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もし目が覚めたらそこがDQ世界の宿屋だったら八泊目

1 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/10/29(日) 16:15:16 ID:vi16nIqg0
ここは
「もし目が覚めた時にそこがDQ世界の宿屋だったら」
ということを想像して書き込むスレです
短編/長編小説形式、レポ形式、オリジナル、何でも歓迎です

・基本ですが「荒らしはスルー」です
・スレ進行が滞る事もあります、まったりと待ちましょう
・荒れそうな話題や続きそうな雑談は容量節約のため「避難所」を利用して下さい
・スレの性質上レス数が1000になる前に500KB制限で落ちやすいので、スレが470KBを超えたら次スレを立てて下さい
・混乱を防ぐため、書き手の方は名前欄にタイトル(もしくはコテハン)とトリップをつけて下さい
・物語の続きをアップする場合はアンカー(「>>(半角右アングルブラケット二つ)+半角数字(最後に投稿したレス番号)」)をつけると読み易くなります

前スレ
もし目が覚めたらそこがDQ世界の宿屋だったら七泊目
ttp://game10.2ch.net/test/read.cgi/ff/1148786712/

まとめサイト(書き手ごとのまとめ/過去ログ)
「もし目が覚めたら、そこがDQ世界の宿屋だったら」保管庫@2ch
ttp://ifstory.ifdef.jp/index.html

避難所「もし目が覚めたら、そこがDQ世界の宿屋だったら」(作品批評、雑談、連絡事項など)
ttp://corona.moo.jp/DQyadoya/bbs.cgi

501 :レッドマン ◆U3ytEr12Kg :2007/02/11(日) 21:31:18 ID:d5Jh/BPq0
   タケ「まぁ、ありがとう・・・・みんな・・・・・・」
ククール「おいおい。何うろたえているんだ。もょもと?」
ヤンガス「げーすげすげすげす。もょもとは照れているんでがすよ。」
   タケ「う、うるさいなあ。もー(///)」

  ムーン「これからどうしようかしら?」」

  トロデ「そうじゃ!この機会だから皆で食事をしようかの。ワシらが異世界の人間とは言え、
      食事ぐらいは一緒に楽しむのも良いもんじゃろ!」
  ゼシカ「それはいいわね。」
ヤンガス「おっさんも流石は一国の王様でがす。」
ククール「合流記念って言う事でいう事だな。もょもと達はどうだ?」

   タケ「異論は無いぞ。俺達全員参加させてもらう。」

   リア「やったぁ!早く食堂に行ってみんなで食べようよ!」

リアの掛け声で食堂へ向かいみんなで食事をした。
飲んで騒いで色々話し合い、楽しい時間を過した。

そして俺達はラダトームへ向かうために、そしてククール達はエイトを探すために別れて旅立つことにした。

もょもと&タケ
Lv.16
HP:112/112
MP:  2/  2
E鋼の剣 E鋼の鎧 E鉄兜 
特技 共通技:チェンジ
 もょもと専用:隼斬り・魔人斬り
 タケ専用  :かすみ二段・強撃・ゾンビ斬り・大防御・メラ


502 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/02/12(月) 08:54:56 ID:tDn/AQ6O0
おお!!
レッドマンが復活したか。
最後まで頑張れ。

503 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/02/12(月) 21:20:24 ID:97ax3Hde0
レッドマンキタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!

504 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/02/12(月) 21:58:19 ID:t0MT0ahCO
復活ッ!レッドマン復活ッッッッ!

( ;∀;)オカエリ

505 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/02/13(火) 00:11:48 ID:IUh3Qnu70
レッドマンさん、ファイトだお

506 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/02/13(火) 08:10:01 ID:c2nn0f2oO
べ、別にあんたの作品の続きなんか読みたくないんだからね!

しかし書く以上はしっかりしなさいよ!

507 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/02/13(火) 16:32:06 ID:L1W5VAMm0
俺も書いてみた。
舞台はDQ6です。

508 :序章・目が覚めたら…… ◆/Vo4sINk9g :2007/02/13(火) 16:33:30 ID:L1W5VAMm0
「今日はもう寝るかな……」
俺は、あまり意味の無い独り言を呟きながらパソコンの電源を切って、
そのまま、歯も磨かずにベッドにダイブした。

俺はニートだ。
格好良く言えばNEET……いや、大して変わらんな。
まだ17歳だってのに学校にも行かないで、毎日家でダラダラと過ごしている。
部屋から出るのは、ご飯と風呂の時だけ。
外に出るのは、コンビニにジャンプを買いに行くときだけ。
金は親から貰ってる。
働くつもりなんてさらさら無いし、これからもそれは変わらないと思う。
だって汗流して頑張ったって、少しも面白くないし。

(あーあ、もっと面白い世界に生まれたかったなあ)

そんな戯言を考えながら、俺はいつの間にか深い眠りについてしまった。



509 :序章・目が覚めたら…… ◆/Vo4sINk9g :2007/02/13(火) 16:34:10 ID:L1W5VAMm0
深い眠りから覚めて、俺は大きく伸びをする。
今日もまた、退屈な一日が始まるのか……そう思うと憂鬱だ。
「おはようございます、旅のお方」
「あー、おはよ……ん?」
誰だお前。
目の前のおっさんにそう言おうとして、初めて異変に気が付いた。

「どこだここ?」
俺はキョロキョロと周囲を見る。
まるで洞窟の中みたいに、岩の壁に囲まれている小さな小部屋。
その中に簡素なベッドが二つ置いてある。
「いやですねぇ、宿屋に決まってるじゃあないですか」
おっさんが気味良さそうに笑う。

待て待て。
俺、いつ宿屋になんかに泊まった?
昨日、確かに自分の部屋のベッドで寝たはずなんだが。
心の中でツッコミを入れながら、自分の服装を見てみる。
寝たときの上下ジャージの姿ではなく、滅多に着ないお気に入りの一張羅を着ている。
いつ着替えたっけ?
これ何かのドッキリ企画か?
「どうかしましたか?」
ドッキリの看板を探していた俺に、おっさんが話しかけてくる。
「あ……何でもない、です」
とりあえず適当に返事をしておいた。

「ありがとうございました。またおこしください」
一先ず俺は現在地を確かめようと、宿屋から出た。
「えーと……どこだよここ」
外に出ても、ここが何処なんだか、どうして俺がここにいるのかさっぱりわからん。
唯一わかったのは、ここが山で、さっきの宿屋はやはり洞窟の中だったと言うことだけだった。


510 :序章・目が覚めたら…… ◆/Vo4sINk9g :2007/02/13(火) 16:34:50 ID:L1W5VAMm0
「夢じゃないみたいだな……」
何度か自分の顔を殴って確認した。
これは夢じゃない、現実だ。
現実だとしたら、何で俺はこんな所にいるんだ?
親がニートな俺に愛想を尽かして山に捨てたか。
ありそうで怖い。
夢遊病患者の様に、ふらふら歩いて来てしまった。
これは無いな。

「まぁ、何でもいいや。どうにかして家に帰るか」
これ以上考えても無駄そうなので、俺は山を降りて家に帰ることにした。
山を降りれば、町か村かがあるだろう。
そこで警察にでも行って、家に帰してもらおう。
そう思いながら、俺は山にあった階段を下りようとして、ピタリと足を止めた。
階段の下のほうに、変な生き物がいたからだ。


マンドラゴラがあらわれた!


続く

名前:俺
職業:ニート
HP:13
MP:0
装備:お気に入りの一張羅
現在地:ライフコッド周辺・山肌の道

511 : ◆/Vo4sINk9g :2007/02/13(火) 16:35:36 ID:L1W5VAMm0
以上です。
拙い文章ですが、ご容赦を。

512 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/02/13(火) 16:43:48 ID:UhwB7EOe0
6は珍しいな
続きwktk

513 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/02/13(火) 16:53:09 ID:h1yWCSzP0
キタイシテルヨ(・∀・)

514 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/02/13(火) 16:53:11 ID:t8TfXhtg0
>>DQ6
乙。続きが楽しみだ

515 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/02/14(水) 22:19:59 ID:CCYrWUaa0
保守


516 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/02/16(金) 23:32:11 ID:yVgXZEd00
いいかげんに捕手

517 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/02/18(日) 08:11:19 ID:xnk4yulK0
ほしゆ

時間が出来たら書きたい

518 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/02/18(日) 22:19:25 ID:J7z+VPOp0
保守

519 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/02/18(日) 22:20:59 ID:J7z+VPOp0
あげちまったスマソ

520 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/02/19(月) 20:35:26 ID:WiYlZHfDO
月曜日に保守

521 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/02/20(火) 21:46:38 ID:u3ybMfiIO
保守

522 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/02/21(水) 07:52:32 ID:d2GEqEn2O
保守

523 :暇潰し ◆ODmtHj3GLQ :2007/02/21(水) 23:50:04 ID:VuyZpkIx0
>>426の続き、投下します。
けどその前に一言。

レッドマンさん、おかえりなさい!

