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もし目が覚めたらそこがDQ世界の宿屋だったら11泊目

56 :風前風樹の嘆【14】 ◆Y0.K8lGEMA :2007/10/20(土) 01:08:26 ID:BEUp8zJv0
ゆっくりと起き上がった…死体。
相変わらず足取りは鈍いが、その朽木のような両足はしっかりと地に付いている。

「ビビらせやがって!今度こそ永遠に眠らせてやる…イオ!」

ヘンリーの魔力によって引き起こされた爆風で、腐った体が枯葉のように吹き飛ぶ。
そして、また立ち上がる。
飛び散った中身を拾う事もせず、何かに突き動かされるように。

「ヘンリー止めろ!相手にもう敵意はない。」
サトチーがイオの詠唱を制して、ヘンリーと腐った死体の間に立つ。
確かに、さっきまで充満していた明らかな殺意が消えている。

たどたどしく、弛緩した舌を動かして声を発する死体。
「…ナゼ…逃げなイ…?」
その機能を失った脊髄をククッと曲げ、俺達に問いを投げかける。
「私ノ…姿…怖れなイ…か?…死ぬ…怖く…なイか?」
自らの掌を…ボロボロの手を見つめる瞳に嘆きの色が浮かび、滲み出す…

「ふん。親分が子分を見捨てて逃げたら末代までの恥だろうが。」
ヘンリーは強気な口調で

「後列でへばってる親分を庇うのが優しい子分の役目だろ?」
俺は皮肉めいた口調で

―☆☆☆!!―
ブラウンは(言葉はわからないけど)胸をはって

「誰も死なせない。そして、誰も悲しませない。
 誰にでも帰る場所がある。待つ人がいる。どんな状況でも皆で生きる術を探すさ。」
サトチーは強く答える。
それは、表現こそ違えど全員同じ答え。

57 :風前風樹の嘆【15】 ◆Y0.K8lGEMA :2007/10/20(土) 01:09:11 ID:BEUp8zJv0
死んだ魚のように濁った目から零れる濁った涙。
「…帰れナイ…悲しませてゴメン…逢イたイよ……」
その言葉から、涙から感じられるのは、確かな意思。

逢いたい?
そうか、こいつは故郷で帰りを待つ人を残して逝くのが未練で…

「…帰りタイ…愛しイ…マチュア…」
湿っぽい土の上に数滴落ちる雫。
僅かな光源を反射するソレは、キラキラと輝いて見えた。


          ◇           ◇


「なあ、死体の旦那。一番奥の小部屋ってのはまだなのかい?」
「…もう少し…」
「かぁーっ!さっきからそればっかじゃねえか。本当に覚えてるのか?」

腐った死体の道案内。
思い出を呼び覚ましてくれたお礼にと、腐った死体が先導してくれているわけだが、
正直、脳味噌まで腐っているようなモンスターの案内は不安でしかない。

いやいや、(元)人を見かけで判断するのはいけないんだけどさ…

「なあなあ、死体の旦那。もういい加減着いても良いんじゃねえの?」
「…もう少し…」
「本当だな?信じてるからな?頼りにしてるからな?」
ヘンリーもイライラしてるようだが、それなりに打ち解けている。
あの、人当たりの良さは一種の才能なんだろうなあ。

58 :風前風樹の嘆【16】 ◆Y0.K8lGEMA :2007/10/20(土) 01:09:53 ID:BEUp8zJv0
「どうしたんだい?何か考え込んでるようだけど。」
そして、仲間の様子に敏感に反応するサトチー。これも才能だよな。

「大丈夫。別に悩んでるとかそういうのじゃないからさ。」
「…そう?それなら良いんだけど…」
「それより、アレに案内を任せて大丈夫なのか?正直、俺は不あn…」
言いかけた俺の足元を銀色の何かが駆け抜け、それに遅れて通過の余波を感じた。

何だアレ?やたらと速いけど、モンスターか?
「…メ…」

め?

