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もし目が覚めたらそこがDQ世界の宿屋だったら11泊目

166 : ◆xl1KPT9CWI :2007/10/31(水) 01:40:15 ID:QkZkkLvU0
地下通路を抜けた先。ラインハット城の中庭は驚くほど静かだ。
無駄な戦闘は出来るだけ避け、見張りの衛兵を数名ぶっ飛ばして城内へ侵入。
そのような作戦を立てていたのだが、見張りどころか人の話し声すら聞こえない。

「安心しきってるのかもな。王家の有力者以外は地下通路の事を知らない筈だし。」

予想外に容易に進入できた事に安堵してはいるが、周囲の警戒は怠らない。
地下牢にモンスターを放つような国家だ、城内だろうが油断は出来ない。

「ヘンリー。アレ…何だい?」
周囲の様子を注意深く探っていたサトチーが指差す方向には、妙な形状の金属塊。
丸みを帯びた鎧のような、人型のような…何かが数体。
無残に焼け焦げている物、痛々しい貫通痕を残す物、バッサリと切断された物。
残された全てが酷く損傷しており、その姿からは本来の姿を想像できないが、
胴体(?)の部分から伸びた、弱々しいまでに細い手足は昆虫のそれを連想させ、
千切れた手足の内部からは、多数の無機質な繊維状のものが覗く。

「何だコリャ?人形…にしちゃ変な形だな。」
「鎧にも見えるけど、こんな鎧に合う体型の人間なんていないよねえ。」

その沈黙すらも不気味ではあるが、動かないソレに対して警戒心が緩んだのか、
無防備にペタペタと触りながら正体を模索する。
「…コレが何かはわからないけど、コレをここまで壊すのは普通じゃないね。」

硬質の金属で出来たコレを、破壊し尽くした存在…明らかに人間技じゃない。

「なあイサミ、昨日の夜に聞いた音…覚えてるだろ?」

ヘンリーの言葉を聞いた途端、背中を冷たい汗が伝ったのがわかった。
正体不明のオブジェ…正体不明の破壊音…正体不明の破壊者…
自分が恐怖を覚えている対象がわからない…
きっと、何もわからない事が恐怖なのだろう。

167 :入り旅人に出女【9】 ◆Y0.K8lGEMA :2007/10/31(水) 01:43:58 ID:QkZkkLvU0
暫くの間、触ってみたり、ひっくり返してみたり、ハンマーで殴ったりしていたが、
中庭のアレについては、今の段階では何もわからない。
わからない物の正体を探るよりも、今の俺達が優先すべきはデールに会う事。
中庭に繋がる勝手口から城内へ侵入し、デールがいるであろう謁見の間を目指す。

「ストップ。」
先頭を走るヘンリーが大きな扉の前で立ち止まり、後に続く俺達の足を止める。

「大広間の中から大勢の人の気配がする。」
渡り廊下の突き当たり。謁見の間から階段を下りた真下に位置する大広間。
豪華な装飾が施された巨大な扉は閉じられ、中の様子を窺い知る事は出来ないが、
ヘンリーの言う通り、扉の向こう側からざわめきが聞き取れる。

ほんの少しの扉の隙間から中を覗き込むと、多数の兵士の姿が見える。
「なるほどねえ。ここに城の兵士が集まってたから、警備が手薄だったのか。」
「城下守衛兵に王家近衛兵…番兵まで集まってるな。一体、何が…」
「静かに。何か始まるみたいだ。」

ざわついていた扉の向こうが一瞬で静まり返り、空気が緊迫した物に変わる。
コツ…コツ…と、張り詰めた静寂が支配する広間の中に己の足音を大きく響かせ、
大広間と上階とを繋ぐ階段をゆっくりと下りてきた男。
女性の様に艶やかな金髪とはアンバランスな、鋭い眼光が印象的だ。

「…あれは…デール…」

…あの人がヘンリーの弟、現ラインハット王デールか…イメージとは随分違うな。

ヘンリーの口から聞いていたデールは、優しい性格だが気弱で鈍臭い面もある…
いわゆる、イイ人なんだけど頼りない彼…って感じのイメージだったのだが、
今、姿を現したデールから感じられるのは、猛禽類のような油断のない目と、
王…と言うよりも、暴君のような威風堂々とした立ち振る舞い。
事前情報が間違っているのではと錯覚させる、冷たい威圧感を感じさせる。

