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もし目が覚めたらそこがDQ世界の宿屋だったら九泊目

1 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/04/02(月) 02:57:50 ID:XgSwbg4B0
このスレは「もし目が覚めた時にそこがDQ世界の宿屋だったら」ということを想像して書き込むスレです。
「DQシリーズいずれかの短編/長編」「いずれのDQシリーズでもない短編/長編オリジナル」何でもどうぞ。

・DQ世界であれば宿屋でなくても、すでに書かれているDQシリーズでも、大歓迎です。
・基本ですが「荒らしはスルー」です。
・スレの性質上、スレ進行が滞る事もありますがまったりと待ちましょう。
・荒れそうな話題や続けたい雑談はスレ容量節約のため「避難所」を利用して下さい。
・レス数が1000になる前に500KB制限で落ちやすいので、スレが470KBを超えたら次スレを立てて下さい。
・混乱を防ぐため、書き手の方は名前欄にタイトル(もしくはコテハン)とトリップをつけて下さい。
・物語の続きをアップする場合はアンカー(「>>(半角右アングルブラケット二つ)+半角数字(最後に投稿したレス番号)」)をつけると読み易くなります。

前スレ
もし目が覚めたらそこがDQ世界の宿屋だったら八泊目
ttp://game10.2ch.net/test/read.cgi/ff/1162106116/

まとめサイト(書き手ごとのまとめ/過去ログ)
「もし目が覚めたら、そこがDQ世界の宿屋だったら」保管庫@2ch
ttp://ifstory.ifdef.jp/index.html

避難所「もし目が覚めたら、そこがDQ世界の宿屋だったら」(作品批評、雑談、連絡事項など)
ttp://coronatus.sakura.ne.jp/DQyadoya/bbs.cgi

208 :STORY.3 この道わが旅 ◆aPqItC/JYI :2007/04/23(月) 20:24:11 ID:hWVRMulU0


 目を開けると前方に光が見えた……大きな、まぶしい光が。
 前へと歩いても光に近づいていく気がしない。ずっと同じ距離のままだ。
『ようこそ……我が世界へ』
 しばらく歩いていると、どこからか声が聞こえてきた。
 聞こえてくる、というよりも頭の中に響くという方が正しいかもしれない。
 俺はどこから聞こえてくるのかわからない声に警戒し、あたりを見回す。白の空間と光しか見えない。
「誰だ!?」
『私は竜の女王……世界の創造主です』
 創造主……つまり、神様か? もしかして、こいつが俺をあの世界に連れてきたのか?
「神様が俺になんの用だ!」
 声の主の位置が掴めない。俺はとりあえず光に向かって叫んだ。
「俺を元の世界に帰せ! あんたが俺をこっちに連れてきたんなら、帰すことだってできるだろう!?」
『できません』
「どうしてだ!?」
 ふざけるな。俺は元の世界に帰りたいんだ。
 俺の叫びも空しく、神様は淡々とした声で話を先へと進める。
『あなたは導き手。あなたに力を授けましょう』
「……導き、手?」
 意味がわからない。俺がこの世界に連れてこられた理由がそれなのか? 力を授けるって一体……?
「おい、神さ……っ!」
 問いかけようとしたその時、光が強さを増し俺の体を包んだ。
 眩しい、目を開けていられないくらい眩しい。
『あなたに授ける力は一つの呪文。私の力の一部です』
 ”なにか”が俺の中に入っていく感覚がある。その”なにか”は俺の中に入ると染み渡るように全身に広がっていく。
 じわりと体が温かくなっていく。不思議な感覚だ。
「あんたは、俺に、なにをさせたいんだ?」
『導きなさい。勇者を、そしてその仲間たちを』
 導く? 勇者? ああもう、なにがなんだかわからない。

209 :STORY.3 この道わが旅 ◆aPqItC/JYI :2007/04/23(月) 20:24:49 ID:hWVRMulU0
「とりあえず俺はその勇者様とやらを導けばいいんだな? ……導いたあと、元の世界に帰れるんだろうな!?」
『……約束しましょう』
 帰れる。元の世界に帰ることができる。暗かった道に希望の光が見えた。
「で、勇者をどこへ導けばいいんだ?」
『天空へ』
「天空?」
 変なことを言う。こんな飛行機もなさそうな世界で、どうやって天空に導けと。
 っていうか勇者って誰だ。名前は何だ。どんな姿をしてるんだ。どこに行けば会えるんだ。
『……時間が来ました……導き手、あなたに授けた呪文、それは――』
「おい! 神様! 神様っ!」
 神様が言い終わる前に、光が一層強くなりあたりは光に包まれた。
 眩しくて反射的に目を閉じた。まぶたを閉じていても強い光を感じる。
 すうっと意識が落ちる感覚。消えそうな意識の中で、神様の声が聞こえた。

 ――ドラゴラム、と。


「っ!」
 ガバッと布団をはね飛ばし目を覚ます。一筋の汗がこめかみを伝い、首まで流れ落ちた。
 ……不思議な夢だった。竜の女王、勇者、導き手、呪文……鮮明に覚えている。
 なぜか心臓がドキドキしている。息苦しい。落ち着こうと、胸に手を乗せてみる。
 大切なものが芽生えているような、そんな温かさを感じた。

210 :STORY.3 この道わが旅 ◆aPqItC/JYI :2007/04/23(月) 20:25:59 ID:hWVRMulU0

 
「ごめんね、今用意しているからもう少し待ってて」
 マリアさんはそう言って部屋の中へと戻っていった。暇なのでしばらく教会内を散策してこよう。
 ちなみに先程マリアさんが言っていた用意とは、旅支度のことだ。
 あの夢を見た後、不思議なことに体力が元に戻っていたのだ。神様の力だろうか。
 そのため、急遽旅立つことになってしまった。俺は明日でいいのに。「善は急げ!」らしい。
 
 俺は大広間にある絵を見ていた。広大な海に数隻の船と鳥。全体的に青っぽい絵だ。
 うーん、綺麗だとは思うがいまいち芸術というものがわからない。
 そういえば家の本の中にムンクとかモナリザとかの絵があったな。モナリザは確か、ダヴィンチが描いたんだったか。
 ……旅に出ようと決めた次の日に目標ができるなんて、よくできてるなあ俺の運命。
 やっぱり神様が操作でもしているのかな、人の運命は。創造主だもんな。
 元の世界にいたときなんて、神様なんかテストの時ぐらいしか信じていなかったけど、ここには神様は存在するんだ。
 不思議だなあ。本当に不思議だ。この間まで毎日学校に通って勉強してバイトして……そんな毎日だったのに。
 そんな俺が、剣と魔法のファンタジーな世界に来るなんて。どこの漫画の話だよ。

211 :STORY.3 この道わが旅 ◆aPqItC/JYI :2007/04/23(月) 20:26:37 ID:hWVRMulU0

 絵の前でふらふらしていると、小さな女の子が俺に声をかけてきた。
 ちょこんと俺の前にやってきてお辞儀をする。俺もつられてお辞儀をする。
「お兄ちゃん、元気になったんだね!」
「うん、心配してくれたんだね。ありがとう」
 茶色の髪に大きな赤いリボンをつけている。小学校低学年くらいの子供だろうか。
 そういえばこれくらいの妹がいたなと思い出し、なんだか懐かしい気持ちになった。
 妹? そうだ、俺には妹がいる。でも、名前はなんだっただろうか。あれ? 思い出せない……
「……あれ、お兄ちゃん、どうしたの? まだ痛いの?」
「あ、ああ、いや、何でもないよ。ちょっと考え事してただけだから」
 どうやら難しい顔になっていたらしい。小さい子は人の感情に敏感だっていうよな。
 心配そうにのぞき込む女の子にへらりと笑顔を見せる。女の子も笑顔になった。
「よかった!」
 妹の名前を思い出せないのが少し引っかかるが、ただの記憶喪失だろ。そう思うことにしておいた。

 しばらく女の子と会話していると、用意を終えたマリアさんが階段から下りてきた。
 マリアさんの服装はあの青い修道服ではなく、白いローブに赤いずきんをしている。まるで赤ずきんちゃんみたいだ。
 ちなみに俺は水色っぽい服。しかしスカートっぽいひらひらが。まあズボンははいているからそこは安心だ。
 この服装はこの世界での一般的な旅装束らしい。マリアさんが用意してくれたものだ。
 俺は持ち物として食糧といくつかの薬草、木の棒を受け取った。
 薬草とは傷を瞬時に治す優れものの薬で、木の棒はひのきの棒という武器とのこと。ぶっちゃけおもちゃにしか見えません。
 外に出たらモンスターがうようよしている、自分の身を守るのは自分しかいないと言われた。
 ……これは遊びじゃない、ゲームじゃないんだ。
 俺は頬をパァンと叩き気合いを入れた。強く叩きすぎて痛い。

212 :STORY.3 この道わが旅 ◆aPqItC/JYI :2007/04/23(月) 20:27:30 ID:hWVRMulU0


 この教会で一番偉いマザーだかいう人にお礼を言い、俺たちは教会を出た。
 あの女の子が窓から手を振ってくれている。俺は大きく手を振り返した。
「まずはここから一番近い町、リムルダールに向かいましょう。そこで大体の装備を調えなくっちゃ」
 世界地図を広げマリアさんは言う。部屋の中で見た地図だ。
 リムルダールはここから南西の草原地帯にある町。一番近い町といっても3日はかかるらしい。それ全然近くない。
 途中大きな森があって、その森は周辺の住人から迷いの森と呼ばれているという。
 入ったっきり出てこられなくなって行方不明になった旅人もいるというのだ。覚悟していかねば。
 あと、この町は湖の上につくられており、内陸でありながら水資源が豊富なのだという。
 町を更に西に行くと砂漠があるため、砂漠を渡る人たちにとって水の豊富なこの町はいい拠点となる。
 俺たちはまだ冒険歴が浅いので砂漠の向こうへ行くようなことはしないが、いつか行くことになるだろう。

213 :STORY.3 この道わが旅 ◆aPqItC/JYI :2007/04/23(月) 20:28:30 ID:hWVRMulU0

「あ、ねえ、あなたの名前……どうする?」
 手に持っていた地図をしまいながら俺に尋ねる。
 すっかり頭から抜けていた。今俺は記憶喪失なんだった。
「あー……やっぱ名前が無いと不便ですよね。なんて名前にしようかな……うーん……」
 頭を捻って考える。自分の名前を考えるというのも変な感じだが、まあそれは仕方がないだろう。
 名前名前名前……。
「……そうだわ、私があなたの名前を考えてげましょうか?」
「本当ですか?」
 それはありがたい。正直サトチーやらゆきのふやら変な名前しか思い浮かばなかったところだ。
 是非お願いしますと言うと、マリアさんはしばらく考え込み、こう言った。
「トンヌラはどう?」
「全力で拒否させていただきます」
 俺とレベルが変わらないくらいの酷さだ。トンヌラ……なんて間抜けな響きなんだ。
 とてつもない人生を送ることになりそうな名前だ。なんとなく。
「そう? じゃあ、もょもと」
「勘弁して下さい」
 今どうやって発音しましたかマリアさん。
 もよもと、もゅよもと、ももと……言えねえ。
「うーん……なら、アレフはどう?」
「あ、その名前いい!」
 アレフ! 勇者っぽくて格好いい、っていうか今までのより遙かにいい名前だ。
「決まりね。……アレフって名前はね、私の国では聖なる名前なの」
 聖なる名前って……んなご大層な名前俺がもらっちゃっていいんですか。
 
「これからよろしくね、アレフ」
「よろしくお願いします、マリアさん」
 俺たちはどちらともなく手を差し出し、握手を交わした。
 あ、またマリアさんの旅の理由を聞くの忘れてた。まあいいや、歩いている途中にでも聞こう。

214 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/04/23(月) 22:09:27 ID:NryVkRQA0
支援

