■掲示板に戻る■ 全部 1- 101- 201- 301- 401- 501- 601- 701- 最新50 [PR]ぜろちゃんねるプラス[PR]  

もし目が覚めたらそこがDQ世界の宿屋だったら10泊目

1 :タカハシ ◆2yD2HI9qc. :2007/08/01(水) 08:47:35 ID:SVgYayco0
このスレは「もし目が覚めた時にそこがDQ世界の宿屋だったら」ということを想像して書き込むスレです。
「DQシリーズいずれかの短編/長編」「いずれのDQシリーズでもない短編/長編オリジナル」何でもどうぞ。

・基本ですが「荒らしはスルー」です。
・スレの性質上、スレ進行が滞る事もありますがまったりと待ちましょう。
・荒れそうな話題や続けたい雑談はスレ容量節約のため「避難所」を利用して下さい。
・レス数が1000になる前に500KB制限で落ちやすいので、スレが470KBを超えたら次スレを立てて下さい。
・混乱を防ぐため、書き手の方は名前欄にタイトル(もしくはコテハン)とトリップをつけて下さい。
・物語の続きをアップする場合はアンカー(「>>(半角)+ 最後に投稿したレス番号(半角数字)」)をつけると読み易くなります。

前スレ「もし目が覚めたらそこがDQ世界の宿屋だったら九泊目」
ttp://game11.2ch.net/test/read.cgi/ff/1175450270/

PC版まとめ「もし目が覚めたら、そこがDQ世界の宿屋だったら」保管庫@2ch
ttp://ifstory.ifdef.jp/index.html

携帯版まとめ「DQ宿スレ@Mobile」
ttp://dq.first-create.com/dqinn/

避難所「もし目が覚めたら、そこがDQ世界の宿屋だったら」(作品批評、雑談、連絡事項など)
ttp://coronatus.sakura.ne.jp/DQyadoya/bbs.cgi

ファイルアップローダー
ttp://www.uploader.jp/home/ifdqstory/

お絵かき掲示板
ttp://atpaint.jp/ifdqstory/

127 :作り合わされし世界 ◆2yD2HI9qc. :2007/08/14(火) 12:42:58 ID:FqGoaygg0
「ふぅ。 何か話したそうだね。
 何かわかったのかい? お昼も食べないで出かけてたんだから」
「いえ… その、話してないことがあるんです」
「そう。 いいから、話してみて」

女将さんはフロアにある椅子へ腰掛けます。

「実は、俺はこの世界の人間じゃないんですよ」
「…? どういう意味だい」

きょとんとした顔をされましたが、構わず続けます。

「目が覚めたらこの宿屋のベッドの上で… 俺の知ってる場所でもないんです」
「そう言ったって、あんたは町の外に倒れてて─」
「でも、本当なんです。
 俺の知ってる世界じゃなくて、なんていうか、知らないんです全部」

女将さんはヨウイチの顔をじっと見つめます。

「この世界には電気もガスも、車も電車も飛行機もない。
 ありえないんですよ、住んでいた場所はどんなところでも電気くらいはあったから」

ふぅとため息をついて、女将さんは暖かいお茶を運んできました。
そのお茶をヨウイチにもすすめてずずずと飲み、話します。

128 :作り合わされし世界 ◆2yD2HI9qc. :2007/08/14(火) 12:45:42 ID:FqGoaygg0
「ヨウイチ。 あんたの言っている事はぜんぜんわからないよ。
 …だけど嘘はついてないね。
 私は長年、宿屋でいろんな人間を見てきたからわかるんだ」

嘘じゃないことをわかってもらえただけでも嬉しいことでした。
ヨウイチの顔は思わずほころんでしまいます。

「まぁ、私はなんだっていいんだ。
 悪い人間じゃないようだし、協力させてもらうよ。
 それに… どうしてなのかわからないけど、世話してあげなきゃならない気がしてね」

夜になると客は訪れません。
その日は遅くまでヨウイチ自身の、現実世界を話して過ごしました。

129 :タカハシ ◆2yD2HI9qc. :2007/08/14(火) 12:55:13 ID:FqGoaygg0
今回ここまで。
また次回。

130 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/08/14(火) 12:58:00 ID:WUS2uyOu0
リアルタイム遭遇きたー。支援。
ドラオ、かわいい♪

131 :作り合わされし世界 ◆2yD2HI9qc. :2007/08/14(火) 13:02:21 ID:FqGoaygg0
六、 町の外

「ありがとうございました。 お気をつけて、良い旅を!」

あれから幾日が過ぎ、ヨウイチはすっかり宿屋の仕事を覚えました。
もうドラオにだって文句は言われません。

「ヨウイチ、すっかりこの仕事にも慣れたねぇ。」

女将さんがカウンターの奥にある小さな倉庫から声をかけてきました。

「おかげさまでようやく。 なんだかもともとこの世界で暮らしていたような気がしますよ」

その言葉で二人は笑い、手早く朝の宿仕事をこなしていきます。

「女将さん。 部屋のシーツ替えと片付けは終わりました」
「ありがとう、じゃあ後はもういいよ」
「じゃあ、朝食を済ませたらまた町を見てまわってきます」
「あんたも好きだねぇ。 こんな小さな町で見ることなんてそんなにないだろうに」
「そうでもないんですよ。 なにせ見たことも聞いたこともない物ばかりですから」
「そうかい。 朝食はフロアに用意してあるからね」

女将さんは何かしているようでしたが構わずヨウイチは朝食を食べます。
今朝は玉子焼きと野菜を一緒に炒めたものです。
この世界で救いだったのは、食べ物がヨウイチの世界とほとんど変わらなかったことでした。

「ドラオー! おいで!」

ドラオもずいぶん懐いてくれて、今ではどこにいくのも一緒です。
ヨウイチもずっと同じに過ごしていたから、ドラオの言いたいことがなんとなくわかるようになっていました。

132 :作り合わされし世界 ◆2yD2HI9qc. :2007/08/14(火) 13:03:55 ID:FqGoaygg0
「キ〜・・」

宿屋で借りているヨウイチの部屋からふわふわドラオが飛んできます。
朝は弱いらしく、なかなか目を覚ましません。
ですがヨウイチが出かけるときに連れて行ってあげなかったらすごく怒ったことがあって、
それからは必ず連れて行くことにしているのです。

「相変わらず眠たそうだなぁ」
「キィキィ」
「そうか。 まぁいつもの事だから気にしないよ。
 今日も町を歩いてまわろう、行こうか」

毎日、ヨウイチは町の人や立ち寄る旅人にいろんな話を聞きます。
元の世界へ帰る方法を聞くためにやっている事ですが、この頃では楽しみになっていました。
ドラオは一応気にしているのかヨウイチに一言あやまってくれます。
肩辺りにふわふわしながら一緒に宿を出ました。

「とは言っても… 町のほとんどはもう見たから今日はどうするかな。
 町の外に出てみたいけど、それはダメだって言われてるし…」

話には聞いていました。
町の外に出ると恐ろしいモンスターが現れて人間を襲うのです。
ドラオもモンスターですが人間を襲いません。
モンスターには時々人間と仲良くしたがる者がいるらしいのです。

「キーキー」
「危ないって? うーん、だけどちょっとだけなら平気なんじゃないかな?」
「キッ!」
「わかったよ。 歩きながら考えてみようか。 何か見つけるかもしれないし」

二人はゆっくり歩きながら、町の人と挨拶を交わしながら歩きました。
気が付くと目の前には町の入り口で、もう一度ヨウイチは考えます。

133 :作り合わされし世界 ◆2yD2HI9qc. :2007/08/14(火) 13:05:34 ID:FqGoaygg0
 町で珍しいものはあらかた見て知った。
 傷を治す薬草も、武器も防具も、興味がわいたものは全部見た。
 道具や世界もしつこく聞いてあらかた知った。
 そうなれば、残っているのはやっぱり。

「外に行こう!」
「キ?!」
「いや、町のすぐ近くなら大丈夫だと思うんだよ。
 だってほら、ここから見てもモンスターっていう生き物は見えないし」
「キッキッ!」
「危なくなったらすぐ逃げるし大丈夫だよ。
 なんだったらドラオはここで待っててもいんだよ」

ドラオは考えているようです。
きっと女将さんに心配かけるのを悩んでいるのでしょう。

「ちょっとだけだから、なあ?」
「キ、キー」
「そうか! よし、モンスターを見たらすぐ逃げればいいんだよ。
 早速いってみよう」

ドラオは不安そうでしたが、ヨウイチは嬉しくて仕方がありません。
見たことの無いモノを見たり触れたりする事が、楽しいのです。
二人は周りを気にしながらゆっくりと町を離れました。

134 :タカハシ ◆2yD2HI9qc. :2007/08/14(火) 13:07:04 ID:FqGoaygg0
>>130
支援もらったのでちょっと続けましたw

今度こそ、今日はここまで。
また次回。

135 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/08/14(火) 20:16:46 ID:WUS2uyOu0
>>134
あわわ、無理させちゃいましたね。
続きの執筆乙&ありがとうございます。

町の外・・・モンスターが出てきそうな悪寒。
wktkしながら待ってますね。

136 :作り合わされし世界 ◆2yD2HI9qc. :2007/08/14(火) 21:49:44 ID:FqGoaygg0
>>135
読んでくれる人がいて始めて物語になるんだと思ってますから、お気になさらずに。
続きを投稿します。

       〜作り合わされし世界〜

       → 冒険をする
         → 2:ヨウイチ Lv2


137 :作り合わされし世界 ◆2yD2HI9qc. :2007/08/14(火) 21:51:19 ID:FqGoaygg0
七、 モンスター

緩やかな丘と平地が目の前を続いています。
周りには草木が茂り今にも何かが飛び出してきそうでしたが、モンスターと出会うことはありませんでした。
かわりに旅人と笑顔で挨拶をかわしただけです。
ヨウイチはなんだか拍子抜けしてしまって、ドラオは安心しています。

