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もし目が覚めたらそこがDQ世界の宿屋だったら12泊目

1 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/12/28(金) 06:52:11 ID:kjslZuu70
このスレは「もし目が覚めた時にそこがDQ世界の宿屋だったら」ということを想像して書き込むスレです。
「DQシリーズいずれかの短編/長編」「いずれのDQシリーズでもない短編/長編オリジナル」何でもどうぞ。

・基本ですが「荒らしはスルー」です。
・スレの性質上、スレ進行が滞る事もありますがまったりと待ちましょう。
・荒れそうな話題や続けたい雑談はスレ容量節約のため「避難所」を利用して下さい。
・レス数が1000になる前に500KB制限で落ちやすいので、スレが470KBを超えたら次スレを立てて下さい。
・混乱を防ぐため、書き手の方は名前欄にタイトル(もしくはコテハン)とトリップをつけて下さい。
・物語の続きをアップする場合はアンカー(「>>(半角)+ 最後に投稿したレス番号(半角数字)」)をつけると読み易くなります。

もし目が覚めたらそこがDQ世界の宿屋だったら11泊目
ttp://game13.2ch.net/test/read.cgi/ff/1192116918/l50

PC版まとめ「もし目が覚めたら、そこがDQ世界の宿屋だったら」保管庫@2ch
ttp://ifstory.ifdef.jp/index.html

携帯版まとめ「DQ宿スレ@Mobile」
ttp://dq.first-create.com/dqinn/

避難所「もし目が覚めたら、そこがDQ世界の宿屋だったら」(作品批評、雑談、連絡事項など)
ttp://jbbs.livedoor.jp/game/40919/ (前スレ中にこちらに移転しています。ご注意ください)

ファイルアップローダー
ttp://www.uploader.jp/home/ifdqstory/

お絵かき掲示板
ttp://atpaint.jp/ifdqstory/

101 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2008/02/04(月) 13:56:45 ID:GiBd/4f/0
ほす

102 : ◆Tz30R5o5VI :2008/02/04(月) 16:27:18 ID:g6AZuAXOO
偶然かもしれないがサイモンってうちのパーティーにもいるんだが

103 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2008/02/04(月) 20:57:26 ID:Qeis4IFo0
なんだこいつ…

104 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2008/02/06(水) 22:34:40 ID:GrfkZLFCO
保守

105 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2008/02/07(木) 19:24:24 ID:u0T30dmO0
昔あった、「俺が3勇者だったら」というスレに投げ込もうとしていたが
先の展開でちょっと詰まって放っていた書きかけの文章を落としてみる。
「目が覚めたら勇者だった」ではなく、あくまで「俺が勇者だったら」なので
このスレの趣旨とはちょっと違っているが、そこのところはご容赦を。


もう16になる日だというのに、お母さんに起こされて目覚める俺。
そう、今日は旅に出るんだよな。
昨日は遠足気分で準備していて、なかなか寝付けなかった。
いつもよりちょっと豪華な朝食を食べて、おじいちゃんには自信満々な言葉をかけて外に出る。

さて、まずはお城へ行かなきゃならないわけか・・・
・・・途中までお母さんがついてくる。
もういいって、今から外へ旅立とうって言うのについてくるなって。
と思いつつも何もいえない俺。

さすが城へ続く道はきれいだな、と感心しながら歩いてたら、門兵にじろじろ見られた。
きょろきょろしてて挙動不審だったらしい。
身分を明かしてなんとか中に入れてもらうも、やっぱりきょろきょろ。
今度は物珍しさより、階段を上れば国のトップがいるんだ、と思うと緊張して
なかなか前に進めなかった。

意を決して階段を上ると、玉座まで一直線の道になっていた。
ここまで来たら後はきびきび動くしかない、全身の筋肉がこわばる。

・・・あとはあまり覚えてない、緊張の極致だったらしい。
大臣がちょっと胡散臭そうな目をしていたのは覚えてる。
それと「まずは酒場へ行け」なんて言われていた記憶もある。
うん、まずは言われたとおり見に行ってみよう。

106 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2008/02/07(木) 19:25:17 ID:u0T30dmO0

こわごわと酒場の扉を開ける。
当たり前だけど酒臭い、少しうらぶれた雰囲気がする。
奥にいるおかみさんがルイーダさんだったと思うけど、なんだか話しかける勇気が湧かない。
テーブルでお客さんが話しているのを横目に見ながら、所在なげに2階へのぼってみる。

ここはどうやら登録所らしく、一階よりは多少清潔になっていた。
張り紙をなんとなく読んでから、カウンターのおじさんに話を聞いてみる。
ふーん、仲間を探すにはここが一番ってことか・・・
基本的なことも分かっていない俺。
多分このおじさんは心の中で笑ってるんだろうな。

結局俺はなにもせず酒場を出た。
仲間と旅するなら、俺がこんなひよっこじゃいけない。
もっと修行を積んで、旅の知識や仲間を守れる強さを身につけてから戻ってこよう。
手元には仲間用の装備と少しの資金があるけど、装備は袋に入れて薬草だけ買い、外へ出る。

はじめて出る外。
魔物が危険だ、お前はもっと大きくなってから、と言われて今まで一度も出る事はなかった。
でも剣の修行は一応マジメにやってたし、なんとかなるだろう。
目の前に広がる大平原が心地いい。

107 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2008/02/07(木) 19:25:54 ID:u0T30dmO0
歩くのにも慣れてきた頃、不意に草陰に青いものが見えるのに気づいた。
魔物・・・?こんなに小さいのが?
どんなのか確かめてみよう、と少し近づいてみる。

不意に、その青い塊が俺の頭めがけてすっ飛んできた。
思いっきりボールを顔面に投げつけられたような衝撃を受けて地に突っ伏す俺。
やはり魔物だ、立って剣を抜かなければ・・・と思うが息ができない、前も見えない!
顔に張り付かれたようだ、しかも足まで噛みつかれていて立つ事もできない。
くそ、このまま切り裂いてやる、と剣を抜いたら何か後頭部に激痛が走った。
構わず頭に張り付いた奴をぶったたくが、こんな姿勢じゃ力が入らない。
それでも気合を込めてもう一度斬りつける、剣が頭にはめた環に当たって甲高い音を立てる。
だが避けられたわけではない、顔面を覆っていた青い塊からは力が抜けていった。
左手でぬぐってようやく立ち直す、後頭部が風に触れるだけでも痛む。
息が出来るようになり、視界も戻ってよく見ると、俺は四匹のスライムに襲われたようだ。
こんな雑魚に俺は苦戦しているのか――
なんだかヤケになった俺は、剣術の基本も忘れて力任せにめちゃくちゃに斬りつけた。
ちゃんと戦えば一撃で倒せる相手だった。

108 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2008/02/07(木) 19:28:57 ID:u0T30dmO0
完全に殺して剣を収めると、改めて怪我を確認する。後で化膿すると大変だ。
手足の傷は大したこと無いが、後頭部の傷はひどく熱い。
倒れた時に剣の位置がずれて、抜く時にもろに切ってしまったらしい。
それに一匹目を斬った時もほっぺまで切れていたらしく、じんじんする。
・・・触りたくない。

我慢して手当てをした後、その日はもう宿屋に泊まる事にした。
家に戻ってもいいけど「スライム4匹に苦戦して負傷した」とはとても言えなかった。
体の痛みもひどいが、それ以上に今日はなんだかとっても疲れた。
夜、まだ痛む傷を庇って寝返りも満足に打てなかったが、深い眠りについた。


あれから一週間、俺はまだ宿に泊まっていた。
外には一度も出ていない。
怖いのか・・・そんなわけはない、ただまだちょっと傷が痛むだけだ。
けど玉に街中を通るお母さんを見るたび思う、このままじゃまずいよなって・・・
でも傷が痛むのも事実だ、しようがない。

――やっぱり、怖いのかもしれない。
そうして旅立ちの日から、一週間と一日が過ぎた。


宿代が工面できなくなったので仲間用装備を売りに出ると、お母さんと出くわしてしまった。

◆ THE END ◆


推敲も途中だったので、一部文章が変かと思いますが、所詮読みきりとスルーしていただければ。
続きを書く予定はありません。
キリもいいし、今更どう続けようとしていたか思い出せもしない。

109 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2008/02/07(木) 20:43:03 ID:MqLRkqYO0
そうだよな。
一晩とまったくらいじゃ、回復しないよな。
ママンもびっくり。
久しぶりに見る息子は顔面に大きな傷、後頭部がざっくり・・・。

110 :冒険の書5 ◆8fpmfOs/7w :2008/02/09(土) 21:05:14 ID:FRGFVRny0
―ひとさし指―(>>86-93

「モンスター使いとはモンスターの邪悪な心を打ち払うことができる存在なのじゃ。」
僕はモンスター爺さんからモンスター使いの講義を受けていた。
「これはある一族だけが持つ力だと言われておる。」
「ふーん。お師匠様ってその一族の人なんだね。」
「おそらくはな。モンスターを仲間にできる者は目が違うのじゃよ。」
そうなんだ。今度お師匠様の目をじっくり見てみよう。

「あ、それじゃ僕がいくら頑張ってもモンスター使いにはなれないってこと?」
「現状ではそうじゃな。じゃが案ずることはないぞ。」
「何かいい方法があるの?」
「モンスター使いが仲間にしたモンスターの世話をすることをやればよいのじゃ。」
それってモンスター爺さんのことだよね。僕が今やってることでもあるけど。

ん?

「あー! 今気づいたけど僕のやってることってモンスター爺さん見習いじゃないか!」

そうだよ。何で気づかなかったんだろう。
「これモンスター使い見習いじゃないよ! 僕が爺さん見習いっておかしいよ!」
「落ち着け。モンスター使いもモンスター爺さんも似たようなもんじゃ。」
全然違うよぉ……
「それにな。その一族の者でなくてもモンスターを仲間にする方法はある。」
「え、それを早く言ってよ! どうすればいいの?」
「魔王がいなくなればよいのじゃよ。魔物が邪悪な心を持ったのは魔王の影響じゃ。」

111 :冒険の書5 ◆8fpmfOs/7w :2008/02/09(土) 21:06:42 ID:FRGFVRny0
「魔王っていうのがいなくなればモンスターが大人しくなって仲間にできるの?」
「ま、そういうことじゃな。」
「魔王って地獄の帝王のことなの?」
「いや、魔王は地獄の帝王復活を利用して魔物たちを統率しておるだけなのじゃ。」
うーん。ややこしいね。

「かつて地獄の帝王が復活し勇者が誕生したときも魔王が現れたというぞ。」
「どんな奴だったのかな。」
「何でも1度は勇者を倒したといわれている。」
「ええー! 勇者様やられちゃったの?」
「それは勇者の影武者だったらしい。あるいはキツネに化かされただけなんて話もある。」
え、キツネに化かされたの? 
「もしかして魔王って結構お茶目な人なのかな。」
「いや怖い存在じゃ。恐ろしいモンスターたちの親玉なんじゃからな。」
「モンスターっ恐ろしくないよ。いい子ばっかりだもん。」
「ここにいる者はそうじゃ。じゃが野生のモンスターは恐ろしい存在なのじゃ。」
ホイミンやガンドフを見ているととてもそうは思えないんだよね。