215 :STORY.3 この道わが旅 ◆aPqItC/JYI :2007/04/23(月) 22:25:33 ID:hWVRMulU0


 リムルダールへ向かう間、マリアさんはこの世界について話してくれた。
 簡単に纏めると、この世界には竜王という魔王が存在している。けど竜王の住処は誰にもわからない。
 昔人間と一緒に暮らしていたモンスターが凶悪化したのは、この竜王が出す悪の波動の所為らしい。
 闇の波動は年々強力になってきていて、それを見かねた神様が竜王を倒す運命を持った勇者を誕生させた。
 それが今から16年前。ってことは勇者は俺と同い年なのか。
 ていうか、神様……って、この間の夢に出てきた竜の女王のことだよな。竜王と竜の女王か。
「そして、その勇者が誕生したとお告げがあった後に――」
 竜王は自分を脅かす勇者を、力のない子供のうちに潰してしまおうと考えた。
 そして、その年に産まれた子供たちを配下のモンスターを使い、無差別に捕らえて殺していった。
「……っ」
「……私の弟も、その年に産まれたの」
「弟がいるんですか」
「ええ……実はね、私の旅の目的は弟を探すことなんだ」
 いままでこちらを向いていた顔を前方に向け、淡々とした口調で続ける。
 視線は遠くを見つめており、どこか寂しげな雰囲気を出している。

 マリアさんの話を要約すると、幼い頃に彼女の家族が住んでた国はモンスターに滅ぼされてしまった。
 モンスターたちは国中の子供を次々に捕らえていった。その中、マリアさんたちは両親に逃がしてもらう。
 その間に弟さんと色々あってはぐれ、マリアさんはあの修道院に迷い込んだ。
 弟を探しに行こうとしたけどマザーに止められ、力をつけるためにあそこで修行をすることになった。
 で、そろそろ旅に出ようかというときに俺が現れた。
 ひとり旅よりふたり旅の方が危険は少ないから、俺を誘ったと言う訳だ。
 でも俺なんか誘っても……全然戦力にはならないのに。

216 :STORY.3 この道わが旅 ◆aPqItC/JYI :2007/04/23(月) 22:26:33 ID:hWVRMulU0
 
 話し終えた後、マリアさんの顔に影が落ちる。辛い話なのに、俺に話してくれて……
「……すみません」
「? ああ、いいのよ。気にしないで。この世界ではそう珍しいことではないし。
 ……あなたには全部話しておかなきゃって思って。なんでそう思ったかはわからないけど」
 俺のいた日本で起きることなんか話にならないくらい、酷い人生を送ってきたマリアさん。
 マリアさんはよく笑う。いつも笑顔だし些細なことでもよく笑う。俺だったらあんな生活送ってきたら笑顔じゃいられない。
 この人は俺よりずっとずっと強い人だ。
 俺も強くならなきゃ。マリアさんがこれからも笑顔でいられるように。マリアさんを守れるように。
 ……って、うわ、俺シリアス! 俺超シリアス! かゆくなった!
 

 話題を変えて、呪文について話すことにした。
 呪文というものは、魔力を使い様々な現象を起こす能力。魔法とも呼ばれている。
 マリアさんも呪文が使えるという。呪文には正の力と負の力があって……うんたらかんたら。
 まあ、攻撃呪文と補助呪文と回復呪文と特殊呪文に分けられるらしい。
 で、マリアさんの得意なのは攻撃呪文。
「修道院にいたら、普通は回復や補助呪文が得意になるはずなのにね……どうも私には合わないみたい」
 との談。ふむ。呪文の習得は、人により得手不得手があるってことか。
 ん? 呪文……そういえば夢の中で神様に呪文をもらったな。あれは俺に使えるんだろうか。
「マリアさん、呪文って俺にでも使えます?」
「魔力と努力があれば誰にでも使えるわよ。あなたには微かだけど魔力があるから、修行すればきっと身につくわ」
「俺にも呪文が使えるのかぁ……」
 目線を自分の両手に落とす。大きな苦労をしてきたことのない綺麗な手。
 まあ実家の畑仕事の手伝いおかげで多少ごつくなってはいるが。
 今までそんな能力とは無関係な世界で生きてきた俺だけど、そんな俺にも呪文が使えるかもしれない。
 ……俺、なんだかワクワクしてきたぞ!

217 :STORY.3 この道わが旅 ◆aPqItC/JYI :2007/04/23(月) 22:27:26 ID:hWVRMulU0

「そうだわ、呪文がどういうものか少し見せてあげる」
 マリアさんはそう言って近くに落ちていた小枝を拾ってきた。なにをする気だろうか。
「この枝と杖を見ててね」
 そう言うとマリアさんは杖を構えた。すると杖を握る手から赤い光が見えた。
 光はそのまま杖を伝い、杖の先の大きな赤い石に。石の中で光がスパークしている。
 そしてその石からからバチリと雷のように反対の手へと流れた光は、人差し指に集まる。
「メラ!」
 なにやら変な言葉を唱えた途端、その指先から火の玉が飛び出す。
 そして指のさし示す先にあった小枝に命中し、小枝は勢いよく燃えた。
 ほんの一瞬の出来事だったが、俺の意識は完璧にその火の玉に持って行かれた。
「すっげー!」
「ふふっ、これはメラといって呪文の中では基本中の基本なのよ」
「あの、質問なんですけど、その杖の役割ってなんです? 先っぽの赤いのからボワーって光が! 赤いのボワーって!」
 興奮の所為か大げさなボディランゲージ付きで話す俺に苦笑し、マリアさんはその杖を手渡してくれた。
 思ったより軽くて、手によく馴染む。ぶんぶんと振ってみるとひのきの棒より振りやすい。
「これは装備者の魔力を増幅させる杖で、その石は魔力が込められている特殊な鉱物なのよ」
「へえええ……」

218 :STORY.3 この道わが旅 ◆aPqItC/JYI :2007/04/23(月) 22:28:05 ID:hWVRMulU0
 そう言われ先っぽの石をよく見てみると、石の中心にキラキラした光が見えた。これが魔力か。
 ワクワクドキドキ、俺の中の好奇心がうずく。俺は宙に向かい杖を振り、先程のマリアさんを真似て呪文を唱えてみた。
「……メラァ!」
 アレフはメラを唱えた! しかし呪文は発動しない!
 俺の叫びは空に消えていった。隣ではマリアさんがクスクス笑っている。ああ、恥ずかしい!
「魔力があるからっていきなり使えるものじゃないわよ。毎日の精神集中、そして呪文理論について勉強しなくちゃ」
 呪文は一日にしてならずですね。でも大丈夫です。こう見えても俺、勉強好きってわけじゃないけど、嫌いじゃないですから。
 しばらく落ち込んでいたら、マリアさんに励まされた。で、呪文を教わることになった。わーい。
 当面の目標は魔力を増やすこと。魔力がなければ呪文は唱えられないからだ。
 魔力の量は元々の才能もあるけど、努力次第で幾らでも増やせるそうだ。よし、頑張ろう。
 とりあえず元気に前へ進んでみましょうかね。

 神様、竜の女王様。俺たちの旅にどうか祝福を。

219 : ◆aPqItC/JYI :2007/04/23(月) 22:29:39 ID:hWVRMulU0
第三話投下終了しました。
規制に引っかかり途中で止まってしまいました。
>>214さん、支援ありがとうございました。

220 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/04/23(月) 23:01:06 ID:YZjlrzJk0
乙です。
前向きな主人公に好感!
序盤から気になる伏線も出てきて、
続きが楽しみです。

221 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/04/24(火) 16:37:48 ID:3sU1O7zN0
今4の人◆gYINaOL2aEの作品を読み返してるんだが
何度読み返しても涙が止まらなくなる程感動してしまう件について

222 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/04/24(火) 17:36:19 ID:4ikbC09NO
完結した職人への感想とか完全にチラ裏だろ。自演乙と言われても仕方ないくらいにな

223 :DQVI ◆55fvMgOfnY :2007/04/24(火) 19:57:15 ID:/oWal092O
頭の中がぼーっする。
なんだか色々ありすぎた気がするから。
なんで私、こんな所にいるんだっけ?
 
寮の自室で眠りについた、あぁ、眠った時もなんだかあやふやだったっけ。
とにかく疲れたな、寝るか…いや寝ているのか?
とりあえず…1匹2匹3…
 
「ピキー!」
 
「うん…3ピキ〜…」
 
ん?ピキー!っtqあwせdrftgyふじこlp;@
 
「ピキー?」
 
「あぁ、ごめんごめん、サスケ」
 
ここは(絶対に)DQ6の世界だったんだ…やっぱり夢ではないらしい。
私達は石畳の上に転がっていた、まわりは霧がたっていて、へたに動けばサスケの姿も見えなくなりそうだった。

224 :DQVI ◆55fvMgOfnY :2007/04/24(火) 20:00:22 ID:/oWal092O
「サスケ、ちょっとおいで」
 
見慣れた場所だが、未開の土地だ。
離れたらもう会えないかもしれないと思えたので、とりあえず固まって移動する事にした。
 
そしてふと思った。この言葉の通じない異国のスライムに何度助けられたのだろう。
この肩の重みに、温もりに、本当に最弱の生き物なのだろうか?そんな疑問がうかんだ。
 
霧の切れ目から陽射しが差し込む。出口が近い事を私は確信した。
 
青空が顔を覗かせた。
なかなか清々しい空気だ、さすが車が通っていないだけある。
私の記憶が正しければ南に行って突き当たったら左…また南…うん、とりあえず歩け、私。
 
少年は荒野を行く。
すまん、聖剣伝説だった。

225 :DQVI ◆55fvMgOfnY :2007/04/24(火) 20:01:12 ID:/oWal092O
馬鹿な事を考えつつ、南下を続ける、すると一カ所、雰囲気の違う場所があった。
私は近付くと大地にぽっかりと穴が開いていたのだ。
なかなかの圧巻だった。
そこを覗くと、下にはトルッカの街が見え、その上には雲がゆったりと泳いでいた。
 
「すごい…サスケ、街が下に見えるよ」
 
こんなのはなかなか見れないんじゃないの?カメラでも持ってこればよかったと思っていた。
のんきに景色を楽しんでいると、男の人の叫び声がした。
 
「助けてくれェーーー!」
 
幻聴ではない、という事はまた私達はあの大地に滑り落ちるんじゃ…
 
「助けてくれェーーー!」
 
この野郎、私に感謝しやがれ、私は声のする方へ走った。

226 :DQVI ◆55fvMgOfnY :2007/04/24(火) 20:02:08 ID:/oWal092O
「誰かー!」
 
「今行きますよー!」
 
当たってくだけろ、くだけちゃいかんが。
注意をしながら大地の穴の周りを見る。
 
「ここだ、ここだ〜!」
 
叫ぶな、まったく。
 
「すまんが引っ張り上げてくれんかのぅ」
 
はいはい。
 
「それは木の枝じゃ!」
 
サーセンwwwww
 
私の力が強かったのか、無事におじさんを助ける事が出来た。
御礼としてシェーナの街まで送ってくれると言って、馬車の荷台に乗せて貰った。
痩せた馬だったが、倒れたりする事なく、夕暮れにはシェーナの街にたどり着いてくれた。
 
おじさんは御飯を御馳走すると言って、私を招きいれてくれた、結構いい奴じゃないか。
 
市場に近い緑の屋根の家の扉を開けると、娘さんらしい赤毛の女性がおっさんに抱き付く。
よっぽど心配していたんだな、と思った。
娘さんは私を見るとこういった。
 
「貴方ね、ライフコッドから来た青い髪の人って!」
 
なんですと?