524 :暇潰し ◆ODmtHj3GLQ :2007/02/21(水) 23:52:53 ID:VuyZpkIx0
〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜
フォルテとの初めての出会いは、彼女の歌声から始まった。
友達とかくれんぼしてた時、いつもより遠く逃げ込んだ森の奥。

  「〜〜♪」

不意に聞こえてきた楽しそうなメロディ。
彼女の世界に一瞬にして引き込まれてしまった。
ただそれだけで、好きだと思ってしまった。

  「キャッ!」

無遠慮に近づオレに気が付くと、彼女は岩影に体を隠した。
怖がらせてしまったと瞬時に後悔したが、
どうすればいいのかも分からなかった。

  「あのあの……」

恐る恐るといった感じでひょっこりと頭だけを出す彼女。
その可愛さに顔が赤くなり、心臓が跳ねた。

  「歌……どうだった?」

声に出して答えられなくて、何度も必死に頷いた。
フォルテの笑顔がまぶしかった。
〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜

525 :暇潰し ◆ODmtHj3GLQ :2007/02/21(水) 23:56:09 ID:VuyZpkIx0
  「さて、そちらはこの娘を取り戻そうとしているようだが、
   こんな提案はどうだろうか。
   この娘を返す代わりに女王様、あなたの血を頂けないだろうか。
   何も私は戦いたい訳ではないのだよ」

くくっと含み笑いをしながら大げさに手振りを付けて話すクルエント。
喋り方も身体年齢に影響されてか、先程までの老人臭い話し方ではなくなっていた。
しかし負けるなどとは微塵も考えていない、その傲慢さだけは常に変わらない。
提案とは言いながらも実際は選択を迫るような言い方にもそれが見られるだろう。
無抵抗で血を差し出すか、勝てぬ無駄な戦いをするか、選択をしろと言っているのだ。

  「あなた達にエルフは渡さない」

クルエントの問いに対して女王より先にフィリアが答える。
その声は簡潔で迷いがなく、決意に満ちていた。
いつものフィリアとは違って、こんなにも感情をあらわにしているのは珍しい。
予期せぬ一言に女王は言い得ぬ安心を覚える。

  「その通りです。あなた達は自分の立場が分かっていないようですね。
   負けるのはそちら側ですよ」
  「そうだそうだ!」

ソールの元気も相まって、女王のパーティーの士気が高まる。
悪いのはどちらなのか明白だった。
だから、必ず勝てる。

  「ふふふ、そうですか……では」

会話の終わりを感じたジュード達は武器を構えた。
それを見てからクルエントの側で控えていたアヴァルスも自身のダガーを握りしめる。
対してクルエントはその手に掴んでいるフォルテを目線の高さまで上げるだけだった。
見せ付けられるフォルテの体は力無く、だらりとした四肢に生は感じられない。

526 :暇潰し ◆ODmtHj3GLQ :2007/02/22(木) 00:00:05 ID:260lfAA50
しかしクルエントが何故今そのような事をするのだろうか。
その行動の意味を計りかねて攻撃のタイミングを逃す。
するとクルエントは足元に転がっていた宝箱を足だけで起こしてフォルテを閉じ込め、
ゴミを捨てるかのように宝箱を背後の湖に蹴り込んだ。
宝箱は大きな水しぶきを立て、水底へと消えていく。

  「フォルテー!!」

その声を合図に全員が動き始める。
ソールはフォルテを助ける為に湖へと全力で走った。
ジュードはアヴァルスに、女王はクルエントに。
それぞれソールの邪魔をされないように、進路を確保する為の動きをとる。
そしてフィリアはマヌーサで敵の攻撃を惑わそうと呪文を唱えた。
マヌーサの効果は視覚障害を引き起こし、強制的に錯覚させるというもの。
クルエントはともかく、アヴァルスは格好から攻撃呪文を使うタイプではないと判断したのだ。
ならば攻撃を封じてしまえばいい。
広範囲を狙う事の出来る武器を使ってこない限りはこちらは有利になる。

  「マヌーサ!」

アヴァルスとクルエントの2人を目標に呪文を仕掛ける。
呪文発動後、ジュードはアヴァルスの右側に回りこんだが、アヴァルスはそれに反応しない。
思惑通りにいったようだ。
アヴァルスは手持ちのダガーを突き出すが、ただ空を切るだけに終わる。
きっとアヴァルスの脳内ではジュードを斬りつけようとしたのだろう。
その隙にジュードはガラ空きのわき腹へと蹴りをおみまいする。
防御もままならないアヴァルスはうめきながら土にまみれた。

  「マヌーサか、やっかいだな」

女王と呪文の応酬を繰り広げているクルエントがアヴァルスが倒れている方に目を向けて、
それほどやっかいだとも思っていないような口調でつぶやく。

527 :暇潰し ◆ODmtHj3GLQ :2007/02/22(木) 00:03:49 ID:VuyZpkIx0
クルエントにはマヌーサは効いていないらしい。
呪文への耐性や、精神的な強さがある敵には補助呪文は効きにくくなる。
クルエントのレベルが相当に高い事の証明でもあろう。
そしてクルエントは女王への攻撃を怠らないまま、アヴァルスに一つの呪文をかける。

  「バイキルト!」

痛みに耐えながらもアヴァルスは立ち上がり、口の右端を上げて笑う。

  「へへ……すまねぇな」

ニヤリとしたまま彼はズボンに仕込んであるダガーを取り出し、今度は両手に装備する。
しかしマヌーサの効果が切れている訳ではなさそうだ。
アヴァルスは正確にジュードやフィリアの方向に体を向けてはいない。
何の呪文を掛けられたかしっかりと把握しているはずだが、諦めの表情は見られない。

しかしいくら呪文で攻撃力が上がっていたとしても、攻撃が外れるなら意味は無いのだ。
それでもなおダガーによる攻撃を仕掛けてくるアヴァルス。
ジュードやフィリアの近くを攻撃したりするが、当然ダメージは与えられない。
音を頼りに位置を探ろうとしているのか。
それともまぐれ当たりを期待しているのだろうか。

  (イケる!!)

これなら勝てると判断したジュードは目線だけでフィリアに合図をする。
フィリアの方も、コクリとうなずくだけで了解の意を示した。
声を発してわざわざ居場所を教えてやるまでもない。
汚名を返上しなくてはいけないジュードにとって、このチャンスを見逃す理由は無かった。
フィリアの方もなぜバイキルトなのか、という思考回路は形成されなかった。
ジュードは闇雲に攻撃してくるアヴァルスの背後を取り、背中に斬りかかる。

  (もらった!!)

528 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/02/22(木) 00:04:47 ID:4Df63I+/0
支援

529 :暇潰し ◆ODmtHj3GLQ :2007/02/22(木) 00:08:06 ID:260lfAA50
両手の力を柄に込めて放った一撃は、刃と刃が交差する音と共に防がれてしまった。

  「な…何……?」

予想していない事態にジュードは焦る。
アヴァルスは右手を肩越しに後ろに回す動きだけで防御したのだ。
前を向いたままなので見えている訳がないのに。
いや、それ以前にマヌーサが効いているはず。

  (足音で気付かれたのか?)

しかし攻撃の軌道までは分からないはずだ。
その疑問の答えを見つける前に、フィリアのモーニングスターによる攻撃が飛ぶ。
時間的に見れば二つの攻撃はほぼ同時だ。
しかしそれすらもアヴァルスは空いている左手で難なく無効化する。
同じくダガーでモーニングスターのチェーンを絡め取ってしまった。

  「へへ……残念」

2人の攻撃を嘲笑ったアヴァルスは、背後のジュードに右足を引っ掛けて体勢を崩させる。
と同時にフィリアの手から武器を取り上げるかのように左手を力の限り引っ張った。
圧倒的な力の前にフィリアは成す術無く、手からモーニングスターをこぼしてしまう。
その目はいつもより見開かれ、驚きを隠せないようだ。

アヴァルスは引っ張る力を利用して左足を軸にその場で反時計回りに回転し、
その遠心力を右足に乗せて、先のお返しとばかりに倒れかけのジュードを蹴り飛ばした。

  「がっ……!!」

攻撃力の上がった蹴りの衝撃で、ジュードは面白いように吹き飛んでいった。
そしてちょうど一回転するところで背中に回していた右腕を伸ばして、
野球のフォームで球を投げるようにダガーをフィリアに投げつける。

530 :暇潰し ◆ODmtHj3GLQ :2007/02/22(木) 00:11:37 ID:260lfAA50
引っ張られて前のめりになっていたフィリアは着地を考えずに身を投げ出して
ダガーを避けるが、それを見越したように二本目のダガーがフィリアを襲った。

  「……!!」

フィリアは唯一の防御手段である腕を犠牲にして頭をかばう。
装備している服では守備力が足りずに、ダガーは腕を貫通してしまった。

  (抜いて、回復呪文……)

顔をしかめながらも痛みに負けずに脳がはじき出した対処方法に従おうとするが、
ダガーの柄に手を掛けようとしたところで力が入らなくなり、フィリアは地面に突っ伏した。
フィリアの血が土を濡らしていく。