「なんだ、何にもいないな。
 見てみたかったんだけどなぁ」
「キー」
「なんだ怖いのか? だってなんにもいないじゃないか、平気だよ」

そろそろ引き返そうかと思ったその時、がさりと茂みから音がしました。

「な、なんだ?」
「キ」
「風かな…? だいぶ歩いたしもう戻ろう」

二人は一気に緊張していますぐ町へ帰りたくなってきました。
相変わらず草木はがさり、がさりと音をたてています。
ヨウイチとドラオはまるで走っているかのような早歩きで町の方向へと向かいました。

「キィーーー!」

突然、ドラオが大きな声を上げてヨウイチを追い越していきます。
びっくりして後ろを振り返ると、そこには見たことの無いまるで水彩絵の具を垂らしたような水のかたまり。

「わっ! えっ!」

ぷるぷるする身体に大きな目と口、それは話に聞いたモンスターのスライムでした。

138 :作り合わされし世界 ◆2yD2HI9qc. :2007/08/14(火) 21:59:54 ID:FqGoaygg0
「おい! ドラオ、どこいった!」

見るとドラオは木の陰に隠れてしまっていました。

「お前もモンスターなんだろ、まったく…」

ヨウイチはスライムをじっと見ました。
大きさはちょうど30センチくらい、見た目はすごく弱そうです。

「ええと、どうしよう。 ちっちゃいけどきっと凶暴だったりするんだろうからここは─」

タッっと、ヨウイチは走り出しました。

「ドラオこい! 逃げるぞ!」

大きな声で叫び、もと来た道を走って戻るつもりでした。
ところがドラオは震えたまま動こうとしません。
仕方が無いのでヨウイチはドラオのいる道から逸れた林の中へ、ドラオを連れに駆け込みました。
スライムは何か騒がしくしながら飛び跳ね、追いかけてきます。

「キィーキィ−!!」
「バカ! 暴れるなって、ほら、おい、逃げるんだよ!」
「キー!!」

あろうことか、ドラオはすごい勢いで更に林の中へと飛んでいってしまいます。
ヨウイチはもう、それは今までで一番だと思えるくらい一生懸命追いかけました。

50メートルは走ったでしょうか、ついにスライムを振り切りドラオに追いつきました。
周りはすっかり木に囲まれ、昼間なのに夕方みたいな暗さでさすがのヨウイチも怖くなってきます。
ドラオはその木の一本に翼ごと抱きついていました。

139 :作り合わされし世界 ◆2yD2HI9qc. :2007/08/14(火) 22:01:16 ID:FqGoaygg0
「はぁ… お前、まさかモンスターを見たことがないのか」
「キ、キー」
「見たことはあるって? ふぅ、じゃあなんで逃げたりするんだよ」
「キィー… キィ」
「はぁ、自分と同じモンスターは見たことないのか… にしても、一人で逃げるなよ」

ヨウイチはその場へしゃがみこみ、息を整えます。
そして落ち着いてからドラオを抱え出口を探し始めました。

「こうしてつかまえてたら逃げられないな」
「…! …!」
「逃げようってもがいても今度は離さないぞ。 しかし、ずいぶん奥まできてしまって道はどこなんだ」
「…!! …!!」

あんまりドラオが暴れるので、ヨウイチは周りをよく見ていませんでした。
ふと前の方をみると大きな熊が二人をにらみつけています。
ドラオは恐怖のあまり声が出せずもがいていただけだと、ヨウイチはやっと気付きました。

「こ、こいつは危なそうだ…」

足がすくみ、逃げようと考えるのですが一歩が踏み出せません。

 ああ、こんなところで殺されてしまうのだろうか。
 結局なにしにこの世界へきたのだ。
 せめてドラオは逃がすんだ。

「ドラオ、逃げろ!!」

ヨウイチが抱える手を離したのに、ドラオは地面へポトリと落ちて動きません。
見ると目がまるでバッテンになって、気絶してしまったのです。

140 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/08/14(火) 22:02:01 ID:Y6atT0nB0
支援

141 :作り合わされし世界 ◆2yD2HI9qc. :2007/08/14(火) 22:02:15 ID:FqGoaygg0
「最悪だ。 こんな森の中じゃ誰にも見つけてもらえないぞ… はぁ…」

足は相変わらずすくんでしまって動かせません。
ですが不思議と頭の中はすっきりしていました。
ヨウイチはもう覚悟を決めて、せめて拳の一発でもお見舞いしてやろうと思います。

「くるなら来い! ちくしょうこんなところでなんにもわからず死ぬなんて!!」


142 :作り合わされし世界 ◆2yD2HI9qc. :2007/08/14(火) 22:03:24 ID:FqGoaygg0
八、 旅人

「おい! しゃがめ!」

突然、うしろから大声が聞こえヨウイチは思わずしゃがみこみます。
サッとザクッとグォーの音と声が同時に聞こえ、それからドタリと振動がしました。
ヨウイチはドラオを抱えながら恐るおそる立ち上がります。

「大丈夫か? 怪我してないか」

男の声が聞こえ、目の前を見ると大きな熊は倒れています。

「…!」
「大丈夫そうだな、よっ…と。
 そのドラキーはお前のペットか」

どうして熊が倒れてしまったかはすぐに気づきました。
話しながら男が熊を転がし大きなナイフを抜いていたからです。

「助けてくれてありがとうございます…
 こいつは… そうです、ドラオっていいます」
「そうか」
「この熊死んだんですか」

倒れた熊はピクリとも動きません。
血がどろどろ流れて、ヨウイチは尻込みしてしまいます。

「当たり前だろ。 おかしな事いうなよ」

143 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/08/14(火) 22:04:02 ID:Y6atT0nB0
規制に負けるな支援

144 :作り合わされし世界 ◆2yD2HI9qc. :2007/08/14(火) 22:05:33 ID:FqGoaygg0
ヨウイチは思い知らされました。

 なんて恐ろしい世界だろう。
 とんでもない事になってしまった。

男が言った「おかしな事」という言葉は、この世界の厳しさを物語っていました。

 けれど。

覚悟しました。
これからもきっとモンスターに襲われます。
だけどヨウイチは元の世界へ帰らないといけません。
そのためには町を出てこの世界を巡らなければならないでしょう。
ここでくじけるわけにはいかなかったのです。

「ところで、あんたはこんな所で何してたんだ」
「あ、モンスターに襲われて逃げてたら…」
「そうか。 見たところ旅人の服だし武器は持ってないし、戦えないんだな」

男は腰にナイフをぶら下げながらいいました。
ヨウイチはおそるおそる男に話しかけます。

「あの」
「お? どうした」

モンスターの死体を探りながら男は振り返ります。

「俺に、あ。 ええと、戦いを教えてもらえませんか」
「なぜ」
「それは… 見つかるかわからないけど探したい事があるからです。
 それには戦えないとだめなんです」

145 :作り合わされし世界 ◆2yD2HI9qc. :2007/08/14(火) 22:06:43 ID:FqGoaygg0
ヨウイチはとっさに言いましたが、意味が通じたかはわかりません。

「…何か知らないがわけありのようだな。
 だが俺の戦い方はお前には無理だ。
 しかし基本動作くらいは教えてやらんこともない。
ただし─」
「え、ただし?」
「俺は長く旅をしてきて疲れている。
 だが金がない、つまり… つまりだな」
「…なんですか」
「ああ、俺の宿賃を授業料だと思って払ってほしいんだ」

少し恥ずかしそうに男が言いました。
この条件にヨウイチはラッキーだと心の中でつぶやきます。
なにしろヨウイチは宿屋の店員なのですから。

「そんな事でいいんですか、それなら平気です」
「そうか!」
「じゃあ、いいんですね?」
「ああ、ああ。 助かる」

男は顔をとてもほころばせて喜びました。

「じゃあ、早速いきましょうか」
「頼む。 この森から出て町へ行くのは俺が案内できる」

両手に抱えられたドラオが目を覚まし不思議そうな顔です。
起こったことを教えると、わかったようなわからないような表情をしていました。

146 :作り合わされし世界 ◆2yD2HI9qc. :2007/08/14(火) 22:08:11 ID:FqGoaygg0
九、 修行

ヨウイチは女将さんに事情を説明し、男を宿泊させることに納得してもらいました。
最初は、男を怪しそうに思っていた女将さんでしたがヨウイチの決意に動かされたのです。
男は自分の名前をダンと言いました。

「あんたがそこまで言うのなら。 ただし、あんまり危険な事はしないでおくれよ
 それとヨウイチ、自分で言ったんだから約束は守るんだよ」

ヨウイチは泊めてあげるためなら宿屋の仕事をこれまで以上になんでもする、そう約束していました。
何度も頭を下げ、次の日から始まる戦いの授業に備えその日は早く寝ました。

翌日、午前中に宿屋の仕事をいつも以上に一生懸命やってから、町のはずれで稽古の始まりです。
ですがまだ何もしていないのに身体中がきしみます。
今日から始めた薪割り。
女将さんは楽にやっているように見えましたが実際は違ってとても苦労しました。
ドラオはそんなヨウイチを邪魔にならない場所でふわふわ浮いて見守っています。

「さて。 ヨウイチ、君は俺が使うナイフより剣を覚えるのがいいだろう。
 槍は短期間では習得できないし斧は筋力をつけるのに時間がかかりすぎる。
ナイフは見たところ素早そうではないから不向きだ」
「わかりました」
「よし。 これを持って俺と同じに構えるんだ、そう。
 そしたらこう… ゆっくりと… ちがう、こうだ」

