もし目が覚めたら、そこがDQ世界の宿屋だったら」(作品批評、雑談、連絡事項など)
ttp://coronatus.sakura.ne.jp/DQyadoya/bbs.cgi

401 : ◆u9VgpDS6fg :2007/06/04(月) 09:22:13 ID:VvIV98zV0

耳元まで避けた口をまた開き、愉快そうにボスはヒヒヒ、と笑い声を上げた。
『ここまで来た褒美に、美味い料理を振舞ってやろうじゃないか。
さあ、こっちに来なさい』
ビアンカは黙りこくり、視線をボスに釘付けたまま首を横に振る。
親玉は目を見開き、威圧を込めた声色で『まさか俺様が怖いのかな?』と言った。
『あんたなんかに従わないわ』
ビアンカがはっきりした声で言う。
ボスはまたヒィヒヒ、と嫌な笑い声を立てると、馬鹿な餓鬼だ、と呟いた。

刹那、世界がぐらりと傾いた。
覚悟はしていた筈なのに、咄嗟の出来事に一瞬、事態の理解が遅れる。
床が抜けたのだと、ボスの足元を通過しながらやっと気付く。
『貴様らに食わせる料理なぞないわ。貴様らは材料―――』

語尾が遠のき、今まで立っていた高さが頭上に消えていく。そして音楽。
物の数秒で大広間を通過し、俺は仄暗い小部屋に尻から着地した。
直後に何かが潰れるような衝撃音と、ビアンカの
キャアとヒャアの間のような悲鳴が耳に届く。

左手に何か柔らかいものがべっとりと張り付いて、俺は手元を見下ろした。
半分腐った果物や、野菜や肉が足元に敷き詰められていて、
それが落下の衝撃を多少和らげてくれたのだろう、
俺の体の下で可哀相なほど無残に潰れ、飛び散っている。
その下には良く割れなかったものだ、白い陶器のような床が見え隠れする。

402 : ◆u9VgpDS6fg :2007/06/04(月) 09:23:10 ID:VvIV98zV0

『そ、そんな・・・』
すぐ横で男の声がして俺は振り向いた。
『子供を料理するなんて・・・!私にはできない・・・』
泣き顔のコックが俺の方を見て首を振っていた。
直後、ばちん、と何かが弾ける音がして、コックがひいい、と悲鳴を上げる。

『サン、今のうちに行きましょうよ!』
物語の流れを待っていた俺にビアンカが囁いた。
思わずえ?と間抜けな言葉を返す。
『お化けの親分を倒さなきゃ!なにぐずぐずしてるの?』
ビアンカはもう片足を皿の縁にかけ、今にも飛び降りんという姿勢で俺の腕を引く。
というか、物語を外れるという発想を今まで考えなかったことに、今更ながらに気付いた。
それよりも物語の中のキャラクターであるビアンカが、そんな提案をしていいんだろうか。

呆気に取られている俺に
ビアンカはじれったそうに『なにしてるの?』と声を荒げた。
ああ、うん、と曖昧な返事を返し、どうしようかと思案した刹那
がくん、と足元が揺れた。バランスを崩しかけたビアンカが
悲鳴を上げながら俺の腕にしがみつく。

ぎしぎしと金属が擦れあう音を立てながら、足元の皿が、
正確には皿を載せたゴンドラのようなものが、
ゆっくりとテーブルを離れて持ち上がっていく。
『もう、間に合わなかったじゃない。どうするのよ』
苛立ちを隠さずにビアンカが言った。
ある意味物語の通りなんだけど。俺はちょっと失敗したなあと思っていた。

403 : ◆u9VgpDS6fg :2007/06/04(月) 09:32:59 ID:VvIV98zV0

物語を外れたらどうなるのか。そんなこと考えても見なかった。
外れるといっても、お化け退治には違いないからほんの僅かな相違だけれど、それでも。
もしかしたらゲームとは違う、俺だけのストーリーを描けるんだろうか。
ゆっくりと下に流れていくキッチンの壁を見ながら、
俺は言い知れぬ期待が胸に湧き上がるのを感じていた。

頭の中はこの先のストーリーで一杯だった。
浮ついた気持ちのまま三匹の蝋燭を叩き伏せる。
呪文で食らったダメージを薬草で癒し、俺達は再び玉座のフロアへ向かった。
暗闇で松明に火を点しながら、ボス戦に向けて息を整える。

思えば、初めてのボス戦だ。
初めての戦闘・・・三匹のスライムの時に比べれば
多少は経験も積んだし、不安も少ない。
先への期待で揺らぐ集中力を必死で諌めながら、俺は最後のフロアに足を踏み入れた。

先ほどボスが鎮座していた玉座に、今はもう誰もいなかった。
きい、と蝶番が軋む音を立てて、玉座と反対側にある小さな扉が閉まった。
『サン・・・あっち』
ビアンカが声を震わせる。
俺の手を握った指先が震えているのが伝わってくる。
耳の奥で心臓が拍を早め、鼓動が神経を伝い脳まで脈打つようだ。

小さな扉を開けると、冷たい風と雷光が俺を出迎えた。
ごごう、と大きな音を立てて天が震える。

404 : ◆u9VgpDS6fg :2007/06/04(月) 09:35:41 ID:VvIV98zV0

ボスは小狭いテラスにもたれ掛かるようにして振り向くと、
『おやあ、奴らはお前達を食い損なったようだな』
待ち構えていたように俺達を見て言った。
風が唸り、松明の明かりが不意に掻き消える。

『ふん、仕方ない・・・俺様が直々に料理してくれるか』
にやあ、と開いた口元から真っ赤な舌が覗いている。
俺はビアンカにちらりと目配せすると、自分の武器を腰紐から引き抜いた。

ざらりと音を立てて、ボスの引きずるほどに長いローブが揺らいだ。
覆い被さるように高く掲げられた両の手から閃光が走る。
ヒィヒヒヒ、とボスの高笑いが響いた刹那、目の前を炎が走った。
ビアンカが悲鳴を上げる。
『人間の餓鬼共が!俺様に勝てると思うなァ』
ボスが吼えるのに呼応するように、天上か雷鳴が降り注ぐ。

ビアンカは怯まなかった。
きっ、と意志の強い瞳でボスを睨み付けると、『なめんじゃないわよっ』と鞭を翻す。
負けじと俺も手にした武器を叩き付けた。鈍い音がしてボスの体がよろめく。
『ヒィヒヒ、やってくれる』
再度呪文の詠唱に入るボスより僅かに早く、ビアンカが叫んだ。
炎の塊が空を切り、ボスの顔面に吸い込まれる。

405 : ◆u9VgpDS6fg :2007/06/04(月) 09:37:20 ID:VvIV98zV0

ギャア、と嫌な悲鳴が雷鳴に掻き消える。ボスはまだ倒れない。
ローブの奥まで切り裂くように俺は力を込めて武器を振り下ろすが、
致命傷を与える前にその腕に振り払われた。
間髪いれず追ってくる一撃を避けきれず、俺は固いタイル張りの床に叩きつけられる。
『この餓鬼共がァ!やってくれるじゃねえか!』
ボスがもう一度何か唱えた。
今度はテラス一面を覆うような大きな炎が、俺達を包む。

がくん、と、膝が落ちるのが自分でもわかった。
辺りには埃の焦げたようなすすけた匂いが立ち込めている。
俺より少し前方に、一瞬尻を着いたビアンカが身を起こしまた駆け出すのが見えた。
反射的に俺は呪文を唱える。
ビアンカが振り返り『ありがと』と言った。
攻撃呪文のように目に見える効果がわからないから心配だったが、
回復呪文はちゃんとその効果を発揮したようだ。
ビアンカの持つ鞭が天に大きく翻る。

振り下ろされるボスの鋭い爪先をひらりとかわすビアンカの姿を確認しながら、
俺はもう一度呪文を唱えた。
体の痛みがすう、と引き、俺は武器を取り立ち上がる。

406 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/06/04(月) 10:09:15 ID:KNhGhnufO
支援です

407 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/06/04(月) 19:27:49 ID:O9p9uTom0
投下乙です!
いよいよ初のボス戦、クライマックス直前!
続きめっさwktkです。

408 :タカハシ ◆2yD2HI9qc. :2007/06/04(月) 21:21:17 ID:MauHMLqg0
お疲れ様です。
ここまでまとめました。
このカキコミからおよそ3分で更新完了します。
書き手さんの指示してくれた修正点は反映しました。
ttp://ifstory.ifdef.jp/index.html

また、まとめサイト内のナビゲーションリンクが今日まで間違っていたのをお詫びします。

409 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/06/05(火) 00:10:06 ID:9aMesSF60
>>399-405
> もしかしたらゲームとは違う、俺だけのストーリーを描けるんだろうか。

今後のことを考えるともの凄いwktkです。なんか今から緊張してきたw
続き期待してます。

410 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/06/05(火) 00:57:03 ID:/plKNQHo0
重婚展開wktk

411 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/06/06(水) 13:25:45 ID:R7WDkLzg0
期待ほしゅ

412 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/06/07(木) 22:48:08 ID:vF5NT0yHO
投下待ち保守

413 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/06/08(金) 18:37:57 ID:bOOjCgdRO
保守

414 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/06/09(土) 00:28:58 ID:jCDxDa7WO
ほっしゅ

415 :俺の世界 ◆yeTK1cdmjo :2007/06/09(土) 02:02:26 ID:PtFsKJ270
前回のあらすじ>>365-368

 こんにちはこんばんは、俺です。
 昨日はミヤ王を仲間にした後、宿屋で泥のように眠りました。
 平日は日がな一日パソコンとにらめっこしてるような事務職、休日は2ちゃんやゲームが大好きなインドア派。
 全身筋肉痛なのは実に当たり前。……元の世界に戻れたらジムに通おうかなあ。

 そんなわけで俺は今、ミヤ王と一緒にマイラの村に向かっている。
 今のところ出てきたモンスターはスライム、ドラキー、ゴーストといった雑魚のみ。
 ミヤ王のおかげで楽勝www楽しちゃってサーセンwwwwwwwwwwwwwww

「お前は戦いは不慣れなのか?」
 そう訊いてきたのはラダトーム平野とマイラの森を結ぶ橋を渡ってからのことだ。

「やっぱわかるもんなのか?」
「ああ。実戦慣れもしてないが、モンスターの死に対してすら慣れてないようだからな」
「…………」
「図星か」

 そう、俺はまだ殺すことに慣れていない。
 今まで戦ってきた敵は『倒して』終わり。
 完全に『斃して』はいない。

 ミヤ王がドラキーを『斃した』時、無様にも吐き出した。
 滑らかな切り口とすら言える断面から覗く内臓は、健康な人間のそれと同じ色。
 限りなく黒に近い紫色の血。いや、ありゃ体液か?
 鋭利に切断された白いものは骨だろう。
 地面に落ちたショックで飛び出た眼球は白い糸を引いていた。
 鳴き声を発しながら二度三度と痙攣して動かなくなる様を直視することができなかった。

 これが『死』なんだ。

416 :俺の世界 ◆yeTK1cdmjo :2007/06/09(土) 02:04:32 ID:PtFsKJ270
 新聞を見ればどこかの国でテロや戦争で死者が出たと載っている。
 テレビをつければ他県の殺人事件の特集を組んでいる。
 だが、俺にとっては『どこかの国』であり、『他県』でしかなかった。
 自分とは無縁の世界の出来事なんだと無意識に思っていた。
 新聞を折り畳めばテロや戦争の記事は目に入らない、テレビを消せば殺人事件の続報は入ってこない。
 決して忙しいとは言えない日常の中で忘れられていくだけの出来事。
 俺にとって『死』とは身近なものではあったが、現実とは遠いところにあった。

 以前、ディルレヴァンガーと名乗る気違いが猫を殺した事件があった。
 ネット上に上げられた殺害の過程の画像は俺も見た。
 すぐに画像を閉じ、なんてことをしやがると憤ったこともある。
 だが、画像を開いたのは俺の意思だ。
 騙したわけでも騙されたわけでもない。
 ディルレヴァンガーが逮捕された時、ニュー速+のスレに誰かがリンクを貼った。ただそれだけだ。
 俺は自分の意思でそれを見たのだ。

