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もし目が覚めたらそこがDQ世界の宿屋だったら九泊目

1 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/04/02(月) 02:57:50 ID:XgSwbg4B0
このスレは「もし目が覚めた時にそこがDQ世界の宿屋だったら」ということを想像して書き込むスレです。
「DQシリーズいずれかの短編/長編」「いずれのDQシリーズでもない短編/長編オリジナル」何でもどうぞ。

・DQ世界であれば宿屋でなくても、すでに書かれているDQシリーズでも、大歓迎です。
・基本ですが「荒らしはスルー」です。
・スレの性質上、スレ進行が滞る事もありますがまったりと待ちましょう。
・荒れそうな話題や続けたい雑談はスレ容量節約のため「避難所」を利用して下さい。
・レス数が1000になる前に500KB制限で落ちやすいので、スレが470KBを超えたら次スレを立てて下さい。
・混乱を防ぐため、書き手の方は名前欄にタイトル(もしくはコテハン)とトリップをつけて下さい。
・物語の続きをアップする場合はアンカー(「>>(半角右アングルブラケット二つ)+半角数字(最後に投稿したレス番号)」)をつけると読み易くなります。

前スレ
もし目が覚めたらそこがDQ世界の宿屋だったら八泊目
ttp://game10.2ch.net/test/read.cgi/ff/1162106116/

まとめサイト(書き手ごとのまとめ/過去ログ)
「もし目が覚めたら、そこがDQ世界の宿屋だったら」保管庫@2ch
ttp://ifstory.ifdef.jp/index.html

避難所「もし目が覚めたら、そこがDQ世界の宿屋だったら」(作品批評、雑談、連絡事項など)
ttp://coronatus.sakura.ne.jp/DQyadoya/bbs.cgi

123 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/04/10(火) 18:24:58 ID:NTiBxAkrO
鈴木さんガンガレ

124 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/04/10(火) 20:59:21 ID:iv+GzQ0hO
田中www

125 :企業戦士鈴木の記録 ◆9iJ0M9nf3E :2007/04/11(水) 14:25:19 ID:oMmlikfU0
4月11日 晴れ

まさかここは…。いやまさかそんな事が現実に…。



俺様日記

4月11日 あったけえ

鈴木さんがマジやべえ。これぜってー5月病だよ。ちょっと早いけどあの人もう歳だから
ズレてんだよ。ヤバイくらい元気無いし。ますますしょぼくれてるよ。
しゃーねー俺が元気になるイベントでも考えてやるか!フッフッフ

126 :暇潰し ◆ODmtHj3GLQ :2007/04/11(水) 15:42:33 ID:HqWB79w60
またまた失礼します。

合作についてですが、
タカハシさんに避難所とは別に話し合いをする場を用意して頂きました。
これはネタバレを防ぐためなので、興味のある方以外は見ないようにして下さい。
見たい方は避難所の合作スレにURLが載っていますので、そちらでどうぞ。

以前に避難所に合作スレを立てましたが、そこを見てもネタバレする事はないので、
避難所は通常通り利用してください。

合作の話し合いが徐々に始まってますが、途中からの参加でもおおいに歓迎します。
定期的に話し合いの内容をまとめた物をテキスト等でアップしていこうと思うので、
これから参加しようと思われる方はそちらをご覧下さい。
参加と言っても、通常どおり名無しでの書き込みでも構いません。
  「猫耳キャラ出して」
なーんて一言でもオッケーです。

タチコマ曰く、
「異文化との交流を描くのはいつの時代にもエンターテインメントの基本なんだねぇ」
らしいです。
このスレのテーマもそれに当てはまりますよね。
そして基本は王道とも言えるでしょう。
合作としての王道エンターテインメントを成功させる為にも、参加をお待ちしています。

127 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/04/12(木) 12:20:07 ID:7Ks+WBEb0
鈴木さんショック受けてる。ガンガレ鈴木!
そして田中、ノーテンキもいいところwwww

128 :タカハシ ◆2yD2HI9qc. :2007/04/12(木) 12:38:10 ID:nqIEimQ70
お疲れ様です。
ここまでまとめました。
ttp://ifstory.ifdef.jp/index.html

>>126 暇潰しさんが書いてある通り、10スレ記念作品専用掲示板が出来ました。
記念作品が完成するまでの、期間限定です。
ttp://bb2.atbb.jp/ifdqstory/
誰でも書き込めるようになっていますので、どうぞご参加ください。
設置報告が遅くなってしまい、申し訳ありませんでした。

129 :リサーチ 1/12 ◆IFDQ/RcGKI :2007/04/13(金) 03:13:19 ID:xUpZpA5m0
 前回 >>42-53
【Stage.3 リサーチ】

 ----------------- Real-Side -----------------

「ハバネロもいいが、かっぱえびせんってのもまた……あれ? もしもし? おーい!」
 なんだよタツミの野郎。話の途中で携帯ブチ切りしやがって。
 ……しかも繋がんねえし。まめちち発見記念に、大サービスでいろいろナビってやろう
と思ったのにさ。
「まあ俺もヒマじゃねえから、いいんだけどよ」

 俺はメシ代わりにスナックを平らげ、まとめてコンビニの袋に突っ込んだ。えーと、
こういった不要物の処理システムは、かなり整備されていたはず。
 狭い公園内を見渡すと、隅の方に白いカゴが2つ並んで設置されていた。緑に白字で
「燃えるゴミ」「燃えないゴミ」と書かれたプレートが取り付けられている。一応「燃
えるゴミ」の方に袋を放り込む。

「あれ、タツミ? なにやってんの?」
「ハイィッ!?」

 ――おっとぉ。
 なまじ「俺はタツミだ」としつこいくらい自分に言い聞かせてきたから、タツミという
単語に過剰反応してしまったな。
 声をかけてきたのは若い女だった。ショートカットの小柄な少女で、ポカンとしている。
「あ、ごめん。びっくりさせたかな」
「いや、俺の方こそ悪かった。……カタオカ、ユリコ?」
 頭の中からヤツと関係する人間のリストを引っ張り出す。夢の中で断片的に拾った記憶
のつなぎ合わせだから心許ないが、確か同じ学校に通う人間で、家も近所だったはずだ。

130 :リサーチ 2/12 ◆IFDQ/RcGKI :2007/04/13(金) 03:14:14 ID:xUpZpA5m0

 っていうか「片岡百合子」って、ヤツのガールフレンドじゃなかったか!?
 嘘だろー……。確か今は「春休み」とかいう長期休暇期間で、知人に会う確立が低い時
期だから安心してたんだが。
 俺もヤツと同じで、こっちの人間関係をきっちり把握してるわけじゃない。休みの間に
電話などで間接的に確認し直しておく予定だったんだが、いきなりこんな濃い間柄の人間
と出くわすとはな。
 エリス似のカワイイ子だから引き継ぐのは構わないんだが、さぁて、どうしたものか。

「休みは滅多に外に出ないのに、珍しいね」
 俺が思考を巡らせる間に、彼女は疑いもせず寄ってきた。それからふと首をかしげる。
「さっき“オレ”って言った?」
 ヤツの一人称は「僕」だっけか。いいや、のちのち面倒だからここで変えちまえ。
「ちょっとイメチェン。おかしいか?」
「う…ん、正直、違和感はあるけど。まあ、その方が取っ付き易いからいいんじゃない」
 なんだか歯切れの悪い言い方だ。彼女的には「僕」の方が好みなんだろう。

「それよりもさ! ヒマしてんなら付き合ってくんない?」
 ユリコは話題を切り替えるようにパンっと手を合わせた。さっそくデートktkr!
 この際うまく誘導して、あちこち案内させるのも手か。
「いいよ。どこに?」
「ガッコ。昨日の補習ん時に、教室に携帯忘れちゃって」
 やっぱ落ち着かないのよねえ、と苦笑する。なんだ、デートじゃねえんかよぉ。

 でも学校なら本や資料も豊富だろうし、この世界のことを調べるには丁度いいか。
 そこに行けば例の、なんだっけ、調べ物するのに便利な……「インターネット」!
あれも使えるだろうし。
 そう、タツミの家にはインターネットがない。俺の夢研究が正しければ、16歳の少年
が住む家には、当たり前にある設備のはずだが。

131 :リサーチ 3/12 ◆IFDQ/RcGKI :2007/04/13(金) 03:15:09 ID:xUpZpA5m0

 改めて考えると、タツミんちって、ちょっと変わった家なのかもなぁ。
 なんて思って、俺はもう一度マンションを振り返った。
「ん?」 
 4階の自分の家のベランダに、ヤツの母親が立っている。じっとこちらを見下ろしてい
たが、俺と目が合うと、ふいっと中に引っ込んでしまった。
 どうしたんだろ。用があんなら声をかけてくれりゃいいのに。
 なんか感じの悪い親だよなぁ。ぶっちゃけうちのおふくろの方が若くて美人だし。
 ま、あんな親父にいつまでも入れあげてるバカ親よりゃ、よっぽどマシだからぁ?
贅沢は言わねえけどさ。


 近くのバス停から、がらがらに空いたバスに乗り込む。
 道順はけっこう単純だ。10分ほど揺られていると、学校の名前がそのままついた停留所
が出てきたので、そこで降りる。次は一人でも迷うことはなさそうだ。
 初めてのバスだったから、「次停まります」のボタンが押せなくて悔しかったり(俺も
ピンポーンって鳴らしたかったぁ!)「定期券」がわかんなくて、ユリコにうまーく言っ
て財布から出してもらったりと、いろいろあったがひとまず無事に到着。

 ヤツの通う学校はなかなか立派な門構えで、他の建物と比べると歴史を感じさせるよう
な古びた風情があった。
 門の横に掲示板があり「合格者」と墨字で書かれた下に3桁の数字が羅列されている。
 こっちにも「試験」ってあるんだもんな。しかもなんか、やったらペーパーに偏った査
定方法だったはず。向こうでは常にトップ張ってた俺だが、剣術や呪文なんかの実技の方
が得意だったし、こっちじゃどうなるかな。
 本物のタツミに合わせて、勉強もスポーツも真ん中くらいにしといた方が、無難っちゃ
無難なんだろうが……。
「ちょっと、置いてくよ?」
「あ、待てよユリコ!」
 置いてかれたら自分の教室わかんねーっての。

132 :リサーチ 4/12 ◆IFDQ/RcGKI :2007/04/13(金) 03:16:13 ID:xUpZpA5m0

 ユリコは携帯を取ってくるなりスゴイ勢いでボタンを操作し始めた。たまっていた友達
からのメールに返信しているらしい。かけた方が早いんじゃないか。

 ちなみに、俺が今持っている携帯は通話機能しかない。
 カメラもなければインターネットにも未対応なのでメールも当然ムリ。折りたたみ式の
ツルッとした黒いボディで、内側のモノクロ画面に表示できるのは文字のみだ。
 しかも裏側に、色あせてほとんど白くなってるロトのマークのシールとか貼ってるし。
 タツミの私物だが、はっきり言ってダセぇ。「着うたフル」とか楽しみだったのに。