渡された木の棒をダンと同じように振ったり構えたりするのですがなかなかうまくいきません。

147 :作り合わされし世界 ◆2yD2HI9qc. :2007/08/14(火) 22:09:29 ID:FqGoaygg0
「最初から出来る訳はないからな。 とにかく動作一つ一つに意識を与えて体で覚えるんだ」
「がんばります」
「あー、それからだ。 そういう話し方はモンスターにもなめられやすい。
 もっと気を強く持ってしゃべった方がいいな。
それじゃ体だってついてこない」
「だけど」
「いいんだ。 そのほうが皆と話しやすいし意思も伝わりやすいもんだよ」
「…わかった」
「その調子だ。 ああ、でも最低限のマナーは守れよ」
「もちろんそれは。 そこはわきまえてます。だ」
「…まぁそれも慣れだな。 体で覚えろ」

ドラオがクスクス笑っているように感じてヨウイチは恥ずかしかったのですが、とにかく頑張りました。
修行は日が暮れるまで続き、疲れきった体でようやく宿屋へ戻りました。

「おかえり。 ずいぶん疲れてるね、先に風呂入るかい?」
「女将さん、ただいま。 先に腹に何か入れたいんだけど」
「ダンさんはどっちがいいですか?」
「私もヨウイチと同じで頼みます」

(ダン、女将さんに丁寧に話してるじゃないか)
(何を言うか。 女将さんには世話になってるんだから当たり前だろう)

「どうしたんだい二人とも」
「女将さん、ヨウイチは心も鍛えなきゃなりません。
 なので話し方も鍛えてやってるんですが、そこも認めてもらえないですか」
「ははぁ、なるほど。 私は構わないよ。
 どっちかというと普通の話し方のほうが接しやすいからね」
「キッ」

ドラオはやっぱりクスクスします。
ヨウイチはドラオを少し追いかけてから、女将さんに礼を言いました。

148 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/08/14(火) 22:09:39 ID:Y6atT0nB0
もし目が覚めたらそこが規制のない世界だったら

149 :作り合わされし世界 ◆2yD2HI9qc. :2007/08/14(火) 22:12:04 ID:FqGoaygg0
「ありがとう、女将さん。
 なんか、何から何まで親切にしてもらって」
「いいんだよ。 私は町一番のお節介で通ってるんだから」

食事を済ませ、風呂に入り少し雑談してから部屋のベッドへもぐりこみます。
動かし慣れない動作の連続だったので腕は震え、熱くなっています。

 棒を振り回していただけなのになんてきついんだろう。
明日も宿の仕事があるし薪だって割らなきゃいけない。
だいじょうぶ、だろうか……

気が付くまもなく眠りに入っていきます。
目が覚めればまた宿屋の仕事と稽古、けれどヨウイチはそんな毎日を楽しみにするのでした。

150 :作り合わされし世界 ◆2yD2HI9qc. :2007/08/14(火) 22:15:13 ID:FqGoaygg0
十、せきばん

「ヨウイチ、だいぶさまになってきたな。 後は一人で経験をつんでいけば大丈夫だ」

稽古を始めてから二ヶ月ほどがすぎていました。
もうすっかり木の棒を軽々と振り回し、ダンとの練習試合も難なくこなせるようになっていました。

「俺も世話になりすぎた。 そろそろ旅を再開するよ」
「もう? まだいいじゃないか」
「そうはいかない。 なんだかんだで二ヶ月も世話になってしまった。
 それに俺は同じ場所に長くいられないんだ」

宿屋に着き、女将を手伝ってから夕食になります。

「そうかい。 あんたもヨウイチによくしてくれたね」
「いえ、私こそこんなに長く世話になってしまいまして」
「ダン。 いろいろ教えてもらって助かったよ」
「ほんとにねぇ。 ヨウイチもこんなに男らしい態度になって、ねぇ」
「女将さん、それじゃ前は女みたいだって?」
「そうはいわないけど、なんだか頼りない感じだったよ」
「はは。 もうヨウイチは一人でもやっていけます。
 一人旅だっていつでもいける」

ダンのこの言葉にヨウイチは胸がドキリとしてしまいました。
忘れていましたが戦いを教えてもらった理由は元の世界へ戻る方法を探すため。
それはこのクレージュを旅立つということだからです。

その晩は遅くまで話し込み、少し寝ると朝日が昇って朝を告げました。
寝不足のままずいぶん慣れた宿屋の仕事を済ませ、ダンを町の出入り口まで見送ります。

151 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/08/14(火) 22:16:20 ID:Y6atT0nB0
名無しは支援を唱えた!
しかし規制には効かなかった。

152 :作り合わされし世界 ◆2yD2HI9qc. :2007/08/14(火) 22:17:04 ID:FqGoaygg0
「ダン、短かったけどありがとう。 これ、女将さんから」

ヨウイチはたくさんの保存食が入った袋を手渡します。
果物や野菜、肉を長く持たせるよう調理した旅には必要な物資です。
ダンは町の人からいろんな依頼を受けてお金を稼いで、必要な物を揃えたり宿代を支払ったりしていました。
ですが小さな用事ばかりだったのであまり稼げていなかったのです。

「すまん。 女将さんには最後まで世話になりっぱなしだな」
「ダン。 …俺も、旅に出るよ。 前言ったように」
「今のお前なら危険な場所にさえ行かなければ大丈夫だろう」
「あんまり自信はないんだけど… やってみたい」

ダンは微笑み町の門をくぐります。
ヨウイチが後姿を見ていると振り返り言いました。

「ああ、そうだ。
 知ってるか、この世界には特別な石版というものがあって、それを神殿に捧げると願いがかなうらしいんだ」
「願い? なんでも叶うのか?」
「願いを叶えたやつがいるなんて聞いたことがないからな
 石版は確かに存在する。 だが、願いが叶うというのは定かじゃない」
「なんでそんな事を俺に?」
「お前言ってたよな、叶わない探し物をしてるって。
 …じゃあな」

ヨウイチはこんな時に聞きたいことが山とわいてきましたが、歩いていくダンに声をかける事ができず
ただただ、見送るだけでした。

153 :タカハシ ◆2yD2HI9qc. :2007/08/14(火) 22:22:18 ID:wywAs2E1O
規制されました。
これはキツイ…
どうしても回避は不可能らしいです。

>>151
支援がじわじわと効いてくる!
だが運営に願いは届かなかった!

ありがとうございました。

154 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/08/14(火) 22:26:58 ID:Y6atT0nB0
おお支援よ、死んでしまうとは情けない!

タカハシ乙!!

155 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/08/14(火) 22:29:04 ID:WUS2uyOu0
>>154
だが、パーティーの人数を増やしたらなんとかなるかもしれん。

タカハシさん乙。
今夜中に続きが読めるとは。

ダンさん、かっこいい。

156 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/08/15(水) 00:54:05 ID:l9e5ZjUKO
3レス目以降2分ずつ空けると規制にかからないみたいですよ。

157 :タカハシ ◆2yD2HI9qc. :2007/08/15(水) 11:35:54 ID:zdNid8tw0
>>154,155
支援どうもです!

>>156
おお、なるほど。
やってみますね、ありがとう。


>>152 からの続きをどうぞ。

158 :タカハシ ◆2yD2HI9qc. :2007/08/15(水) 11:36:52 ID:zdNid8tw0

    〜作り合わされし世界〜

     → 冒険をする
         1:しなの  Lv4
       → 2:ヨウイチ Lv3

159 :作り合わされし世界 ◆2yD2HI9qc. :2007/08/15(水) 11:38:16 ID:zdNid8tw0
十一、 旅立ち

「旅に出る?」

時間は昼過ぎ。
女将さんが少し驚いた口調で言いました。

「いままで世話になってきて、何も返せなかったけど… 俺は旅に出たい」
「…何かを探しにいきたいっていうのは知ってたんだよ。
 いつかいつか…
こんなに毎日いっしょに過ごしてたんだ。
覚悟していたけどイザとなるとやっぱり複雑だよ」
「女将さん、ごめん」

ダンがいなくなってから数日、ヨウイチはずっと考えていたのです。
少し寂しげな表情を見ると、心がさわさわして言葉が見つかりません。
けれど、そんなヨウイチとは反対に女将さんは明るく言いました。

「そんなに険しい顔をしないでおくれよ!
 今日のためにあんたと過ごしてきたんだ、私も嬉しいよ」
「ありがとう、女将さん」
「キー!」

話を聞いていたドラオが突然、声をあげました。
なにやら女将さんに言っているようです。

「ドラオ、お前も行くんだね。 ある日いなくなるんじゃないかって思ってたけど…
 いいよ、いっといで」

ヨウイチにもドラオの言うことはわかりました。

160 :作り合わされし世界 ◆2yD2HI9qc. :2007/08/15(水) 11:42:19 ID:zdNid8tw0
「さぁ二人とも、決めたんならすぐがいいね。 準備しといで」

準備、といってもヨウイチは何も持っていませんしドラオだって同じです。
女将さんは少しあきれて、自分の部屋から大きなリュックを持ってきました。
リュックはたくさん入っているようでふくらんでいます。

「ほら、言った通り覚悟はしていたんだよ」

リュックを渡しながら女将さんはニコリと笑いました。

「二人とも。 道に迷ったり疲れたりしたらいつでも戻ってきていいんだから。
 それから、用事が済んだら顔だけでも見せに戻ってきておくれよ」
「うん。 ありがとう」
「キーッ!」

女将さんは気丈でした。
暗い顔なんてひとつもみせず二人を元気いっぱいに見送ります。
ヨウイチにはそんな姿がとてもとても切なく感じて、おおきく一言出すのが精一杯でした。