「何度も口を酸っぱくして言っておるが野生の魔物がいる町の外に出てはいかんぞ。」
「大丈夫だよ。僕インドア派だからね。それにしてもさ……」
「なんじゃ?」
「口を酸っぱくしてって妊娠したみたいだよね。」
「妊婦は酸っぱいものが欲しくなるだけで口が酸っぱくなるわけじゃないわい。」
あ、そういえばそうだね。
「まったく。どうやったら爺さんが出産するというのじゃ。」
「うーん。口から卵を産んで。」
それって口が酸っぱくなりそうだよね。
「わしゃ化け物か。わしゃモンスター爺さんであってモンスターではないぞ。」
「はーい分かってます。本気で言ってるわけじゃないよ。」
「本気で言っていたらわしゃ泣くぞ。」
とにかく僕はモンスターの世話を頑張ることにするよ。モンスター使い見習いとして。

112 :冒険の書5 ◆8fpmfOs/7w :2008/02/09(土) 21:07:59 ID:FRGFVRny0
「よし、こんなもんかな。」
僕はイナッツさんとモンスターたちの部屋を掃除していた。
「ご苦労様。きれいになったわね。」
「うん。でもちょっとにおいが気になるよね。」
ここって地下室だからモンスターのにおいが篭るんだよね。
「ねえ、いいものがあるわ。あれよ。」
そう言うとイナッツさんは小さな陶器の瓶を指さした。
「ここに花やハーブのエキスを入れて香り楽しむのよ。」
「アロマセロピーみたいだね!」
「このエキスを布に染み込ませて体を拭けば香水代わりにもなるわよ。」
そうなんだ。
「でも食べたら毒だから口に入れちゃ駄目よ。」
「はーい。口を酸っぱくして言わなくても大丈夫だよ。」

小さな瓶はほのかにいい香りをしてたてている。
「あ、これを使えばガンドフの獣臭さも取れるかな。」
僕は瓶のふたを開けた。これを布に染み込ませて体を拭けばいいね。
「えーと、ただの布きれがどこかにあったよね。」
どこだっけ?

「あったあった。」
いやー探しちゃったよ。布は部屋の外に干してあった。
「あれ、ホイミン?」
僕がモンスター部屋に戻るとホイミンが倒れていた。
「ホイミン! ホイミンってば!」

「ホイミンは大丈夫?」
「峠は越えた。もう心配はないぞ。今眠ったところじゃ。」
ホイミンは間違ってアロマのエキスを飲んじゃったらしい。
でも無事で良かった。本当に良かった。
ごめんねホイミン。僕の不注意で大変な目にあわせちゃって。
僕はその夜ずっとホイミンの看病をした。

113 :冒険の書5 ◆8fpmfOs/7w :2008/02/09(土) 21:09:34 ID:FRGFVRny0
次の日。お師匠様が来た。タイミング悪いよ……
お師匠様は今まで砂漠の中にあるお城にいたんだって。

どうしよう。僕怒られちゃうかな。
でも、仕方ないよね。僕が悪いんだもん……
ううう……お師匠様怖い顔してる気がする。
お師匠様の目をじっくり見ようと思っていたけど、とてもできないよ。

「今日は大事な話があるんだ。」

何だろう?
ひょっとして「お前は破門だ!」って言われちゃうのかな……
僕が心配している中お師匠様は重い口を開いた。

「もう、お師匠様っていうのをやめて欲しいんだ。」

ああああ……やっぱりそうなんだ。

お師匠様、僕を捨てないでよー。

僕この世界じゃほかに頼る人がいないんだ。

もし元の世界に帰れなかったら僕は、僕は……

「あの、あの……これから、僕は、どうしたら……」

「これからはさ、お父さんって呼んで欲しいんだ。」

114 :冒険の書5 ◆8fpmfOs/7w :2008/02/09(土) 21:10:15 ID:FRGFVRny0
「え?」
「いやさ、やっぱりお父さんがいないのは寂しいんじゃないかと思ってね。」
「ええと……」
「トモノリが元の世界に帰るまで、お父さんの代わりをさせてほしいんだ。」
「私のことはお母さんって呼んでね。」
目の前の夫婦は2人ともにっこり微笑んでいる。

「トモノリいつもモンスターの世話をしてくれて、ありがとう。」
「でも僕、ホイミンを危ない目にあわせちゃって……」
「ちょっと不注意だったけど、そのあと一晩中つきっきりで看病してくれたんだよね。」
「だけど僕きっとホイミンに嫌われちゃったよ……」
「そうかな? おーいサイモン。」

お師匠様が呼ぶとサイモンがホイミンをつれてやってきた。
「ホイミン! もう起き上がっても大丈夫なの?」
「ああ、もうすっかりよくなったようだな。」

ホイミンはふわふわと僕のほうに近づいてくる。
「やれやれ、ホイミンは俺よりトモノリのそばほうがいいのか。」
サイモンがちょっと寂しそうに言った。
「これでもホイミンに嫌われてると思うのかな?」
嫌われちゃうかと思ったけど、そうならなくて良かった。

「ね、お父さんとお母さんって呼ぶこと考えておいて。」

115 :冒険の書5 ◆8fpmfOs/7w :2008/02/09(土) 21:11:11 ID:FRGFVRny0
お師匠様と奥さんがお父さんとお母さんになってくれる。
かっこいいお父さんと綺麗なお母さん。
この世界にいる間だけだけど。
……でも、僕いつになったら帰れるんだろう。
こっちにお父さんとお母さんができたから、もうしばらくいてもいいけどね。

もし、このままお師匠様に子供が生まれなかったら本当の子供になっちゃおうかな。

そのためにはもっといい子にならなくちゃね。

そんなことを考えているとサイモンが頼みごとをしてきた。
「おーいトモノリ。煙草を買ってきて欲しいんだ。」
「煙草? お使いだね。いいよ。僕、行くよ。」
「お、ずいぶん素直だな。」
いい子になるって決めたんだもん。

「でもさ、煙草はやめたほうがいいよ。」
「そう思ってもやめられないものなのだ。それに鎧だから健康の心配ない。」
それもそうだね。あれ、でも、そもそもどうやって煙草を吸っているんだろう?

「だが我が身を案じることがないわけじゃないぞ。」
「そうなの?」
「戦闘中ロッキーが攻撃を食らうとメガンテしないかとひやひやする。」
「そうなんだ。ロッキー大丈夫かな。」
「うむ。あれは鎧の身にとっても心臓に悪い。」
「大変だよね。あ、それじゃ僕、お使いに行ってくるよ。」

「そうだ。ついでにレモンを買ってきてくれないか。」
「レモン? 体でも磨くの?」
「違う違う。奥方様が、何か酸っぱいものを食べたいと言っておられたのだ。」

116 :冒険の書5 ◆8fpmfOs/7w :2008/02/09(土) 21:13:27 ID:FRGFVRny0
「ねえ、お師匠様。僕やっぱりお師匠様のことお師匠様って呼ぶよ。」
「お父さんって呼ぶのは嫌かい?」
「なんだかさ、やっぱり恥ずかしいよ。」

「そっか。可愛い子供ができると思っていたんだけどちょっと残念だね。」
「あなた、無理を言っては駄目よ。」
「ごめんね。お師匠様。おかあさ……おかみさん!」
「え、おかみさん?」
「そう、お師匠様の奥さんだからおかみさんって呼ぶことにしたんだ。」
子供になれなくってごめんなさい。でもさ、お師匠様の願いは……すぐに叶うよ。

「そうだお師匠様。サイモンとロッキー置いていってくれないかな。」
「え? でも……」
「わがまま言ってごめんなさい。でも、一緒にいたいんだ。」
「分かった。そのかわりしっかり面倒見てね。」

117 :冒険の書5 ◆8fpmfOs/7w :2008/02/09(土) 21:14:36 ID:FRGFVRny0
お師匠様はサイモンとロッキーを置いてまた旅に出た。
今度はグランバニアって言うお師匠様のお父さんに関係があるを土地を目指すんだって。

「いいのか? 本当は2人の子供になりたかったんじゃないのか?」
サイモンが話しかけてくる。
「いいんだ……」
これでよかったんだよね。

「ところでだ。俺はお前の嫌いな煙草を吸うしロッキーはいっしょにいると心臓に悪い。」
サイモンは不思議そうに尋ねてくる。
「俺とロッキーを置いていけってのは何か意味があるのか?」
「それはね、サイモンは煙草を吸うしロッキーは心臓に悪いからだよ。」

お師匠様自分の奥さんの妊娠に気づいてないみたいだった。
今の僕にできることってこれくらいだ。
僕がおかみさんの妊娠を知ったときはまるで刺されたみたいな衝撃を受けた。
お師匠様が知ったときはどんな顔をするんだろう。

「ま、確かにグランバニアへ連れて行くのにロッキーは危険だな。」
「え? どういうこと。」
「グランバニアへ行くには険しい山道を越えていかねばならんのだ。」
「えええ! だ、大丈夫かな?」

僕は奥さんを置いていくように言うべきだったのかもしれない。
「何かあったらどうしよう……」

お師匠様もおかみさんもお腹の赤ちゃんも、どうか無事にグランバニアに着きますように。

――続く

118 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2008/02/09(土) 21:19:26 ID:IEHizg9a0
リアルタイム遭遇ktkr
口を酸っぱく・・・っていうのはこの伏線だったのか。納得。
主人公の勘の鋭さと、心配り、すばらしいです。

119 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2008/02/10(日) 23:59:01 ID:uMDNrnlr0
子ども達との掛け合いが楽しみ保守

120 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2008/02/11(月) 09:50:34 ID:ikAerZJS0
伏線の張り方と回収上手いなぁ
5主の石化中この主人公はどうなるんだろう

121 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2008/02/12(火) 00:09:21 ID:RoaK552E0
>>1
FCの3→いつ世界が消滅するか分からないのでドキドキするw
リメイク3→ロトに会えるので、やっぱりドキドキかな

2〜5なら、ワクワクする

122 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2008/02/12(火) 17:57:40 ID:cZOxXvBOO
こうやってたまにこのスレに初めて来てくれた人が、スレタイ通りになったらどうするかを書いていってくれるのを見ると、
何とも嬉しくなるんだ

123 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2008/02/13(水) 14:16:43 ID:omEviVx50
下すぎるので

124 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2008/02/13(水) 14:22:57 ID:REnXOqE3O
まず、町の人にはなしかけるな。で、モンスターとガチで戦ってみたい!
我流連続斬りとかやりたいなw

125 :俺の屍を越えてゆけ ◆yeTK1cdmjo :2008/02/14(木) 00:55:29 ID:TpTWYuLI0
「我々ヵゞτ〃(≠ゑσレ£⊇⊇маτ〃T=〃」
「ここまで来れば十分だ。さ、他のモンスターに見つからないうちに帰んな」
「……」
「何か用でもあるのか?」
「不思言義ナょ人間ぇ幸ナニ″。――レヽ⊃@日カゝ、ぉ前ぇ幸@ょぅナょ人間カゞ土曽ぇゑ⊇ー⊂をネ斤зぅ」
「できれば俺らの無事も祈っててくれや」
「……±らレ£〃T=〃、勇気ぁゑ人間達∋」

 順を追って話そう。
 魔の島に渡るには虹の雫が必要。虹の雫を手に入れるためには太陽の石、雨雲の杖が必要。太陽の石を手に入れるためには(ry
 ゲーム通り進めばやたら面倒な過程を踏まなきゃならん。
 しかし、俺としては一刻も早く元の世界に戻りたい。セーブしちゃったしね。
 太陽の石や雨雲の杖なんかを取ってられないのでというか面倒というかアレなんで、直接空から行こうと考えたわけよ。

 俺って天才じゃね?
 日本で一番最初に新一=コナンって気付いただけのことはあるくらい天才じゃね?