「メタルスライムだ!!」
先を歩いていたヘンリーが叫び、興奮した様子で銀色に斬りかかる。
…が、ヘンリーの鎖鎌は掠りもせずに空を切る。

「逃がすな!ヘンリーとイサミは退路を塞げ!!ブラウンは全力で攻撃!!」
「おうよ!任せろ!!…って、畜生!チョロチョロすんな!!」

何だ?あのテンション…

「あぁっ!逃げる。追うぞ、ヘンリー!!」
「うおおぉぉ!逃がさねえぞおぉぉぉ!!」

銀色を追いかけて洞窟の方へ走りだすサトチー達。
完全に置いて行かれた俺と…腐った死体…

「…あの…行っちゃいました…ね?」
「…走って行っタ…方向…部屋…」

あ…そう…じゃあ問題ないね。

59 :風前風樹の嘆【17】 ◆Y0.K8lGEMA :2007/10/20(土) 01:10:42 ID:BEUp8zJv0
腐った死体の言う通り、少し先にそれらしい扉を発見した。
…けれど、サトチー達の姿はない。メタルスライムを追って走り回っているのだろう。
さらに、扉には鍵がかかっているらしく、押しても引いても動く気配はない。

「参ったね。サトチー達と合流するまでここで待つしかないのかね。」
ジメジメした上の階とは違い、石畳で覆われたこの階の地面は乾いているので、
座って休む事に躊躇しないで済む。

俺と向かい合うような形で、腐った死体も腰を下ろす。
道中、会話らしい会話は全くなかったけど、最初に感じた嫌悪感は消えており、
むしろ、二人きりの状況では、コイツのタフさはとても頼りになる。

「はぁ…しかし、だいぶ傷だらけになっちまったなあ。」
聞いているのか聞いていないのか、俺の声に全く反応を見せない腐った死体。
頭蓋骨が陥没したままの状態で、だらりと足を投げ出して休んでいる姿だけを見ると、
コイツが動いたり話したりするのが信じられなくもなる。
「あんたの怪我もそのままだったな。」
「…私ハ…痛みを感じ…なイ…平気…」
目を伏せたまま、やっと返ってきた反応はそっけない。

「…あんたは平気でもね…」
改めてその凄惨な怪我を目にして平気でいられるほど俺は冷酷じゃない。

ふぅ…と、一息ついて安らぎの歌を呼ぶ。
陥没した頭蓋骨を完全に治すには至らないが、傷口から滲み出る体液は止まった。

「サトチーのベホイミほどの効果はないけどさ、何もしないよりはマシだろ?」
「…ありガとう……デも…そノ技ハ…」

「肝心なトコで何で外すかな?このノーコンハンマー。」
―!!!!!―
「まあまあ、ブラウンのせいじゃないよ。」

60 :風前風樹の嘆【18】 ◆Y0.K8lGEMA :2007/10/20(土) 01:16:45 ID:BEUp8zJv0
呟くような腐った死体の声を掻き消して、一気に賑やかになる空間。
サトチー達が戻ってきた…けど、あの様子じゃあメタルスライムは取り逃したのかな?

「だってよお、コイツのハンマーが当たってれば…アレ?何やってんだイサミ。」
「ナニやってる?散々人を放置して第一声がソレ?」
素っ頓狂なヘンリーの言葉に俺の機嫌が一気に悪くなる。
「いやあ、済まない。メタルスライムを見たら、思わず血が熱くなってね。」

いつも冷静なサトチーが熱くなる存在。メタルスライム…
コレもこっちの世界の常識なのかね?

「…で?ココで待ってるって事は、この扉の先にパパスさんの形見があるって事か?」
「らしいね。でも、鍵がかかってて扉が開かないんだ。」
「どれどれ…あぁ、このタイプの鍵なら…ホラ、簡単。」

サトチーが鍵穴に何か…と、思ったら一瞬で開錠。

…ソレ、ピッキングって言うんじゃねえの?

「子供の頃に覚えたんだけどね。このタイプの鍵なら目をつぶってても開けられるさ。」
得意げに物凄い事を話しながら、扉を開けるサトチー。

…気にするな…きっと、コレもこっちの世界の常識なんだ…

十年振りに開け放たれた扉。
その奥に安置された一振りの剣。


剣の心得など全くない俺にもわかる眩いばかりの神性を放つ剣。

その剣を前に、俺達は暫し時間を忘れて立ち尽くしていた。

61 : ◆Y0.K8lGEMA :2007/10/20(土) 01:17:32 ID:BEUp8zJv0
イサミ  LV 11
職業:異邦人
HP:45/65
MP:10/10
装備:E銅の剣 E鎖帷子
持ち物:カバン(ガム他)
呪文・特技:岩石落とし(未完成) 安らぎの歌

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