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もし目が覚めたらそこがDQ世界の宿屋だったら七泊目

1 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/05/28(日) 12:25:12 ID:AaT+g6Z00
ここは
「もし目が覚めた時にそこがDQ世界の宿屋だったら」
ということを想像して書き込むスレです。
小説形式、レポ形式、一言、オリジナル何でも歓迎です。

・スレの性質上、レス数が1000になる前に500KB制限で落ちやすいので
 スレ容量が470KBを超えたら次スレを立てて下さい
・混乱を防ぐため、書き手の方は名前欄にタイトル(もしくはコテハン)とトリップをつけて下さい
 (トリップは名前欄に「#(半角シャープ)+半角8文字」で出ます)
・同じスレ内で続きをアップする場合は
 アンカー(「>>(半角右カッコ2つ)+半角数字(前回レスしたスレ番号)」)
 をつけるとより読みやすくなります

前スレ
もし目が覚めたらそこがDQ世界の宿屋だったら六泊目
http://game10.2ch.net/test/read.cgi/ff/1142080254/

まとめサイト
「もし目が覚めたら、そこがDQ世界の宿屋だったら」冒険の書庫
tp://www.geocities.jp/if_dq/
「もし目が覚めたら、そこがDQ世界の宿屋だったら」避難所
tp://corona.moo.jp/DQyadoya/bbs.cgi

301 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/07/19(水) 17:36:01 ID:oUIXdYTL0
何故シンシアがカエルに??って思ったが、
もしやと思って検索してみたらリメイク版で追加されてたシーンなのな。

302 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/07/19(水) 20:16:37 ID:lqywTisbO
シンシアのアナルに息を吹き込む………
これ何てエロゲ?

303 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/07/20(木) 01:39:31 ID:noskjohi0
なんてイカス勇者だwwww

304 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/07/20(木) 11:40:05 ID:1xS7w4pbO
激しく続きが気になるな、頼むからここで辞めないで頂きたい。

305 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/07/20(木) 16:29:05 ID:DrobvFpV0
激しく続きが気にならないな頼むからここで辞めて頂きたい。




306 :暇潰し ◆ODmtHj3GLQ :2006/07/20(木) 16:30:36 ID:ISbctBbv0
ども〜
今回もキャラの名前について少し解説を……

レキウス、アリアハンの王様ですね。rex【王】という単語の変化です

ロマリア王ストゥルーストはstultus【愚か者】という意味から来ています。親馬鹿って事で…

フィリー(ロマリア王子)は【息子】filiusの変化 フィリアが娘なので名前が似ているんですね

プエラ(イシスの姫)はpuellaで【少女】 また出番があるかな〜?

ナヴィアス(ポルトガ王)は【船】 アルドゥス(エジンベア王)はArduus【高い】

キャビンは【熱烈な愛国者】  ゲノは【民族】  マヌ爺さんは【手】

そしてプレナは【たくさん持った】plenusの変化です。


ほとんどそのままの意味でつけてますね(苦笑)
一応タイトルを聖書関連でつけているので、ラテン語を使っている訳です。

ではでは>>260の続きをどうぞ〜

307 :暇潰し ◆ODmtHj3GLQ :2006/07/20(木) 16:34:14 ID:ISbctBbv0
――――――――――――――――――――7――――――――――――――――――――

  「プレナ! たすけに きたよ!」

その声は思わぬ方向から飛んできた。
プレナ達が振り返ると大勢の男達が広場に集まって来ているところだった。
その集団はこの町の住民だけでなく、スー民族の若者も交じっていた。
それぞれ武器を手にし、いつでも戦闘可能な状態……

  「皆……? どうして??」
  「そこのおとこが きのうむらにきた!
   プレナのまちつぶして スーもつぶすといった!
   ていこうするなら あしたひろばにこい ともいった。
   だからきたんだよ!」

話を聞いたプレナは思わず兵士長に怒鳴りそうになる。
が、拳をギュッと握る事でその怒りをどうにか押さえつける。
ここで我を忘れてしまっては全てが台無しになるだろう。

  「皆、ありがとう。でも聞いて。
   大丈夫。
   私達の町は潰れたりしないわ。
   だから皆落ち着いて。武器を置いて」

まだ武器を堅く握りしめているのを見ると、その言葉の全てを信じている訳ではないようだが、
興奮していた男達がプレナの言葉で飛び出すのを止めた。
プレナがいかに影響力を持っているかが分かる。
そしてプレナは再び兵士長に向かって話しかける。


308 :暇潰し ◆ODmtHj3GLQ :2006/07/20(木) 16:36:09 ID:ISbctBbv0

  「王の私欲の為だけに働くなんて間違ってるわ。
   しかもその為に人を殺すなんて……
   
   人はもっと違うものの為に働くのよ。
   あなただって少しはこの町を見たでしょう?
   彼らは自分の隣の人の為に働いているわ。
   それが時に自分の家族であったり、お客さんであったりするだけよ。
   そして自分自身も誰かの隣の人になる事もある。
   だから誰かに優しくできるのよ。
   
   そういう風にしてこの町は回っているの。
   だからここまで大きくなれた。
   もし私の思うままに造ろうとしていたら、どんなに発展していても悲しい結果になったでしょうね。
   自分達の幸せより支配者の幸せだけを考えないといけないのだから……

   ……あなた達、この町を滅ぼしに来たと言ったわね。
   でも暴力以外で解決する方法、私はあると思う。
   だってあなた達の国に私達の町の隣じゃない。
   私達はあなた達を拒まないわ。
   お互いに手を繋ぎましょう?
   そうすればいつかきっと良い結果がでるわ」

この話をエジンベア王にしたかったのか、とっさに考えたのかは分からない。
けれど、少なくとも聞く者の心に打つものが確かにあった。
ただ一人を除いて。

309 :暇潰し ◆ODmtHj3GLQ :2006/07/20(木) 16:37:57 ID:ISbctBbv0
  「ククク……そんな話に俺が感動して手を差し出すと思ったのか?」

  「――!!」

  「差し出すのはこの剣のみよ!!」

その瞬間、兵士長の足元から風が吹き出し、頭上へと舞い上がった。
バギの風だ。それはまだらクモ糸を切り刻み、空に吹き飛ばす。時間にして一秒程度。
風が止んだと同時に、体が自由になった兵士長が動き出した。

  「フィリアっ!」 「!!」

その声を合図にジュードの体も風に包まれる。
しかし、一瞬、遅い。
風が止む時、そしてジュードが動けるようになったその時、兵士長は剣を刺し出した。

  ズッ!!

文字にすれば、そんな感じ。しかし、実際にはそんな音が聞こえる訳ではない。
突かれた勢いで体がくの字に曲がる。

  ズシュッ……!

肉に埋まった剣を抜く兵士長。今度はその剣に引っ張られ、一・二歩前に歩く。

  「あっ」

小さく声が漏れる。無意識に傷口を手で塞ぐ。
温かい。血が手の平を撫でていく。
体中の血液がそこから抜け出そうとしているんじゃないか、という感覚に陥る。

310 :暇潰し ◆ODmtHj3GLQ :2006/07/20(木) 16:38:52 ID:ISbctBbv0
  「これが答えだ」

良く砥がれた刃が左肩から右腰に向かって流れる。
肩にかかっていた髪がその剣筋に沿ってキレイに切り揃えられる。
そして返り血の雨が降った。

足の力が抜け、膝を折り、プレナの体がゆっくりと倒れる。
兵士長の剣から飛び散ったプレナの血が左目に当たり、ジュードは反射的に目をつぶる。

プレナが切られたのは自分のせいだとジュードは思った。
一度目の突きは、もっと早く動けるようにしておけば十分対処できた。
そして二度目の斬撃。ただ、傍観してしまった。

確かに兵士長とジュードの戦いの間に割り込んで来たのはプレナ自身だ。
しかしそれには納得がいかない。
プレナは避けようとしなかったからだ。

  (くそっ……! 何なんだよ……! 何でそんなに……)

今までこんなに変なヤツに会った事は無かった。
敵も味方も傷つかないなんて事は有り得ないのに、プレナはそれをしようとした。
ジュードにその考えは理解できない。

しかし、こうも思う。

  (……気に入らないが、お前の言う通りにしてやろう)

と。
目を開き、兵士長をしっかりと睨みつける。
ジュードの目元から、プレナの血の涙が頬へと流れていった。

311 :暇潰し ◆ODmtHj3GLQ :2006/07/20(木) 16:41:01 ID:ISbctBbv0
  「「「「プレナ〜!!」」」」

その場に集まった町の男共とスー民族達はプレナに起きた出来事を理解すると、
口々にその名を叫び、敵に襲い掛かろうと一斉に走り出した。
ジュードが既に兵士長と打ち合っているのもきっかけになったのだろう。

  「ボミオス!」

パトリスはその場にいる全員に再び呪文をかける。
敵・味方含めて300とも500ともつかない人数に呪文をかけるのは容易ではない。
しかし、やらなければ犠牲者が出る。
それだけは避けたい。
そこでパトリスはもう一つ呪文を唱える。

  「スクルト!」

これでもし、誰かの呪文が切れて相手に飛び掛ろうとしても、ダメージを与える事はできないだろう。
こうする事でパトリスはパトリスなりにプレナの意志を尊重したのだ。
これで当面誰も傷つく事はない。
パトリスのMPが切れるまでは……
しかし、ジュードと兵士長。
この2人にはボミオスもスクルトも効かなかったようだ。
つまりこの決着は、ジュードと兵士長に委ねられたのだ。


312 :暇潰し ◆ODmtHj3GLQ :2006/07/20(木) 16:44:27 ID:ISbctBbv0
商人の町は奇妙に静かだった。
全ての人々が広場の中央で繰り広げられているたった2人の戦いに目を注ぎ、
固唾を飲んで見守っていた。
今や2人の戦いは国同士の戦いと同義だった。
しかしこれを戦争と呼ぶのなら、それは何と効率的で、犠牲の少なく、あっけないものだろうか。

 ギンッ!! 
       ……ズサッ…… 
                 ザシュッ……!!