「いってきます!」

161 :作り合わされし世界 ◆2yD2HI9qc. :2007/08/15(水) 11:46:26 ID:zdNid8tw0
十二、 足りない準備

町の門をくぐり目の前の森を歩いていきます。
いままでとは何か違う、どこかうわついた心でした。

「ところで… お前はこれからどこへいくんだ」
「キ? キィキー」
「えぇぇ、お前。 俺と一緒に旅するっていうのかよ?」
「キィ」

ドラオはさも当たり前といった顔でふわふわします。
ヨウイチはちょっと戸惑いましたが、一人旅は心細いので納得しました。

「あ、そうだ」

森の道でちょっと広くなった草地に腰掛け、女将さんにもらったリュックを開きます。
もらったのは良かったけれど、何が入っているのかはぜんぜん聞いてなかったからです。

「ええと… これは薬草、水筒、保存食…」

リュックの中には旅に必要な道具がそろっていました。
その中には手紙も入っています。

『ヨウイチ。
 少ないですがお金も入れておきました。
クレージュから近い町はシエーナです。
そこで足りない道具や装備を整えてください。』

「女将さん…」

リュックの奥に大事にしまわれた小さな袋には数百ゴールドのお金が詰め込まれています。
その袋をぎゅっと握り締め、そっとリュックへしまいます。

162 :作り合わされし世界 ◆2yD2HI9qc. :2007/08/15(水) 11:54:04 ID:zdNid8tw0
「なぁドラオ。 何を探して何があるのかはわからないけど、また絶対帰ろうな」
「キィッ」

リュックを背負い、再び歩き始めます。
たくさん詰め込まれているので重いのですが薪割りのおかげか苦になりません。
そんな事も思いながら歩いていましたがふと、気づきました。

「あ、あれ」
「キ?」
「そういえばおれ… 武器持ってないや…」
「キー?!」
「本当だ。 まいったなぁ、今から戻るなんてかっこ悪いし…
 シエーナって町までどうにかするしかないぞ」

あわてて周りをきょろきょろしますが太い棒切れしか見つかりません。

 初日からこれじゃあ、これから思いやられてしまう。
生きて元の世界へ戻れるのだろうか。

仕方がないので棒切れを片手に握り、今度は警戒しながら道を進んでくのでした。

163 :作り合わされし世界 ◆2yD2HI9qc. :2007/08/15(水) 11:59:20 ID:zdNid8tw0
十三、 初めてのよる

棒切れを握りドラオを肩の上に浮かせたまま数時間歩きました。
そのあいだ、幾人もの旅人や商人とすれ違い、休憩しながら話したりしました。

「シエーナは遠そうだな…」
「キ…」

話によるとあと数日はかかるらしいのです。

「もう疲れた… 電車ならすぐなのに…」
「キィ?」
「ああ、電車ってのはな……」

路に座り込み電車を教えているうち、やがて空は夕焼けとなり暗くなり始めました。

「うーん、野宿か。 子供のころ友達とキャンプしかやったことない」
「キィキー、キィ!」
「いや、だからな。 ほんとなんだって。
 鉄の箱でらくらく移動できるんだって……」


適当な場所でリュックにあったオイルで火を起こし、今夜はそこで眠ることにしました。
森の中で、いつモンスターに襲われるかわからない不安の中で、はじめての野宿。
一人ならとても不安でしょうがドラオがいます。
すぐ逃げ出すにしても、話相手をしてもらうことで気晴らしになりました。

「はぁ疲れきった。 足の裏が痛いし熱いよ。
 お前はいいなぁ、羽動かしてるだけでいいんだもんな」
「キ! キーッ」
「まぁ、そりゃそうかもしれないけど… 疲れたっていう割には今だって飛んでるじゃないか」
「!!」

164 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/08/15(水) 12:05:27 ID:f+CVPVCw0
支援トヘロス

165 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/08/15(水) 12:09:55 ID:l8bNbGg70
支援

166 :作り合わされし世界 ◆2yD2HI9qc. :2007/08/15(水) 12:13:58 ID:zdNid8tw0
ヨウイチに言われてドラオはすぐ羽を止め、地面にしゃがみました。
短い足でちょこんとする姿に、ヨウイチは笑いをこらえるので必死です。

「ぷ。 さ、さーもう寝る。
 何も食べる気がしないし、身体が休めって言ってるしな」
「キィ」

ドラオもお腹は空いていないようでした。
返事といっしょにころんと横になり、一瞬で眠りに落ちてしまいます。
疲れたというのは嘘ではなかったようで、やっぱりヨウイチは少し可笑しくなりました。

「面白いやつだな… 俺も寝よう、おやすみ……」

火を消してリュックを枕に横になり、それから数秒で眠りに落ちるのでした。


「…おい …あんた」

何かが身体を揺さぶります。
けれどヨウイチはすっかり疲れきってしまってすぐに起きる事が出来ません。
ドラオは静かに、まだ眠っているようでした。

「だ、だれ……?」
「ああ、私はここらへんで商売をして歩いてる者だが…
 あんた、外を歩くのはまさか始めてかね?」
「え、え、ええ…」

目をごしごしとこすりながら見ると、松明を片手に持った男がいます。
顔はマスクで覆われ背中には大きな荷物を背負った、見るからに旅の商人でした。

167 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/08/15(水) 12:15:44 ID:l8bNbGg70
支援の攻撃!
規制に10のダメージを与えた!

168 :作り合わされし世界 ◆2yD2HI9qc. :2007/08/15(水) 12:18:40 ID:zdNid8tw0
「そんなに思い切り寝てしまったんじゃあ、あんたモンスターに殺されちまうよ」
「んん、えぇ?」
「普通は木の幹にもたれてすぐ動けるように武器を抱えて眠るんだ。
 今のあんたは襲われたら一瞬だ」

ドラオはまだ起きません。
この男が言うように今襲われたら抵抗も出来ずに死んでしまいます。

「わかったら、そこのドラキーと交代で番をしながら眠るんだな。
 じゃあ私はもういくよ…」
「あ、あど、ども…」

松明の明かりが遠くへ離れ、辺りは再び暗闇に包まれました。

「ふぅ」

一息ついてリュックを自分の下へ引き寄せます。
口紐が緩んで中が見えていました。

「開けっ放しだったかな…?」

構わず手を突っ込みオイルを探しますが、どうも中身が少し減っているように感じました。

「あ、あれ…」

ありませんでした。
束になった薬草全部と、保存食の半分が無くなっていたのです。
ヨウイチは混乱しましたがやがて気づきました。

169 :作り合わされし世界 ◆2yD2HI9qc. :2007/08/15(水) 12:22:01 ID:zdNid8tw0
「あの男だ…! あいつが盗んだんだ……」

声をかけてきた今の男は盗賊だったのです。
恐らく、盗賊は全部盗もうとしたのでしょう。
ですがヨウイチのあまりの無防備さに同情し半分だけを盗み、助言を与えていったのです。
オイルを取り出し火に照らされながら、ヨウイチはそのまま眠れずに初日の夜を過ごすのでした。

170 :作り合わされし世界 ◆2yD2HI9qc. :2007/08/15(水) 12:26:15 ID:zdNid8tw0
十四、 初めてのたたかい

あくる日、ヨウイチは寝不足でドラオはすっきりした顔で歩き始めました。

「仕方ないだろ… 俺だって気が回らなかったんだから」
「キーッ!キーッ!」
「わかったわかった。 これから気をつけるからもう言うなよ…」

昨晩のことをドラオと話しながら歩いていきます。
一時間ほど進むと、前触れもなく森がなくなりひろいひろい広野が現れました。

「おぉー!」

遠くには山があり林があり岩がありおおきな空があり、遠くにはまた森も見えます。
その地には人が踏み均した道が続き、まるでこの旅を最後まで導いてくれるかのようでした。
ヨウイチは自分で歩き見つけたその地がとても気に入ってしまいました。
ドラオも高く低く飛び回り喜んでいるようです。

「やったなぁ! 同じ道ばっかりで森から出られなんじゃないかって不安だったんだよ!」
「キッ!」
「いいなぁこういうの。 なんか、あこがれだなぁ」

二人は感傷に浸りながらゆっくり歩きます。
ところがいいことばかりではありませんでした。
途中すれちがった旅人が教えてくれたのです。

「ここから先はモンスターが多いから気をつけなさい」

棒切れを強く握り締め、今になってぐぅぐぅなる腹に保存食を与えながら進んでいきます。
そのうち、小高い丘を越えた辺りでなにかが動く気配を感じ、それはまさにモンスターでした。

171 :作り合わされし世界 ◆2yD2HI9qc. :2007/08/15(水) 12:30:11 ID:zdNid8tw0
「おいドラオ!」
「キ…」
「いいかビビるな! 俺が戦うから、声で俺を助けろよ!」
「キキ…!」

ドラオは逃げ出さずヨウイチの話を聞き従ってくれるようです。
ヨウイチはといいますとリュックをおろし、棒切れを両手で握ってモンスターへと近づきます。

「ん、あれはスライムってやつだな… ああ、二匹もいる…」

ダンの教えを思い出します。
じりじりと近づくうちにスライムも二人をみつけ、ぷよぷよ近づいてきます。

「くるならこい! 前の俺とは違うんだ!」

スライムは表情一つ変えません。
そうこうしているうちにお互いの距離まで近づきました。

「こ、こっちからやってやる!」
「キー!」

ヨウイチは思いきって一匹のスライムに棒切れを叩き付けました。
すると、たったそれだけで、スライムはぺちゃんこになって動かなくなってしまいました。

あっけない事に動揺しているともう一匹のスライムがジャンプしてヨウイチに噛み付こうとしてきます。

172 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/08/15(水) 12:31:50 ID:l8bNbGg70
すみません。それを買うには支援がたりませんが……

173 :作り合わされし世界 ◆2yD2HI9qc. :2007/08/15(水) 12:33:18 ID:zdNid8tw0
「キッ!」
「っ! いててっ!」

ドラオの声に反応してよけたつもりでしたが、意外に鋭い歯が腕に切り傷を作ります。
痛みを我慢して棒切れを握り直し、さっきと同じようにスライムを叩きます。
今度もやっぱりぺちゃんこになって動きません。

始めての戦いに勝ったのです。
わぁわぁと二人で大喜びし、スライムの死骸を見てみます。
気持ちの悪い光景でしたが勝利の気持ちのほうが大きくて、そんな事はなんともありませんでした。