 子供の頃、蟻の巣に水をぶちまけたことはある。
 大人になってからも蚊を叩き潰したり、殺虫剤を使ったこともある。
 車に轢かれた猫の死骸を見たこともある。
 だが、それでも俺は自分とは関係ない世界の出来事なんだと思っていた。
 俺にとって、 『殺す』とは無縁の世界だった。

「襲ってくる魔物はためらわずに殺すことだ。そうしないと自分が殺されかねない」
「……ああ」
 それは俺もわかっている。
 この世界では俺のいた世界の常識は通用しない。
 覚悟を決めなきゃ生きていけない。
 動物を殺すのは可哀相と言うのは簡単だ。
 何しろ、自分の命がかかっていないから。
 自分の安全が保障されている世界では真っ当な話だ。
 しかしここでは自分の安全は保障されていない。己の身を守るのは己しかいない。
 ここでは人の命も魔物の命も全てが平等なのだから。

417 :俺の世界 ◆yeTK1cdmjo :2007/06/09(土) 02:06:46 ID:PtFsKJ270
「今ここで実戦経験を積むのもいいが、ゆうていと合流してからの方が安全だ」
「なして?」
「ゆうていはホイミが使えるからな」
「みやおうは使えないのか?」
「自慢にならんが魔法の才能はゼロだ。魔力そのものがないらしい」
「魔力の有無なんてわかるもんなのか。俺はどうよ?」
「ある程度魔力を持っていればわかるらしいんだが、俺は全くないからお前が魔法を使えるかどうかはわからんがな」
「ダメじゃん」
「そう言うな。キムこうならわかる」
「キムこうは呪文使えるのか?」
「ああ。ゆうていはそこそこの魔法しか使えないが、キムこうはかなりの使い手だ」

 みやおう=戦士、ゆうてい=魔法戦士、キムこう=賢者。
 この認識でいいのだろうか。
 だとしたらバランスの取れたパーティーだ。
 不安要素は……俺、だよな。
 うん、頑張ろう。

「実戦に勝る修行なしってことだな」
「お前の世界ではそんな言葉があるのか?」
「by躯」
「?」
「……スルーしてくれ」
 ま、要は『飛影はそんなこと言わない』ってことだ。
 わかる奴だけニヤリとして欲しい。

「マイラに向かいながら実戦慣れでもしていくか?」
「何もしないよりはマシかもな。危なくなったらフォロー頼む」
「任せておけ。――タイミングよく大さそりが現れたぞ」

 ゲームと違って結構グロい上にデカくね?
 つうか、怖えーよ!

418 :俺の世界 ◆yeTK1cdmjo :2007/06/09(土) 02:09:36 ID:PtFsKJ270
「だああ!」
 地面を素早く移動する大さそりを叩き潰す。
 棍棒を通じて殴った衝撃が俺の手に伝わる。大さそりというモンスターの生を奪う感触。
 しかし怯んではいられない。

「浅い!」
 ミヤ王の言葉通り、一撃を食らった大さそりは持ち前の堅さで持ちこたえていた。
 俺の攻撃を屁とも思わぬ動きで砂塵を巻き上げ、視界から消えた。

「しまっ……」
 背後を取られた俺めがけ、尾が伸びた瞬間――
 ミヤ王の一閃。
 大さそりはきれいに半分になっていた。

「サンキュ、助かった」
「気をつけろ。大さそりの外殻はスライムやドラキーの比じゃないからな」
「棍棒じゃ無理か?」
「鍛えればそのうち素手でも貫ける」
「いやいやもっと無理だから」
 そこで見ていろ、との言葉とともに俺に剣を預け、また新たに現れた大さそりと戦闘に入る。
 先の大さそりが斃されたことに腹を立てているのか、大さそりから攻撃を仕掛けてきた。
 ハサミの攻撃を難なくかわし、大股で大さそりに近づくミヤ王。

「ふっ――」
 軽い呼気をもらしただけで、ミヤ王の五指は大さそりを貫いていた。
 あんぐり、の表現はこういう時のためにある。
 まさしく俺はあんぐりと口を開けてミヤ王を呆然と見ていた。

「意外に簡単だろ? さ、やってみろ」
「できるかボケ!」
 みやおう=バトルマスター。
 こうですか!わかりません><

419 :俺の世界 ◆yeTK1cdmjo :2007/06/09(土) 02:11:35 ID:PtFsKJ270
 マイラの森に棲む魔物が、素手で大さそりを貫いたミヤ王に恐れをなしたのかどうかはわからない。
 だが、あれから魔物とは一匹も出会わずにマイラの村に到着した。
 途中、野宿したり大さそり相手に苦戦したりゴーストの帽子を取ってハゲなのを確認して大笑いしたり
 スライムを蹴り飛ばしたりミヤ王が百円ライターに感激したりしたが、大して重要なことではないので割愛させていただく。

 普通に歩いてガライから丸一日以上かかった。
 地図で見ると近いが実際は遠いもんだ。ラダトーム→ガライ間をおよそ40分で爆走したのが信じられん。

「ここがマイラか……」
 ラダトームやガライでも思ったが、ゲーム上で見るのと実際に見るのとでは全然違う。
 ゲームではただの緑が多い村でしかないマイラの村は、実に自然豊かな村だ。
 風がそよぐと草花の揺れる音、仄かに香る木々の香り。
 日本では失われているもの――自然との共生がここにはある。……っと、マイラの村に圧倒されている場合じゃないな。

「ゆうていは中央の広場近くだ」
「広場近く……」
「もしかしてあそこにいる戦士じゃね?」
「ゆうてい!」
 俺が指差すよりも早くミヤ王が走り出した。

「……みやおう?」
 戦士は、みやおうの声に驚いた表情を浮かべている。
 どちらかといえば軽装のミヤ王に対し、防具で身を包んだ戦士。
 もし仮にミヤ王がいなくても、彼がゆう帝だということはすぐにわかった。
 やや薄めの頭がその決め手――と言ったら現実世界の堀井雄二は怒るだろうか。
 間違いない、彼がファミコン神拳の一人、ゆう帝だ。

ゆう帝のステータス
攻撃力:あたっ
防御力:あたたっ
素早さ:あたたたっ
髪の毛:あっ……ごめん。――ハゲは病気じゃないよ!悩み無用!!

420 : ◆yeTK1cdmjo :2007/06/09(土) 02:19:01 ID:PtFsKJ270
ここで投下終了です。

>>408
お疲れ様です。
まとまっている自分の分を見てニヤニヤさせてもらっています。

421 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/06/09(土) 13:30:12 ID:4kXMdp+5O
乙!ステータスに噴いたw

422 :俺は今猛烈に熱血してる! ◆yeTK1cdmjo :2007/06/10(日) 01:15:24 ID:AI+IYRnv0
 前回のあらすじ>>415-419

 こんばんは、俺です。
 ついさっきの話ですが、ゆう帝が仲間になりました。
 包み隠さずに全てを打ち明けた俺に対し、ゆう帝は快く協力してくれると言ってくれました。
 さすがはドラゴンクエストの生みの親。心が広い。
               . -―- .
             /       ヽ
          //         ',      俺の言葉を
            | { _____  |        平然と信じてくれるッ!
        (⌒ヽ7´        ``ヒニ¨ヽ
        ヽ、..二二二二二二二. -r‐''′     そこにシビれる!
        /´ 〉'">、、,,.ィ二¨' {.  ヽ     _ _      あこがれるゥ!
         `r、| ゙._(9,)Y´_(9_l′ )  (  , -'′ `¨¨´ ̄`ヽ、
         {(,| `'''7、,. 、 ⌒  |/ニY {               \
           ヾ|   ^'^ ′-、 ,ノr')リ  ,ゝ、ー`――-'- ∠,_  ノ
           |   「匸匸匚| '"|ィ'( (,ノ,r'゙へ. ̄ ̄,二ニ、゙}了
    , ヘー‐- 、 l  | /^''⌒|  | | ,ゝ )、,>(_9,`!i!}i!ィ_9,) |人
  -‐ノ .ヘー‐-ィ ヽ  !‐}__,..ノ  || /-‐ヽ|   -イ,__,.>‐  ハ }
 ''"//ヽー、  ノヽ∧ `ー一'´ / |′ 丿!  , -===- 、  }くー- ..._
  //^\  ヾ-、 :| ハ   ̄ / ノ |.  { {ハ.  V'二'二ソ  ノ| |    `ヽ
,ノ   ヽ,_ ヽノヽ_)ノ:l 'ーー<.  /  |.  ヽヽヽ._ `二¨´ /ノ ノ
/    <^_,.イ `r‐'゙ :::ヽ  \ `丶、  |、   \\'ー--‐''"//
\___,/|  !  ::::::l、  \  \| \   \ヽ   / ノ


 そんなこんなで今は二人と別行動。
 積もる話もあるだろうし、俺に対する話もしてるはず。
 んで、今の俺は何をしているかと言いますと。
 THE・入浴。
 マイラの村といえば温泉ですよ温泉。
 もっと言うなら混浴ですよ混浴!!ヒャッホーイ!!1!11!

423 :俺は今猛烈に熱血してる! ◆yeTK1cdmjo :2007/06/10(日) 01:18:44 ID:AI+IYRnv0
 わたくし思うに、風呂に水着を着て入るといった行為は許されないことなのですよ。
 肌着ですか?あれもダメ。風呂を温泉を混浴を、いや、それ以上に色々と期待する男達を裏切る行為じゃありませんか!
 もしあなたが女で、水着を着て混浴に入ったとしましょう。
 オンドゥルルラギッタンディスカー!!と叫ばれること間違いありません。誰も叫ばなくてもこの俺が叫ぶ!
 とまれ、混浴に対する冒涜行為を減らすため、こうしてマイラ温泉(たった今命名)に浸かっているわけです。
 べ、別に女の裸が見たいからじゃないんだからねっ!

 茹でダコのように真っ赤になった俺が温泉から上がったのは2時間後のことである。
 いや、わかっちゃいたんだけどね。
 わかっちゃいるけどやめられなねぇって植木等さんだって言ってるじゃないか。
 はあ……現実は厳しいよ。

『キャー! のび太さんのエッチ!』
 みたいなイベントがあったっていいじゃない。そのくらい夢見たっていいじゃない。
 あのメガネにはあって俺にはない。
 あれか、俺の机の引き出しがタイムマシンの入り口じゃないからなのか?
 現実は厳しいねえ、厳しいよ。


 ……取り乱しすぎた。
 ここ数日、風呂にさえ入ってなかったことを考えると、久々の入浴ができたと思えばそれでいい。
 うん、それでいいのさ。
 うん……。

 ションボリと宿屋に戻った俺を迎えたのは、実戦慣れのためにしばらくマイラに逗留しようと言ってきたミヤ王とゆう帝だった。
 てことは、もしかしてまだ温泉に入れるってことでFA?
 キタキタキタキタ━━━(゚∀゚≡(゚∀゚≡゚∀゚)≡゚∀゚)━━━━!!

「やってやるぜ!」
 矢尾一樹ばりの声でガッツポーズまで決めた俺。
 ドン引きされてるのは仕方がない。
 明日からの混浴――もとい、修行を考えると身が引き締まる思いだ。うん、ホントに。

424 :俺は今猛烈に熱血してる! ◆yeTK1cdmjo :2007/06/10(日) 01:21:46 ID:AI+IYRnv0
 翌日。ミヤ王、ゆう帝の宣言通りにマイラ周辺で魔物相手に実戦を始めていた。
 この周辺の魔物はスライム、スライムベス、ドラキー、ゴーストに加えて大さそり、魔法使い、メイジドラキー、骸骨である。

「注意するのは魔法使いのギラと骸骨だな」
「ギラ自体は大したダメージにはならないし、ギラを浴びてもすぐにホイミをかけるから安心してください」
 できるか。俺は超人じゃねえんだ。
 そもそも、俺とお前らとのレベル差を考慮しろ。
 ある程度は戦えるといってもスライムやドラキーを相手にした場合だぞ。

「だから、ここいらの敵に苦戦しない程度まで強くなるんでしょう」
「ギラ程度のダメージを恐れるようではこれから先厳しいことになるぞ」
 それを言われると困る。
 俺が戦う相手の竜王はベギラマや火炎の息を平然と吐いてくるような化物だしな。
 ダースドラゴンやスターキメラ、死神の騎士の攻撃なんかは今までよりもずっと痛いんだろう。

「こうなったら腹括るか。本当にすぐに回復頼むぞ?」
「任せてください。ギラ程度のダメージは簡単に治してみせますよ」
 すぐに回復しろよ、すぐに回復するんだぞ、と何度も確認しておきたいがやめておいた。
 俺はダチョウ倶楽部じゃないんだ、ネタ振りと勘違いして回復されなかったら大変だ。
 ――などとバカなことを考えていると魔法使いが現れていた。
 くそ、本当に出てくるんじゃねえ。

「うらあ!」
 魔法使いがギラ放つ前に先制攻撃。
 一撃入魂の棍棒を振りかぶって、そのまま魔法使いの頭上へ――!