168 :入り旅人に出女【10】 ◆Y0.K8lGEMA :2007/10/31(水) 01:44:57 ID:QkZkkLvU0
恰幅の良い貴族風の男―大臣だろうか?―が、最敬礼を持って王を演説台へと導く。

「我がラインハット軍は、近日中に商業都市オラクルベリーを侵攻・制圧する。」

女性のような艶やかな金髪とはアンバランスな、鋭い…冷たい目で広間を見渡す。
王の言葉に、若干どよめく兵達…それを一通り眺め、さも満足そうに手を上げる。

ぴたり…と、元の静寂を取り戻す広間。王の演説は続く。

「自治都市であるオラクルベリーを落とし、それを拠点としてポートセルミに侵攻。
 西方の物資さえ手にすれば、テルパドールやグランバニアの軍も恐るに足らず。
 北方、西方、南方、東方、全ての大陸を制覇し、我がラインハット王国は未来永劫、
 世界の頂点に君臨する国になる!諸君等はその輝かしい歴史の目撃者となるのだ!」

熱を帯びたデールの言葉に、広間の中に歓声が挙がる。
城の中、全てが狂ってる…侵攻…侵略…制圧…誰もそれをおかしいとは思わないのか?

「デールの奴、マジで言ってるのか…」
世界の制圧…それを口にしたのは、紛れもないデール本人。
眉間にしわを寄せたまま、ヘンリーの手が鋼の剣に掛けられる。

「待つんだ。今、騒ぎを起こすのはまずい。」
今にも扉を蹴り飛ばして広間に乱入しそうなヘンリーを、サトチーが押し留める。

―元凶がデール本人であるのなら…俺がこの手でデールを斬る―
俺の頭の中でリフレインするヘンリーの言葉。

「ところで…」
声量は大きくないが、歓声を突き破って聞こえる王の声。
先ほどの熱が冷めたように、底冷えのする冷たい声。

「扉の外に来客のようだ。丁重にもてなせ。」

169 :入り旅人に出女【11】 ◆Y0.K8lGEMA :2007/10/31(水) 01:46:42 ID:QkZkkLvU0
!!バレてる!?

頭が認知した時には既に広間の扉は開け放たれ、槍を構えた兵達に取り囲まれていた。

「参ったね…まさか、最初からバレてるなんて思わなかったよ。」
大人しく手を上げ、無抵抗の意思を示すサトチー。
さすがに、多勢に無勢。俺も仕方なくそれに従う。(ちなみにブラウンも)

「先日、オラクルベリーに浸入した密偵から―南の修道院に怪しい三人組が漂着した―
 そう連絡が入りましてね。調べてみたら、ヘンリー兄さんの可能性が大。
 本当にヘンリー兄さんだったら、城門が閉ざされていても王家の地下通路を通って、
 城の中に侵入してくるはず…まあ、僕の予想通りです。」

クスクスと笑いながら愉快そうに話すデール。
対峙するヘンリーの目は、明らかな敵意を放ち続けている。

「デール…さっきの話は本気なのか?」

剣の柄に手を掛けたまま問い掛けるヘンリー。それをデールは余裕の表情で眺める。

「よく聞いていなかったみたいですね。僕は本気ですよ。」

あっさりと肯定するデール。その言葉を合図に、ヘンリーが鋼の剣を鞘から抜き放ち
…かけた所で、その先の動作は再度サトチーによって阻止される。

「賢明ですね。兄さんが剣を抜いていたら、こちらにも多少の犠牲は出たでしょうが、
 僕の所に刃が届く前に、そちらは全員串刺しになっていましたよ。」

デールは相変わらず冷たい笑みを浮かべたまま、懐から取り出した葉巻を加え、
横に控える大臣に手を差し出す。
大臣から手渡されたのは、豪華な細工が施された小さな金色の…

170 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/10/31(水) 01:47:28 ID:s+up9XRu0
通りがかり支援

171 :入り旅人に出女【12】 ◆Y0.K8lGEMA :2007/10/31(水) 01:51:29 ID:QkZkkLvU0
「どうです?貴方達もラインハット軍に協力する気はありませんか?
 今なら、それなりのポストは用意できますが…」

金色の物体から迸る小さな炎を葉巻に点け、細く煙を吐き出す若い王。


…え?