「お待たせ。えーと、図書室だっけ?」
「いや、先にインターネット」
 俺が最初に調べたいことは、学校の図書には載ってなさそうだからな。
「じゃあ職員室でコンピュータールームの鍵借りないとね」
 ユリコはさっさと前を歩きだした。俺が命令するまでジーッと待ってるエリスと違って
自発的に行動してくれる子で助かる。

 んで、新しく出てきた単語「職員室」。鍵の管理をしているなら、たぶん講師や管理側
の人間の詰め所のことだろう、と予想したら正解だった。イエーイ。
 向こうにいた間も、「夢」に出てきた知らない単語は、そのあとの展開と照らし合わせ
ながら意味を覚えてきた。「情報」を集めて「推測」するってのは、冒険中は当たり前の
ことだったから慣れたもんだ。

 まったく、旅の間はずっと脳みそフル回転だったからな。
 そこらのガキが歌ってた「お日様ボタン〜♪」とかのふざけた歌詞が、古代文明の大い
なる遺産にして伝説の巨大迷宮ピラミッドの謎を解くヒントだなんて――
 普通は絶っ対わかりませんからぁ!
 俺がちょっと判断をミスれば、仲間の命を危険にさらすことになるし。ああ俺バカじゃ
なくて良かった……なんて、グタグタに疲れながら思ったもんだ。
 
 でもこっちはそんなキバんなくても平気なんだよな。ビバ現実世界!

133 :リサーチ 5/12 ◆IFDQ/RcGKI :2007/04/13(金) 03:20:04 ID:W5bWO3XL0

「――さっきから難しい顔したり、ニタニタしたり、どうしたの」
「気にすんな。それより、これどーやって使うんだっけ?」
 俺はユリコに案内されたコンピュータールームの一席で、ついに「パソコン」と対峙し
ていた。はい、使い方はサッパリです。
「忘れたの? 珍しい。まあ家にパソコン無いからね……貸してみて」
 彼女は俺の隣に立って、手元にあった線が付いた丸いヤツを動かした。画面の中の矢印
が一緒に動く。あとデコボコがついた板状のものをカタカタやったら文字が出てきた。
 指示をするのは丸いの、何か記入するときはこっちの板だな。よし覚えた。
「パスワードっと……繋がったよ。何を観たいの?」
 そりゃ「無修正」とか「動画」とか「18歳未満は閲覧禁止」とか!☆
 なんて女の子にゃ頼めないしなぁ。っち。

 ――いやまあ、それは今度として。
「ドラゴンクエスト3ってゲームについてなんだけど」 
「ゲームぅ? ああ、ドラクエ3だけは好きだって言ってたっけ。攻略方法?」
「いや、内容は嫌っつーほど知ってるから、いい。なんつうのかな、位置づけというか、
ゲームそのものの情報というか、たとえば、実際に作った人間のこととか」

 俺が「1ゲームの登場人物に過ぎない」という残酷な事実を、認識するために。
 
「じゃあウィキがいいかな。『ドラゴンクエスト3』っと……。はい出たよ」
「ありがと。悪い、ちょっと集中していいか? すぐ終わるから」
「ん…じゃ、あっちのパソで私もなんか観てるよ。終わったら声かけて」

 彼女が離れてから、俺はひとつ深呼吸して「ドラゴンクエスト3」という項目のページ
を読み始めた。知らない用語が多すぎていまいち理解しきれないが、「システム」「作品」
なんて単語を目にすると、本当に俺の世界は作り物なんだな、と思い知らされる。

 初期型の売上本数、国内だけで380万本。リメイクを含めるとそれ以上。
 そんな星の数ほどの「勇者」の中で……俺の存在に、どれだけの意味があるんだろう。

134 :リサーチ 6/12 ◆IFDQ/RcGKI :2007/04/13(金) 03:20:39 ID:W5bWO3XL0

 ----------------- Game-Side -----------------

 翌日。
 夜中にアルスの電話で叩き起こされて少々寝不足だったが、僕は予定通り家を出た。
 街の入り口に行くと、昨日契約を交わした仲間たちが待っていた。

 現在の僕の仲間は3人。戦士、僧侶、魔法使いと、ごく基本的な構成だ。
 戦士は前述でも登場しているサミエル。
 22歳でアリアハン第二近衛隊の副隊長を勤めるエリートさんだ。剣術もなかなかの腕前
だそうで、「新入りの指南役がいなくなるなぁ」と彼の上司は残念そうにしていた。
 もう一人の仲間は宮廷司祭見習いの32歳、ロダム。
 司祭職……つまり僧侶は年功序列の職業なので、この年齢の彼もまだ見習いだそうだが、
実力は「Lv.16」と、パーティーの中で一番高い。

 そして問題の魔法使い……エリス。
 アルスの元カノで、「こないだ捨てた」なんて不穏なことを聞いていたから、初見の時
はドキドキしたもんだけど。
 彼女はアルスに対して、まったく怒っていなかった。それどころかすこぶる低姿勢で、
別れた原因も自分が悪いからと、会うなりいきなり謝られた。
 しまいには「こんな私を旅に加えてくださるなんて!」などと号泣する始末。
 他人の色恋沙汰に首を突っ込む趣味はないけどさ、なんとういうか……やっぱりこれは、
アルスが悪かったんじゃないのかなー。

 素直だし、僕の幼なじみとちょっと似ていてカワイイ子だし、一瞬マジに付き合っちゃ
おうかな、とかとか、頭をかすめたんだけども。
 なんだか友達の彼女とこっそり浮気しているような、妙に後ろめたい気持ちがしたので、
「ここは友人からリスタート」ということで話をまとめておいた。

 そんなこんなで僕もいよいよ冒険の旅へ。
 もちろん目指すは、かつて誰も為し得たことのない、超最速クリアだ。

135 :リサーチ 7/12 ◆IFDQ/RcGKI :2007/04/13(金) 03:21:21 ID:W5bWO3XL0

 で、最初の目的地はロマリア。
【レーべ > 岬の洞窟 > ナジミの塔(盗賊の鍵)> レーべ(魔法の玉)> いざないの洞窟】
 などという序盤のまどろっこしい順当ルートは、さっそく無視させていただきましたw

 実はエリスちゃん、つい半年ほど前までロマリアに留学していたそうで。
「もちろん私のルーラで行けますわ。お任せ下さい勇者様」
 とのこと。ショートカット第二弾。まだ二日酔いは抜け切ってないんだけど、頑張った
甲斐があったなぁ。
「では勇者様、私から離れませんようお気を付けくださいませ」
 頭にバカがつくほど丁寧に言いつつ、エリスがルーラの詠唱に入った。
 彼女を中心に、地面に複雑な文様の光の円が浮かび上がる。
 初めて呪文を目の当たりにした僕は、内心かなり感動した。やっぱりここはドラクエの
世界なんだな、と再認識する。


 軽い酩酊感を覚えたあと、目を開けると世界は一変していた。
 僕らは森の中にいた。アリアハンとはまるで違う種類の植物が茂っていて、湿度が低い。
カラッと晴れ渡る青空と、爽やかな風。
 木立の向こうに、巨大な建造物がどーんと構えていた。白い頑強な城壁が左右に長く続
き、二つの高い塔が天空に高く突き出していて、その先端には、ここからでも視認できる
くらい大きな旗が翻っている。

 赤地に黄金の獅子の紋章を掲げる、王都ロマリア。
 現在、世界の中心はここと言ってもいいような、大きな都市だ。

136 :リサーチ 8/12 ◆IFDQ/RcGKI :2007/04/13(金) 03:22:08 ID:W5bWO3XL0

 3階建ビルに匹敵する巨大な門の前に、二人の兵士が直立不動で番をしていた。ヨロイ
も上等とわかる凝った意匠で、彼らは僕たちが近づくと、長い槍を素早く交差させた。
 ロダムが先頭に出て、柔和な笑顔を向ける。
「我々はアリアハンより参りました。魔王討伐のために旅立った勇者アルスの名は、こち
らにも届いておられるかと存じますが?」
「おお、アルス様ご一行でございましたか!」
 厳めしい顔をしていた兵士の表情が、アルスの名を聞いた途端に明るく崩れた。最敬礼
でサッと道を開け、高々と「開門」を告げる。
 勇者アルスの名前って実はすごいんだな。本物はアレだってのにさー。


「さっそく王様にお会いください」と案内をされかけたのを、僕は「失礼になるので旅の
汚れを落としてから」とやんわり断った。
 それは建前で、真っ直ぐ「ある」場所に向かう。訝しげな顔をしている仲間たちを連れ
て、街の南西にある大きな建物へ。

 武器・防具屋と道具屋のテナントが並んでいる向かい側から、賑々しい音楽が響いてく
る。その先の大きな階段を降りていくと、そこがかの有名な「カジノ」。
 モンスター同士を戦わせ、その勝敗を予想する賭博場だ。
「ほぉ、こんなところに……。よくご存じでしたね、勇者様」
 サミエルが感心したように僕を見る。そりゃ予習してるからね。プレイ経験があるって
だけじゃなく、実際、アリアハンを出る前に城内の図書館に寄って、ロマリアについて調
べてきているし。

 奥の「受付」と書かれたコーナーの前に人だかりができていた。大きな黒板が立てられ
ていて、男の人が二人がかりでモンスター名とそのオッズを、ひっきりなしに書いたり消
したりしている。
 その隣には一回り小さな黒板があり、本日の結果の一覧が出ていた。
 よーし、これがあれば何とかなる。結果一覧をザッと見て、受付カウンターへGO。

137 :リサーチ 9/12 ◆IFDQ/RcGKI :2007/04/13(金) 03:22:57 ID:W5bWO3XL0

 現在の所持金は、仲間から預かった分も合わせると約300ゴールド。
 僕は次の試合の2番目に高いオッズのアルミラージに、所持金の全額を賭けた。
「えっ!? ちょ、ちょっと勇者様!!??」
 仲間たちが目を白黒させるが、まあまあと手を振りつつ賭札を購入してしまう。