 棍棒が根元から折れたと理解したのは、魔法使いが死の間際に放ったギラを無防備な体で浴びてからのことだ。

 棍棒蛾物故割れたwwwwwwwwwwww
 なんて草生やしてる場合じゃねえな。

425 :俺は今猛烈に熱血してる! ◆yeTK1cdmjo :2007/06/10(日) 01:23:56 ID:AI+IYRnv0
「……マジ?」
 半ば呆然と口にしたのはミヤ王が魔法使いをぶった切ってからのことだ。
 手元には剣で言う柄の部分しかなく、釘が生えている棍棒は足元に転がっている。
 こうなってしまっては、棍棒もただの釘の生えた塊でしかない。
 焚き木くらいには使えるだろうが武器としては無理だよなあ。

「棍棒ってこんなに簡単に壊れるもんなの?」
「メタルスライムを叩いても壊れないくらい頑丈にできてるはずですが……」
「じゃあこれはどういうこと?」
「元々壊れてたとか……」
「買って5日目なのに?」
「……武器屋に行くか」

 マイラに置いてある武器は銅の剣か鉄の斧……だったな。
 ゲームなら攻撃力の面で鉄の斧一択なんだが、実際はそうはいかないらしい。
「戦いのスタイルは武器によって変わるといっても過言じゃない」
 とのことだ。
 殴ることを主体とした棍棒と斬ることを主体とした剣では確かに戦闘スタイルが違う。
 だが、鋳型に青銅を流し込んだだけの銅の剣よりは鉄の斧の方が……。

「剣ならあることはありますよ」
 武器屋に向かう最中、ゆう帝が言った。

「マジで?」
「ええ」
「なんだよー、最初から渡してくれよー」
「ですがね……扱いにくいんですよ」
「ああ、アレか」
 躊躇うゆう帝に、何か知っているかのようなミヤ王。
 まさか破壊の剣ってオチはねえだろうな。

426 :俺は今猛烈に熱血してる! ◆yeTK1cdmjo :2007/06/10(日) 01:27:07 ID:AI+IYRnv0
「この剣だ」
 ゆう帝が宿屋から持ってきた剣は変わった形をしていた。
 変わったと言っても、剣の先がバイブになってるわけでもミサイルが出てくるわけでもない。
 濃いオレンジ色の刀身は、燃え盛る炎の形を象っていた。

「炎の剣……か?」
「知ってるのか?」
「いや……」
 公式ガイドブックで見ただけだがそんなこと言えるはずもなく曖昧に言葉を濁す。

「以前メルキドの旅商人から買ったんだが、どうも扱いにくい剣でな」
「私達向きの剣ではないから売ろうかどうか迷ってたんですよ」
「試してみるか?」
 手渡された炎の剣は見た目よりは軽かった。
 喩えるなら……すまん、思いつかない。そもそも何を喩えようとしたのかもわかんね。

 気を取り直し、炎の剣を構えて振ってみる。
 ――軽い。
 金属を使ってるはずなのに棍棒と同じくらいの重さでしかない。
 もしかしてミヤ王の装備している鋼鉄の剣より軽いんじゃないだろうか。

「随分軽々と……」
「扱ってますね……」
 ミヤ王とゆう帝には悪いが、どこが扱いにくい剣なのかわからない。
 剣なんてのは小学生の頃に傘でアバンストラッシュした程度だが、これは扱いやすいってことくらいわかる。
 もしかしてこれが装備できる奴とできない奴の違いってことか?

「ついでに試し切りもしてみては?」
 二人の間では炎の剣は俺が使うことになったようだ。
 異論はないし、返せといったところで返す気もないがね!
 故人曰く――『お前のものは俺のもの、俺のものは俺のもの』
 ビバ!ジャイアニズム!!

427 :俺は今猛烈に熱血してる! ◆yeTK1cdmjo :2007/06/10(日) 01:28:06 ID:AI+IYRnv0
 結論から言おう。炎の剣は使いやすい。
 試しに魔法使いや骸骨と戦ってみたが、面白いほどサクサク斬れた。
 ちなみにギラは多少食らったが想像していたほどのダメージではない。痛いし熱いけど我慢すれば何とかなる。
 俺のレベルが上がったからかもしれない。
 もしかしたら竜王斃せるんじゃね?
 みwwwなwwwぎwwwっwwwてwwwきwwwたwwwwwwwwwwww

「落ち着け。今竜王に挑んでも死ぬだけだ」
「ですね。強いのは炎の剣のおかげですし」

        盛
             り
                 上
                     が
                        っ
                          て
                           参
                             り
                              ま
                               し
                               た

 俺涙目wwwwwwwwwwwwwwwwww
 大人しく魔法使いや骸骨相手に実戦経験でも積むとしよう。

LV:9
HP:30/34
MP:20/20
攻撃力:54 防御力:23 素早さ:11
E:炎の剣 E:ジャージ+皮の服 E:皮の盾

428 : ◆yeTK1cdmjo :2007/06/10(日) 01:35:08 ID:AI+IYRnv0
といったところで投下終了です。
次回はマイラで一イベント終わらせてからリムルダールに行く予定です。

429 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/06/10(日) 01:58:56 ID:aQlYW0gL0
投下乙!
主人公の俺TUEEEEEEEワロスw

430 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/06/11(月) 12:48:05 ID:ihFODq/x0
>傘でアバンストラッシュ
あるあるwww

431 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/06/11(月) 13:40:44 ID:H6DX5WZNO
俺はモップでブラッディスクライドだっちゃ。

432 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/06/12(火) 00:59:22 ID:hEAtUHAi0
◆IFDQ/RcGKI氏の続きも気になる。

433 :Stage.5-1 hjmn ◆IFDQ/RcGKI :2007/06/12(火) 22:28:43 ID:gSbhhAoC0
うは、投下しにきたらすごいタイミングだww
>>432さん
ご期待いただいて光栄です。お待たせしてすみません。

ところで、
「ゲームサイドの携帯の充電はどうしてるのか?」
というご質問が来ましたので、当事者たちに聞いてみました。


アルス「あ、当事者って俺らか」
タツミ「実は僕も気になってたんだよね、携帯の充電。これどうなってんの?」
アルス「んなもん決まってんだろ、お前どこに飛ばされたと思ってんだよ」
タツミ「じゃあ、この電池残量のマークに重なってついてる『M』ってのは……」
アルス「当然『MP』だろ。使う人間の」
タツミ「なるほどー。って、僕にMPなんてあったの!?」
アルス「知らん。お前のステータス見てねえからわかんねえや」
タツミ「遊び歩いてないでちゃんとモニタリングしてくれよ。
   こっちからは客観的な数値がわかんないんだから」
アルス「うるせえ命令すんな。だいたい俺、お前にクリアさせる気ねえし」
タツミ「それ以前に僕が死んだら君もくたばるってこと忘れてない?」
アルス「ほぉ、死ねるモンなら死んでみろ」
タツミ「実際そうなりかけたら大慌てのくせにねぇ」
アルス「なんだと」
タツミ「なにさ」


……なんか脱線してきたので本編に参ります。

434 :Stage.5-1 1/12 ◆IFDQ/RcGKI :2007/06/12(火) 22:30:01 ID:gSbhhAoC0
 前回 >>293-305
【Stage.5 ミイラ男と星空と(中編)】

 ----------------- Game-Side -----------------

「もう二度と頼らないから、そっちも勝手にすればいい!」
 怒鳴り散らして通話を切り、直後、僕は壁に背をつけてずり落ちるように座り込んだ。
 バカなことをしたのはわかってる。電波状況が最悪のこのダンジョンで奇跡的につな
がった瞬間だったってのに、なんで切っちゃってるんだよ僕。
 まあ今のこの状況で、電話越しのナビがどの程度役に立つかは疑問だけど――。
 すぐに「圏外」表示に戻ってしまった携帯をぼんやり眺めた。ここは、そこら中に散ら
ばる白骨死体がぼんやりした燐光を発している以外、いっさい光の差さない闇の回廊。小
さなモニターから漏れるわずかな明かりさえ、まるで太陽みたいにまぶしく目に映る。
「……ゆ、勇者様……?」
 エリスが身を起こして、不安そうに僕を見上げた。携帯を閉じる。
「ああ、ごめんね。なんでもないよ」
 腕を伸ばし、その頬に手を当てながら「大丈夫だよ。大丈夫だから」と何度も繰り返し
て言ってあげると、彼女は微笑んで、また目を閉じた。

 冷たい石畳に僕のマントをひいて、エリスはぐったりと横たわっている。
 さっき火炎ムカデにやられた彼女の右足は焼けただれ、真っ赤に腫れ上がっている。手
持ちの薬草で簡単な応急処置はしたが、早くロダムに回復してもらわないとまずい。
 ロダム、サミエルの2人とはぐれて、どれくらい経つのか。現実の時刻を示すだけの携
帯じゃよくわからない。このダンジョンに入った時間を考えれば、もうじき外は日暮れ頃
だろう。昼間でも肌寒かった気温はますます下がってる。これからもっと冷え込むんだろ
うか。

 まったく。16歳の健全男子が可愛い女の子と暗闇で二人っきりだっていうのに、まるで
色っぽい思考に走れないって、なんなんだろうね。
 生き残ることしか頭にないって――そんな状況って、なんなんだよ。

   ◇

435 :Stage.5-1 2/12 ◆IFDQ/RcGKI :2007/06/12(火) 22:33:27 ID:gSbhhAoC0

 ロマリアから使者が馬を飛ばして追ってきたのは、僕たちがアッサラームまでまだ3分
の1も来ていない森の中で、早々に野営準備を始めた頃だった。

 二つに斬られて のたうつ魔物〜♪ 飛び散る内臓や 跳ねる血しぶき〜♪
 呪文でバラバラ 見る影もなく〜♪ 勇者がまたもや うしろで吐いた〜♪

 近道しようと公道をそれたせいか、あの後、何度もモンスターと戦うことになった。
 慣れる間もなく次々に惨殺シーンを見せつけられ、かといって戦闘を任せきりにしてい
る仲間に申し訳なくて目をそらすこともできず、吐く物もなくなって完全にグヘ〜となっ
てしまった僕を心配し、まだ早いけど今日はここでキャンプをしましょう――という運び
になったのである。なんとも情けない。
「どうかお気になさらずに。まだ1日目なんですから、当たり前です」
「ありがとう。本当にごめん、必ず近いうちになんとかするから」
 正直なところ僕「血」はダメなんだよ。ホラー映画もサイコ系は平気だけど、スプラッ
タは気分が悪くなって観られない。いざとなればなんとかなるかなーと思ってたんだけど、
なんともならなかった。人間、簡単には変われないもんだね。

 そこへ息を荒くした人馬が走り込んできたのだ。
「ゆ、勇者様でいらっしゃいますね!?」
「そうだけど……」
「良かった、間に合った!」
 国に使わされたのではなく、ある人からの個人的な使者だというその青年は、封蝋もさ
れていない書状を僕に押しつけるように手渡してきた。
 この場で読んでくれ、と急かされて、目を通した僕は思わず舌打ちした。
「どうなさったんです?」
 声を低めるロダムに、黙って書状を回す。
「なになに……魔法の鍵を壊した? 勇者様が!? どういうことですか!?」
「罪をなすりつけられたんだよ。ま、きっかけを招いたのは僕だけど」

436 :Stage.5-1 3/12 ◆IFDQ/RcGKI :2007/06/12(火) 22:36:31 ID:gSbhhAoC0

 ポルトガとの重要な陸路であるはずの関所が、何年も閉鎖されているのは不思議だった
が、なんのことはない。
 ロマリアの現国王が、イシス女王から親善の証として贈られた「魔法の鍵の複製」をダ
メにしちゃって開けられなくなっていたのだ。当然、んなアホな失態を表沙汰にはできな
いから、適当な理由をつけて閉鎖していたらしい。
 ところが僕が開門命令を出したので、ポルトガとの交易を望む商人を始め、国民は大喜
びした。王様が戻ってすぐに撤回されたが、そりゃ不満の声も出てくるだろう。
 今まで閉鎖理由を心底では納得していなかった国民は事実を疑い始め、困った王様は、
「勇者が国王代理を務めている間に勝手に持ち出して壊しおったのだぁ!」
 と思いっきりデタラメこいてくれたのだった。小学生かおまいは。

