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もし目が覚めたらそこがDQ世界の宿屋だったら八泊目

1 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/10/29(日) 16:15:16 ID:vi16nIqg0
ここは
「もし目が覚めた時にそこがDQ世界の宿屋だったら」
ということを想像して書き込むスレです
短編/長編小説形式、レポ形式、オリジナル、何でも歓迎です

・基本ですが「荒らしはスルー」です
・スレ進行が滞る事もあります、まったりと待ちましょう
・荒れそうな話題や続きそうな雑談は容量節約のため「避難所」を利用して下さい
・スレの性質上レス数が1000になる前に500KB制限で落ちやすいので、スレが470KBを超えたら次スレを立てて下さい
・混乱を防ぐため、書き手の方は名前欄にタイトル(もしくはコテハン)とトリップをつけて下さい
・物語の続きをアップする場合はアンカー(「>>(半角右アングルブラケット二つ)+半角数字(最後に投稿したレス番号)」)をつけると読み易くなります

前スレ
もし目が覚めたらそこがDQ世界の宿屋だったら七泊目
ttp://game10.2ch.net/test/read.cgi/ff/1148786712/

まとめサイト(書き手ごとのまとめ/過去ログ)
「もし目が覚めたら、そこがDQ世界の宿屋だったら」保管庫@2ch
ttp://ifstory.ifdef.jp/index.html

避難所「もし目が覚めたら、そこがDQ世界の宿屋だったら」(作品批評、雑談、連絡事項など)
ttp://corona.moo.jp/DQyadoya/bbs.cgi

201 :サンタローズ ◆u9VgpDS6fg :2006/11/18(土) 13:51:46 ID:Qd6pfb7F0

奥まったところには中瀬のような陸地が出来て
誰が作ったのか階段が設えてあった。
あの奥にはパパスがいるんだろう。
こっちじゃないな、と俺は思う。

スライムや、昆虫や
どらきち(早く仲間にしたい)とかを叩きながら道を戻る。
反対側の道が開けて
また左右に分かれる道が出来ていた。

ここは繋がってるはずだからととりあえず右へ曲がると
ぐるりと迂回した向こうに
木箱がひとつあるのが見えた。
期待を込めて駆け寄る。中身は――盾だ。

皮をなめして貼り付けただけのような
粗末な盾だったが俺にはありがたかった。
これで随分と楽になるだろう。

意気揚々と進んでいくと、また分かれ道に出た。
盾を手に入れた安心感から
俺は何も考えずに左へ進む。行き止まり。

202 :サンタローズ ◆u9VgpDS6fg :2006/11/18(土) 13:52:38 ID:Qd6pfb7F0

戻ろうと振り向いた時
今までとは違う低い鳴き声が洞窟に響いた。
反響から一瞬。相手の居所がわからない。

慌てて見回した俺の目の前。
岩陰から不意にそいつは姿を現した。

丸々として、異様な毛を蓄えた外観。
手にした大きなハンマー。

出た。おおきづちだ。
こいつの一撃がやばいのはわかっていた。
慎重に少しずつ後ずさる。
背後に、今後にしたばかりの、壁。

そいつがぐう、と低い鳴き声をあげると
陰からもう二匹のおおきづちが姿を現した。
追い詰められた。やばい。

盾に安心して回復を怠っていたことをはたと思い出す。
左腕の痛みが不安と同じ速度で体を巡っていく。

203 :サンタローズ ◆u9VgpDS6fg :2006/11/18(土) 13:53:38 ID:Qd6pfb7F0

薬草を取り出そうとした刹那
一匹がハンマーを振り上げた。
つんのめる様に壁沿いに身をかわす。
やつら、やっぱり動きは遅い。これなら避けられる。

もう一匹の攻撃を盾で受け止めると
相手は芯を外したようで跳ね返って転がった。
痛んでいた腕が更にじわりと熱を持つが
まだ致命傷には遠い。

右手の棒で一匹の動きを捉え、叩きつける。
ぐう、と一声鳴いてそいつは後ずさったが
相手にも致命傷を与えることは出来なかった。
敵の目に、怒りの色が滲む。

ちっと舌打ちした次の瞬間
背中に重い衝撃を受けて俺はよろめいた。
体を捻ってどうにか尻をつく。
攻撃に気を取られて、背後への注意が疎かになっていた。
肩口がひどく痛む。痛恨だ。くそ。

薬草を取り出そうと腰袋に手を突っ込んだ時
最後の一匹がハンマーを振り上げるのが見えた。
咄嗟に両手を目の前に掲げるが、間に合わなかった。

視界が暗転する。

204 : ◆u9VgpDS6fg :2006/11/18(土) 13:55:35 ID:Qd6pfb7F0
今回ここまでで。
多分後程また投下しに来ます

最近時間が出来るとPCの前に・・・

205 :サンタローズ ◆u9VgpDS6fg :2006/11/18(土) 18:59:23 ID:Qd6pfb7F0

『ぼうや。ぼうや、気がついた?』
涼やかな女の声に、俺は目を開けた。
様々な色が眩しく俺の上に降りかかってきて、眉間に皺を寄せる。

『ああ、よかった。気がついたのね。神父様』
女が呼びかけると、隣で何か呟き続けていた男が
声を止めて組んでいた手を解いた。

『洞窟の奥で倒れていたんですって。
少しやんちゃが過ぎるんじゃないかしら』
身を起こすと、女が優しくそれを支えてくれた。
教会の中だとすぐに解った。

ああ俺死んだんだな、と
まだぼんやりと霞む頭の中で思う。

なんかの映画で見たのと同じ
色ガラスを組み合わせた天井から光が差し込み
白い床に不思議な模様を描いている。

紺色の修道服姿のシスターと
刺繍が施された真っ白い衣服の男。これが神父様、か。

206 :サンタローズ ◆u9VgpDS6fg :2006/11/18(土) 19:00:38 ID:Qd6pfb7F0

『彼が見つけて運んできてくださったのよ』
示す方向に目をやると
少し離れた椅子に赤い鎧の男が心配そうに腰掛けていた。

『戻るのが遅いんで、探しにいったんだよ。
まさかあんな所まで降りているとはな』
約束を破ったな、と男は微笑んで見せる。

ぺこりと頭を下げると
男は立ち上がって真新しい
小さな布袋を俺の膝の上に置いた。
中から金属のこすれるような音がする。

中を覗くと何枚かのコインが
色ガラスを反射して虹色に光っていた。

『袋が破れていてな。出来る限り拾ったが・・・
足りていなくても恨まんでくれ』
『あら、助けていただいて恨むなんて』
少しばつが悪そうな鎧の男に、シスターが笑う。

鎧の男とシスターを見比べながら
俺はありがとう、と口にした。
シスターの頬がほころび、
男が照れ臭そうに兜の上から頭をさする。

207 :サンタローズ ◆u9VgpDS6fg :2006/11/18(土) 19:02:00 ID:Qd6pfb7F0

『お父様とサンチョ様には内緒にしておいてあげる』
というシスターにもう一度礼を言って
俺は鎧の男と連れ立って教会を後にした。

日はもう傾きかけ
次第に橙色に染まっていく太陽が
点在する家屋を照らしている。

『ぼうや、もう無茶をするんじゃないぞ』
兜の奥の瞳を少しだけ細めて
男は言いながら、腰を落とした。
真っ直ぐに真剣な眼差しが、俺の両目を捉える。

『正直、ぼうやを見くびっていた。ぼうやは勇敢な子だ。
でもな、勇敢なのと、無茶をするのは少し違う。わかるな?』
俺がはい、と頷くと、男は満足げに俺の頭を撫で
『さて仕事に戻るか』と踵を返した。

俺はもう一度頭を下げると
夕暮れ色に染まっていく空気の中
帰るべき我が家へと歩き出した。

208 : ◆u9VgpDS6fg :2006/11/18(土) 19:03:08 ID:Qd6pfb7F0
今度こそここまでで
ありがとうございます。

ではまた。

209 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/11/18(土) 20:52:26 ID:0vxzak7lO
乙ー
まだ早いけど、未来の自分に会うトコ期待w

210 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/11/19(日) 08:05:30 ID:2nGqguXC0
俺昔あえて未来の自分に話しかけないでシナリオ進めたことが

211 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/11/19(日) 09:01:12 ID:ZYhvrXiZ0
>>210
あるあ…ねーよwww
>>208
やられた後のゴールド半減仕様は鬼だと思う。
>夕暮れ色に染まっていく空気の中
>帰るべき我が家へと歩き出した。
ってのが切ないなー。
この先サンが向かうのは孤独で暗い時代だって事を感じざるをえない。