227 :DQVI ◆55fvMgOfnY :2007/04/24(火) 20:04:51 ID:/oWal092O
娘さん…メイサさんの話によると、ライフコッドから頼りなさそうな青い髪の人間がくると連絡があったらしい。
おっさんも「女なのに関心な奴だ!」とガハガハ笑った、けなされていると見ていいのだろうか。
 
何はともあれ、冠職人の家で晩餐をする事になった。
見た事のない料理だったが、これがなかなか美味しい。
材料は私達の食べるものとそう変わらないようで、調味料だけが違うようだった。
 
塩や胡椒はあったものの、醤油はなく、かわりに「ひとしこの実」というのがあった。
なんだか危険な調味料のように見えたが、高級な香辛料らしい。
 
夜になったら部屋を貸してくれた。
なんていい家族なんだろう…1日くらいしかたっていないのに、なんだか久しぶりにシャワーを浴びた気がした。
 
明日、ライフコッドへ向けて歩こう、一応冠を届けなくてはいけない…その前に武器も欲しいなぁ…そんな事を考えながらベットの中に体を滑らせた。
そんな今日はヒツジを数える事なく私と1匹は眠りについた。

228 :DQVI ◆55fvMgOfnY :2007/04/24(火) 20:10:18 ID:/oWal092O
今日はここまでです
 
>>166 乙あざっす、でもこっち見んなww
 
>>167 可愛くて健気な奴です、長い目で見てやってください
 
>>168 その辺はよくわからないです…
 
>>169 乙とフォローありがとうございました
 
>>まとめのタカハシ様 次回の更新時に>>159-163を第2話、>>223-227を第3話でまとめていただけませんか?
迷惑かけてすみません

229 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/04/24(火) 23:39:35 ID:Ut22lTtHO
乙です
職人方の書くスライムは可愛いなぁ

230 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/04/25(水) 02:11:50 ID:clvWPCJs0
スライムたん、かわいいです♪

231 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/04/26(木) 21:41:50 ID:RldONRZl0
ほしゅ

232 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/04/27(金) 10:35:22 ID:dZUU6VQT0
鈴木はどうなった

233 :企業戦士鈴木の記録 ◆9iJ0M9nf3E :2007/04/27(金) 23:50:08 ID:Hx34xILu0
鈴木日記

4月20日

今日は屈強な兵士の方と面接をした。
平和だと思っていたこの世界だがその実「魔王」と呼ばれる人物によって危機にさらされているようだ。
よくわからないがどこかの国の独裁者が世界中に戦争を仕掛けたという事だろう。
どの世界でも人はどうしてこう争いだがるのだろうか。
まあそれは置いといて慢性的に兵士が不足しているらしくなんとこんな私でも正式に採用されてしまった。
と言っても前線に立つのではなく城や町の簡単な警備なので問題は無いだろうとの事。
不安は大きいが明日からこの国の平和のために頑張ろうと思う。

田中日記

4つき20にち

いたい
いたいよ
しごとやすみたいよ

234 :企業戦士鈴木の記録 ◆9iJ0M9nf3E :2007/04/27(金) 23:56:56 ID:Hx34xILu0
鈴木日記

4月21日

私に与えられた仕事は町の見回りだ。さっそく地図を頭に叩き込んでいざ町へ…
だが現実はそんなに甘くなかった。重い。甲冑が非常に重いのである。
もちろん剣も重い。こう見えて私は剣道三段だ。高校大学と剣道部で汗を流したものだ。
だからといって甘く見ていた。それはそうであろう。真剣を振り回した経験など当然無い。
とにかく一番軽装な甲冑を貸してもらい先ずはこの格好で動き回る事から始めなければ。
重子、沙織、お父さん頑張るよ。元戸中商事営業部部長の名にかけて!


田中日記

4月22日 いたい

恐い…ママが凄く恐い…今日さすがに動けなくて仕事休もうと思ったらいきなり押しかけてきた…
目が全然笑ってねーでやんの…俺は思ったね。ママほど「極道の妻」というフレーズが似合う女はそういない!
あとロシーヌちゃんが筋肉痛の腹筋をつついてくる。痛い。凄く痛い。
しかし男田中こんな事でヘコたれるわけにはいかない!
夏にはムキムキになって奇麗なおねーちゃん達と海にいくのだ!

235 :企業戦士鈴木の記録 ◆9iJ0M9nf3E :2007/04/28(土) 00:03:10 ID:MRj3Ydtc0
鈴木日記

4月22日 晴れ

見かねた兵士長が剣の振り方を教えてくれた。なかなかどうして難しいものである。
早く仕事を始めなければいけないのに多数の人に迷惑をかけて非常に申し訳ない。
体を鍛えて技を磨くのも兵士の仕事のうちだと慰めてもらったがいつまでもこのままではいけないだろう。
しかし腰にくるなこの仕事は…


田中日記 

4月22日 あったかいむしろあつい

ちょっと筋肉痛にも慣れてきた。心なしか腹筋が割れてきた気が…
やべ今の俺超かっこいいかも!

236 :企業戦士鈴木の記録 ◆9iJ0M9nf3E :2007/04/28(土) 00:11:41 ID:MRj3Ydtc0
鈴木日記

4月23日 晴れ

今日は町の地理に慣れる為に町を散策した。改めてこの世界の人たちを見て回ったわけだが
古きよき時代の田舎といった所だろうか。道行く人が気さくに声を掛けてくれて非常に心地よかった。
それはそうと今更だが初めて田中の働いてる現場を見た。昼食を田中の働いている店でとったわけだが
破廉恥な格好をした若い女の子にちょっかいかけたり奇麗な店主にデレデレしたり本当に不真面目な奴である…
店主の話によると店の空気が明るくなるし雑用はしっかりこなしているからこれでいいとの事だが
上司としてなんともやるせない気持ちになった。

追伸:田中の手料理とやらを初めてて食べた。これは人前に出すべきでは無い。断じて。


田中日記

4月23日 あったかい

今日鈴木さんが店に来た。ママが自分の実力を試すいいチャンスだと言って俺に飯を作らせた。
鈴木さん感動して固まってやんの(笑)そりゃそうだなかわいい部下がうまい飯作ってくれたんだから(笑)
こんどネネちゃんにも作ってやるか!

237 :タカハシ ◆2yD2HI9qc. :2007/04/28(土) 00:17:04 ID:tYQ8q3Vc0
支援

238 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/04/28(土) 00:20:50 ID:rLqBStxL0
じゃあ俺も支援w

239 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/04/28(土) 00:22:17 ID:PV57gD+B0
田中ww

240 :企業戦士鈴木の記録 ◆9iJ0M9nf3E :2007/04/28(土) 00:22:35 ID:MRj3Ydtc0
>>237
いつもありがとうございます!すいません今日ここまでですorz
GW中に追いつく予定で…

241 :タカハシ ◆2yD2HI9qc. :2007/04/28(土) 00:56:02 ID:tYQ8q3Vc0
>>240 さん
おつかれさまです。
気負いしすぎず、ご自分のペースでがんばってください!

職人さんから個別に指定頂いたまとめ方は、反映しています。
もし、考えていたまとめられかたと違う場合は気軽に言ってください。

まとめサイトはここまでまとめました。
また、避難所で要望のあった絵板を設置しています。
アプロダとあわせて、自由に使ってください。
ttp://ifstory.ifdef.jp/index.html

*余談
ファイル数も250を超え、容量もテキストだけなのに過去ログを省いて約4MB…
書いていただいている書き手さん、読んでくれている読み手さん、感謝です。

242 :R:2007/04/29(日) 00:14:30 ID:6E2YpHveO
まとめお疲れさまです!

243 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/04/30(月) 21:54:42 ID:/4dowCYVO
田中は今日何してるんだろな

244 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/04/30(月) 23:28:57 ID:4jV8mZnZ0
まとめ人さん乙です。
今日某神書き手さんの作品をプリントアウトしたんだが、えらい紙の量になったw
改めて書き手さん方やまとめ人さんの苦労に乙と言いたい。


245 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/04/30(月) 23:39:33 ID:adF24d930
こんだけマメなまとめ様がいらっしゃって、ありがたいです。
多謝!

246 :タカハシ ◆2yD2HI9qc. :2007/05/01(火) 01:33:46 ID:X3Zp195h0
お疲れ様です。

>>242-245
ありがとうございます。
書いてくれる人と読んでくれる人がいないとまとめは成り立ちません。
今後ともよろしく…

絵板、いい絵を描いてくれた人がいますね〜
萌えというヤツですか!

247 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/05/02(水) 06:05:07 ID:gDXwYXX4O
保守

248 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/05/04(金) 08:31:10 ID:wTE2TpVC0
保守!

249 :STORY.4 忍び寄る影 ◆aPqItC/JYI :2007/05/04(金) 16:00:58 ID:2VXz2OdM0


 俺たちは迷い森の中へ入った。さっきまでの平野と違って随分歩きづらい。
 森の中は光が入りにくいらしく薄暗い。霧が発生しているようで、視界も絶不調。
 更に同じような木ばかり生えていてさっきまでいた位置と今の位置の区別がつき辛い。迷うわけだ。
 しかも土や木の根がところどころ盛り上がっていて足が取られる。さっきなんてつまずいて転んでしまった。
 幼い頃から裏山の中を駆けずりまわっていた俺だけど、流石にこれは辛い。段々と体力が削られる。
 一方マリアさんはザクザク先へと進んでいく。この世界の人はみんなああも道ならぬ道を歩くのに慣れているのか?
 置いて行かれないよう、俺は震える足を前へ前へと踏み出していった。
 
 突然ガサリと背後の草むらから音がした。
 マリアさんはすぐさま振り向き身構えた。遅れて俺もひのきの棒を取り出し身構える。
 バサバサッという音とともに草むらから出てきたのは、空飛ぶ黒い塊と青いタマネギみたいな生き物が1匹ずつ。
「スライムとドラキーよ! アレフ、気をつけて!」
 どっちがスライムでどっちがドラキーだ! 軽く混乱していると、タマネギが俺に襲いかかってきた。
 タマネギのタックルが俺の腹に直撃。一瞬息が詰まり衝撃で後方に吹っ飛ぶ。マリアさんが俺の名前を叫んだ。
 体当たりされた腹と、地面に打った背中が痛い。起き上がるとタマネギが降ってきた。
 俺は反射的に手に持っていたひのきの棒を振った。するとうまくヒットし、タマネギを吹っ飛ばした。
「このっ、タマネギ!」
 吹き飛んだ方向に向かい、思い切り踏みつけた。ぐにょっとした感触が気色悪い。俺は何度も踏みつけた。
 マリアさんの方を見やると、黒い塊をメラで火だるまにしているところだった。よかった、無事だ。
 もう一度タマネギの方を見る。タマネギはもがいていたがしばらくすると動かなくなり、光になって消えていった。
 消えた後に残っていたのは小さな石。宝石みたいにキラキラしている。何だろう。とりあえず拾っておいた。

250 :STORY.4 忍び寄る影 ◆aPqItC/JYI :2007/05/04(金) 16:01:36 ID:2VXz2OdM0
 
 出発前にマリアさんにもらっていた薬草をかじる。苦い。じいちゃんに無理矢理飲まされた青汁よりまずい。
 しかし腹と背中の痛みがスッと消えていった。おお、凄い効果だ。
 マリアさんが言うには、さっきのモンスターはタマネギがスライムで黒いのがドラキーというらしい。
 どちらも下等なモンスターで、そんなに手強い相手ではない。最初に出会ったのがこいつらでよかった。
 さっき拾った石をマリアさんに見せた。これは”いのちの結晶”というものらしい。
 この世界に存在する生物、人間もモンスターも、このいのちの結晶を身に宿している。核みたいなものだ。
 結晶は本体の種族や能力により色や形が違う。本体が強ければ強いほど結晶の質も上がる。
 それを利用しての報奨金制度というものがこの世界にはあるという。
 町に設置されている施設に結晶を持っていくと、倒したモンスター本体の種類や強さに応じてお金が貰えるのだ。
 ……なんだか、凄い世界だな。
 

