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もし目が覚めたらそこがDQ世界の宿屋だったら九泊目

493 :Stage.5-3 [13] ◆IFDQ/RcGKI :2007/06/22(金) 23:38:30 ID:SKqRKooU0
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 久しぶり、と言われた相手をまったく覚えていないというのは、普通は失礼な話だ。
 ヤツの日常を「夢」という形で見ていた俺は、曖昧だったり、抜け落ちている情報も多
分にある。あまりしたてに出るのは得意じゃないが、最初のうちは「すまん、ど忘れした」
と頭を下げなきゃならん場面もたくさんあるだろう、と覚悟はしていた。

 が、こいつらにその必要はないと思われる。

「さっき見てたけど、お前ゲームもすげえのな。さすが天才?」
「俺らもれんしゅーしてえんだけど、先立つモノっつーのがちょっと無くてさ」
「なあタッちゃん、また貸してくんねーかな〜? 2、3万でいいからさー」
 お決まりの要求パターンだ。ったく、五体満足で衣食住にも恵まれてそうなのに、こい
つらはなんでこんな、場末でやさぐれてるゴロツキみたいなマネをするんだ?
「おい三津原、聞いてんのかよ」
「無きゃそこのコンビニで降ろしてくりゃいいし。な、俺らの仲だろ?」 
 ねとねとした口調がひどく勘に障る。しかも今の話だと、
「アイツ、以前からこんな連中にカモにされてた、ってことか……」
「へ?」

 最初に殴りかかってきた少年が一番近かったから、そいつにした。
 相手を見ることもなく逆手で襟元をひっつかみ、そのまま振りかぶって、
「な……」
 丁度そこにいたお仲間のひとりに適当にブン投げる。一回転して背中から激突し、巻き
込まれたガキ共々、そいつは数メートル先までフッ飛んでいった。
「そんな、片手で投げた……!?」
 残ったひとりが引きつった声を出す。
 右腕を回すとコキッと音がした。思ったより重さを感じたな。
「やっぱちょっと肩にくるな。向こうの半分ってとこか」

494 :Stage.5-3 [14] ◆IFDQ/RcGKI :2007/06/22(金) 23:40:57 ID:SKqRKooU0

 元の世界じゃボストロールにヘッドロックかまして遊んでたからな。
 さすがに「現実」だと制限がかかるようだが、今の自分のステータスが把握できてない
から、かえって加減の取り方がわからん。
 かなり力を抜いたつもりだが、やりすぎたかね。
「悪い。いちおう教会、じゃねえ病院? 連れてった方がいいかもよ。んじゃ」
 お前らみたいなのに構ってるヒマはねえんだよ。

 と――。
「ふ、ふざけんなぁ!!」
 甲高い叫びが上がった。投げ飛ばしたガキが立ち上がる。そいつの手元でチャキっと音
がして、なにかが小さく光った。
「おい……」
 どうやらナイフらしい。待て待て、向こうならともかく、こっちの世界でそんな簡単に
刃物を持ち出していいのか。
「お前、それはまずいんじゃないか? ケーサツとか大丈夫なのかよ」
「黙れ!」
 相手は完全に激昂していて、俺の言うことなんかまるで聞く気なしだ。周囲から悲鳴や
制止の声があがる。

「やべえって栄治、ほんとに捕まるって……うわ!」
 エージと呼ばれたそいつは、止めに入った仲間にまで斬りかかった。
「落ち着いてくれよ栄治!」
「うるせえ! タツミてめえ! 俺にそんな、く、口きいていいと……!」
「なんだよこいつは――」
 わざと力の差を見せつけてやったのに、まるで前後がわかってない。こっちの若者はキ
レんの早すぎだ。
 ラリホーでも使えれば一発で片がつくんだが、「しかしなにも起こらなかった!」って
地文にテロップが流れるだけだろうしな。
 しゃあねえ、殴って気絶させるか。「当てる」となると手加減が難しいんだが――。

495 :Stage.5-3 [15] ◆IFDQ/RcGKI :2007/06/22(金) 23:42:24 ID:SKqRKooU0

「三津原やめろ!」
 今度は俺の方が止められた。聞き覚えのある声に振り返ると、戸田和弘が必死の形相で
俺の腕を押さえている。
「ダメだろ、手ぇ出したら! 今度こそ取り消されるって言ってたじゃねえか」
「取り消される……? なんだよそりゃ」
「なんとかって奨学金、出なくなるんだろ? 学校これなくなるって」
 は? そんなの知らねーぞ!?
「とにかく逃げるぞ」
 軽くメダパニっている俺は、カズヒロに引っ張られるままその場を離れた。
「待ちやがれ、このクソヤロウ! 死ね!」
 エージ少年は、ザキが発動しそうなくらい憎しみのこもった叫びをあげながら追いかけ
て来る。もしやタツミの方があのガキになにかしたのか?
 あんなザコ相手に逃げなきゃならんってのもめっちゃストレスだし、ホントどうなって
んだよ、ったく――! 