212 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/11/19(日) 13:53:28 ID:RhagEX+f0
乙です

>>210
俺もあるよ
特に何も変わらんかったよね

213 :タカハシ ◆2yD2HI9qc. :2006/11/19(日) 13:54:30 ID:nekJYNrJ0
ここまでまとめました
http://ifstory.ifdef.jp/index.html

214 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/11/19(日) 17:32:28 ID:PQPRQHqO0
乙!
このスレはいいスレですね

215 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/11/19(日) 19:03:05 ID:SIMjOgc7O
活気が出て来たかな

216 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/11/20(月) 00:18:01 ID:YsR8SfZH0
タカハシ氏乙です

217 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/11/21(火) 11:08:11 ID:Om0b//7cO
保守

218 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/11/22(水) 12:04:02 ID:9tjMcrzl0
ほす

219 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/11/23(木) 09:37:58 ID:OVvdQ4iyO
保守

220 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/11/24(金) 12:14:01 ID:ZgA8Dc/eO
保守

221 : ◆u9VgpDS6fg :2006/11/24(金) 17:31:27 ID:4XSjwTS80
>>209
感謝です
結構先になりそうですね
時間かけすぎですかね・・

>>210
>>212
あるあるw

>>211
厳しいですよね
そんな時に限ってセーブしてなかったり
そのまま泣く泣く進めたり

孤独で暗い未来を
自分がどんな風に描けるかが不安ですが
頑張ります

>>タカハシさん
乙です
いつもありがとうございます

>>207続きを少しだけ

222 : ◆u9VgpDS6fg :2006/11/24(金) 17:32:17 ID:4XSjwTS80

リセットしてえええ
と思ったが無理な話だった。

大体にして、この世界で
セーブなんてどうしたら良いのか解らない。
教会で『セーブひとつ』『リロードひとつ』と言ったら
聞き入れてもらえるんだろうか。
念のため明日試してみようかな。
首をかしげながら、俺はその日の床についた。

家での動きは昨日と殆ど変わらなかった。
サンチョの腕に抱かれると心地好い睡魔が押し寄せ
目を覚ますとパパスが
『仕事が片付かん』と言いながら出て行く。
見送るサンチョとともに食事をし、俺は
「今日も探検」と言って家を出た。

朝の日差しは眩しかった。
まだ上りかけている太陽が
色鮮やかに緑の木々を染め上げている。

今日の俺は昨日とは違う。
呟きながら俺は迷わず武器屋の方へ向かった。
袋の中の小銭と相談しながら、品揃えを眺める。

223 : ◆u9VgpDS6fg :2006/11/24(金) 17:33:25 ID:4XSjwTS80

武器屋の店主は簡単に
それぞれの武器の使い方を教えてくれた。
中から、動物の骨を削っただけと言う
長めのナイフのようなものを選ぶ。

なけなしの小銭をはたくと
奥からおかみさんが顔を出してこちらに笑顔を向けた。

『随分小さいお客様ねえ』
ころころと笑うとちょっと待って、と部屋の中に取って返し、
『ずっとタンスにしまってあったんだけど
うちじゃ使わないから。おまけね』
そう言って俺に薬草をひとつくれた。
礼を言って武器屋を出る。

新しい武器を何度か素振りすると
なんとなく自分の手に馴染んだような気がした。

洞窟に入る前に教会に寄る。
シスターに改めて昨日の礼を言い
神父の下へ向かった。
「お祈りをしたいんですけど」
俺が言うと神父は穏やかに目を細めて
祈りの言葉を口にする。

セーブ音を期待した。
だが、何も起こらなかった。

224 : ◆u9VgpDS6fg :2006/11/24(金) 17:34:48 ID:4XSjwTS80

洞窟の入り口まで行くと
赤い鎧の男が『また来たのか』と笑った。
買ったばかりの武器を見せ
無茶をしないこと、とだけ約束をして、
俺は二度目の冒険に出た。

昨日よりも明らかに体が軽かった。
受ける衝撃も随分弱く感じる。

寄り道はせず、真っ直ぐに地下へ降り
更に階段を下りようとしたところで、
また三匹のおおきづちに出くわした。

体力は問題ない。先制して新たな武器を振り下ろす。
その衝撃に、芯を捉えた事が自分でも解った。
おおきく体を仰け反らせて、一匹目が動かなくなる。

残りの二匹に動揺が走るのが解った。
足を止めず、攻撃をかわす。
攻撃。回避。防御。

一発痛恨を食らったが、それだけだった。
二匹目、三匹目が倒れ、俺はほっと息をついた。

225 : ◆u9VgpDS6fg :2006/11/24(金) 17:35:52 ID:4XSjwTS80

その時。

不意に頭の中に何語ともつかない声が浮いた。
辺りを見回す。誰も居ない。
話しかけられたような感じもない。

俺の頭に浮いたそれは、すぐに形を失い
今はもう静寂が辺りを包んでいる。

あ、と思って俺はもう一度意識を集中してみた。
回復、回復、ホイミ。

また、何語ともつかない声が脳を支配し、
俺は自分の意思ではなく喉からそれを発していた。
丁度今、おおきづちにやられたばかりの傷みが
空気に溶けるように消えていく。

レベルが上がった。
それは初めての実感だった。

三匹の亡骸を背に、俺は階段を下った。

226 : ◆u9VgpDS6fg :2006/11/24(金) 17:39:44 ID:4XSjwTS80
タイトル入れ忘れたー
短いですが本日ここまでです
ありがとうございます

皆様にお伺いしたいんですが
短いのを頻繁に投下するより
半月ペースとかで長く書き込んだほうが
読み易いでしょうか?

227 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/11/24(金) 20:46:47 ID:YhDYqvFeO
職人様の好みでいいと思います

228 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/11/24(金) 21:47:26 ID:3RYmI6bbO
あんま短くても、長くてもなぁ
一区切り投下がいいんじゃないかと
今日のだったらもう少し読みたいよね

229 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/11/25(土) 00:45:04 ID:oXnpkvCe0
>>226
投下について、>>228に同意です。一区切り毎の投下が読みやすいと思います。

LVうpとホイミゲトオメです
魔法を会得するくだりがイイ!魔法って摩訶不思議だよなーと改めて思いました。
これで冒険がちょっと楽になるかなw

230 :名無し一般人 ◆CT1nwypRBY :2006/11/25(土) 02:19:50 ID:AmTY/1Q5O

 〜序章〜 『全ての始まりは、常に唐突に』


 見始めたことをさっそく後悔させてくれるテレビ番組の占いコーナー。
 愚痴るのもなんだが、俺が見るときは決まって結果が同じ気がする。
 「さて、今日最も運勢が悪いのは〜」
 こういうのって、最初から見てたら11位までで充分だよなぁ。
 ま、分かりきってても見ちゃうんだけど。
 「ごめんなさ〜い、天秤座のあなたで〜す」
 はいはい。そんじゃ今日はどんだけ悪いことが起きるのかな、っと。
 すでに一人っきりの誕生日迎えてるってのに。我ながら泣けてくるぜ。
 枕元のリモコンを掴んでテレビに向ける。
 「あなたは今日、とても大切な決断を迫られるでしょう。ラッキープレイスは近所の公園――」
 テレビを途中で消して、俺はリモコンをソファーへと投げつけた。
 リモコンは一度だけ弾み、ソファーの隅、ぎりぎりで動きを止めた。
 敷きっぱなしの布団に寝転び、顔を埋める。

231 :名無し一般人 ◆CT1nwypRBY :2006/11/25(土) 02:23:50 ID:AmTY/1Q5O
 「はぁ、つまんなー」
 誕生日の息子を残して旅行に行った両親を、恨むわけはない。行くのを断ったのは自分自身だ。
 懸賞で当たった期間限定の旅行だし、俺の誕生日と被ってしまったのも両親のせいではない。
 そもそも高校生にもなって両親と旅行に行くなんてことを、俺はとても気恥ずかしく思ったし。
 誕生日を祝ってもらうなんて、よくよく考えれば馬鹿馬鹿しい。というかもはや気持ち悪い。
 第一、最初は両親がいない間に普段できないようなことができると、胸を躍らせていたはずだ。

 それだってのに。

 いざとなったらやりたいことなんてなかった。
 「考えてみりゃ、そりゃそーか・・・・・・」
 俺にはこれといった願望も欲望も、いわゆる趣味すらないのだから。
 しかし、それならせめて誕生日らしく友達とどっか遊びに行けよと、偽物の自分は促してくる。
 でも友達に迷惑かけたくないしな、なんて。変に気遣う自分が本物で。

232 :名無し一般人 ◆CT1nwypRBY :2006/11/25(土) 02:27:49 ID:AmTY/1Q5O

 ――あ〜あ、本当に俺って何なんだろう?