  「へへへ……こりゃあ思ったよりも上手くいったなぁ」
  「げほっ……フィリア……」


動かそうとしたジュードの右手の甲にもダガーが突き刺さる。
簡単に骨を貫いたその攻撃に、ジュードは剣を落としてしまう。
それは痛みからだったが、ほんの数秒で腕の感覚が無くなってしまった。

  「アサシンダガーの味はどうだ?」

余裕の足取りで歩きながら語りかけるアヴァルス。
惑わされていた先程とは違い、進行方向は確実にジュードへと向けられていた。

  「マヌーサ…効いてなかったのか」
  「いやいや、今でもニイさんの本当の姿は見えてないぜ?」
  「じゃあ何故……」
  「んまぁ、盗賊の能力を測ろうとしなかったニイさん達が悪いって事だな」
  「能力……?」

531 :暇潰し ◆ODmtHj3GLQ :2007/02/22(木) 00:17:07 ID:260lfAA50
空間把握能力とアイテム探索能力に長けている盗賊という職業。
彼はマヌーサをかけられた時からある呪文を使っていた。
その呪文の名はレミラーマ。
アイテムの場所を探る効果があり、その場所が光となって知覚されるという。
その光はマヌーサに惑わされずにジュードとフィリアの行動を彼に教えてくれた。
正確には2人の装備している道具がどう移動しているかを把握した、と言うべきか。

しかしジュードにはそんな事に思い至らない。
頭がボーッとして段々と視界が狭まってきた。
どこかで水の音がした気がした。

  「へへへ、さぁどうする? 今ならまだ仲間に戻してやるぞ?」
  「最初から仲間になんかなった覚えはないぜ……」
  「そうか、残念だなぁ…」

心底悲しそうに言う。意外に役者なのだろうか。
しかしニヤニヤ顔が気持ち悪い。

  「アンタみたいに迷ってるヤツに道を示すと何故か迷いがなくなるんだよなぁ。
   こんな仕事でもよ。
   だから引きずり込むのに調度いいんだ。分かるか?
   使い捨てが出来るって事だよ」

バカなヤツに教えてやってんだ、と言わんばかりのアヴァルス。
完全に見下されてるのが分かる。

  「けどアンタに声をかけたのは失敗だったかな?
   下手な潜入捜査のつもりか何だか知らないけどよ。
   最後で裏切られちゃあ困っちゃうよなぁ」

結局利用されるだけだったジュードを悔しさが包む。
けれど毒のおかげで、そのこぶしを握る事も出来ない。

532 :暇潰し ◆ODmtHj3GLQ :2007/02/22(木) 00:26:44 ID:260lfAA50
  「俺がいなきゃ里は見つからなかったんだぞ…
   それに…裏切ったから仕事が増えて……ふっ…!
   大好きな金が貰えるじゃねーか……
   やっぱバカなんだな…」

頭が痛い。
喉が渇いて、上手く喋れない。
毒なんか使うなんて卑怯だ…

色んな思いがジュードの中を駆け巡る。
勝てなかった。
守れなかった。
コイツの言う通り、迷いがあるせいなのか…
やっぱり分からない。
まだ求めるべき答えの糸口さえも見つからない。

  「へへ、確かにまぁそうだな。
   じゃあ感謝するよ、ジュードさんよぉ!!」

アヴァルスのアサシンダガーが再び振り下ろされる。
ジュードは動かない体に怒りを覚えながら、最後を覚悟した。
しかし神はまだジュードに終わりを告げはしなかった。
刃物が刺さるより前にポカッと間抜けな音がしたのをジュードは聞いた。
続いて人の倒れる振動が伝わってきた。

  「はぁはぁ……ったく、だらしねぇなぁ…」

薄れ行く意識の中で、濡れた眠りの杖と開けられた宝箱を見た。

533 :暇潰し ◆ODmtHj3GLQ :2007/02/22(木) 00:29:13 ID:260lfAA50
短いですが、今日はここまで。
>>528さん支援ありがとうございました。

ではまた。

534 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/02/22(木) 20:21:47 ID:ALsG+maaO
暇潰し氏乙!
戦いぶり臨場感あるなぁ。

535 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/02/23(金) 22:58:19 ID:RV9AU7xf0
ホッシュッ!!

536 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/02/24(土) 22:15:46 ID:+H8wVcyZ0
更新無くても倦まずに保守

537 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/02/25(日) 18:42:53 ID:CfuZtWcK0
自分が更新する側になる日を夢見て保守

538 :タカハシ ◆2yD2HI9qc. :2007/02/25(日) 23:36:20 ID:1ImZWZEdO
みなさんお疲れさま保守

539 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/02/26(月) 21:18:46 ID:f0edg0sb0
保守は3日に1回ほどでいいんじゃない?
最近この板では10日以上書き込みの無いスレでも落ちて無いし。
保守ばっかりで埋まるのもなんだし。

まあ、このスレ初?の1000を目指してみるのもアリか?(今325KB)



でもやっぱり保守

540 : ◆u9VgpDS6fg :2007/02/27(火) 15:55:47 ID:IbD5/7GN0
またまたお久し振りです
遅ればせながらお礼を

>>472
>>473
>>474
……(*´д`)

>>475
感謝です
ちょっと暗すぎやしないかと
最近の展開が心配です

>>481
ありがとうございます
家庭環境(?)については
どうやって書こうかなーって感じで
姉妹にはしないつもりですが
(ゲーム上ではそのへん出てこなかった気が)

>>読んでくださる方
いつもありがとうございます

541 : ◆u9VgpDS6fg :2007/02/27(火) 16:01:04 ID:IbD5/7GN0
>>タカハシさん
乙です

>>レッドマンさん
改めておかえりなさい
親子いいなあ、ほろりとしました
続き期待してます!

>>暇潰しさん
クライマックスひっぱるなあw
自分も緊迫感ある戦闘シーンを書きたいです
なんかあっさりしてしまう・・

では>>470続きです

542 :アルカパ ◆u9VgpDS6fg :2007/02/27(火) 16:02:39 ID:IbD5/7GN0

目が覚めるともうすっかり夜だった。
ビアンカは先に目を覚まし、既に装備を整えていた。
夕食をとりそこなった事に気づいたが、不思議と腹は減っていなかった。
夢なんだともう一度自分に言い聞かせる。

『起きたのね。今日こそお化け退治に行きましょ』
言いながら、ビアンカが俺の手を取って身を起こさせる。
感傷はまだ残っていたが、俺はビアンカに笑い返してその手に体を預けた。

昼間購入した装備をビアンカに見せる。
ナイフと鍋の蓋はキッチンに戻しておくようビアンカに言い、
真新しい棘の付いた鞭を手渡した。
ビアンカは嬉しそうに『ありがとう』と言い、
初めてのちゃんとした武器を物珍しそうに眺めている。

木の帽子は格好悪いから、と
ビアンカが身に付けるのを嫌がったので自分で被り、
うろこの盾をビアンカに渡した。
渋々それを左腕に装備する。

昨日と同じように慎重に注意を払って宿から抜け出すと、
夜の闇は昨日ほど恐ろしいものではなくなっていた。
月明りは煌々と世界を照らし、
草原の緑が濃い波を立てて風に靡いている。

北の城、と確認して俺とビアンカは、
北へ向かう細い道を辿っていった。

543 :アルカパ ◆u9VgpDS6fg :2007/02/27(火) 16:03:18 ID:IbD5/7GN0

戦闘は随分と楽になった。
いばらの鞭を手にしたビアンカは、昨日とは見違えるほど強くなった。
初めは扱いにくそうにしていたが、
何度かの戦闘で慣れてくると一振りで複数のドラキーを仕留め、
嬉しそうににこにこと鞭を撫でている。

『サンの言ったとおりだったわ。強くなるって楽しいのね』
昨日は苦戦した芋虫の死骸を爪先で蹴りながら、
ビアンカは鼻歌さえ口ずさみそうな声色で俺に言った。
小銭を抜き取りながら返事をして、俺は顔を上げて空を仰いだ。

青黒い空の向こう側に、暗く城の輪郭が見える。
立ち上がって声を掛けると、ビアンカは
ぴょんと跳ねるようにして俺の後ろに付いた。

一歩ずつ、足を進めるごとに城の姿が大きくなっていく。
現れたモンスターはもう簡単に倒すことが出来たが、
べったりと張り付くようにそびえるレヌール城の影が、
何故だか恐怖さえ覚えるほどに不安を掻き立てていった。

ビアンカは相変わらず、そんな不安には無頓着なように
軽い足取りで草原を進んでいく。
これが子供なのか、と俺は羨ましくさえ思った。

544 :アルカパ ◆u9VgpDS6fg :2007/02/27(火) 16:04:24 ID:IbD5/7GN0

『あら、子猫ちゃんだわ』
開け放たれた城門がすぐそこに見えるまで近付いた時、
ビアンカが唐突に声を出した。視線の先には、
町で子供たちが虐めていたのと同じような姿の動物が一匹、
こちらには気付かない様子で横切っていく。

『なんでこんな所に。あの子達町の外に捨てちゃったのかしら』
歩み寄ろうとするビアンカを制止して、俺はモンスターだよ、と囁いた。
相手はまだこちらには気付かない。このままやり過ごせるだろうか。

