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もし目が覚めたらそこがDQ世界の宿屋だったら九泊目

299 :Stage.4 [前編] 7/13 ◆IFDQ/RcGKI :2007/05/12(土) 13:58:14 ID:1V5Xv7vG0

 ----------------- Real-Side -----------------

「へ…っくしゅ!」
 うぃー。冷えてきたかな。もう陽も沈みかけているし。
 俺はちょっと迷ったが、ユリコを呼んでパソコンの後始末の仕方を教わった。このイン
ターネットってやつでだいたいのことは調べたし、図書室は次の機会にしよう。

「そんじゃ付き合ってくれてありがとね」
 ユリコが校門の前で手を振り、そのまま別の方角へ歩いていった。バスの中で、今日は
「ジュク」があるとかで、帰りは学校前で別れることを話していたのだ。
「ところでさーっ」
 少し離れてから、ユリコが振り返って叫んだ。同時にバスがやってくる。
「なんでまた名前で呼ぶことにしたの?」
「は?」
 バスのドアが開く。
「カノジョでもないのに名前で呼ぶのは変だからって、あんたが言い出したのに」
「え?」
「乗らないんですか?」バスの運転手が言うから「いや、乗ります!」思わず乗り込む。
「嬉しいけど……私はやっぱり『片岡』に戻してくれた方が――」
 ドアが締まって彼女の声が途切れ。
 走り出したバスが、片岡百合子を追い越していく。彼女はうつむいて歩いていて、顔は
見えなかった。
 
 ……カノジョじゃないって?

「おっかしーなー…」
 別に「甘酸っぱい青春な毎日!」を期待してこっち来たんじゃねえから(いや多少の憧
れはあるが)、ヤツの女関係なんざどうでもいい。
 しかし「間違う」ってのはどういうことだ? 「知らない」ことはあったとしても、こ
の俺が自発的に覚えようとしたことを記憶違いをすることは絶対ない。

300 :Stage.4 [前編] 8/13 ◆IFDQ/RcGKI :2007/05/12(土) 14:02:40 ID:1V5Xv7vG0

 いっぺんイチから情報を洗い直さなきゃダメか? タツミ本人に聞くのが手っ取り早い
が、ここぞとばかり、あることないこと吹き込まれそうだし。
「三津原ぁ?」
 いっそ頭でも打って、記憶喪失になったフリでもするか。でも下手に大怪我したら治せ
ないで死ぬしな。
「おい、三津原ってば」
 アホみたいな難病も治せるくせに、死んだらそれまでってのは中途半端な話だ。いや、
ベホマだのザオリクだの、究極の回復呪文が存在する向こうが極端なのか――。
「ミツハラタツミー」
「うお!?」
 いきなりポンと肩を叩かれて俺は飛び上がった。振り返ると、黒髪を短く刈り込んだ、
俺より10センチくらい背の高い少年が、俺の大げさな反応に苦笑している。
 肩にでかいバッグをひっかけて、青赤の派手な色合いの服を着ている。黒のごついヒモ
靴は泥だらけ。なんかのスポーツ系の、動きやすそうな格好だ。
 戸田和弘。こいつもヤツの同級生で友人……のはずだが、合ってるかはもはや疑問だ。

「三津原の私服見たの久々だな。お前でも休みに出歩くことあるんだ」
 また言われたよ。うちのプレイヤーはヒキコモリかと、俺はちょっとガックリきた。
「ユ……片岡に付き合わされてさ。携帯、教室に忘れたとかで」
「片岡が。あいつも健気だね。マジお前さ、なんで断ったのよ。付き合ってやれば?」
 なんとヤツの方がフッたのか!? 生意気な! って俺も人のこと言えねえか。
 俺の複雑な心情をよそに、カズヒロが屈託の無い笑顔を見せる。
「まあ三津原にとっちゃ、俺も片岡も子供っぽく見えんのかもしんねえけど。若いもんが
変に達観しててもつまんねえぞ? うん?」
 こいつは「夢」の通りにイイ友達らしい。俺は内心ホッとした。
「ほっとけよ。んでそっちは? あーと…『部活』?」
「ん、試合の帰りだけど。昨日言わなかったっけ?」
 こういう食い違いはこれからいくらでも出てくる。サラッと流すに限る。
「だっけか。すまん、最近どうも記憶力に自信なくてさぁ」
「え、マジで? ヤバイだろ、それ」
 途端に真面目な顔になるカズヒロ。俺そこまで変なこと言ったか?