打ち合いの中、ジュードはとても冷静な自分に気付いた。
兵士長の攻撃も、自分の体の動きも、そして自分の心の中までも……
だからだろうか。ジュードは疑問を持つ。
自分を殺そうとする者に対して。

  「お前、何の為に戦ってるんだ?」
  「国の為! 王の為よ!!」

兵士長の剣がジュードの左腕を斬り付ける。
これで盾は使えなくなった。
しかしジュードも兵士長の足を傷つける。
  
  「本当にそんなモンの為に戦ってるのか?」
  「貴様もあの女と同じ事を?」
  「……まぁ全部は守れそうにないけどな」
  「くだらんな……」

313 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/07/20(木) 16:47:16 ID:DWVnOyC40
支援

314 :暇潰し ◆ODmtHj3GLQ :2006/07/20(木) 16:47:50 ID:ISbctBbv0
2人の間に距離が出来る。
その隙に兵士長は足に手をかざし、何かをつぶやいた。
血の噴出が止まり、傷が癒える。

  「……そうか、あんた転職したんだな?」
  「あぁ、国の為、王の為にな」
  「もう聞き飽きたよ」
  「しかし、それが真実だ!」
  「そのまま祈っていればよかったのに」
  「神などいらぬ! 想像の産物に祈って何になる!!」
  「あぁ、なるほど。同感」
  「だから俺は真に俺を助けてくれたものの為に戦う!」

ガキンッ!! ガキンッ!!!

再三の仕切り直し。回復していないジュードの方がより不利。
受けるので精一杯。
しかしそれは最初から分かっている事。
レベルが違う。
けれど、負けられない。

  「あんたによく似たヤツを俺は知っている。けどあんたとは大分違うな」
  「我が主の為に死ね!」
  「……俺自身は特に誰かを守りたいとも思わない。
   そんな事して強くなれるのか……?
   けど、今だけは、そうさせてもらう」


315 :暇潰し ◆ODmtHj3GLQ :2006/07/20(木) 16:51:47 ID:ISbctBbv0
それまで受け身だったジュードが上段に構え、兵士長に突っ込む。
と、ピカッと剣が光り、兵士長の目を瞑らせる。
それは太陽の光の反射か、それとも……

  (――!! このままでは……)

兵士長は暗闇の中でジュードの剣を受けようと無意識に剣を顔の前にかざす。
ジュードはそれに構わず、剣を振り下ろす。

  ス――ッ……

刃が交差したところから、剣が剣に切られる。
防御を打ち破った剣は続いて、鎧の左肩から右腰を切り裂いていった。

ジュードは突っ込んだその勢いで兵士長の左へ体を流す。
左足で着地。そして一歩進み、そのまま逆時計回りに体を回す。
兵士長の背後に回ったジュードは遠心力を使い、
兵士長の鎧の背後部分、右腰から左肩へと剣を走らせた。

自身の重みに耐えられなくなった鎧が、兵士長の体からガランガランと滑り落ちる。
そして兵士長も膝から崩れる。
その体には傷一つ付いていなかった。
しかしこれで兵士長は戦えない。

  「あんたより、あいつの方が強かったぜ」

316 :暇潰し ◆ODmtHj3GLQ :2006/07/20(木) 16:53:34 ID:ISbctBbv0
――――――――――――――――――――8――――――――――――――――――――

  「アルドゥス王!! あっ……」

城のどこかに待機していた兵士だろうか。ひどく慌てた様子で入って来た。
もっとも入って来るなり王の見てはいけない行為を見てしまい、余計に慌ててしまう。

  「……どうした?」

一度高まった気分に水を差され、明らかに不機嫌なのが見てとれる。
しかし、普通なら動揺しそうなもんだが…

  「は、はい! し、侵入者が――」

そこで言葉が途切れる。
真理奈からは部屋の入り口は死角なので事態の推移を見る事が出来ないが、
王の体がビクリを反応した事で、何かがあった事だけは悟る。
では王は何を見たのだろうか。
それは炎に包まれ、一瞬にして炭と化した兵士の姿だった。
ただの黒と成り下がった兵士が倒れ、絨毯に触れた部分からさぁーっと人の形が崩れていった。

  「やぁ、エジンベア王。久し振りだね」

人であったものを踏みつけ、新たな人間が入ってくる。
王から見れば、まだ若い。青年。

  「だ、誰じゃお前は!」

間の抜けた質問。 兵士は侵入者が、と言ったではないか。
そしてその兵士を殺したのは後ろから入ってきたこの青年に間違いがない。
とすれば、この少年が侵入者であろう。
まぁ王が期待したのはそのような答えではないだろうが…

317 :暇潰し ◆ODmtHj3GLQ :2006/07/20(木) 16:55:29 ID:ISbctBbv0
  「ふん…下の者を働かせて、自分はお楽しみタイムって訳ですか」

青年は2人を一瞥して笑う。
そして右手をかざして――

  「イオ」

呪文を唱えた。
爆発は2人の手前で起こり、彼らを引き離すかのように吹き飛ばした。

  「ぐはっ!!」  「いったぁ〜!!」

王は部屋の横壁に叩きつけられ、真理奈は王座の側に転がった。

  (何なんだよー、一体……)

未だに侵入者の姿は確認できない。
目を開けると目の前には自分のバッグが横たわっていた。

  (や、薬草!じゃないか… 毒消し草…あるっけ?
   草臭くなるからいつもいらないって言っちゃうんだけど……)

震える手を伸ばす。 幸いな事に腕までは何とか動かせるようになったようだ。
力も徐々に戻り始めている。
真理奈はバッグの中に入っているもう一つの皮袋を取り出す。
匂いがイヤできつく縛っておいたのが仇となった。なかなか解けない。
が、絶対に無理ではなかった。確実に真理奈の中の毒の効果は薄れている。
何とか結び目を解き、中身を見る。

  (あった! ラッキー!! おじいちゃんサンキュー!!)

渡された時は閉口したものだが、今は喜んで口を開いて食べるしかない。

318 :暇潰し ◆ODmtHj3GLQ :2006/07/20(木) 16:56:41 ID:ISbctBbv0

  「どこの世界でもやる事は一緒か。まいったな」

本当に困ったとは思えない明るい口調で青年がつぶやく。

  「ま、人が作り出す社会なんてそんなものか」

一人で納得した後、青年は王の所へ静かに足を進める。

  「お…お前は……」

息も絶え絶えに王は繰り返す。

  「あなたもよく知っている者ですよ。会った事はありませんがね」

しかし彼は"久し振りだ"と言ったはずだ。一体……?

  「では自己紹介しましょう。僕の名前はゾーマです」

319 :暇潰し ◆ODmtHj3GLQ :2006/07/20(木) 17:04:35 ID:ISbctBbv0
さて、取り合えずここまで〜

>>262-264 &>>313、そして読んでくれてる方みんなありがとうございます〜
前回の制服オチが好評だったようで、嬉しい限りですw
楽しんでもらえるよう、また頑張ります

そして新人さんにはじめまして&wktkしつつ、今日はこの辺で退散します
ではでは〜ノシ

320 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/07/20(木) 17:06:14 ID:GtGVMyeY0
暇さん乙!
リアルタイムで読ませていただきました。
ワッフルの結末がこうなるとは思わなかったorz

321 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/07/20(木) 17:30:59 ID:iWpTI+RHO
乙乙乙乙乙乙乙乙乙!

322 :隙間風 ◆njN6YTN.DI :2006/07/20(木) 21:48:40 ID:Xe0lIA1h0
前回>>294
続き投下開始します。

323 :隙間風 ◆njN6YTN.DI :2006/07/20(木) 21:49:32 ID:Xe0lIA1h0
02

俺が地下室から飛び出すと、何か村はすっかり炎に包まれていました。
目に見える範囲では爺さんやらユーリルのお袋さんやらが円陣を組んで何やらぶつぶつと
念仏みたいなのをつぶやいており、時々どういう原理か光ったり燃えたり凍ったり爆発したりしている。
さらに遠くの方からは、金属がぶつかり合う音や、人や獣の雄叫びみたいなのが
ひっきりなしに聴こえてくる。

「何、やってんだ、こいつら…………?」

何かの前衛的な宗教儀式だろうか?とにかく必死の気迫という奴は確実に伝わってくる。
ちょっと関わりたくないけど、あのピンクの殺戮者よりはマシだと思いたい。
俺はぶつぶつと必死に念仏ぶっこいてる爺さんに近付いて話し掛けようとしたが、
それより先に爺さんが気付いて、思いつめた、どこか後ろめたさを感じさせる顔で話し掛けてきた。

「!!……シンシア、か。すまぬ、お主には残酷な役回りをさせてしまったのう……」



――――――――――――――――――――――――――――――――は?