『モンスター?あの子が?』
俺に倣うように声を潜めてビアンカが言う。
頷いて、同じだけどあの猫じゃない、と俺は言った。
ビアンカの瞳が少しだけ真剣になる。
『じゃあ、あの子達モンスターの仲間を虐めてたの?』
もう一度頷いて、俺はモンスターに目をやった。
ビアンカは信じられないという面持ちで俺の顔とモンスターを見比べている。

ざわ、と風が抜けた瞬間。
通り過ぎかけていたモンスターがひくりと鼻先を震わし、
警戒するようにこちらを振り向いた。
その視線が俺の視線を捉え、剥き出した牙の隙間から
ぐるるる、とこちらにも聞こえるような威嚇の唸り声を上げる。

『猫ちゃん・・・』
呆然とその姿を見つめるビアンカの隣で、俺は武器を抜いて身構えた。
敵の視線が俺とビアンカを見比べ、無防備な少女の前で止まる。

545 :アルカパ ◆u9VgpDS6fg :2007/02/27(火) 16:05:19 ID:IbD5/7GN0

「ビアンカ!」
敵が地面を蹴ると同時に俺は叫んだ。
びくりとビアンカが肩を揺らし、反射的に盾を目の前に掲げる。
敵の牙は盾に弾かれたが、ビアンカは衝撃で後ろに転び尻餅を付いた。
立て直す前の敵の背中に一撃を食らわす。
相手の背中から僅かに液体が飛び散り、武器を汚した。

ぐるる、とまた敵が唸った。
「ビアンカ!」
もう一度呼びかけると、ビアンカは
思い出したように立ち上がり、武器を手に取った。
その手に未だ迷いがあるのが解る。

モンスターはこちらを伺うように唸り声を上げている。
俺のつけた傷が痛むのか、時々僅かに表情をゆがめている。
後一撃あれば、多分倒せるだろう。

止めを刺そうと武器を構えた直後、
ビアンカが何ごとかを発したのが聞こえた。言葉が聞き取れない。

振り向こうとした時、辺りが赤い色に染まった。
眼前を横切って、真っ赤な炎の塊がモンスターに向かって行く。
ビアンカはさっきのままの姿勢でそれを見つめている。

ぼん、という炎のぶつかる音と、モンスターの悲鳴が響き、
余韻も残さずに闇に溶けて世界が沈黙した。

目の前がちかちかする。
目を開けても、ネオンのような緑色の炎の残像が
闇に慣れた眼球を追いかけて視界を濁らす。
何度か瞬きをしながら俺は、ビアンカの傍に歩み寄った。

546 :アルカパ ◆u9VgpDS6fg :2007/02/27(火) 16:08:53 ID:IbD5/7GN0

『あたし、今・・・』
自分の両手を見下ろしながら、ぽつりとビアンカが呟く。
『・・・びっくりしたわ。呪文って凄いのね』

自らの放った炎に呆然としながら、ビアンカが言った。
少女の目に迷いはもうなかった。
見えるのは、純粋な感動と、おそらくは、快感。

まだぼんやりと自分の手を見下ろしているビアンカに、
俺は行こう、とだけ言って城の正門に向かって歩き出した。

何故か胸糞悪かった。
「猫ちゃん」を心配しながら、同じ生き物に手を挙げる。
結局自分もそうなのだ、それは理解しているつもりだけど。
同じ事をする、それを楽しむ、無邪気なビアンカの振る舞いが
今になって何故か哀しかった。

この世界では当たり前だ。
モンスターを殺すことも。自らの強さに酔うことも。
自分だってそうじゃないか。何の疑問も持たずに、異形と判断した生物を。

この世界では。この世界では。
それなら俺の世界はどうだ。
同じことをしていないと、言い切れるのか。
俺はどうだ。
何の迷いもない、それは正しい、本当にそうか。
それなら俺は、この世界では異形のものではないのか。

近付くごとに城が月を遮って、俺は暗闇に足を踏み込んでいく。

547 : ◆u9VgpDS6fg :2007/02/27(火) 16:10:31 ID:IbD5/7GN0
本日ここまでで
ありがとうございます

投下ペースに書くペースが追いつかず
書き溜めが尽きそうです(笑
またゆっくりになるかも

次回も宜しくお願いします

548 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/02/27(火) 17:11:48 ID:KokievsS0
乙!
ビアンカ、可愛いなーと読み進めていたが、後半の展開にやられた。
後々メラゾーマをぶっ放す素質ありありですなw
主人公の自然と魔物使いに進みそうな、心の動きが上手い。

549 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/02/27(火) 20:21:46 ID:kHsBzMgt0
乙。
現実であれば、魔物と動物の境界なんてないも同然。
その動揺が当たり前で、なんか悩ましいな。なんともいえない。

550 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/02/27(火) 21:06:52 ID:3MaoOlEF0
イイヨイイヨ〜(・∀・)

551 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/02/27(火) 21:25:38 ID:/65jXd/00
今回も面白かった
主人公達と一緒に◆u9VgpDS6fg 氏の文才もLVうpしてるかんじ
続き期待。

552 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/02/28(水) 01:36:39 ID:QVsXJWAO0
うわー、深いです。
ビアンカちゃん、こんなことでこれからやっていけるのかな・・・とおもったら、この展開。
子どもゆえの、無邪気さゆえの残酷さっていうの、ありますよね。
猫ちゃんをいじめていた子ども達と2人がかりで魔物を殺す主人公達とどう違うのか。
いろいろ考えさせられます。

553 :タカハシ ◆2yD2HI9qc. :2007/03/02(金) 12:54:01 ID:lIB7wMEE0
みなさま、お久しぶりです。
久しぶりにまとめサイトを更新させていただきました。
職人のみなさまお疲れ様です。
タカハシの物語は、続きを書いてあるんですが時間がないため、
直接まとめサイトへ掲載させてもらいました。
まとめのトップからリンクをクリックしてください。
スレへの投下が出来ず、申し訳ありません。

では、また忙しくなるのでそのうちに。

554 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/03/02(金) 17:53:41 ID:15ZBRHuq0
タカハシ氏乙です!

555 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/03/02(金) 20:42:49 ID:i7N9WZTX0
更新日が未来になっとります

556 :タカハシ ◆2yD2HI9qc. :2007/03/03(土) 02:52:22 ID:3GwpAAS3O
>>555さん
気づきませんでした…

まとめも途中のをアップしてしまってるし、急ぐとロクな事がないですねorz
折りを見て直しておきます。

557 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/03/04(日) 23:15:12 ID:PjVleOkg0
ちゃんと感想書けないけど楽しく読ませてもらってるよ保守

558 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/03/06(火) 07:42:00 ID:QZXOzw+70
二日で保守

559 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/03/07(水) 22:33:12 ID:+tQVb8sJO
ほす

560 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/03/09(金) 00:49:15 ID:jX3MZagJ0
守って保つぜ!

561 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/03/11(日) 01:42:27 ID:1XUevERK0
◆u9VgpDS6fg さんの作品を読んで、DQ5引っぱり出してきちゃった
まとめサイトでも時間を忘れて読みふけってます
ゆっくりと練ってから更新してください。期待してます
と言うわけで、保守。

562 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/03/12(月) 11:31:06 ID:yy8ZLuG50
このスレ向きじゃないか?
ttp://eucaly.net/~iso50/createStatus/createStatus.html

563 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/03/12(月) 23:52:42 ID:aYNNQch30
>>562
FC版の夜の青色が大好きだったんだ
癒されるw

564 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/03/14(水) 01:56:23 ID:5B1ERKLv0
帆狩

565 :焼肉屋:2007/03/15(木) 11:03:49 ID:qf/eOLKpO
あげ奠奠

566 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/03/15(木) 14:00:15 ID:aSIdlme20
hssry

567 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/03/15(木) 15:13:15 ID:7fQyUflqO
久々に>>1から読みふけった

568 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/03/15(木) 20:42:00 ID:oIMRaKZH0
tennou-ha sini-masi-ta

569 :焼肉屋:2007/03/16(金) 10:30:33 ID:LPYWJ/HlO
あげ

570 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/03/17(土) 10:01:28 ID:L719GYpYO
保守

571 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/03/17(土) 20:10:15 ID:8GZC5S8i0
4の人もうこないのかな(´・ω・`)

572 :終章  ◆gYINaOL2aE :2007/03/17(土) 20:25:50 ID:irPHk7bj0
終章

ピサロがデスパレスに戻って来た時の魔物たちの反応は様々だったが、大半が彼の帰還を喜んでいたのには驚いた。
意外と人望があるのか…いや、魔望…魔にとっての希望なのか。この男が。
玉座まですんなりと昇って行くと、そこには巨体の魔術師がいた。

「エビルプリースト…」

「ピサロ様…いや、ピサロ。今更のこのこと戻ってくるとはな…」

「愚か者め…それは私も同じか。多くは語るまい。それこそ…今更だ」

魔界の剣を抜き放ち、ピサロが構えるのと同時に、ソロ、ソフィア、アリーナが臨戦態勢に入る。
俺もまた剣を抜き、皆より一歩下がった場所で構えた。すぐに術の構成に取り掛かる。
エビルプリーストの身体が変化する――それはデスピサロと同じ変化だった。
腕を飛ばし、頭を潰したあの状態へと変化し、腹に眼が浮かぶ…まるであの戦いを早回しにしたかのような。

「進化のスピードが速まっている…?」

「デスピサロの時と同じ、という事はあの変化がやっぱり進化って事になるのかしら。…私、進化したくないなあ」

最後の決戦が始まる――。
そう、息を呑んだのは良いのだが。

「睡魔(ラリホーマ)」

ソロのラリホーマで一発で寝るエビルプリースト。
ちょ、いいのか!?緊張感たりなくね!?