174 :タカハシ ◆2yD2HI9qc. :2007/08/15(水) 12:36:09 ID:zdNid8tw0
いったん、止めます。
続きはまた後ほど。

>>164,172
支援ありがとう!
ヨウイチは静かに目を閉じた……

175 :作り合わされし世界 ◆2yD2HI9qc. :2007/08/15(水) 18:16:35 ID:zdNid8tw0
    〜作り合わされし世界〜

     → 冒険をする
         1:しなの  Lv4
       → 2:ヨウイチ Lv4

176 :作り合わされし世界 ◆2yD2HI9qc. :2007/08/15(水) 18:17:34 ID:zdNid8tw0
十五、シエーナ

幾つもの林を抜け森を抜け数日、二人はようやくシエーナへとたどり着きました。
その数日の間、戦いは何度もありました。
薬草のないヨウイチは傷を増やし、時には逃げながらなんとか生き延びました。
ドラオは、そんなヨウイチを一生懸命に助けながら生き延びました。

ドラキーとも出会い、戦いました。
ドラオが心配でしたが本人はどうやら人間側なんだと割り切っているらしく、なんともない涼しい顔のままです。
逆にヨウイチは、ドラキーが飛んだまま攻撃してくるものですからとても苦労して勝利しました。
もしダンに出会わず旅をしていたら、二人とも無事ではなかっただろうと口には出しませんが思っていました。


シエーナはバザーが催されていてとても賑やかです。
たくさんの出店が並び、人々が行き交いヨウイチもドラオもときめきます。

「ドラオ… 俺たち二人だけでここまでこられたな」
「キィ」
「なんとか最初の目的を果たせたぞ。 つっ… まずは傷を治すという薬草を探すか」

薬草はすぐに見つかりました。
バザーに出店されている店で薬草一つ80ゴールドです。
ヨウイチには物価がわからないので安いのか高いのかわかりません。
変な話し方の店主でしたが傷が痛むので二つ買い、その場で考えます。

「で… どうすればいいんだ?」

ドラオは知らないようです。
仕方がないので変な喋り方の店主に聞くと、葉を食べればいいという事でした。

177 :作り合わされし世界 ◆2yD2HI9qc. :2007/08/15(水) 18:21:08 ID:zdNid8tw0
「苦そうだな… 怪しいな… 仕方がないっ!」

ヨウイチは勇気を出して葉を丸めて口へ放り込み、数回噛んでから飲み込みます。
すると、痛みがあっという間に消え傷はふさがりすっかり元通りになってしまいました。

「おおおぉぉぉぉ…… こ、これはすごい……」

驚き、葉をしげしげと見つめますが変わった様子はなく、ただの葉っぱです。
味は渋いお茶に近く、お茶好きなヨウイチはますます気に入ります。
盗まれた薬草の事を考えると腹が立ちましたが、授業料だと思いあきらめました。

「さー、ドラ… あれ?」

さっきまでそばで浮いていたドラオの姿がありません。
うろうろ探してみると、ドラオは女の人のそばで羽ばたいていました。

「キ〜!」

何か見つけたような声を出しながら、女の人の顔の前でふわふわしています。

「こらドラオ! 知らない人を驚かしちゃあダメじゃないか!
 ゴメンな。勝手に飛び回るものだから……」

女の人は気にしないといった風に言います。

「いや大丈夫だ。この動物は……?」
「ドラキーを知らないのか?」
「私の世界にはいなかったからな」

178 :作り合わされし世界 ◆2yD2HI9qc. :2007/08/15(水) 18:26:03 ID:zdNid8tw0
まさかと思いました。
自分と同じ世界の人かと考えましたが、ヨウイチはこの世界をまだ良く知りません。
もしかすると別の意味かもしれないと考え直します。
詳しく聞きたい気持ちは強いのですが、変な噂になるのは嫌でした。

「あぁなるほど…… あ、こらドラオ! やめろっ」

ドラオが、ヨウイチの肩に乗ろうと一生懸命にしています。
羽が顔に当たってちょっと痛いのです。

「よく懐いているな」
「ドラオは人を怖がらないからな。 触ってみるか?」

落ち着かないドラオをつかまえ差し出し、女の人がドラオを触ろうとします。
ところが、さっきまで頭の上を飛んだりしていたのに、ドラオは逃げるように何処かへいってしまいました。
まるで触られるのを嫌ったようです。

「……何て言うか、その……」

ヨウイチはきまずくなって、けれど言葉が出ません。
ドラオは人懐こいはずなのに、どうして逃げてしまったのかわからなかったのです。

「羨ましいな。 どうやって仲良くなったんだ?」
「え? いや、普通に友達になったんだけど」
「むぅ…不公平だ! 私とも友達になってくれ!」
「俺に言われてもな……」

虚しそうに空を見上げる女の人には気の毒でしたがドラオを探さないといけません。
ヨウイチはこっそり素早く、ドラオの飛んでいったほうへ歩くのでした。

179 :作り合わされし世界 ◆2yD2HI9qc. :2007/08/15(水) 18:30:59 ID:zdNid8tw0
十六、 ドラオのたから

ドラオは出店ではないよろず屋にいました。
この世界の人たちは悪意のあるモンスターとそうでないモンスターの区別が付くようです。
童話のお姫様が頭に載せる、そんなような冠を店主と一緒にとぼけた顔で自分とあわせています。

「お客さん似合いますよ!」
「キィ?」

ヨウイチはあきれながらドラオと店主のやりとりを見ていました。

「キィ」
「おや、お気に召しませんでしたか? それでは… これはどうです?」
「キィキィ!」

緑色のガラス玉がぶらさがった小さなちいさな首飾りを店主につけてもらい、ドラオは満足したようです。

「どうです、お気に召したようですね」
「…キィ」
「ええと… お買い上げですか?」
「キィキィ、キィ」
「えー… お買い上げですね! 80ゴールドになります!」

あわててヨウイチは二人に割って入ります。

「ちょ、ちょっと待った!」
「ああ、お客さん申し訳ない。 このネックレスはこの方が」
「い、いえ… 友達で。 ドラオ!」

声が聞こえないように小声で話します。

180 :作り合わされし世界 ◆2yD2HI9qc. :2007/08/15(水) 18:34:43 ID:zdNid8tw0
「お前わかってるのか。 お金はそんなにないんだよ」
「キ!」
「いいか。 俺だってアレコレ買い物したいんだ。
 でも我慢してるんだぞ? なのにお前─」
「キィー……?」
「う、おい。 や、やめろよ、そんな目で見るんじゃない…」
「キー」
「く…… わかった、買ってやるからもうその目はやめろ…」
「キッ!」

ヨウイチの言葉にドラオがぱたぱた飛び回ります。

「いつもはなんにも考えてないような目のくせになんという…
 すみません、80ゴールドでしたよね。 これで…」
「ありがとうございます、よくお似合いですよ!」

お金を支払い店を出ると、ドラオはネックレスをまるで大勢にみせつけるかのように胸を張って飛んでいます。

「はぁ… こんな事はこれでもう最後だぞ?
 さて、宿屋を探して今日はもう休もう。
ちょうど陽も傾いてきたし」

バザーの雰囲気だけを楽しみながら宿屋を探します。
たくさんの人が楽しそうに出店をまわり、その雰囲気は二人の疲れを軽くしてくれました。

181 :タカハシ ◆2yD2HI9qc. :2007/08/15(水) 18:35:56 ID:zdNid8tw0
今日はここまで。
続きはまた後日投稿します。

182 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/08/15(水) 19:57:57 ID:f+CVPVCw0
おおお、シナノさんが・・・。シナノさんがでてきた。
「こうきたかっ!」っていう感じで、(いい意味で)予想を裏切られた感じです。

旅先で合流して一緒に戦う日もくるのでしょうか・・・。わくわく。

183 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/08/16(木) 00:19:46 ID:7JDGwSN40
>>合作
乙です。
リンクしあってるのって良いよなぁ。
wktkが止まらない

冒険の書がちゃんと二つになってるのがたまらんw


184 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/08/17(金) 00:05:18 ID:UfC39d0AO
合作乙!!
しなのさんキタ━━(゚∀゚)━━
ドラオでア〇フルのCM思い出したwww


あと合作以外の作品もwktkしてる。

185 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/08/19(日) 21:13:38 ID:X8G77rnL0
wktk保守

186 :作り合わされし世界 ◆2yD2HI9qc. :2007/08/20(月) 00:18:54 ID:AqZ9/iTZ0
    〜作り合わされし世界〜

     → 冒険をする
        1:しなの  Lv4
      → 2:ヨウイチ Lv5

187 :作り合わされし世界 ◆2yD2HI9qc. :2007/08/20(月) 00:21:11 ID:AqZ9/iTZ0
十七、 うわさ

日が変わり昼、二人は買い物や用事を済ませシエーナの門にいます。
ヨウイチは買い物がてら町の人に話を聞いて回っていました。
石版の話をダンから知って以来、噂ではなく本当なんじゃないかとずっと考えていたのです。
ここシエーナでも聞いて回り、商人から貴重な話を聞くことが出来ました。

「ここだけの話、マウントスノーに石版を持っている金持ちがいるらしいぜ。
 その石版をどこかの神殿に捧げると、願いがなんでも叶うそうだ」

話を聞いて、ヨウイチは石版を持つ人に会おうと決めました。
神殿についてはそれ以上の話は知らないらしく聞くことが出来ません。
まだ嘘か真かわかりませんが、今のヨウイチには元の世界へ戻るための唯一の手がかりになります。

「次はマウントスノーだ。 遠いらしいから覚悟しろよ」
「キキーキ?」
「いや。 途中に立ち寄れる町はないそうだよ。
 かなり北にあるらしいから寒いって話だ」
「キィ…」
「そんなに気を落とすなよ。 ほら、こんなに食料だって薬草だって買い込んだ。
 水は樹木から採れるって聞いたし大丈夫だろ。
毛布だって買ったんだぞ」
「キッキッ」
「ベッド? そんなの我慢しろよ。 それよりもう一つ、いい事きいたんだ」