 で、問題はどうやって飛んでいくか。
 ヒント:ゲゲゲの鬼太郎。

 ブランコの両端をカラスが持って空飛んでるシーン見たことないか?
 カラスの代わりにキメラで代用。
 キメラは空も飛べるし力もそこそこある。ドラキーだとちょっと頼りないしな。
 そのためにキメラを捕らえて半ば脅迫のような形で取り引きを持ちかけたわけだ。

 結果、交渉成立。
 キメラ一族の命を保障するという言葉が決めてだったのかはわからんけど。
 ともあれ、無事に魔の島に辿り着いたってわけだ。

126 :俺の屍を越えてゆけ ◆yeTK1cdmjo :2008/02/14(木) 00:57:53 ID:TpTWYuLI0
 そんなわけでハッピーバレンタイン!
 さすがゴッグ!バレンタインなんて関係ないぜ!とか言っちゃってる奴らも実は気になってんだろ?
 義理チョコでいいけどあわよくば本命を…なんて思ってんだろ?
 アレフガルドにはバレンタインなんてありませんが何か?今のパーティーは男だけですが何か?
 そもそも今日が本当にバレンタインなのかすらもわからんね。実はまだ正月を迎えてないのかもしれんし、ハロウィンすら迎えてないのかも。
 できることならば夢オチ希望。

 そんなこんなでキメラ達を見送った後、俺達は真っ直ぐ竜王の城を目指した。
 鎧の騎士やキラーリカントなんかが出てきたが、俺のヤる気を見せつけただけで逃げていった。
 馬鹿め、人間様に敵うとでも思ってるのか。

 ファミコン神拳の歩く速度が速くなったのは一刻も早く竜王を斃そうという意思の表れだな。
 っておい、待ってくれ。ちょ、速いよ、待てって。待ってくれよ!待てっつってんだろ!

「変態だす!変態が来ただす!」
「誰が変態だよ」
「いきなりモンスター相手に股間露出する奴が変態じゃなくて誰が変態だって言うんですか!」
「お、怒ることないだろ…」
「しかも元気すぎだ。なんで上を向くくらい元気なんだ」
「でっかい男はビッグマンって言うだろ?」

 ( ゚д゚)  ←ゆう帝

 (;゚д゚)  ←ミヤ王
   _, ._
 (;゚ Д゚) ←キム皇


 ……え?何この空気?
 なんかまずいこと言った?
 ま、まあ、竜王の城に辿り着いたからいいよね?
 ……ね?

127 :俺の屍を越えてゆけ ◆yeTK1cdmjo :2008/02/14(木) 00:59:35 ID:TpTWYuLI0
 竜王の城は玉座には左からぐるっと回らなければならない構造。
 地下の玉座に辿り着くまで魔物と戦わざるをえないはず――なんだが、魔物は一匹もいない。
 あっという間に玉座まで辿り着いてしまった。
 しかも玉座はバリア床になってるはずなのにそれすらもない。
 それどころか――

「よく来た、哀れな人間どもよ」

 ゲームとは違う現実――玉座には竜王が座っていた。
 玉座に辿り着いても竜王の姿はなく、玉座の後ろを調べることで地下に続く階段を発見するはずだ。

「お前が竜王だな」
 違う、そんなわかりきったことを聞いてどうする。
 他の魔物にはない威風堂々たる存在感、威圧感、どれをとっても竜王そのものじゃないか。

「光の玉、返してもらいます」
「返すとはおかしなことを言う。――クク、そうか、お前達は何も知らないのだな」
「何をゴチャゴチャ言ってやがる。力ずくでも返してもらう」
「何も知らぬならそれでいい。愚か者どもめ。我が力、思い知るがよい!」
「行くだす!」

 キム皇の叫びと同時に、ミヤ王とゆう帝が竜王の左右へと走る。
 ミヤ王が左下から斬り上げ、ゆう帝が右から突きを放ち、正面からキム皇の魔法。

 三人の攻撃が竜王にヒットした――そう見えた次の瞬間にはミヤ王とゆう帝は地面に叩きつけられていた。
 そして、自らの放った魔法に包まれるキム皇。

「愚かな人間どもよ、よもやこの程度ではあるまいな?」
 静かに、どこか呆れた口調で、竜王は地に伏した三人を見下ろした。

128 :俺の屍を越えてゆけ ◆yeTK1cdmjo :2008/02/14(木) 01:01:24 ID:TpTWYuLI0
 絶望的な戦いが繰り広げられていた。
 すでにミヤ王とゆう帝の剣は折れ、キム皇の回復が追いつかないほど怪我を負っている。
 俺も立っているのが不思議なほどだ。
 皮の盾はとうのむかしに灰になり、鎖かたびらも役目を果たしていない。

「ベギラゴン!」
 キム皇の放つ閃熱系最強呪文ですらも、杖の一閃でかき消されてしまう。

「ロトの時代に使われたと云う古代呪文か。人間にしてはやる」
 微塵も疲弊した様子すらない様子で竜王が笑う。
 ミヤ王の爆裂拳を軽くいなしながら、だ。

「……強い!」
「そりゃそうだ、相手は王の中の王だからな」
「王の中の王――ふむ、面白いことを言う人間だ。それにあのラルスよりはずっと見所もある」
「どういう意味だ?」
 少しでも回復する間を欲しいがための苦し紛れの問いだ。
 だが、その問いに意外な答えが返ってきた。

「己の命を助けて欲しいがために自らの娘を差し出すような人間とは違う、ということだ」
「な……」
「わしが望んだのは亡き母の形見――光の玉のみよ。光の玉さえあればこの世界などはいらぬ」

 DQ3で竜の女王は勇者ロトに光の玉を残した後、卵を産んで姿を消す。
 その卵が何の卵なのか今も某スレでは議論が絶えないが、当時ファミコンでDQをやった人間は誰もがあれは竜王の卵だと思ったはずだ。
 そして今、その推測は確信に変わる。
 他の誰でもない、竜王の口から。

「わしを産んだ母は姿を消した。天界へと昇ったのやもしれぬ。
 わし一人の力では天界へと昇ることはできなかった。だが、この光の玉を使えば……」
 DQシリーズ中、数あるラスボスの中で唯一不明だった竜王の目的。
 それは母との再会だったのか。

129 :俺の屍を越えてゆけ ◆yeTK1cdmjo :2008/02/14(木) 01:03:26 ID:TpTWYuLI0
「光の玉を渡せと伝えた時、ラルスは交換条件を出してきた。光の玉を渡す代わりにドムドーラを滅ぼしてくれとな」
「バカな……」
「ラダトームとドムドーラとの間に何があったかは知らぬし興味もない。人間同士の諍いに我らが介入してやる義理すらもない。
 我が目的は光の玉のみよ。それ以外はどうでもよい。この世界が滅ぼうが栄えようが、な。
 そう答えたらあの男め、その日のうちにドムドーラに攻め入り一晩で廃墟と化したぞ」

 翌日にでも、竜王達がドムドーラを滅ぼした…とでも発表すれば何も知らない民は竜王怖し、竜王憎しとなるわけか。
 加えて、アレフガルド唯一の王国ラダトーム、ラルス王への支持も上がるって寸法か。

「悪名などどうでもよいとは言え、虚仮にされて黙っているわけにもいかぬ。
 軍を率いてラダトームに向かうとあ奴は簡単に光の玉を渡してきたわ。
 さらに『私の命を助けてくれるなら娘も差し上げます』とまで言ってな」
「何……だと……?」
「ラルスが何を考えているか、ここまで言えばわかるであろう?」
「竜王に光の玉を奪われ、一人娘ローラも攫われた。後は竜王を斃す勇者を待ち、その勇者をローラと結婚させて娘婿に……ってなとこか」
「その通りだ。勇者の義父となればラルスの地位は磐石のものとなる」
「では何故ローラ姫を解放しないのです?」
「天界に昇った後、ラルスの全ての罪を暴こうとしたまでのことよ。――お喋りも飽きた。続きを始めるとしよう」

 違う。
 そんな理由で竜王は人間の女を幽閉したりはしない。
 それならば俺達と戦う理由はない。

「愚かで勇敢な人間どもよ。お前達に敬意を表し、我が全力を見せてやろう」

 竜王の形態が変わる。
 人型から、ドラゴンへと。
 これが鰤ならドドドと効果音が鳴るんだろうな、なんて考えてる場合じゃない。
 人型ですら歯が立たなかったんだ。ドラゴン形態になんてなられたら勝ち目はゼロだ。
 そんな考えが頭をよぎった刹那、俺は竜王へと駆け出していた。

130 :俺の屍を越えてゆけ ◆yeTK1cdmjo :2008/02/14(木) 01:05:18 ID:TpTWYuLI0
「うおらぁぁぁぁあああああああぁぁぁああああぁぁ!!」
 変身途中の体に炎の剣で斬りつける。
 竜の鱗はわずかにへこんだ程度。

「ギラ!ギラ!ギラ!ギラ!」
 掌の中で炎が膨らむが焦げ痕一つつきやしない。

「だあああああああああああ!」
 ミヤ王やゆう帝に教わった剣術などお構い無しの技術もへったくれもなしで剣を振り回してもかすり傷一つつかない。

「恐怖で狂ったか」
 巨大な尾が俺の腹を薙ぐ。
 ミシッともメリッとも聞こえる音が腹から鳴り、やや遅れて襲う激痛――そして吐血。

「何じゃあこりゃああ!!」
「ベホイ――」
「遅い」
 回復しようと近寄ったキム皇の頭上に竜の豪腕が叩き落される。
 折れた剣で斬りかかるゆう帝には竜の爪、疾風突きを放つミヤ王には口から放たれる業火。

「わしを斃しに来たにしては未熟過ぎるな」
 返事をする体力はない。
 これだけの激痛で頭がまともに働いていること自体が奇跡だ。

 倒れている俺に、黒い影が――違う、竜王の足だ。
 人間なんか比じゃない巨体の全体重が……

「がああああああああああ!」
「わしを殺すのではなかったのか?」
 竜王が頭を鷲掴みにしてるのか、体が浮かんでいる感覚しかしない。
 何を言っているのかすらも聞こえない俺の耳に、キム皇の声が聞こえた。

131 :俺の屍を越えてゆけ ◆yeTK1cdmjo :2008/02/14(木) 01:08:29 ID:TpTWYuLI0
「……ラ……だす……ギ……ラ……」
「愚かな。古代呪文すら通用せぬわしにギラごとき何になる」
 俺の……ギ、ラ……?

 ――囁き――

 ギラ……

 ――詠唱――

 ギラ……

 ――祈り――

 ギラ……

 ――念じろ!