324 :隙間風 ◆njN6YTN.DI :2006/07/20(木) 21:50:27 ID:Xe0lIA1h0
何を、言っている、この老人は?
シンシアというのは、俺を抹殺しようとしたあのピンクの殺戮者の名前だった筈だ。
……決して、燃え盛る村の熱気のせいというだけではない、冷たい汗が背筋を伝う。
シンシア――ピンクは俺を殺した後で、変な技で俺になりすまし、
俺という存在を闇に葬り去るつもりだったはずだ。
なぜ、こいつがピンクの計画を知っている……?
……考えるまでも無い。
村中がグルだったのだ。
小さな村であり、周囲は森に囲まれて交流はほとんど無さそうだ。
村中の人間が口裏を合わせれば人一人の死ぐらい、簡単に無かったことに出来るのだろう。

……ユーリルという少年が、この村においてどのような存在だったのかは知らない。
或は両親や村中から、最初からいなかった事にされるほどに
徹底的に処刑される程の罪を犯したのかもしれない。
――だが、そんなものはこの俺には何の関係も無い!
俺は生きる!
例え違う人間としてでも、こんな所で訳もわからずに殺されてたまるか!!

「……っ!!」

俺は走った。脇目も振らずに、つっ走った。

「バカな!突っ込むつもりか!?」「まさかおとりになるつもり!?」「待て、幾ら何でも一人じゃ無茶だ!」

何か後方から叫び声が聞こえてくるが無視だ無視!
今はとにかく俺が本物とばれないうちに逃げるしかない!!自分の事以外は考えるな!!


325 :隙間風 ◆njN6YTN.DI :2006/07/20(木) 21:51:41 ID:Xe0lIA1h0
ある程度走ると、村と森の境で新たな人影が見えてきた。
先程の爺さん達とは違い、ガタイのいいオッサン達ばかりだ。
中には地下室で俺をぶちのめしたオッサンやユーリルのオヤジさんの姿も見える。
皆例外なく血まみれで、何かしらの手傷を負っているようだった。既に事切れてるのもいるっぽい。
普段の俺なら驚くなり引くなりするだろうが、今は自分の命が最優先だ。
小さな村だ。奴らも例に漏れずグルとみなした方がいいだろう。
俺は脇目も振らずにオッサンたちの間を駆け抜けていく。

「くっ、彼女の覚悟を無駄にするな!!」「これを機に敵を分断するぞ!!」「おお!!!!!」

後方からまたなんかよく分からない叫びが聞こえてくるが、気にしない。今はただ走れ。走るんだ。



村を抜け、森の中をひたすら走る俺の前に、複数の新たな人影が――って、人じゃない!?
な――何だ!?あのひたすら放射能に汚染されまくって突然変異を起こした挙句
邪教の館で三身合体して殺意の波動に目覚めたデ○ズニーランドみたいな連中は!?

「いたぞ!」「今までの奴らより歳が若い。奴が勇者か!?」「バカな奴だ、一人でやってくるとはな!」

ヒィ!?何か知らんがロックオンされたっぽい!?

「待て!落ち着け!!話合おグヒョッ――」


326 :隙間風 ◆njN6YTN.DI :2006/07/20(木) 21:52:31 ID:Xe0lIA1h0
聞いてください、みのさん。何か六本足のライオンさんが僕を襲うんです。
思わずすくめた頭の上を、ものすごい唸りをあげて、ぶっとい腕の内の一本が通り過ぎていきます。
余波の衝撃で僕がよろめいたところに、もう一本が、今まさに頭上から真下に振り下ろされようとしてます。
計算なんてするまでも無く、あんなのをマトモに喰らったら死ぬでしょう。
ええ、そりゃあもうあの勢いですから、死体が原形を留めることすら難しいでしょう。
そうならないように、僕は頑張って計算しました。
世界の全てを数字に置き換えて、僕の身体強度とライオンさんの腕の破壊力と動きを仮定し、
どう動けば最も負荷を減らすことが出来るか一生懸命考えたのです。そりゃもう本当に、死ぬ前の走馬灯並の
集中力で頑張りました。脳内に住んでる小人さんや妖精さんたちともいっぱい話し合いました。
まぁ計算の過程なんかは面倒くさいから省略しておきますが、とにかく最終的に、前に2歩、左に1歩半の地点で
やや中腰気味でかがんでいれば、負荷のおよそ8割を相殺できるという計算結果を得ることが出来たわけです。
で、僕もやはり死にたくないわけですから、その通りに動いてみると、ライオンさんは僕の頭の横ぎりぎりを
空振りして、元からあまり良くなかった体のバランスを崩してしまいます。
それと同時、先程よりも凄まじい衝撃波が僕の脳を揺さぶり(つーかかすった)、頭の変な羽根飾りが
彼方に吹っ飛んでいきました。意識がぶっ飛びそうになるのを、まぁ頑張って我慢します。
とにかくそこに、僕がちょっと足を引っ掛けてやると、ライオンさんはあべしと盛大にずっこけました。
六本足の分際で二足歩行なんてするからです。間抜けです。ぶっちゃけ大笑いです。HAHAHAHAHAー!!
つられて他のなんちゃってデ○ズニーどもも大笑いです。ああ、何だか和気あいあいとしてきました。
この状況ならあの奥義も6割の確率で通用するでしょう。先に言っておきますが、バカにしてはいけませんよ。
こういうのは心理的タイミング(その場のノリとも言う)というものが大事なのですから。
それではいきましょう。

「ああーー!!アレは何だーー!?」


327 :隙間風 ◆njN6YTN.DI :2006/07/20(木) 21:53:22 ID:Xe0lIA1h0
和やかな雰囲気から一転、突然の切羽詰った僕の声に、皆びっくりして、僕が指差した方向に
振り返ります。ああ……賢くないのですね。所詮はなんちゃってデ○ズニーです。
まぁそんな訳で、この隙に僕は、1で回れ右をして、2でクラウチングスタートの体勢をとり、3で――

ダッシュ!ダッシュ!!全力でダッシュ!!!!!

それと同時、奴らが図られたことに気付き、この世のものとは思えないような怒声を上げて、
俺を追いかけてきやがりました。特に六本足のライオンはもう本当に、殺意の波動に
目覚めているとしか思えないような、それだけで人が殺せそうな雄叫びをあげて追いかけてくる。

――さて、どうしようか?

もういい加減本気でいっぱいいっぱいでパトラッシュに泣き言の一つももらしたい訳なのだが、
諦めたらそこで試合終了な訳で。さらに今の場合、ゲームではなくてリアルに命がかかっている訳で。
どこをどう走ってきたのか何時の間にか険しい山の中に入り込んでいだり時々でっかいトカゲに火で炙られたり
何処からか飛んできた爆炎に危うく吹き飛ばされかけたりしながらも精一杯生きてる訳で!!
……くっそう、家にあるひみつ道具の数々さえ使えたら、あんな奴ら屁でもないのに……!
悲しいかな、科学の英知がクソの役にも立たない現状では、俺なんかただの歌って踊れて猫好きで
明るく楽しく優しいとご近所でも評判の格好良いお兄さんでしかないのだ。
何かユーリル君の体のポテンシャルがやたらに高いおかげで、何とかここまで頑張ってこれはしたが、
それでもいい加減、限界が近付いてきているような気がしないでもない。くそう、何か手は無いか?



328 :隙間風 ◆njN6YTN.DI :2006/07/20(木) 21:54:13 ID:Xe0lIA1h0
――こうなったら、危険を承知で村まで戻って村の連中をおとりに使うか?
否。この状況でピンクの殺戮者に出会ったら約173%の確率で殺られる。
……う〜む、どうも一度殺されかけた恐怖からか、あの女に関しては思考にノイズがかかるなぁ。
つーか173パーって、いったいどういう計算したんだ、俺は。
あ〜でもまぁ、それも今となってはどうでもいいことだ。
それより今考えるべき事は、すぐ下は険しい崖だというのに、

何で、

いつの間にか、

足場がぽっかりと消えちゃったりしているのだろうか、という事である。

「…………NOOOOOoooooooooo!!!!!?????」

ほんの一瞬の滞空の後、俺は深い崖下へとまっ逆さまに、転落していった。

「やった!勇者を仕留めたぞ!!」「早速デスピサロ様に報告だ!!」「後は村の連中を片付けるだけだな!!」

暗転していく意識の中、そんな声が聞こえてきた。気がした。
かみさまなんて、大嫌いです。
いつか出会ったら、ケツから腕突っ込んで奥歯ガタガタ言わせてやろうと思います。



HP:1/14
MP:20/132

装備:E旅人の服
特技:集中 閃き


329 :隙間風 ◆njN6YTN.DI :2006/07/20(木) 21:55:28 ID:Xe0lIA1h0

#01

空恐ろしくなるほどの静寂の中、シンシアは覚醒した。
つい先程まで聞こえていた、戦闘の音の数々は今は全く聞こえない。
呆然としながらも立ち上がり、おぼつかない足取りで扉に向かってゆく。
扉を魔法で開錠し、ふらふらと、今にも転げ落ちそうになりながら階段を上がり、地上へと出た。

「――――――――――――――――」

朝日に照らされた、村だったその場所をぽかんと眺め、シンシアは、
――ああ、酷いことをするところだった。
と、ふと何となく、そんなことを思った。
ふらりと一歩歩き、二歩目で膝から力が抜け、三歩目で地に崩れ落ちた。
立ち上がれない。
立ち上がれない。
立ち上がれる訳が無い。

「ああ……」

これほどの絶望を彼に背負わせようとしていたのかと、
今更ながらにシンシアは彼に謝りたい気持ちだった。
ああ神様、何故私がここにいるのでしょう?
どうしてここにユーリルはいないのでしょうか?
貴方が彼を勇者として遣わせたのではなかったのですか?