アレって…もしかして…

「…っざけるなあっ!!」
怒りが理性のタガを弾き飛ばし、ヘンリーが剣を抜き放つ。

「抜きましたね…残念です。」
笑みの消えた表情…大臣が手にした灰皿に葉巻を押し付け、王が手を上げる。
手が振り下ろされた時、広間内の全ての兵が俺達に槍を突き出すのだろう。
そして、その瞬間は思ったよりもあっさりと…

「…やれ。」

無常な合図に、広間を支配する怒号…雄叫び…
一瞬視界から消え、その一瞬後には同時に繰り出される無数の先端…
剣を構える暇もない…死を覚悟する暇さえも…
誰かに肩を掴まれる…視界が真っ白になる…

思わず、目を瞑る…

…が、その瞬間はなかなかやって来ない。


そぉーっと目を開けると、ラインハット城下町の光景が目に入ってきた。

172 :入り旅人に出女【13】 ◆Y0.K8lGEMA :2007/10/31(水) 01:52:14 ID:QkZkkLvU0
「危なかったね。キメラの翼を使うタイミングが遅れていたら今頃は…」
あの瞬間。サトチーが宙に投げたキメラの翼は、俺達を城下町の外れまで転送した。

そうだ…ヘンリーは?
弟の心変わりを目の当たりにしたんだ。正気でいられる筈が…

「何をボーっとしてるんだ?早くここを離れないと追っ手が来るぞ。」
俺の心配をよそに、ヘンリーは御者台に上がり、馬を繰る手綱を握っていた。

…あれ?意外と冷静。

「デールはオラクルベリーに侵攻すると言っていた。そして修道院も…
 今は修道院のみんなを安全な所へ非難させるのが先決だろ?」
言いながらヘンリーが手綱をグイッと引き、パトリシアが軽くいななく。

「ほら。イサミも早く乗り込まないと置いて行かれるよ。」
サトチーに促され、慌てて馬車に乗り込むと同時に全速力で走り出す馬車。

逃げるわけじゃない。守るのが俺達の役目。俺達はその為に戦う。

馬車に揺られながら、ふと、御者台に乗るヘンリーに目をやる。
荷台からは、手綱を操るヘンリーの顔は見えない。けど、その表情は想像できる。

ヘンリーは、俺達に背を向けてさめざめと泣くような弱い男じゃない。

「…な?ブラウン?」
よくわからないという表情を浮かべるブラウンの頭を軽く撫でてやる。


夕暮れの道を馬車が走る。

守る物の元へと急ぐ男達を乗せる馬車は、逢魔ヶ時の暗がりの中で一層輝いて見えた。

173 :入り旅人に出女【14】 ◆Y0.K8lGEMA :2007/10/31(水) 01:52:49 ID:QkZkkLvU0
          ◇           ◇

日没の夕闇に溶け込むラインハット城、謁見の間。
玉座に座らせた女性の膝枕に寝そべる若い王と、その前に跪く大臣。

「申し訳ありません。追っ手を差し向けたのですが、取り逃がしました。」

深々と頭を下げる大臣を見下ろして、クスリと笑って見せるのは若い王。

「深追いせずともよい。どうせ、行き先はオラクルベリー南の修道院だろう。
 逃げ道を塞ぐ為に、わざわざ情報を与えてやったのだから…ねえ、ママ?」

ママと呼ばれたのは、王の頭をその膝に預ける女性。

その身を包むのは、華やかな紫のドレス。宝飾品の類は一切身に着けていない。
薄紫のベールに覆われた顔は、その目からしか表情を探る事は出来ないが、
鮮やかに彩色された長い爪が、王の柔らかな金髪をサラサラと撫でる。

恍惚の表情を浮かべながら、王が告げる。

「アレを放て…標的は、国賊ヘンリーとその一味。」



イサミ  LV 14
職業:異邦人
HP:56/71
MP:11/11
装備:E天空の剣 E鎖帷子
持ち物:カバン(ガム他)
呪文・特技:岩石落とし(未完成) 安らぎの歌

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