「ギラ――!」
 ベギラゴンを越えたギラが、竜王の顔を直撃した。

「おのれ、よくもこのわしに……!」

 竜王に踏み潰された俺の手足には感覚などない。
 魔法を放つ杖なんかもない。


 た  だ  し  魔  法  は  尻  か  ら  出  る  !


「今のは……ベギラゴンではない……ギラ……だ……」
 ……憎いほどに決まったな、今の俺……

132 :俺の屍を越えてゆけ ◆yeTK1cdmjo :2008/02/14(木) 01:11:39 ID:TpTWYuLI0
 ゆう帝が噛み砕かれ、ミヤ王が踏み潰され、キム皇が投げつけられる。
 皆、誰も動かない。
 皆を炎が包む。

 死んだのか?
 目がかすんできた。俺は死ぬのか?
 死ぬ?俺は死ぬのか?
 こんなところで
 いやだ
 死にたくない
 死にたくない
 しにたくない
 死にたくないしにたくない

                           く
「さらばだ、人間よ」                                い                 い
  し                た
          に                    な                 き       た


DSL『あなたは しにました』


LV:13
HP:0/42  MP:9/29
E:炎の剣 E:Tシャツ
呪文:ギラ ホイミ レミーラ ラリホー
特技:思い出す 舐めまわし 百裂舐め ぼけ つっこみ 雄叫び 口笛 寝る 穴掘り
    急所突き マヒャド斬り
道具:携帯電話 網
DSL:聖水 100円ライター 臭い靴下 古びたトランクス アディダスのジャージ
    タバコ×7 鍵×18 曲がった釘×6

133 : ◆yeTK1cdmjo :2008/02/14(木) 01:14:19 ID:TpTWYuLI0
といったところで投下終了です。
次回はエピローグみたいなものを投下して最後となります。

134 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2008/02/14(木) 01:16:01 ID:pac0QBiy0
何気なく覗いたらリアルt(ry
激しく乙です

135 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2008/02/14(木) 01:54:25 ID:VnOepHaw0
>131
それゲーム違うw

136 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2008/02/14(木) 09:50:32 ID:wG6obNqT0
やはりまだ無茶だったか……。シリアス展開乙です。
次回最後か。寂しいけど楽しみ。

キメラの言葉を読むのにちょっと苦労したぜw

137 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2008/02/14(木) 13:10:40 ID:N9YpA1SZ0
>>133
久々乙
毎度面白すぎっす
LV:13かよw

138 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2008/02/14(木) 19:37:40 ID:cTntGUDD0
>>133
待ってました! 乙です。
意外すぎるが納得させられてしまう理由と展開…次でもう終わっちゃうのか。
寂しいけど、まだ種明かしされていないこともあるし楽しみにしてます。

139 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2008/02/15(金) 15:12:21 ID:m/m03BAYO
>>137
1だとそんなもんでない?

140 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2008/02/16(土) 20:45:03 ID:Ch58AVzw0
ほす

141 :冒険の書5 ◆8fpmfOs/7w :2008/02/16(土) 23:50:19 ID:Q4gwM8K/0
―親指立てて―(>>110−117)

お師匠様が来た。
「グランバニアには何事もなく着いたよ。ちょっと大変だったけどね。」
そう言うお師匠様はちょっと疲れているみたい。
「あの、あの、赤ちゃんも無事だよね?」
「知っていたのトモノリ?」
僕は小さく頷いた。
「まだお腹の中だけど元気に育っているみたいだよ。」
良かった。何かあったらどうしようかと……
「どうして泣いているんだいトモノリ?」
「だって……だって……」

お師匠様たちがお父さんとお母さんになってくれるって言ったとき、すごくうれしかった。
本当の子供になりたいって思った。
でも、すぐに奥さんが妊娠していることに気づいたんだ。
だから僕、お師匠様の申し出を断ったんだ。
お師匠様にはちゃんと自分の子供ができるんだから。僕の居場所はないから。

だから、もしかしたら、僕……
赤ちゃんが生まれてこなければいいのにって思っちゃったかもしれない。
そう思っていたから、グランバニアへ行くのを止めなかったんじゃないかって思って。
お師匠様大好きなのに、僕、お師匠様の不幸を望んでいたかもしれないから……

僕は声にならない声で思いのたけを吐き出した。
普段でも大きくない声をさらに小さくして。
でも、お師匠様はそんな僕の声をずっと聞いてくれていた。

「……良かれと思って言った事で、かえってトモノリを苦しめてしまっていたんだね。」
お師匠様はちょっと悲しそうに、でも優しい口調で僕に語りかけた。
「ね、少し町を散歩しようよ。2人きりでさ。」

142 :冒険の書5 ◆8fpmfOs/7w :2008/02/16(土) 23:52:20 ID:Q4gwM8K/0
「こうして2人でゆっくり話をするのってはじめてかもしれないね。」
そうかもしれない。いつもはモンスター爺さんやイナッツさん、モンスターたちがいたから。
「トモノリがこの世界に来てからずいぶん長い時間経ったよね。」
「お師匠様が結婚して赤ちゃんができるくらいだもんね。でも、全然そんな気がしないよ。」
「トモノリは変わらないね。」
「僕が一人前のモンスター使いになるのはまだまだってこと?」
「いや、そうじゃなくってこのくらいの年のころってもっと背が伸びるものだからさ。」
そういえばそうだね。
もともと体は丈夫じゃないから発育がいいほうだとはいえないんだけど……
「もしかしたらこの世界とトモノリの世界とでは時間の流れ方が違うのかもね。」
そんなことがあるのかな。

「ねえ、もっとトモノリのこと教えてくれないかな?」
「僕のこと?」
「うん。お師匠様だなんて言ってもトモノリのこと何も知らなかったみたいだからね。」
「……でも、何を話したらいいんだろう。」
「何でもいいよ。たとえば元々はどんなところに住んでいたの?」
「もともとは……こことは全然違う世界にいたんだ。モンスターも魔法もない世界。」
「そこでトモノリは何をしていたの?」
「小学生だよ。小学校に通って毎日勉強をしていたんだ。」
「元の世界にも勉強を教えてくれるお師匠様がいるのかな?」
先生ってお師匠様なのかな? ちょっと違う気もするけど。

143 :冒険の書5 ◆8fpmfOs/7w :2008/02/16(土) 23:53:22 ID:Q4gwM8K/0
僕はお師匠様に小学校での思い出を話した。
「僕、いじめられそうになったんだ。僕のしゃべり方が変だって……」
「因縁をつけられちゃったんだね。大丈夫だった?」
「うん。かばってくれた子がいたから。でもお礼が言えなかった。僕に勇気がないから……」
「トモノリはお礼がしたいんだね。それなら元の世界に帰ったらきちんとお礼を言おう。」
「……言えるかな。」
「言えるさ。すぐには言えなかもしれないけど、いつかきっとね。」
「うん。僕帰ったらその子にお礼を言うよ。いつになるかわからないけど必ず……」
その後もずっと、僕はお師匠様と僕の世界の話をした。

長い間話を続けたあと、お師匠は唐突に切り出した。
「ねえ、トモノリ。グランバニアに来てくれないかな?」
「グランバニアに? でも、モンスターの世話はどうするの?」
「それはグランバニアのお城で続ければいいよ。」
「お城で? そんなことして大丈夫なの?」
「それくらいはね。王様の言うことだから。」
「王様の許可を取ったんだね。」
僕がそう言うとお師匠様はクスクスと笑い出した。

「何がおかしいの?」
「ごめんごめん。あのね、これから言うことを笑わないで聞いてくれる?」
「うん。」
「あ、でもちょっとくらいなら笑ってもいいよ。」
「もう、もったいぶらないで教えてよ。」
「あのね、グランバニアの王様は君の目の前にいるんだ。」
「え?」
「王様になっちゃったんだ。正確にはこれから王様になるんだけどね。」
……え? 何それ。ひょっとして革命? 下克上?
「お、お師匠様、きっと、今の王様を倒すより、もっといい解決法があるよ……」

144 :冒険の書5 ◆8fpmfOs/7w :2008/02/16(土) 23:54:24 ID:Q4gwM8K/0
何でもお師匠様は前の王様の子供だったんだって。
今は王様の代理をお父さんの弟がやっていて、その人から王様になるように言われたらしい。
お師匠様が王族だったなんて驚きだよ。親分もそうだけどちっとも偉そうじゃないもん。
それにあっさり王様になるっていうのもびっくりだね。

僕はお師匠様のルーラでグランバニアへやってきた。
モンスター爺さんとイナッツさんにお別れを言って。
でも、そのうちモンスター爺さんたちもグランバニアへ呼ぶつもりみたい。

お師匠様は王様になるための試練を受けている。これを終えれば王様になるんだって。
僕は頑張ってきてねと言って親指を立ててお師匠様を送り出した。
みんな不思議そうにしていたから、これは幸運を祈るって意味だよと教えた。

僕はお城でお留守番だ。お城にいるオジロンさんやサンチョさんはみんな親切だよ。
でも、お城には悪魔がいた。お師匠様が仲間にしたメッサーラのサーラだ。
僕が言うのもなんだけど、サーラって女の人の名前みたいだよね。
「もうすぐ人間が泣き叫ぶ様が見れると思うと楽しみで仕方ないな。」
「ちょっとサーラ、怖いこと言わないでよ!」
「何を言っている。もうすぐ赤ん坊が生まれるのだぞ。赤ん坊が泣かなくてどうする。」
「……確かにそうだけどさ。」
「赤ん坊というのは本能の赴くままに人間の体液をすするらしいな。」
「そんなことしないよ!」
「おや、赤子とは母乳を飲むものではないのかな?」
「ううう……サーラの意地悪。」
お城にいる悪魔はちょっとひねくれ者みたいだ。

お師匠様は無事に試練を乗り越えて戻ってきた。
帰ってきたちょうどそのとき、おかみさん……お師匠様の奥さんの陣痛が始まった。
今にも赤ちゃんが生まれそうなんだって。
「ねえ、トモノリ。赤ちゃんが生まれるところを見せてもらいなよ。」
「僕がそんなことして大丈夫なの?」
「ああ。きっといい経験になるよ。」

145 :冒険の書5 ◆8fpmfOs/7w :2008/02/16(土) 23:55:36 ID:Q4gwM8K/0
赤ちゃんはお母さんのお腹の中から一生懸命出てこようとしている。
僕は思わず頑張れって声を出して応援してしまう。
赤ちゃんが取り上げられてからの一瞬。
ほんのわずかな時間だったけど、すごく長く感じた。
そして、長い一瞬のあと、赤ちゃんは泣き出した。
この声はきっとお師匠様にも届いているよね。
みんなは赤ちゃんをお師匠様に見せに行こうとしている。

「待って! まだ、まだ赤ちゃんがいるよ!」
僕は赤ちゃんの泣き声に負けないくらい大きな声を張り上げた。
赤ちゃんがもう1人お腹の中から出ようとしている。
頑張れ。頑張れ。もう少しだよ。
やった! 出てきた。えらいよ。頑張ったね。
こっちの子もさっきの子に負けないくらい元気な声を上げて泣き出した。

生まれた赤ちゃんを見るため、お師匠様がつれてこられた。
「お師匠様! すごいよ。2人も生まれたんだ。男の子と女の子の双子だよ!」
「本当かい? 一度に息子と娘を授かるとは思わなかった。今日はなんて素敵な日だろう。」
「良かったねお師匠様。王様になって。しかもパパになっちゃったんだよね。」
「ああ。トモノリもこの子達を弟と妹だと思って可愛がってやってね。」
「もちろんだよ!」
「ところでトモノリ。赤ちゃんが生まれて欲しくないなんて思ってないことが分かったろう?」
「もしかして、そう思わせるに生まれるところを見せてくれたの?」

お師匠様、本当におめでとう。
今まで苦労した分、これからは幸せになってね。

そう、思っていたのに、何でこんなことになるんだよぉ!