俺が内心突っ込んでいるとさっさと攻勢力向上(バイキルト)をかけろと言われる。
いいじゃないか…どうせピサロも使えるんだし。
ま、ソフィアに対して使われるとむかつくから俺がやるけどさ!

573 :終章  ◆gYINaOL2aE :2007/03/17(土) 20:26:23 ID:irPHk7bj0
ピサロが回転しながら宙を移動し(!)ソロ、ソフィア、アリーナが打ちかかる。
俺とミネアは後方待機だ。正直、この面子で負ける気がしない、というのが俺の本音。
特にピサロがなあ…あれ変態だわ。
豊富な魔術に強力な剣技。修正してください。

あっという間にエビルプリーストの形態が変化していく。
最早――敵では無かったのだ。その、最初から。
彼奴が死に物狂いで吐き出した冷たく輝く息でさえも――ミネアのフバーハで威力は著しく軽減され、ソロの極限治癒(ベホマズン)が全てを無かったことにする。
アリーナが会心の一撃をぼこぼこに繰り出すし、ピサロは自分に攻勢力向上を施し魔界の剣を振るう。
そして――ソフィアだ。
あの狭間の世界での戦いは彼女を飛躍的にレベルアップさせたらしく、今や彼女の剣は比類なき冴えを放っていた。

「ば…ばかな……。
……それとも これも……進化の秘法が…見せる幻影…なのか……」

ざらざらとした風化し、消えてゆく。
最後まで魔族の王を自称した、愚かな末路。

「……バカめ」

ピサロがぽつりと呟いた。
彼にとっては、愛しき者を奪った憎き敵。で、ある筈なのに。
その眼には憐憫の光が宿っているように思う。
そんな彼のマントの端を、離れて見守っていたエルフの娘がそっと握った。

――そのときだ。
あの、忘れがたい声が響いてきたのは。

声は誘う。
勇者を、天空の城へと。

眩い光が辺りを覆う。ソフィアは、思わず瞳を閉じた…。

574 :終章  ◆gYINaOL2aE :2007/03/17(土) 20:26:55 ID:irPHk7bj0


外に出ると、馬車もまた消え果ていた。
その場に残されたのは、俺と、ロザリーと、ピサロ。

「私は仮にも魔族を束ねるものだ。天空の城に暢気にはいることなど無い」

そう言い捨てて、魔王は歩き出す。
城を出るまで何かしらに集中しているような素振りを見せていたのは、ソロとソフィアにメッセージを投げていたらしい。
…意外と律儀な男だ。

「何をぼんやりしている。速くついてこい」

「……」

「お前とは話したいこともある。
それに…此処に残りたいのか?」

「まさか。…けど、そうだな」

ニヤリと笑うピサロ。
俺はなんとはなしに背後を振り返り――その幽鬼のような城から避けるように前へと進み始めた。
って前は魔王じゃん!ロザリーの後ろについていこう…。

575 :終章  ◆gYINaOL2aE :2007/03/17(土) 20:27:49 ID:irPHk7bj0


ロザリーヒルの丘から空を進む気球を眺める。
のどかな気球の旅が何処か懐かしい。
やがて、ピサロが一人、こちらへと歩いてきた。

「もう、いいのか?」

「ああ…」

俺の問いにピサロは短く答え、歩き出す。
ゆっくりと…小さくなっていく気球から、未練を断つように。

俺はキメラの翼を空に放り投げる。
ブランカへ――だが、空に舞った羽はそのまま地に落ちた。

「ダメだな…そっちは?」

「少し待て。行ける所を探す」

ピサロが瞬間転移(ルーラ)の術を紡ぐ。
だが、それも中々発動しない。暫くの時が流れ、ようやく発動したその術で、俺たちは草原のど真ん中へと現れた。
この風景は…見覚えがある。…そうか、ここは…ブランカの東…か…。
俺達は逸る気持ちを抑え、歩き出した。




576 :終章  ◆gYINaOL2aE :2007/03/17(土) 20:28:26 ID:irPHk7bj0
「今頃、どの辺にいるのかな」

「さてな」

「まずはサントハイムだな!
鳥卵がサントハイムの人達をこっちに帰してくれてる筈だし、今頃アリーナは喜んでるだろうなあ」

飛び跳ねて王に駆け寄る娘。
それをしっかりと受け止める、頼もしき王。
王と兵は姫の帰還を喜び、姫とその忠実なる僕二人は王と兵の帰還を喜ぶだろう。
そして、勇者により世界が救われたことを。

「宴が何日も催されたりして…だけどあんまり長居もできないから、こっそり抜け出してたりしてな」

「あの姫君のことだ。恐らくそう簡単には…そうだな、ソロが残ったかもしれん。アレがいれば暫くは収まるだろう」

「じゃあ次はバトランドだな!ライアンは王宮戦士だから…やっぱり宴とかかなあ」

「あの国は武人の国だ。華美な催しは得手ではあるまい…皆も故郷へ帰りたいと思えば早めに辞しているやもしれん」

「なるほど。…その次はエンドールかな。トルネコさんの奥さんの料理は美味かったなあ…ってそういえば城の中にデスピサロにビビッてるのがいたような…」

「なんだそれは?」

「なんだったかなー剣幕にビビッた思い出。その後はモンバーバラ…かな?」

「…あの小さな村かもしれないな」

「…ああ、そうか。そうかもしれない…」

577 :終章  ◆gYINaOL2aE :2007/03/17(土) 20:30:24 ID:irPHk7bj0
夜が更け、梟の鳴き声が聞こえる。
ぱちぱちと木の爆ぜる音。
静かな森には虫の声も響き、賑やかなことだった。
尤も。
仲間が皆一緒だった旅とは比べ物にはならなかったが。

「それで…」

長い沈黙を破り、ピサロが口を開く。
放った薪がぱちっと乾いた音を立てて燃え上がった。

「何処まで気付いた」

「……ああ」

何処まで――または、何を。

「マスタードラゴンは進化の秘法を使ったな?」

ほう、とピサロの眼が見開かれる。
彼の眼は、彼の神のそれとは違う。
小さなものを見るような眼ではない。彼は、魔王は今、対等に俺を見ている。

「どうしてそう思う?」

「天空城にあった書とエドガンの手記を読めば誰でも想像がつくさ。
ヤツが元々何であったのかは解らない。だけど、究極の進化とは何か――それをあの姉妹の親父さんは掴んでた。
即ち、神へ至る道、だ。そもそも錬金術っていうものは…そういった術、学問であったから」

「…かつて、エスタークと呼ばれた存在がいた。
彼は…神と同じ道程を辿り究極の進化を遂げ、比類なき力を手に入れようとした。
が…神は一つの世界に神が並び立つことをよしとしなかった」

578 :終章  ◆gYINaOL2aE :2007/03/17(土) 20:30:58 ID:irPHk7bj0
「だから、封じた。滅ぼさなかったのは…さて、誤算か意図か、どちらでも良いことかな。
神への反逆者を地獄の帝王と断罪し、地の底へと」

「地上にとっては平和な時間の始まりだ。
だが…奴にとってはその平和な時間も…酷く、退屈なものだった」

深い森。ブランカからこの場所までの道に存在する民家はたった一件だけ。
もう少しで…辿り着く、彼女の村であった場所。

「一人の天空人と一人のきこりの間に産まれた運命の子供が育った村を魔王に滅ぼされ…。
導かれし者達と共に魔を打ち倒す物語…」

「そう。それが数十…数百万と繰り返されてきた。もっとも…私の結末は、流転したが…それも大枠を外れることはない」

「そして…」

「……。急ぐぞ。休憩は終わりだ」

俺たち二人は火の始末をし、再び歩き出した。
嘘であれば良い。
だが、嘘では無いだろう。そう…確信していた。
あの眼をしたものならば、やるだろう。そこに躊躇いなど…あろうはずもない。

懐かしい…風景。
彼女と二人で走った森。
先にあるのは、絶望の象徴。
ああ――なんて、酷い。此処はただの更地では無い。更地であれば良かった。
此処には、人の住んでいた痕跡がある。

579 :終章  ◆gYINaOL2aE :2007/03/17(土) 20:32:34 ID:irPHk7bj0
「私は…後悔はしていない」

ピサロがぽつりと呟く。
ともすれば眼を逸らしたくなる光景を見据え、俺もまた後に続く。
やがて、村であった土地の中央部が見えてくる。
懐かしい…そう、確かあそこには…花畑が――ある訳が無い。