301 :Stage.4 [前編] 9/13 ◆IFDQ/RcGKI :2007/05/12(土) 14:07:29 ID:1V5Xv7vG0

「まあ三津原なら問題ねえだろうけど……なんか困ってたら言えよ?」
 なんだかわからんが、騙してる手前、心配かけるのは悪い気がする。「大丈夫」と首を
振ったら、相手は一瞬だけ斜め下に視線を流した。
「じゃあ俺にも付き合えよ」
 言いながら「次、停まります」のボタンを押す。
「試合負けちまってさ。気晴らしにゲーセンでも行こうぜ」
 ゲーセン? 気晴らしというならカジノみたいな娯楽施設の一種か。
 それもよくわからんが、さっきからどうもモヤモヤした状態だからな。スッキリできる
場所なら大歓迎だ。俺は一も二もなく賛成して、カズヒロに続いてバスを降りた。


「なるほど、『Game Center』の略でゲーセンか……」
 カズヒロが案内した施設は、向こうのカジノとはまるっきり違っていた。
 雇われ楽士が奏でる景気の良い音楽の代わりに、所狭しと置かれた機械の一個一個が、
好き勝手に甲高い音を垂れ流している。大勢の人間がいるのに、ほとんど「人の声」がし
ない。多少騒いだところで機械の音が掻き消してしまっている。
 うるさいのに静かな、なんか不思議な場所だ。
「なにやる?」
 カズヒロに聞かれて俺は困った。そうだな。
「モンスターとか派手にやっつけるようなの、ないか?」
「へえ、意外。じゃあこれなんかいいよ」
 引っ張っていかれたのは、おどろおどろしい装飾がされたデッカイ画面の前だった。
 前に小さな操作台があって、その横にヒモに繋がれた、赤い「へ」の字型のものが2つ
ひっかけてある。
 カズヒロは慣れた手つきで操作台の穴にコインを投入した。画面に「プレイ人数」だの
「難易度」だのといった文字が浮かび、操作台のボタンで設定していく。
「まずは初心者向けにしとくな。一緒にやろうぜ。ほれ」
 への字型の1つを渡される。あ、前にヤツが観てたテレビに出てたのと形が似てる。
「これ、銃だよな。どーやんの?」
「普通に握りゃいいよ。んで、敵が出たら狙って撃つ!」

302 :Stage.4 [前編] 10/13 ◆IFDQ/RcGKI :2007/05/12(土) 14:11:53 ID:1V5Xv7vG0

「おお!? おおお!!」
 いきなり画面に腐った死体みたいなのが出てきたと思ったら、そいつがバンと弾けて飛
び散った。カズヒロがかっこつけて、銃の先端にフッと息を吹きかけてみせる。
「すげえっ。えーと、狙ってここを引くと……」
 腐った死体をやっつけた!
「おもしれー! うわ、なんかたくさん出てきたぞ。あれみんな敵か?」
「そうだ。左下に弾数が出てるだろ? 無くなったら銃を下に向けると補充されるぞ」
「え? あー撃てなくなった! んで下に向けると、うん増えた」
 ルールは単純だが、あれだけ苦労したゾンビ系モンスターが、こんなもんをカチッとや
るだけで吹っ飛んでいくのは爽快だ。
「っく〜、気ぃ持ちいい〜! なあなあ、これもっといっぱい出てこないか?」
「うまいじゃねえかオイw じゃあ難易度、思いっきり上げてやるよ」
 画面が薄暗くなって止まり、さっきEASYに設定した項目がVERY HARDに変わる。
「足引っ張んなよ、三津原?」
 カズヒロがちょっと意地悪く笑った。
 ふん、挑戦されたら受けて立つのが勇者だぜ。やったろうじゃん!


 ――なんて意気込んで臨んだのだが。
「おいカズぅ、お前また撃ち漏らしたぞ?」
「いや三津原がおかしいから! お前こそ本当に初めてかぁ!?」
 だって簡単なんだもん。前方向しか来ないのに全部の敵に出現予告あるし、弱点とか
見え見えだし。ちょっとのミスで死ぬような向こうのバトルと比べたら、なあ?
「んじゃそっちのも貸して」
 俺はカズヒロからもう1個の銃を取り上げた。画面をほとんど埋め尽くしている敵が、
俺の銃撃で次々と倒されていく。弾数の補充はいちいち腕を下げるより、輪っかの部分
に指を引っかけて銃をクルッと一回転させる方が楽だな。
 あーあ、向こうでもこんな風にやっつけられたら、俺も楽だったのに。
「マジかよ……全国レベルじゃん、このスコア」
 カズヒロが傍らでぼやいている。

303 :Stage.4 [前編] 11/13 ◆IFDQ/RcGKI :2007/05/12(土) 14:17:40 ID:1V5Xv7vG0

 なんとなーく白けた空気が流れた。その時だ。

 プルルルルルル! プルルルルルル!