146 :冒険の書5 ◆8fpmfOs/7w :2008/02/16(土) 23:56:18 ID:Q4gwM8K/0
……僕、さらわれちゃった。
お師匠様の奥さんと一緒にモンスターに連れ去られてしまった。
今はどこかの建物の中にとらわれている。窓から外を見るとかなり高い位置みたい。
「心配しないで。絶対にあの人が助けに来てくれるわ。」
そうだよね。きっと来てくれるよ。

「わっはっはっ! 来たら後悔することになるだろう。」
僕たちをさらった馬みたいな奴がいやな笑い声を上げる。
こいつが悪いモンスターなのかな。
「グランバニア王をおびき出し、抹殺して奴に成りすますことが俺の目的なのだからな!」
ううう……すごく悪いモンスターだ……

期待通りお師匠様が助けに来てくれた。サイモン、サーラ、ホイミンと一緒に。
馬の魔物相手に最初は苦戦していたけど、奥さんの不思議な力で形勢が逆転して勝利した。
だけど、やられる間際に馬の魔物は別の魔物を呼び出した。

そいつのせいで、お師匠様は、奥さんと一緒に、石にされてしまった……

147 :冒険の書5 ◆8fpmfOs/7w :2008/02/16(土) 23:57:09 ID:Q4gwM8K/0
「ほっほっほっ。おや? 人間の子供がいますね。」
……僕のことだ。
「勇者ではないようですね。教団のために働いてもらうには少々貧相です。」
それじゃ僕はどうなるの……
「それに人間に味方をする魔物たち。魔性の力を取り戻させねばなりませんね。」
魔物はサイモンとサーラとホイミンに向かって語りかける。
「そうだ。いいことを思いつきました。お前たち、この子供を始末しなさい。」

「ほっほっほっ。主を失った今、私に歯向かえるはずもないでしょう。」
サイモン、サーラ、ホイミン……
「こうなってしまっては致し方あるまい。」
そう言ったのはサーラだった。サーラはゆっくり僕に近づいてくる。
「トモノリに何をするつもりだ?」
サイモンとホイミンがサーラの前に立ちはだかった。
「邪魔をしないでもらえるか。」
サーラはサイモンを足蹴りした。サイモンは壁まで吹っ飛びガラスの窓が派手に割れる。
「サイモン!」
僕はホイミンをぎゅっと抱きしめた。
「そうだ大人しくしていろ。少し痛いかもしれないが我慢してくれよ。すぐに済むからな。」
サーラの手が僕の体を掴んだ。

僕たちは割れた窓から外へ飛び出し宙を舞っていた。

「怪我はないか? なるべくガラスに当たらないよう飛び出したのだが。」
サーラが僕を抱えたまま翼を羽ばたかせている。
「頑張れよサーラ。俺たちの運命はお前の翼にかかっている。」
そう言うサイモンはサーラの足にしがみついている。
「何とかスピードを殺しながら落下するのが精一杯だ。」
「しかしお前の演技はたいしたものだな。さすがは悪魔だ。」
「悪いが話は後にしてもらえるか。……森に突入するぞ!」
僕たちは木の枝で衝撃を和らげながらなんとか地面にたどり着くことができた。

148 :冒険の書5 ◆8fpmfOs/7w :2008/02/16(土) 23:58:31 ID:Q4gwM8K/0
少しかすり傷を負ったけどホイミンが魔法で治してくれた。
「ここまでくれば安心だ。奴も私たちを探すようなことはしないだろう。」
「本当?」
「あいつにとってはそこまでして私たちを始末する意味も価値もない。」
悔しいけど、そうなんだろう。
「怖くなかったか?」
サーラが何事もなかったかのように言ってくる。
「怖かったに決まってるよ! 飛んでるときも、飛ぶ前も……」
「脅かしてしまって悪かったな。これも奴の目を欺くためだ。」
それは分かってるけどさ……
「お前には騙されたよサーラ。蹴りをくれる前、窓から逃げるぞと小声でささやくまでな。」
サイモンも知らなかったんだ。それじゃ本気で僕を助けようとしてくれたんだね。

「とにかく今は城へ戻ろう。こうなってしまっては俺たちには何もすることができない。」
「ああ! そうだよ。お師匠様が……」
「……私はまた守れなかったのだな。」
そういえばサイモン言っていたよね。昔、守るべきものを守れなかったって。
落ち込まないで。サイモンは何も守れなかったわけじゃないよ。
「ねえ、サイモン。僕を守ってくれてありがとう。サーラもホイミンもありがとう。」
「お前子供なんだからそこまで気を使うことないぞ。……だが、ありがとうなトモノリ。」

グランバニアへ戻ると僕はサンチョさんに事情を説明した。
僕の話を聞いてグランバニアの兵士がお師匠様たちを探しにいった。
でも、お師匠様たちは見つからなかった。
どこに行っちゃったんだよ……

グランバニアで今後どうするかという会議が開かれた。
結論はお師匠様を探すこと、そして石化から元に戻す方法を見つけることだ。
僕はお師匠様たちが無事に戻るまで、約束どおり赤ちゃんたちの面倒を見ることにするよ。
そう、思っていたのにまたしても僕の希望はかなえられなかった。

149 :冒険の書5 ◆8fpmfOs/7w :2008/02/16(土) 23:59:07 ID:Q4gwM8K/0
別れのときは突然やってきた。

グランバニアの学者さんが僕を元の世界に戻す方法を見つけたんだ。
「私は国王様の命を受け呪いを解く方法を探していました。」
「呪いって、どんな呪い?」
「はい。異世界の者を呼び寄せる呪いについてです。」
それって、僕のことだよね……
「でも、いったい誰が呪いなんてかけたんだろう。」
「あなたが目的だったとは限りません。何かの術に巻き込まれたのかもしれませんから。」
「そんなことが起きるの?」
「強力な魔法や術が使われればその副作用で呪いに似た現象が起きることがありえます。」
「そんな強力な魔法があるの?」
「どこかに時空を越える術があるらしいです。そんな術ならばきっと……」
時空を越える……どこかで誰かが過去や未来に行く術を使ったのかな?
「どちらにしても、貴方は呪いを解くことで元の世界に戻ることができるのです。」

「話は聞かせてもらった。」
唐突に懐かしい声がした。
「ヘンリー親分! どうしてここに?」
「あいつが行方不明になってって聞いて心配して来たんだ。」
「そう……」
「良かったなトモノリ。元の世界に帰れるんだ。」
「でも、僕……まだこの世界に……」
「よく考えて決めればいい。」
僕はどうすれば……赤ちゃんの面倒見るって約束したのに……

赤ちゃんたちはお父さんもお母さんもいないなんて可愛そうだよ。
でも、それは……

「決めた。親分、僕、元の世界に帰る!」

150 :冒険の書5 ◆8fpmfOs/7w :2008/02/17(日) 00:01:52 ID:Q4gwM8K/0
せっかくお師匠様が帰れる方法を見つけてくれたんだもんね。
赤ちゃんたちには城のみんながいるし、モンスターたちはモンスター爺さんが見てくれる。
僕がいなくなっても大丈夫だよ。
だから僕は、お父さんとお母さんのところに帰ったほうがいいんだ。
帰りさえすれば、僕はお父さんとお母さんのそばに、いられるんだから。
もし、お師匠様との約束のために僕が帰らなかったら、お師匠様、悲しむと思うから。
「ねえ、親分。僕はさ、笑って、笑って帰ったって、伝えておいて……」
僕の言葉にヘンリー親分は分かったと言ってハンカチをくれた。

呪いを解いてもらうことでこの世界から僕は消える。
僕はヘンリー親分、城のみんな、仲間のモンスターたちに囲まれてそのときを待っていた。
「こっちのことは心配するな。あいつは必ず見つけ出す。」
ヘンリー親分が僕を励ます。
「お前たちも協力してくれるよな?」
親分はモンスターたちにそう言ったけど誰も返事をしない。
「おい、どうしたんだよ。」
「いやなに、我らはモンスター使いに命令して欲しいのだ。たとえそれが見習いでも。」
サイモンがモンスターたちを代表してそう言った。
「なるほどな。よし、トモノリ。最後にモンスター使いとしてこいつらに命じてやれ。」
「うん! みんな必ずお師匠様を見つけて元に戻してあげてね!」
「了解!」

ありがとうみんな。僕はみんなに親指を立てて別れの挨拶をした。みんなも同じように返す。
そして、最後に一度だけ呼んでいいよね。ありがとう、この世界のお父さんお母さん……

こうして僕は元の世界に戻っていった。
お師匠様との約束、みんな中途半端になっちゃった。
モンスターの面倒を見ることも、赤ちゃんを世話してあげることも。
ああ、でも、ひとつだけ、ひとつだけ守れる約束があった……

151 :冒険の書5 ◆8fpmfOs/7w :2008/02/17(日) 00:03:09 ID:d0mKKZxK0
――
「その約束が君にお礼を言うことなんだ」
そう。僕は約束したんだ。帰ってきたら必ずお礼を言うって。
「あのときは、いじめられそうになった僕を助けてくれて本当にありがとう」
「……いや、たいしたことじゃない」
ああ、ちょっと戸惑ってるみたい。無理もないか、こんな話を聞かされたんだもんね。

「この夢はきっと心の中でお礼を言いたいって思っていたから見たんだと思うんだ」
「夢じゃない。……夢じゃなく大切な思い出なんだろ?」
僕の話、信じてくれたのかな……
「うん。大切な思い出だよ。お師匠様はいまごろ遠い世界で幸せに暮らしている」
歴史は繰り返すって言うけど、お師匠様ならその因縁も打ち破るんじゃないかな。
きっとやってくれるよね。勇者様と地獄の帝王の両方を仲間にしちゃうとかさ。

「ごめんね。こんなに時間がかかっちゃって。でも、やっぱりすぐには言えなかったんだ」
「もう、10年以上も前のことだっけ。俺も今日、来て良かったよ」
「今はこっちに住んでないんだよね?」
「ああ、姉ちゃんがこっちで出産するんでそのお見舞いついでに同窓会に来たんだ」
「お姉さんいいタイミングで妊娠してくれたね。出産見せてもらいなよ。感動するよ」
「いやいや、それは勘弁して……」
「あれ、じん君ってシスコンじゃないんだ」

「……ところでさ、ドラゴンクエストって知ってる?」
「ゲームだっけ。ごめん僕あんまり詳しくないや」
そういえば僕のいたあの世界ってそういうゲームみたいな世界だったよね。