「ユーリル……?」

ふと、彼の気配を感じた気がして、シンシアは頭を起こした。
毒素に侵され腐り果てた花畑を這いずりながら進むと、
朝日を反射して微かに光るユーリルの羽根飾りが落ちていた。

330 :隙間風 ◆njN6YTN.DI :2006/07/20(木) 21:56:19 ID:Xe0lIA1h0
「あ……」

ところどころに黒く変色した血がこびりついたそれを手に取った瞬間、
シンシアの中で何かが壊れた。

「……あは。あはははは。あははははははははははははははははは
 はははははははははははははははははははははははははははは
 はははははははははははははははははははははははははははは
 はははははははははははははははははははははははは――――」

笑って笑って、血を吐くまで笑ったあと、シンシアは一点の曇りも無い笑顔で空を見上げた。

「ちょっとだけ待っててねユーリル」

かみさまなんて、大嫌いです。

「あいつらを全部殺してから、私も行くから」

いつか出会ったら、八つ裂きにして殺してやろうと思います。



HP:92
MP:105
装備:E鋼の剣 E絹のローブ E羽根帽子
呪文:【炎熱】メラミ・ベギラマ・イオラ 【回復】ベホイミ・キアリー
    【補助T】ラリホー・マヌーサ・マホトーン 【補助U】スクルト
    【その他】モシャス

下級呪文省略。



331 :隙間風 ◆njN6YTN.DI :2006/07/20(木) 21:59:18 ID:Xe0lIA1h0
ええと、とりあえず今回はここまでです。

332 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/07/20(木) 22:45:43 ID:82rVLyAT0
テラワロス
期待期待!

333 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/07/20(木) 23:17:44 ID:EguRZbYc0
なんか新しい切り口でヌゲー

334 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/07/20(木) 23:47:18 ID:Qvlh2jp40
実は最大級の能力を持った作者っぽいw

335 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/07/21(金) 00:14:06 ID:JZEakpLY0
うんのよさMAXだなw

336 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/07/21(金) 01:44:08 ID:j708wDiU0
ギャグとシリアスのギャップがよいね

337 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/07/21(金) 08:58:52 ID:T2gk16E50
マスタードラゴン逃げてー!

すげえ面白いw 両者の暴走展開っぷりがすげえw
あと一つだけ言わせろ、主人公てめえ違うゲームに突入してないか?w

338 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/07/21(金) 09:16:35 ID:77VvyOkO0
なにこのクオリティ!
主人公もすごいがシンシアがテラヤバスw

339 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/07/21(金) 15:55:14 ID:mnZY9PAM0
なにこの低クオリティ!
すげえ糞作品テラバロスw

340 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/07/21(金) 20:19:11 ID:VwXsBm+w0
ちょ、ま、え、すげええええええええ
クオリティたけええ!GJ!!

341 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/07/21(金) 21:08:33 ID:Z32pj6PxO
いいからさっさと続きを書けよ、職人共。


べ、別に期待なんかしてないんだからね!勘違いしないでよ!?

342 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/07/21(金) 21:51:23 ID:kbJNxZMA0
何気にシンシア、勇者より強いwwww
マスドラの運命如何にww

343 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/07/23(日) 14:05:05 ID:M4zv8gR2O
保守

344 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/07/23(日) 21:34:51 ID:u42RlItD0
>>341
マリベルさん乙カレー

345 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/07/25(火) 09:38:15 ID:QV3pm0epO
保守

346 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/07/25(火) 20:37:11 ID:6WsUziJn0
他の人の作品に対して本気で嫉妬するとは思わなかった。

347 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/07/26(水) 03:44:30 ID:+hsp47560
こんな長文誰が読むかよwwって思った。
でもやたら評判がいいので仕方なく読んでやった。


・・・面白いじゃないか!!
やってくれたな。特にドラクエ4は好きなんでストーリーにも入りやすい。

348 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/07/26(水) 13:12:05 ID:2zsG+RMz0
馴れ合い(笑

349 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/07/26(水) 13:53:15 ID:m4pAMLYcO
これはひどい

350 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/07/26(水) 14:18:48 ID:gnbt7N8E0
変なのが湧くのはしょうがない。夏だし

351 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/07/26(水) 21:08:02 ID:+WxSbYsS0
面白い続き期待GJばっかでろくな評価がない件について
これは評価じゃなくてただの馴れ合い ちゃんと良いところは指定していかないと作者も成長しないし
現状はだたのご機嫌取りにしか見えない

352 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/07/26(水) 21:10:36 ID:m4pAMLYcO
評価すると叩かれるし、スレも荒れるからな。仕方ないと言えば仕方ないのかもしれんが。

353 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/07/26(水) 23:08:59 ID:tafWjsJy0
避難所に評価スレを立てたので、そちらにドゾー

354 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/07/28(金) 21:43:53 ID:7kCBEprb0
ほしゅ

355 :隙間風 ◆njN6YTN.DI :2006/07/29(土) 01:06:08 ID:O07joDWB0
前回>>330
投下開始します。

356 :隙間風 ◆njN6YTN.DI :2006/07/29(土) 01:06:58 ID:O07joDWB0
03

「師匠、石鹸と洗剤、発注数に足りてません!!材料も足りそうに無いです!!」
「あー、原料の配合比を適当に減らして水増ししとけ!少しくらいならわかりゃせん!!」

「師匠、酒場のマスターがこの前のカクテルが大好評だったからまた造ってくれって……!!」
「んな暇あるか!!オヤジに材料とレシピ渡しといて自分で造れって言っとけ!!」

「師匠、お城から火縄銃と手投げ弾の追加注文が山ほど……!!」
「……城の連中アホか!?こちとら二人しかいないんだぞ!?……………………受けるけど」

「……師匠!!!!!」
「んだよ弟子一号!?さっきからうるせぇな!!」

「何で後先考えずに依頼という依頼、片っ端から受けちゃうんですかぁ!!!!!」
「短時間で借金全額返すにゃあ、血尿出るまで頑張るしか無いだろうが!!!!!」



……こんにちわ、ユーリル(仮)です。
今俺はバトランドという国の片隅で小さなお店を開いている。ちょっと殺気立ってるのはクソ忙しいからだ。
隣の小うるさいのは、元旅人さんで、今はこの店唯一の従業員兼俺の弟子一号だ。
男にしておくのが勿体無いほどの、線の細い美人さんで、俺の命の恩人でもある。
――あの時、崖から落ちて瀕死の重傷を負った俺を、
回復呪文とか言う怪しげパワーで助けてくれたのが、彼だった。
その後、お互いに行く当てが無い者同士だとわかると、色々話し合った結果すっかり意気投合しちゃって、
しばらく行動を共にすることになったのだ。


357 :隙間風 ◆njN6YTN.DI :2006/07/29(土) 01:09:31 ID:O07joDWB0
いや、彼には本当にお世話になっている。
その当時の俺にさえ負けず劣らずなほど、世間知らずな面があったりもするのだが、
命の恩人というのはもちろん、俺に(あの!)呪文というものを教えてくれたり、
あの時俺を襲った、魔物という存在についても詳しく教えてくれた。
ちなみに親玉はデスピサロとか言うらしい。ん?何かどっかで聞いた名前だな?……まあいいや。
そのお返しとして、という訳ではないが、俺の世界の技術を少々教えてやったところ、
滅茶苦茶感動して、なんと行動を共にしている間、弟子入りを志願してきたのだ。
これには流石の俺もちょっと面食らったが、師弟という言葉が持つロマンに負けて、
速攻で了承してしまった。

弟子一号は、人探しの目的で旅をしているらしい。
だがやはりこのような世界でも先立つものというのは重要らしく、文無しでは旅をすることも無理がある。
特にこのバトランドという国は、四方を険しい山と海とに囲まれて、移動手段が非常に限られており、
国外に出るには金かコネかのどちらかが必要になるらしく、途方に暮れていたそうだ。
という訳で俺としても他に当てもないし、よその国にも興味があるので、金を稼ぐ為に
城下町で借金して店を買い、後にこの世界の歴史に(いろんな意味で)名が残るほどの伝説の店――
即ち『ユーリルのアトリエ 〜バトランドの錬金術師〜』が誕生したのであった。

それから俺は手っ取り早く名前を売る為に、そして三度の飯よりも好きだった、
科学や化学のエクスタシーに触れる機会が無かったというストレスもあり、
自分の世界のステキ技術をハイパーにフル活用してみたりしたのだが、いや、やはりというか、
何かあっという間に評判が広まり、王宮からまで宮廷付きにならないかとスカウトが来た。
まぁ、弟子一号は人探しの旅という目的があるし、俺も援助はされども活動に制限のかかる宮仕えなど
グレートごめんなさいなので、きっぱりと断った。


358 :隙間風 ◆njN6YTN.DI :2006/07/29(土) 01:10:22 ID:O07joDWB0
予想以上に燃料や火薬の原料になるものなどが手に入ったので、つい調子に乗ってこの世界の
文明レベルからすると結構シャレにならないモノも世に出したりしていたので、
ちょっと面倒なことになるかなと思ったのだが、この国の王様は誠実で公明正大と民衆からも
もっぱらの評判らしく、こちらが拍子抜けするほどあっさりと引いてくれた。
まぁ、俺たちにとっては都合がいいのでよしとしておこう。
そんなこんなで、店は繁盛し、あらかた必要な情報も集まり、店を買ったときの借金も
そろそろ返済できそうになったその日の夜、それは起こった。
まぁ、起こったと言うか、単に周りを大勢の兵士で徐々に囲まれつつあるだけなのだが。
アレか。国もやけにあっさり引いてくれると思ったら、流石にそこまで甘くはないか。
鳴かぬなら 殺してしまえ ホトトギス。……ジャイアニズムならぬノブナギズムとでも言うのかね?
まぁ、王様の判断なのか家来の独断なのかは知らないが、どちらにしても今の状況は想定の範囲内だし、
やる事も変わりはしない。何も問題は無い。