 ――2時間後。

 資金を20倍ほどに増やした僕たちは、カジノ内のバーの一角を陣取っていた。
 もはや声も出ない仲間たちに、テーブルに積んだゴールドの山から4分の3ほど取り分
けてあげる。
「さすが勇者様ですわ……」
 エリスなんか目をキラキラさせているが、種明かしをすれば、モンスターの強さや特性
を「数値」としてよく知った上で、実際の戦績表から統計を取ったら、ほとんど外すこと
もないってワケ。大したことじゃない。
 それよりも、大事なのはこのお金の使い方だ。
「ちょっとみんなに頼みがあるんだ。国王様には僕が一人で会ってくるから、その間に、
みんなには『金の冠』というものを取ってきてほしい。このお金で腕の立つ傭兵を雇える
だけ雇って、とにかく最短でね」
 どうせ「Lv.1」の僕がついていったって、足手まといになるだけだもんね。

 僕はロマリアから目的地までの地図を、羊皮紙に描いてサミエルに渡した。
ルーラで来たので世界地図を取り損なっているんだけど、頭に入ってるから問題ない。
 北上してカザーブに行き、そこから西に向かうとカンダタが根城にしている「シャン
パーニの塔」がある。
「この最上階のカンダタ一味を倒せばOK。たださっきも言ったけど、絶対に殺さないこと。
うるさく命乞いしてくるはずだから、見逃してやってね」
 カンダタとその子分の特技についても説明しつつ、そこは何度も念を押す。
 あとからまた出てくるキャラだから、殺してしまったりするとストーリーが大きく崩れ
てしまう。そうなると、僕が知っているシナリオからも逸脱し、その後のショートカット
が使えなくなる可能性があるから、ここは慎重に。

138 :リサーチ 10/12 ◆IFDQ/RcGKI :2007/04/13(金) 03:24:40 ID:ZTzKoKNG0

「あと、こっちはシャンパーニの塔。出入口や階段が見つかりにくいから気をつけて」
 塔の内部図まで書き出した僕に、さすがにサミエルやロダムは「こいつはなんでそんな
ことを知ってるんだ?」という顔をしていたけど、
「昨日の夜、ルビス様からお告げがあったんだよ」
とか言っておいたら、なんだか納得したみたいだった。ルビス様バンザイ。
 半端な加護で迷惑こうむってる女神様だし、これくらいは利用させてもらおう。


 3人を送り出してから、僕は一人でロマリア城に向かった。
 正門の番兵にはすでに話が通っていたようで、僕はすぐに入城を許可された。

 そして入った瞬間に、思わず引きそうになった。目に痛い真っ赤な毛氈が、入り口から
遙か先の階段まで一直線に続いているその両サイドに、きれいなドレス姿の女性たちがズ
ラーッと並んでいたのだ。僕が歩くのに合わせてお辞儀をしていく。
 歓迎の意……というよりは、権力を見せつけたいんだろうね。気後れしたら負けだ。

 階段を上がると、そこが謁見の間だった。王の前まで進んで膝を折る。サミエルに事前
に教えてもらっていた「騎士の礼」というやつだ。
 ロマリア王は思ったよりガタイのいいオジサンで、豊かなヒゲをなぜながら、僕を上か
ら下まで一通り眺めた。
「勇者オルテガのご子息、アルス殿。よくぞ我がロマリアに参られた」
 王の声が広間に響いた。大勢の人がいるのに、他に物音ひとつしない。教育が行き届い
ているというか、この王様も一筋縄ではいかない御仁のようですね。

 うっしゃ、こちらも気合い入れてご挨拶させていただきましょう。僕のターン。
「わたくしも特別のご歓待を賜り、身に余る光栄に存じます。陛下のご聖采はかねがねう
かがっておりましたが、聞きしに優る素晴らしい都ですね。まさに明君の賢政隅々までゆ
き渡りし様、ただただ感嘆の声を漏らすばかりです」
 必殺褒め殺し! さらにとっておきの営業スマイル発動! ここでターンエンド。

139 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/04/13(金) 03:32:14 ID:WNH1LDDIO
支援

140 :リサーチ 11/12 ◆IFDQ/RcGKI :2007/04/13(金) 04:18:01 ID:bvfQCODq0

 王座の左右に控える大臣たちが「ほぉ」と小さく声を上げた。
「……ふむ。勇者殿に誉められると、儂も鼻が高いのぉ。ゆるりとしていかれよ」
 王様もまんざらでもないようだ。偉そうにふんぞり返っている相手は、とにかくヨイ
ショしとけば間違いない。

 そのあとは予想通り、派手な歓迎パーティーに突入した。
 僕はあんまり騒がしいのは好きじゃないので、仕事でしたくもない接待に付き合わされ
てるのと同じことなんだけど、今頃モンスターを相手にしている仲間たちには、ちょっと
申し訳ない。
 王様の機嫌がいいときを見計らい、僕は仲間たちが事情があってロマリアを離れている
ことと、戻ってきたら改めて紹介したい旨を伝えた。王様は二つ返事で承諾。
 その時には、金の冠奪還の記念に、さらに盛大なパーティーが開かれることだろう。

 そのついでのように、僕は本来の用件を切り出した。
「ところで陛下、あとで書庫を拝見せていただきたいのですが、よろしいでしょうか」
「書庫とな?」
 ワインを片手に鼻歌交じりだった王様が、怪訝な顔をする。
「ええ、古い歴史を持つ由緒正しきお国ですから、その蔵書もさぞかし素晴らしいので
しょう。ぜひ一度、この目で見てみたいと思っておりました」
「さすが勇者殿は篤学でおられるの。好きに見ていかれよ、あとで案内させよう」
 良かった。だってアリアハンのお城にはロクな本が無かったんだもん。

 アルスと「神竜の間」で最初に話し合ったときには、お互いに携帯を通して丁寧なフォ
ロー、つまり「ナビ」をすると約束していたんだけど――。
 向こうにその気がないのもあるけど、結局いちいち聞いてる方が面倒なんだよね。自分
で学んでしまった方が早い。ドラクエは書籍に関する表現が多い世界だから、そういった
意味では知識を得るのが楽なゲームだ。
 アルスからのコールがほとんどないのも、きっと彼も同じ結論を出したからだろう。

141 :リサーチ 12/12 ◆IFDQ/RcGKI :2007/04/13(金) 04:19:36 ID:bvfQCODq0

 ところで、本は量より質が大事。ただ小難しいことが書いてあればいいってもんでもな
く、読み手のレベルと目的に合った本こそが、その人にとっての「良書」だ。

 パーティーがお開きになってから、僕はすぐに書庫に案内してもらった。
 ロマリアの王様が遊び人、って事前知識があったから目をつけていたんだけど。いやー
あるわあるわ、今の僕にとってのお役立ち本の数々♪ よだれ出そう。
「まずは『宮廷マナー入門(全2巻)』『公文書の書き方(全5巻)』『正しい帝王学の
ススメ(全12巻)』と。これもいいな『今日からあなたもカリスマ国王(全3巻)』『常
勝必至の兵法150選(全22巻)』。あ、全部あっちのテーブルに運んじゃってください」
 案内役のお兄さんが手伝いを申し出てくれたので、僕は遠慮なく彼の手にどんどん本を
積み重ねていった。
「あの、勇者様……これ全部、今から読まれるんですか?」
「もちろん。大丈夫、眠くなる前に片付けるから」
 めぼしい本はこのくらいかな。テーブルに移動する。
 さっそく1冊目を手に取り、右手の親指の腹でパラララっとぺージをしごくこと数回、
「次の本…と」
「えーっ!? 今のでもう読み終わったんですか!!??」
 うん、これでだいたい頭に入っちゃうんだよね、僕。

 ラビッド・リーディング――「速読」ってやつ。
 ちなみに「直感像記憶力」という、目で見た情報を細部にいたるまで写真のように記憶
できる能力もあったりする。
 勇者専用の呪文に「思い出す」というのがあったけど、つまりはコレのことなんじゃな
いのかな? 他の人にはきっと、魔法のように思えたんだろうね。

 だからアルスが僕の代わりをすること自体は、無謀ではないのだけれど。
「でもあの人には、あんな『現実』なんて、合わないと思うんだよなー」
 まったく、あっちの世界の何を見て「羨ましい」なんて思ったんだろう。
 こっちの方がずっとラクだろうに。

142 :リサーチ atgk ◆IFDQ/RcGKI :2007/04/13(金) 04:21:18 ID:bvfQCODq0
本日はここまでです。
それにしても10レス以上が平均になりそうなんですが、
「バイバイさるさん」の規制はきついですね……orz

143 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/04/13(金) 09:35:18 ID:yRvbQuZE0
>>142
投下する前の日に「何時頃投下する」って予告してもらえれば
ある程度支援できる…かも

144 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/04/13(金) 15:18:03 ID:FAqDlZFdO

あと一つ一つのレス間隔が短すぎると思う
規制されないように2分はあけた方がいいかもね

145 :企業戦士鈴木の記録 ◆9iJ0M9nf3E :2007/04/14(土) 00:32:11 ID:wqCF0SfU0
鈴木日記

4月12日 雨

正直まだ信じられない。だが今までの情報を整理するとこれ以上の結論を導きようがない。
ここは、本当に信じ難いのだが、元々いた世界ではないようだ。
きっかけは想像もつかないが何かの拍子に飛ばされたに違いない。
出来れば夢であって欲しい。しかしこれは紛れもない現実なのだ。
我が人生53年目にして今初めてどうしようもないくらい途方に暮れている。
妻よ。娘よ。父さんはもうおまえたちに会えないかも知れない…。


田中日記

4月12日 あめ

よっしゃとりあえずしょぼくれた鈴木さんを元気付けるためにパーティを開く事にした!
問題は金が無い事だ。ここの奥さん(よくみるとかなり美人)にこれ以上負担かけるわけにも
いかねーししゃーねーだりーけどバイトでもすっか。
まあ今日は雨降ってるし今いち気分乗らないから明日晴れたら仕事探そう。
明日から本気出すわ。

146 :企業戦士鈴木の記録 ◆9iJ0M9nf3E :2007/04/14(土) 00:38:33 ID:wqCF0SfU0
田中日記

4月13日 くもり

今日から本気出そうと思ったけど太陽が今いちやる気なかったんで俺もやる気でなかった。
鈴木さんは本格的に引き篭もってしまった。やべー俺らマジニートじゃん(笑)
て笑ってる場合じゃねーよ大の男二人の食費も馬鹿んなんねーだろうしこれ以上
ネネさんに迷惑かけれねーいい加減バイト探さなきゃな。
明日から本気の本気で本気出すわ!