 草をかき分け歩いていると、またモンスターが出てきた。今度はドラキーが3匹。
 キィキィ鳴いて俺たちの周りを飛び回る。動きが素早い、目で追いかけるのがやっとだ。
 ドラキーの笑っているような口が俺を馬鹿にしてるみたいに見えて胸くそ悪い。
 ひのきの棒を握る手に汗がにじむ。落ち着け俺。集中するんだ俺。
「メラ!」
 隣にいたマリアさんが呪文を唱えた。指先から火の玉が出て1匹を炎に包む。
 するとギィギィと耳障りな声をあげて地面へと落下していった。
 そちらの方に気を取られていたら、もう1匹のドラキーがこちらへ向かってきた。
 ……さっきの戦いの後、マリアさんはアドバイスをしてくれた。
 ドラキーは動きが速く飛び回るけど、攻撃は体当たりだけ。しかも一直線にしか向かってこない、と。
 向かってくるドラキーにタイミングを合わせ、ひのきの棒を野球バットのようにスウィングする。
 会心の一撃! ひのきの棒にあたったドラキーは向かいの木に衝突し、消滅した。

251 :STORY.4 忍び寄る影 ◆aPqItC/JYI :2007/05/04(金) 16:02:08 ID:2VXz2OdM0
「やったわね!」
 マリアさんが駆けつけてくる。その顔には笑顔が浮かんでいた。
 緊張が解けた俺は、糸の切れた操り人形のようにその場にへたりと座り込んだ。
 しかもただドラキーを避けて棒をひと降りしただけなのに肩で息をする始末。情けない。
 でも二人とも怪我がなくてよかった。
「モンスターの動きを見極めて攻撃……一度の助言で実行できるなんて、すごいわ」
 ありがとうマリアさん。実は無我夢中でした。きっとまぐれです。
 

 幾ら歩いても出口が見えない。日も傾いてきたし、俺たちはこの近くで野宿をすることにした。
 女性と二人きりの野宿。……ドキドキワクワクってレベルじゃねーぞ!
 さっきのところから少し進むと、草が生えていないそこそこ広い場所があった。
 周りが確認しやすくちょうどいい。俺たちはそこで休むことにした。
 野営に火は付きもの。ということで小枝をいくつか集めてきて焚き火をする。
 着火はマリアさんのメラで一発。なんて便利なんだ呪文。俺も早く使いてー。

 ホウホウとフクロウが鳴く声が聞こえる。この世界にもフクロウがいるのか。
 するとマリアさんが、あれはフクロウではなくてアウルベアーというモンスターだと教えてくれた。
 フクロウみたいな顔をしているけど、体は熊のように大きく腕力も相当なもの。
 夜行性で、まれに寝込みを襲われることがあるから、旅人にとって結構恐れられているモンスターなんだそうだ。
 ガクブル、俺たちのところに来ませんように。
 でも、もしアウルベアーが襲ってきたら俺は戦えるのかな。
 マリアさんみたいに呪文を使える訳でもないし、こんな木の棒で熊に勝負を挑むなんて死にに急ぐようなものだ。

252 :STORY.4 忍び寄る影 ◆aPqItC/JYI :2007/05/04(金) 16:02:44 ID:2VXz2OdM0

 と、いうわけで早速マリアさんに呪文を教えてもらうことになった。
「必要なのはイメージよ。全身に分散している魔力をを指先に集めるように、そして唱えたい呪文をイメージするの」
「イメージ……」
「メラを唱えるなら火の玉をイメージするといいわ」
 火の玉火の玉……駄目です先生、イメージすればするほどお化けの鬼火しか思いつきません。赤じゃなくて青い炎になります!
「最初は目を閉じててもいいからゆっくり落ち着いて、深呼吸して心を静かに……」
 言われる通りに俺は目を閉じる。深く息を吸ってゆっくりと吐き、深呼吸。頭の中に火の玉を浮かべる。
 ああ、なにか掴める感じがするぞ。メラメラ燃えるメラの炎……
「メラ!」
 アレフはメラを唱えた! しかし呪文は発動しない!
「……駄目でした」
「毎日続けていたらできるようになるわ、絶対」
 うなだれる俺の肩に手を置いて励ましてくれるマリアさん。そうですよね、すぐできたら修行なんていりませんよね。
 とりあえずしばらくの間はイメージと集中を重点的にすることにした。


「そろそろ夕食にしましょうか」
 修行を中断し夕食にすることにした。夕食といっても固焼きパンとジャムに少しの木の実だけだ。
 なんだかひもじい気もするが、この先なにがあるかわからない。少しでも食料を節約しなくては。
「マリアさん、この木の実ってなんですか?」
 俺はこの不思議な形をした木の実が気になった。紫色で、貝殻が合わさったような形をしている。
「これは賢さの種といって、能力が上がる効果が稀にある木の実よ」
「へぇ……でもこれって貴重なものじゃないですか?」
「まあ、簡単に人の目には触れるものではないわね。
 昔マザーがどこからか持ってきた苗を育てたらこの実が生った、ということらしいけど。詳しいことはわからないわ」
「そうなんですか……」
 そんなもん栽培してるなんて、マザー何者だ。
 その後マリアさんとの会話もそこそこに、食事を終える。満腹とは言い難いけど、空腹は治まったからいいか。

253 :STORY.4 忍び寄る影 ◆aPqItC/JYI :2007/05/04(金) 16:03:27 ID:2VXz2OdM0
 
 森が闇に包まれる。俺たちは炎に照らされていて明るいが、火から離れると深く飲み込まれてしまいそうな闇が続く。
「まず私が番をするわ。アレフは寝てていいわよ。なにかあったら起こすから」
「あ、はい」
 番は交代制。マリアさんが眠くなったら俺が起きて番をする。
「じゃあ、おやすみなさい」
「おやすみ」
 地べたにそのまま寝るのは汚いけど、寝袋なんて物はこの世界にはない。
 俺は薄い毛布にくるまり、アウルベアーの鳴き声を子守歌に眠りに落ちた。


「マリアさん、朝です。起きてください」
 相変わらず薄暗い森の中だけど、木の葉の間から光が差し込んできている。朝だ。
 あれからマリアさんと交代し、俺はずっと起きていた。夜更かし早起きは得意だから、そんなに疲れはない。
 今回の野宿は危なげなく終わった。毎回こうだったらいいのに。そう呟きながら俺は朝食のパンを頬張る。
 食事も終え支度をし、俺たちはここを出発した。もちろん火の始末も完璧に。
「西は……こっちね」
 コンパスを片手にマリアさんは方向を指し示す。うっそうと草が茂っており、獣道すらない。
 だが旅に道のあるないは関係ない。さくさく進むことにした。
 腰程まである草をかき分けて進んでいく。足を取られたりしてうっとうしいのこの上ない。
 頭の上からゲアゲアとカラスの鳴き声が聞こえる。まるで俺たちを馬鹿にしているように聞こえる。気味が悪い。
 突然前を歩いていたマリアさんが歩みを止めた。
「マリアさん、どうしました?」
「……私たち、迷ったみたいね」
 マリアさんが見つめる先を見て、俺は驚いた。俺たちは野宿したところに戻ってきてしまっていたのだ。
 俺が砂をかけて消した焚き火の後。間違いなかった。
「これって……」
「流石迷いの森と呼ばれるだけあるわね」
 やれやれとため息を吐くマリアさん。まあ、ある意味振り出しに戻ったのだから仕方がない。
「まあいいわ、とにかく進みましょう」

254 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/05/04(金) 16:06:02 ID:1oHOWIOmO
携帯から自分で支援(・∀・)

255 :STORY.4 忍び寄る影 ◆aPqItC/JYI :2007/05/04(金) 16:07:12 ID:2VXz2OdM0
 
 コンパスを見て進むも、なぜか最初の場所に戻ってしまう。何度も何度も西へ行っても戻ってきてしまう。
 3周目の時点でドッと疲れが襲ってきた。
 そしてグルグル回って5周目、肉体的にも精神的にも流石に疲れたので休憩を取ることにした。
「……駄目。全然先へ進めないわ」
 疲れ切った声でマリアさんが言う。
 俺たちが休んでいるところはあの寝泊まりした場所。この焚き火の後をもう何回見ただろう。
 長い道を歩いていくより同じところを何度も歩く方が疲れる。
 そう、同じところを何度も。
「……」
 同じところ……同じ道が駄目なら、違う……そう、逆の道とか。
「……そうだ!」
 大声を出すと同時にいきなり立ち上がった俺を、マリアさんは怪訝な目で見つめる。
 俺は立ったままマリアさんに向き直り、声高に話した。
「マリアさん、逆に考えるんだ。押して駄目なら引いてみればいいんだ!」
「引いてみる?」
「はい。西に行くとここに戻ってしまう。なら、反対方向の道……東に行けば!」
「なるほどね……いい考えだわ。このまま回っているのも時間の無駄だし、東に向かってみましょう」

256 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/05/04(金) 16:08:36 ID:1oHOWIOmO
また規制。流しすみません。

257 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/05/04(金) 16:11:09 ID:nlG9FOnx0
>>256
がんがれ支援

258 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/05/04(金) 16:13:03 ID:tk2Z8m2WO
支援

259 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/05/04(金) 16:14:19 ID:1oHOWIOmO
さるさんのおかげで、しばらく投下できません。
時間をおいてからチャレンジしてみます。半端ですみません。

>>257>>258
ありがとうございました。(つ∀`)

260 :STORY.4 忍び寄る影 ◆aPqItC/JYI :2007/05/04(金) 18:50:57 ID:2VXz2OdM0


 東に向かってしばらくすると、開けた空間が見えてきた。
 そこは石がいくつも積み重ねられ表面は苔生している、祭壇のような場所だった。
 傍に立つ柱は元の形を保っているもの、崩れ落ちているものと、様々だ。
「……なにかの遺跡かしら。だとしても、そうとう古いわね」
「遺跡かあー」
 俺は興味津々に遺跡を見て回る。こういう歴史あるものを見るのは好きなのだ。
 ピラミッドのように何十にも積み重ねられた石たち。中央には頂上へと続く階段がある。
 それの傍には小さな社が左右に一つずつ……片方は崩れていて見る影もないが、たぶんそうだろう。
 俺は崩れていない方の社へ向かった。マリアさんと離れてしまったが、そんなことは気に止めなかった。
 危険の心配よりも好奇心の方が勝ってしまったのだ。
 壁を見ていると、表面に変な模様があることに気がついた。文字だろうか……読めないな。
 よく見ようと表面をこすっていると、突然大きな影が俺に被さった。
「よう、そこの坊や。……なにかお探しかい?」
 声に驚き振り向くと、そこには狼の顔をした人間の姿があった。

261 : ◆aPqItC/JYI :2007/05/04(金) 18:52:10 ID:2VXz2OdM0
祝・規制解除。
以上で今回の投下終了です。

262 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/05/04(金) 19:09:53 ID:RP+9TnHc0
しまった、いいとこで終わっちゃってる!