「ど、どどど、どうしましょう、師匠!?僕たち何もしてないのに……何でこんな……?」

弟子一号なんかは未だに状況を把握しきれずにおろおろしている。コイツはいい奴なんだがちと人が良過ぎるな。
いつか性質の悪い人間に騙されるのではないかと、師匠としてちょっと心配になってくる。

「うろたえるな弟子一号、策はある。緊急マニュアル34号を開きたまえ」
「は、はい!」

帯出、転写厳禁なその書類に目を通し、そして次第に顔色が蒼白を通り越して土気色になっていく弟子一号。

「…………………………………………あの、師匠、これ…………マジで、やるんですか?」
「うむ、マジだ。凡俗どもに我が英知の偉大さを思い知らせてやろうぞ。……それではポチっとな」


359 :隙間風 ◆njN6YTN.DI :2006/07/29(土) 01:11:19 ID:O07joDWB0
俺がお決まりのかけ声と共に、巧妙に壁に隠されたスイッチを入れると、
地下へと続く階段が、低く響く音と共に床に現れる。
地下に降りた先には、一台の馬のない馬車がごっついカタパルトと共に用意してある。
その他にはまぁ、この国や弟子一号にさえ秘密な研究や作品などがちらほらと。
そんな作品の中のひとつ、『魔法の粘土』にちょこちょこっと細工をして、
ここの扉の開閉に(化学)反応するようにしておく。

「最近どうも収入と支出が全然合わないと思ってたら、こんな物造ってたんですか……」
「備えあれば憂いなし、だ。それより必要な荷物はもう積んであるから、とっととズラかるぞ!」

未だにおろおろと覚悟の決まらない弟子一号を馬車の幌の中にぶちこみ、俺も乗り込む。

「この先に馬が用意してある。そこまではちと荒っぽく行くから、しっかり手すりにつかまってろ!行くぞ!!」

後方にあるレバーを引くと、がこん、という音と共に一瞬の浮遊感。そして爆音。
そして俺たちは風になった。



巧妙に周囲の茂みにカモフラージュされた岩戸を突風の如き勢いで馬車が跳ね飛ばそうとすると、
岩戸に張り巡らされた、弾性のやたら強いロープが緩衝材となって馬車を押し留めた。
計算どおりで一安心だが、休んでいる暇はない。



360 :隙間風 ◆njN6YTN.DI :2006/07/29(土) 01:12:56 ID:O07joDWB0
俺は目を回している弟子一号の顔に、空気に触れると頭がすっきりする香りを発する液体を浸したハンカチをかぶせると、
岩戸のすぐ傍の小屋へ向かって走った。そして馬小屋の管理をしている爺さんへの挨拶もそこそこに、
小屋から四頭の馬を引っ張って馬車へと戻ると、何か弟子一号が壮絶な顔つきでのた打ち回っていた。

「おい、遊んでいる暇は無ぇぞ!早くしないと――」

その時だった。
大地をも揺るがす振動と共に、轟音が響き渡る。
確認するまでも無いが、音の出所を見遣ると、やはり城下町だった。
まずいな。あれでトンズラこいたことがバレた。さっさと移動しないと、街道を封鎖でもされると厄介だ。
俺は馬を片っ端から馬車に繋ぎ――恐るべきことに気がついた。
即ち――俺は、馬車など操縦できん!ということである。

「おい、弟子一号……」
「……………………はひ……………………」
「何やら近年稀に見る最高に笑える顔をしているが、残念ながら今は宴会芸など披露している場合ではないぞ」
「……我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢……」

何やらぶつぶつ言っているが、気にしている暇は無い。

「時に弟子一号、お前は馬車を操れるか?」
「……いいえ、やった事ないです」
「そうか、俺もだ」

一陣の風。そして静寂。


361 :隙間風 ◆njN6YTN.DI :2006/07/29(土) 01:13:49 ID:O07joDWB0
「ど、どどど、どうするんですかそんな今更ぁ!!」
「まぁ落ち着け。基本は乗馬とそんなに変わらないんじゃないか?乗馬くらいなら経験あるだろ?」
「ないです」
「そうか、俺もだ」

一陣の風。以下略。

「手前ぇ、それでも旅人かぁ!!」
「――うるさいわ!!人間歴5ヶ月をなめんな!!」
「何をいきなり訳のわからん言い訳を……ええい、いいから行け弟子一号!!大丈夫だお前ならきっと出来る!!」
「あんたが行けよ!よく町外れで変なゴーレムみたいな乗り物作って遊んでたでしょうが!!」
「ば、ばっ、違、お前、アレはただの1/2スケールの旧ザ…………じゃなくて、
 俺はあれだ!乗り物の操縦は苦手なんだよ!」

一応本当だ。車の免許の取得にえらい苦労したし。
事故を起こさず警察にさえ捕まらなけりゃあ、別に何やったって構わないと思っていたのだが、実際は違うらしい。

「あーもー、どうして肝心なところでいつもいつも抜けてるんですか、師匠は!!」
「何を!?泣き言と文句しか言わないヘタレにそんな事言われる筋合いは無いぞ!!」
「言ったね!?言いましたね!?」
「言ったさ!言ったともさ!!」
「ギャース!!」
「ギャースギャース!!」
「――――!!!!!」
「――――!!!!!」

結局。
見かねた馬番の爺さんが、俺たちにレクチャーしてくれました。


362 :隙間風 ◆njN6YTN.DI :2006/07/29(土) 01:14:45 ID:O07joDWB0
彼を拉致って操縦させようかとも考えたが、吹けば飛びそうな枯れ果てた爺さんだったので、やめておいた。
大丈夫、基礎さえ知っておけば後は何とでもなる。
何故なら、誰かと競う性質のものでもない限り、大抵の技術に対しての、俺の基本姿勢は『考えるな、感じろ』だからだ。
天才的な科学者ってのは99パーセントが閃きで出来ています。本当にありがとうございました。
という訳で、一時間ほどで基礎中の基礎だけを叩き込んだ俺たちは、爺さんの制止も無視して全速力で馬車をぶっ飛ばした。
途中17回ほど木に激突したり転倒したり、薬草マキシカスタムVer3.2通称レッドドラゴンを馬の口に突っ込んだりしながら、
街道に辿り着いた頃には、すっかりコツを掴んでしまいました。流石だな俺達。



そして半刻後――

「!ちぃ、もう見つかったのか、しつこい連中だ……!」
「ど、どどど、どうするんです、師匠!?何かもの凄まじい大軍で追っかけてきてますけど!!」

ボウガンに矢を装填しながら、街道を爆走する馬車の幌から後方をみやる。
土煙と地響きを上げながらこの距離からでもわかるくらいに殺気立って追いかけてきやがる。
アトリエで一杯喰わされたのがよほどムカついたと見えるな。何せ爆煙がここからでも見えたくらいだ。
それはともかく、俺も弟子一号も馬車の操者は超がつく初心者。
増して操縦を覚えるのに一時間も使ったのはマジで痛かった。
このままではいずれ追いつかれてしまいそうなので、俺は矢尻に安全ピンを抜いた手投げ弾をくくり付け、
連中に向かってボウガンを構えた。

「灰は灰に、塵は塵に。……ってな」

特に意味は無いが片手撃ち。煙草があれば完璧だったな。
無造作に見えて馬車の反動もしっかり計算に入れた必中の矢は、瞬く間に後方の土煙の中心に消え、
一瞬の後に、耳をつんざく轟音と共に土煙を二周りほど大きくした。


363 :隙間風 ◆njN6YTN.DI :2006/07/29(土) 01:15:39 ID:O07joDWB0
むしろ天に舞い上がった。連中の一部も天に舞った。
ああ、紙巻きの煙草が吸いたい。そしてシニカルに笑いたい。
酒はともかく煙草が不味いんだよこの世界。吸い過ぎると頭がくるくるぱーになるし。つーか違法だし。
……と。
再び鳴りはじめる地響きに俺は顔をしかめる。それも勢いが減るどころかむしろ増している。
連中予想以上に立ち直りが早いな、もう追ってきたか。
さすが異世界、葉っぱ喰って傷が塞がるだけはある。(最初見たときは心底ビビったぜ)
手榴弾くらい何ともないぜ!ってか。どころかあの立ち直りの速さじゃ、アトリエでも怪我人すら出たか怪しいもんだ。
――ごめん、自分で言ってて何だが、笑えねぇ。
……っと!

「見えた、洞窟だ!!あそこで何とかうるさい国家の犬どもを切り離すぞ!!」
「あああああ……もう完璧に悪者だあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

御者席で手綱を握る弟子一号がいきなり絶叫を上げる。何か嫌なことでもあったのだろうか。
まぁ、今は気にしている余裕はない。後で相談にでも乗ってやろう。
とにかく洞窟を突破し、あの場所にさえ辿り着ければ、後はどうとでもなる。今、こんな所で捕まってたまるか!




364 :隙間風 ◆njN6YTN.DI :2006/07/29(土) 01:16:44 ID:O07joDWB0
バトランドと巨大な河川で分断されたイムルとを繋ぐ、
シンプルな一本道だが、馬車が余裕で通れるほどの巨大な地下洞窟。
川向こうに用事があるときや、アレを製作するときに何度か通ったこともある。
その為、大体の力学的な構造は把握してあるし、万一のときの為の仕込みも万端だ。
さらばだ洞窟君。君には世話になったが、君の国がいけなかったのだよ。

「ポチっとな」

洞窟を抜けた俺は、イムル側の洞窟の外壁に、巧妙に隠された魔法のスイッチを押し込む。
すると、洞窟の何ヶ所かに仕掛けられた魔法の粘土が次々と(化学)反応して――



―――――――――――――――――!!!!!