   ◇

 俺たちはひとまず、どこかの路地裏に入って相手をやりすごした。
 これだけ建物が密集していると追っ手をまくのも容易だ……が、俺はすでにここがどこ
だかわからなくなっていた。こっちの街って、ホント似たような景色ばかりなのな。
「よりによって一條たちに出くわすとは。ゲーセンに誘ったの、悪かったよ」
「いいけどさ。しかし、アイツらはなんなんだ」
 神妙な顔で謝る友人に、俺はつい、自分が関係者であることを忘れてぼやいた。
「まさか心当たり無いとか言わないだろ? お前って肝心なことはなにも言ってくれねえ
し……。なあ三津原、本当は一條となにかあったんじゃないのか?」
 逆に問われる。そんなの俺が聞きてーよ。

 正直、1分1秒でも惜しいところだが、俺は思い切ってカズヒロに聞いてみた。
「あのさカズ、いきなり変なこと、聞くけどさ」
「お、おう。なんだ?」
「俺は……『三津原辰巳』ってヤツは――そんなに特徴的な人間か?」

496 :Stage.5-3 [16] ◆IFDQ/RcGKI :2007/06/22(金) 23:44:03 ID:SKqRKooU0

「そりゃそーじゃねえ? 本読むのメチャクチャ早えーとか、見た物ぜんぶ写真みたいに
覚えられるとか。言っちゃ悪いがちょっと普通とは違うと思う」
 やっぱりか!
 ユリコが言ってた「忘れるなんて珍しい」って言葉も、アイツらが天才呼ばわりしてた
ことも、これで納得がいった。俺とは少し方向性が違うようだが、ヤツも「思い出す」に
類する特技を持っているらしい。
「うちみたいな進学校で、満点以外取ったことねえヤツが他にいるかよ」
 しかも遠慮なくフルで能力発揮しまくりかよ。
 となると、さっきの「しょーがくきん」ってやつも、たぶんアレだろ。
「それで国とかそういう上の方から、特別な援助金が出てたりするのか」
「俺はよく知らねえよ。お前んち、一度も学費払ったことないって聞いてるけど」
 マジかーッ。これじゃうちと一緒じゃねえかよ!


 嫌なことを思い出す――。
 勇者オルテガの名前のせいで、うちはやたらと国王から厚遇されていた。親父が死んで
からさらに、高額の生活補助金まで支払われるようになった。
 でも魔王討伐に「失敗」した勇者の家だぜ? そんなのやっかまれるに決まってる。
「……この家はどうも、風の突き当たりになっているみたいねぇ」
 直しても直しても割られる窓ガラスを、おふくろは困ったように見つめていた。じじい
は出歩かなくなったし、俺の友達は全員「敵」か「他人」でしかなくなった。
 俺が周囲を、実力で黙らせるしかなかったんだ。

 逆に俺が「夢」で知っている「三津原辰巳」は、学業も運動も人並みで、一般的な家の
生まれという設定だった。おとなしくて目立たない少年だが、人当たりはいいのでいじめ
に遭っていることもない。
 特に問題は無いが、強いて言えば父親が単身赴任とかって遠方勤務で留守がちの上、母
親が子供に無関心で少し寂しい家庭だ、とかそんな程度。
 ごく平凡なそこらの学生、のはずだった。

 なのに「夢」と「現実」がズレてる。俺がなにか大きな勘違いをしているのか――?

497 :Stage.5-3 [17] ◆IFDQ/RcGKI :2007/06/22(金) 23:46:26 ID:SKqRKooU0

「あ、俺バカだ!」
 カズヒロがいきなり叫んだ。内側に向いていた意識が引き戻される。
「完全に振り切ったら、アイツらお前の家の前で待ち伏せするに決まってるよな?」
 うへー? あのキチ(ピー!)君、タツミんちも知ってるのか。
 カズヒロは眉根を寄せて考え込むと、すぐに「よし」とうなずいた。
「俺が引きつけとくから、お前先に帰っとけ」
「え、ちょっと――」
「いいか、お前は顔を出すなよ。大事になるから警察とかにも捕まらないように!」
 止める間もなく行ってしまう。追いかけていいのかどうか迷ってるうちに、カズヒロは
雑踏の中に紛れてしまい、俺はぽつんと一人、薄暗い路地裏に取り残された。