147 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/04/14(土) 00:38:37 ID:rwgknXl20
wktk

148 :企業戦士鈴木の記録 ◆9iJ0M9nf3E :2007/04/14(土) 00:44:55 ID:wqCF0SfU0
タカハシさんまとめに追加ありがとうございます!
俺様日記だとわかりにくいので今度から鈴木日記田中日記で更新していきたいと思います。
お手数ですが時間のあるときにでもまとめの方も先頭に加えてくれたらありがたいです。
みなさんめちゃくちゃwktkする面白い大作ばかりなのでこの二人の日記は
肩の力抜いて楽に流し読みできるような軽い感じでできるだけ毎日更新していきたいです。


あと補足でネネさんは某武器商の奥さんとは別人です。

149 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/04/14(土) 02:45:47 ID:FrpNX+jz0
鈴木日記田中日記めちゃくちゃ面白い!
続き期待してます

150 :タカハシ ◆2yD2HI9qc. :2007/04/14(土) 03:49:38 ID:zxt9qcDg0
おつかれさまです。

>>148 ◆9iJ0M9nf3Eさん
田中日記と鈴木日記を別々にまとめてほしい、という事で良いですか?
次回更新時に修正します。

あと告知。
必要になるかもしれないので、スレ専用あぷろだをレンタルしました。
ttp://www.uploader.jp/home/ifdqstory/
気軽にご利用ください。

まとめ作業はしばらくお待ちください。

151 : ◆IFDQ/RcGKI :2007/04/14(土) 07:49:36 ID:jbTnD/BS0
>タカハシ様
お疲れ様です。アプローダーいいですね! 
どんどん便利になっていきますね〜。
いつも本当にありがとうございます。

まとめ作業時に1カ所だけ誤字の訂正をお願いしたいのですが、
>>141の「ラビッド・リーディング」は「ラピッド・リーディング」
の間違いです。お手数ですがよろしくお願いいたします。

152 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/04/14(土) 08:02:39 ID:KeXISqCJO
田中早く本気出せよwww

153 : ◆IFDQ/RcGKI :2007/04/14(土) 11:13:59 ID:bEyfZhFp0
>>143様 >>144
ごめんなさい読み飛ばしてました!
支援のお申し出やアドバイス、ありがとうございます。
今度はもう少し間隔をあけて投稿してみます。
それでも難しかったら、ご支援をお願いします

154 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/04/14(土) 11:21:47 ID:EnD7O7gVO
>>129-142
タツミすげえwwどうりで異世界でも落ち着いてるワケだ
アルスもすごいが、こっちの方が大変そうだな

お互いの彼女の扱いが正反対w

155 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/04/14(土) 13:09:11 ID:gikJuqZx0
最近このスレかなり盛り上がってきてるな
正直どのSSも続きが楽しみで仕方ない
4の人完結効果かね

156 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/04/14(土) 17:04:27 ID:ntI68y/90
田中典型的なニートww

157 :企業戦士鈴木の記録 ◆9iJ0M9nf3E :2007/04/14(土) 18:42:23 ID:wqCF0SfU0
田中日記

4月14日 くもり

今日ネネさんに働こうと思うという事を言ってみた。
そしたらアテがあるから紹介してくれるらしい。マジいい人!
しかもそこ酒場だってさ。なんかよくわかんないけど色んな人が集まる所らしい。
やべー超かわいい子とかと知り合ったらどうしよう。
すげーテンション上がるし!ネネさん超いい人!
それに比べて田中さんはダメだないつまで寝てんだよ…
まあいいやとりあえず今日は心の準備があるから明日そこ行ってみよう。
明日は本気と書いてマジの本気出すわ。

158 :企業戦士鈴木の記録 ◆9iJ0M9nf3E :2007/04/14(土) 18:44:39 ID:wqCF0SfU0
>>150
ええと今の鈴木の日記の所の上に「鈴木日記」と入れてもらって
「俺様日記」の所を「田中日記」と差し替えて欲しいです。
あと二人分はまとめて一日分でOKです。
お手数かけてすいません!

159 :DQVI ◆55fvMgOfnY :2007/04/15(日) 00:12:26 ID:m9WlHn4EO
前回>>76-78参照
 
「嘘…」
 
自分の姿は見えていても映っていないのだ。

事実に耐えられなくなった私は、扉を乱暴に開け、飛び出していった。
 
後ろから主人が驚いた声を出していたような気がしたが、そんなのにかまわず夢中になって走った。
 
凄い形相だった。
自分でわかる、でも町人達は気付かない。
 
そんな私の目の前に、ひとつの立札があった。
つる草に飲み込まれかけている文字を見ると私の顔から血の気が引いた。
 
──トルッカ
 
それは小さい頃プレイしたドラゴンクエストVIの世界にある町だった。
 
頬をつねっても痛かった。
どうやらこの世界は現実らしい。
まぁ、ドラクエVIの設定からいくと、ここは現実世界で…何妥協しているんだ。

160 :DQVI ◆55fvMgOfnY :2007/04/15(日) 00:13:38 ID:m9WlHn4EO
とりあえず今の状況を確認しよう…
 
Eぬののふく
Eコート
 
という感じか(コートはたぶん装飾品あつかいだろう)
しかし…武器がない。
かなり重要な問題だ、たしか下の世界のスライムはかなり強敵だったはず。
某マンガみたく力が強くなっていたり視力がよくなっていないし。
 
──とりあえず両手を広げて走るだけじゃ倒せないよな
 
そんな事が結論として出たが…何を考えているんだ、私。
 
とりあえず北にある夢見る井戸へ行こう。
考えてどうなるかって問題じゃない。
幸いにも攻撃呪文を使う敵はいなかったはずだ。
そう思い、姿を見えないのをいいことに薬草をいくつかパクッていった。

161 :DQVI ◆55fvMgOfnY :2007/04/15(日) 00:15:51 ID:m9WlHn4EO
こうして私は夢見る井戸に向けて出発した。
森に囲まれていたがそれもすぐに出れた。
 
しばらくの間平原が続き、順調なものだった。
そんな平原のしげみから青色のプルンとしたものが飛び出してきた。
スライムだ。
 
なぜか私がわかるらしく、私に向かって体当たりをするが柔らかいボールが当たったぐらいにしか感じなかった。
とりあえず、たいしたことないのでシカトする事にした。
 
それでも彼(彼女?)は攻撃の手を休ませる事はない。
欝陶しいと感じた私は青色を掴み、投げた。
いとも簡単に空を舞うスライム、少し罪悪感を覚えた。
 
彼(彼女?)が落ちた場所に行ってみると瀕死になったゼリーがいた。
そこで道具屋でパクッた薬草を使う。
半信半疑だったが、これは凄い、元気になった。

162 :DQVI ◆55fvMgOfnY :2007/04/15(日) 00:18:54 ID:m9WlHn4EO
馬鹿みたいな話だがスライムに薬草を渡し、人間をこれからは襲うな、と言い聞かせた。
スライムは柔らかい体を曲げ、わかったと言っているかのように頷いた。
 
こうして私が立ち去ろうとすると何やらスライムがwktkした目で私を見る。
世に言う仲間フラグだろうか?
 
「来るか?」
 
その一言を待っていたかのように私の肩に飛び乗った。
ここに来てから初めて出来た仲間──
スライムにサスケと名付け、夢見る井戸へ向かった。
 
途中魔物に襲われたがサスケの説得により戦闘は避ける事が出来た。
そして古びた小屋に着いた。
 
木造のほったて小屋、その中に入る。
土で出来た床を進んで行くと井戸があった。
本当に不思議…と言うよりも神秘的な色の光が井戸から溢れ出していた。

163 :DQVI ◆55fvMgOfnY :2007/04/15(日) 00:20:46 ID:m9WlHn4EO
「サスケ…見てごらん」
 
1人と1匹は井戸の底をそっと覗く。
光が溢れ出ているのにもかかわらず、まったく底が見えないのだ。
上の世界に繋がっている入口──
落ちてきたのに、また井戸の中に落ちる事で上の世界へ行く事が少し不思議に思えた。
 
「サスケ、今から私はこの井戸の中に入ろうと思っているんだ」
 
私の肩にいたものが一瞬、ビクっと震えた。
 
「怖いんだったら、ついてこなくてもいいんだよ?」 
そう言った私も怖かった。
だが、サスケには選ぶ権利がある。
今なら間に合う、そして私の肩から降りる。
そうだろう、当然の選択だ、それなのに涙が出そうになる。
 
「ピキー!」
 
ところが彼は井戸の縁にいたのだ。
ピョンピョンと跳ねると井戸の中に消えていった。
私も後を追って飛び込む。
井戸の中で味わった事のない感覚の中、私は思った
──サスケ、お前でよかった、と──

164 :DQVI ◆55fvMgOfnY :2007/04/15(日) 00:23:16 ID:m9WlHn4EO
今日はここまでです…
 
>>暇つぶしさん
ええ、青に染められるんです
ちなみに兄貴はスーパーサイヤ人にされました
 
>>タカハシさん
まとめ御苦労様です
こんな駄文でもありがとうございます

165 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/04/15(日) 00:24:35 ID:ajYGt2XH0
支援

166 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/04/15(日) 00:26:18 ID:ajYGt2XH0
(  ゚д゚ )……

( ゚д゚ )「乙」

167 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/04/15(日) 09:27:53 ID:A6cZ7YqN0
サスケ可愛い

168 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/04/15(日) 12:33:08 ID:xU7Ptppk0
声は聞こえるということは、レムオルか消え去り草状態ということなのだろうか。
続き、楽しみにしてますね。

サスケたん、はぁはぁ


169 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/04/16(月) 01:00:47 ID:AUndAy9o0
乙乙

>>168
今すぐ6をプレイしなおすんだ

170 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/04/16(月) 12:09:20 ID:UKFanQj20
あげとく

171 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/04/16(月) 13:12:01 ID:uwQiNKNq0
鈴木さんと田中君のその後が気になる

172 :インターミッション/夢 ◆u9VgpDS6fg :2007/04/16(月) 15:00:19 ID:TVMM9Dyk0

大きくて力強い腕が俺を抱き上げた。
そしてそのままその腕の持ち主の頭よりも高く掲げる。
俺は泣いていた。
悲しい訳でも、嬉しい訳でもなかった。
ただその誰もがそうであるように、
この世界に生まれ落ちた証を刻むように大きく呼吸をしていた。

大きな腕の持ち主は大きな声で何か言うと、
暖かくて柔らかいものの上に俺をそっと横たえる。
それを確かめるように今度は、細くて暖かい指先が俺の頬をなでた。
同じように細い指先の持ち主も俺に何か語りかける。

言葉は聞き取れたが、その意味は分からなかった。
ただ、それが愛するものへの慈しみを含んでいる事だけは分かった。

俺は泣いていた。
泣く事しかできなかった。
大きな腕の持ち主と、細い指の持ち主は幾つかの言葉を交わし、
俺は泣きながらただそれを聞いていた。

173 :インターミッション/夢 ◆u9VgpDS6fg :2007/04/16(月) 15:01:15 ID:TVMM9Dyk0

暖かい布に包まれて世界がゆっくりと揺れだした。
体中に響くような、落ち着かせるような定期的な揺れと
右側から聞こえる定期的に刻まれる音…心音が、
次第に俺の意識を奪い、白く靄ける景色は少しずつ遠ざかって行く。

まだだ。
まだあの場所にいたい。

必死で伸ばそうとした手を嗜めるように、細い指先が
俺の信じられない程小さな手を握った。
視界が白い明かりに包まれて、やがてのぼせて意識を失う時のように、
光が散り散りになって暗闇に吸い込まれて行く。

そして世界は暗転する。

174 : ◆u9VgpDS6fg :2007/04/16(月) 15:02:54 ID:TVMM9Dyk0
今回これだけ投下しに来ました
ありがとうございます


175 :企業戦士鈴木の記録 ◆9iJ0M9nf3E :2007/04/16(月) 15:30:55 ID:maZX89UJ0
田中日記

4月15日 あったけえ!