 無意味な人生を歩んでる人なんていないって、ヒットソングは唄うけど、本当にそうか?
 今こうしてる俺にも何か意味があるのか?
 「――なんてな」
 くだらねー、ほんと。
 不毛で、そのうえ余りにも飛躍した問い掛けを俺は自嘲して交わす。
 俯せから仰向けの状態に転がり、深く息を吐き出して。また吸い込む。
 新鮮な空気が、俺の身体を満たしてゆく。
 「せめて外にでも出掛けてみるか・・・・・・」
 なんでか、そう思った。
 言いようのない感情に締め付けられた身体を無理矢理に持ち上げる。
 でも、何処へ行こう? 別にしたいことがあるわけじゃないからな。
 しばらく考えて、ふとテレビの占いを思い出す。運勢最悪。近所の公園がラッキープレイス。
 せっかくだし――久しぶりに行ってみる、か?
 俺はゆっくりと布団から起き上がった。

233 :名無し一般人 ◆CT1nwypRBY :2006/11/25(土) 02:31:54 ID:AmTY/1Q5O
 思い立ったが吉日って言葉もあるもんで、俺はさっそく準備を始めた。
 パジャマを脱ぎ、部屋のタンスから緑のTシャツと紺色のジーパンを引っ張り出す。
 別に洒落た服を着ていく必要はない。ただ気分転換に行くだけだ。
 顔を洗って、歯を磨き、寝癖でぶっ飛んだ髪の毛をブラシとスプレーで強引に撫でつける。
 鍵と、携帯に財布。全部をポケットに詰めたら、これで準備は完了。
 「いってきます」
 惚れ惚れするスピードで準備を済ませ、俺はマンションをあとにした。

 公園まではマンションから徒歩たった2分。インスタントラーメンもびっくりの超近所だ。
 しかもやたら広い。なんか偉そうな肩書きがついた公園で、休日には結構人が集まったりする。
 ああ、そういえば一時期そのせいでゴミ問題が騒がれたりもしたっけ。
 なんてことを思い出しつつ公園に入ると、案の定いたるところに人の群れが見えた。
 中にはレジャーシートを持ってきて、ピクニック気分の家族までいる。

234 :名無し一般人 ◆CT1nwypRBY :2006/11/25(土) 02:36:52 ID:AmTY/1Q5O
 「すげー晴れてんな」
 木陰のベンチに腰を降ろして、秋晴れの青空をすーっと見上げる。
 雲量が1までなら快晴だったっけか。まぁ間違いなく今日は快晴だ。
 あー、ここに来たのも、随分久しぶりだな。
 や、正確には通学の通り道にしているから、ほぼ毎日のように通り過ぎちゃいるか・・・・・・。

 そのまま呆けていると、アキアカネが視線の上でホバリングを始めた。
 すいすいと、泳ぐように空をあちこち飛び回る。

 ――ああ! こんな風に空を飛べたらどんなに気持ちいいだろう!

 なんてこと別段考えたりせず、なんの感慨もなしに俺は見上げていた。
 すると、前触れもなく唐突に、アキアカネは地面に落ちた。まったくの不意打ちだった。
 着陸というより、むしろ墜落に近い。ほぼ垂直落下だ。
 慌ててベンチから離れ、そこにしゃがみ込んで地面に目を見張る。
 アキアカネは地面に伏したまま、ぴくりとも動こうとしない。

235 :名無し一般人 ◆CT1nwypRBY :2006/11/25(土) 02:43:23 ID:AmTY/1Q5O
 「おい、なんだ? 死んじまった、のか?」
 いや、聞いても意味ねぇよな。不っ思議ー。
 「いたいた。ここにも動けるやつがよぉ!」
 ただでさえ聞こえるはずないと疑わなかった返事は、加えてさらに俺の思いがけない方向から聞こえてきた。
 瞬間、強烈に頭を締め付けられるような感覚が全神経を凍らせる。
 続けざま、視界が強制的に引き上げられる。
 なんなのか、全く分からなかった。
 状況を飲み込むのに、時間がかかった。いや、最後まで、飲み込むことは出来なかった。
 は、当たり前だ。こんな光景いったい誰が信じられる? なぁ?

 有り得ねぇよな。

 ありえないって。

 絶対、ありえない。

 「あー、どうして人間てのはいつ見ても旨そうなんだろうなあぁ」
 鷲掴みにされて持ち上げられた先に表れたのは、顔中毛むくじゃらの、猪みたいな化け物だった――。

236 :名無し一般人 ◆CT1nwypRBY :2006/11/25(土) 02:51:11 ID:AmTY/1Q5O
 「う・・・・・・あ・・・・・・」
 なんだよお前!?
 そう叫んだつもりだったが、声は出なかった。
 喉がカラカラに渇いて、砂漠化していく。
 「ぐふ」
 化け物は鼻を鳴らすと、黄ばんだ前歯をちらつかせながら、べろりと舌なめずりをする。
 はは、なんだ。これ。
 「食っちまいてぇなぁ。こんだけいるとよぉ」
 植え付けられる絶対的な死へのイメージ。
 それに伴う、痛覚への道程。
 覆いかぶさる恐怖。
 撥ね退けられない威圧感。
 それが本能かのごとく宙吊りの足ががくがくと大きく震えだす。
 「べつに一匹ぐらい。いいよなぁ? なぁ?」
 嫌だ。嫌だ。嫌だ。こんなのって、ねぇだろ。
 猪は見開いた眼をぎょろつかせ、俺を覗く。
 「なんて、な!」
 腹部に響く鈍い痛み。爆発しそうな激痛で、意識の火が一気に持ち去られ、掻き消されていく。
 「あぐっ・・・・・・あ」
 んだよ。俺がいったい何したってんだ・・・・・・。
 「調子いいぜ。いーもんが期待できそうだ!」
 猪の化け物は、満足そうに、俺を鷲掴みにしている左手へ力を入れる。

237 :名無し一般人 ◆CT1nwypRBY :2006/11/25(土) 02:54:05 ID:AmTY/1Q5O



 マッチの火みたいに意識がちらつく中で、俺は一つだけ気付いた。

 誰も動いていない。

 公園の家族、散歩に連れてこられた犬。多分、あのアキアカネも。

 動いているのは俺と、この化け物だけ。

 二度目の襲撃。恐らく命までも掠っていく。

 そんなことを思って。

 俺は堪らずブラックアウトした――――。

238 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/11/25(土) 02:59:00 ID:HePaIGAmO
わーい新作ktkr支援

239 :名無し一般人 ◆CT1nwypRBY :2006/11/25(土) 03:02:15 ID:AmTY/1Q5O
 その暗中の世界で。
 化け物の手はぐんぐん伸びてくる。逃げても逃げても、俺を追う。
 その先にある、下卑た快感を得るが如く。
 やめろ、来るな。誰か、助けてくれ。誰か!
 走っても走っても、腕はぴたりとついてくる。まるで俺の身体の一部と化したかのように。
 来るな、来るな!
 ついにその腕が、俺の頭を再び捕らえる。あの時と同じ威圧感が、簡単に俺の身動きを封じる。
 あっさりと恐怖の波に飲まれた俺は、もはや足掻くことさえ叶わない。
 醜悪な笑みを浮かべて、化け物はその強靭な筋肉へと力を込める。
 やめてくれ!
 食い込む爪が眼球を、噛み付く牙が頭蓋を。

 俺を、粉砕していく。
 「うわあぁぁっ!」
 跳ね飛ばされたように身体を起こす。伴って、腹部に痛みが走った。
 「あっ・・・・・・ツぅ」
 「あ、起きた」
 見知らぬ声。
 それに反応して俺は声の方向へ顔を向ける。
 そこにいたのは、漆黒のベールのごとき黒髪を纏った、見知らぬ少女だった。

240 :名無し一般人 ◆CT1nwypRBY :2006/11/25(土) 03:07:47 ID:AmTY/1Q5O
 「大丈夫? 随分と、うなされてたけど?」
 うなされて? ああ、そうか。そうだ。
 ん? 待て。俺は?
 俺は生きてるのか?
 汗ばんだ手の平を反射的にTシャツで拭う。
 手は、ちゃんとある。目も大丈夫だ。はっきりと見える。足は? 他と変わらず汗でびっしょりしてるけど、問題ない。
 夢だった? いや、今のが夢だっただけか。
 いまだズクズク刺すように腹が痛む。リアルなそれは疑う余地もない。
 しかし、とにかく。それ以外は五体満足だ。目立った外傷は無い。
 生きてる。生きてるんだ。
 徐々に自分が落ち着いていくのが分かる。頭にあった霧だの靄だのの不鮮明が晴れていく。
 同時に浮かび上がってくる数々の疑問達。

 化け物は? あれはいったいなんなんだ?
 此処は? いったい何処の部屋だ? さっきの公園の近くなのか?
 君は誰? 俺を助けてくれたのはあんたか? それとも他の誰か?