石版の話のほかに別のうわさも聞いていたのです。
食料を売っていた商人が教えてくれました。

188 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/08/20(月) 00:23:47 ID:3d1IXtP/O
リアルタイム遭遇(゚∀゚)

189 :作り合わされし世界 ◆2yD2HI9qc. :2007/08/20(月) 00:24:14 ID:AqZ9/iTZ0
「うわさ? そうですねぇ…
 噂じゃないんですが商人仲間の話でしてね。
 ここから北に進んだ森の中で不思議な町を見たって言うんですよ。
あの森には町なんてないんですけどね。
だいたい、あの男はいつもホラふ…─」

ヨウイチは噂や不思議な物事が好きでした。
商人の話を全部聞かないうちにドラオをつかまえ、出入り口までやってきたのです。
ドラオは興味がないので反対しましたが、ヨウイチの強引な押しに負けました。

「さー出発だ!」
「キィ…」

広い大地を目の前にして、能天気なヨウイチと不満なドラオは北へ向けてシエーナを発ちました。

190 :作り合わされし世界 ◆2yD2HI9qc. :2007/08/20(月) 00:27:12 ID:AqZ9/iTZ0
十八、 まほう

シエーナで買ったものは食糧や薬草、毛布だけではありません。
装備も買っていました。

「これは銅の剣っていうんだ。 かっこいいよな」
「キィー?」
「い、いや。 初めてなんだよ、本物は…」

銅の剣はずっしり重く、形は剣ですがまるで金属の塊でした。
初めての本物は不安ですが、自分がとても強くなった気にさせてくれます。

「キキキ?」
「防具は… もう金がなくて買えなかった」
「キィー……」
「ちがうよ。 ネックレスじゃなくてあのいんちきな薬草のせいだよ。
 あれがなければ革の鎧っていう、ごついのが買えたんだけど」
「キッキキ」
「これ? これは旅人の服っていうんだ。
 冒険者見習いの証らしいよ。 防具屋の人が最初はそれでいいって言ってた」

振り返るとシエーナははるか彼方、前のほうにはうっそうとした森が見えます。

 嘘じゃないとしたらどうして騒ぎにならないのだろう。
遠いといっても見えるのに。

それでもヨウイチは自分の好奇心を抑え切れません。
もしかするとこの森の中で、元の世界へ戻れるかもしれないと思ったからでした。

191 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/08/20(月) 00:28:22 ID:WyzySJvP0
支援

192 :作り合わされし世界 ◆2yD2HI9qc. :2007/08/20(月) 00:30:18 ID:AqZ9/iTZ0
路を外れ森へ足を踏み入れます。
ほとんど人が通ったことのないような、そんな雰囲気にヨウイチは心がわくわくします。
ドラオは体にまとわりつくツタや葉にとまどいながら、ヨウイチにピッタリくっつきました。

「隠された町なのかな。 森の広さで見るとかなり狭そうだ… ん!」

がさがさと音を立て、目の前にくらげのようなモンスターが現れました。
ホイミスライムです。
スコップを持ついたずらもぐらも、のそのそ後から出てきました。

「初めて見るモンスターだな。 剣の練習するんだったらスライムがよかったけど…」

いたずらもぐらがスコップをふいふいと振り臨戦態勢になります。
ホイミスライムは笑顔でじっとしていますが、それが逆に不気味でした。
ヨウイチは覚悟を決め、まずいたずらもぐらを倒すことに決めました。

「おらー!」

重たい剣をぶんと振り、いたずらもぐらをかすります。
腕にニブい感触が伝わり、どうやら小さな傷を負わせたようです。
それを見たホイミスライムが突然、たくさんの足をいたずらもぐらにくねくねとしました。
ヨウイチは驚きます。
傷がふさがり血は止まり、いたずらもぐらが元気を取り戻してしまったのです。

「ななな…!?」

今度はスコップが、動揺するヨウイチをかすりました。
ドラオはどうしていいかわからずにそこらを飛び回りおろおろしています。

「なんだったんだ??」
「キキッ?」

193 :作り合わされし世界 ◆2yD2HI9qc. :2007/08/20(月) 00:33:22 ID:AqZ9/iTZ0
考えてみても、いたずらもぐらの傷を治したのは薬草ではありません。
意味がわかりませんでしたが必死に剣を振るいスコップを払い、それを繰り返します。
何度かカチンカキンとしているうちにもう一度いたずらもぐらに当てることができました。
今度はかなり深い傷で、もぐらは動きが鈍くなっています。
よくわからない事をさせないように止めを刺そうと剣を大きく持ち上げたとき、
ささっとホイミスライムがくねくねしていたずらもぐらの傷を治してしまいました。

「また…!!」

いたずらもぐらはひょいと体を翻し、剣の落ちる場所から離れます。
そのままスコップで足を乱暴に叩き、ヨウイチはその一撃で膝をついてしまいました。

「あつっ!」
「キキキー!」

ドラオが道具袋から薬草をちぎって取り出し、ヨウイチの口へ押し込みます。
飲み込むと痛みは治り、こんな状況なのにドラオの器用さに感心してしまいました。

「あ、ありがとう。 いま思い出したけど、あれは魔法ってやつなのかもしれない」
「キィ?」
「…聞いてくれ。 いいか……」
「キ?!」

余裕な表情を浮かべじりじりとモンスター達が近づいてきます。

「魔法の事は後で教える! 生きてたら!」
「キィィィ〜〜〜!?」

ヨウイチの耳打ちに戸惑うドラオでしたが、ヨウイチは構わずいたずらもぐらを攻め立てます。
ホイミスライムは時々ふらふら動くのですが、勝利を確信しているのでしょう、攻撃はしてきません。
その証拠にスコップのほうが生身を切り裂く音をたてるのです。

194 :作り合わされし世界 ◆2yD2HI9qc. :2007/08/20(月) 00:37:12 ID:AqZ9/iTZ0
「いてぇぇ!! ちくしょうぅぅ!!」

もうボロボロで痛くて、剣も鈍くなっていましたが懸命に攻撃し続けます。
気迫に押されてしまったのでしょうか、いたずらもぐらが少し後ずさりした所に大きな一撃を与えます。

「よしっ! はぁはぁ!」

かなり堪えたのでしょう。
もぐらはクラクラして目の焦点があっていません。
とどめのために剣を振り上げます。
瞬間、ホイミスライムがくねくねしようと細い足を一本持ち上げました。

「キ、キキキー!!!」

大きなドラオの声が響き、ホイミスライムはくねくねしますがいたずらもぐらの傷は治りません。
ドラオの羽がホイミスライムの口を完全に塞いでいたのです。

「もう治してもらえないな」

力いっぱい剣を振り下ろし、いたずらもぐらにごすんと強烈な一撃があたります。
血は流しませんでしたがぐたりとその場に倒れこみ、いたずらもぐらが動くことはありませんでした。

「よっしゃ! ドラオよくやった!」
「キー!」

ヨウイチの声でドラオはホイミスライムから離れます。

「ふぅ。 さーお前、まだ戦うのか」

薬草を飲み込みながらホイミスライムを威嚇してみます。
無言のホイミスライムでしたが少しの沈黙のあと、静かにこの場を離れていきました。

195 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/08/20(月) 00:38:19 ID:WyzySJvP0
支援スライム

196 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/08/20(月) 00:38:46 ID:3d1IXtP/O
携帯支援

197 :作り合わされし世界 ◆2yD2HI9qc. :2007/08/20(月) 00:40:40 ID:AqZ9/iTZ0
十九、 眠りのまち

戦いを終えた二人は少し休むことにしました。

「ダンに聞いた話の受け売りだけど、魔法っていうのはな。
 魔力を持つ人やモンスターが、その魔力を使って特別な力で攻撃したり癒したりするものらしい」
「キィ、キー?」
「うーん、魔力は… ごめん、俺もそこまでは覚えてないんだ。
 で、さっきくらげみたいなやつが使っていた魔法はホイミっていって、傷を治す魔法だそうだ。
魔法を使うには魔法の名前を口に出さなきゃいけなくて、お前に塞いでもらった。
だからホイミは使えなかったってわけだ」
「キキー! キキィキキッキー」
「え。 なんだ、お前知ってたのかやつらの名前!
 えー、もぐらがいたずらもぐらで、くらげがホイミスライムか… 変な名前だ。
てか、ホイミスライムはそのまんまじゃないか」
「キ」
「よく知ってたな。 モンスターだからか?」
「キキッ。 キィ〜」
「知らないけど知ってた……? よくわからないけどやっぱりモンスターだよ」

長く人間と暮らしていたものですから、そういった部分が潜んでしまっていたのでしょう。
何度かのモンスターとの遭遇で意識の深い部分が目を覚ましたのです。

「けど、突然おれを襲ったりしないでくれよ。 ははは」
「キ… キ!」

ドラオは笑わず、だけど強い返事を返しました。

198 :作り合わされし世界 ◆2yD2HI9qc. :2007/08/20(月) 00:44:16 ID:AqZ9/iTZ0
休憩を終わらせ、二人は森の探索を続けます。
森は、感じた以上にスカスカでした。
ヨウイチはここでよやく不安を覚えます。

「ほんとにあるのか…」

狭いとはいえある程度の広さを持った森です。
何度かの戦いを経て、周りはすっかり暗くなってしまいました。

「これ以上は… 松明を持ってても危険だ。
 しょうがないから今日はここで寝よう」
「キ!? キィキィィ」
「仕方ないだろ。 どこから出られるかわからないんだ。
 下手に動くとまたモンスターに襲われるし」
「キィ…」