「それにしても変な世界だった。僕、あそこではずっとトモノリって呼ばれてさ」
しゃべり方のせいもあるけど、話だけ聞くとまるっきり男の子だよ。
声が小さかったことが原因なのかな。きっと最後のほうが聞き取れなかったんだよね。
「僕は本名の『友野理香』って言おうとしたけど、4文字目までしか名乗れなかったんだ」

―完―

152 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2008/02/17(日) 00:04:05 ID:oJB4/Ld80


そういうオチかwwww楽しませてもらったよ

153 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2008/02/17(日) 00:33:33 ID:tqMZ8PeP0
サーラがいいキャラすぐるw

DQ世界ルールで名前の文字数制限とかすげえなw面白かった!
次回作も楽しみに待ってます

154 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2008/02/17(日) 06:17:33 ID:yzCfRCVzO

このオチの発想はなかったわw

155 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2008/02/18(月) 00:31:57 ID:0sfcdgdD0
乙でした!
久々にウルっときたよ
改めて読みなおしてみるわ

156 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2008/02/18(月) 10:56:08 ID:7yePM2lYO
…だよな…夫である5主が別室待機なのに、赤の他人のトモノリを出産に立ち会い
させるなんておかしいと思ったんだ…
いくら子どもでも、男に奥さんの大股開き見せるのはまずかろう
女の子なら出産立ち会いさせてもらえても自然だね

157 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2008/02/18(月) 16:23:45 ID:ND506bOa0
>>151
そりゃリカちゃんの話を信じる気になるさ。
そのじん君も(たぶん)つい最近ドラクエ4の世界に飛ばされて、おまけに最後にどんでん返しをくらって帰ってきたんだから。

158 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2008/02/18(月) 17:54:18 ID:LRjx8D+K0
>>157
読み直した。確かに書いてある。スゲー。

159 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2008/02/18(月) 18:09:36 ID:KeJeFxDQ0
ホントだ。冒険の書シリーズ、二重三重にすげぇ。

160 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2008/02/18(月) 18:44:58 ID:grPqd0Zc0
>>157
いやこれ…ちょ…すげえ!!!新たな感動が俺を包み込むwww

161 : ◆Y0.K8lGEMA :2008/02/18(月) 22:05:41 ID:g/Km0SGD0
ご無沙汰してます。第14話を投下します。

LOAD DATA 第13話 >>7-16


162 :東奔西騒【1】 ◆Y0.K8lGEMA :2008/02/18(月) 22:10:24 ID:g/Km0SGD0
甲板に燦々と降り注ぐお日様の光。波の音を運ぶ潮風。
ビスタ港を発った船は、俺達を乗せて西方大陸へ向かう。

「凄ぇ。魚に混じって犬が泳いでやがる…こっちの世界は何でもありだな。」
「シードッグだね。これだけ大きい船なら襲われる事もないから心配ないよ。」

へぇ〜…アレもモンスターなのか。
水面に目を凝らすと、なるほど…犬やらオタマジャクシやらの場違いな生き物まで
優雅に水中を泳いでやがる。

「ブッ飛んだ生態系だなぁ…こっちの世界なら人魚がいても不思議じゃねえな。」
「人魚?マーマンの事かな?」

ママン!?熟女系ktkr!!

「僕はどうも苦手だな。あのピチピチした下半身が生々しくってね。」

ピチピチした下半身!?生々しいママン!?
若妻人魚キタ――――(゚∀゚)――――!!!!

「船旅っては良い物だねえ。ママン…アンタに会うのが楽しみだよ…」

まだ見ぬ海の向こうの恋人に想いをはせる俺。
サトチーの痛い人を見るような視線が気になるが、俺の熱い心は冷めない。

「イサミ様。マーマンという種族はですね…」
「…やめておけ…良い夢は少しでも長く見させてやるものだ…」

抱えたブラウンを熱く抱擁する俺に何か言いかけたピエールをスミスが制する。

数時間後、船は西方大陸へ接岸した…愛しのママンには会えなかった…

163 :東奔西騒【2】 ◆Y0.K8lGEMA :2008/02/18(月) 22:12:57 ID:g/Km0SGD0
降り立った町は潮の香りで満ちていた。
西方大陸の玄関 港町ポートセルミのドッグには様々な国の船が並んで停泊し、
様々な国の様々な人種の旅人達がせわしなく町を出入りする。
オラクルベリーとは違った賑わいを見せるこの町は、ある種の万国感を感じさせる。

「まずは、装備を整えてから今後の目的地を話し合おうか。
 酒場には外国の船員が集まってるだろうから、そこで情報収集と作戦会議だね。」
「んじゃ、まずは買い出しだな。」

サトチーはヘンリーから譲り受けた鋼の剣を持ち、俺は天空の剣を持っているので、
武器に関しては当面の心配はないが、問題は防具だ。
修道院〜ラインハットの連戦で俺の鎖帷子はボロボロになっている。
かと言って、鋼の鎧や鉄の鎧は重過ぎてまともに動けなくなる始末。

「うん、これならイサミにも装備できそうだね。」

最終的に選んでもらったのは、鉄の胸当て。
正直これも少し重いのだが、黙っておく。
鉄の胸当てが装備できないとなれば、これより軽い防具として残される選択肢は
スライムの服とかいう奇抜すぎるデザインの服。
男として…いや、人としてアレを装備する事だけは絶対に避けなければ。
店のオヤジ曰く、鉄の胸当ては鎧を装備できない非力な旅人向けの防具らしい。
非力…その言葉に少しカチンと来たが、何も言い返せない。

…サトチーは鋼の鎧を装備して余裕なんだもんなあ。

「じゃあ、装備も整えたし酒場に行ってみようか。」

いつの間にか太陽は西に傾き、反対の空に向かって赤いグラデーションを描く。
いそいそと看板をしまう店とは対称的に、ようやく輝かしいネオンを灯した酒場。
静かに暮れ始める町とはこれまた対称的な活気…を通り越した酒場の喧騒。
思わずその方向に目を向ける。

164 :東奔西騒【3】 ◆Y0.K8lGEMA :2008/02/18(月) 22:14:32 ID:g/Km0SGD0
うわぁ…いきなりDQNだよ…

華やかな酒場の雰囲気にそぐわない、ひなびた格好の男。
そして、その男に因縁をつけるのはガラの悪い二人組。
耳が尖って、口がデカくて、毛深くて、山賊ウルフに似てる気がするのは気のせいか?

「性質の悪い酔客が揉めてるみたいだね。」
「やれやれ、あいつらにもサトチー様の爪の垢を煎じて飲ませたいものですな。」
「これじゃあ情報収集どころじゃねえなぁ。」

「おい。何見てやがる。見世物じゃねえぞ!」

俺達の視線に気付いたのか、DQNの一人が俺達に向かって食って掛かってきた。
う〜ん…間近で見るとますます人間離れしてる顔だなぁ…

「んだと?俺の顔が人間離れしてるだと?ケンカ売ってんのか!!」

ヤベ…思わず口に出しちまった…
俺の言葉に激昂したのか、二人組が俺達に詰め寄る。思わず剣に手を伸ばす俺。
その一触即発の俺達の間に進み出るのはサトチーとピエール。

「何があったのかは知らないけれど、その辺にしておいたらどうだい?
 魔物達だって自制心は持っている。人間である君達が持っていないはずはないよね。」
「サトチー様の仰るとおりだ…が、無法を目の当たりにして動かぬは騎士の名折れ。
 お前達がさらに無法を重ねるのならこのピエール、これ以上は自制できぬぞ。」
「んだとゴルァ!!」

ちょ…ピエール、逆効果。お前が興奮してどうすんのさ。
ふと見ると、ブラウンまでピエールの横でハンマーを振り回して臨戦態勢だ。
相手は完全に逆上している。こりゃ戦闘は避けられねえな。

覚悟を決めたその時、しゃがれた呟き声が俺達の足を止めた。

165 :東奔西騒【4】 ◆Y0.K8lGEMA :2008/02/18(月) 22:17:27 ID:g/Km0SGD0
「…私の吐息は生者の肺を腐敗させる毒…生きながらに体を腐らせるのは苦しいぞ?」

ぽつりと漏らしたスミスの呟きに、二人組の動きがぴたりと止まる。

「…毒…だと?」
「…疑うのならこの場に留まっていろ…苦しみも意識が途切れるまでの辛抱だ…」

淡々と並べられるスミスの言葉に、二人組の顔がみるみる青ざめる。
スミスの特技『毒の息』の事を言ってるんだろうが、知らなかったら怖いよな。

「あ…兄貴…」
「…ちくしょう!!覚えてやがれ!!」

スミスの仲裁(?)で、二人組が血相を変えて逃げ出す。
すぐにもとの賑わいを取り戻した酒場。これでようやく情報収集ができるな。

「スミスは役者だねえ。結局一人で場を収めちまったな。」
「…剣を抜かずに争いを収拾できるのならば、それが一番であろう…」
「サトチー様、申し訳ありません。主君の御前で憤怒に我を忘れようとは
 騎士としてあるまじき不体裁。いかなる厳罰も慎んでお受け致します!」
「そんな…頭を上げて…いや、剣はしまって…ね?僕も力が入っちゃってたし…」

また切腹しようとするピエールを慌てて止めるサトチー。
俺とサトチーの二人で取り押さえてもジタバタと暴れるピエールだったが、
スミスの説得でなんとか落ち着きを取り戻した。
スミスが発したのは一言『命を粗末にするな』…って、凄げぇ破壊力。

―☆☆??―
「…あぁ…すまねえだ、どこも怪我はしてねえだよ。」

カウンター席の端では、絡まれていた男にブラウンが薬草を渡している。

166 :東奔西騒【5】 ◆Y0.K8lGEMA :2008/02/18(月) 22:20:23 ID:g/Km0SGD0
「災難でしたね。怪我がなくて何よりです。」
「いや、あんたらのお陰で助かっただよ。やっぱり都会は怖い所だやな。
 だども、おらぁ村の期待を背負ってるだ。おめおめと逃げ帰るわけにはいかねえ。」

この男、場違いな雰囲気だと思ったが、やっぱり田舎から出てきたばかりらしい。
懐かしいねぇ。俺も群馬から上京した時は、だだっ広い東京駅で右往左往したなぁ…

「ところで、あんたら腕がたちそうd…」
「いつかは故郷に錦を飾れるといいな。俺も応援してるぞ。」

男の境遇に妙な親近感を覚えた俺は、その肩にポンと手を置いて激励する。
頑張れ若人!(…俺より年上っぽいが…)

「いや、おら達の畑を荒らす魔もn…」
「慣れない都会生活は大変だろうが、体を壊したら田舎の母ちゃんが悲しむからな。」

それじゃあ元気で。世界は違えど大都会に同じ夢を見た同士。
ここでの素晴らしい出会いを俺は生涯忘れない!!