 ――て、このまま黙ってても仕方ないか――。

 「あの」
 「ちょっと待って。聞きたいことは山ほどあるんだろうけど」
 俺が話しかけようとした矢先、彼女は手を突き出してそれを制止した。

241 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/11/25(土) 03:14:07 ID:HePaIGAmO
wktk( ^ω^)

242 :名無し一般人 ◆CT1nwypRBY :2006/11/25(土) 03:15:40 ID:AmTY/1Q5O
 「まず、こっちから話すから。あなたはとりあえず黙って聞いてて」
 黒髪の少女は人差し指をぴんと立てる。
 「あ、あぁ・・・・・・」
 俺が面喰らって思わず頷くと、彼女も頷く。
 そして、微笑む。
 「私達がいるのは、私達の世界じゃない」
 なんだって?
 「あなたは、連れてこられたの。多分、ある程度選別されて」
 「ちょ、ちょっと待ってくれ。話の流れが」
 思わず口を挟む。なにを言ってる? 彼女は。
 黒髪の少女は、続けて手の平を上に返した。



 「つまり、ようこそ異世界へ――ってことよ」

243 :名無し一般人 ◆CT1nwypRBY :2006/11/25(土) 03:30:09 ID:AmTY/1Q5O
初めまして。それと、今回はここまでです。
支援ありがとうございました。

244 :タカハシ ◆2yD2HI9qc. :2006/11/25(土) 05:43:37 ID:Rtgv94QN0
>>226,>>243
お疲れ様です

ここまでまとめました
http://ifstory.ifdef.jp/index.html

245 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/11/25(土) 09:22:49 ID:oXnpkvCe0
>>243
新作キター!どこの世界だろう…続き期待。
>>244
タカハシ氏乙です。

246 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/11/25(土) 18:08:32 ID:5vJND2XK0
もっと面白いのを書け。

247 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/11/25(土) 23:13:10 ID:b9gLTo+90
>>246
見本をよろしく

248 :暇潰し ◆ODmtHj3GLQ :2006/11/26(日) 02:24:21 ID:WV+yG3so0
>>196
楽しんでもらえて嬉しいです
天井に頭ぶつけまくったら賢さ下がりそうな気がしますねw

>>名無し一般人さん
初めまして〜よろしくです
しかしいいところでww
続きwktk

ではでは>>182の続きだお
だらだら投下します

249 :暇潰し ◆ODmtHj3GLQ :2006/11/26(日) 02:28:34 ID:WV+yG3so0
――――――――――――――――――2――――――――――――――――――――
  「……あ?」

覚醒。
どうやらいつの間にか寝てしまったようだった。
シーツに包まりもせず、ベッドに身を投げるままに眠ったのがいけなかった。
体温の低下が感じられて、少し寒い。
ベッドの淵に腰掛けるようにして起き上がり、ジュードはしばらくボーっとする。

  (フィリアは……?)

時間的にもうすぐ夕飯の時間のようだが、まだ帰って来てないようだ。
まぁモンスターに襲われて大ピンチって事は無いだろうとジュードは思う。
ここ最近のフィリアは攻撃呪文の威力が上がっているようだったし。
ただ探しに行くのがめんどくさいだけでは無い。
もちろん仲間としての信頼である。

  (まぁメシ食っても帰って来なかったら、探しに行くかな)

一応フィリアが帰って来た時の意思表示の為に、剣をベッドに立てかけてから宿屋を出る。
今はいないが必ず帰る、という意思表示だ。
これで食事中にフィリアが帰って来てすれ違いになっても、逆に探される事にはならないだろう。
外に出ると、昼間に増して寒さが身にしみた。
アリアハンは年中を通して比較的暖かい気候だからなぁ。
小走りして、村の中のメシ屋に入る。
こんな田舎でも飯時となれば、それなりに騒がしいものだ。
ワハハだガハハだと男達のテンションの高さがうかがえる。
ちょうど窓際に一つ席が空いているのを見つけ、店の奴に注文をしてから座る。
円卓ではなく、壁に備え付けられたテーブルなので喧騒を背後に浴びる事になるが、
それもうざったいので意識は窓の外の月に集中させる事にした。
円の形をほとんど残さないような、眉よりも細い二日月が望める。

250 :暇潰し ◆ODmtHj3GLQ :2006/11/26(日) 02:35:48 ID:WV+yG3so0
  「はいよ、待たせたな」

ドン、と目の前に大皿と飲み物が置かれた。
結局昼も抜いてしまったので、何とも美味そうだ。
美味いと言えば、いつか真理奈が言っていたカップラーメンというものを食べてみたいなと思う。
お湯入れるだけで食事が出来るなんて、どんな料理なのかいまいち想像出来ないが、美味いらしい。

  (そう言えば、久し振りに1人で食べるな)

いつもなら真理奈が何だかんだとうるさいが、この状況に比べれば大分マシだなと改める。

  「……」

黙々と食事をするのはこんなにもつまらないものだったかとさえ思えてきた。
昔はそうな風に感じた事も無かったはずだが……
昼間も話したが、いつの間にかこの生活にも慣れてしまったなと実感する。
4人での生活に。
何の因果かは知らないが、この4人で旅をしてるのを不思議なものだと思う。
同じアリアハンにいたのに顔も知らなかった2人と、もう1人は違う世界の人だってんだから。

  (あ、もう1匹いたか。スライムが)

そんな事言うとブルーが怒るぞ?
けどスライムと旅するなんて貴重な体験かもな。
まぁ有意義かどうかは別にして。

  「ふぅ……」

一通り食べ終わって、飲み物を口にする。
言いもしないのに、運ばれてきたのは酒だった。

251 :暇潰し ◆ODmtHj3GLQ :2006/11/26(日) 02:39:20 ID:WV+yG3so0
フルーツベースなので甘いのだが、暖かくしてあるので口当たりが良く感じる。
ふぅ、と吐く息が白くなった。
両手でコップを持ち、再び月を見上げる。
人が太陽に希望を見るなら、月には願望を見るのだ。
だが二日月と呼ばれる今宵の月は願望と言うにはあまりにもか細く、
とても望みを聞いてくれそうにない。

  (夢か……久し振りに嫌な夢だったなぁ……
   夢にまで喜怒哀楽なくてもいいんじゃないか?
   どうせ虚構なら楽しませろよ)

剣の鞘を撫でようとして、置いてきた事を思い出す。
触るのはいつものクセだ。

  (商人の町で思い出したからか……?)