続き期待していますよ〜

263 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/05/05(土) 01:35:28 ID:WKmQog9F0
GW投下、お疲れ様でした!
本当さる規制ウザイですよね。
SS系などの連投がデフォルトのスレはみんな不満みたいです。

モンスター退治とゴールドの関係の処理がうまいですね〜! 違和感ない。
初投下から毎回楽しみです。続きwktkです。

264 :DQVI ◆55fvMgOfnY :2007/05/05(土) 11:53:13 ID:ulthyi6uO
次の日メイサさんにシェーナの街を案内してもらった。
なんでもライフコッドで祭があるのは今から3日もあるらしい。

「でもバザーは今日でおしまい、商人達は皆必死よ、きっと良いお買い物ができるわ」

そういったメイサさんの笑った横顔は少し寂しげだった。
バザーが終われば、ここにいるほとんどの人がいなくなるのだろう。
少し複雑な感じだった。
プレイ中にこんな事を考えるなんてなかったから。

「今日は何を買うつもりなの?」

「へ、あ、と…武器とか、薬草を調達しようかな〜…っと」

考えている最中に話かけないでもらいたかったなぁ、なんて思いながら歩いていると辺りから商人の声が飛び交う。

265 :DQVI ◆55fvMgOfnY :2007/05/05(土) 11:53:51 ID:ulthyi6uO
「さぁ安いよ!安いよ!薬草が安いよ!薬草6こと聖水1つ!あわせて50Gだよ!」

「革の鎧が230Gのところ200Gだぁ!さぁ買った買った!」

「革の盾が115Gだ!」

とりあえず

「メイサさん」

「何かしら?」

「つかぬ事をお聞きしますが…どれがどのお金に相当するのでしょうか?」

私はこの世界の通貨をよくわからないのだ、財布の中に入っているお金が使えなかったら…とりあえず財布の中身をメイサさんに見せる。
100円玉と10円玉ばかりが入った恥ずかしい財布だったが、その100円玉と10円玉が両替の対象になるとは意外だった。

「案外お金持ってたじゃない!」

「それはどうも…アハハ…」

占めて1250G
とんでもねぇ…ありがとう愛と信頼のゴールド銀行。
お札に至っては「何?この紙きれ」と一蹴されてしまった、が、まぁそれは元の世界に…

266 :DQVI ◆55fvMgOfnY :2007/05/05(土) 11:55:40 ID:ulthyi6uO
「戻れるのかなぁ…」

「え?」

ふと放った一言。
それと共に涙が流れた。
メイサさんが私を落ち着かせようと懸命に話かけるが、その内容はまともに聞こえていなかった。


……
………
…………
……………

「…落ち着いた?」

「うん…」

心配そうに私の顔を見る1人と1匹。
私はたまらなくなって話したのだ。

起きたらトルッカの宿にいたこと、自分の姿が他の人に見えてなかったこと、サスケに出会ったこと、夢見る井戸に飛び込んだことも、冠職人のおじさんを助けたことも、全部、全て。

267 :DQVI ◆55fvMgOfnY :2007/05/05(土) 11:56:16 ID:ulthyi6uO
「頑張ったんだね」

馬鹿、そんな事言わないでよ、私の緩んだ涙腺からさらに涙が分泌されるじゃないか。
涙でまた顔がぐしゃぐしゃになる。

「…じゃあこれからどうするの…?」

そうだ、泣いていても元の世界に戻れる事はないだろう。

「とにかくライフコッドへ行きます…もしかしたらヒントがあるかもしれない…」

「そう…頑張ってね…!」

「はい!」

そのあと薬草セット6セット分と大きめのリュックサック、水と日持ちのよさそうな食糧を購入した、武器はめぼしいものが見つからなかった。
地図はメイサさんからせんべつとして買ってもらった。
その日、疲れた私は食事をとる事なく眠りについた。

268 :DQVI ◆55fvMgOfnY :2007/05/05(土) 11:56:59 ID:ulthyi6uO
そして次の朝、朝食中、私はライフコッドに向かうとメイサさんと冠職人のおっさんに言った。
朝食を済ませると貸してもらっている部屋に戻る。

昨日買った薬草セットの1つをコートのポケットに入れ、財布と残りの薬草セット、地図と食糧はリュックの中に詰め込んだ。
これに私の命がかかっていると言っても過言ではない、それから靴の紐を解けないようおもいっきりかたく締める、まるで自分自身に言い聞かせるように。

「入るわよ」

どうぞ、と私が言うと青色のワンピースのような服と一降りのナイフを持ったメイサさんが入ってきた。

「ちょっとしたものだけど…役に立つと思ったから持ってきたわ」

「ありがとう、メイサさん」

なんでもこの世界での旅人の基本的な装束らしい。
元着ていた服はメイサさんの家に置いていく事にした。
宿代には不十分だとは思うがこれが精一杯だった。

269 :DQVI ◆55fvMgOfnY :2007/05/05(土) 11:58:57 ID:ulthyi6uO
青色の服に袖を通すと、麻が入っているのか、少しチクチクとした。

私の旅が始まるんだ、不安より期待の方が大きすぎるような気がした。

モンスターの知識もあるのだからと言うのが要因だろうか、私は着替えを済ませると後ろから視線が。

 人
(゚д゚)

「こっち見んなw」

旅に乙女心はいらないとわかった。
服にはソードベルトなるものがついていたのでナイフはそこにいれる事にする。
リュックを背負い、サスケを肩に乗せる、ついにお別れだ。

メイサさんには気をつけてねとか忘れないでとか、辛くなったら来てとか言われた。
おっさんも、また来いと行った、その時に髭面の間から涙が見えていたのがわかった。

歩き出した時、後ろからメイサさんの声が聞こえる

「行く前に、名前、教えて」

私の名前…

「星良[セイラ]!星に良いって書いて星良!」

「また会おうね!セーラ!」

こうして私の長い旅が始まった。

270 :DQVI ◆55fvMgOfnY :2007/05/05(土) 12:02:00 ID:ulthyi6uO
本日の投下はこれにて終了です
ありがとうございました

271 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/05/05(土) 12:12:46 ID:AqNLWx3jO
サスケwwwww乙ww

272 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/05/05(土) 12:26:12 ID:Tn0giKIA0
面白い!
ゲームでいえばまだ序盤なのに大冒険になりそうな予感
自分に自信の無い主人公てのはつい感情移入しちゃいますね

続き期待してます!

273 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/05/05(土) 12:26:36 ID:Y8piABFwO
ちょwwサスケwwこっち見んなwww

274 :DQVI ◆55fvMgOfnY :2007/05/05(土) 14:11:40 ID:ulthyi6uO
× 祭があるのは今から3日もあるらしい。
○ 祭があるのは今から3日後らしい。

まとめる時に修正出来たらお願いします…
さすがゆとりって言われる前に吊ってきます

275 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/05/08(火) 09:48:43 ID:OLhBWyJl0
ほっしゅ

276 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/05/09(水) 19:54:14 ID:CR90JAoe0
ほしゅーー

277 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/05/10(木) 09:31:03 ID:/xPwAdXfO
ぴるりりゅん!

ぴるりりゅん!

278 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/05/10(木) 11:14:34 ID:7LPR8Gbt0
もょもと

279 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/05/10(木) 16:07:54 ID:DSN9UtZgO
とんぬら

280 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/05/10(木) 23:25:24 ID:AZ6WcEDO0
ゆきのふ

281 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/05/11(金) 12:07:43 ID:kiDuyOId0
鈴木さーん、田中ー、生きてるかー?

282 :暇潰し ◆ODmtHj3GLQ :2007/05/12(土) 00:16:04 ID:gVvwJ5tL0
皆さんお疲れ様です。
このスレに入って初の投下行っきまーす

283 :暇潰し ◆ODmtHj3GLQ :2007/05/12(土) 00:18:25 ID:gVvwJ5tL0
                  〜The Sacrifice of Isaac〜

――――――――――――――――――1――――――――――――――――――――

  「はい、あ〜ん」
  「……」

困惑した表情を浮かべる少女。

  「どうしたの? あ〜んして?」

しかし催促には勝てず、おずおずと唇を動かすと果物がその小さな口に運ばれた。
果実の甘さが舌を満たしていく。

  「ふふ、おいしーね」

問いかけられた少女はどうしたもんかと思いながらも、
自分を抱きしめている人の機嫌を損ねないように小さく頷くのが精一杯だった。
けれど、怖いからそうしているのかと言われると、ちょっと違う気がした。
手を引かれ、木の下まで連れていかれた時は何をされるか不安だったけど、
今のところ、後ろから抱きすくめられながら、果物を食べさせてもらっているだけだから。

これが「お前をたべちゃうぞー!!」とかそういう目的だったなら怖いけど、
このお姉さんは優しいし、髪を撫でてくれるし、可愛いねって言ってくれたから、
何となくそうじゃない、と少女は思う。
お姉さんのそういう行為、それはそれで恥ずかしいのだけれど、
イヤじゃなかった。
けれどこの一連の行為が何の為にあるのか分からない少女だから、
とりあえず逆らわないように事態の流れに身を任せているのだ。
とは言えどう対応したらいいのかも分からないので、
少女は口をぱくぱくさせて、困ったアピールをするのだった。

284 :暇潰し ◆ODmtHj3GLQ :2007/05/12(土) 00:21:00 ID:gVvwJ5tL0
  「ん? もっと欲しいの? はいどうぞ。あ〜ん」
  「……何やってんだよ」
  「お〜ジュード。もう出発?」
  「そうだけどよ」
  「ちぇ〜もう何泊かくらいしてってもいいじゃーん」
  「あのなぁ、だいたい爪を修理しに来たのだって寄り道だったんだ。
   余裕はないの。
   アヴァルスだって犯罪者として連合に引き渡す予定なんだし」
  「じゃあ1回アリアハンに帰るの?」
  「そうなるだろうな」

少女は自分とは関係のない話が始まってしまったのを感じた。
一緒にいるのにその輪に入れないのは何となく居心地が悪いものだ。
何だか一人ぼっちになってしまったような気がした。
けれどそう感じるという事はやっぱり構ってもらいたいのだろうか。
そうかと思うと少女は複雑な気分なのである。
答えを出せない少女はいつも微妙な立ち位置にあった。

  「で?」
  「あ、この子? 可愛いでしょ〜?」

頬をスリスリしながら、少女はギュッと強めに抱きしめられる。
こんな風に他人に甘えられた事がないエルフの少女は、
真理奈の行動にいちいちドギマギしてしまう。

  「ねぇ、この子一緒に連れてってもいい?」
  (え?!)

やっぱり誘拐とかされちゃうんだ!
女王様が言ってた通り、人間は怖いんだ(((( ;゚Д゚)))
と少女はガクガクブルブルしてしまう。

285 :暇潰し ◆ODmtHj3GLQ :2007/05/12(土) 00:24:07 ID:gVvwJ5tL0
  「ダメ」
  「え〜? ファンタジーな冒険にはエルフは付き物なのにぃ!」
  「知らねぇよ。なんだそりゃ」
  「ジュードのケチっ!」
  「この子は行きたくないってよ」
  「そんな事ないよ〜。ね〜? 一緒に行きたいよね〜?」

同意、というよりは強要に近いように聞こえたのか、
ぁぅぁぅと助けを求めるようにジュードを見上げる少女。
少し涙目になりつつあるのが何とも可哀相だ。
仕方なくジュードが助け舟を出す。

  「分かった分かった。
   じゃあ後で【いつでもエルフに会いに行ける券】やるからそれでいいだろ?
   キメラの翼一年分付きだぞ」
  「お〜それいただきだ〜!」

ぐおーと腕を振り上げる真理奈。
よっぽどエルフの事が好きなんだろう。

  「ったく、小さい子をあんまり困らせるなよ。
   お前が変な事言うから泣きそうじゃねーか」
  「あ〜ゴメンゴメン! もうしないから! ね?」

チュッと頬にキスをし、頭をナデナデする真理奈。
ちょっと必死な真理奈が可笑しかったのか、
少女は片目をつぶりながらも、安心したように笑顔を見せた。

  「よしよし、んじゃあ行きますかね!」

真理奈はヒョイっと立ち上がり、少女をようやく解放した。
そして少女と手を繋いでエルフの里への道を歩き出す。

286 :暇潰し ◆ODmtHj3GLQ :2007/05/12(土) 00:27:07 ID:gVvwJ5tL0
  「ジュードも手、繋ぐ?」
  「いらん!」

馬鹿話をしながら真理奈は少女を家まで送っていった。
エルフの少女は手を振って真理奈を見送った。
不思議な人だけど、また会いたいなと思いながら。


エルフの誘拐事件が起こってから3日と経たぬ内に
真理奈一行は出発する事を決めた。
女王の葬式とソールとフォルテの結婚式で1日強滞在したが、
それでも長い休暇だったかもしれない。

  「フィリアねぇ、もう行っちゃうの?」
  「そうだよ、もう少しゆっくりしていってよ」

フィリアは繋いでいた手を解き、ソールとフォルテの頭に乗せた。
フィリアも別れたくはなかったが、やるべき事があるので仕方がない。
もちろん一生会えないという事はないんだけれど。
それでも寂しいものは寂しいのだ。

  「また来るね」
  「約束だよ」
  「ゆびきりしよ?」

そんな子供らしい光景をパトリスは微笑みながら見ていた。
やはり無垢なものは見ていて心が洗われる。
この子らのようにいつまでも純粋にいる事が出来たなら、
きっとエルフが人間から逃げ隠れるような事態は起こりえなかったはずだ。
それが逃れる事の出来ない運命だったとしても、
再びあのような事件を目にすれば悔しいと感じてしまうパトリスだった。
どんな呪文を覚えようとも、運命を変える事はできないのだから。

287 :暇潰し ◆ODmtHj3GLQ :2007/05/12(土) 00:29:22 ID:gVvwJ5tL0
  「お待たせ〜」
  「やっと来たか。何をしておったんじゃ」
  「へへへ、ちょっとね〜」
  「ちょっと何じゃ?」
  「考え事〜♪」

そんないい訳にもならない事を言うと真理奈はフィリア達の方へ歩いていった。
後ろから来たジュードがパトリスに告げ口する。

  「アイツ何かエルフを連れて行こうとしてたぜ」
  「なっ…!!」

唖然としたパトリスは慌てて真理奈を追いかける。
が、真理奈さんのすばやさには追いつけない…!