野宿の準備を済ませ、保存食を食べます。
クレージュの保存食と違って少し甘い感じがします。
町によって味付けが違うのでしょう。

「さて… 今日はお前から寝ていいよ」
「キー」

ドラオが横になり、ヨウイチは銅の剣を抱え座り炎を見つめます。

「結局、町はなかった…
 うそだったんだろうな、期待してたのに…」

少し、気が抜けてしまいます。
と同時にとても眠たくなって、ヨウイチはそのまま目を閉じてしまいました。

199 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/08/20(月) 00:47:05 ID:WyzySJvP0
キング支援スライム

200 :作り合わされし世界 ◆2yD2HI9qc. :2007/08/20(月) 00:49:30 ID:AqZ9/iTZ0
「うぅむ… あ!」

大きな声を出してヨウイチは飛び起きます。
ハッと周りを見渡すと見たこともない景色です。
いえ、景色というよりはどこかの町にいたのです。

「え、え、え??」
「キィ… キッ!?」

隣で寝ていたドラオも驚き飛び起きます。

「な、なぁ。 俺たちシエーナの北で眠っていたはず…
 いや俺は見張って… あぁ、急に眠くなって寝てしまったんだ…」
「キー?」
「ああ。 これが商人の言ってた町… なんだろうな!」

驚きはしましたが、ヨウイチは嬉しくて仕方ありませんでした。
こんな不思議な世界でこんなに不思議な体験が出来たのです。
それに商人の話が本当だったということは、石版や神殿の話だって本当かもしれません。
気持ちは高ぶり、大きな期待を抱くのでした。

201 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/08/20(月) 00:51:11 ID:hBfdHBmW0
しえん

202 :タカハシ ◆2yD2HI9qc. :2007/08/20(月) 00:55:46 ID:Z9UkrszRO
規制されました。
解除まで起きてられないので今夜はここまでにします。

>>支援
いつもありがとうございます!
続きはまた明日にして、おやすみなさい!

203 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/08/20(月) 01:12:00 ID:wxxLKecy0
乙です。
ドラオ賢いよドラオ。

204 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/08/20(月) 01:13:07 ID:3d1IXtP/O
布団の中から乙
俺も寝る

205 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/08/20(月) 01:26:06 ID:PcHSMrBE0
乙!続き楽しみにしています!

206 :作り合わされし世界 ◆2yD2HI9qc. :2007/08/20(月) 19:55:31 ID:hlwBMG0j0
    〜作り合わされし世界〜

    → 冒険をする
        1:しなの  Lv4
     → 2:ヨウイチ Lv6

207 :作り合わされし世界 ◆2yD2HI9qc. :2007/08/20(月) 19:58:28 ID:hlwBMG0j0
二十、 夢のまち

「おぉぉ… これはすごい事になったぞ」

二人の寝ていた場所はずいぶん町のはずれで、誰かに見られたりはしていませんでした。
さっそく、この不思議な町を歩いて回ることにします。

「それにしたっていつの間に町へ入ったんだろうな」
「キィ」
「んー… あ! もしかすると眠ったからかもしれない!
 だって考えてみろよ、俺たちは目が覚めたじゃないか」
「キキ!」
「たぶん、そうだ。
 なるほど、あの森で眠らないと入れない町なのか。
だからシエーナの人にもわからない。 さしずめ夢の町ってところか…」
「キィキー」
「そうかもな。 俺たちはまだ寝てるか、夢の中で起きてるかのどっちかなんだろ。
 ん、いや… 夢の中で起きてるっていっても、起きてないことになる、寝てる……?」
「キィ!」
「あ、ああ、ごめん。 行こうか」


一通り町を見て回りましたが、クレージュやシエーナとあんまり変わったところは見られません。
ちょっとがっかりしたヨウイチは、町の人に話を聞いてみることにしました。
内容はもちろん石版と神殿の話です。
こんな不思議な町なら知っている人がいてもおかしくないと思ったのです。

208 :作り合わされし世界 ◆2yD2HI9qc. :2007/08/20(月) 20:01:31 ID:hlwBMG0j0
「こんにちは」
「こんにちは。 ん、君は見ない顔だね。 旅人かい?」
「えーと、ついさっきこの町にきたばっかりなんだ」
「そうかい。 クリアベールへようこそ。
 それで、僕に何か聞きたいことでも?」
「願いをかなえてくれる石版や、不思議な神殿の話を聞いたことないかなと思って」
「うーん。 すまないね、聞いたことないよ」
「…ありがとう」

まだ一人目です。
簡単にたくさんの話を聞けるとは思っていませんが、町の名前を知ることが出来ました。

「クリアベール… きれいな名前だな。
 今度はそこの道具屋に入って聞いてみよう」
「キー」

道具屋にはいると体格のよい店主がにこやかに話しかけてきました。

「いらっしゃい! うちでそろわないものはないよ!」
「あ、はぁ… それで聞きたいんだけ─」
「はい、はい! こちらなどどうでしょう?」

ヨウイチが話を聞こうとしているのに、なぜか店主は品物を勧めてきます。

「ちがうんだ。 薬草じゃなくて─」
「いやですねぇ、お客さん! これは薬草じゃなくて"ど・く・け・し・そ・う!"
 冗談なんか言って、もしかしてお気に召さなかった?! ならこれはどうです?」
「いや─」
「これ、すごいでしょう… ほら!
 急所にさすと一撃でモンスターを葬れる毒の針! ほらっほらっ ね?!」

209 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/08/20(月) 20:01:51 ID:vgQt8tFo0
よっしゃ支援!

210 :作り合わされし世界 ◆2yD2HI9qc. :2007/08/20(月) 20:05:10 ID:hlwBMG0j0
今まで見たことのないテンションで、ヨウイチとドラオは断れません。
そのまま愛想笑いをしながら最後のせいすいを出されたところでやっと、言いました。

「ちょっとまってくれ。 俺たちは買い物しにきたんじゃない。
 話をしたいんだ」
「え?! え… な、なんだそうですか…
 それならそうと早くいってもらわなくちゃ…」
「す、すまない… ええと、石版とか不思議な神殿とかの話を聞いたことないかな?」

買い物に来たのではないとわかったとたん、店主はすっかり元気を無くしてしまいました。

「はぁ… まるっきり聞いたこともございませんよ…」
「そうか… もう一つ聞いても?」
「…なんでしょう?」
「あんた、なんでそんなに必死にしつこく売ってくるんだ」
「それは… うちのカミさんが… 売れなきゃ怖いから…」
「……そうか」


しばらくして、道具屋を出ました。

「キィ」
「仕方ないだろう。 …お前にはわからないだろうが、仕方ないんだよ」

道具袋には新しい道具のせいすいが一つ、追加されていました。

「はぁ。 なんか落ち込んだ。
 嫁はいないけど… なんか、わかるんだよなぁ」
「キーキィキィ」
「それもそうだな。 よし、気を取り直して別の人に話をききにきくか!」

211 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/08/20(月) 20:07:07 ID:vgQt8tFo0
作り合わされし支援

212 :作り合わされし世界 ◆2yD2HI9qc. :2007/08/20(月) 20:10:00 ID:hlwBMG0j0
二人は噴水を眺めながらゆっくり歩きました。
会談を昇り、何の気なしに見回すと、なにやら犬と三人が会話しています。
ヨウイチは不思議に思い近づきました。
聞き耳を立てるとやっぱりどうも犬と会話しています。
さらによく観察してみると、三人のうち一人の男が犬と会話しそれを男女へ伝えていました。
犬の言葉がわかる人間がいることにびっくりしましたが、ヨウイチは良く考えます。

 もしかすると犬ならば、石版や不思議な神殿をしっているかもしれない。

伝えられた犬の言葉をふむふむと聞く男女を見て、ヨウイチはあの犬が特別なんじゃないかと思えてきました。

 石版も神殿も知っているかもしれないぞ。
ぜひ、話さないといけない。

しばらく待って、男女が去ったのを確認して犬と男に話しかけます。

「なあ、あんた。 犬と話ができるのか?」
「ええ、出来ますよ」

犬は、興味がありそうでないようなそんな目です。
何か言いたそうなドラオの口を塞ぎ、期待を抑えながら聞きました。

「面白そうだな。 ちょっとやってみてくれよ。
 名前はなんて?」
「ゲレゲレじゃないだろうか。 と言っています」
「何で自信なさげなんだ? まあいいや。
 ゲレゲレは石版について何か知らないか?」
「ゲレゲレにはいない嫁探しならするそうです」
「え、嫁探しだって? 石版は知らないのか…」

213 :作り合わされし世界 ◆2yD2HI9qc. :2007/08/20(月) 20:14:08 ID:hlwBMG0j0
石版を知らないというゲレゲレにヨウイチはちょっとガッカリしましたが質問を続けます。

「じゃあ、不思議な神殿の話を聞いたことは?」
「死んでも知らない。 行けないと言っています」
「ん… よくわからない答えだけど…」

神殿はしっているが危険なので教えたくない、そうヨウイチは解釈します。

「神殿についてもっと詳しく聞いてくれないか」

男が今度は長めに犬と会話します。

「いきたいなら戻らなければならない、と言っています」
「え。 どういう事なんだ……」

ヨウイチは一生懸命に聞いた話を理解してみます。

『神殿はとても危険だ。
 だから教えられないが、どうしても行きたいのならここにいてはいけない。
 戻らなければならない』

ヨウイチの中で答えはまとまりました。

 「なるほど… よくわかったよ、ありがとう」

ゲレゲレと男に礼を言い、二人は目覚めた町のはずれへとやってきました。
背中の荷物を降ろし、ヨウイチはやっと塞いでいたドラオの口を開放します。

214 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/08/20(月) 20:16:48 ID:vgQt8tFo0
ゾーマ「我が規制の中で生き絶えるがよい!!」