「んで僕たち、お尋ね者になっちゃったワケだ」
「もちろん勇者様に咎はございません。真実をご存じの前国王様も、まずは勇者様に事の
次第をお伝えし、ご助力差し上げよと私を派遣なさったのです」
 助けたい、ねぇ。
「でもこの手紙の内容だと、結局僕たちが責任を取るんじゃないの?」
 “追っ手は差し止めておくから、その間にピラミッドから『本物の』鍵を取ってくれば万
事解決だよ” ってアンタ、アドバイスにかこつけた命令じゃないか。
 僕がジトーッと横目で睨むと、使者の青年は済まなそうに目を伏せた。
「行くことないッスよ! 真実を話して本人に責任を取らせればいい」
 サミエルがそう息巻くのももっともだ。エリスもロダムも難しい顔をしている。

 だが僕はその時、もう少し別の観点から物事を考えていた。

 ――たぶん僕が懸念していた通り、このイベントはカットできないのだろう。
 だから本来のシナリオに対し、本当に飛ばしても構わないノアニールの話はその片鱗も
出てこないし、魔法の鍵にいたってはやや強引とも思える選択肢がここに用意された。
 「はい」と「いいえ」。僕の中なにか予感めいたものが「断るな」と告げている。
 ここで無理に断れば、物語が破綻して身動きが取れなくなってしまうような……。

437 :Stage.5-1 4/12 ◆IFDQ/RcGKI :2007/06/12(火) 22:38:48 ID:gSbhhAoC0

「わかりました。お引き受けしましょう」
「勇者様!」
 そろって抗議の声をあげる3人に、僕は苦笑を返した。
「仕方ないよ。どちらにしても鍵は必要なんだから、僕たちが責任を取ってなんとかする
のが一番すっきり治まる。一度そう発表されてしまった話を二転三転させても、ロマリア
国民の不安を煽るだけだしね」
 それから小声で、
「ヘタに言い訳したって話がややこしくなるだけだしさ。鍵さえ手に入れば、今度はこっ
ちから王様に『いろいろ』お願いできるかも?」
 とたんに3人の目がキラーンと光る。

 薄ら笑いを浮かべ合う僕たちには気付かず、使者の青年はブワッと涙を溢れさせた。
「すばらしい、さすが勇者様です! 感動です! あの、これ!」
 ふくろからゴソゴソと引っ張り出してきたのは、キレイな装飾の腕輪だった。
「前国王より預かって参りました、『星降る腕輪』というものです。不思議な力が込めら
れているそうで、きっと勇者様の冒険をお助けしてくれるだろうと」
 ほお、ここで手に入っちゃうんだ。話が話だけにイシス女王に挨拶には行けないから、
さっき引き受けた時点でコレは諦めていたんだが。
「そしてこれがですね……」
 使者の青年はさらになにか取り出して、満面の笑みで差し出した。
 今度はなんだろう。前国王ってばなかなか気前いいじゃん。
「ピラミッドの場所を記憶させた特別なキメラの翼です。追っ手をとどめるにも限界がご
ざいますし、すぐにも向かった方がよろしいかと」
 ちょ、待てコラそっこう行けってかww

 そうこう言ってる間に、遠くにロマリアの旗を掲げた一団が現れた。本当に追っ手を差
し止めていたのか? なんて考えるだけムダだ。王族なんてもう信用ならない。
 僕たちは慌てて、渡されたばかりのキメラの翼でピラミッドに飛んだ。

438 :Stage.5-1 5/12 ◆IFDQ/RcGKI :2007/06/12(火) 22:44:00 ID:gSbhhAoC0

   ◇

 乾燥したきった空気と照りつける日差しの強さは、想定していたから驚きはしなかった。
 砂漠とはこんなものなんだろう、と認識するに留まる。問題はピラミッドだ。
「結構……きれいなんだね」
 本物は観たことないが、現実側のそれはしょっちゅうテレビで紹介されている。今その
通りの光景が目の前にあり、それがかえって僕に奇妙な感想を抱かせた。
 観光名所として手入れの行き届いているエジプトの王墓ならともかく、こちらはもっと
自然のままに、砂に埋もれたり崩れたりしているもんじゃないのかな。
「きっとイシスの人間が、定期的に清掃を行っているのかもしれませんね」
 王墓なのだからあり得そうだが、そう言うエリスも腑に落ちない顔をしている。国が管
理している遺跡に、他国の冒険者が土足でズカズカ入り込むことを黙認するだろうか?

「あ、そうだ」
 僕はロマリアでくすねてきた紙の巻物を取り出した。この世界は羊皮紙が一般的だが、
普通の「紙」の方がインクのノリも良いし薄くて軽い。でも高くてなかなか手に入りにく
いから、ここぞとばかりクスねてきたのだ。
 巻物には、これから向かうことになるダンジョンのマップが描かれている。ロマリアに
泊まった夜に、僕が事前に描いておいたのだ。
 最初の方にピラミッド内部の簡易図もある。念のため描いておいたけど、まさかこんな
に早く使うことになるとは思わなかった。
 そこをビリッと破ってロダムに渡す。僕は頭に入っているから、実質2枚の内部図を分
けて持つことになる。
「これもルビス様のお告げですか? どれが人食い箱かもわかるのですね」
 ロダムが苦笑する。
 まあ自分でもちょっと異常な気はするけど、そこは気にしない気にしない。

 その他、簡単に打合せを済ませて、いよいよピラミッドへ突入だ!

 
 と、勇んで踏み込んだは良かったが……。

439 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/06/12(火) 22:45:07 ID:s/zle9kv0
さるさる回避

440 :Stage.5-1 6/12 ◆IFDQ/RcGKI :2007/06/12(火) 22:46:29 ID:gSbhhAoC0

 中に入った瞬間だった。いきなり僕たちのうしろで「ズゥゥン!!!」と大きな音がした。
「うそ、閉じこめられた!?」
 こんな演出、ゲームにはなかったはず。
 わずかな明かり取りの窓から入る光だけとなり、視界の明度が一気に落ちる。サミエル
が手早くたいまつに火を灯すと、それが合図だったように、暗がりから大量のモンスター
が襲いかかってきた。

 それでも普通に戦闘をこなすだけならば、出発時よりさらにレベルが上がっているエリ
スたちの敵ではない。
 中も存外に広い造りで、人が3人余裕で並んで歩けるくらいの通路が真っ直ぐに続いて
いる。天井も高く、これくらい広さがあれば互いにカバーしながら戦える。余裕のはずだ。
「持つよ、気をつけて」
 僕がサミエルからたいまつを受け取ると、彼はニカッといつものいい笑顔を見せて、前
に出た。

 だが、切り込みを買って出たサミエルが、何歩か進んだそのとき――。「うあ!」と叫
んで剣を取り落とし、彼はその場に倒れ込んでしまった。
 エリスが慌ててベギラマを唱え、倒れた戦士に群がるミイラたちを牽制する。
 駆け寄ってたいまつをかざすと、サミエルの脇腹に数本の矢が刺さっていた。

「トラップ……?」
 全身から血の気が引いた。
「みんな伏せてぇ!!」
 エリスとロダムが弾かれたように身を伏せる。瞬間、風を切る音がいくつも聞こえ、近
くまで寄っていた蛙型のモンスターが真っ二つになって吹っ飛んでいった。今度は矢では
なく、巨大な刃物のようなものが横切っていったのだ。
 入り口からたいした進んでもいないのに、ここまでのわずかな距離に、一撃で命に関わ
るような罠がいくつも仕掛けられているのだ。
 なにこれ。話が違いすぎだろ?

441 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/06/12(火) 22:47:24 ID:s/zle9kv0
支援

442 :Stage.5-1 atgk ◆IFDQ/RcGKI :2007/06/12(火) 22:49:35 ID:gSbhhAoC0
本日はいったんここまでとなります。
あんまり間が空きすぎるので、
今回から小分けして投下してみることにしました。
7/12-12/12は数日後に。

443 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/06/12(火) 22:58:12 ID:s/zle9kv0
新作GJ
ピラミッドのトラップ怖いな。
窮地に追い込まれたタツミが、これからどう行動するのか気になるw
続きwktkしながら待ってますねw


444 : ◆IFDQ/RcGKI :2007/06/12(火) 22:59:57 ID:gSbhhAoC0
>>439
支援ありがとうございます。

445 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/06/13(水) 19:02:59 ID:A1yrz2fxO
うはww
新作の投下超ナイスタイミング。
なにはともあれGJです。

446 :気紛れ ◆kyK/MpMz4o :2007/06/13(水) 21:50:17 ID:WcZO1yAJO
苦しい!息ができない!身動きがとれない!右も左も上も下もあったもんじゃない!
光はどっち?
もがけばもがくだけ、絡 ま っ て …

ふっ、と浮き上がるように目が覚めた。
妙に胸が騒ぐ。焦躁。幻想?
額に手を当てると酷く冷たく濡れていた。
気をやれば、全身が汗でびっちょりなことに気付く。
――夢か。
ビビった!いやまじで。死ぬかと。もう死ぬかと。
いや、でもありえないよね、いきなり海で溺れるとかさ。
海なんてもう5年は行ってないんだぜ。ありえないんだぜ。
と、安心しようとする私を、打ち落とす事実。
嫌でも鼻につく磯の香に、波の音。そしてこの見知らぬ部屋の窓から、望むこのオーシャン…ビュー……
「やってらんないんだぜ!」
夢だと思い込もうにもこのハイクオリティ!
いくら私が想像力(妄想力)豊かな花の16歳とはいっても!
色々考えた末に私はもう一度ベッドに潜った。
都合の悪い事からは目を逸らす。無かった事にする。これがゆとりクオリティ。
……。
……………。

お腹、減った。




447 :気紛れ ◆kyK/MpMz4o :2007/06/13(水) 21:52:44 ID:WcZO1yAJO
結局人間欲には勝てないのだ。
睡眠欲は満たされてしまっているから、次は食欲。
ああー良い匂いがする。
匂いに誘われて私は階段を下りた。

「あらあらあら!ようやく起きたみたいだね」

階下には、なんというか、肝っ玉母ちゃんを絵で描いたような女性がいた。
母ちゃんはこうも続けた。
「あんたが海に打ち上げられてるの見た時は驚いたよ!無事でよかった」
……。網に。ふぅん。
……。
「夢じゃなかったんかい。」
呆然として呟くと同時にグーキュルルルル、とお腹がなった。
「お腹が空くなら大丈夫だね」
にっこり笑った女性は忙しく食事の用意を始めた。
魚を3枚に卸して刺身。余った身と骨、内臓を叩いて丸めて揚げた団子とたっぷりの野菜を煮込んであったスープ。それに作り置いてあった小魚の佃煮に茶碗いっぱいに盛られた白ご飯がテーブルに並べられた。
「さあ、ぼーっと立って無いで、食べな!」





448 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/06/13(水) 21:55:20 ID:V4ORlyJRO
支援

449 :気紛れ ◆kyK/MpMz4o :2007/06/13(水) 23:08:06 ID:WcZO1yAJO
肝っ玉母ちゃん――マーレさんのご飯は死ぬほど美味しかった。
お腹が空いてるってだけじゃない。きっと食材が新鮮なのも、単にマーレさんの料理の腕が良いのもあるだろう。
とにかく、いままで食べたご飯の中で一番美味しかった。
「ご馳走さまでした!」
マーレさんはにこにこ、お粗末様でした、とお皿を下げる。そして、さて、と話を始めた。
まず、私の名前から始まり、何故海岸に打ち上げられていたのか、そもそもどこから来たのか。
私も出来るだけ正確に、分かるだけの範囲で答えた。
私の名前はユウキで、何故海岸に打ち上げられていたのかは、私も分からない。ここに来る前は日本という所でギリギリながらも女子高生をしていました。
私の答えにマーレは目をぱちくりさせた後に訝しげに細くなった。
「…ニホン?」
「ニッポンともジャパンともジパングとも言うけど」
「…グランエスタードでも、フィッシュベルでもないのね」
「ええと、そうみたい」
何か言い辛そうに、マーレさんが口を開いた。
「世界にはこのグランエスタード島以外に人が住んでる島なんて、ないんだよ」

な、なんだってー!!