やべーマジやべえ!ネネさんに紹介されたバイトマジ最高!
やべーよバニーのきれいなねーちゃんいっぱい!乳でか!谷間最高!
そして店のママが美人!大人の魅力!やべーよここ天国じゃん!
こんな事ならもっと早く本気出しておけばよかったぜ。
まったくどういう店なんだかわかんないんだがおそらくキャバクラみたいなもんだろう。
ムッキムキの兄貴やらヨボヨボのじーさんやら客層は幅広い。
まあ俺の仕事は掃除に食器洗いだしどんな客がいようが関係無い。
いいなー一生ここで働きたい。もう日本帰りたくねーな…なんちゃって(笑)

176 :企業戦士鈴木の記録 ◆9iJ0M9nf3E :2007/04/16(月) 15:42:54 ID:maZX89UJ0
鈴木日記

4月16日 晴れ

もうおそらく日本には帰れないだろう。妻にも娘にも会えないだろう。
正直自ら命を絶とうとまで考えた。だがそれは間違いだと気付いた。
私はこの世界で精一杯生き抜いてこそ愛する重子と沙織に示しがつくのではなかろうか。
重子、沙織、父さんはこの訳の分からない世界で頑張ってみるよ。
父さんはこっちで頑張るからきみたちは日本で精一杯頑張ってくれ。
そしてどうか幸せに暮らして下さい。父さんからの願いです。


田中日記

4月16日 あったけえ

うっひょーまったく毎日が楽しくてしょうがないぜ。
今日はバニーのロシーヌちゃんに電話番号聞いてみた。そしたら電話持ってないんだとよ(笑)
やっぱここすげード田舎(笑)
それとママに客に出す料理を教えてもらった。
そうそうここではみんなママとは呼ばないらしい。俺のいたとこではそう呼ぶんだぜって
教えてやったらみんな笑ってた。楽しい職場だぜ(笑)


…あれ俺なんでバイト始めたんだっけ…?

177 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/04/16(月) 17:36:17 ID:1Nth6+Sn0
田中wwwww
このテンションの差が面白いw

178 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/04/16(月) 21:21:16 ID:x5d8azWx0
バイトまで始める田中の順応性は異常wwww
鈴木さんが少し前向きになって良かった。

179 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/04/16(月) 23:22:12 ID:nJYzVSIOO
>>172-173
投下乙
DQ5ネタか?
 
>>175-176
田中wwワロタwww

180 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/04/17(火) 02:00:18 ID:afVNnRXA0
>>179
今すぐスレ内をu9VgpDS6fgで検索するんだ

181 :企業戦士鈴木の記録 ◆9iJ0M9nf3E :2007/04/17(火) 20:45:12 ID:6IDX9aUk0
4月17日 晴れ

いつまでも寝ているわけにはいかない。この世界で生きていくと決心した以上
衣食住を欠かすわけにはいかない。住む所は追々探していくとして何よりもまず
仕事を探さなくてはいけない。しかしまさかこの年齢になって就職活動に励む事になるとは。
奥さんがそれならばまた国王の所へ行けば紹介してくれるのではと言う。
確かに右も左もわからない世界で一から仕事を探すのは無謀だ。
明日国王の所へ行こうと思う。
しかし田中の奴いつの間にか奥さんの事をネネちゃんなんて呼んでいる。
仮にも今はいないとは言え旦那も子供もいる女性に向かってちゃん付けなどとは。
つくづく常識に欠ける男だ。しかしこの常識に欠ける男でもここがもはや
私達がいた世界とは違う世界でもう帰る事と知ったらどうなるだろうか。
いつかは伝えなければいけない。その事を考えると非常に気が重くなる…。


田中日記

4月17日 あったかい

ママの好みは強くて頼れる男の人だってよ。ロシーヌちゃんも厚い胸板ってステキ!
なんていっちゃってるもん…
うおおおおおおおおおおおお今日から筋トレしまくるぜええええええ
夏にはガッチガチのマッチョになって…でへへ

182 :企業戦士鈴木の記録 ◆9iJ0M9nf3E :2007/04/17(火) 20:46:51 ID:6IDX9aUk0
4月17日 晴れ

いつまでも寝ているわけにはいかない。この世界で生きていくと決心した以上
衣食住を欠かすわけにはいかない。住む所は追々探していくとして何よりもまず
仕事を探さなくてはいけない。しかしまさかこの年齢になって就職活動に励む事になるとは。
奥さんがそれならばまた国王の所へ行けば紹介してくれるのではと言う。
確かに右も左もわからない世界で一から仕事を探すのは無謀だ。
明日国王の所へ行こうと思う。
しかし田中の奴いつの間にか奥さんの事をネネちゃんなんて呼んでいる。
仮にも今はいないとは言え旦那も子供もいる女性に向かってちゃん付けなどとは。
つくづく常識に欠ける男だ。しかしこの常識に欠ける男でもここがもはや
私達がいた世界とは違う世界でもう帰る事と知ったらどうなるだろうか。
いつかは伝えなければいけない。その事を考えると非常に気が重くなる…。


田中日記

4月17日 あったかい

ママの好みは強くて頼れる男の人だってよ。ロシーヌちゃんも厚い胸板ってステキ!
なんていっちゃってるもん…
うおおおおおおおおおおおお今日から筋トレしまくるぜええええええ
夏にはガッチガチのマッチョになって…でへへ

183 :企業戦士鈴木の記録 ◆9iJ0M9nf3E :2007/04/17(火) 22:04:07 ID:6IDX9aUk0
4月17日 晴れ

いつまでも寝ているわけにはいかない。この世界で生きていくと決心した以上
衣食住を欠かすわけにはいかない。住む所は追々探していくとして何よりもまず
仕事を探さなくてはいけない。しかしまさかこの年齢になって就職活動に励む事になるとは。
奥さんがそれならばまた国王の所へ行けば紹介してくれるのではと言う。
確かに右も左もわからない世界で一から仕事を探すのは無謀だ。
明日国王の所へ行こうと思う。
しかし田中の奴いつの間にか奥さんの事をネネちゃんなんて呼んでいる。
仮にも今はいないとは言え旦那も子供もいる女性に向かってちゃん付けなどとは。
つくづく常識に欠ける男だ。しかしこの常識に欠ける男でもここがもはや
私達がいた世界とは違う世界でもう帰る事と知ったらどうなるだろうか。
いつかは伝えなければいけない。その事を考えると非常に気が重くなる…。


田中日記

4月17日 あったかい

ママの好みは強くて頼れる男の人だってよ。ロシーヌちゃんも厚い胸板ってステキ!
なんていっちゃってるもん…
うおおおおおおおおおおおお今日から筋トレしまくるぜええええええ
夏にはガッチガチのマッチョになって…でへへ

184 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/04/17(火) 22:07:09 ID:6IDX9aUk0
うわああああああマジごめんなさいorz
書き込んでも反映できないなあなんて思って何回か試してたら
俺の専ブラがおかしくなってただけだった…
スレ汚しごめんなさいorz

185 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/04/17(火) 22:07:55 ID:xvYUlnuh0
おk
wktk

186 :企業戦士鈴木の記録 ◆9iJ0M9nf3E :2007/04/18(水) 17:10:22 ID:hoiLO1Pt0
鈴木日記

4月18日 晴れ

今日国王の所へ行き仕事を探している件を話した。明日までにいくつか探しておくから
気に入った所で働くといいと言われた。なんて親身な国王だろうか。
この国は平和だ。残りの人生できるだけこの国の人の役にたって生きていきたい。
見知らぬ土地に投げ出されたからなのかそんな事すら考えるようになった。
ところで田中である。こいつはもう仕事を見つけ既にしっかり働き出している。
逞しいというか鈍いというか。いやはやどっちにしてもこの行動力は私とて
見習うべきではないだろうか。むしろこういう不慮の事態こそこういう
単純で行動力のある人間の方が強いのではないだろうか。
少し田中の事を見直した。


田中日記

4月18日 あったかい

気持ちわりーよ!鈴木さんちょっと元気なったと思ったら急に
俺の事褒めだしやがった!何言ってるか全然わかんねーけど
田中は逞しいだの意外と根性があるだの…こんなの鈴木さんじゃねえ…オェ…
きっと何かのウィルスの頭をやられたに違いない。ここ病院あるのかな?
もしもの時は速攻連れていくわマジで…

187 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/04/18(水) 17:38:55 ID:x05b+iB70
やべーおもすれー
田中そろそろ異変に気付け

188 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/04/18(水) 19:03:16 ID:YrNvWmbR0
実は田中、鈴木さんの事割と好きだろw

189 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/04/18(水) 21:02:47 ID:IuVx1vss0
実は結構イイヤツだよね、田中って。

190 :STORY.1 序曲 ◆aPqItC/JYI :2007/04/19(木) 00:45:39 ID:6AzXfrMB0

 ――目が覚めると、そこは不思議の世界でした。
 
 そんなフレーズが頭の中をグルグルとまわる。
 昨夜は確かに安アパートの俺の部屋で寝たはずなのに、今いるところは……どこだ。
 上半身を起こし、ぐるりと周囲を見回す。ベッド、タンス、窓、ドア。なにもかもが俺の部屋と違う。
 なにより天井に蛍光灯がない。俺の田舎だって電球くらいあるぞ。
 起き上がりボーッとしていると、突然ノックも無しに部屋のドアが開き人が現れた。
 俺が起きていると思っていなかったのだろう。
 その人は目があった途端ハッと驚いた表情をしてその場に立ち止まった。
「……ああよかった、目を覚ましたんですね」
「え」
 女性だ。青い服、いわゆる修道服だろうか。そして綺麗な淡い金髪をしている。
 ルビーみたいな赤い瞳が青い服と妙にマッチしていて印象的だ。
「あ、ああ……どうも」
 頭が回らない。混乱でもしているのか。
「体の具合はどうです? あなたは5日ほど眠り続けていたんですよ」
「5日……」
 5日なんて、そんなに長い間眠っていた感じはしない。第一、俺は昨日寝たばかりだ。
 彼女は手に持っていた桶をベッド傍の台に置いた。そのまま俺の近くに落ちているタオルを拾い桶の中に入れ絞る。
 タオルから滴り落ちる雫に太陽の光が反射してキラキラ眩しい。
 本当に俺が5日眠っていたとしたら、この人はその間俺を看病してくれていたのか?