215 :作り合わされし世界 ◆2yD2HI9qc. :2007/08/20(月) 20:17:48 ID:hlwBMG0j0
「…! キー!!」
「い、いやぁ。 すまん、だってお前ゲレゲレに飛びかかろうと…」
「キキキキ!」
「不思議な感じ? そりゃあそうだろう。
 なんたってゲレゲレは教えてくれたんだ、神殿の存在を!」

興奮してちょっと大きな声で言いました。
神殿があるのなら、石版の噂だって本当に違いないからです。
なんでも叶える、その石版の噂です。

「まぁそう怒るな。 でかい収穫があったんだから。
 とにかく、希望がわいてきた。
さぁ、戻ってマウントスノーだ!」


その場で座り込みじっとします。
ですが、一向に森へ戻ることが出来ません。

「…どうやって戻るんだ?」
「キィ… キキ!」
「あ! そうか、寝るんだ。
 起きればきっと戻ってるよな」

すぐさま二人は寝転びます。
が、陽がじりじり照り付けてまぶしくて眠ることが出来ません。

「無理だな」

その一言になぜかドラオがおかしそうに羽をぱたつかせ、つられてヨウイチも笑ってしまいます。
ひとしきり笑って空を見上げていると、二人はいつの間にか眠ってしまうのでした。

216 :タカハシ ◆2yD2HI9qc. :2007/08/20(月) 20:22:10 ID:hlwBMG0j0
本日はここまでです。

>>vgQt8tFo0 さん
支援ありがとうございます。

ゾーマ「解除あるかぎり 規制も また ある……。 ぐふっ」

217 :暇潰し ◆ODmtHj3GLQ :2007/08/20(月) 20:25:28 ID:vgQt8tFo0
タカハシさん乙!w


    〜作り合わされし世界〜


    → 冒険をする
      → 1:しなの  Lv5
         2:ヨウイチ Lv6

218 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/08/20(月) 20:28:59 ID:3d1IXtP/O
うはっ(゚∀゚)


219 :暇潰し ◆ODmtHj3GLQ :2007/08/20(月) 20:30:41 ID:vgQt8tFo0
○第八話 
   『好き』

好きと相手に伝える事は、特別な事だと思う。
けれど客を喜ばす為だけにしか使われない私の言葉は何の価値も持たない。
こんな仕事をしている者の「好き」は媚びや社交辞令でしかないからだ。

本気の恋は許されない職業。
そのくせ一人前に恋をしたいなどと思う自分がいた。
擬似恋愛で一時の安らぎを与える商売。
それでも本当の自分を見て欲しいと思う自分がいた。
そしてそんな自分が嫌いになるくらいに、私は恋をしていた。

けれど私の中のズルイ部分がそれを実らせなかった。
どうしても私は人の心を試すような事をしてしまうのだ。
だからなのか、彼らが私の仕事についてどう思うのか知りたがってしまった。
嘘をついた訳ではないが、何故本当の事を言ってしまったんだろうと思う。
人に気を使って嘘を付くのには慣れていたはずなのに……

  「おい」

誰かの呼ぶ声が聞こえる。

  「おい! しなの!」

んん……

  「起きたか?」

いや、まだ寝てる……

  「起きてるじゃねぇか……」

220 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/08/20(月) 20:32:54 ID:IAmEUJMq0
支援

221 :暇潰し ◆ODmtHj3GLQ :2007/08/20(月) 20:36:06 ID:vgQt8tFo0
何だ、アレフか……どうした? もう出発か?

  「いや、その、だな……」

目が泳いでるぞ。

  「……お前に謝りたい! どうすりゃいい?」

え……いきなり何だ。
どうすればいいと聞かれてもな。

  「俺、お前の機嫌悪くさせちまったんだな」

あぁ、昨日の事か?

  「あの後アレンに叱られちまったよ」

……この仕事はあまり認められないからな。

  「いや、俺は別にどんな職業だって軽蔑したりはしねぇよ。
   むしろそういう仕事は尊敬したっていいと思ってる。
   モンスター相手にするより人間相手にする方がめんどくせぇからな」

そういうもんかな?

  「そういうもんさ。少なくても俺にはできねぇ。
   誰かに嘘笑いするなんて特にな」

私は勇者アレフの方がよっぽど凄いと思うがな。
私よりよっぽど世界の為になっているだろ?

222 :暇潰し ◆ODmtHj3GLQ :2007/08/20(月) 20:42:06 ID:vgQt8tFo0
  「呪われちまうような勇者のどこが凄いんだよ……」

まぁそう言うな。

  「……」

私が言葉を続けなかったせいでアレフは所在無いのか、視線がせわしない。
猪突猛進なアレフのこんな弱気な姿を見れるのは貴重だと思う。
少し意地悪かな。

  「……許してくれるか?」

いや、許さない。

  「……」

アレフが私に呪文を教えてくれるまで許さないぞ。

  「え……」

何をぽかーんとしてるんだ。
教えてくれないのか?

  「……そんなんでいいのか?」

あぁ。いいだろ?

  「よし分かった! じゃあまた後でな!」

途端に嬉しそうな顔をしてアレフは寝床に戻って行った。

223 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/08/20(月) 20:42:31 ID:hlwBMG0j0
シエン

224 :暇潰し ◆ODmtHj3GLQ :2007/08/20(月) 20:47:21 ID:vgQt8tFo0
アレフは何も悪くない。
悪いのは私だ。
自分の気持ちを言わずに相手に合わせて話を進めるのはズルイやり方なんだし、
許すも何も私にとっては謝らせてすまないという思いしかないのだが、
アレフの気持ちを無下にする事もできなかった。

けれどアレフの率直な言葉を聞いて安心したのも事実だ。
こんな私の事を少しも不快に思っていないようだ。
形としては私がアレフを許すという事になってしまったけど、
今はアレフの優しさに甘えさせてもらおう。
そして早く呪文を覚えて2人の役に立てるように頑張ろうと思う。

それにしても、あんなに申し訳なさそうにしているアレフは初めてみたな。
早朝に起こしたのはきっとアレンにバレるのが恥ずかしかったからだろう。
そんな事を思うと自然と顔がほころんでしまった。
案外カワイイところもあるじゃないか。
ふふ。

  「いいか? 呪文ってのはだな、こう腹から吐き出すような感じでだな」

何だその嫌な例えは……

  「だから〜こう体術とは少し違うって事だよ。
   中にあるものを引き出すってぇの?」
  「精神の具現化、ですか?」
  「あぁ、そんな事誰かが言ってたな。それだよそれ。
   つまり〜精神を具現化して〜」

その日からさっそくアレフに呪文を教えてもらう事になった。
なったのは良いのだが、どうもな。

225 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/08/20(月) 20:48:03 ID:IAmEUJMq0
支援

226 :暇潰し ◆ODmtHj3GLQ :2007/08/20(月) 20:52:28 ID:vgQt8tFo0
  「こうだよ、こうっ! 分かったか?」

いや、ちっとも分からん。全然。さっぱりと言う程にさっぱり。

  「何だ物覚えの悪いヤツだな」

……これは私が悪いのか?
呪文を見たのも昨日今日だっていうのに、いきなり使えるようになる訳ないだろ。
だいたい人の手から炎が出るのは何かおかしくないか?

  「おかしかねぇだろ。立派な力だ」
  「しなのさんの中に呪文を否定する考えがある、
   というのが呪文を使えない理由の可能性がありますね。
   イメージは大切ですが、どうせなら良い方向に意識を持っていきたいですね」

そういうものなんだろうか……
と言うかアレフの説明が下手過ぎて困る。

  「あんだと? じゃあアレンが教えろよ」
  「僕は理論しか理解していません。練習はしましたけどね」
  「それでも勇者かよ」
  「パーティー内で役割分担出来ていればいいんですよ」
  「よし、こうなったら一発呪文食らってみるか?
   そうすりゃ呪文が本当だって身をもって分かるだろ。
   安心しろ、すぐにホイミしてやっからな」
  「ちょっと父さん!」

さすがに呪文を受けるのはイヤだな。
とりあえずイメージトレーニングとアレフの呪文をよく見る事が私の課題となった。
課題と言われると学生に戻った気分だが、この様子だと前途多難な予感……

227 :暇潰し ◆ODmtHj3GLQ :2007/08/20(月) 20:57:29 ID:vgQt8tFo0
○第九話
   『モンスター強襲』

いくつかの町や村を回り、ようやく泉があるという情報を得た私達。
昨晩は宿屋のベッドでぐっすりと眠れたから気持ちが良い。
朝食もしっかりと食べ、元気良く村を出発する事が出来た。

  「そんでよ〜ローラがお姫様抱っこしろとか言いやがってよ〜
   仕方なくやってやったんだよ〜重たいのによ〜
   んでモンスターが来やがったからローラを放り出したんだよ〜
   そしたら滅茶苦茶怒りやがってよ〜」

そんな話をしながら林を抜けると、泉というよりは湖に近いだろう場所にたどり着く。
アレンの話では洞窟の深奥に勇者の泉はあるらしいから、
ここではないだろう事はすぐに分かった。

  「本当にたどり着けるんでしょうか……」
  「あのジジイめ! 嘘つきやがったな!」

さすがに嘘つき呼ばわりは酷いだろう……

  「この世界がどうなっているのか未だに未解明なのですから、
   誰にも責任はありませんよ」

異世界への召還か、リアルな夢物語か、はたまたタイムスリップか。
そのどれでも説明のつかない世界異変の原因が色々と噂されているようだった。
竜王の支配、邪教の布教、聖なるオーブの喪失、魔族の、教団の陰謀、
魔王の夢、天空城の墜落、石版の収集、賢者の捜索、等々。
様々な憶測が飛び交い、議論され、人々の話題を独占していた。
私もそれについては大いに興味がある。
それが分かれば私が帰る方法も分かるか――

500KB
続きを読む

名前: E-mail(省略可)
READ.CGI - 0ch+ BBS 0.7.4 20131106
ぜろちゃんねるプラス