450 :気紛れ ◆kyK/MpMz4o :2007/06/13(水) 23:10:24 ID:WcZO1yAJO
私はそのビックリ情報に目を見開いた。
「あ、アメリカ大陸も?」
マーレさんは無言で首を横に振った。
「ユーラシア大陸も!?」
「聞いたこともないねえ」
「オーストラリアは?アフリカは?え?インドネシアも?パプアニューギニアも?ガラパゴスも?」
マーレさんが頷く事はなかった。大陸も、島も、ここ一つ………?
「そ、そんなっ……」
ありえない!そんな、今まで考えたくなくて避けて来たけど、やっぱりここは、まるで、異世界、じゃないか。

行き着くべき結論に至って、私は絶句した。
夢ではない、でも私の現実ではありえない、この事実。
「何かショックな事があって記憶を落としてきちゃったのかねぇ」
マーレさん――なんて呑気な――
私は意識を保つのに精一杯だった。\(^O^)/オワタ!とかおどけて見せるので。
その時、扉が開いた。
マーレさんが優しい笑顔で「おかえり」と言う。
振り向くとそこには緑色の服を着た少年がいた。
\(^O^)/……
↑の状態の私を見て多少引きつっているが、なかなかに感じのよい笑顔だ。
少年は、アルスといって、マーレさんの息子だった。
マーレさんは息子さんに私の紹介をし、簡単に事情の説明をしてくれた。
「で、アルス。この子に見覚えはないかい?」
「ええと、ユウキ…さん?」
「は、はい」
「見覚え…ないなぁ。」
そりゃそうでしょうとも。私は声にならない言葉で返事すると、ため息をついた。
そのため息を落胆の意味と捉えたのか、アルスは慌てて慰めるような口調で
「じゃ、じゃあ…グランエスタードに、行って見る?」
と、言った。



451 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/06/14(木) 11:47:49 ID:a80QQpm0O
新作乙!
7の世界だね。応援しているよ

452 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/06/14(木) 18:37:42 ID:Lvgrew1o0
新作乙。
アルスさんと恋の予感・・・。

453 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/06/14(木) 21:16:28 ID:FY/xd5ec0
乙おつー!
7キタワァ^^
ツンデレマリベルに期待wwwww

454 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/06/16(土) 01:45:31 ID:+oX9XX/u0
うわお
こんな面白いのが投下されてたのにdion軍の超長規制のせいで
何にも書けんかった〜

作家さん達皆さん乙!
続きwktkしてます

455 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/06/17(日) 08:41:14 ID:5iMBz8ACO
保守

456 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/06/19(火) 00:30:25 ID:mDLNjS9O0
7の世界大好きだからwktkwww
しかも女の子主人公ww
次回を楽しみにまってます!

457 :Stage.5-2 [hjmn] ◆IFDQ/RcGKI :2007/06/19(火) 10:28:18 ID:h6mFqMtJ0

アルス「ちーっす」
タツミ「どうもー。続編投下にきましたっ。けどその前に……」
アルス「まずはサンクスコール!」

アルス「改めて>>439様、そして>>441様、規制回避支援サンキュです!」
タツミ「>>443様、wktk言われてつい張り切っちゃいましたよ。ご期待に添えられたかなぁ」
アルス「>>445様、やっぱGJは嬉しいぜ。今回のタイミングはどうでしたでしょーかw」


アルス・タツミ『それでは、本編スタートです!』


 前回 >>434-440
【Stage.5 ミイラ男と星空と(中編)】

 Game-Side 続編

458 :Stage.5-2 [7] ◆IFDQ/RcGKI :2007/06/19(火) 10:29:41 ID:h6mFqMtJ0

【我ラガ王ノ眠リヲ妨ゲル者ハ誰ダァ〜!】
 どこからともなく低くくぐもった声が響いてくる。これって確か、上の階の宝物庫にあ
る宝箱を開けたときのセリフだったっけ? 内容が少し違う気もするが、それなりにゲー
ムを継承しているわけだ。
 こんなえげつない罠が仕掛けられている時点で、すでにドラクエとは言えないけどさ!

「く……油断したッス……」
「大丈夫サミエル!?」
 苦しそうにうめくサミエルの脇腹に、みるみる血がにじんでいく。人間の、まして仲間
のケガだ。心臓が跳ね上がった。でもここで、血はダメだなんて言ってられない。
「立てる? 早くロダムに回復を――」
 瞬間、目の前にユラリと黒い影が現れた。そいつの腕が首に巻き付いてきて、一気に締
め上げられる。見た目と裏腹にとんでもない力だ。
「!……!…!!」
 声が出ない。く、首の骨が折れる〜!
「青き女王の御子ら氷の精霊たちよ古き盟約に従い我が戦陣に馳せ汝が力を示せヒャド!」
 エリスがものすごい早口で詠唱を完了させた。青く煌めく氷の刃が、僕をシメあげてい
たモンスターに突き刺さった。
 グギャア、とおぞましい悲鳴をあげて飛びすさる影。
 その場に投げ出された僕は、肺に無理やり新しい空気を送り込むのと、転がってるたい
まつを手に持つのと、反対の手でサミエルを引きずって後ろに下がるのとを同時にやって
のけた。おお、すごいぞ「星降る腕輪」効果。

「……の精霊の名においてかの者たちに癒しの光を――ホイミ、ベホイミ!」
 先に詠唱を開始していたロダムが、這い戻ってきた僕とサミエルにタイミング良く回復
呪文をかけた。喉の痛みがすうっと引いていく。サミエルの脇腹から折れた鏃(ヤジリ)が自
然に押し出されて出血も止まった。
 瞬間的に負傷度合いを測り、呪文を使い分ける年配僧侶に感心しつつ、僕は通路の奥に
向き直った。

 さて、仕切り直しだ。

459 :Stage.5-2 [8] ◆IFDQ/RcGKI :2007/06/19(火) 10:33:34 ID:h6mFqMtJ0

【我ラガ王ノ眠リヲ妨ゲル者ハ誰ダァ〜!】
「うるさいなぁ。エリス、なるべく中央に向けてベギラマお願い」
「はい勇者様っ」
 彼女の閃光呪文が、追いすがってきたモンスターを散らすついでに、通路の奥の方まで
明るく照らし出した。

 両サイドの壁にはいかにもエジプトっぽい絵が延々と描かれている。
 そして床。
 僕たちが待機している場所は真っ平らだが、やや先の方から、床に1メートル平方の大
きな石がタイル状に敷き詰められているのがわかった。タイル1枚1枚にエジプトの象形
文字のような(あるいはそのものか)レリーフが刻まれている。
 そのうち数枚が、周りと比べてやや下に引っ込んでいた。1枚はちょうどサミエルが踏
み出したあたりではないだろうか。「蛇」の形をしたマークの文字だ。
 一番手前に目をやる。たいまつの光に浮かび上がるのは「鳥」をかたどった文字のタイ
ル。さっき戻ってきたときに、間違いなく僕はこれを踏んでいるが、なにかが動いた気配
はなかった。暫定的に「鳥」は安全ルートと決定。もう少し検証したいところだが、そん
な余裕はない。

 エジプト神話における「蛇」の象徴は多々あるが、ここは有名な悪い蛇の神様「アポピ
ス」と見立てていいだろうか。「墓守の蛇の女神」といういかにもな神様もいるけど、壁
画はその女神とは無関係の神話のものだし。だとすると……アレかな。

 ――ここまでの思考を数秒でまとめる。
 えい、読みが外れたらそれまでだ。僕は腹を据えた。
「この中で一番身軽なのは、今のところ僕だよね」
「それはどういう意味ですか」
 トラップ地帯をすり抜けて迫ってきたあやしい影を真空呪文で吹き飛ばしつつ、ロダム
が訝しげに問う。
「なにかわかったんスか!?」
 逆にサミエルが期待に満ちた声を上げる。剣を構えて前方を睨みつけているが、接近戦
が得意の彼としては、思い切り戦えないこの状況が歯がゆいだろう。

460 :Stage.5-2 [9] ◆IFDQ/RcGKI :2007/06/19(火) 10:34:53 ID:h6mFqMtJ0

「うん、任せて」
 その彼に僕は持っていたたいまつを返した。星降る腕輪が「途中」で外れないようグッ
と上に押し上げて、それから片膝を立てて前傾姿勢で両手を床につける。
 こういうのは勢いが大事。クラウチング・スタートの体勢から重心を前に移動し――、
「まさか、勇者様?」
「援護ヨロシク!」
 
 タイルの模様と位置は、さっきベギラマで見えたときに、すべて頭に叩き込んだ。
 通路は薄暗いが、敵のモンスターがどこにいるかくらいは視認できる。トラップ障害の
条件は敵方も同じ。まごついているモンスターたちの足下をすり抜け、飛び石を渡るよう
に「鳥」のタイルを踏みながら、目的の場所へ!

【我ラガ王ノ眠リヲ妨ゲル者ハ……】
「だからうるさいっつーの!」
 襲いかかってきたミイラ男のすぐ前にあった「蛇」マークを思いっきり踏んづけて、横
の「鳥」に転がる。ドカカッ!と矢だらけになってひっくり返ったそいつを飛び越えたと
ころで、物理トラップ無効のあやしい影が、サッと前に回り込んできた。
「ヤバ……」
 仲間の援護を信じて、とっさにその場に伏せる。
「「バギ・ベギラマ!!」」
 同時に、灼熱を伴った真空波が実体のない魔物をぶち抜いていった。その狙いの精度と、
仲間に向かって迷い無く呪文を放てる思い切りの良さは、大したものだ。

 チラッと壁に目をやる。延々と続く壁画は、数あるエジプト神話の中でも最も有名なス
トーリーを描いたものだ。僕が目指しているのはそこにいるべき、ある神様。
 ヘリオポリス九柱神の一人であり、厄災の蛇神「アポピス」の天敵とされる、地下世界の
王「セト」。「蛇」を鎮めるなら、そのお方しかいないでしょう!

 ……たぶん。
 ノーヒントじゃこれが限界です。これで読み違えてたら諦めるしかありません。

461 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/06/19(火) 10:39:35 ID:PQ8q4cx7O
携帯で自力回避

462 :Stage.5-2 [10] ◆IFDQ/RcGKI :2007/06/19(火) 10:39:41 ID:h6mFqMtJ0

 モンスターたちは目標を僕に絞ったらしい。例のセリフを繰り返しつつ、トラップにも
ガンガン引っかかりながら、とにかく追っかけてくる。
「これだけの殉死者を道連れって、ここの王様も最悪だな。――おりゃ!」
 再び「蛇」を踏んで「鳥」に待避。天井から円盤形の刃物が降りてきてミイラが胴体か
ら半分になって転がった。これが自分だったらと思うとゾッとするけど、今は考えない。
「勇者様、大丈夫ですか!」
「今のところはね。えーとオシリスが暗殺されてイシスが逃げて……」
 エジプト神話なんて、小学生のときに軽く流し読みしただけだからなぁ〜。
 しかも暗くてよく見えないから、ところどころ天井の隙間から漏れてくる光で見える場
所から、前後を推測しなきゃならない。
「イシスがホルスを産んで、セトと一騎打ちになって……っていたぁ!」
 セトちゃん発見! 動物のかぶり物しててちょっと愛嬌のある絵だけど!
 壁、壁、なんかスイッチとかないか!?