思い出すきっかけとなった2人の人物。
プレナと兵士長。
2人共自分の信念に基づいて戦った者だ。
1人は最後まで国の為に、1人は最後まで人の為に。
その行き着くところはまったく正反対だったが、強さを持っていた。
そしてジュードはプレナ側に加担した。
兵士長はその強さの使い方を間違えていると感じたからだ。
そう考えれると、プレナも兄貴も同じだったな、と思う。
自分よりも他人を、1人から大勢までを守りたがったものだ。
しかも、プレナは敵味方の枠を超えて守ろうとした。
そんな姿勢は嫌いだったはずなんだけどな……

  「だった、か……」


252 :暇潰し ◆ODmtHj3GLQ :2006/11/26(日) 02:42:35 ID:WV+yG3so0
それは無意識の自覚なのだろうか。
嫌いだった。
少なくともそう思っていたものに、実は影響されていたなんて。

  "ありがとう。本当に感謝してるわ。
   これからはあなたの守りたいものを守ってあげてね"

ふと、商人の町を出航間際にプレナと交わした会話を思い出す。

  (俺の守りたいもの、か)

戦士は一番前で戦う者であり、仲間を守る者でもある。
だから本来であれば戦士というだけで、何かを守っているはず。
でもプレナの言う意味は、それとは少し違うような気がする。
しいて言うなら、ジュードが本当に守りたいものを見つけて欲しい。
そんな感じだろうか。
どうしてこの旅に同行する事にしたのか。
どうして戦士を志したのか。
実は最近のジュードはその意味を確かには見出せなくなっていた。
最初はあったのだが、改めて考えるとちっぽけなものに思えてくる。
商人の町での戦闘の後からはそれが顕著に現れた。
たぶん信念を持つ事の真の強さを実感したからだろう。

  (真理奈の次は、俺がそれを見つける番かな)

その願いは、月まで届くのだろうか……
二日月は静かにその光を放ち続けていた。

253 :暇潰し ◆ODmtHj3GLQ :2006/11/26(日) 02:46:35 ID:WV+yG3so0
あ…また投稿し忘れた…
すいません…
>>249のジュードが起きる前に↓の文が入ります…


〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜
  「お前の守りたいものは何だ?」

兄貴のその口グセを思い出す度に、その剣の重さに沈んでしまいそうになる。
両足に力を入れ、膝を掴んで踏ん張り、めいいっぱい叫ぶ。

  「兄貴がそれを守って何になった!!」

それを聞いた兄貴は、男の俺が見とれてしまう程に、それはもう誇らしげに笑う。
そして手を頭の高さくらいに挙げ、俺にサヨナラの合図を送る。
背後の月の光に向かって歩いて行こうとする兄貴。
そこまで行かなくてはいけない衝動に駆られる。
が、剣が枷となり前に進む事が出来ない。
どんどんと重たくなるそれを捨ててしまおうと柄に手をかけ、
鞘から引き抜くと、キレイな刀身がキラキラと輝きを放っていた。
何と心が癒される光だろうか。
その光の奥に誰かがいる……
顔は分からないが、笑いかけられているようだ。
何…?
何を…
何を伝えたい……
やがて剣の輝きが月光と合わさり、全てを包み込んでこの世界は終わる。
〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜

254 :暇潰し ◆ODmtHj3GLQ :2006/11/26(日) 02:49:58 ID:WV+yG3so0
  「お、いつ帰って来たんだ? 今探しに行こうかと思ってたんだけど」
  「ちょっと前に」

食事を終えたジュードが部屋へ帰ると、ベッドに腰掛けたフィリアが一番最初に目に入った。

  「ふ〜ん…メシは?」

コクリとフィリア。

  「食ったのかよ。まだかと思って用意したんだけどな」

テーブルに皮の袋が置かれる。
さっきの食堂でお持ち帰りしたのかな。

  「……」

フィリアはそれを手にとってみる。
まだ暖かい。

  「んで、どこまで散歩行ってたんだ?」

袋からジュードへと目を移す。
着替えの為にその視線には気付かないが。

  「……エルフに会ってた」

服の擦れる音と重なり合ったので、聞き間違いかと思う。
でも確かにエルフ、と言った。
フィリアは冗談言わないしなぁ……

255 :暇潰し ◆ODmtHj3GLQ :2006/11/26(日) 02:54:14 ID:WV+yG3so0
  「エルフなんてホントにいるのかよ」
  「うん」

即答されてしまった。
エルフなんてロト伝説の中でしか聞いた事ないような存在だ。
もしいたとしても、気軽に会えるようなものでもないだろう。
会えるものならジュードだって会ってみたい。
しかしこうもあっさりと言われるとなぁ……
正直、拍子抜けしてしまう。

  「そ、そうか。良かったな」
  「うん」
  (うんって…嘘言うようなヤツでもないし……)

対処に困ったという感じのジュード。
まぁそりゃそうかもな。
宇宙人に会ったって言うようなもんだからなぁ。

  (何でこういう時に真理奈はいねーんだよ)

確かに真理奈だったら喜んで話に飛びつきそうだけどねw

  「あ、でも俺も会ってみたいかもな」
  「うん…」
  「あ〜…明日はどうすんだ?」
  「うん……」
  「……? 何だ、眠いのか?」
  「……」

フィリアは一点を見つめ、そのまぶたは今にも閉じようとしている。

256 :暇潰し ◆ODmtHj3GLQ :2006/11/26(日) 02:58:27 ID:WV+yG3so0
  「よし、じゃあ寝るぞ。ほら、横になれよ」

そう言ってジュードはフィリアの手から皮の袋を取り去り、枕へ誘導してやる。

  「…じゃあ灯り落とすからな」
  「うん……」

フィリアがベッドの定位置に収まったのを見て、ランプの火を吹き消すジュード。
外からの月明かりだけが頼りになる。

  「…おやすみなさい…」
  「お…お休み」

お休みの挨拶されるとは思っていなかったのでジュードはびっくりしてしまう。
いまだに分からないところがあるが、まだまだ子供だなとも思う。
フィリアにも何か守りたいものがあるのだろうか。
そんな事を考えつつ、ジュードも床に就いた。

……… …… …

翌日、フィリアはまたエルフに会いに行くと言って出かけた。
ジュードはいよいよ暇を持て余し、武器屋や道具屋を見て回るが特に目ぼしい物は無かった。
結局メシ屋で時間を潰す事になってしまう。
昨日と変わらずにうるさい空間。
一日の苦労を互いにねぎらう大人達。
だがそこで、ジュードはフィリアの言っていた事の一端を理解する事になるのだった。


257 :暇潰し ◆ODmtHj3GLQ :2006/11/26(日) 03:05:26 ID:WV+yG3so0
  「よぉニイさん。1人で食事たぁ寂しいねぇ〜あっちのグループにまざらないのかい?
   盛り上がってるみたいだぜ」

飯を食べ終わろうかという時に男がいきなり隣に座ってきた。
チラリと声をかけてきた奴と、あっちのグループとやらを確認する。
あっちのグループは酒飲みのチャンプを決めるだとかでガヤガヤやっていた。

  「気分じゃないね」
  「へへ、ニイさんこんな辺ぴな村で何してんの? ここの人じゃないよな?」
  「……あんたこそ」

男は薄笑いを崩さない。
男に言い寄られるのは初めてだな。……まぁ女の方もないけど。

  「へへへ、実は儲け話があるんだが、乗らないか?」

まず見ず知らずのヤツにそんな話を持ちかける時点で怪しさ満点だ。

  「へへ、そうだよな。実はよ、確実って訳じゃねぇんだ……
   おーい、こっちにも飲みモン追加だ〜!」

ジュードの酒が無くなるのを見過ごさない。下っ端として経験を積んだのか、とか考えてみる。

  「ただ前金だけでも十分なくらい貰えるんだよ。大抵のヤツはそれだけもらってドロンだ。
   しかしな、それも逆に怪しいと思わないか?
   つまりそれだけの金をだすって事はだな、話の信憑性がグンと上がるって訳よ」

どうやらただのバカじゃないようだ。
けどジュードに話すメリットがいまいち分からない。
そこに2人分の酒が運ばれてくる。

  「おっ、すまねぇな。よし、ここはオレのオゴリだ。飲んでくれや」

258 :暇潰し ◆ODmtHj3GLQ :2006/11/26(日) 03:08:54 ID:WV+yG3so0
ソイツはグラスを掴むと、一口で半分飲み干してしまう。

  「へへへ、そろそろ素直に話そうか。ニイさん昨日も1人で飲んでたろ?
   だからニイさんを選んだんだ。腕も悪くなさそうだしなぁ。
   正直オレ1人じゃ無事に事を運べるか心配なんだよ」

なるほど。一応人は選んでる訳だ。
それが正解とは限らないけど。

  「前金で五千Gだ。成功すれば十万G。
   どうだ? 悪くねぇだろ。
   失敗してもおとがめ無し。それでも十分お釣りがくるってもんだ」

……まだ判断するのは早い。
犯罪なら確かめてから捕まえればいいし、くだらないなら辞めればいい。

  「依頼人は?」
  「あぁそれがな、代理のヤツにしか会えねぇんだ。
   オレも顔を見ねぇと信頼できねぇって言ったんだがな……
   案外その代理ってヤツが本物かもしれねぇ。
   へへへ、まぁでももう金は貰ってんだ。
   成功報酬を2人で分けても五万Gだぜ? 悪くねぇだろ」

ソイツのオゴリだという酒に手をつける。
その行為は、もう手を貸すと言っているようなモンかもな。

  「……で、何を?」
  「お、いいねぇいいねぇ〜やる気になったか?」

ソイツは少し嬉しそうにグラスの中身を全て胃に流し込んで言った。

  「獲物はエルフさ」

259 :暇潰し ◆ODmtHj3GLQ :2006/11/26(日) 03:10:50 ID:WV+yG3so0
今日はここまで
またしても失敗してスミマセンでした…
いかんなぁ…
反省します

260 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/11/26(日) 13:42:53 ID:OvCxVojk0
あまり俺を怒らせない方がいい

261 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/11/26(日) 20:10:35 ID:YJWk0h4wO
>>259
お疲れでっす

262 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/11/28(火) 00:03:15 ID:CE1WMn8X0
干す?