その日、大洞窟はバトランドから消滅した。





それから。
追っ手さえ振り切ってしまえば、後はすんなり事は運んだ。
この世界にはキメラの翼というある意味反則チックなブツもあるから完全に油断は出来なかったが、
無事にバトランド名物(?)、湖の塔まで辿り着き、屋上付近に隠してあったエアプレーンを起動することが出来た。



365 :隙間風 ◆njN6YTN.DI :2006/07/29(土) 01:18:22 ID:O07joDWB0
それまでは落ちるだの死ぬだのむしろ死ねだのと、ぎゃあぎゃあ騒いでいた弟子一号も、
いったん機体の姿勢が安定すれば、今までの険悪な顔つきは吹き飛んで、
ぽかんと阿呆みたいに遥か下の、村っぽい集落を眺めている。とりあえずは一件落着か。
アトリエに置いていった物は少なくないが、本当にヤバイ物はあらかた消し飛んでいるだろうし。
どの道正規の手段でこの国を出るつもりは無かったから、これも予定調和といえば予定調和の内なんだが……。
……何かドタバタしてるよなぁ。何でこうも俺の周りでばかりトラブルが起こるのだか。
まぁ、何が無くとも、この身に宿る英知さえあれば全て事足りるのだがな。
気の向くまま、適当に操縦桿を切りながら、そんなことを考える。
何か飛んでから気付いたけど、うっかりエアプレーンに燃料入れ忘れてて、もうほとんど残ってないしさ。
がくんと安定を崩して高度を下げる機体と、ぐんぐん近付く小さな塔っぽい建物。

「……お約束だなぁ」

塔の窓に突っ込みながら、最後にそんなことを思った。
暗転。



ユーリル 錬金術師?
HP:1/39
MP:105/178
装備:Eコルトパイソン E絹のローブ クロスボウ
呪文:【回復】ベホイミ・キアリー
特技:集中 閃き 必中

弟子一号 ユーリルの弟子
HP:1/52
MP:1/41
装備:E毒蛾のナイフ E絹のローブ 毒針
呪文:【回復】ベホマ・キアリー・キアリク 【補助U】スクルト

366 :隙間風 ◆njN6YTN.DI :2006/07/29(土) 01:18:56 ID:O07joDWB0
#02

バトランド城門前 御触書



WANTED

錬金術師ユーリル
賞金 60,000G
罪状 国家反逆罪
詳細 錬金術による超高度な技術を持つ。狡猾で凶暴。要注意。
    魔族の王や伝説の地獄の帝王の化身という噂もある。

弟子一号(恐らく仮名)
賞金 30,000G
罪状 国家反逆罪
詳細 錬金術師ユーリルの弟子。ユーリルと行動を共にしているものと思われる。
    温厚な性格と優れた美貌。正体は魔物という確かな筋からの情報もある。



367 :隙間風 ◆njN6YTN.DI :2006/07/29(土) 01:19:44 ID:O07joDWB0
#03

『デスピサロ様……ただ今バトランド方面より緊急に連絡が入りました』
「……申せ」
『はっ!実は…………』
「……何?……それは確かか?」
『は……はっ、左様でございます!』
「――確かに、聞いた。下がれ」
『はっ、そ、それでは失礼します!』



「……大洞窟を一撃で埋没させる程の爆発に空を自由に行く飛行機械……。人間がそのような力を……?
 ……イムルの宿の事といい、流石にこれ以上捨て置く訳にもゆかぬな。
 バトランドは列強ゆえ、今は絡め手で攻め、精鋭を回すのは避けたかったのだが……。
 ……おのれ、何処の誰かはわからぬが、私の邪魔はさせぬぞ……。」




368 :隙間風 ◆njN6YTN.DI :2006/07/29(土) 01:21:26 ID:O07joDWB0
#04

とある旅人の手記 その1



○月△日
人間の体にも大分慣れてきた。
情報収集と仕事探しの為、バトランドへ向かう途中、崖下で瀕死の男の人を救助した。

――思えばこれが運の尽きだった。


○月○日
男の人はユーリルさんというそうだ。
ライアンさんとはまるで性格が違うけど、とても頭の良い人で、
不思議な知識や技術をたくさん知っている。
僕はいつかライアンさんと再会したときに少しでもライアンさんの力になるために、
ユーリルさんに弟子入りすることにした。ユーリルさんも快く了承してくれた。
よかった。ライアンさんとは違うけれど、この人もとてもいい人だ。


○月×日
お金を稼ぐ為に、師匠といっしょにバトランドの城下町でお店をすることになった。
旅を急ぎたい気持ちもあるけど、本当に人間として生活しているようで実はちょっと楽しみ。
明日からがんばるぞ。


○月□日
思ったよりも人間の生活というのは大変だ。来る日も来る日もお仕事ばかり。
確かに色々教わったけど、こんなに働いてばかりで皆、つらくないのかな?

369 :隙間風 ◆njN6YTN.DI :2006/07/29(土) 01:22:01 ID:O07joDWB0
○月△日
一日の労働時間が16時間というのは普通にあり得ないらしい。
師匠に問い質した所、師匠はすごく嫌そうな顔で、「ちっ、気付きやがったか」と舌打ちした。
ライアン様。僕は今日はじめて殺意という衝動を覚えました。


△月□日
もう人間は嫌だ。ホイミスライムに戻りたい。


△月△日
いつの日か……。いつの日か……。


□月○日
ニンゲン怖い。ニンゲン怖い。ニンゲン怖い。ニンゲン怖い。
ニンゲン怖い。ニンゲン怖い。ニンゲン怖い。ニンゲン怖い。
ニンゲン怖い。ニンゲン怖い。ニンゲン怖い。ニンゲン怖い。
ニンゲン怖い。ニンゲン怖い。ニンゲン怖い。ニンゲン怖い。
ニンゲン怖い。ニンゲン怖い。ニンゲン怖い。ニンゲン怖い。


□月△日
――ごめんなさい、ライアン様。もう貴方に顔向けができません。
世の中には、魔物よりも人間よりも遙かに恐ろしい存在がいるということを心の底から思い知りました。
さようなら、ライアンさん。旅の無事と勇者様に会えることを心よりお祈りしています。
僕も精一杯逞しく生きていこうと思います。ええそれはもう全力で。
そしていつの日かあの腐れ――――――――
(インクが飛び散っていてこれ以上読むことができない)

370 :隙間風 ◆njN6YTN.DI :2006/07/29(土) 01:22:38 ID:O07joDWB0
今回ここまでです。
隙間風でした。

371 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/07/29(土) 01:25:40 ID:sSoRhT0s0
ちょwwwwwwホイミンwwwwwwwwwwwww

372 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/07/29(土) 01:41:23 ID:8/nQ+gG30
>>370
面白かったよ、乙!
ホイミンが可哀想だがww

で、ちょっと指摘。
内容は十分に面白いんだが、文がゴチャゴチャして状況が掴みにくいかな。
もうちょっとすっきりしたほうが読み易いかも。

373 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/07/29(土) 11:17:50 ID:Pt/rmvFl0
ほんとに面白いと思えたよ、乙
上の状況が掴みにくいというのは一瞬思ったが脳内補完できるレベルなので
後でちょっと見直すなりすれば自分で直せるくらいじゃないかな?

374 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/07/29(土) 13:40:13 ID:SZ3yELzS0
ノリだけで突っ走る感触が気持ちいいなw
剣と魔法の世界に堂々と科学を持ち込んでるしw
だが気球で自由自在に移動できる謎物理法則の世界でどこまでできるか、今後を楽しみにしてます。

375 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/07/29(土) 18:52:29 ID:nuPNeMCX0
全部が長文でだらだら続くから読みにくいのかも
短くなりそうな文はそれだけでまとめて改行したら
全体的にすっきりして読みやすそう

とりあえずユーミルが微妙に悪人でホイミンがかわいそうだw
スライムに幸あれ


376 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/07/29(土) 19:37:32 ID:8MEwGkg7O
FC版のユーリル君は、悪人面だからな…
指名手配書の貼紙なんて似合いすぎだろw

377 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/07/29(土) 21:19:01 ID:vA2n/5WY0
>――思えばこれが運の尽きだった。
この一文が日記の初日にあるのは不自然だと思う。

・・・じゃぁどこに入れればいいかと言われると困るが。
「あの日この人を助けたのが運の尽きだった」と回想させるにしても、
それを日記のどこに入れても違和感が出るしなぁ・・・。

378 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/07/29(土) 21:24:41 ID:8/nQ+gG30
>>377
○月×日追記
――思えばこれが運の尽きだっ た。

てな感じでいいんじゃね?

379 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/07/29(土) 23:37:29 ID:yMkAAwnb0
隙間風氏乙
素直に面白かった
別に読みにくくは無かったなあ

――思えばこれが運の尽きだっ た。
の件については同意

380 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/07/30(日) 01:11:12 ID:/s/IuNno0
>>374
>剣と魔法の世界に堂々と科学を持ち込んでるしw
むしろDQの世界に堂々と他社のゲームのネタを持ち込んでることのほうが問題だろw
好きだからいいけどさ

しかし科学に関しては万能だなコイツ
いくら天才でも、あれだけ細分化・専門化された現代科学の知識・技術を
ここまで広く深く習得するのは並大抵ではないはずだが

とりあえず次回も期待しています

381 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/07/30(日) 08:37:58 ID:/kG3kgXD0
持てる才能を全て知識につぎ込んだんだろうなぁ…

飛行機を飛ばすだけの機関が作成できるっつーことは、
19世紀終わりまでの火器は作成できそうだな…
機関銃を作ったら弾の確保に難儀しそうだがwww

382 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/07/30(日) 08:51:45 ID:/kG3kgXD0
ってよく見たらコルトパイソン持ってるじゃねえか。
まさか第二次大戦後の火器まで作成可能かっ?