だって、あの土地は焼き尽くされたから。
今尚、爪痕は痛々しく残り、ぼこぼこと不気味な気泡を時折噴き出す浅い沼のようになっている。
そして、その中央に。

「――――――――――」

嘘だと。
言って欲しかった。なのに、ピサロはただその沼地を見詰めている。
俺はふらふらと歩き出した。
ふらふら、ゆらゆらと、夢遊病にかかるとこんな足取りになるのだろうか。
だって、まるで夢心地。
そんなことはあってはならないことだから。なら、それは夢であるべきで。

「……ソフィア」

青白い顔をした少女。
沼地の中央で、まるで眠っているかのよう。
幸せそうに微笑んでいる。きっと、楽しく、嬉しい夢を見ることができたに違いない。
…末期の、夢は。

半分ほど沈み込んでいた少女の身体を引き摺り上げる。
びりびりと、毒素が俺の身体を苛むがそんなことに気を割いている余裕などない。
いや…余裕はあったのかもしれない。
もう…手遅れであったから。

580 :終章  ◆gYINaOL2aE :2007/03/17(土) 20:33:25 ID:irPHk7bj0


仲間を送り、勇者は独り育った村へと戻る…勇者には、そこしか行き場所が無かったから。
滅んだ村――その中央で。勇者は俯き、背負った盾が地に落ちる。

そのとき、奇跡が起きた。
勇者の周囲、毒の沼地がかつての花畑へと変貌し――喪われた命が一つ、輝きを取り戻す。
再会。そして、勇者の仲間たちが駆け寄る……。
まさに絵に描いたようなハッピーエンド――とてもとても、幸せな…夢。


ピサロが行う完全蘇生(ザオリク)の呪。
彼女の瞼は…開く事は無い。

「魔王、などと呼ばれても…神の呪には、届かない。
情けない話だがな…」

「…………」

声も無い俺を、ピサロは責めることはなかった。
ただ、少しだけ…悼ましそうな眼をして。何かに気がついたかのように、森へと視線を転じる。

「…来たか」

荒い息遣いで現れたのは…ソロだった。
呼吸を整える間すらも惜しんで駆け寄って…そして、知る。最愛の妹の…●を。

581 :終章  ◆gYINaOL2aE :2007/03/17(土) 20:34:03 ID:irPHk7bj0
うぐ。ぎ。ぐう。
ギイ…がぐううううううう嫌だ嫌だ嫌だ認めない知らない…。

違う。
それじゃダメだ。それじゃあ何一つ…俺は成長していないことになる…。
俺の存在。俺の運命。俺の…為すべきこと、成したいと思うこと。

「ソフィア…こんな…。
本当に、これは…奴の…ピサロ、お前が常々言っていた、神の仕業なのか…」

「…確かめてみるがよかろう。彼の神に、直接、な」

「ピサロ…そう、だな。…そうしよう」

勇者と魔王。
決して並び立つ筈のない存在が今再びその道を同じくする。
そして――。

「……行こう」

二つの影が、三つに増える。
全てを終らせる為に。
全てを、変革する為に。
終らない物語を終らせる…為に。

582 :神殺  ◆gYINaOL2aE :2007/03/17(土) 20:36:25 ID:irPHk7bj0
天の玉座に竜の神。
世界を統べる、絶対たる王。
その王の前に今、三つの矮小な命がある。

勇者も。
魔王も。
彼の存在にとっては、吹けば飛ぶ程度のものでしかない。
それを、まるで魔王は自分と匹敵するかのように…。
勇者が魔王を打ち倒せる唯一の存在であるかのように…。
祭り上げ、おためごかし、意のままに操り。

「デスピサロ…いや、ピサロ、か…。
そなたも懲りぬな…」

「……」

「数十万という途方も無い数を、たった独りで私に挑み、その度に破れ…。
少々、飽いた。今回は中々に楽しめたというに最後がこれでは――」

「マスター…ドラゴン」

「――ほう。ソロか?ソロもいるのか――これは、そうか…」

喜色を浮かべるマスタードラゴン。
それに対し、疑問とも戸惑いとも言える表情でソロは問う。

「貴方が…ソフィアを…」

「ああ、そうだ。あの結末は私が用意した。
悪くはないだろう?帰るべき場所は既に滅ぼされ…待つ人のいない村に独り戻る勇者…。
本来絶望しか無かった者へのせめてもの手向けだ。実際、あの娘はよくやってくれた」

583 :神殺  ◆gYINaOL2aE :2007/03/17(土) 20:37:03 ID:irPHk7bj0
「お、前が……」

「ふむ!それにしても――そうか、魔王と勇者がな…悪くない、実に悪くない。
これも、そのイレギュラーのお陰か…」

竜神は自分の手柄かのように喜んだ。
いや、実際にその通りであったから、かのように、というのは正しくない。

「お前が…俺を喚んだんだな」

「そうだ。私が喚んだ。同じ結末にも飽いていたのでな、別の要素が欲しかったのだが――。
お前は実によく動いてくれた」

最早語るべき言葉はない。
こいつが…ソフィアを殺した。
こいつが…ソフィアにあんな運命を課した。
こいつが…こいつが…!!

「お前が…!」

「――貴様が」

「お前がぁぁぁ!!!!!」

「「「――殺す!!!!」」」

「吠えるな…矮小なるものよ。やれぬことを叫ぶことほど、虚しきものもない」

巨大な竜に立ち向かう三人の男たち。
それぞれに握られる剣――天空の剣。魔界の剣。ドラゴンキラー。
戦いを報せる鈴の音が響くかのように、三本の剣が打ち鳴らされる!

584 :神殺  ◆gYINaOL2aE :2007/03/17(土) 20:37:44 ID:irPHk7bj0
「ふふ…魔王単体よりかは楽しませてくれるのだろうな…」

ドラゴンは動かない。
その玉座から、まるで動く必要が無い、かのように。

俺の補助呪文を受け、ソロが左から斬りかかる。
それに呼応するかのように、ピサロは右へと回り込み魔神のごとき迫力で斬りかかった。
目線すら交わさない、なのに鏡で写したかのようなコンビネーション。
今にも刃がその皮膚を引き裂こうとした瞬間、ドラゴンの両翼が大きく開く。
勇者と魔王。
その圧倒的な力を持つ両者を…まるで、羽虫を払うように…無造作に…弾き散らす。

「――ちぃ」

「どうした、ピサロよ…それでは、何も変わらぬではないか…。
今度こそ…我を動かしてみせろよ?」

「黙れ!!」

ピサロが素早く印を組む。
最上級の爆裂呪文。それを見越し、ソロもまた呪の詠唱に入る。

戦いは続く。
神と魔と人。
そして、そのどれでもないもの。
まるで導かれるかのように集い、滅ぼし合う。
そうだ。それはどの世界でも起きた、起きている、起きるであろう戦争だ。
ときに神が勝ち、ときに魔が勝ち…そしてときに人が勝つ。
どこまでも不公平で、平等に訪れる筈の結末を彼等は奪い合う。


585 :神殺  ◆gYINaOL2aE :2007/03/17(土) 20:38:14 ID:irPHk7bj0


満身創痍の三人とは対象的に…彼の神はせいぜいが身じろぎをした程度、一歩たりとも元の場所から動いていなかった。
荒い吐息が響く中、神はつまらなそうに…言った。

「やはり、この程度か…興が醒めた」

小さい咆哮。
それは扉の外への合図だ。
今の今まで、扉の外で待機していた有翼の戦士たちが、玉座の間に雪崩こみ狼藉者を押さえ込む。
万全の体勢ならばともかく、今の俺たちではそれを跳ね返すこともできず――。

「――なに?」

ざっ。
どっしりとした足取りで、荘厳な天空の城の床を踏みしめ。
ざっ。
一陣の風を纏い目にも留まらぬ速度で勇者に駆け寄り。
ざっ。
その速さゆえに突出しがちな主を支えるべく。
ざっ。
叡智を宿した眼光で辺りを睨みながら。
ざっ。
おっかなびっくりとした足取りで。
ざっ。
傷ついた勇者と魔王と一人の男に治療を施し。
ざっ。
絶望に満ちた空気を払拭するかのように、自信に満ちた笑みで。

「みんな――」

彼ら、彼女らが並び立つ。

586 :神殺  ◆gYINaOL2aE :2007/03/17(土) 20:38:49 ID:irPHk7bj0
「――今回は、あんたを責めないわ」

にやりと口の端に笑みを浮かべながらも、マーニャの頬にはうっすらと汗が見える。
感じているのだ。眼の前の存在の、プレッシャーを。

「そうでしょ?アリーナ」

「うん。その時間すらも、惜しいから」

勇者の隣に立ちながら、その愛らしい耳を飾っていたピアスを外す。

「それに、ソロも――信じていてくれたでしょう?どこかで、期待してくれたでしょう?」

「…ああ。していたよ。来てくれるんじゃないかって。だけど――まさか、全員とは」

「私たちは皆、自分の意志で此処に来たんですよ」

トルネコが正義のそろばんをしゃらりと鳴らす。

「…良いのか。お前には、妻も子も居るのだろう」

「らしくもない。貴方には、ロザリーさんがいる。なのにどうして此処にいるのです?」

「……」

「譲れないのですよ。臆病で、愚鈍な私でも――ね」

「お主は愚鈍でも、ましてや臆病でも無いわい」

つまらなそうに、当たり前のことのように言う老魔道士。
彼の言葉に占い師が頷く。

587 :神殺  ◆gYINaOL2aE :2007/03/17(土) 20:40:47 ID:irPHk7bj0
「あの戦いを潜り抜け、そして尚この場に立つものがどうして臆病なのでしょう」