263 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/11/28(火) 13:27:59 ID:T7EY9Gx30
まずは自分のステータスチェックするだろ。
覚えてる技と。

264 :タカハシ ◆2yD2HI9qc. :2006/11/29(水) 03:42:19 ID:Px8GcEYA0
>>259
お疲れ様です。
教えていただいた箇所を頭へ追加して、保存しました。

ここまでまとめました。
http://ifstory.ifdef.jp/index.html

しばらく、更新が滞ります。
もしかすると年内かもしれないので、まとめサイトの方はのんびりとお待ちください。
ついでにタカハシの旅も、のんびりお待ちください。

265 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/11/30(木) 15:51:07 ID:N/GRhzg1O
たまに思うんだが、ここの住人たちはどんなネタとか設定を持ってるんだろう?って
>>362みたいにチラっとでも書いてみると面白そうな気がするが


266 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/11/30(木) 16:40:49 ID:JrrGgJWWO
>>362に期待

267 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/11/30(木) 18:29:59 ID:PUoJ95FZO
>>265 キラーパスktkr
>>264 タカハシ氏乙!

268 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/12/01(金) 16:34:32 ID:aZ4lL9J6O
保守

269 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/12/02(土) 12:03:07 ID:EWw6CSj3O
保守党

270 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/12/03(日) 11:42:33 ID:y0NSrlg2O
補修

271 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/12/03(日) 23:28:24 ID:/nmc4fD7O
皆さん忙しいのかな・・・。

   ヾ"""ツッ
  ミ・ω・ 彡
   ミ   ミ
   """"゙


272 : ◆u9VgpDS6fg :2006/12/04(月) 17:45:31 ID:TDxwuxx50
>>227
了解です

>>228
区切りかたがなかなか難しいですね
まだまだ未熟なので、頑張ります
ありがとうございます

>>229
ありがとうございます
魔法の絡め方はすごく迷いました
(今も書きながら悩んでます)

>>タカハシさん
乙です

>>暇潰しさん
乙です
どんどん物語が動いていきますね
楽しみで仕方ないです

タカハシさんに並んで
多忙につき自分も滞りそうです
ともかく>>225続きです

273 :サンタローズ ◆u9VgpDS6fg :2006/12/04(月) 17:46:41 ID:TDxwuxx50

右にそれる道を無視して、真っ直ぐ奥へ進む。
開けた空間の中ほど、大きく散らばった幾つかの岩の傍ら
地面に寝そべるいかつい老人の姿が見えた。親方だ。

物凄く長い道のりだった気がした。
傍によると、親方はぐふう、と息を吐いて寝返りを打つ。

つか本当に寝てんのかよ。緊張感ねーな。
呆れ返りながら俺は、親方の肩を揺さぶった。
うん?と口の中をもごもごさせながら親方が体を起こす。

『おや、ぼうや。こんなところで何をしているんだい』
本格的に緊張感のないのんびりした口調で、親方が言う。
俺はがっくりと肩を落としながら
「助けに来ました」と言った。
おやまあと目を細めて、親方が続ける。

『そうかい、ありがとうよ。
じゃあちょっとこの、岩を押してくれんか。
動きそうで動かんのだよ』

そういって目をやる岩の下に
親方の片足が痛々しく押し潰されていた。
濃い色のズボンを破って
肌から赤黒く乾きかけた血が滲んでいる。

274 :サンタローズ ◆u9VgpDS6fg :2006/12/04(月) 17:48:04 ID:TDxwuxx50

『隙間に引っかかっているようでな。傷は大したことないんだよ』
不安そうな目の色を察してか、親方がゆっくりと言う。
『ただ押しても引いても抜けんもんでな。いや参った』

わかりましたと頷いて
俺は岩を押しやるのを手伝った。
しかし岩は大きく重く、
子供一人の力が加わったところで動きそうもない。
なんでやねん。また約束が違う。

『やれやれ。やっぱりだめか。
ぼうや、誰か大人を呼んできてくれると助かるんだがな』
子供のプライドを気遣ってか
出来る限り優しい口調で親方が言う。
俺は大人のプライドを持っていたので、逆に悔しかった。
辺りを見回す。

ふと思いつき、
散らばった中から適当な大きさの石を拾って
俺は親方の足の傍に置いた。
売り忘れて持っていたかつての武器を手にする。

岩の隙間に片端を差し込み
俺は石を支えに反対端に思い切り体重をかけた。
僅かでも浮けば。僅かでも。

275 :サンタローズ ◆u9VgpDS6fg :2006/12/04(月) 17:49:40 ID:TDxwuxx50

考えを察したのか、親方が
空いた隙間に手を押し込み力を加え
更に自由な方の足を岩の隙間に捻じ込んだ。
木の棒が嫌な音を立ててしなる。
頼む、と俺はさっき祈りをささげた神に祈った。

不意にずるりと、親方の足が抜けた。
かかっていた重力が瞬間的に緩み
からりと乾いた音を立てて棒が転がる。
同時に、詰まらせていた二人分の呼吸と笑い声が空間にこだました。

『いや、ぼうや。助かったよ。賢いねえ』
肩で息をしながら親方が微笑む。
照れ笑いを隠して、俺は棒を拾い上げ腰布に差し込んだ。

親方の傷は本当に軽そうだった。
凝り固まった体を解しながら足首を回し、
『うん、大丈夫そうだな』と言うと
意外なほど身軽に立ち上がる。

『ぼうやありがとうな。みんな心配しているだろう。
早く村に戻らねばならんな。行こうかい』
手を引いて歩き出そうとする親方の申し出を断って
俺は洞窟に留まると伝えた。

「もう少し探検してすぐ帰るから」と言うと、親方は
『こんな洞窟でも、ぼうやには大冒険だろうな』
と笑い、こちらを気にしながら一人階段を上がっていった。

276 :サンタローズ ◆u9VgpDS6fg :2006/12/04(月) 17:50:58 ID:TDxwuxx50

簡単に洞窟内の探索を進める。
最深部でも、出てくるモンスターの種類は殆ど変わらず
俺はスライムや昆虫や角の生えたウサギを叩きながら
分かれ道の先を覗いていった。

奥に朽ちた空き箱があり
その縁に布切れが引っかかっている。
手に取ると着衣のようだった。
今の俺の服よりは、少しだけ布が厚く縫製もしっかりしている。

その場で着替えるのはなんとなく気が引けて、
俺は軽く埃を落とすと服の上からそれを羽織り
ひとつだけボタンを留めた。

反対の奥にはスライムがいた。
咄嗟に武器を構えると、
『叩かないで!僕は悪いスライムじゃないよお!』と
慌てたようにその大きな口から人間語を発した。

話を聞いてやると、
三角だか四角だかよく解らないことを
まくし立てるように喋っている。
(こんなところはゲーム通りかよ)

それ以上の収穫はなく、俺は
久し振りの人間語を話したがるモンスターに
達者で暮らせよ、とだけ言い残し帰路についた。

277 :サンタローズ ◆u9VgpDS6fg :2006/12/04(月) 17:53:27 ID:TDxwuxx50

洞窟を出ると、赤い鎧の男が笑顔で手を挙げた。
『さっき薬屋の親方が通ったよ。
ぼうや、親方を探しに行ってたんだってなあ』
頷くと、感心したように男は顎に手を当て、
『何も言わずにこんな洞窟の奥にな。恐れ入ったよ。
でも次はおじさんにも相談してくれよ。なんにせよ危険なんだから』
にこにこと勝手に頷きながら、男が俺の頭に手を置く。