「お礼は3000G。前金で1500G渡すだ。これで仕事を引き受けて欲しいだ。」
「…何の話だ??」
「イサミ…熱くなるのは悪くないけど、人の話は最後まで聞くべきじゃないかな…」

突然大金を手にして呆気に取られる俺に、困った様子のサトチーが言葉を投げ掛ける。

「…なんだったらもういっぺん言おうか?」
「悪りぃ…全っ然聞いてなかった。」
「本当にごめんなさい。もう一回最初からお願いできますか?」

サトチーに促され、話を再開した男。その目は完全に俺から逸らされていた。

…仕方ないっちゃあ仕方ないけどね…

167 :東奔西騒【6】 ◆Y0.K8lGEMA :2008/02/18(月) 22:24:45 ID:g/Km0SGD0
イサミ  LV 16
職業:異邦人
HP:77/77
MP:15/15
装備:E天空の剣 E鉄の胸当て
持ち物:カバン(ガム他)
呪文・特技:岩石落とし(未完成) 安らぎの歌 足払い ―――


〜〜〜〜〜

若干閑話的な内容になりましたが、第14話はここまでです。
きっとイサミにはDQ名物無限ループも通用しません。

何せ、相手の話を聞いちゃいませんので。

168 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2008/02/20(水) 08:51:37 ID:MeD+BDEaO
乙であります!

169 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2008/02/20(水) 23:56:41 ID:7o4ukmJMO
待ってました、乙です!
しかし久しぶりに改めて見ると、イサミLV上がったよなぁ

170 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2008/02/21(木) 20:31:33 ID:NBOacrHMO
諦めないで待っててよかった。乙です。
相変わらずキャラの位置付けがうまくて面白い。
理論的なスミス。堅物なピエール。
癒し系のブラウン。猪突猛進のイサミ。
まとめ役のサトチーは苦労しそうだなwwww

171 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2008/02/22(金) 23:37:21 ID:0ESFql5YO
イサミも仲魔モンスターかよw

172 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2008/02/24(日) 11:41:45 ID:ppIWtpsPO
スミスのファンになりましたw

173 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2008/02/26(火) 23:29:34 ID:dzbwnoQ90
ほすん

174 : ◆Tz30R5o5VI :2008/02/28(木) 12:22:22 ID:4vj+tmRLO
保守だお

175 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2008/02/29(金) 17:44:59 ID:AP5L4w6nO
閏年保守

176 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2008/03/01(土) 19:42:16 ID:FZ6tpxCkO
保守

177 : ◆Y0.K8lGEMA :2008/03/02(日) 19:55:52 ID:u+m6MutS0
第15話を投下します。

LOAD DATA 第14話>>162-167

178 :得獣失獣【1】 ◆Y0.K8lGEMA :2008/03/02(日) 19:57:20 ID:u+m6MutS0
月は雲に隠れ、どこまでも深い夜の闇の中。それはあまりにも唐突なコンタクト。
ガサガサと茂みが揺れ、大きな影が飛び出した。

―不意打ち…ヤバイ―

遅れをとった事を感覚で理解し、ある種の覚悟を決めた次の瞬間、
虎のような巨大なシルエットは身を翻し、夜の闇の中に紛れて見えなくなった。

バキバキと枝葉を踏み砕く音。そして、カシャカシャと金属を打ち付けるような音。
音は次第に小さく遠くなり、夜の黒の中に風の音と虫の声が戻ってきた。

「村の中だってのに…今のが畑を荒らすモンスターか?」
「多分ね…でも、なんで襲い掛かってこなかったんだろう。」

ポートセルミで出会った男の故郷。―カボチ村―
これといった交易手段を持たず、決して裕福ではないこの村は危機に瀕している。
夜な夜な現れるモンスターが畑を荒らし回るようになり、作物の収穫量が激減。
自給自足を営んでいた村民の生活を次第に圧迫し始めているらしい。
この事態を重く見た村人は、モンスター討伐を引き受けてくれる冒険者を雇うべく
都会に村の人間を派遣した。 それがポートセルミで出会ったあの男。

「…妙な話だな。てっきりあのままパックリやられると思ったのに…」
「サトチー様、くれぐれも油断めさらぬよう。いつまた闇に紛れて姿を現すか…
 前方の安全確保は引き受けました。ブラウン殿は後方の警戒をお頼みします。」
―!!!☆―
「いや、今夜はもう現れないと思うよ。もう夜も遅いし、今夜は宿をとって休もう。」
「…馬車は私が見張っておく…宿には四人で泊まると良かろう…」

スミスに馬車の守りを任せ、四人で村の宿に入る。
古い農家を改築したような粗末な宿。俺達以外に客はいないようだ。

女将はピエールとブラウンを見て驚いていたようだが、すぐに受け入れてくれた。

179 :得獣失獣【2】 ◆Y0.K8lGEMA :2008/03/02(日) 19:59:11 ID:u+m6MutS0
          ◇
数時間前の騒動が嘘のように静かな夜だ。
さっきまで轟々と不穏な空気を撒き散らしていた風もやや収まったらしく、
固いベッドに身を横たえると、聞こえるのは虫の声とブラウンの豪快なイビキだけ。

どこからか外の空気が漏れているのか、ぶるりと身震いした。
お世辞にも清潔とはいえない薄いシーツ一枚ではやはり肌寒い。
それでも、あの悪夢のような奴隷時代に比べれば…
神殿を逃げ出して何ヶ月が経っただろう…あの地獄を一日だって忘れた事はない。

そして、残してきた仲間達を一分だって忘れた事はない。

「…みんな…元気でいるかな…っぷしっ!!」

やはり窓の建て付けが悪いのか、小さなクシャミが漏れた。
すぅすぅと寝息を立てるサトチーを起こさぬようにそっと窓に手をかける。

「ん…やっぱり少し風が入ってるなぁ。まぁ、仕方ないか…」

窓の外は部屋の中よりも暗い完全な夜色で、その端に一点の薄赤い光を灯す。
あれはきっと町外れで夜営しているスミスの起こした焚き火の光だろう。
光はちらちらと無音のまま身震いを繰り返す。

「…外はもっと寒いだろうな。」

部屋の隅で鎧の隙間から緑色の中身をはみ出させて眠るピエールと、
すでにベッドから転がり落ちてイビキを上げるブラウンを跨ぎ部屋を出る。

宿の女将さんに夕飯の残りを温めてもらい、町外れに向かう。

本人は睡眠も食事も必要ないって言うけど、間違いなく生きてるもんな。

180 :得獣失獣【3】 ◆Y0.K8lGEMA :2008/03/02(日) 20:03:28 ID:u+m6MutS0
火はあまりに弱々しく揺れている。
ただ一度、風が吐息を吹きかければ根元から吹き飛ばされそうに。
そのすぐ前にスミスは無防備に座り込んでいる。

「……スミス?」

まるで生命感を感じさせないスミスを見て、俺の背中をじわりと嫌な汗が伝う。
今にも消え入りそうに揺らぐ灯りに照らされた朽木のような肢体がぴくりと動く。
揺らめく光と影の中では、それすらも錯覚に感じる。

「………イサミか…何の用だ?」
「あぁ…ほら、夕飯の煮物を温めてもらったからさ。持って来たんだ。」

相変わらずどんよりとした視線を浮かべるスミスはいつもと同じ。
簡素な器に盛られた煮物を差し出すと、その濁った瞳に疑問の色を浮かべる。

「寝てたのか?珍しい事もあるもんだな。」

俺の声にほんの僅か首を傾げるだけのいまいち希薄な反応。
スミスは無言のまま、消えかけた焚き火に顔を向けて薪をくべ始める。

「じゃあ…俺は宿に戻るよ。邪魔して悪かった。」

パチパチと再び音を立て始める焚き火に背を向け、宿に向かう俺を呼び止める声。

「……気遣い感謝する…ありがたく頂こう…」
「眠れねえにしても、ゆっくり休んでおけよ。」

焚き火の前で一人。豆の煮物をぼそぼそと口に運ぶスミス。
不意にその手が止まり、虚ろな瞳で崩れかけた自らの掌を見やる。

「…眠っていた…のか…」

181 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2008/03/02(日) 20:07:03 ID:pSH1+FdJ0
 

182 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2008/03/02(日) 20:27:16 ID:v9GZ9y990
あれ?引っかかっちゃったのかな?

183 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2008/03/02(日) 20:32:25 ID:JXfBDw7S0
4円です

184 :GEMA:2008/03/02(日) 21:04:32 ID:gO1biD19O
ごめんなさい!
どうもPCの調子が悪いようで、一回投下を中断します。
gdgdになってしまい、支援して下さっていた方々には申し訳ないです。

また日を改めて投下させていただきます。

185 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2008/03/02(日) 21:10:54 ID:v9GZ9y990
乙!規制じゃなかったのか
またの投下をお待ちしております

186 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2008/03/03(月) 09:40:33 ID:WqPPJZrM0

PCよくなるといいですね。続き待ってます

187 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2008/03/04(火) 00:01:39 ID:DGyJXNvn0
続きに期待!

188 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2008/03/06(木) 06:42:18 ID:Iy5YIgP+0
保守

189 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2008/03/07(金) 11:55:31 ID:epJse3GL0
>>151
わー、最後の最後までこんな伏線があったとは。
でも、正直感動した。仲間のモンスター達とのやりとりとか、お師匠様に赤ちゃんができたことへの葛藤とか。

>>157-158
まじ?俺もよみなおしてみるよ。

190 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2008/03/10(月) 13:14:10 ID:Uo885gvlO
保守

191 : ◆Y0.K8lGEMA :2008/03/10(月) 21:22:00 ID:3V5v2oYI0
前回の続きを投下します。
今日は第十五話を終了させる予定です。

それでは、よろしくお願いします


192 :得獣失獣【4】 ◆Y0.K8lGEMA :2008/03/10(月) 21:25:10 ID:3V5v2oYI0
           ◇
「冗談じゃねえ! 村長。考え直すベ。村の事は村の人間でなんとかするだよ!」
「なぁに言ってるだ。この人達は信用できるだよ!おらの目に狂いはねえだ!」

朝になり、村長の家へ足を運んだ俺達を出迎えたのはあまりにも不愉快な光景。
村長の家に入った俺達一行を見て、一人の農夫が不信を口にしたのが発端。
それにポートセルミで出会った農夫が噛み付き、口論に発展してしまった。

「化け物を連れた連中を雇うだなんて、おめえの目はケムケムベスだべか!?」
「おめえこそ、この人達を疑うだなんて頭にトンネラーでも巣食ったベか!!」

―気分悪りいなぁ。
収拾のつかない口論を見るのも気分悪いが、本人達の前で信用できねえだとか、
人様の仲間を化け物だとかよく言えたもんだな。

「私を化生と蔑むのは一向に構わぬ。だが、サトチー様に対する侮辱は許さぬ!!」

サトチーに対する攻撃に関しては短気なピエールが吼えると、部屋は静かになった。

「あなた達にとってモンスターとは畏怖の対象でしかないのかもしれません。
 ですが、僕達にとって彼等は大事な家族であり、信頼のおける仲間です。
 仲間を信用して頂けないと仰るのならば、この仕事はお受けできません。」

そう言いながらテーブルの上に前金の入った袋を置くサトチー。
その言葉にピエールは感激の涙し、ブラウンはサトチーに強く抱きつく。

「信用する…あんたも、あんたの仲間もだ…だから、金をしまって欲しいだ。」
「村長!!」
「なら、おめえが魔物を退治するだか?おめえにも、村の誰にも無理だんべ?
 村を救うにはこの人達を信用して全てを任せるしかないだ。」