それは、神官へと向けたものでもある。
彼は震えていた。
好意的に見れば武者震い。だが、残念ながらそれだけではない。
神に仕える彼は…今、自分で自分の半生を否定しようとしているのだ。

「…恐ろしいか…クリフト殿」

「ライアンさん…ええ…否定しても仕様が無い…私は、怖い。怖くて仕方が無いですよ――。
なのに、どうして…私の足は前へと進むのでしょう?」

「それは、貴公が――そう、その言葉は何でも良いのかもしれぬ」

男だから。女だから。戦士だから。勇者だから。仲間だから――。
それら全てを内包した、掛け替えの無い友が今、集う。

それなのに、そこには一つだけ、影が足りない。

「ねえ、貴方――あれ?私、どうして貴方の名前が解らないんだろう……」

アリーナが俺に声をかけてきた。
彼女は必死で何かを思い出そうとしている。
思い出は、ある。
そう、あの夜の帳の降りた船の上で――私は、彼と話をした。そして、彼の名前を呼んで――。

それはマーニャも同じだ。
何故、彼の、青年の、少年の名が思い出せない?
彼は自分の下僕で…弟子で…ほっとけない、弟みたいなヤツで…。
ああ!それなのに!

588 :神殺  ◆gYINaOL2aE :2007/03/17(土) 20:41:58 ID:irPHk7bj0
ミネアが沈痛な面持ちで俯いている。
全てを知った彼女は、ある意味で尤もこの日を恐れていたに違いない。
伺うように俺の顔を見て…そして、少し意外そうな表情へと変化する。

「ソフィアが死んだ」

俺の言葉が彼らに衝撃を生む。
足りない影。彼らの中心。あの少女が――死んだ。

「…完全蘇生(ザオリク)は!?」

「届かなかった。…ザオリクで蘇ることができるのは、導かれし者たちだけ…そこに居る、神に、な。
神が導くことがなくなれば、それはもう導かれし者達ではない…」

「そんな…どうして…」

アリーナの問いに、玉座で薄ら笑いを浮かべていた神が身をよじる。
それは解らない者にたいして教えたい、という欲求。

「簡単なことだ。幻惑(マヌーサ)で毒の沼地に誘い寄せ、睡眠(ラリホー)で眠らせる。
邪魔が入らぬよう瞬間転移(ルーラ)を封じれば…」

たった。たったそれだけで。
勇者が死んでしまった。勇者と言えど――それで、死んでしまうのだ。
それはつまり、勇者ではない彼等はそれ以上に簡単に――死んでしまう、ということ。

「それでも尚、向かってくるか…?今ならば、お前たちだけ救うこともやぶさかではないぞ。
実際、お前たちはよく楽しませてくれた…これは私からのせめてもの、礼だ」


589 :神殺  ◆gYINaOL2aE :2007/03/17(土) 20:42:58 ID:irPHk7bj0
ブライはその慧眼で冷静に観察していた。
その発言の真意は何処にあるのか、を。
此処に居る全員が自分に立ち向かってくることを恐れているのか、を。
しかし残念ながら、神にとってそのような駆け引きはあまりに興味の無いものであったようだ。
彼は死闘を覚悟する。
撤退?ハハハ、この状況でそんなもの――彼女の臣下になったそのときから、考えることはない。

「――ソフィア……私の親友を、よくも……!」

「…姫様」

「止めるの?ブライ?…解ってるわ、私だって…だけど…だけど…!私は…!」

「速度上昇(ピオリム)」

老魔道士の魔力を受けて、アリーナは驚きに目を見開く。

「さあ、背はいつものようにお任せあれ。
サントハイム宮廷魔術師の、そして我が国の誇るべき姫君の教育者の名に恥じぬ働きをいたしましょうぞ」

「うん!」

嬉しそうに微笑む美しい少女。
彼女の笑みは――若き日の己が見た王妃の笑みに、よく似ていて。
老魔道士は不覚にも目頭が熱くなるのを覚える。

「ほら、泣いてないでやるわよ、おじいちゃん」

「ふん…黙れ小娘。遅れを取るでないぞ」

「それはこっちの台詞!」

590 :神殺  ◆gYINaOL2aE :2007/03/17(土) 20:44:03 ID:irPHk7bj0
ぱん!っと鉄の扇が開かれる。
踊り子の象徴とも言うべき華麗なる武器を持ち、彼女は戦いに挑む。

「フォローは任せて、姉さん」

「ミネアさんは…複雑、では無いのですか…?」

恐る恐る訊ねたクリフトに対し、ミネアは迷いの無い凛々しい表情を浮かべている。

「はい。私は、姉さんを信じています。勇者様…ソフィアさん、ソロさん…そして仲間の皆さんを信じています。
私に声をかけてくれたのは、神様よりも…皆さんのほうが、多いですから。
…ですが、一つだけ、私にも訊きたいことがあります。
…ハバリアの町の近くのほこら…あの場にいた女性を消したのは…」

「私だ。そも、地底に封印されていた地獄の帝王がどうして聖なる神の御使いを消すことができる?」

「――そう、ですか」

ミネアが、クリフトが、めいめいの武器を構える。
彼らの前に立つのは、ライアンとトルネコだ。
良き父と、頼もしき戦士はまだ若い彼らの壁になるかのように、神との中間に立ち塞がる。

「トルネコ殿。くれぐれもご無理はなされぬよう」

「ええ、心得ておりますとも。――全員で、帰りましょう」

頼もしき男たちが前線を張る。
果たして、永き時を共にしてきた仲間達の、最後の戦いが始まった。

591 :神殺  ◆gYINaOL2aE :2007/03/17(土) 20:45:18 ID:irPHk7bj0


マーニャは、考えていた。
自分には天賦の才がある。
だが、その才を持ってしても――ピサロの術には適わない。
人間と、魔王。
その器の差は如何ともし難くて。
全く同じ術なのに、彼女の術は魔王のそれに劣る。

ブライには、敵を攻撃する以外にも仲間を補助する術がある。
翻って自分はどうだ。
その魔術の強力さに胡坐をかき、ただひたすら敵を圧倒する術しか学ばなかった。
勿論、それには仇討ちのためという理由もあった。
だが、仇討ちを完遂した後もひたすら敵へと力をぶつける魔術を習得し、補助といえば精々がトラマナぐらい。
その甲斐あって手に入れた極大の爆裂呪文であったのに、それすらもあっさり魔王に奪われ。

自分は間違っていたのだろうか?
なんのことはない。
彼の師だなどと言ったって、自分が道を間違えていて誰を導くことができるというのか。

竜神に立ち向かうアリーナ。
彼女は巨大な存在に怯むことなく、打ちかかっていく。
親友を殺された、純なる怒りが彼女を怯えから守り、その拳閃をいつもよりも輝かせる。

嘗ては、アリーナとマーニャはパーティーの要であった。
マーニャにとってアリーナはもう一人の妹であり、いつも前線に出張り危なっかしくも助け甲斐のある少女であった。
なのに――。

「随分と、離されたもんだわ」

知らずのうちに苦笑が漏れる。
そんな彼女に、俺は声をかけた。

592 :神殺  ◆gYINaOL2aE :2007/03/17(土) 20:46:10 ID:irPHk7bj0
「そんなことはない。師匠(マスター)には、師匠の成してきた道がある」

「私の道?」

「そう。火力を追求してきた道。その道をきたからこそ手に入れられたものがある」

マーニャは少し驚いていた。
彼はいつのまに、こんなに大人びた表情をするようになったろう?
天空の城に来るまでは…まだ違う。
そう、この城で彼とソフィアは一時的にパーティーから離脱し…魔界で合流した、その後から…?

この少年、この青年、この男――今やどれでも形容できる存在は、果たして何を学んだというのか?
何を知れば、このような表情ができるのか――?

「この世界にとって、彼の神の影響は絶大だ。
だが――この世界のものじゃ、なければ。あったじゃないか、マーニャ。君がプライドを捨ててまで手に入れた、小さな灯火が」

瞬間、マーニャの全身に電撃が走る。
マーニャ自身が辿り着いた最後の、危険を伴う賭け。
命が惜しいわけではない。下手をすれば仲間をも巻き込みかねない、最悪の呪であるから。

「マーニャなら、大丈夫さ」

だというのに、あっさりと。

「…むかつくわ。少しはいい男になったじゃない」

「喜んで欲しかったな」

「――いいわ。見せてあげる。これが、私の、天才魔術師マーニャちゃんの、最終、最奥の秘術…!」

593 :神殺  ◆gYINaOL2aE :2007/03/17(土) 20:46:51 ID:irPHk7bj0
――我は請う。
最古の力。最古の魔。
最古の闇が灯す暗い炎。


「この血肉をもって契約を!」

マーニャの背中から闇が噴き出した。
仲間達が驚いたように振り返るが、彼女自身が感じているのは噴き出す霧ではなく肩にかかる手であった。
憎悪…嫉妬…怨嗟…彼女が思い出したのはバルザック。
父を殺した憎むべき仇。
ヤツの、いやらしい笑み――。
だがそれに身を任せることはない。旅の中、その心を成長させた彼女が闇に囚われることはない!