  「よ〜し!
  「ソール君とフォルテちゃんに今日はお姉さんからプレゼントをあげよう!」
  「え? 何なに?」
  「こらソール、はしたないでしょ?」
  「いいのいいの。貰ってくれないと私が困っちゃうんだから」
  「ほらみろ。遠慮すんなって。何くれるの?」
  「ジャジャーン!」

真理奈はバッグから深緑に光るオーブを取り出して、2人に手渡した。

  「お〜キレイだな」
  「ホントね…」
  「グリーンオーブって言うんだよ〜」
  「……」

パトリスは真理奈ののんきな声に体を震わせ、
怒りが爆発しそうなのを静かに堪えた。

288 :暇潰し ◆ODmtHj3GLQ :2007/05/12(土) 00:32:18 ID:gVvwJ5tL0
  「……真理奈さん? ちょっとよろしいかの?」
  「え? 今いいとこなんだけど」
  「どういう事か説明してもらえるとありがたいのじゃが」
  「いや〜エルフって言ったら何か緑ってイメージがあるからさ〜」
  「そうではない! オーブをそんな軽々と――」
  「軽々じゃないよ。ちゃんと考えたもんねーだ!」

パトリスの声を遮った真理奈は腰を手に当て、皆の注目を自分に集める。

  「おほん!
   え〜こうして巡り合ったのも何かの縁!
   という事でエルフの皆にも今日から連合に参加してもらいます!
   さらにエルフは超保護対象とするように
   連合を通じて世界中に通達していきましょ〜!
   これでエルフの皆も安心して暮らせるね♪」
  「……」
  「あれ? どうしたの?」

一同唖然。
ソール・フォルテは何の事か分からずポカーンと真理奈を見、
ジュードとパトリスは判断しかねて考え込み、
フィリアだけはうんうんと小さく頷いていた。

  「なぁじいさん。これっていいのか?」
  「……」
  「そういえば俺らってどこと連合結ぶかって全部決めてないよな?」
  「……そうじゃったかのう」
  「……どうする?」
  「ふ〜む……ここはエルフさんに決めてもらおうかの!」
  「あ、逃げやがったな」

289 :暇潰し ◆ODmtHj3GLQ :2007/05/12(土) 00:35:36 ID:gVvwJ5tL0
さすがに真理奈の言葉だけでは説明不足なのでパトリスが補足する。
魔王に対抗する為、世界中で協力しようとしている事。
そして世界中の人々の架け橋となるべく旅をしている事。

  「確かに連合がしっかりと機能すればエルフ保護も出来るかもしれんな」
  「でしょ?! どう? どう?」
  「そうですね。
   私の一存では決められないですけど、お願いしたいです」
  「俺も賛成!」

  「けどさ、『保護』じゃあ立場が対等じゃないだろ。
   協力するんだからもっと違う言葉じゃねぇか?」
  「そうじゃのう。擁護…愛護…庇護…」
  「そんな難しいのなんてダメだよ〜」
  「……友達、がいいと思う」
  「お〜さすがフィリアちゃん! それ採用!!」

有無を言わさず決定という感じでビシっと親指を立てる真理奈。

  「じゃあ友達記念って事で、イエーイ!」
  「イエーイ!」

何のノリか知らないが真理奈はフォルテとソールとハイタッチを交わす。
その時不意に、パトリスの心に懐かしい言葉が甦ってきた。

  "過ぎ去った苦しみの思い出は、喜びに変わるのよ"
  (確かにそうかもしれない。だから生きていける、か)

昔の記憶につられたのかパトリスも少しだけ若さを取り戻した気になり、
真理奈たちがはしゃぐ輪の中に入っていった。
妖精と人間の未来がありますように、と願いながら。

290 :暇潰し ◆ODmtHj3GLQ :2007/05/12(土) 00:36:56 ID:gVvwJ5tL0
短いですが、今日はここまで。
ではまた( ^ω^)

291 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/05/12(土) 00:39:05 ID:F3yFevY80
乙です!
初リアルタイム遭遇でかなり嬉しい。

292 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/05/12(土) 07:42:44 ID:I8sDJVVs0
乙でした〜。
凝り固まったオトナのジョーシキなんか軽々とぶっ飛ばす真理奈ちゃんは
本当に見ていて清々しいですね。
これからの冒険も応援します。

293 :Stage.4 [前編] 1/13 ◆IFDQ/RcGKI :2007/05/12(土) 13:39:15 ID:1V5Xv7vG0
 前回 >>129-141
【Stage.4 ミイラ男と星空と(前編)】

 ----------------- Game-Side -----------------

「エリス、この手紙をポルトガ王に届けるよう頼んできて。あとこっちはイシス女王へ。
で、こっちがエジンベア王宛てね」
 各手紙の隅に、ロマリア国王直筆の書簡であることを表す判を押して、すっかり秘書役
になっているエリスに手渡す。
 ポルトガ王には「死ぬほど黒コショウ贈ってやるからノルドに道を開けさせろ」。
 イシス女王には「勇者に魔法の鍵を貸してあげて。まだピラミッド内から発掘されてい
ないのであれば、ピラミッド関連の資料を勇者に渡してほしい」というお願い。
 エジンベア王には「いずれ勇者が訪ねるから、番兵一人にいたるまでしっかり伝えてお
くように!」。差別主義のアホな門番一人のために、何度も海を越えてられるかっての。

 エリスは各手紙をくるくる巻いて紐でくくると、遠慮がちに声をかけてきた。
「ところでゆう……じゃなくて新国王様。なにかお召し上がりになりませんか?」
 言われて時計を見ると、正午を回っていた。そういや朝からろくに食べていない。
「じゃあ厨房にサンドイッチでも作らせてくれる? あ、ピクルスは入れないでね」
「わかりました。あまりご無理をなさないでくださいね」
 ふわりと笑って退室するエリス。優しくてよく気がつくコだ。
 ホント、仲間には恵まれたなぁ。

 サミエルたち3人がカンダタから金の冠を取り返して来たのは、実に明け方すぐだった。
最短でという僕の要望に、期待以上に応えてくれた3人には超感謝!
「ロマリアで雇った傭兵の中に、カザーブ出身者がいましてね」
 その人にまずキメラの翼でカザーブまで連れて行ってもらって、今度は地元の猟師から
シャンパーニの塔への近道を教えてもらい、普通は丸1日かかるところを半日で到着した
のだ、とサミエルが得意気に説明する。
「それに、カンダタも賢い男で助かりましたよ、ははは」
 話を引き継いだロダムが思い出したように笑った。手下より大勢の傭兵部隊に囲まれて、
カンダタ一味は剣も抜くことなくさっさと降伏したとのこと。ビビったんだろうなw

294 :Stage.4 [前編] 2/13 ◆IFDQ/RcGKI :2007/05/12(土) 13:41:49 ID:1V5Xv7vG0

 そんなこんなで僕は今、ロマリアの新国王(仮)をやっている。
 朝イチで王様に金の冠を届け、さっそく祝いの宴じゃ!と騒ぐ王様をなだめすかして、
さっさとカジノに追い出した。
 仲間の労をねぎらってやりたい気持ちは山々だったんだけど、
「別に城の公式パーティならいいッスよ」
 肩をすくめるサミエル他、全員が「堅苦しいのはパス」になったので、仲間が泊まって
いる宿にごちそうを運ばせるだけにしておいた。
 それからずっと執務室のデスクに張り付いている。王様権限を駆使して、今の内に打て
る手は打っておかないとね。

 ポルトガへの関所は、真っ先に国王命令で鍵を開けるよう通達を出した。
 なので直接バハラタに向かって黒コショウを手に入れ、ポルトガで船をゲット。
 エジンベアで渇きのつぼを取って、すぐ浅瀬の祠に向かい、最後の鍵を入手してから、
旅の扉を使って世界を回るのが手っ取り早いはずだ。
 ただ鍵関係のイベントは大切だから、イシスには行かないとダメかもしれない。できれ
ばあの罰当たりな墓荒らしイベントは飛ばしたいんだけど。
 あ、よくわからない方は攻略本や攻略サイトをごらんください。

「あとは、あれがこうなってそうなるから、あれは飛ばせるはず。でもあそこをハショる
とヤバイかなぁ。だけど時間無いし……痛ぅ」
 目の奥がズキッとして、僕は両手の親指でこめかみのあたりを抑えた。ドラクエ世界に
飛ばされて、眼精疲労で頭痛を訴える主人公なんて僕くらいだろうな。
 結局きのうもほとんど寝てないし、ダメだ、頭が回らなくなってきた。
 少しだけ仮眠を取るか――。

 と、急にドアが開いた。
 入ってきたのは前国王だった。城の塔の最上階に隠居している、放楽息子に頭を悩ませ
ているロマリア国王の父君その人である。
 僕は慌てて立ち上がり、彼の前に膝をついた。彼は「まあまあ」と言って僕の腕をつか
んで立ち上がらせると、ソファに腰をおろして僕にも座るよう促した。

295 :Stage.4 [前編] 3/13 ◆IFDQ/RcGKI :2007/05/12(土) 13:44:46 ID:1V5Xv7vG0

「いやはや、正直ワシは参っておるよ。うちの息子よりよっぽど評判ではないか」
 言葉とは裏腹に、父君はなにやら上機嫌だ。
 評判もなにも、こんだけ女官さんを抱えてるんだ。若い男の子が一日署長、じゃない、
一日王様やってれば、城中がキャーキャー騒がしくもなるわいな。
「どうじゃ、いっそ本当に継いでみんか?」
 彼はフォフォと笑った。一見すると王族というより、田舎の旅籠のご隠居さんという感
じの、冗談好きのただのおじいちゃんだ。
 でも目が笑ってない。本気らしい。「勇者アルス」のネームバリューの高さを考えれば
傀儡として飼っておきたいと思うのは当然か。
 王様…か。確かに向こうで普通のリーマンやってるよりは楽しいかもなー……。

 いかんいかん。ここで誘惑に負けたらいけない。ヘタに「はい」なんて選んだ日には、
またとんでもないことになるに決まってる。 
「申し訳ありません。このような重責は、わたくしごときには耐えかねます」 
「そうかのう。頭も良し、見目も良し、しかもあのオルテガ殿のご子息とあれば、ワシは
申し分ないが。ほれ、うちの姫も年頃じゃし」
 いやいやそんな、まあ頭脳と容姿は少し自信ありますけどぉ……って、はいぃ!?