 あれ……なんにもない?
 うーわー、まさかやっぱり読み違えたんじゃ――。

「勇者様危ないですぅ!」
 立ち止まったせいでミイラ共がわらわら集まってきてしまった。気がついたらすっかり
取り囲まれている状態だ。
【【【我ラガ王ノ眠リヲ妨ゲル者ハ誰ダァ〜!】】】
「ごめんアルス、僕死んだかもww」
 ミイラが一斉にたかってきて、僕は反射的にその場にしゃがみ込んだ。


 ――と、目の前にいかにも「押してください」といわんばかりの丸いボタンが、床から
出っ張っている……。


 あったじゃん。
 ポチっとな。

463 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/06/19(火) 10:41:16 ID:Tk7hcM0s0
リアルタイムキタコレ支援

464 :Stage.5-2 [11] ◆IFDQ/RcGKI :2007/06/19(火) 10:42:45 ID:h6mFqMtJ0

 ガコン!
 ――という大きな音が、通路全体に響き渡った。

 今にも僕を袋だたきにしようとしていたミイラたちが、一瞬、動きを止める。
 同時に、
「勇者様になにさらすんじゃワレァ!!!」
 戦士らしからぬ素晴らしいスピードで走ってきたサミエルが、一振りで3体まとめて薙
ぎ飛ばした。エリス・ロダムの呪文組が一気にとどめを刺し、ハイ、終・了。
「……普通に戦えればホント強いよね、うちのパーティ」

「いやはや、いきなり飛び出して行かれるから、びっくりしましたよ」
「さすが勇者様、ちょこまかと素晴らしい動きでしたね!」
 サミエル、それ微妙に褒めてない。
「なにをのんきなことを! もう、一人でご無理はなさらないでください!」
 泣きそうになってるエリスに、僕は手を合わせた。
「ごめんごめん。また誰かが罠にかかったら、って思ったら、嫌だったから」
「勇者様……」
 それになんとなく、こういうドラクエらしくない部分は、僕が担当のような気がする。

「しかし、こんなものよく見つけましたね」
 ロダムが足下のボタンを指して感心する。そこは影になっていて、確かに言われなきゃ
気付かないような場所だ。
 だから、そのボタンの上に文字が彫りつけられているのも、今気がついた。 
「ふむ、『礼節を知る者、客として歓迎する』という意味ですな」
「読めるの? さすが宮廷司祭殿」
 そうか……神の前ではひざまずくもの、だよな。

「そう言えば、魔物の気配が消えましたね」
 エリスがあたりを見回した。さっきまであれだけいたモンスターが消えていた。
「じゃあ俺たち、ここのお客様になったんスかね」
 うーん、だといいんだけど。

465 :Stage.5-2 [12] ◆IFDQ/RcGKI :2007/06/19(火) 10:44:59 ID:h6mFqMtJ0

 あとは普通のダンジョンであることを祈って、僕たちは先に進むことにした。

 ガコン!
 ――という大きな音が、通路全体に響き渡った。

 なんだこの前レスと同じ文章は。作者のミスか?
 とか思ったら、なんか、急に、フワッと身体が、軽くなった、ような……。

「落とし穴忘れてたぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
「きゃあああ勇者様ぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 僕とエリスが落ちたとたん、頭上で穴が再び閉じ始めた。
 慌てて追ってこようとするサミエルたちに気付いた僕は、とっさに叫んでいた。
 、、、、 、、、、、
「構うな! 鍵を探せ!」

   ◇

 あとのことは、正直あまり語りたくない。
 魔法が使えないピラミッドの地下で、この組み分けが最悪だってのは説明不要だよね。
 上と違って肌寒いくらいのジメジメした地下室を、逃げ回って逃げ回って、なんとか身
を隠せる場所を見つけ出して、今はつかの間の休息を取っている状態だ。
 いつ敵が襲ってくるかわからない緊張感でほとんど休まる気はしないが、エリスの様子
があまりに痛々しくて、これ以上動かすのは可哀想だった。
 ここでようやく、このパートの「1」に続くってワケ。

 さーて、次はどうしたもんかな。
 寒さ、飢え、疲労。さすがに考えがまとまらなくなってきた。
 上でちょっと張り切りすぎたか。

 ――でも、考えなきゃ。どちらか一人でも、ここから生きて出るための方法を。

466 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/06/19(火) 10:54:14 ID:Tk7hcM0s0
乙ー!
タツミの潜在能力はどうなってんだwww
それとも勇者の「おぼえる」能力が影響してるのか。

なんにせよGJ!
エリスタン・・・

467 :Stage.5-2 [atgk] ◆IFDQ/RcGKI :2007/06/19(火) 10:56:45 ID:h6mFqMtJ0
本日はここまでです。
次はリアルサイド、アルス君の出番です。

468 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/06/19(火) 22:18:24 ID:SpASF7F0O
乙乙乙!


469 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/06/20(水) 17:29:20 ID:/KJaAq3S0
書き手=主人公

このスレの小説の主人公達がデブスやキモオタだと思うと鬱になる

470 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/06/20(水) 17:41:19 ID:m+42TVhLO
>>469
君もこのスレの主人公さ!!

471 :気紛れ ◆kyK/MpMz4o :2007/06/20(水) 21:13:40 ID:8vCQuhLbO
グランエスタードとやらにはお城があって、それに付き物の王様や王女様、王子様なんかもいちゃったりして、城下町も栄えてるらしい!
お、王子様!なんて良い響きだろう。
別にシンデレラにも白雪姫にも憧れる歳ではないけど、その言葉だけでなんとなくドキッとする。
いやぁ、元の世界にも王子様とか皇太子様とかいたけどさ!

グランエスタードについての簡単な説明をしてくれるアルスにマーレさんが、そうだこれを持って行きな、と大口の瓶を渡した。
中身はというと、さっき私もお腹に納めた小魚の佃煮だった。
……道中のお弁当にしなさいってこと?
んまあ、今ご飯食べたのに、マーレさんってば気の早い。

さて、では出発しますか、とドアを開いた。
後ろでアルスが慌てて何か言った気がしないでもないけどキニシナイ!!(゚ε゚)
で、ドアを開くと一番に私の目に飛び込んできたのは、鬼――の形相をした女の子と振り上げられた拳。


ごごご、ごめんなすわぁぁぁぁぁい!!!!!!!

思わず負け犬根性丸出しで謝ってしまいそうなマイチキンハート。




472 :気紛れ ◆kyK/MpMz4o :2007/06/20(水) 21:16:42 ID:8vCQuhLbO
「うわぁ!!!」
「きゃあ!!?」
寸での所で拳を交わした私の情けない声とまさか交わされると思っていなかったんだろう女の子が空振ってクルンと回って悲鳴をあげた。
「何で避けるのよ!」
「避けるわ!」
ここでやっと私を見たらしい女の子がキョトーンとして、私とアルスに視線を行き来させて一言。
「あんた誰!」
「先に謝らんかい!」
これが、私とマリベルの出会いだ。第一印象最悪。

そんなわけで私たち三人はtoグランエスタードの道中にいる。
そんなわけっていうのは、単にアルスとマリベルは、
一緒にグランエスタードに行く約束をしていたってことなんだけど。
ちなみに私が殴られそうになったのは、`いつまで私を待たせる気!?'なマリベルの怒りが込められていたらしい。
ちなみにちなみに!結局私謝られてません!!
HAHAHAHAHA!!

今私達はアルスを挟んでそっぽ向いて歩いている。




473 :気紛れ ◆kyK/MpMz4o :2007/06/20(水) 21:20:36 ID:8vCQuhLbO
…痛い。ああ、いけない。また、アルスに心配かけちゃう。
顔を上げて、大丈夫だって、笑わなきゃ。

そう考えるのに、体はそう動いてくれない。

……痛い、痛い!!もうやだ、何でこんなことしてんの、私!
いきなりこんなわけわかんない所に来て、いきなり殴られそうになって、挙句にこんな、いたい目に、あって。
泣き出したいのを肩を震わせてやり過ごそうとした。うまく行かない。

ずるずる、鼻をすする私の目に飛び込んで来たのは鮮やかな緑色の葉っぱだった。
「もう、はやく使いなさいよ!」
続いてマリベルの声。私はわけがわからないままその葉っぱを受け取る。
「べ、別にあんたの為じゃないんだからね!あんたの怪我のせいでグランエスタードに着くのが遅くなって困るのは私なんだから!!」
そう怒ったように、怒鳴るようにマリベルの顔は真っ赤だ。アルスが私に耳打ちをする。
「さっきのこと、本当は謝りたいんだよ、マリベル。」
素直じゃないんだから。
そう囁くアルスの声は優しくって、嘘のない声だった。だから、私も素直に言えたんだと思う。
「ありがと、マリベル」



「ところで」
「何よ、まだなにかあるの?」
「この葉っぱの使用法が分からない件」
「……。」
「……。」



私は正座をしてこの葉っぱ――薬草の使用法を教授して頂くことになった。
……足、痛いです、マリベル先生。


474 :気紛れ ◆kyK/MpMz4o :2007/06/20(水) 21:23:39 ID:8vCQuhLbO
>>473の前に入れてください、すいません…


……。
……………。
…………………気まずい。非常に気まずい。
元来私はふるえるこの胸チキンハートの持ち主で、他人と喧嘩なんて小学生以来だ。
…兄貴とは頻繁に喧嘩するけど。
まあ、そんなのは関係なくって、とにかく、私はこの女子の喧嘩特有の冷戦状態が苦手でしかたがないのだ。
…ああ!早く着かないかな、グランエスタード!!


―――話は変わりますが、グランエスタードに向かう道、舗装されてないんです。
デコボコ道ってレベルじゃねーぞ!
体力はない方ではないと思うんだけど、軽く酸欠。酸素くれ。
フラフラと歩く私をアルスが心配そうに見ている。
「大丈夫?」
と声を掛けられた。
マリベルも意外にヒョイヒョイ歩いてるし、私だけ、情けない…
そう思うと見栄を張りたくなる。そりゃあもう、精一杯。

大 丈 夫 ! !

とびきりの笑顔で顔を上げた私からその3文字の声が上がることはなかった。
「おひゃん!!」
情けない、悲鳴ともつかない叫び声をあげて私は地面に突っ伏した。
……足元の石ころに歩をとられて。




475 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/06/20(水) 22:50:02 ID:WEvhBGd90
ツンデレktkr

476 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/06/20(水) 22:50:41 ID:9JEBheu1O
>>458-465
今度はタイミング合いませんでしたがGJ!!
タツミ頭よすぎww
エジプト神話とか遊戯王しか知らない
>>471-474
GJっす!
いい感じにツンデレきてますねww

477 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/06/21(木) 08:39:20 ID:UTPcNGFs0
>>458-465
乙っした!
>>457の二人を見てるとなぜか懐かしの某オリラジを思い出してしまうw
エジプト神話って同じ神話でもいろいろパターンあるから、使うの難しいんだよな。
次回リアルサイド、wktk待機!

>>471-474
マリベル原作に忠実なツンデレで良い感じだ。
女の子主人公に期待大!

478 :Stage.?[1] ◆IFDQ/RcGKI :2007/06/21(木) 14:08:09 ID:6jlyry6F0

アルス「ちーっす」
タツミ「どうもー。ってこの挨拶、固定化しそうだな」
アルス「じゃあさっそくサンクスコールいってみますかっ」

タツミ「>>466様、ほんと僕の潜在能力ってどうなってんでしょうね。自分でもわかりません」
アルス「自分のことだろが。463でのグッタイミンな支援も助かりました」
タツミ「>>468様、乙3連打サンクスです」
アルス「>>476様、コイツなんて頭いいってか、ただの変態ですよねw」
タツミ「うるさいなぁ。
   >>477様、おっしゃるとおりエジプト神話は色々あって、組み立て結構悩みました」

アルス「ところで、俺らオリラジっぽいって」
タツミ「懐かしいね。こんなんだっけ by Youtube」
つttp://www.youtube.com/watch?v=A5rkI5kp-cQ&mode=related&search=
アルス「ふーん」


アルス「…………」
タツミ「…………」




479 :Stage.?[2] ◆IFDQ/RcGKI :2007/06/21(木) 14:10:12 ID:6jlyry6F0

アルス・タツミ『デンデンデンデ デンデデンデンデン♪』
タツミ「ドラクエサンラジオです!」
アルス「お願いします!」

タツミ「アル君いつものやったげて♪」
アルス「オウ! 聞きたいか 俺の武勇伝!」
タツミ「そのスゴイ武勇伝をゆったげて♪」
アルス「俺の伝説ベストテン!」
タツミ「レツゴー!」

アルス「むっつりスケベに認定される」
タツミ「スゴイ! 今では神龍マブダチに」
アルス・タツミ『武勇伝 武勇伝 ぶゆうデンデンデデンデン♪』
タツミ「レツゴー!」

アルス「ポルトガ王を黒ゴマでだます」
タツミ「スゴイ! セサミンパワーで長寿大国」
アルス・タツミ『武勇伝 武勇伝 ぶゆうデンデンデデンデン♪』
タツミ「レツゴー!」

アルス「ラスボスがなんと多段変身」
タツミ「スゴイ! 道に迷って相手はピサロ」
アルス・タツミ『武勇伝 武勇伝 ぶゆうデンデンデデンデン♪』
タツミ「レツゴー!」

アルス・タツミ『意味は無いけれど ムシャクシャしたから〜♪ ラーミア青く染めてみた〜♪』
アルス・タツミ『デンデンデンデデン♪』

アルス「ハイ! レイアムランドのそっくり巫女に モスラのテーマを歌わせる」
タツミ「ペケポン!」

480 :Stage.?[3] ◆IFDQ/RcGKI :2007/06/21(木) 14:11:09 ID:6jlyry6F0

アルス「―――― orz」
タツミ「―――― orz」


タツミ「もう早く本編スタートさせちゃおう。怒られそうだ」
アルス「できん」
タツミ「………………はい?」
アルス「俺の方、まだ本編の収録終わってない」
タツミ「はぃぃぃい!!!??? じゃあなにか? 今回オリラジネタだけか!?」
アルス「朝に477様のレス読んで、思いついたから昼休みに書いたらしい >作者」
タツミ「仕事先からなにやってんのこの人! 合作間近の大事な時期に余計なレス消費して!」
アルス「さっき353KBだったな。この書き込みでもう少し増えてるかも」
タツミ「ああああ!!!!!!」

アルス「次の本編投下は明日の予定です。お邪魔しやした〜」



マジゴメンナサイ。

481 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/06/21(木) 19:16:17 ID:z/x/QTm4O
タツミとアルス武勇伝ワロタwwこういうネタもいいな。乙です!