言ってもどうせついてこないだろ。
っつか俺を探す前に親方を探せよお前。
思ったが恩があるので黙っておく。

簡単に挨拶を済ませ俺は親方の家へと向かった。
そろりと扉を開け顔を出すと、
店員の若い男が俺に気付いて明るく笑った。
表情の奥にも、もう不安の色は見えなかった。

『ぼうやは昨日の。今日も来てくれたのかい?
親方、さっきやっと戻ったんだよ』
言いながら丁寧な物腰で俺を奥に通す。

『親方、この子昨日も心配して来てくれたんですよ。知り合いなんですか?』
『うん?おお、おお、ぼうやは洞窟で会った』

薬の調合なのか、秤や
見たことのない器具とにらめっこしていた顔をこちらをに向け
忙しなく動かしていた手を止めて、親方が嬉しそうに笑みを零した。

278 :サンタローズ ◆u9VgpDS6fg :2006/12/04(月) 17:55:05 ID:TDxwuxx50

え?と声を上げる若者に、親方は
『洞窟まで探しに来てくれたんだよ。
そうだ、お礼をしようと思っていたんだよ。
丁度良かった。ちょっと待ってくれんかな』
言いながら立ち上がり奥のタンスに向かう。

僅かに引きずった片足に
真新しい白い包帯が見え隠れしていた。
あの時は無理をしていたんだと、その時になって気付く。

『ぼうや本当に親方を探しに行ってくれたのかい?』
驚きを隠さずに若者が言った。
頷くと男は、声にならないと言う表情で俺の顔を見つめる。

「探しに行くっていったろ?」
俺が言うと、若者はあはあ、と笑って
『参ったな。ぼうや強いんだなあ。
俺、実はちょっとあの洞窟が怖くってさ』
頭を掻きながら極まり悪そうに言った。
正直な男なんだな、と思い俺もあわせて笑った。

279 :サンタローズ ◆u9VgpDS6fg :2006/12/04(月) 17:56:22 ID:TDxwuxx50

ほれ、と親方の手から差し出されたのは
網目の粗く薄いケープだった。
派手な色の糸を編み合わせてあって、
ちょっと俺には着れないなあと失礼なことを思った。

『わしの手編みだよ。出来は良くないがな、ここが入っとるんでな』と
胸に親指を当てながらにやり笑う親方にお礼を言い
丁寧にお礼を言われ、俺は親方の家を出た。

宿屋にも顔を出そうか迷ったが
疲れていたし面倒だったから俺はそのまま家に足を向けた。

パパスは戻っていなかった。
まだ陽は高かったが、
早めの夕食をとるとすぐにサンチョが俺を抱きかかえたので
睡魔に身を委ねて俺は目を閉じた。

280 : ◆u9VgpDS6fg :2006/12/04(月) 17:57:35 ID:TDxwuxx50
本日ここまでで
ありがとうございます

また間が空くかもしれませんが
宜しくお願いします

281 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/12/04(月) 19:35:39 ID:mzNOGZXU0
洞窟編乙。
お化け退治も期待してるよ。

282 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/12/05(火) 07:51:54 ID:NHZLIX/c0
村のみんながいい人でなんかほっとするなあ。その分が後で響くが。
ゲーム通りなスライムとかw 実際意味不明だよな、確かにw
乙でした。

283 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/12/05(火) 09:56:40 ID:lzhtrVZa0
>言ってもどうせついてこないだろ。
>っつか俺を探す前に親方を探せよお前。
>思ったが恩があるので黙っておく。

ゲームだと気にならないが、リアルに描写されると確かにこう思うなw
ゲームの隙間を補完してくれる感じでいいですね。乙です。

284 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/12/05(火) 14:58:19 ID:1kKdfpDz0
親方が素敵な大人だ
ゲームの登場人物としては全然印象に残ってなかったけど
>>280の活字で読むと彼のような脇役の良さがじわりとしみてくるなぁ

285 :タカハシ ◆2yD2HI9qc. :2006/12/06(水) 10:22:50 ID:NQPIxtgm0
>>280
お疲れ様です

ここまでまとめました
http://ifstory.ifdef.jp/index.html

286 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/12/06(水) 12:02:04 ID:eSSHWPD3O
タカハシ氏乙です

287 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/12/07(木) 22:18:51 ID:etYGKOBgO
保守

288 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/12/08(金) 08:01:09 ID:jmQWhkKQO
後々のパパスに降りかかる悲劇を思うと鬱になる。
だけど、それ程すんなり感情移入できる素晴らしい文章に乾杯

289 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/12/09(土) 23:46:28 ID:qs5Rrdm6O
あげぽ

290 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/12/10(日) 00:17:17 ID:L9RmzSvAO
ここもどうせ、オルテガスレみたいになるんだろ?

291 :暇潰し ◆ODmtHj3GLQ :2006/12/10(日) 00:38:36 ID:JjvvsK4d0
オルテガスレを知らない自分が小ネタを含め、投下行きますよー


……
………
  「酷い有様だ……」
  「再び人が住めるようになるのでしょうか」
  「砂漠から水が枯れる事はある?」
  「ご加護があります内には…」
  「そうだよね」
  「……」
  「なら僕はそのご加護を全うしようと思う」
  「フィリー…」

  「失礼します! 王子!! モンスターがっ!!」
  「そうか。今行くよ」

  「私も」
  「プエラ……」
  「ダメ、ですか?」
  「危険だ」
  「その為にホイミを覚えたんです」
  「……ありがとう」
  「はい」
  「行こう。未来の為に」
  「はい!」
………
……



では>>258の続きをどうぞ

292 :暇潰し ◆ODmtHj3GLQ :2006/12/10(日) 00:48:43 ID:JjvvsK4d0
〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜
  「私は全てを照らす太陽になりたいの」

そう言ったお前の横顔は、優しさや慈悲といったものに溢れていた。
だからこそ、そこに儚さと脆さを感ぜずにはいられなかった。
そんな自分は彼女の側にいる資格は無いのだと客観視する一方で、
ますますお前に惹かれる自分にも気付かされる。

お前は愛だった。
愛そのものだった。
自分はもちろん、この世界の存在するもの全てがその愛に照らされて
生きていられるのだと本気で思った事もある。

だから…
だからその愛全てを自分のものにしてしまいたかった。

若かった自分を責める事はいくらでも出来る。
しかし過ぎ去った時間を取り戻す事は出来ない。
懺悔の為に天に手をかざすと、お前に貰った指輪の宝石が光を放ち、
空へと上っていった。

その後には、残ったものが自分の全てになった。
それは暗闇の中で必死に生きようとするマリアの形見の星の光だった。
その光に照らされて、この世界は終わる。
〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜

293 :暇潰し ◆ODmtHj3GLQ :2006/12/10(日) 00:53:51 ID:JjvvsK4d0
カザーブ。
その土地にまつわる伝説から、世の格闘家達の修行の拠点になりつつある村だ。
もちろんダーマの方が名が高いのだが、それは多様な知識と触れ合える場所だからだ。
こちらは自分と向き合う事を優先しているような者が集まっている。
とは言え、それでは商業的な発展は見込むべきもない事は確かだ。
まぁそれがまた、この村の落ち着ける理由にもなるんだけど。

  「久し振りじゃの」
  「ん」
  「そっちのは?」
  「あぁ、新しい仲間じゃ。孫は置いてきた」

カザーブの武器屋の店主との会話だ。
パトリスの言っていた通りなら、この老人が腕の良い職人なのだろう。。
それで? と言わんばかりに店主がパトリスに目を向ける。

  「実はな、この爪を直して欲しくれんかと思ってな」

パトリスの意向を察して、真理奈が鉄の爪を取り出す。
店主は切断された鉄の爪を一瞥し、少々目を開かせる。

  「何ぞ腕の良い剣士と決闘でもしたんか」
  「いや〜何か呪文でやられちゃったんだよね〜」

会話に加わった真理奈に、老人は驚いた表情を見せる。

  「……バギか」
  「凄い! よく分かったね!」
  「答えはそれしかないわい。
   しかしこんなにも綺麗サッパリと切るなんて芸能はそうそう出来るものではない。
   よくこんな相手と戦って生きておるな」
  「まぁね〜♪」

294 :暇潰し ◆ODmtHj3GLQ :2006/12/10(日) 00:57:56 ID:JjvvsK4d0
  「褒めとりゃせんよ」
  「何でよ……」
  「……結論じゃ。新しいのを買った方がえぇ」
  「む〜それが嫌だからここに来たのに〜」
  「しかしな」
  「ワシからも頼む。まぁ無理なら無理と――」
  「無理ではない。が、手間はかかる」
  「お願いおじーちゃん!」
  「それなりの理由があるという事か。しかしワシにお願いされてもな」
  「え? どういう事?」
  「まずはアンタ次第じゃ」
  「??? 分かるように言って?」