191 :STORY.1 序曲 ◆aPqItC/JYI :2007/04/19(木) 00:48:04 ID:6AzXfrMB0
「あ、ありがとうございます」
 主語のないお礼を言うと、彼女は「お気になさらず」と笑顔で言ってきた。
「そうだ! ここはどこです? 俺、なんでここにいるんですか?」
 ボーッとしている場合じゃない。
 俺の部屋で寝たはずなのに起きたのが俺の部屋じゃないなんて、これは異常事態なんだ。
 急いで状況確認をしなければ。
「ここは海辺の修道院です。あなたはこの近くの浜に倒れていたんですよ」
「浜に、倒れて……?」
 ってことはこの近くには海があるのか? 俺は海から流れてきたのか? 日本沈没?
 それよりも、修道院って……ああ、頭の中がゴチャゴチャする。
「まだ目覚めたばかりですから、あまり無理しないで下さいね」
 頭を抱えうんうんと唸っていた俺を見てか、彼女は俺の心配をしてくれた。
「……そういえば、あなたは……?」
「あ、申し遅れました。私の名前はマリア。この修道院で修行をしている修道士です」
 修道士のマリアさんか、可愛い名前だな。俺も自己紹介し返さなきゃいけないな。
 ……あれ、俺の名前……
「……俺の名前、なんだろう……思い出せない」
 名前の部分だけ記憶がすっぽりと抜けている。
「まあ……一時的な記憶喪失かしら。しばらくしたら思い出せるかもしれないから……気を落とさないでね」
 彼女はそう言って俺を見つめながら手を握ってくれた。
 ……世に産まれ出てから16年、女性にこんなことをされたのは母以外初めてです、ハイ。

192 :STORY.2 失われた世界 ◆aPqItC/JYI :2007/04/19(木) 00:50:35 ID:6AzXfrMB0
 あの後、マリアさんは他の修道士たちに俺が起きたことを知らせてくると言い、部屋を出て行った。
「そうそう、ご飯も用意してくるわ。何日も飲まず食わずで、お腹が空いたでしょう?」
 いやー、いい人だなあ。修道院の人たちはみんな、こんなに優しい女性ばかりなのかなぁ。うへへ。

「はいどうぞ。手の凝った料理はものじゃないけど、その分味の方は保証するわ」
 目の前に出されたのはバターロールみたいなパンと野菜のスープ、イモの蒸したものだ。
 見た感じヨーロッパの家庭料理だ。……いやヨーロッパの家庭料理なんて見たこと無いけどさ、きっとこんなのだろうよ。
「じゃあ、いただきます」
 スープを一口飲む。タマネギスープっぽい味がして、なかなか美味しい。表面に浮いている葉っぱがピリリと効く。
 イモはほんのりバター味で、田舎の母さんが作った粉吹き芋を思い出す。母さん元気かな。
 ……ここって、どこだろう。日本ではないことは確かだけど、フランスあたりかな。
「マリアさん、ここはなんていう国ですか?」
「ブランカよ。他に比べたら小さな国だけど、自然がたくさんあって農業が盛んなの」
「ブランカ……」
 そんな国名聞いたことがない。小さな国ってぐらいだから世界地図に載らないくらい小さな国なのか?
「ええと……」
 マリアさんはわざわざ地図を探して持ってきてくれた。日に焼けていて随分年期のはいった地図だ。
「あった、ほら、これがブランカよ。西へ行くと砂漠があって、ここからテルパドール領になるの」
 所々擦り切れた古書のような匂いのする地図をのぞき込み、マリアさんの指し示す場所を目で追う。

193 :STORY.2 失われた世界 ◆aPqItC/JYI :2007/04/19(木) 00:53:13 ID:6AzXfrMB0
 ……知らない。こんな地図は知らない。日本がない。アメリカがない。ユーラシア大陸がない。
 見覚えのない国名、大陸、世界。――ここは、俺のいた世界じゃない。
「あなたの国はどこ? 海を挟んでだから……グランバニアかしら?」
「……」
「あ……もしかして、住んでいたところも覚えていないの?」
 いっそ全て記憶喪失であったらよかった。
 
 申し訳なかったが、今はひとりにさせて欲しい、そう言ってマリアさんには部屋から出て行ってもらった。
 しばらくベッドの中で考え事をしていた。
 俺の世界のこと、この世界のこと、いままでのこと、これからのこと。
 考えれば考えるほど頭が混乱する。
 信じられない。突飛過ぎる。何でこうなった。誰の仕業だ。
 俺はなにもしていない。朝起きて学校通ってご飯食べて遊んで部活して寝て、ごく普通の生活を送っていた。
 こんなとこに来て、俺は元に戻ることができるのだろうか。不安だ。
 枕に顔を埋め、泣いた。みっともないとは思ったが、涙が止まらなかった。

 それから何時間経っただろうか。俺は落ち着きを取り戻していた。悩むなんて俺のキャラじゃない。
 くよくよしていちゃなにも始まらない、進んでみなきゃ始まらない。レッツポジティブシンキング!
 まずは今後のことについて。俺は元の世界に戻りたい。どうやったら戻れるか世界をまわって調べてみようと思う。
 そうだ、明日マリアさんに相談しよう。色々お世話になっているけど、俺がこの世界で知っている人は彼女しかいない。
 そこまで考えたが、疲れてしまったので寝ることにする。頭を使いすぎた。ではおやすみ。

194 :STORY.2 失われた世界 ◆aPqItC/JYI :2007/04/19(木) 00:55:43 ID:6AzXfrMB0


 次の日、満足に歩けるほど体力が回復していなかったので、マリアさんに部屋に来てもらって相談をすることにした。
 コンコンとドアがノックされ、少しの間をおいてマリアさんが入ってきた。そのままベッド近くの椅子に腰掛け、こちらを向く。
 記憶喪失だとわかった俺のことを、マリアさんは自分のことのように悲しんでくれていた。本当に、優しい人だ。
 ……俺の言うこと、信じてくれるかな。
「あっ、あの、マリアさん、えーと……驚かないで、聞いてもらえますか?」
「ええ、いいけれど、なにかしら?」
 深く深呼吸をする。緊張するな。俺は落ち着いてゆっくり言葉を出した。
「……実は、俺、この世界の人間じゃないんです」
 マリアさんは信じられないような顔をしている。そりゃそうだ、いきなりそんなこと言われたら普通驚く。
「あ、ごめんなさい。驚かないって言ったのに……」
「いえ、急にこんなこと話した俺が悪いんです」
「でも本当なの? この、世界の……人間じゃない、って」
「はい……」
 うう、段々悲しくなってきた。あ、目から水が……引っ込め水! こんなところで泣くな俺! 負けるな俺!
「そう、なの……で、これからどうするの?」
「とりあえず、元世界に帰る方法を探します……って、マリアさん! 俺の言ったこと信じてくれるんですか!?」
「ええ。……あなたの目、嘘をついている目じゃないから」
 俺は驚いた。信じてもらいたかったはずなのに、いざ信じてもらっちゃうと……。
 嬉しいな!

195 :STORY.2 失われた世界 ◆aPqItC/JYI :2007/04/19(木) 00:59:24 ID:6AzXfrMB0

「……という訳で、旅に出ようかと思うんです」
「ちょっと待って。旅に出るのはいいけど、外にはモンスターがうようよしているのよ」
「モンスター?」
 つまり、怪物? そんな生物がいるなんてキイテナイヨ。
 マリアさんがうーん、と手を顎に当て考え事をしている。どうしたのだろうか。俺の馬鹿さに頭を痛めたのか。
 するとマリアさん、いきなりポンと手を打ち笑顔で話した。
「じゃあ、私と一緒に旅をしない? ひとりよりは心強いでしょう? ね?」
「はい?」
 それはあれか。長い旅路を若い女の人と二人っきりでtqあwせdrftgyふじこlp;@
 思春期まっしぐら多感な16歳にとってこの展開はやばすぎる。
 ん? マリアさんって何歳だろう。
「突然ですがマリアさん、何歳ですか?」
「え? 私の年齢?」
 って、なに尋ねてるんだ馬鹿俺! 
 女性に年齢を聞くことは太古よりタブーとされていることなんだぞ!
「あーあーあ、言いにくかったら別に流してくれても構いませんよ……はは」
「今年で18になるわ」
「へー18歳ですかー俺より2つも年上なんですねーはははー、って女性がそう簡単に年齢言っちゃ駄目ですよ!」
「そうなの?」
 そうですよ。そっか、マリアさんてば18歳なんだ。落ち着いていて大人な人だなとは思ってたけど以外と若いな。
 いやいやいや、だからって老けて見えるとかそういう訳じゃなくて、年齢のわりには老成している……違う違う違う!
 落ち着け俺! 優しくて綺麗で可愛い年上の女性にお誘いを受けたからって浮かれるな俺!