193 :得獣失獣【5】 ◆Y0.K8lGEMA :2008/03/10(月) 21:30:13 ID:3V5v2oYI0
再び静まり返る部屋、数秒の沈黙を破って席を立ったのは最後まで懐疑的だった男。

「勝手にするだよ!そん代わり、おらも好きなようにやらせてもらうだ。
 よそ者にデカイ顔されて黙ってられねえべ。」

男はボロボロの扉を蹴破らんばかりの勢いで乱暴な足音を立てて家を飛び出す。
村の総意を得たとは言い難いが、俺達は改めて依頼を受ける事になった。

「あんたらにはこれを渡すだ。きっと何かの力になってくれるだよ。」

村長から手渡されたのは奇妙な装飾が施された腕輪。

「なんでも、不思議な力が込められてるって話だで。ぜひ持ってって欲しいだ。
 おらぁ、あんたらを信用したべよ。」

魔物のすみかはこの村の西にある。距離にして半日かからない程度。
馬車に飛び乗り、白い馬を早足で走らせる。

嘗ては敵だったモンスター達も、今ではサトチーの信頼に応えて力を貸してくれる。
俺達も村長の信頼に応えて力を貸してやることにしましょうかね。


旅人を乗せた馬車は走り去り、村長と農夫の二人だけが残された村長の家。
農夫が震える声で村長に問う。

「村長。なんであの腕輪を渡しただか?」
「あの腕輪さ持ってれば、間違いなく魔物を仕留められるべ。」
「んだども、あれで魔物を仕留めるって事は…」
「…なぁんも問題ねえ…これで村は安泰だぁ。」

ほぼ白湯に近い出涸らしのお茶をすすり、村長が細く息を吐く。

194 :得獣失獣【6】 ◆Y0.K8lGEMA :2008/03/10(月) 21:33:27 ID:3V5v2oYI0
大きく開かれた洞窟の入口は、全てを受け入れているかのようであり、
その内に広がる深みは、全ての侵入者を拒んでいるかのように俺達を威圧する。

内部は鍾乳石が複雑に入り組み、滴る水に侵食されて崩れた岩壁が進路を塞ぐ。
長い時間をかけて造り上げられた自然の迷宮。

「視界が悪いね。皆、周囲には充分気を付けて。」
「前衛は私とイサミ殿。スミス殿とブラウン殿は後方の警護をお頼みします。」

最近の隊列はこのパターンが多い。
前衛にピエールと俺が立ち、先手必勝で相手に一撃を加える。
怯んだ相手にサトチーが剣と魔法で追い討ち、とどめに後衛の二人が殴りかかる。
前衛がダメージを受ければ俺が相手の足止めを受け持ち、サトチーは回復に専念。
タフな二人が後方を守っているので、背後を取られても被害を最小限に留められ、
その場合はサトチーが即座に治療に回れる。

スミスとピエールが提案した隊列だが、なかなか機能的だ。
この隊列なら剣、魔法、回復、指示出しをこなすサトチーが臨機応変に動ける。

神経毒を含んだクチバシを武器に、目を血走らせて飛び掛ってくるデスパロット。
巨体に似合わぬスピードと、体躯に恥じぬ怪力で猛攻を仕掛けるビッグスロース。
パチパチと燐光を散らす体から発する閃光で俺達を焼き殺そうとするデススパーク。
狂気に満ちた眼光をこちらに向け、槍を振りかざて突進してくる突撃兵。
一癖も二癖もあるモンスター達だが、俺達の連携の前では敵ではない。

襲い来るモンスターの群れをあらかた殲滅し、仲間に治療を施すサトチー。
その腕を指差しスミスが問い掛けた。

「…サトチー卿…先刻から気になっていたのだが…その腕輪はどうした?」

スミスが指差すのは、カボチ村の村長から受け取った腕輪。

195 :得獣失獣【7】 ◆Y0.K8lGEMA :2008/03/10(月) 21:36:32 ID:3V5v2oYI0
「うん。この腕輪かい?カボチの村長から貰ったんだ。」
「…なるほど………その品…私が貰い受けるわけにはいかないだろうか…」

装飾品には興味なさそうなスミスの頼みに、サトチーも少し驚いていたようだが、
すぐににこりと笑いながらスミスに腕輪を手渡した。

「…ありがたく頂戴する…」

ドス黒い肌の上、神秘的に輝く宝石と施された装飾が奇妙なバランスで調和する。
腕輪に飾られた血のように赤い宝石。その隅にチラリと影が映りこんだのを見つけた。

「新手みたいだね。話が通じる相手ではなさそうだ。」
「え、よっこいしょ…休憩時間は終わりだな。」

周囲を警戒していたブラウンがハンマーを固く握り、鋭い眼光を影に向ける。
俺も重い腰をあげ、剣を正眼に構えて襲撃に備える。

さしたる音も立てず、物陰から姿を現したのは鈍色の騎士。
馬を繰る騎士ではなく、ピエールと同じくスライムに跨る異形の騎士。
―ピエールの同族か?

ヒュッ…ガギン!!

一瞬戦闘に入るのを躊躇した隙に、騎士がブラウン目掛けて突きを繰り出す。
間一髪でブラウンのハンマーが剣を弾き、喉元を狙っていた剣は大きく逸れた。
―いきなり痛恨即死コースで狙ってきやがった。

「お待ち下さい!」

睨み合う俺達の間に、ピエールが割り込む。

196 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2008/03/10(月) 21:37:55 ID:jMDitB5E0
支援

197 :得獣失獣【8】 ◆Y0.K8lGEMA :2008/03/10(月) 21:39:40 ID:3V5v2oYI0
「ヤツの相手は私にお任せ願えませんでしょうか…」
「そんな…ありゃ同族じゃねえのか?」
「その通り、ヤツは紛れもなく嘗ての同族…だからこそ私が討つのです。
 ヤツは誉れ高き騎士の名を汚した種族の裏切り者。メタルライダー一族。
 騎士の誇りに懸けて、私自身の手で決着をつけねばならないのです。」

言いながら剣を抜き放つピエールの気迫に押され、意思とは無関係に道を譲る。
一人、敵前へ赴く騎士の背にサトチーの声が投げ掛けられる。

「ピエール。作戦は『ガンガンいこうぜ』…だ。」
「勝手をお許し下さい。そして…『私にまかせろ』であります。」

静かな…そして、心強いサトチーの激励に応えて剣を高く掲げるピエール。
対峙するソレは、この薄暗がりの中ではピエールと瓜二つの容姿に見える。

ピエールと違うのはそのスライム。鮮やかな生命を感じさせる若草色に対し、
無機質な金属色。それも、メタルスライムのような光沢を持つ銀色ではなく、
騎士としての心の輝きを棄てたかのような鉛色。

「私の名はピエール。高貴なる主君、サトチー様にお仕えする騎士。
 下郎にも名乗る名くらいはあるだろう。その下劣な名を名乗るが良い。」

構えた剣を頭上高く水平に掲げ、名乗りを上げるピエール。
対するメタルライダーは喉の奥で短く笑い、空っぽの鞘を後方に投げ捨てる。

「…脆弱な騎士め。貴様が大事にしている誇りなど無価値だと証明してやる。」
「誇りと一緒にその下劣な名までも捨てたか。誇りを捨てて得た力など無力。」

手にした剣をメタルライダーに向けながら、ピエールも同じく鞘を投げ捨てる。
それは―どちらかが果てるまで戦う―という決闘の意思表明。

「「覚悟!!」」

198 :得獣失獣【9】 ◆Y0.K8lGEMA :2008/03/10(月) 21:42:50 ID:3V5v2oYI0
若草色と鈍色が交差し、入り乱れる画像に遅れて金属同士の衝突音が鳴り響く。
一合、二合と切り結ぶ度に、若草色の液体が飛び散り、鈍色の破片が弾ける。

互いの歯軋りが聞こえるような鍔迫り合い。優勢なのは体格に優れる鈍色の戦士。
頭上から押し込まれる力を横にいなし、ピエールが距離をとる。

「ぬぅ…下郎と罵ったが、貴様の剣の腕は本物…悔しいが認めざるを得ん。」

下のスライムと同じリズムで肩を上下させ、荒い呼吸を整えるピエール。
対するメタルライダーは所々に傷が見えるものの、その呼吸は穏やかだ。

―剣の腕は俺が見る限り互角。だとしたら、パワーで劣るピエールが不利か…

「だが何故だ!何故それほどの剣の腕を持ちながら魔に魂を売った?」
「逆に聞こう。弱者の盾となって戦う事に何の意味があると言うのだ?
 私は狩られる側よりも、狩る側につく…弱者は弱者のまま狩られていれば良い。」
「儚い種族であるスライム族を守る…それが我等スライムナイト一派の存在意義。
 己の存在意義を捨て、同族を狩る側に寝返った貴様を許すわけにはいかん!」
「今の私の存在意義は貴様等を狩る事。魔界の力を得た私が脆弱な貴様を叩き潰す!」

どちらが発したか、それとも両方が発したか、雄叫びと共に両者が肉迫する。
最上段から最大の力を込めて振り下ろされる鈍色の剣。

一太刀でピエールの脳天から下のスライムまで一刀両断する
…はずだった剣は、奇妙な液体音とともに天高く舞い上げられた。

「…な…貴様、私の腕を…」

最小限の動きで最短距離を縫い進むピエールの突きが相手の右肘を抉る。
その突きはカウンターとなって、全力で振り下ろされようとしていた鈍色の戦士の
右肘から先を完全に粉砕し、斬り飛ばした。

199 :得獣失獣【10】 ◆Y0.K8lGEMA :2008/03/10(月) 21:46:05 ID:3V5v2oYI0
「そこが邪な力の限界だ。何かを裏切って得た力は、必ず最後に自らをも裏切る。
 騎士は誇りを忘れぬ限り何度でも立ち上がる。そして、必ず最後に勝利するのだ。」

剣を失い、剣を握る手をも失い、短い悲鳴をあげてうずくまるメタルライダー。
ピエールの剣は、曲線を描いて相手の首筋に当てられ…その先の動作は中断された。

「下郎とは言え、剣を失った相手を斬る事は騎士の名折れ。命拾いをしたな。
 貴様なら自分で傷を癒せるであろう?今後は過去を悔い改めて生きるがよい。」

ピエールがその剣を引き、くるりと踵を返す。
傷付いた体を意思で支え、それでも胸をはって仲間の下へ帰る騎士。
―あのピエールのセリフ…どこかで聞いたなぁ。

ごきん

ありえない衝突音。ピエールの雄々しい姿が大きく傾き、そのまま崩れ落ちた。

地に伏した騎士の背後、鉛色の塊を左手に抱えて立つ鈍色の鎧。
その右腕から流れる銀色の液体で地を汚し、ドス黒い復讐の気配を背負っている。

「…なるほど…確かに下郎だな…」
「ピエール!!」

―背後からメタルスライムでぶん殴りやがった…卑怯者め。

「手助け無用!!」

駆けつけようとする仲間を片手で制し、よろよろと立ち上がるピエール。
剣を支えにして立ち上がるも、それで精一杯なのが目で見てわかる。

当然だ。あの硬いスライムで後頭部に痛恨の一撃を喰らったんだ。

200 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2008/03/10(月) 21:46:47 ID:vyBj/uwX0
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