店主はふ〜と一息つけ、パトリスをジロリとにらみつける。

  「……ちゃんと教育せんか」
  「武器はな、ちょいと専門外じゃ」
  「むしろ専門じゃて。魔法使いが聞いて呆れるわ」
  「ではこの不肖息子にご教授お願い致します」
  「授業料、請求するからな」

いかにも渋々といった感じで真理奈に向き直る店主。
そして、よいか? と前置きする。

  「この爪は切断されておる」
  「見れば分かるよ?」
  「そうではない。精神的にも、という意味じゃ」
  「せーしん?」
  「ちったぁ勉強せい……」
  「うっ……」

295 :暇潰し ◆ODmtHj3GLQ :2006/12/10(日) 01:01:35 ID:JjvvsK4d0
この世界でも勉強しろと言われるとはねw
まぁ学だけが勉強ではないという事ですよ、真理奈さん。

  「いいか。武器とは物理的な側面と精神的な側面がある。
   その両側面が合わさっていないと真に武器とは言えんのじゃ。
   この爪はその両側面で切られている」
  「??????????????」
  「物を使い続けるという事は、人と物が一つになっていく事。
   物側から見れば、人の精神が物に宿るという事じゃ。
   そして今、この爪は精神的にも切られている。
   つまり爪の部分と本体の部分は物理的にも精神的にも離れている訳じゃ」
  「それは元には戻せないって事?」
  「お前の心は他人の心になれるか?」

その突然の質問に真理奈はうぅん、と首を横に振る。
そこで店主は初めて鉄の爪に手を伸ばし、何かを確かめるかのように触れる。

  「……これは元からお前さんの者ではないな?」
  「え? どうだろう…おじいちゃんがくれたよ?」
  「確かならば、これはかつての仲間の物じゃな」
  「いかにも。真理奈には言ってなかったか?」
  「へぇ〜初めて聞いたよ?」

店主は半ば呆れ顔で先を続ける。

  「他人が使い古した物を使うという事は、新品を使うのとは訳が違う。
   なぜなら他人の精神がそこに宿されているからだ」
  「ほうほう」

296 :暇潰し ◆ODmtHj3GLQ :2006/12/10(日) 01:04:51 ID:JjvvsK4d0
  「……そして状況は更に複雑じゃ。
   お前が途中から使い出したが為に、この爪の精神は二つになっている。
   精神の重複によって爪はさらに脆くなった。
   もちろん物質的に使いこんだという事でもある」
  「も〜説明長いよ〜……結局どうしたらいいの?」
  「ただ物理的に直すだけでは意味がない。
   まずはこの精神を一つにする必要がある」
  「どうやって?」
  「他人になれるか、と聞いて否と答えたな?」
  「うん」
  「では他人になれ、という事じゃ。
   そうすれば説得も出来よう」
  「え〜無理じゃん」
  「それが無理なら、無理だという事じゃ。諦めて新しいのを買うんじゃな」
  「む〜」

話は終わったというように店主は席を立つ。

  「疲れたから今日はもう店じまいじゃ」
  「戸締りには気をつけるんじゃぞ」
  「うるさいヤツじゃ」

そんな会話の後、パトリスは真理奈を促して店から出た。
陽が傾きかけていた。

  「まぁ、まだ時間はある。ゆっくり考えて、決めるんじゃな」

真理奈はじっと両手に乗せた鉄の爪を見たまま、答えなかった。


297 :暇潰し ◆ODmtHj3GLQ :2006/12/10(日) 01:11:26 ID:JjvvsK4d0
  「武器の精神か〜……ん〜」

珍しく難しい顔をしている真理奈さん。
宿屋に戻ってきたようですね。
ベッドにあぐらをかき、鉄の爪とにらめっこしてます。
真理奈なりに解決しようとしているようで……

  「お〜い、鉄の爪〜……って、鉄の爪じゃおかしいか。
   じゃあテッちゃんにしよっか?」

何がだよ。

  「テッちゃ〜ん! 真理奈だよ〜握手!」

そう言いながらテッちゃんの甲の部分にタッチする。
もちろん何の反応も無いが。
だいたいそのテツは鉄のテツか、「鉄」と「爪」の頭を取ってテツなのか
非常に突き止めたい訳だが……

  「名前付けてもダメか〜……ん〜難しい」

お困りのようです。
そりゃ物とコミュニケーション取るってのは難しいだろうさ。

  「オッス! オラ真理奈! よろしくなっ!!」

し〜ん……

  「おぉ〜よく見れば傷が結構あるなぁ」

それでもめげずに、ジロジロと観察し始める真理奈。
普段手入れとかはするけど、こんなにマジマジと見た事は無い。

298 :暇潰し ◆ODmtHj3GLQ :2006/12/10(日) 01:16:50 ID:JjvvsK4d0
そういう意味では、真理奈は今までで最もテッちゃんと向き合ってる事になるかな。

  「そう言えばずっと一緒にいたのに、何にも知らないもんなぁ〜」

そんな人を好きになり始めの頃に吐くセリフを口にする真理奈。
まぁ知りたいって気持ちがあるのは良い事ですよ。

  「他人になれ、かー。……自を捨て、客となり、己を茄子」

成す、ね。ツッコミ辛いからやめて。

  「……」

正座し、目を閉じる。
自を捨てる事が他人になる第一歩という禅の心得ですか。
その先に再び形成される己は、先の自とは違う者である。
まぁ分かりやすく言えばロト紋のアレですよ。
姿勢を正し、呼吸を正し、心を正していく。

  (めんどくさいからイヤなんだけどなぁ〜
   これもテッちゃんの為、私の為、世界の為ってね)

とは言っても最初は色々考えちゃうんだよね。

  (あ〜懐かしいな、この感じ。昔はよくやらされたもんだ)

厳密に言えば鍛錬じゃないから今では自己流入ってますけどね、
昔はきちんと練習してたみたいですよ。
そうこうしている内に雑念を制し、意識を制する事に成功する。
無意識とも言えない無の状態になってこそ、自を捨てたと言えるだろう。
そこで初めて他になれるんです。
すっと手を伸ばし、鉄の爪に触れる。

299 :暇潰し ◆ODmtHj3GLQ :2006/12/10(日) 01:21:03 ID:JjvvsK4d0
そして無の心が相手に触れる。
それは相手の心がこちらに触れてくる事でもある。
……
……
――!
  「真理奈〜おるか〜?」
  「ピィ〜?」
  「だぁ〜!!」

扉が開かれる音と共に、ベッドに倒れこむ真理奈。
入って来たパトリスとブルーは何事かとうろたえる。

  「も〜やめてよおじいちゃん!! もう少しだったのに〜!!!」

そのままベッドの上でバタバタと暴れる真理奈。
これは……失敗だ。

  「おぉ、すまんすまん……もう夕飯じゃぞ〜と言おうと思ってな……」
  「うぅ〜……」
  「ピィ〜……」

涙ぐんだ目で鉄の爪を見る真理奈。
う〜ん……ドンマイっ!!
ブルーが真理奈に擦り寄り、慰めようとする。

  「悪かったの……よし、お詫びと言っては何じゃが、ワシとデートしよう!」
  「イヤ」

即答。

  「まぁそう言わずに……美味しいモンが待っとるぞ〜」
  「犬じゃないもん」

300 :暇潰し ◆ODmtHj3GLQ :2006/12/10(日) 01:26:57 ID:JjvvsK4d0
  「腹減ったじゃろう。そうじゃ、今日はお酒も付けるぞ」
  「……未成年だし」
  「さらにデザート!」
  「よし、行こっ!!」

パッと起き上がり、身支度をする真理奈。
そうか……
素早さは身代わりの早さでもあったんだよ!!(ナンダッテー!!

  「オッケー、じゃあおじいちゃん行こっか」

チッチッ、とパトリス。
もう古いっす。

  「せっかくのデートじゃ。パトリスと呼びなさい」
  「あはw では参りましょう? パトリスさん」
  「ピー!!」

腕を組ませる真理奈。
いいなぁ〜……
と、そんな感じで村中の食堂に向かった2人。
まぁデートと言っても、都会のおしゃれなお店って訳にはいかないよね。
その代わりに食事の内容をいつもよりも豪華にして、それらしく繕ってみる。

  「ん〜おいしっ!」
  「機嫌は直ったかな?」
  「ん〜ん、一生忘れない」
  「この食事でも駄目ですかな」
  「これはこれ。あれはあれ」
  「冷たいのぉ……」

会話の内容の割りには2人共楽しそうに食事を楽しんでいるみたいだ。

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