 姫なんかいたっけか? 僕は急いで昨日の謁見の模様を脳内再生した。ビデオのように
はっきりと情景が浮かび、偉そうな王様の隣にフォーカスをずらすと――うわ、いた。
 確かに年増の地味な、もとい、熟女の魅力を放つ慎ましやかな姫君が、鎮座ましまして
いらっしゃるぅ! 濃ゆい王様の存在感に負けて、そっちまで意識が行ってなかったよ。
 もちろん、丁重にお断りさせていただきマス。
 だいたい大国ロマリアの姫君ともなれば、引く手あまたのはず。なのに今まで独り身な
のは、あの国王が見かけによらず親バカってことじゃないの?
 ヘタすれば僕の首がハネられる。冗談じゃない。

 前国王はとても残念そうだったけれど、僕に再三断られると、しぶしぶ退室していった。
 ヤ、ヤバかったぁ。ほんと下手な選択肢は選べないゲームだな。

296 :Stage.4 [前編] 4/13 ◆IFDQ/RcGKI :2007/05/12(土) 13:47:59 ID:1V5Xv7vG0


 これ以上長居すると、さらに余計なトラブルに巻き込まれそうだ。
 王様がまだ陽の高い内に帰ってきてくれたのを幸いに、僕はすぐ王位を返還し、その日
の内にロマリアを出発することにした。
「みんな、慌ただしくてゴメンね」
 次の目的地バハラタまでの旅程を確認してから、チェックアウトしてもらう。
「気にしなくていいッスよ。それにしても、ようやく勇者様と旅ができますね」
 サミエルがにかっと笑った。いよいよ冒険らしくなるとウキウキしているようだ。
 僕はこの時点ですでにウツ気味だけどネ。

 はぁああああ。とうとうこの時が来ちゃったよ。
「もう少しでロマリアの警戒域を抜けます。ここからはモンスターが出ますから、お気を
つけてくださいね、勇者様」
 エリスが心配そうに僕を振り返る。
 前にも言ったけど僕は「Lv.1」で「経験値ゼロ」。無論、僕のレベルが低いことは最初
の契約時に確認してることだから、戦闘に慣れるまでは後方支援に徹する、という打ち合
せは済ませている。
 なんだけど、本当に問題なのは、たぶんそこじゃない。

「って、言ってるそばからなんかいっぱいキター!」
 獲物だ、とばかり茂みの中から4つの塊が飛び出してきた。ついに宿スレ定番の初戦闘
シーンだ! ちょっといまさら感もあるけど、そこはほら、初スライムまで平均5時間と
いう噂のDQ7もあることだし。
 敵は紫色の一角ウサギが2匹と、緑色のイモムシが1匹、それに頭から黒いフードをスッ
ポリ被った怪しい人型のが1匹。アルミラージ、キャタピラー、まほうつかいだ。
 ロマリアのモンスター格闘場で遠目には見たけど、間近だとホント迫力ある。
「これまた出ましたねぇ。下がっていてください勇者様」
「はーい、お任せしまーす」
 最後部に回って「ぼうぎょ」に入る僕。って言ってもどうしていいかわからないから、
とりあえず逃げることを優先に構えてるって感じ?
 うはww情けなーwww

297 :Stage.4 [前編] 5/13 ◆IFDQ/RcGKI :2007/05/12(土) 13:51:14 ID:1V5Xv7vG0

 反面、この地点での目標レベルを軽く越えている3人は、余裕の笑みさえ浮かべている。
「精霊界の偉大なる女王ルビスの名において汝らを召還す、ジン、イフリート、サラマン
ドラよ、我のもとに集いて我を守る盾となり、敵を貫く剣となれ……ベギラマ!」
 エリスが高らかに詠唱する。彼女の手の平から目もくらむ閃光が放たれ、ウサギ2匹が
巻き込まれた。
 あっけなく炎上したアルミラージのそばをすり抜け、サミエルがカザーブで買ったとい
うチェーンクロスを巧みに操って、イモムシを薙ぎ払う。
 その間にロダムがまほうつかいにマホトーンをかけて呪文を封じ、オロオロしているソ
イツを、駆けつけたサミエルがすかさず斬り捨てた。
 なんとも鮮やかな連係プレー。初戦闘は、呆気ないほど簡単に終わってしまった。

 だが、問題はここからだ。
 僕の様子を見たロダムが慌てて駆け寄ってきた。
 サミエルも走ってきてくれたが、その彼の背中には、モンスターの体液がベッタリ付着
したチェーンクロスが背負われている。ほっぺたにも紫色の返り血が飛んでたり。
「ちょ、ごめ、やっぱダメ!」
 僕は急いでその場を離れ、適当な木の陰に回りこんで幹にすがりついた。
「うっ…うぇぇっ……ケホ、ゴホッ……」
 ああもう、僕吐いてばっかりいないか? 後世に「吐瀉王伝」などと伝わるのは激しく
抵抗があるんだが。

 でもねー。ここで行われたのは、あくまで「殺害行為」なワケだし。

 アルミラージは火だるまになって、しばらくのたうち回ってから動かなくなった。獣の
体毛と肉の焼ける臭いって、ほんと形容しがたいようなキツさがある。
 サミエルがキャタピラーを斬った時はグチャッと音がしたし、飛び散った体液と内臓器
官は全部ドス黒い紫で、それもしばらくピクピク動いていた(一部まだ動いてる)。
 まほうつかいなんて最悪、本当にモンスターかと疑いたくなるような、まるで人間みた
いな声で悲鳴を上げるんだもん。最期の瞬間、僕の方を見てなにか叫んでたけど、それが
「命乞いだ」と容易に察しがついた時点で、もう限界。

298 :Stage.4 [前編] 6/13 ◆IFDQ/RcGKI :2007/05/12(土) 13:54:07 ID:1V5Xv7vG0

「……どうぞ」
 エリスが遠慮がちに近づいてきて、水筒を差し出してくれた。小さく礼を言って受け取
り、胃酸くさい口内を洗い流す。それからなんとなくバツが悪くて、汚した場所にブーツ
の先で土をかけた。
「大丈夫ッスかー? なーに、最初は誰でもそうですよ」
 サミエルは予想通りといった様子で、カラカラ笑う。
「そうですよ。勇者様は実技の成績もとても優秀でいらしたんですから、場慣れさえすれ
ば、すぐに我々に追いつきますよ」
 ロダムも優しくほほえんでいる。今ちょっと気になるコトを言ってたが(あのバカがな
んだって?)、僕は問い返す気力もなく、素直にうなずいた。


 落ち着いたところで行軍再開。
 3人はまるで何事もなかったように、また談笑している。タフだなぁ。
 僕は彼らの少し後ろを歩きながら、腰のベルトに差してある「聖なるナイフ」の柄に、
そっと触れてみた。銅の剣なんて重量武器は、どう考えたって僕に使えるわけがないので
さっさと売り払ったし、鉄の槍や鎖鎌も同じ理由で却下。とりあえず扱えそうな武器とし
てロマリアで買っておいたのが、このナイフだ。
 次にモンスターが現れたときは、僕もこいつで戦うことになるのか――。

「ま、考えても仕方ないよな」
 殺せというなら殺すさ。たとえどんな手段を使っても、絶対にクリアしなきゃ。

 だって僕が戻れなかったら、アルスも帰ることができないから。
 あのおっちょこちょいのバカ勇者様は、逃げる先を完全に間違えてる。まだ物見遊山で
済んでいるうちにこちらへの退路を確保してあげないと、きっともっと傷つくことになる。

 いろいろ考えたけど、やっぱりね。
 あの人に、あんな現実を押しつけるわけにはいかない。

299 :Stage.4 [前編] 7/13 ◆IFDQ/RcGKI :2007/05/12(土) 13:58:14 ID:1V5Xv7vG0

 ----------------- Real-Side -----------------

「へ…っくしゅ!」
 うぃー。冷えてきたかな。もう陽も沈みかけているし。
 俺はちょっと迷ったが、ユリコを呼んでパソコンの後始末の仕方を教わった。このイン
ターネットってやつでだいたいのことは調べたし、図書室は次の機会にしよう。

「そんじゃ付き合ってくれてありがとね」
 ユリコが校門の前で手を振り、そのまま別の方角へ歩いていった。バスの中で、今日は
「ジュク」があるとかで、帰りは学校前で別れることを話していたのだ。
「ところでさーっ」
 少し離れてから、ユリコが振り返って叫んだ。同時にバスがやってくる。
「なんでまた名前で呼ぶことにしたの?」
「は?」
 バスのドアが開く。
「カノジョでもないのに名前で呼ぶのは変だからって、あんたが言い出したのに」
「え?」
「乗らないんですか?」バスの運転手が言うから「いや、乗ります!」思わず乗り込む。
「嬉しいけど……私はやっぱり『片岡』に戻してくれた方が――」
 ドアが締まって彼女の声が途切れ。
 走り出したバスが、片岡百合子を追い越していく。彼女はうつむいて歩いていて、顔は
見えなかった。
 
 ……カノジョじゃないって?

「おっかしーなー…」
 別に「甘酸っぱい青春な毎日!」を期待してこっち来たんじゃねえから(いや多少の憧
れはあるが)、ヤツの女関係なんざどうでもいい。
 しかし「間違う」ってのはどういうことだ? 「知らない」ことはあったとしても、こ
の俺が自発的に覚えようとしたことを記憶違いをすることは絶対ない。

300 :Stage.4 [前編] 8/13 ◆IFDQ/RcGKI :2007/05/12(土) 14:02:40 ID:1V5Xv7vG0

 いっぺんイチから情報を洗い直さなきゃダメか? タツミ本人に聞くのが手っ取り早い
が、ここぞとばかり、あることないこと吹き込まれそうだし。
「三津原ぁ?」
 いっそ頭でも打って、記憶喪失になったフリでもするか。でも下手に大怪我したら治せ
ないで死ぬしな。
「おい、三津原ってば」
 アホみたいな難病も治せるくせに、死んだらそれまでってのは中途半端な話だ。いや、
ベホマだのザオリクだの、究極の回復呪文が存在する向こうが極端なのか――。
「ミツハラタツミー」
「うお!?」
 いきなりポンと肩を叩かれて俺は飛び上がった。振り返ると、黒髪を短く刈り込んだ、
俺より10センチくらい背の高い少年が、俺の大げさな反応に苦笑している。
 肩にでかいバッグをひっかけて、青赤の派手な色合いの服を着ている。黒のごついヒモ
靴は泥だらけ。なんかのスポーツ系の、動きやすそうな格好だ。
 戸田和弘。こいつもヤツの同級生で友人……のはずだが、合ってるかはもはや疑問だ。

「三津原の私服見たの久々だな。お前でも休みに出歩くことあるんだ」
 また言われたよ。うちのプレイヤーはヒキコモリかと、俺はちょっとガックリきた。
「ユ……片岡に付き合わされてさ。携帯、教室に忘れたとかで」
「片岡が。あいつも健気だね。マジお前さ、なんで断ったのよ。付き合ってやれば?」
 なんとヤツの方がフッたのか!? 生意気な! って俺も人のこと言えねえか。
 俺の複雑な心情をよそに、カズヒロが屈託の無い笑顔を見せる。
「まあ三津原にとっちゃ、俺も片岡も子供っぽく見えんのかもしんねえけど。若いもんが
変に達観しててもつまんねえぞ? うん?」
 こいつは「夢」の通りにイイ友達らしい。俺は内心ホッとした。
「ほっとけよ。んでそっちは? あーと…『部活』?」
「ん、試合の帰りだけど。昨日言わなかったっけ?」
 こういう食い違いはこれからいくらでも出てくる。サラッと流すに限る。
「だっけか。すまん、最近どうも記憶力に自信なくてさぁ」
「え、マジで? ヤバイだろ、それ」
 途端に真面目な顔になるカズヒロ。俺そこまで変なこと言ったか?