対戦車榴弾で粉砕されるエスタークとか嫌だなぁ…

383 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/07/30(日) 08:53:46 ID:1BXRPj7LO
また変な流れがw


384 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/07/30(日) 18:43:36 ID:XypmM/rYO
極めつけは核兵器か。

385 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/07/31(月) 11:08:41 ID:oKEF59K8O
保守

386 :隙間風 ◆njN6YTN.DI :2006/08/01(火) 02:34:30 ID:vA+x5+GT0
隙間風です。
ご意見を参考に、なるたけ短い文を連ねるような形でまとめてみました。

運の尽きやっぱり突っ込まれましたか。
一応そこらへんは考えて実は日記じゃなくて手記だったり。
追記の表現に一行開けてみたりと工夫した訳ですが
やはり努力足らずにへこみつつも続き投下します。

前回>>369


387 :隙間風 ◆njN6YTN.DI :2006/08/01(火) 02:35:17 ID:vA+x5+GT0
04

「HAHAHA、いやいやお陰で助かりましたよ」
「いえ、当然のことをしたまでです」

いい趣味したテーブルでお茶をしばきながら、目の前の美しい女性と談笑する。
ああ、心が安らぐなぁ。
最近どたばたしてばかりだったからなぁ。
自称良いスライムと部屋の中でも鎧ずくめの護衛らしき男はいい顔をしていなかったが。
綺麗な女性は好きだけど恋愛事には興味ナッシングなので安心してくれ。
科学が俺の奥さんで化学は俺の愛人さー。
何だ君たちその顔は。いや約一名除いて表情なんて全然わかんないけど。



それはともかく、あの時。
エアプレーンでどこぞの塔(後に目の前の女性の住処にして今この場所と判明)に激突。爆発。アフロヘア。
弟子一号ともども瀕死の重傷を負ったところを回復呪文とかいう怪しげパワーで助けてくれたのが、
目の前のエルフ何つーファンタジー種族のお嬢さんだった。激しくデジャビュ。
いや、最初目が覚めて彼女を見たときには戦慄したさ。
何せ、恐らく同じ種族だからだろうがあのピンクの殺戮者によく似ている。
奴がここまで追ってきたのではないかと錯覚したくらいだったからな。
でもすぐにその浮世離れした雰囲気と溢れんばかりの世間知らずオーラで、別人と断じることが出来た。

388 :隙間風 ◆njN6YTN.DI :2006/08/01(火) 02:35:57 ID:vA+x5+GT0
ちなみに大破したエアプレーンは未だにすぐ傍の塔の窓に突き刺さっている。
オブジェとしては極めてシュールで、趣味の良いこの部屋でめちゃくちゃ異彩を放っていた。

弟子一号はただ今必要物資を揃えるために買出しに出かけているため、ここにはいない。
アトリエと馬車にあらかた荷物を置いてきたため結構な量を買い足さなければなるまいが、
こちとら伊達に王都中で評判の店を営んでいた訳ではない。
持ち出してきた金にはかなり余裕があるから問題なく揃うだろう。
ここは見た目のどかな田舎村の割に、店の品揃えがバトランドとは比べ物にならない程良かった。
何か特別なコネでもあるのだろうか?
あとこの村の雰囲気は弟子一号にとっても好ましいらしく、目が覚めてからはやたらと機嫌が良かった。

とか何とか考えていると、ふと目の前のお嬢さんの表情が、パッと見ではわからない位僅かに曇る。
ううむ。こちとら他人様の家ぶっ壊したうえ命を助けてもらった挙句に、もてなされてまでいる。
ここで見過ごすのは何ぼ何でも気が引ける訳で。
薮蛇かもしれないとも思いつつ、巧みな話術でさりげなく悩みを聞き出したりしてみるとやはり薮蛇だった。

みのさん、出番ですー。
何か相談者の彼女曰く、問題はデスピサロとか言うこの頃よく聞く名前の彼氏君。
人間が気に入らないから全て滅ぼすために魔族の王となって世界征服を企んでいるとか。
スケールでけぇ。
更に人間滅ぼす本当の理由は自分のルビーの涙を狙う人間達から自分を守る為とか惚気られた。
スケール小せぇ。
まぁそんな事を涙を流してルビー製造を実演しながら語ってくれた訳で。
ルビー小さ過ぎる上に歪なので価値は無いに等しい。つーか手に取ったら崩れた。どんな脆い組成しとんじゃ鋼玉。


389 :隙間風 ◆njN6YTN.DI :2006/08/01(火) 02:36:38 ID:vA+x5+GT0
……まぁそれは置いといて、この会話の間で俺は何となく理解した。
この娘は『良い娘』なんだと。
だけど、この場合の良い娘っていうのは、毒にも薬にもならない奴というのと同義だ。
少し前の弟子一号と同じだな。
最近になってあいつもようやく口答えの一つも出来るようになったけれど、
出会ったばかりの頃なんて、試しに店で半日以上ぶっ続けでコキ使っても、文句一つ言わない良い子ちゃんぶり。
便利なことは便利だったので本人がキレるまで続けてみたけど、ぶっちゃけキモかった。
弟子一号は置いといて。

そのヤクザな彼氏君だって、遊びでそんなある意味大志を抱いている訳でもあるまいに。
いくら恋人だからって、やめろと言われて簡単に命を賭けた漢の野望を捨てられる訳が無いのである。
ぶっちゃけ単純バカとしか言いようはないのだが、単純でしかもバカなだけに真っ向からの説得は難しい。
相手は単純でしかもバカ、更に愛しの君の為にやってることなのだから、説得するよりもむしろ裏から糸を引き、
彼氏の行動を自分の都合の良いようにコントロールするのが正しい恋人のあり方だろう。多分。

……とはいえ、そんな機転の利く女だったら、その彼氏君がこの娘を恋人に選んだかどうかは微妙だ。
自分とは全くタイプの違う、優しく柔和で純真無垢な温室栽培のお姫様。
そんなヤクザな自分をも癒してくれる彼女に萌え――もとい惹かれたというのは十分に考えられる。

それにしてもだ。
ヤクザな彼氏に世間知らずのお嬢様。しかも二人揃って単純バカ。
ううむ、何だか本気でこの娘たちの行く末が心配になってきた。
絶対いつか悪賢い奴に二人揃っていいように利用された挙句、人生を棒に振るような気がしてならない。
…………ふむ。命を救ってもらった上、一宿一飯の恩義って奴もあるし。
お礼としてここは一つ――

390 :隙間風 ◆njN6YTN.DI :2006/08/01(火) 02:37:40 ID:vA+x5+GT0
「――Fuck you」
「……え?」

『利根川式演説』あたりで啓蒙してあげるとしよう。
ちなみに一度やってみたかったからという訳では断じてない。
機会があったらどこかで『ギレン式』や『少佐式』も試してみたいとかは全く考えていない。いないったらいない!

知らない人の為にちょっと説明しておくけれど、『利根川式演説』とは。
言ってしまえば、主に社会から幾度もドロップアウトした筋金入りの駄目人間相手に使われる、
相手を徹底的にコキ下ろした後に檄を飛ばすという極端な話術である。
冷静に一歩引いて考えればあまりにも極論に走ってたり詭弁だったりもするのだが、相手は意外に気付かない。
何故なら言ってる事自体は間違っていないからだ。別に完全に正しいとも言えないのだが。
そして相手もまた間違いなく駄目人間であり痛いところをバシバシ突かれるから、
反論したくても出来ずにあっという間に話のペースを持っていかれてしまう。

……という訳で散々コキ下ろしてエルフの嬢ちゃんルビー大量生産する気満々。
自称良いスライム体当たりは痛いから止めろ。
鎧君殺気満々で剣を構えるのはシャレになってないからやめてくれ。
鎧君に殺される前に次のステップに移行。
精神コマンド激励使用。更に俺の命が懸かってるので連続使用。
さあ目を覚ませ。
泣き言で人生は開かない。
勝たなきゃゴミなんだ……!
勝たなければ……
勝たなければ……

勝 た な け れ ば …… ! !


391 :隙間風 ◆njN6YTN.DI :2006/08/01(火) 02:41:59 ID:vA+x5+GT0
ちなみにこれ使用する際には、本来はこっちにもそれなりの貫禄と迫力が必要になるのだが、
今回相手は弱気で世間知らずな小娘だったので無問題だった。

「ああ……ユーリル様……。私……私……!勝ちます!!」
「……うむ、わかってくれたか!!」

ああ、本当に良い娘だ……。
このパープリンぶりはきっと弟子一号(初期型)以上だろう。
何故だろう、目から心の汗が止まらない。
あまりに不憫だったので、つい持っていた愛銃と弾薬、手榴弾、
薬草マキシカスタムVer3.2通称レッドドラゴンをありったけ渡してしまった。

「ありがとうございます、ユーリル様……」
「うむ。銃とかは使い方を紙に書いておくからよく読んでおく事。手入れもしっかりな。
 それから薬草マキシカスタムVer3.2通称レッドドラゴンは、
 息さえしてりゃどんな重傷でも直すし身体能力も胡散臭いほど上がるけど、
 副作用で薬が効いてる間は頭の中身もレッドドラゴンになるので注意するように」
「はい!」

まぁ、実際あんな言葉やこんなオモチャで全てが解決するほど簡単な話でもないのだろう。
あの程度で性根が変わるほど人の心も易くは無い。
単純バカというならむしろ尚更だ。バカは死ななきゃ直らない。
だが。何時、何処かで、何かを変える切っ掛け……くらいには、なるかもしれない。
あの娘自身の魅力か、ついガラにも無い親心を出してしまったが、これ以上の手助けも不要だろう。
ここは素直にちょっとだけいい事をしたと思っておくことにしよう。

392 :隙間風 ◆njN6YTN.DI :2006/08/01(火) 02:43:54 ID:vA+x5+GT0
さて、ともあれだ。恋人のいる女の子の部屋に必要以上に居座るのもまずいだろうし。
もし今ひょっこりと人間嫌いでヤクザで魔王な彼氏君が帰ってきたりしたら俺マジで殺されちゃう。
……ので俺は今夜中には夜逃げ――もとい出発できるよう、荷物をまとめる事にした。
つーかさっさと帰って来い弟子一号。
そして短い間だったが強く生きるんだぞ弟子二号!