482 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/06/21(木) 20:48:44 ID:2tMO19vD0
最近まとめサイトを読んできたけど、こんなネタもやってたとはwww
◆IFDQ/RcGKI 氏、乙! 明日の本編も楽しみにしてます!

483 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/06/22(金) 10:21:08 ID:/2mUTMy6O
477だが、まさかオリラジ披露してくれるとは思わなかったww
電車の中で吹きそうになったよ。ありがとう。

484 : ◆u9VgpDS6fg :2007/06/22(金) 12:27:11 ID:ft3gEZr80
また遅くなりました
>>405きです

485 : ◆u9VgpDS6fg :2007/06/22(金) 12:28:32 ID:ft3gEZr80

『餓鬼共が!餓鬼共がァ!』
ボスの余裕が徐々に失われていくのが、手に取るように解った。
ゴーストのボスは決して強い敵ではなかった。
その表情に不安が過り、次第に攻撃も精彩を欠いていく。
ビアンカの放った炎がもう一度ボスの体にぶつかり、
とうとう尻をついたボスの眼前に俺は
止めを刺そうと自分の武器を振り上げた。

『ヒイィィ!わかった!もうやめてくれェ!』
武器を振り上げた姿勢のまま、俺は動きを止めた。
ビアンカが『なにしてるのよ!』と背後から叫ぶ。

顔の前に両手を掲げ、顔を伏せたままボスは
『もうこの城からは出て行く!だから助けてくれェ』と
まるで情けない声で懇願の悲鳴を上げている。
顔周りが焼け落ち、ところどころ切り裂かれたローブが痛々しげにボスの体を覆っていた。
俺は掲げていた武器を下ろす。
『サン、目的を忘れたの?そんなやつ、やっちゃいなさいよ』
ビアンカが明らかに怒った声で言った。ボスが再びヒィ、と泣いた。

『頼むから見逃してくれよ・・・。約束する、もう俺達ァこの城からは出て行くからよォ』
ぼろぼろのローブからはみ出た両腕を必死で振りながら、
ボスは俺とビアンカに交互に泣きついた。
ビアンカはそれを半ば呆れたような目で見下ろしている。

486 : ◆u9VgpDS6fg :2007/06/22(金) 12:30:06 ID:ft3gEZr80

『あんた、自分のしたことがわかってるの?今更そんな事言われたって許せないわよ!』
武器を振おうとするビアンカにボスは悪かったよ!と叫んだ。
『俺達ァ楽しく暮らしたかっただけなんだ。
魔界の仲間にも、幽霊の仲間にも疎ましがられちまってよォ』
当然だわ、と冷たく言うビアンカにボスは情けない声で『この城は誰も寄ってこないしよ、
王様気分でちょっと楽しみたかっただけなんだ』と言った。

『頼むよ、もう悪さはしねえ。ここから出て行けばそれでいいだろう?』
『どうする?サン』
顔を上げたビアンカに、俺は逃がしてやろう、と言った。
『本気なの?信じられないわ!サンってお人好しよね』
今度は俺に向かって呆れた表情を作り、
仕方なさげにビアンカは腰に手を当てると、ボスの方に向き直った。
『行きなさいよ』
渋々と言った声色に、ボスはへっへっへ、と笑い
『ありがとうよ。あんた立派な大人になるぜ』言いながら立ち上がると、
長いローブをばさりと翻した。

瞬きする間もなく、ボスの姿は消えていた。
始めからこうやって逃げればよかったのに。
と思ったけれど、ゲームの世界のルールなんだろうなとぼんやりと俺は納得した。

487 : ◆u9VgpDS6fg :2007/06/22(金) 12:31:11 ID:ft3gEZr80

いつの間にかあれだけ煩く鳴き続けていた雷は止んでいた。
城を包んでいた重く息苦しい空気が和らいで、月明りが切れ切れの雲間から世界を照らし始めていた。
ゆらりとあの暖かい空気が俺達の周りを包んでいた。
王の気配を感じ見上げると、薄い雲を払って顔を出した月と、
穏やかに微笑む王と王妃の姿が見えた。
二人はゆっくりと空を歩き、それぞれに俺とビアンカの手を取った。

浮遊。

世界の理に囚われないその二人の影響か
俺達の足は地面を離れ、ふわりと空中に浮いていた。
手を引かれ、王と王妃の眠るべきバルコニーへと誘われる。

墓石の前に足を着くと、王は俺の手を離し『よくやってくれた。礼を言う』と微笑んだ。
『本当に、感謝します。これで穏やかに眠れそうです』
王妃も王と良く似た笑顔を浮かべ、俺とビアンカの瞳を目を細めて見詰めている。
『城内の者達も、眠りについたようだ。さあ、おまえ。我々も行こうか』
『ええ、あなた』

淡く輝いていた二人の体が、一瞬、更に暖かな輝きを放った。
王が王妃の肩を抱き、王妃は寄り添うようにその腕に体を預ける。
『そなた達のことはきっと忘れまい。本当にありがとう』
嬉しそうに微笑む王妃の笑顔と、王の声が、白い光に包まれていく。
そして少しの余韻を残して、夜の闇に消えた。
最後に墓石が惜しむようにこつり、と音を立てた気がした。

488 : ◆u9VgpDS6fg :2007/06/22(金) 12:32:29 ID:ft3gEZr80

『これで二人は幸せに眠れるのね』
ぼんやりと、今見た光景を刻み付けるように目を閉じて、ビアンカが言った。
ことりと、もう一度墓石が鳴いた。
『・・・何かしら。なにかあるわ』
目を開けたビアンカが墓石を見下ろす。
子供の掌よりも大きな、月光に金色に輝く大きな宝玉が、
王の墓の前に供えるように置かれていた。
ビアンカがそれを手に取り『お礼かしら』と笑った。

手を繋いで夜の道を戻る。
城内にあれだけいた幽霊や魔物は、すっかりとその姿を消していた。
城門をくぐり草原へ出る。
ざわりと風に靡く草花は、入る前のそれと同じ筈なのに、何故か何処か違うもののように思えた。
魔物の気配ももうしない。モンスターも寝るのかしら、とビアンカが言う。
不意にビアンカが俺の手を離し立ち止まった。歩を止め振り向くと、草原の真ん中。
城門の見える位置でビアンカがしゃがみ込んでいる。
『あたし、今日沢山モンスターを殺したわ』
一歩、少女の下へ踏み出しかけた俺に、ビアンカは呟いた。
少女の見下ろす地面に、つい数時間前戦った、小さなモンスターの爪あとがくっきりと残されていた。
『猫ちゃん・・・』
その両の手を顔の前で組み、ビアンカは目を閉じた。
その整った顔立ちの向こうに、快感や優越はもう、見えなかった。

俺は今後にしたばかりの大きな城を見上げた。
暗闇の象徴のように感じたその城は今は、月明りの中、
世界を見守るように、静かに穏やかに佇んでいる。

489 : ◆u9VgpDS6fg :2007/06/22(金) 12:34:58 ID:ft3gEZr80
今回ここまでで。
ありがとうございます。

490 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/06/22(金) 14:54:38 ID:W9LkVEJ40
>>478-480
武勇伝ナツカシスww なんてサービス精神旺盛な主人公ズだ。
ところでリアルサイドのアルスってどんなカッコしてるんでしょう?

>>485-488
GJ! ついにボス倒したサン&ビアンカ、乙!
最後のビアンカが女の子らしくていい感じだなぁ。

491 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/06/22(金) 16:36:27 ID:6vFKv05d0
うわ、GJです。
王様と王妃様の情景が目に浮かぶようでじ〜〜んとしました。

これから先、生き残っていくにはモンスターたちをいっぱいやっつけないといけないからビアンカさんがちょっと心配です。
もっとも、嬉々としてモンスターを虐殺しまくるヒロインもいやですけどね(wwww

492 :Stage.5-3 hjmn ◆IFDQ/RcGKI :2007/06/22(金) 23:36:43 ID:SKqRKooU0

アルス「ちーっす」
タツミ「どうもー。って、やっぱりこの挨拶で定着か……」
アルス「だな。投下の前に、恒例のサンクスコール」

アルス「>>481様、ウケて良かった〜。シラけられたら目も当てられねえw」
タツミ「>>482様、本編はどっちかというとシリアスなんで、番外はハメはずし気味ですね」
アルス「あれでシリアスかぁ? >>483(477)様、楽しいネタ振りありがと!」
タツミ「>>490様、当社は読者様への徹底したサービスを心掛けております♪」

アルス「しかし、俺の今の格好か。えーと、ちょっと丈の短い黒いのと……」
タツミ「はいはい。こんな感じだね」

   【アルス(元勇者):装備】
    上着:リブスタンドブルゾン(ブラック)
     上:2ボタンのカットソー(レッド) 
     下:ストレートデニム(ダークグレイ)
     靴:スニーカー(ダークレッド)

タツミ「僕、本当は白系の服の方が多いんだけど、黒でまとめたね」
アルス「とりあえず濃い色のを適当に選んだ。それより(元勇者)ってイヤミかよ」
タツミ「事実でしょうが。――さて、そろそろ行数も押してきましたし」
アルス「なんか久々の出番だな」


アルス・タツミ『それでは、本編スタートです!』


【Stage.5 ミイラ男と星空と(中編)】
 続編 リアルサイド

493 :Stage.5-3 [13] ◆IFDQ/RcGKI :2007/06/22(金) 23:38:30 ID:SKqRKooU0
 Prev >>458-465 (Rial-Side Prev >>299-305)

 ----------------- Rial-Side -----------------

 久しぶり、と言われた相手をまったく覚えていないというのは、普通は失礼な話だ。
 ヤツの日常を「夢」という形で見ていた俺は、曖昧だったり、抜け落ちている情報も多
分にある。あまりしたてに出るのは得意じゃないが、最初のうちは「すまん、ど忘れした」
と頭を下げなきゃならん場面もたくさんあるだろう、と覚悟はしていた。

 が、こいつらにその必要はないと思われる。

「さっき見てたけど、お前ゲームもすげえのな。さすが天才?」
「俺らもれんしゅーしてえんだけど、先立つモノっつーのがちょっと無くてさ」
「なあタッちゃん、また貸してくんねーかな〜? 2、3万でいいからさー」
 お決まりの要求パターンだ。ったく、五体満足で衣食住にも恵まれてそうなのに、こい
つらはなんでこんな、場末でやさぐれてるゴロツキみたいなマネをするんだ?
「おい三津原、聞いてんのかよ」
「無きゃそこのコンビニで降ろしてくりゃいいし。な、俺らの仲だろ?」 
 ねとねとした口調がひどく勘に障る。しかも今の話だと、
「アイツ、以前からこんな連中にカモにされてた、ってことか……」
「へ?」