「おーい……こっからどうやって帰れと」
 拝啓、母上様。
 アルスはただいま、異世界で迷子になりました。

   ◇

 とにかく帰ろう。住所はわかってるから、誰かに聞くのが早いよな。
 路地から表を観察し、エージ少年らがいないことを確かめてから出ていった。
 最初に近くを通りかかったオッサンを捕まえる。
「あの、すみません」
「ん?」
 頭のてっぺんが横にシマシマになっているオッサンは、あからさまに迷惑そうな顔を向
けて来た。
「道に迷ったんですけど、教えてもらえないかと――」
「忙しいんで他の人に聞いてくれる?」
 足を止めることさえなく、スタスタと行ってしまう。
 ずいぶん淡泊な反応だ。そんなに忙しそうに見えなかったが。

498 :Stage.5-3 [18] ◆IFDQ/RcGKI :2007/06/22(金) 23:47:40 ID:SKqRKooU0

 まあ人口の密集度はすさまじい世界だ。すぐに別な人間に声をかける。
 今度はまじめそうな雰囲気の、年配の女性だ。
「すみません、道を――」
 が、その女なんか目も合わせようとしない。いきなり歩調が早くなって逃げるように離
れていく。
 なにそれ。俺そんな不審人物? 慣れない反応に戸惑うが、とにかく時間がない。合間に
携帯のリダイアルを続けているが一向につながる気配がないし。
「ちょっと! 道をですねっ」
 次にもう少し若い女を捕まえた。今度は俺のウケの良さそうな20代くらいのお姉さんで、
案の定、彼女は変な顔もせず微笑んでくれた。
「どうしたの?」
「はい、あの、道を尋ねたくて」
 住所を告げる。彼女は首をかしげて「ごめん、わからない」と言った。
「交番に聞いた方が早いんじゃないかな。すぐ近くだし、案内するよ」
 コーバンって、ケーサツの詰め所のことだっけ?
「いやあの、ケーサツはまずいっていうか……」
 途端に相手の顔が険しくなる。
「ああ、やっぱり。もしかしてと思ったけど、あんた家出してるのね」
「はぁ?」
「近頃のガキはホントどうしようもないわ。さっさと帰りなさい、かまってられない」
 厳しい口調で言い捨てて、やたらかかとの細い靴をカッカッと鳴らしながら去っていく。
 だから、その家に帰れなくて困ってるんだってば!

「なんだかなー……」
 そりゃ向こうでも、話しかけても冷たい反応を返されることはあった。だがたいがいの
街人は、きちんとこちらを向いて丁寧に情報提供してくれたものだ。
 それに比べてこっちの人間は、冷淡すぎやしないか。
 他人のことなんか、本当にどうでもいいみたいな……。

499 :Stage.5-3 [19] ◆IFDQ/RcGKI :2007/06/22(金) 23:49:12 ID:SKqRKooU0

 ふるっと震えがきた。この時間にもなると一気に冷え込むようで、肩にひっかけていた
だけの上着の前を合わせる。
 日の暮れた街は、たいまつやランプとはまるで違う白く冴えた光で溢れかえっていて、
なにもかもが作り物めいて見えた。
 作り物は、向こうの世界のはずなのに。
「なんでつながんないんだよ、タツミの野郎……」

 
「あはははは!」
 いきなり後ろから笑い声が聞こえた。
 驚いて振り向くと、一人の細身の少年が立っていた。
 俺と同い年か、少し上くらいだろうか。ダフッとした黄色のシャツを着て、首回りや両
腕に幾重にも派手なアクセサリを巻きつけている。
「いや失礼。ここは場所が悪いんですよ。さっきみたいに家出少年か、キャッチだと思わ
れちゃうんですよね。もう1本先の表通りに出れば、また反応も違いますよ」
 少し長めの茶色の髪をかき上げる。チャラチャラした格好だが、エージたちよりはずっ
とまともそうだ。
「さっきの立ち回りを見て、もしやと思って追いかけてきたんですが……。良ければ僕が
家までお送りしますよ?」
「それは助かるが……あんた誰だ」
 タツミの記憶にはないし、相手も知り合いというわけではなさそうだ。
「そうですね――今は詳しいことは秘密にしておきますよ」
 唇に人差し指を立てて、彼は人好きのしそうな笑みを浮かべた。
「あなたも移行が完了しないうちは、簡単に素性を明かさない方が賢明でしょう」
 移行……? って、まさか!
「お前も『向こう』の人間なのか!?」

「ええ。僕もまだ1ヶ月くらいですけどね」
 彼の左耳で、小さなピアスがきらりと光った。
「ここではショウと呼ばれてます。どうぞよろしく」

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