301 :Stage.4 [前編] 9/13 ◆IFDQ/RcGKI :2007/05/12(土) 14:07:29 ID:1V5Xv7vG0

「まあ三津原なら問題ねえだろうけど……なんか困ってたら言えよ?」
 なんだかわからんが、騙してる手前、心配かけるのは悪い気がする。「大丈夫」と首を
振ったら、相手は一瞬だけ斜め下に視線を流した。
「じゃあ俺にも付き合えよ」
 言いながら「次、停まります」のボタンを押す。
「試合負けちまってさ。気晴らしにゲーセンでも行こうぜ」
 ゲーセン? 気晴らしというならカジノみたいな娯楽施設の一種か。
 それもよくわからんが、さっきからどうもモヤモヤした状態だからな。スッキリできる
場所なら大歓迎だ。俺は一も二もなく賛成して、カズヒロに続いてバスを降りた。


「なるほど、『Game Center』の略でゲーセンか……」
 カズヒロが案内した施設は、向こうのカジノとはまるっきり違っていた。
 雇われ楽士が奏でる景気の良い音楽の代わりに、所狭しと置かれた機械の一個一個が、
好き勝手に甲高い音を垂れ流している。大勢の人間がいるのに、ほとんど「人の声」がし
ない。多少騒いだところで機械の音が掻き消してしまっている。
 うるさいのに静かな、なんか不思議な場所だ。
「なにやる?」
 カズヒロに聞かれて俺は困った。そうだな。
「モンスターとか派手にやっつけるようなの、ないか?」
「へえ、意外。じゃあこれなんかいいよ」
 引っ張っていかれたのは、おどろおどろしい装飾がされたデッカイ画面の前だった。
 前に小さな操作台があって、その横にヒモに繋がれた、赤い「へ」の字型のものが2つ
ひっかけてある。
 カズヒロは慣れた手つきで操作台の穴にコインを投入した。画面に「プレイ人数」だの
「難易度」だのといった文字が浮かび、操作台のボタンで設定していく。
「まずは初心者向けにしとくな。一緒にやろうぜ。ほれ」
 への字型の1つを渡される。あ、前にヤツが観てたテレビに出てたのと形が似てる。
「これ、銃だよな。どーやんの?」
「普通に握りゃいいよ。んで、敵が出たら狙って撃つ!」

302 :Stage.4 [前編] 10/13 ◆IFDQ/RcGKI :2007/05/12(土) 14:11:53 ID:1V5Xv7vG0

「おお!? おおお!!」
 いきなり画面に腐った死体みたいなのが出てきたと思ったら、そいつがバンと弾けて飛
び散った。カズヒロがかっこつけて、銃の先端にフッと息を吹きかけてみせる。
「すげえっ。えーと、狙ってここを引くと……」
 腐った死体をやっつけた!
「おもしれー! うわ、なんかたくさん出てきたぞ。あれみんな敵か?」
「そうだ。左下に弾数が出てるだろ? 無くなったら銃を下に向けると補充されるぞ」
「え? あー撃てなくなった! んで下に向けると、うん増えた」
 ルールは単純だが、あれだけ苦労したゾンビ系モンスターが、こんなもんをカチッとや
るだけで吹っ飛んでいくのは爽快だ。
「っく〜、気ぃ持ちいい〜! なあなあ、これもっといっぱい出てこないか?」
「うまいじゃねえかオイw じゃあ難易度、思いっきり上げてやるよ」
 画面が薄暗くなって止まり、さっきEASYに設定した項目がVERY HARDに変わる。
「足引っ張んなよ、三津原?」
 カズヒロがちょっと意地悪く笑った。
 ふん、挑戦されたら受けて立つのが勇者だぜ。やったろうじゃん!


 ――なんて意気込んで臨んだのだが。
「おいカズぅ、お前また撃ち漏らしたぞ?」
「いや三津原がおかしいから! お前こそ本当に初めてかぁ!?」
 だって簡単なんだもん。前方向しか来ないのに全部の敵に出現予告あるし、弱点とか
見え見えだし。ちょっとのミスで死ぬような向こうのバトルと比べたら、なあ?
「んじゃそっちのも貸して」
 俺はカズヒロからもう1個の銃を取り上げた。画面をほとんど埋め尽くしている敵が、
俺の銃撃で次々と倒されていく。弾数の補充はいちいち腕を下げるより、輪っかの部分
に指を引っかけて銃をクルッと一回転させる方が楽だな。
 あーあ、向こうでもこんな風にやっつけられたら、俺も楽だったのに。
「マジかよ……全国レベルじゃん、このスコア」
 カズヒロが傍らでぼやいている。

303 :Stage.4 [前編] 11/13 ◆IFDQ/RcGKI :2007/05/12(土) 14:17:40 ID:1V5Xv7vG0

 なんとなーく白けた空気が流れた。その時だ。

 プルルルルルル! プルルルルルル!

 携帯? なんだよこんなときに。
 察したカズヒロが俺から銃を取り上げて、目だけで「出てこいよ」と促す。俺は店の入
り口まで移動した。携帯を開けた。みると表示は「TATSUMI」。
 へぇ、向こうからかかってくるとは珍しいこともあるもんだ。

「うーっす。話の途中でブチ切りするような相手に、なにかご用ですかぁ?」
『あの時はごめん。君も、時差のこと知らなかっただけだよね』
 およ? なんか素直じゃないか。まあ俺も時差のことは知っててかけたけどな。
『それで…さ、今回だけ、ナビ頼めないかな』
 聞き取りづらい小さな声で、ヤツは言った。
『その――ゾンビ系のモンスターの楽な倒し方って、ある?』

「ップハ!」
 やべえ、なにこのタイミングw 思わず吹き出した俺に、タツミが『なんだよ』とムッ
としたような声を出す。
「悪い、こっちのことだ。リビングデッド系の楽な倒し方だよな? 簡単だぜ」
『ホント? どんな!?』
「まずな、弾切れする前にリロードすること」(だはははは!)
『え、リロード?』
「あとはよーく弱点を狙って撃つことかな。参考になりましたでしょうか?w」
『…………』
 タツミは電話の向こうで黙ってしまった。ありゃ、反応無し?
 ああ、元ネタがわかんねえのか。ヒキコモリ(らしい)コイツが、外にある店のゲーム
を知らないのも仕方ない。
 いやもちろん俺もそこまで性格悪くねえし、ちゃんとナビってやるけどさ。
「なんてな、教えてやるからありがたく思え。有効なのは火炎系魔法だが、もうひとつ、
武器にあらかじめ聖水をかけておくと……」

304 :Stage.4 [前編] 12/13 ◆IFDQ/RcGKI :2007/05/12(土) 14:24:15 ID:1V5Xv7vG0

『もういい!!』

 いきなり怒鳴られて、俺はその場で固まってしまった。
「タ、タツミ?」
『自分でやるよ! 二度と頼らないから、そっちも勝手にすればいい!』
 同時にブツッと切られて「ツー、ツー」と数回鳴った後に、静かになる。
「もしかして……マジでヤバいのかな」
 なんかちょっと、泣きそうだった、ような。

 って、しかもお前、ゾンビ系の攻略法を聞いてきたってことは、
「嘘だろ、今ピラミッドかよ!!??」
 俺はてっきり、今頃はアリアハンを脱出したあたりかと踏んでいた。時差があるとしても
早すぎる。いったいヤツはどういうルートをとってんだ。
「すまん、急用ができたから帰るわ!」
 俺はカズヒロに向かって叫び、すぐ店外に走り出した。気のいい友人が追いかけてきてる
かどうかも、気にする余裕はなかった。
 ヘタをしたら俺もヤツもここで「死ぬ」。


 冒険を肩代わりさせるにあたり「ここはナビが必要だ」というポイントがいくつかある。
 ピラミッドもそのひとつだ。
 たぶん現実側からプレイしてる限りわからないだろうが、実はあそこ、とんでもない数の
トラップが仕掛けられている。回避策さえ知っていればなんともないんだが、普通は絶対に
わからないだろう。かなり複雑な謎解きだから誘導してやるにしても、俺もいったん家に戻っ
て、あっちの現状をモニタリングしながらでないと難しい。
 しかもあそこの地下は……頼むから落ちてくれるなよ、普通の神経じゃまず保たねえ。

305 :Stage.4 [前編] 13/13 ◆IFDQ/RcGKI :2007/05/12(土) 14:29:25 ID:1V5Xv7vG0

「ったく、でつながんねえんだよっ」
 何度もリダイアルしたが「電波の届かないところにおられるか……」の繰り返しだ。
 ゲーム内の時間の進み方は現実と比べると恐ろしく早いが、通話している間だけは同期す
るらしい(でなきゃ普通に会話できん)。つながってさえくれりゃ、こっちも同じ時間の流
れで動けるが、このままだと俺が家に帰る前にすべて終わってしまうかもしれない。
 さっきのバス亭に戻り、時刻表を確認する。
「10分後か」
 家はここからそんな遠くない。次の便を待つより走った方が早いか? 判断に迷う。

「待てよ三津原」
 その瞬間、グイっと乱暴に肩をつかまれた。
「だから急用だって……っと!」
 カズヒロじゃない、と思うと同時に、咄嗟に避けた耳元を相手の拳がかすめていった。背
後からいきなり殴りかかられたのだ。
「へえ、タッちゃんやるぅ」
 そいつの後ろで手を叩いているのが2人。どいつも見たことのない顔だ。
 俺と同い年くらいの3人組で、揃いの紺色の服を着ている。向こうじゃ王族が着るような
良質の生地だろうに、着こなしがだらしないせいで、ひどく俗っぽい印象を受ける。
「ビックリさしてごめんな? なんせ久々だったからさ〜」
 ニヤついた顔に見て取れるのは明らかな敵意。
「…………」
「ま、待てっつってんだろ!?」
 無言できびすを返した俺の前に、他の2人が回り込む。なに慌ててんだよ。

 ああああああめんどくせええ!!
 なんなのよコイツら! いや不良さんにカラまれちゃったみたいテヘ♪ってのはすぐ理解
したんだけどね、なんで今ここで湧くんだよ!
 時間ねえっつーのに、どうすっかな。黙らせるのは簡単だが、初日から騒ぎを起こすのも
どうよ。俺、静かで平穏な生活を望んでこっちに来たんですけど。
 それにしてもうちのプレイヤー、おとなしそうに見えて、実はロクに出歩けないほど敵が
多いのか? どうなってんだいったい。

306 :Stage.4 [前編] atgk ◆IFDQ/RcGKI :2007/05/12(土) 14:37:45 ID:1V5Xv7vG0
本日はここまでです。
なんか「名前が長すぎる」というエラーが出たので、タイトルはステージ番号にしました。
書いてみて初めてわかりましたが、いろんな規制があるんですね。

エリスのベギラマの詠唱、わかる人にはわかる懐かしネタです(ニヤリ)

307 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/05/12(土) 23:34:00 ID:p6Lfrp8y0
>>お二方

乙であります!

くそ、更新されてたら読まねぇわけにはいかんわな
詳しい感想書けなくてすまんが今回も面白かった〜
疲れが吹っ飛んだわ

次回もwktk

308 :俺、参上 ◆yeTK1cdmjo :2007/05/13(日) 00:14:15 ID:9in4XXbA0
「お兄ちゃん、起きて。朝だよ」
「う……う〜ん……あと5分……」
「急がないと8時になっちゃうよ」
「キスしてくれたら起きる」
「……ホントに起きてよ?」

 アホな一人遊びをやめて俺は目を開けた。
 俺には血の繋がらない義妹どころか妹そのものがいねえ。

「おはよう、マイサン」
 しっかりと目が覚めているムスコに呼びかける。股間に話しかける画もかなりシュールに違いない。
 だが許して欲しい。
 ムスコへの呼びかけは精通して以来の日課のようなものだ。
 息子とムスコの違いがわからない奴はぐぐれ。

「9時過ぎか」
 枕元に置いてあった携帯に手を伸ばして時間を確認。
 朝食にはちょっと遅いがホテル内のレストランにでも行くとしよう。
 顔を洗おうとベッドから下りても、ムスコは重力に身を委ねるのを由とせず、地面と平行の姿勢を保っている。
 いつか釘も打てるんじゃないだろうか。

「やらないけどな!」

 洗顔道具を取り出そうとしたが、あるべき場所に鞄がない。
 確かベッド横に置いといたはずなんだが。
 つーか――
「何もなくね?」

 ――騒がしい俺の様子を見に来た宿屋の親父によって、ここがラダトームの宿屋だということを知ることになったのは30分後のことだ。

追記
 さすがにムスコも萎えました。

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