 最初に殴りかかってきた少年が一番近かったから、そいつにした。
 相手を見ることもなく逆手で襟元をひっつかみ、そのまま振りかぶって、
「な……」
 丁度そこにいたお仲間のひとりに適当にブン投げる。一回転して背中から激突し、巻き
込まれたガキ共々、そいつは数メートル先までフッ飛んでいった。
「そんな、片手で投げた……!?」
 残ったひとりが引きつった声を出す。
 右腕を回すとコキッと音がした。思ったより重さを感じたな。
「やっぱちょっと肩にくるな。向こうの半分ってとこか」

494 :Stage.5-3 [14] ◆IFDQ/RcGKI :2007/06/22(金) 23:40:57 ID:SKqRKooU0

 元の世界じゃボストロールにヘッドロックかまして遊んでたからな。
 さすがに「現実」だと制限がかかるようだが、今の自分のステータスが把握できてない
から、かえって加減の取り方がわからん。
 かなり力を抜いたつもりだが、やりすぎたかね。
「悪い。いちおう教会、じゃねえ病院? 連れてった方がいいかもよ。んじゃ」
 お前らみたいなのに構ってるヒマはねえんだよ。

 と――。
「ふ、ふざけんなぁ!!」
 甲高い叫びが上がった。投げ飛ばしたガキが立ち上がる。そいつの手元でチャキっと音
がして、なにかが小さく光った。
「おい……」
 どうやらナイフらしい。待て待て、向こうならともかく、こっちの世界でそんな簡単に
刃物を持ち出していいのか。
「お前、それはまずいんじゃないか? ケーサツとか大丈夫なのかよ」
「黙れ!」
 相手は完全に激昂していて、俺の言うことなんかまるで聞く気なしだ。周囲から悲鳴や
制止の声があがる。

「やべえって栄治、ほんとに捕まるって……うわ!」
 エージと呼ばれたそいつは、止めに入った仲間にまで斬りかかった。
「落ち着いてくれよ栄治!」
「うるせえ! タツミてめえ! 俺にそんな、く、口きいていいと……!」
「なんだよこいつは――」
 わざと力の差を見せつけてやったのに、まるで前後がわかってない。こっちの若者はキ
レんの早すぎだ。
 ラリホーでも使えれば一発で片がつくんだが、「しかしなにも起こらなかった!」って
地文にテロップが流れるだけだろうしな。
 しゃあねえ、殴って気絶させるか。「当てる」となると手加減が難しいんだが――。

495 :Stage.5-3 [15] ◆IFDQ/RcGKI :2007/06/22(金) 23:42:24 ID:SKqRKooU0

「三津原やめろ!」
 今度は俺の方が止められた。聞き覚えのある声に振り返ると、戸田和弘が必死の形相で
俺の腕を押さえている。
「ダメだろ、手ぇ出したら! 今度こそ取り消されるって言ってたじゃねえか」
「取り消される……? なんだよそりゃ」
「なんとかって奨学金、出なくなるんだろ? 学校これなくなるって」
 は? そんなの知らねーぞ!?
「とにかく逃げるぞ」
 軽くメダパニっている俺は、カズヒロに引っ張られるままその場を離れた。
「待ちやがれ、このクソヤロウ! 死ね!」
 エージ少年は、ザキが発動しそうなくらい憎しみのこもった叫びをあげながら追いかけ
て来る。もしやタツミの方があのガキになにかしたのか?
 あんなザコ相手に逃げなきゃならんってのもめっちゃストレスだし、ホントどうなって
んだよ、ったく――! 

   ◇

 俺たちはひとまず、どこかの路地裏に入って相手をやりすごした。
 これだけ建物が密集していると追っ手をまくのも容易だ……が、俺はすでにここがどこ
だかわからなくなっていた。こっちの街って、ホント似たような景色ばかりなのな。
「よりによって一條たちに出くわすとは。ゲーセンに誘ったの、悪かったよ」
「いいけどさ。しかし、アイツらはなんなんだ」
 神妙な顔で謝る友人に、俺はつい、自分が関係者であることを忘れてぼやいた。
「まさか心当たり無いとか言わないだろ? お前って肝心なことはなにも言ってくれねえ
し……。なあ三津原、本当は一條となにかあったんじゃないのか?」
 逆に問われる。そんなの俺が聞きてーよ。

 正直、1分1秒でも惜しいところだが、俺は思い切ってカズヒロに聞いてみた。
「あのさカズ、いきなり変なこと、聞くけどさ」
「お、おう。なんだ?」
「俺は……『三津原辰巳』ってヤツは――そんなに特徴的な人間か?」

496 :Stage.5-3 [16] ◆IFDQ/RcGKI :2007/06/22(金) 23:44:03 ID:SKqRKooU0

「そりゃそーじゃねえ? 本読むのメチャクチャ早えーとか、見た物ぜんぶ写真みたいに
覚えられるとか。言っちゃ悪いがちょっと普通とは違うと思う」
 やっぱりか!
 ユリコが言ってた「忘れるなんて珍しい」って言葉も、アイツらが天才呼ばわりしてた
ことも、これで納得がいった。俺とは少し方向性が違うようだが、ヤツも「思い出す」に
類する特技を持っているらしい。
「うちみたいな進学校で、満点以外取ったことねえヤツが他にいるかよ」
 しかも遠慮なくフルで能力発揮しまくりかよ。
 となると、さっきの「しょーがくきん」ってやつも、たぶんアレだろ。
「それで国とかそういう上の方から、特別な援助金が出てたりするのか」
「俺はよく知らねえよ。お前んち、一度も学費払ったことないって聞いてるけど」
 マジかーッ。これじゃうちと一緒じゃねえかよ!


 嫌なことを思い出す――。
 勇者オルテガの名前のせいで、うちはやたらと国王から厚遇されていた。親父が死んで
からさらに、高額の生活補助金まで支払われるようになった。
 でも魔王討伐に「失敗」した勇者の家だぜ? そんなのやっかまれるに決まってる。
「……この家はどうも、風の突き当たりになっているみたいねぇ」
 直しても直しても割られる窓ガラスを、おふくろは困ったように見つめていた。じじい
は出歩かなくなったし、俺の友達は全員「敵」か「他人」でしかなくなった。
 俺が周囲を、実力で黙らせるしかなかったんだ。

 逆に俺が「夢」で知っている「三津原辰巳」は、学業も運動も人並みで、一般的な家の
生まれという設定だった。おとなしくて目立たない少年だが、人当たりはいいのでいじめ
に遭っていることもない。
 特に問題は無いが、強いて言えば父親が単身赴任とかって遠方勤務で留守がちの上、母
親が子供に無関心で少し寂しい家庭だ、とかそんな程度。
 ごく平凡なそこらの学生、のはずだった。

 なのに「夢」と「現実」がズレてる。俺がなにか大きな勘違いをしているのか――?

497 :Stage.5-3 [17] ◆IFDQ/RcGKI :2007/06/22(金) 23:46:26 ID:SKqRKooU0

「あ、俺バカだ!」
 カズヒロがいきなり叫んだ。内側に向いていた意識が引き戻される。
「完全に振り切ったら、アイツらお前の家の前で待ち伏せするに決まってるよな?」
 うへー? あのキチ(ピー!)君、タツミんちも知ってるのか。
 カズヒロは眉根を寄せて考え込むと、すぐに「よし」とうなずいた。
「俺が引きつけとくから、お前先に帰っとけ」
「え、ちょっと――」
「いいか、お前は顔を出すなよ。大事になるから警察とかにも捕まらないように!」
 止める間もなく行ってしまう。追いかけていいのかどうか迷ってるうちに、カズヒロは
雑踏の中に紛れてしまい、俺はぽつんと一人、薄暗い路地裏に取り残された。

「おーい……こっからどうやって帰れと」
 拝啓、母上様。
 アルスはただいま、異世界で迷子になりました。

   ◇

 とにかく帰ろう。住所はわかってるから、誰かに聞くのが早いよな。
 路地から表を観察し、エージ少年らがいないことを確かめてから出ていった。
 最初に近くを通りかかったオッサンを捕まえる。
「あの、すみません」
「ん?」
 頭のてっぺんが横にシマシマになっているオッサンは、あからさまに迷惑そうな顔を向
けて来た。
「道に迷ったんですけど、教えてもらえないかと――」
「忙しいんで他の人に聞いてくれる?」
 足を止めることさえなく、スタスタと行ってしまう。
 ずいぶん淡泊な反応だ。そんなに忙しそうに見えなかったが。

498 :Stage.5-3 [18] ◆IFDQ/RcGKI :2007/06/22(金) 23:47:40 ID:SKqRKooU0

 まあ人口の密集度はすさまじい世界だ。すぐに別な人間に声をかける。
 今度はまじめそうな雰囲気の、年配の女性だ。
「すみません、道を――」
 が、その女なんか目も合わせようとしない。いきなり歩調が早くなって逃げるように離
れていく。
 なにそれ。俺そんな不審人物? 慣れない反応に戸惑うが、とにかく時間がない。合間に
携帯のリダイアルを続けているが一向につながる気配がないし。
「ちょっと! 道をですねっ」
 次にもう少し若い女を捕まえた。今度は俺のウケの良さそうな20代くらいのお姉さんで、
案の定、彼女は変な顔もせず微笑んでくれた。
「どうしたの?」
「はい、あの、道を尋ねたくて」
 住所を告げる。彼女は首をかしげて「ごめん、わからない」と言った。
「交番に聞いた方が早いんじゃないかな。すぐ近くだし、案内するよ」
 コーバンって、ケーサツの詰め所のことだっけ?
「いやあの、ケーサツはまずいっていうか……」
 途端に相手の顔が険しくなる。
「ああ、やっぱり。もしかしてと思ったけど、あんた家出してるのね」
「はぁ?」
「近頃のガキはホントどうしようもないわ。さっさと帰りなさい、かまってられない」
 厳しい口調で言い捨てて、やたらかかとの細い靴をカッカッと鳴らしながら去っていく。
 だから、その家に帰れなくて困ってるんだってば!

「なんだかなー……」
 そりゃ向こうでも、話しかけても冷たい反応を返されることはあった。だがたいがいの
街人は、きちんとこちらを向いて丁寧に情報提供してくれたものだ。
 それに比べてこっちの人間は、冷淡すぎやしないか。
 他人のことなんか、本当にどうでもいいみたいな……。

499 :Stage.5-3 [19] ◆IFDQ/RcGKI :2007/06/22(金) 23:49:12 ID:SKqRKooU0

 ふるっと震えがきた。この時間にもなると一気に冷え込むようで、肩にひっかけていた
だけの上着の前を合わせる。
 日の暮れた街は、たいまつやランプとはまるで違う白く冴えた光で溢れかえっていて、
なにもかもが作り物めいて見えた。
 作り物は、向こうの世界のはずなのに。
「なんでつながんないんだよ、タツミの野郎……」

 
「あはははは!」
 いきなり後ろから笑い声が聞こえた。
 驚いて振り向くと、一人の細身の少年が立っていた。
 俺と同い年か、少し上くらいだろうか。ダフッとした黄色のシャツを着て、首回りや両
腕に幾重にも派手なアクセサリを巻きつけている。
「いや失礼。ここは場所が悪いんですよ。さっきみたいに家出少年か、キャッチだと思わ
れちゃうんですよね。もう1本先の表通りに出れば、また反応も違いますよ」
 少し長めの茶色の髪をかき上げる。チャラチャラした格好だが、エージたちよりはずっ
とまともそうだ。
「さっきの立ち回りを見て、もしやと思って追いかけてきたんですが……。良ければ僕が
家までお送りしますよ?」
「それは助かるが……あんた誰だ」
 タツミの記憶にはないし、相手も知り合いというわけではなさそうだ。
「そうですね――今は詳しいことは秘密にしておきますよ」
 唇に人差し指を立てて、彼は人好きのしそうな笑みを浮かべた。
「あなたも移行が完了しないうちは、簡単に素性を明かさない方が賢明でしょう」
 移行……? って、まさか!
「お前も『向こう』の人間なのか!?」

「ええ。僕もまだ1ヶ月くらいですけどね」
 彼の左耳で、小さなピアスがきらりと光った。
「ここではショウと呼ばれてます。どうぞよろしく」

500 :Stage.5-3 atgk ◆IFDQ/RcGKI :2007/06/23(土) 00:05:05 ID:j2KoNgk00
本日はここまでです。

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