196 :STORY.2 失われた世界 ◆aPqItC/JYI :2007/04/19(木) 01:02:00 ID:6AzXfrMB0
「で、返事はどうなの?」
「えっ?」
「だから、私と一緒に旅ましょう、って」
「あっ、それは……その……」
 嫌なわけではないのだが、どうもこんな状況になるのははじめてなもんでして。どうすればいいか戸惑ってしまう。
 フラフラと目線が泳ぐ。するとマリアさんは、しびれを切らしたのか今までよりも勢い強く喋った。
「はい!? いいえ!?」
「はい!」
 ああっ! マリアさんの勢いに飲まれて反射的に答えてしまった。
 マリアさんの方を見ると、目の前でニコニコと満足そうに笑顔を浮かべていた。
「じゃあ決定ね。出発は……どうする?」
「ええと……まだ身体が本調子じゃないので……もうしばらく待っていてくれれば嬉しいんですけど」
「構わないわよ。ちょうどこの修道院は宿屋も兼ねてるの。お代はもちろん、無料でね」
 ポーズを決めてウィンクを送ってくるマリアさん。修道士のくせに小悪魔かこの人。
 なんかもう精神的に疲れたし、さっさと身体を回復させるため俺はもう寝ることにする。
 あ、そういえばなんでマリアさんが旅したいのか聞くの忘れてた。
 ……ま、いいや。眠たくなってきたし、続きは明日でいいよね。
 いい夢が見られますように。

197 : ◆aPqItC/JYI :2007/04/19(木) 01:06:01 ID:6AzXfrMB0
はじめまして。今回初投下させていただきました。
舞台はオリジナル、天空シリーズをベースにして進めていきたいと思っております。
まだまだ精進が必要な拙い文章ですが、これからよろしくお願いいたします。

198 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/04/19(木) 01:56:55 ID:TlokL/px0
>>197
投下乙です!5で修道院から目覚めるのは歴代でも初のアイディアかな?
しかし16歳で田舎から出ててアパート暮らしの学生とは、なかなかタフですな。
その精神力もポイントになったりして。いずれにせよ、期待してます。

199 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/04/20(金) 00:36:16 ID:Kc2iBph/0
>>197
その発想はなかった!
続き期待するぜ。

200 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/04/20(金) 03:19:35 ID:nhM+rFIV0
修道院でのめざめ、これから待っているマリアさんとの冒険。
わくわくする展開ですね。

#修道院は自給自足が基本ですから、自家製のパンと野菜スープ、じゃがいも料理で大正解だと思います。
客人のことは、キリスト様とおもって誠心誠意おもてなしするので、もしかしたら彼女達が食べているものよりも、いいものを出してくれたのかもしれませんね。

201 :企業戦士鈴木の記録 ◆9iJ0M9nf3E :2007/04/20(金) 11:32:32 ID:yIYI83Ej0
鈴木日記

4月19日 晴れ

今日は国王が用意してくれたいくつかの資料に目を通した。
しかし殆どが「兵士募集」といったいわゆる警備業務ばかりだ。この齢で肉体労働はいささか厳しい。
とは言うものの雇ってもらう側として贅沢は言えたものではない。
明日面接に向かう事にしよう。


田中日記

4月19日 あったかい

痛てえ…体中が痛てえ…調子のって筋トレし過ぎたぜ…
もう動けない…

202 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/04/20(金) 14:31:26 ID:40P4+M1x0
新たな展開にwktk

203 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/04/20(金) 23:21:45 ID:F40//7mX0
田中www

204 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/04/22(日) 12:38:50 ID:coqswfUbO
ほっほ

205 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/04/22(日) 15:19:30 ID:Ove36WlJ0
おまえらまだやってたのか。
本当に阿呆ばかりだな。

206 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/04/22(日) 17:16:34 ID:mCd2l9E00
>>205
誰に対してなんの感想かわからない。
この板全体に対してなら、あまりに感想つかなくて他の板に流れた職人の一人が、
結局向こうでも気に入らない展開になって八つ当たりに来たのかと思ったが。

207 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/04/22(日) 17:59:09 ID:qqUrmN5c0
構うな

208 :STORY.3 この道わが旅 ◆aPqItC/JYI :2007/04/23(月) 20:24:11 ID:hWVRMulU0


 目を開けると前方に光が見えた……大きな、まぶしい光が。
 前へと歩いても光に近づいていく気がしない。ずっと同じ距離のままだ。
『ようこそ……我が世界へ』
 しばらく歩いていると、どこからか声が聞こえてきた。
 聞こえてくる、というよりも頭の中に響くという方が正しいかもしれない。
 俺はどこから聞こえてくるのかわからない声に警戒し、あたりを見回す。白の空間と光しか見えない。
「誰だ!?」
『私は竜の女王……世界の創造主です』
 創造主……つまり、神様か? もしかして、こいつが俺をあの世界に連れてきたのか?
「神様が俺になんの用だ!」
 声の主の位置が掴めない。俺はとりあえず光に向かって叫んだ。
「俺を元の世界に帰せ! あんたが俺をこっちに連れてきたんなら、帰すことだってできるだろう!?」
『できません』
「どうしてだ!?」
 ふざけるな。俺は元の世界に帰りたいんだ。
 俺の叫びも空しく、神様は淡々とした声で話を先へと進める。
『あなたは導き手。あなたに力を授けましょう』
「……導き、手?」
 意味がわからない。俺がこの世界に連れてこられた理由がそれなのか? 力を授けるって一体……?
「おい、神さ……っ!」
 問いかけようとしたその時、光が強さを増し俺の体を包んだ。
 眩しい、目を開けていられないくらい眩しい。
『あなたに授ける力は一つの呪文。私の力の一部です』
 ”なにか”が俺の中に入っていく感覚がある。その”なにか”は俺の中に入ると染み渡るように全身に広がっていく。
 じわりと体が温かくなっていく。不思議な感覚だ。
「あんたは、俺に、なにをさせたいんだ?」
『導きなさい。勇者を、そしてその仲間たちを』
 導く? 勇者? ああもう、なにがなんだかわからない。

209 :STORY.3 この道わが旅 ◆aPqItC/JYI :2007/04/23(月) 20:24:49 ID:hWVRMulU0
「とりあえず俺はその勇者様とやらを導けばいいんだな? ……導いたあと、元の世界に帰れるんだろうな!?」
『……約束しましょう』
 帰れる。元の世界に帰ることができる。暗かった道に希望の光が見えた。
「で、勇者をどこへ導けばいいんだ?」
『天空へ』
「天空?」
 変なことを言う。こんな飛行機もなさそうな世界で、どうやって天空に導けと。
 っていうか勇者って誰だ。名前は何だ。どんな姿をしてるんだ。どこに行けば会えるんだ。
『……時間が来ました……導き手、あなたに授けた呪文、それは――』
「おい! 神様! 神様っ!」
 神様が言い終わる前に、光が一層強くなりあたりは光に包まれた。
 眩しくて反射的に目を閉じた。まぶたを閉じていても強い光を感じる。
 すうっと意識が落ちる感覚。消えそうな意識の中で、神様の声が聞こえた。

 ――ドラゴラム、と。


「っ!」
 ガバッと布団をはね飛ばし目を覚ます。一筋の汗がこめかみを伝い、首まで流れ落ちた。
 ……不思議な夢だった。竜の女王、勇者、導き手、呪文……鮮明に覚えている。
 なぜか心臓がドキドキしている。息苦しい。落ち着こうと、胸に手を乗せてみる。
 大切なものが芽生えているような、そんな温かさを感じた。

210 :STORY.3 この道わが旅 ◆aPqItC/JYI :2007/04/23(月) 20:25:59 ID:hWVRMulU0

 
「ごめんね、今用意しているからもう少し待ってて」
 マリアさんはそう言って部屋の中へと戻っていった。暇なのでしばらく教会内を散策してこよう。
 ちなみに先程マリアさんが言っていた用意とは、旅支度のことだ。
 あの夢を見た後、不思議なことに体力が元に戻っていたのだ。神様の力だろうか。
 そのため、急遽旅立つことになってしまった。俺は明日でいいのに。「善は急げ!」らしい。
 
 俺は大広間にある絵を見ていた。広大な海に数隻の船と鳥。全体的に青っぽい絵だ。
 うーん、綺麗だとは思うがいまいち芸術というものがわからない。
 そういえば家の本の中にムンクとかモナリザとかの絵があったな。モナリザは確か、ダヴィンチが描いたんだったか。
 ……旅に出ようと決めた次の日に目標ができるなんて、よくできてるなあ俺の運命。
 やっぱり神様が操作でもしているのかな、人の運命は。創造主だもんな。
 元の世界にいたときなんて、神様なんかテストの時ぐらいしか信じていなかったけど、ここには神様は存在するんだ。
 不思議だなあ。本当に不思議だ。この間まで毎日学校に通って勉強してバイトして……そんな毎日だったのに。
 そんな俺が、剣と魔法のファンタジーな世界に来るなんて。どこの漫画の話だよ。

211 :STORY.3 この道わが旅 ◆aPqItC/JYI :2007/04/23(月) 20:26:37 ID:hWVRMulU0

 絵の前でふらふらしていると、小さな女の子が俺に声をかけてきた。
 ちょこんと俺の前にやってきてお辞儀をする。俺もつられてお辞儀をする。
「お兄ちゃん、元気になったんだね!」
「うん、心配してくれたんだね。ありがとう」
 茶色の髪に大きな赤いリボンをつけている。小学校低学年くらいの子供だろうか。
 そういえばこれくらいの妹がいたなと思い出し、なんだか懐かしい気持ちになった。
 妹? そうだ、俺には妹がいる。でも、名前はなんだっただろうか。あれ? 思い出せない……
「……あれ、お兄ちゃん、どうしたの? まだ痛いの?」
「あ、ああ、いや、何でもないよ。ちょっと考え事してただけだから」
 どうやら難しい顔になっていたらしい。小さい子は人の感情に敏感だっていうよな。
 心配そうにのぞき込む女の子にへらりと笑顔を見せる。女の子も笑顔になった。
「よかった!」
 妹の名前を思い出せないのが少し引っかかるが、ただの記憶喪失だろ。そう思うことにしておいた。

 しばらく女の子と会話していると、用意を終えたマリアさんが階段から下りてきた。
 マリアさんの服装はあの青い修道服ではなく、白いローブに赤いずきんをしている。まるで赤ずきんちゃんみたいだ。
 ちなみに俺は水色っぽい服。しかしスカートっぽいひらひらが。まあズボンははいているからそこは安心だ。
 この服装はこの世界での一般的な旅装束らしい。マリアさんが用意してくれたものだ。
 俺は持ち物として食糧といくつかの薬草、木の棒を受け取った。
 薬草とは傷を瞬時に治す優れものの薬で、木の棒はひのきの棒という武器とのこと。ぶっちゃけおもちゃにしか見えません。
 外に出たらモンスターがうようよしている、自分の身を守るのは自分しかいないと言われた。
 ……これは遊びじゃない、ゲームじゃないんだ。
 俺は頬をパァンと叩き気合いを入れた。強く叩きすぎて痛い。

212 :STORY.3 この道わが旅 ◆aPqItC/JYI :2007/04/23(月) 20:27:30 ID:hWVRMulU0


 この教会で一番偉いマザーだかいう人にお礼を言い、俺たちは教会を出た。
 あの女の子が窓から手を振ってくれている。俺は大きく手を振り返した。
「まずはここから一番近い町、リムルダールに向かいましょう。そこで大体の装備を調えなくっちゃ」
 世界地図を広げマリアさんは言う。部屋の中で見た地図だ。
 リムルダールはここから南西の草原地帯にある町。一番近い町といっても3日はかかるらしい。それ全然近くない。
 途中大きな森があって、その森は周辺の住人から迷いの森と呼ばれているという。
 入ったっきり出てこられなくなって行方不明になった旅人もいるというのだ。覚悟していかねば。
 あと、この町は湖の上につくられており、内陸でありながら水資源が豊富なのだという。
 町を更に西に行くと砂漠があるため、砂漠を渡る人たちにとって水の豊富なこの町はいい拠点となる。
 俺たちはまだ冒険歴が浅いので砂漠の向こうへ行くようなことはしないが、いつか行くことになるだろう。