 携帯? なんだよこんなときに。
 察したカズヒロが俺から銃を取り上げて、目だけで「出てこいよ」と促す。俺は店の入
り口まで移動した。携帯を開けた。みると表示は「TATSUMI」。
 へぇ、向こうからかかってくるとは珍しいこともあるもんだ。

「うーっす。話の途中でブチ切りするような相手に、なにかご用ですかぁ?」
『あの時はごめん。君も、時差のこと知らなかっただけだよね』
 およ? なんか素直じゃないか。まあ俺も時差のことは知っててかけたけどな。
『それで…さ、今回だけ、ナビ頼めないかな』
 聞き取りづらい小さな声で、ヤツは言った。
『その――ゾンビ系のモンスターの楽な倒し方って、ある?』

「ップハ!」
 やべえ、なにこのタイミングw 思わず吹き出した俺に、タツミが『なんだよ』とムッ
としたような声を出す。
「悪い、こっちのことだ。リビングデッド系の楽な倒し方だよな? 簡単だぜ」
『ホント? どんな!?』
「まずな、弾切れする前にリロードすること」(だはははは!)
『え、リロード?』
「あとはよーく弱点を狙って撃つことかな。参考になりましたでしょうか?w」
『…………』
 タツミは電話の向こうで黙ってしまった。ありゃ、反応無し?
 ああ、元ネタがわかんねえのか。ヒキコモリ(らしい)コイツが、外にある店のゲーム
を知らないのも仕方ない。
 いやもちろん俺もそこまで性格悪くねえし、ちゃんとナビってやるけどさ。
「なんてな、教えてやるからありがたく思え。有効なのは火炎系魔法だが、もうひとつ、
武器にあらかじめ聖水をかけておくと……」

304 :Stage.4 [前編] 12/13 ◆IFDQ/RcGKI :2007/05/12(土) 14:24:15 ID:1V5Xv7vG0

『もういい!!』

 いきなり怒鳴られて、俺はその場で固まってしまった。
「タ、タツミ?」
『自分でやるよ! 二度と頼らないから、そっちも勝手にすればいい!』
 同時にブツッと切られて「ツー、ツー」と数回鳴った後に、静かになる。
「もしかして……マジでヤバいのかな」
 なんかちょっと、泣きそうだった、ような。

 って、しかもお前、ゾンビ系の攻略法を聞いてきたってことは、
「嘘だろ、今ピラミッドかよ!!??」
 俺はてっきり、今頃はアリアハンを脱出したあたりかと踏んでいた。時差があるとしても
早すぎる。いったいヤツはどういうルートをとってんだ。
「すまん、急用ができたから帰るわ!」
 俺はカズヒロに向かって叫び、すぐ店外に走り出した。気のいい友人が追いかけてきてる
かどうかも、気にする余裕はなかった。
 ヘタをしたら俺もヤツもここで「死ぬ」。


 冒険を肩代わりさせるにあたり「ここはナビが必要だ」というポイントがいくつかある。
 ピラミッドもそのひとつだ。
 たぶん現実側からプレイしてる限りわからないだろうが、実はあそこ、とんでもない数の
トラップが仕掛けられている。回避策さえ知っていればなんともないんだが、普通は絶対に
わからないだろう。かなり複雑な謎解きだから誘導してやるにしても、俺もいったん家に戻っ
て、あっちの現状をモニタリングしながらでないと難しい。
 しかもあそこの地下は……頼むから落ちてくれるなよ、普通の神経じゃまず保たねえ。

305 :Stage.4 [前編] 13/13 ◆IFDQ/RcGKI :2007/05/12(土) 14:29:25 ID:1V5Xv7vG0

「ったく、でつながんねえんだよっ」
 何度もリダイアルしたが「電波の届かないところにおられるか……」の繰り返しだ。
 ゲーム内の時間の進み方は現実と比べると恐ろしく早いが、通話している間だけは同期す
るらしい(でなきゃ普通に会話できん)。つながってさえくれりゃ、こっちも同じ時間の流
れで動けるが、このままだと俺が家に帰る前にすべて終わってしまうかもしれない。
 さっきのバス亭に戻り、時刻表を確認する。
「10分後か」
 家はここからそんな遠くない。次の便を待つより走った方が早いか? 判断に迷う。

「待てよ三津原」
 その瞬間、グイっと乱暴に肩をつかまれた。
「だから急用だって……っと!」
 カズヒロじゃない、と思うと同時に、咄嗟に避けた耳元を相手の拳がかすめていった。背
後からいきなり殴りかかられたのだ。
「へえ、タッちゃんやるぅ」
 そいつの後ろで手を叩いているのが2人。どいつも見たことのない顔だ。
 俺と同い年くらいの3人組で、揃いの紺色の服を着ている。向こうじゃ王族が着るような
良質の生地だろうに、着こなしがだらしないせいで、ひどく俗っぽい印象を受ける。
「ビックリさしてごめんな? なんせ久々だったからさ〜」
 ニヤついた顔に見て取れるのは明らかな敵意。
「…………」
「ま、待てっつってんだろ!?」
 無言できびすを返した俺の前に、他の2人が回り込む。なに慌ててんだよ。

 ああああああめんどくせええ!!
 なんなのよコイツら! いや不良さんにカラまれちゃったみたいテヘ♪ってのはすぐ理解
したんだけどね、なんで今ここで湧くんだよ!
 時間ねえっつーのに、どうすっかな。黙らせるのは簡単だが、初日から騒ぎを起こすのも
どうよ。俺、静かで平穏な生活を望んでこっちに来たんですけど。
 それにしてもうちのプレイヤー、おとなしそうに見えて、実はロクに出歩けないほど敵が
多いのか? どうなってんだいったい。

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