あと別に未だに煙吐いてるエアプレーンの件をうやむやにしようとか考えていない。多分。



ユーリル 旅人?
HP:42/45
MP:9/189
装備:Eピースメーカー E魔法の法衣 クロスボウ
呪文:【回復】ベホイミ・キアリー
特技:集中 閃き 必中 激励

弟子一号 ユーリルの弟子
HP:58/58
MP:47/47
装備:Eまどろみの剣 E魔法の法衣 毒蛾のナイフ 毒針
呪文:【回復】ベホマ・キアリー・キアリク 【補助U】スクルト


393 :隙間風 ◆njN6YTN.DI :2006/08/01(火) 02:44:57 ID:vA+x5+GT0
#05

魔族の王デスピサロが自らの恋人を守る為に用意したその塔には、
五感と意識を惑わせる、高度な魔法による迷彩がかけられていた。
そこに進入する為には、とある正規の手段で魔法を解呪しなければならない。
だが、ごく稀に正規の手段以外で侵入を果たし得る者がいる。
強力な探知魔法を識る者。
盗賊の技法を究めた者。
或は、内部に通じている者の力を借りるか――
或は更に極々稀に、空から決死の特攻を敢行する者が居ないでもないかもしれないが。

ともあれ、そういった僅かなそして哀れな侵入者達は、即座に、
魔王の無二の腹心である、闇緑の鎧に身を包む騎士に切り捨てられることになる。
此度侵入を果たし得た例外者達も、いつも通りに切り捨てられる――――――――はずだった。





短く一言礼をとり、壁に立てかけた剣をとり部屋を出る忠実で寡黙な騎士。
ただ心配しながら彼を見送ることしか出来ないロザリーの胸に、とある旅人が残した言葉が蘇る。

(――泣き言で人生は開かない)

今まで誰も為し得なかったこの部屋への侵入を、常識破りな方法で果たし得た旅人たち。


394 :隙間風 ◆njN6YTN.DI :2006/08/01(火) 02:46:03 ID:vA+x5+GT0
(――勝たなきゃゴミなんだ……!)

勝ち負け以前に自分は戦ってすらこなかった。
扉の奥に目を向ける。
そこから聞こえるのは、金属同士がぶつかり合うけたたましい金切り音。
そして魔法によって空気が引き裂かれる音。

「怖い……」

怖い。恐ろしい。
今まで敵に立ち向かうなど思いもよらなかった。

(――勝たなければ……)

恐れを振り払うように首を振るロザリーの視界に、ふとテーブルの隅に置いてある物が映る。
それは件の旅人が去り際にロザリーに贈ったもの。

コルト・パイソン.357マグナム。
M24型柄付手榴弾・通称ポテトマッシャー。

名前の意味はよく分からないが、説明書きを読めばこれらがどれだけ強力な武器かは理解できる。
そして……。



395 :隙間風 ◆njN6YTN.DI :2006/08/01(火) 02:47:27 ID:vA+x5+GT0
薬草マキシカスタムVer3.2通称レッドドラゴン。

やはり名前の意味は殆ど理解できないが、ただ一つ、レッドドラゴンという名前は知っていた。
天空に住まう王者とは流石に比べるべくも無いが、それでも他の魔物とは一線を画す気高く勇猛な空の雄。
あの旅人はレッドドラゴンの如き強靭な精神を得ることが出来ると言っていた。(言ってません)

「ピサロ様……。少しだけ、少しだけ私に勇気をお与えください……!」

ロザリーは知らない。
この薬草どころか毒薬と呼ぶのもおこがましい、
稀代の錬金術師ユーリルがこれでもかという程間違えた方向に改良を重ねまくった魔薬。

それのネーミングが、単に彼の故郷に存在する精力ドリンクの名前からついたという事など――

(――勝たなければ……!!)

ロザリーは意を決して天災錬金術師の贈り物に手を伸ばした。






396 :隙間風 ◆njN6YTN.DI :2006/08/01(火) 02:51:53 ID:vA+x5+GT0
前衛の戦士二人は曲がりなりにも自分の一撃を受け止め、後衛の魔法使いとの連携もなかなかだ。
自分には遠く及ばないものの、賊にしてはそれなりに腕の立つ手合いではあった。
だがそれだけだ。連中の末路は微塵も変わらない。
しかし、長い護衛生活で騎士の勘が鈍っていたのだろうか。
奇跡的に数度の斬撃を凌ぎ、賊が逃走を図った。格どころか次元そのものが違う相手だと悟ったらしい。
逃がすと後々厄介なことになる。
闇緑の騎士は一撃で全てを薙ぎ払わんと、手にした剣を腰だめに構え――

――――きぃ、と。

騎士の背後で扉が開いた。



女が笑う。



一瞬。
騎士も賊も。
動きが止まった。




397 :隙間風 ◆njN6YTN.DI :2006/08/01(火) 02:52:39 ID:vA+x5+GT0
世にも綺麗な女が笑う。



「ロ、ロザリー様!?ここは危険です、部屋にお戻りくだ――」

ぐしゃり。
と。
女のか細い腕で無造作に壁に叩きつけられ、魔界でも屈指の勇士は沈黙した。
息はあるようだが、運悪く衝撃が完璧に延髄を通ったらしく、ぴくりとも動かない。

「え……?」
「あ……ああ……?」

賊たちも動かない。動けない。
――と。

がぁぁぁぁん。

そんな空気を引き裂くような轟音が、塔内の狭く薄暗い通路をがむしゃらに跳ね回る。
それとまったく同時に、いきなり胸から大量の血を噴き出しながら吹っ飛んだ仲間の姿を目の当たりにして――
残された賊たちは、今度こそ、絶叫した。



ケタケタケタとオンナがワラウ。



――――惨劇が幕を開けた。

398 :隙間風 ◆njN6YTN.DI :2006/08/01(火) 02:53:44 ID:vA+x5+GT0





闇夜の森。
生き残った最後の賊、戦士風の男はどくどくと血の溢れる自分の体を見遣った。

「ハ、ハハ……やっぱりウワサは本当だったんだ……」

自分の体の、穴だらけの胸から腹から、
ちぎれかけた腕から足からあふれ出るソレを次々に掻き出し、男は哄笑する。

「こんなに、こんなにあるじゃねえかよ。真っ赤なルビーがこんなに
 いっぱい、綺麗なルビーがいっぱい、いっぱいいっぱいおかねも
 ちだあきははははははははははははははははははははははは
 ははははははははははははははははははぎょぺっ!!」

脳漿をぶちまけて、最後の男が永遠に沈黙する。
ゆらゆらと歩きながら、オンナは硝煙の揺れる拳銃をだらりと下げた。
物言わぬ肉塊を見下ろし、禍々しい弧を描く紅い目が闇夜を照らす。


399 :隙間風 ◆njN6YTN.DI :2006/08/01(火) 02:54:20 ID:vA+x5+GT0



女が笑う。

世にも綺麗な女が笑う。

ケタケタケタとオンナが笑う。



「次ハオ前ダ、デスピサロ――」



ケタケタケタケタケタケタケタケタケタケタケタケタケタケタケタ――――



ロザリー
HP:375/36
MP:80/80
装備:Eコルトパイソン E光のドレス
呪文:【回復】ベホマ・キアリー・キアリク
    【補助T】ラリホー・マヌーサ 【補助U】スクルト・フバーハ


400 :隙間風 ◆njN6YTN.DI :2006/08/01(火) 02:55:29 ID:vA+x5+GT0
#06

「…………何なんだ、今の夢は」

イムルの宿の寝台から身を起こし、少年は心底げんなりとぼやいた。
未だ部屋は暗く、当分夜が明ける様子は無い。

「ん……」

彼の声に反応したのか、傍らの褐色の美女が身じろぎして目を開けた。

「ああ、すまないミネア。起こしてしまったか」
「……いいえユーリル様。むしろ恐ろしい夢から現実に引き上げてくださって、助かりました」

ユーリルと呼ばれた少年は苦笑する。
仲間の内で唯一自分の秘密を知る、神秘的な美女を抱き寄せ軽く唇を重ねると、悪戯っぽく微笑んだ。

「そんなに恐ろしかったか?それより僕はあの狂ったエルフの女が口に出していた名前の方が気になったよ」
「ええ……本当に不思議な夢です。彼女もデスピサロと敵対しているのでしょうか?」
「さぁ?セリフだけを聞けばそんな感じだったけど」

何がおかしいのか、ミネアの髪を透きながらくすくす笑う少年。
逆に、ミネアの方は少年の胸にすがりつき、小さく震えた。

「ユーリル様……私は恐ろしいのです。
 あなた様に出会って自分の運命を見出した時点で、先を見通せなくなるのは覚悟していました。
 ……ですが、それとは別に、何か運命が大きく乱れているような気がしてならないのです!」

ミネアの怯えた声を聞きながら、少年の笑みはさらに深まった。

「運命が乱れている……か。そんな事は僕が一番良く知っているよ」
「あ……」

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