213 :STORY.3 この道わが旅 ◆aPqItC/JYI :2007/04/23(月) 20:28:30 ID:hWVRMulU0

「あ、ねえ、あなたの名前……どうする?」
 手に持っていた地図をしまいながら俺に尋ねる。
 すっかり頭から抜けていた。今俺は記憶喪失なんだった。
「あー……やっぱ名前が無いと不便ですよね。なんて名前にしようかな……うーん……」
 頭を捻って考える。自分の名前を考えるというのも変な感じだが、まあそれは仕方がないだろう。
 名前名前名前……。
「……そうだわ、私があなたの名前を考えてげましょうか?」
「本当ですか?」
 それはありがたい。正直サトチーやらゆきのふやら変な名前しか思い浮かばなかったところだ。
 是非お願いしますと言うと、マリアさんはしばらく考え込み、こう言った。
「トンヌラはどう?」
「全力で拒否させていただきます」
 俺とレベルが変わらないくらいの酷さだ。トンヌラ……なんて間抜けな響きなんだ。
 とてつもない人生を送ることになりそうな名前だ。なんとなく。
「そう? じゃあ、もょもと」
「勘弁して下さい」
 今どうやって発音しましたかマリアさん。
 もよもと、もゅよもと、ももと……言えねえ。
「うーん……なら、アレフはどう?」
「あ、その名前いい!」
 アレフ! 勇者っぽくて格好いい、っていうか今までのより遙かにいい名前だ。
「決まりね。……アレフって名前はね、私の国では聖なる名前なの」
 聖なる名前って……んなご大層な名前俺がもらっちゃっていいんですか。
 
「これからよろしくね、アレフ」
「よろしくお願いします、マリアさん」
 俺たちはどちらともなく手を差し出し、握手を交わした。
 あ、またマリアさんの旅の理由を聞くの忘れてた。まあいいや、歩いている途中にでも聞こう。

214 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/04/23(月) 22:09:27 ID:NryVkRQA0
支援

215 :STORY.3 この道わが旅 ◆aPqItC/JYI :2007/04/23(月) 22:25:33 ID:hWVRMulU0


 リムルダールへ向かう間、マリアさんはこの世界について話してくれた。
 簡単に纏めると、この世界には竜王という魔王が存在している。けど竜王の住処は誰にもわからない。
 昔人間と一緒に暮らしていたモンスターが凶悪化したのは、この竜王が出す悪の波動の所為らしい。
 闇の波動は年々強力になってきていて、それを見かねた神様が竜王を倒す運命を持った勇者を誕生させた。
 それが今から16年前。ってことは勇者は俺と同い年なのか。
 ていうか、神様……って、この間の夢に出てきた竜の女王のことだよな。竜王と竜の女王か。
「そして、その勇者が誕生したとお告げがあった後に――」
 竜王は自分を脅かす勇者を、力のない子供のうちに潰してしまおうと考えた。
 そして、その年に産まれた子供たちを配下のモンスターを使い、無差別に捕らえて殺していった。
「……っ」
「……私の弟も、その年に産まれたの」
「弟がいるんですか」
「ええ……実はね、私の旅の目的は弟を探すことなんだ」
 いままでこちらを向いていた顔を前方に向け、淡々とした口調で続ける。
 視線は遠くを見つめており、どこか寂しげな雰囲気を出している。

 マリアさんの話を要約すると、幼い頃に彼女の家族が住んでた国はモンスターに滅ぼされてしまった。
 モンスターたちは国中の子供を次々に捕らえていった。その中、マリアさんたちは両親に逃がしてもらう。
 その間に弟さんと色々あってはぐれ、マリアさんはあの修道院に迷い込んだ。
 弟を探しに行こうとしたけどマザーに止められ、力をつけるためにあそこで修行をすることになった。
 で、そろそろ旅に出ようかというときに俺が現れた。
 ひとり旅よりふたり旅の方が危険は少ないから、俺を誘ったと言う訳だ。
 でも俺なんか誘っても……全然戦力にはならないのに。

216 :STORY.3 この道わが旅 ◆aPqItC/JYI :2007/04/23(月) 22:26:33 ID:hWVRMulU0
 
 話し終えた後、マリアさんの顔に影が落ちる。辛い話なのに、俺に話してくれて……
「……すみません」
「? ああ、いいのよ。気にしないで。この世界ではそう珍しいことではないし。
 ……あなたには全部話しておかなきゃって思って。なんでそう思ったかはわからないけど」
 俺のいた日本で起きることなんか話にならないくらい、酷い人生を送ってきたマリアさん。
 マリアさんはよく笑う。いつも笑顔だし些細なことでもよく笑う。俺だったらあんな生活送ってきたら笑顔じゃいられない。
 この人は俺よりずっとずっと強い人だ。
 俺も強くならなきゃ。マリアさんがこれからも笑顔でいられるように。マリアさんを守れるように。
 ……って、うわ、俺シリアス! 俺超シリアス! かゆくなった!
 

 話題を変えて、呪文について話すことにした。
 呪文というものは、魔力を使い様々な現象を起こす能力。魔法とも呼ばれている。
 マリアさんも呪文が使えるという。呪文には正の力と負の力があって……うんたらかんたら。
 まあ、攻撃呪文と補助呪文と回復呪文と特殊呪文に分けられるらしい。
 で、マリアさんの得意なのは攻撃呪文。
「修道院にいたら、普通は回復や補助呪文が得意になるはずなのにね……どうも私には合わないみたい」
 との談。ふむ。呪文の習得は、人により得手不得手があるってことか。
 ん? 呪文……そういえば夢の中で神様に呪文をもらったな。あれは俺に使えるんだろうか。
「マリアさん、呪文って俺にでも使えます?」
「魔力と努力があれば誰にでも使えるわよ。あなたには微かだけど魔力があるから、修行すればきっと身につくわ」
「俺にも呪文が使えるのかぁ……」
 目線を自分の両手に落とす。大きな苦労をしてきたことのない綺麗な手。
 まあ実家の畑仕事の手伝いおかげで多少ごつくなってはいるが。
 今までそんな能力とは無関係な世界で生きてきた俺だけど、そんな俺にも呪文が使えるかもしれない。
 ……俺、なんだかワクワクしてきたぞ!

217 :STORY.3 この道わが旅 ◆aPqItC/JYI :2007/04/23(月) 22:27:26 ID:hWVRMulU0

「そうだわ、呪文がどういうものか少し見せてあげる」
 マリアさんはそう言って近くに落ちていた小枝を拾ってきた。なにをする気だろうか。
「この枝と杖を見ててね」
 そう言うとマリアさんは杖を構えた。すると杖を握る手から赤い光が見えた。
 光はそのまま杖を伝い、杖の先の大きな赤い石に。石の中で光がスパークしている。
 そしてその石からからバチリと雷のように反対の手へと流れた光は、人差し指に集まる。
「メラ!」
 なにやら変な言葉を唱えた途端、その指先から火の玉が飛び出す。
 そして指のさし示す先にあった小枝に命中し、小枝は勢いよく燃えた。
 ほんの一瞬の出来事だったが、俺の意識は完璧にその火の玉に持って行かれた。
「すっげー!」
「ふふっ、これはメラといって呪文の中では基本中の基本なのよ」
「あの、質問なんですけど、その杖の役割ってなんです? 先っぽの赤いのからボワーって光が! 赤いのボワーって!」
 興奮の所為か大げさなボディランゲージ付きで話す俺に苦笑し、マリアさんはその杖を手渡してくれた。
 思ったより軽くて、手によく馴染む。ぶんぶんと振ってみるとひのきの棒より振りやすい。
「これは装備者の魔力を増幅させる杖で、その石は魔力が込められている特殊な鉱物なのよ」
「へえええ……」

218 :STORY.3 この道わが旅 ◆aPqItC/JYI :2007/04/23(月) 22:28:05 ID:hWVRMulU0
 そう言われ先っぽの石をよく見てみると、石の中心にキラキラした光が見えた。これが魔力か。
 ワクワクドキドキ、俺の中の好奇心がうずく。俺は宙に向かい杖を振り、先程のマリアさんを真似て呪文を唱えてみた。
「……メラァ!」
 アレフはメラを唱えた! しかし呪文は発動しない!
 俺の叫びは空に消えていった。隣ではマリアさんがクスクス笑っている。ああ、恥ずかしい!
「魔力があるからっていきなり使えるものじゃないわよ。毎日の精神集中、そして呪文理論について勉強しなくちゃ」
 呪文は一日にしてならずですね。でも大丈夫です。こう見えても俺、勉強好きってわけじゃないけど、嫌いじゃないですから。
 しばらく落ち込んでいたら、マリアさんに励まされた。で、呪文を教わることになった。わーい。
 当面の目標は魔力を増やすこと。魔力がなければ呪文は唱えられないからだ。
 魔力の量は元々の才能もあるけど、努力次第で幾らでも増やせるそうだ。よし、頑張ろう。
 とりあえず元気に前へ進んでみましょうかね。

 神様、竜の女王様。俺たちの旅にどうか祝福を。

219 : ◆aPqItC/JYI :2007/04/23(月) 22:29:39 ID:hWVRMulU0
第三話投下終了しました。
規制に引っかかり途中で止まってしまいました。
>>214さん、支援ありがとうございました。

220 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/04/23(月) 23:01:06 ID:YZjlrzJk0
乙です。
前向きな主人公に好感!
序盤から気になる伏線も出てきて、
続きが楽しみです。

221 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/04/24(火) 16:37:48 ID:3sU1O7zN0
今4の人◆gYINaOL2aEの作品を読み返してるんだが
何度読み返しても涙が止まらなくなる程感動してしまう件について

222 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/04/24(火) 17:36:19 ID:4ikbC09NO
完結した職人への感想とか完全にチラ裏だろ。自演乙と言われても仕方ないくらいにな

223 :DQVI ◆55fvMgOfnY :2007/04/24(火) 19:57:15 ID:/oWal092O
頭の中がぼーっする。
なんだか色々ありすぎた気がするから。
なんで私、こんな所にいるんだっけ?
 
寮の自室で眠りについた、あぁ、眠った時もなんだかあやふやだったっけ。
とにかく疲れたな、寝るか…いや寝ているのか?
とりあえず…1匹2匹3…
 
「ピキー!」
 
「うん…3ピキ〜…」
 
ん?ピキー!っtqあwせdrftgyふじこlp;@
 
「ピキー?」
 
「あぁ、ごめんごめん、サスケ」
 
ここは(絶対に)DQ6の世界だったんだ…やっぱり夢ではないらしい。
私達は石畳の上に転がっていた、まわりは霧がたっていて、へたに動けばサスケの姿も見えなくなりそうだった。

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