「異界の魔王の召喚…素晴らしい…」

神がぽつりと呟く。
その驚嘆に対して、マーニャと魔王がニヤリと嗤う。

「今だ!!!」

ソロの号令が響く。
息のあった動きで、全員が動き出す!
補助呪文が仲間の背を押し、魔法と剣戟に神が一瞬無防備な姿を晒す。

「さあ…いくわよ!大魔王の炎(メラゾーマ)!!」

594 :神殺  ◆gYINaOL2aE :2007/03/17(土) 20:47:47 ID:irPHk7bj0
魔王の御名を冠する炎。
それはメラに相応しいとてもとても小さな火の玉。
真っ直ぐに、レーザーのように標的の元へと飛来し、着弾。
巻き上がる渦――焔の渦の中、悶える竜の影が見える。
仲間達から喝采の声があがる。
そして勿論、そこで手を緩めはしない。
ソロが、アリーナが、ライアンが。そして俺もまた、畳み掛けるために疾駆する。

じりっ。
うなじの毛が逆立つ感覚。その感覚を理解したときにはとき既に遅く。

巨大な焔渦を吹き散らし、両の腕でソロとアリーナを吹き飛ばし、冷たく輝く息でライアンを迎撃する。
そして最後の俺には。
既に宙に浮かんでいる俺には何が起こったのかは解らない。
その羽ばたきにすら俺の身体は耐えることができなく宙へと浮かび。
避けられるべくもない尾撃。

ぶつりっと、いやな音がした。
その音は全員の耳に響き、そして否がおうにも現実を直視させる。
男の身体が二つに断たれている。
胴と、足と。
足の方が天空城の床に落ち、胴の方は遠くに弾き飛ばされ、大地へと吸い込まれていく。

「はは…ハハハハハ…よくぞ我を玉座より立ち上がらせたものだ…。
良いだろう!久方ぶりに血沸き肉踊るわ!!」

人々に神と崇められる存在の、愉悦の混じる哄笑が響き渡った。

595 :神殺  ◆gYINaOL2aE :2007/03/17(土) 20:48:27 ID:irPHk7bj0




落ちていく。
空の城より、地上へと。まっさかさまに。
腕が動く感覚はある。足の動く感覚は無い。
ごうごうと唸りをあげる大気もやがて気にならなくなり…そして俺は自分が落ちているのかどうかも解らなくなった。

目を覚ます。
いや、気絶していたのかどうかも解らない。
ただ、それまでどうやら目を閉じていて、そして今、その目を開いた、ということだけは解る。
そこはなにやら真っ白な空間で、辺りには何も無かった。

「ここは……」

辺りを見回すために首を巡らせる。
そこで気がついた。
確かに首を回した感じはしたが、視界が変わらないのだ。
いや…そもそも、180度の視界を持っているのかどうかも…。
周りが白一色であり、そこには空も大地も無い、という事実を知覚しているだけに過ぎなかった。

「――ようやく会えたね」

それでも便宜上表現するとしたら、そう、眼前に。
小さな。小さな、ふくろがあった。

「……そうだな。こうやって話すのは初めてか……」

「ずっと一緒にいたのに」

596 :神殺  ◆gYINaOL2aE :2007/03/17(土) 20:50:39 ID:irPHk7bj0
そういって、笑う。
笑った雰囲気を感じる。
口もたぬふくろが喋る声を認識する。

「しかしそうか…俺は肝心なところで…悪かったな。結局、何も…できなかった…」

「いいや。そんなことはない。
ボクだけではそれこそ、荷物を運ぶことしかできなかった。
君がいたからこそ…ここまで来ることができた」

「そうかな。…結局、ソフィアは死んだ。皆は…皆には勝って欲しいが…」

「ふふ…さっきから君は何を言っているんだろうと思っていたんだ。
さあ、起こすんだ。彼女を」

「……?」

「君が気付かなければ本当に終ってしまう」

「…………あ…………そう、か…………これか…………」

「君の肉体はもう、壊れてしまった。
これを治す術は僕には無い…。だけど…。神ならざる僕にも、用意できる器がある。
人の身体は無理だけれど。道具なら――全ての道具を収める僕になら、可能だ。
君は、何を望むだろう?勿論、君が望むなら――このまま、器をもたないこともできる。それは、異界への回帰か、消滅か…正直な話、解らないのだけど」

「……」

俺の望み。
そんなものは。あのときから、決まっていた。

597 :神殺  ◆gYINaOL2aE :2007/03/17(土) 20:51:32 ID:irPHk7bj0





空が蒼い。
雲は白い。
見慣れた風景。辺り一面の花畑。
ゆっくりと上体を起こす。自分は何故、このような色とりどりの花たちに囲まれているのか。
ぱらぱらと身体から落ちていくものがある。
それはどうやら小さな石や埃…砂のようだった。

(おはよう、ソフィア)

頭の中に響く二つの声。
ずっと傍にいた人たちの声だから、自然と受け入れることができる。
村で育った幼馴染の少女と、村を出てから共に歩いた青年の幻影が空へと消えていく。

手元に転がる壊れた砂時計。
周囲に広がる花畑にも、自身の身体にもかかっている砂。
足元に突き刺さる、細い刀身を持つ剣。

598 :神殺  ◆gYINaOL2aE :2007/03/17(土) 20:52:34 ID:irPHk7bj0
ソフィアは壊れた砂時計を左手に、刺さった剣の柄を右手で握る。
なんの抵抗も無く引き抜かれる剣。
その刀身には、こう刻まれていた。

――Sword Of Sofia――

彼女は彼女の、ソフィアの剣を手にする。

(さあ、行こう)

「…どこへ?」

(あの、空へ)

「…どうして?」

(君の、兄と、かけがえの無い友を救うため)

「…どうやって?」

(それは君が一番解っているよ)





599 :神殺  ◆gYINaOL2aE :2007/03/17(土) 20:53:19 ID:irPHk7bj0
男が身体を断たれ、地へと落下してから数時間が経ち。
マスタードラゴンの火炎が玉座の間へと降り注ぐ。
ミネアがフバーハでそのダメージを軽減するが、それもこう何度も吹き付けられるとキリがない。
だが、自分たちには彼の神を撃つ手段が無い――。

「…卑怯者!降りてきなさいよ!」

アリーナが地団駄を踏む。
彼女たちは今、完全なる自分の無力を呪っていた。
散発的に飛ぶマーニャたちの攻撃魔法では、決定的なダメージを与えることができない。

マスタードラゴンは凍てつく波動を放たずに、火炎と吹雪を交互に吹き付ける。
ミネアを初めとして仲間たち全員に、火傷と凍傷が少しずつ刻まれていく。
もはや満身創痍となりながら、仲間を癒すクリフト。
だがそれも、心が折れるまでだろう。

「賭けるしか…ないのか…」

だがそれはあまりに分の悪い賭けだ。
それまでの戦闘経験が、未だ機が熟してはいないとソロを押し止める。
だが、このままでは機が熟す前に、全てが終ってしまうだろう。

迷っているのはピサロも同じだ。
あのエビルプリーストの使った進化の秘法。
進化のスピードの速いあの術なら、今この場で使用することもできるだろう。
しかしそれでは…。

「――む?」

600 :神殺  ◆gYINaOL2aE :2007/03/17(土) 20:54:14 ID:irPHk7bj0
気が向くままにブレスを吐いていたマスタードラゴンが訝しげな声をあげる。
なんだ?と思った矢先。
下からの一陣の光がその鱗へとぶつかっていく。
神は絶対的な自信をもっていた。
即ち、我が身の鱗を貫けるものなどこの世には創りあげていない、と。

「なんだとお!?」

なのに、何故だ。
今、我が身より弾け、噴出すものは一体なんだ!

神が身をよじり、地より飛来した何かを見る。
白い翼。自身の眷属として生み出した者たちが持つ、美しき羽。
彼女の持つ剣。それが何なのか一瞬、解らない。
だが神はすぐに理解する。つまり、神が解らないものであるということが、一つの決定的な意味をもつのだから。
異界の物質。異界の剣。即ち、己を殺し得る剣!

天空城から空を眺める者たちは見た。
彼らがその身と心を預けていた少女が、今――。

ソフィア殿!ソフィアさん!ソフィア!!

「ミネア!マーニャ!祝詞を捧げて!彼の残した卵とオーブに向かって!」

そう告げるや否や、ソフィアは背の翼を巧みに操り神へと向かっていく。
その小さな背を追うようにピサロが飛んだ。
竜の尾撃がソフィアに向かって放たれる。その射線上から彼女を突き飛ばし、その勢いを利用し自分もまた逃れる。

「――ヤツはどうした?」

「あの人なら、ここにいるわ」

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