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もし目が覚めたらそこがDQ世界の宿屋だったら六泊目

20 :暇潰し ◆ODmtHj3GLQ :2006/03/14(火) 19:45:53 ID:cee3+gQZ0
〜終わりの始まり〜
嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ
                何故世界はこんなにも汚れに満ちているのだろうか
 人は皆自分だけの為に他人を傷つける
          何が努力だ。何が愛だ。何が友情だ。何が・・・
そんなものどこに存在しているというのだ
        もしあると言うなら、今すぐここに示してみせろ
痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い
     何故世界はこんなにも不幸に満ちているのだろうか
  自分は何もしていないのに苦しい事ばかりじゃないか
                               こんな世界なら存在しなくていい
こんな世界なら壊れてしまえばいい
    誰もいなくなれば、どんな苦痛も、不幸も、悲鳴も、死さえも無くなるだろう
               そうだ。そうなってしまえばいい
                       僕を傷付けるものは全て無くなってしまえ
 そして僕も消えてしまえばいい
                     そうすればきっとこの世界は救われる・・・
壊れてしまえ壊れてしまえ壊れてしまえ壊れてしまえ壊れてしまえ壊れてしまえ・・・

21 :暇潰し ◆ODmtHj3GLQ :2006/03/14(火) 19:47:44 ID:cee3+gQZ0
〜Annunciation〜
タタタッ・・・!
街の騒音に混じって軽快な足音が響く
「はぁはぁはぁ・・・。」
時間は通勤ラッシュをとっくに過ぎ、昼前である。
「ちっくしょ〜」
そんな悪態をつきながらも、その声の主は通行人を華麗に交わしていく。
夏に入る頃の爽やかな風も手伝って、彼女が足を運ぶその度に赤チェックのスカートが危なげに舞う。
上は白いブラウスに赤のネクタイ。この先にある高校の制服である。
なかなか映える服装だが、遅刻なこともあり、周囲からはかなり目立ってしまっている。
普段から朝は強くないが、今回の寝坊は特に酷かった。
昨日遊んだ帰りに靴の紐が切れるし、夜は枕の形が気になってなかなか眠れなかった。
今朝は今朝で髪型がうまく決まらなかった。
「また怒られっかな〜・・」
遅刻は3回で欠席1に数えられてしまう。ちなみに結構ピンチである。

♪♪♪あの〜虹を〜渡って〜

「もう!何よこんな時に・・・」
携帯を取り出し、外れかけた赤いヘアピンを直しつつ画面を見る。
番号は分からないが、【RUBISU】と表示されている。
疑問を抱きつつも、条件反射で出てしまう。
「もしもし!?」
「私の名前はルビス。世界は再び危機に瀕しています」
イタズラかと思う。
「真理奈、あなたの力が必要です。どうか私達の世界を救って下さい」
「あんたね〜・・・」
言い終わらない内に真理奈の世界は白く包まれた。

22 :暇潰し ◆ODmtHj3GLQ :2006/03/14(火) 19:51:00 ID:cee3+gQZ0
目を開けるとそこは一面の草原だった。
正面の遠く向こうには海岸、右手には山が連なり、左手には森が見える。
ちょうど丘のような場所に真理奈は立っていた。
さっきまでの高層ビル群は跡形も無く消えて、代わりにどこまでも抜けるような青空が広がっていた。
「・・・・・・何だこれ」
まるで夢の中で場面が突然変わってしまうかのように、景色が一変してしまった。
無意識的に頬をつねる。痛い。
どうやら夢ではなさそうだ。
というか、「夢かな?」と考えることができる時点で夢ではないことを証明しているようなものだ。
しかし真理奈はそんな事を考えられない。
(学校は間に合わないか・・・)
と、どこか間の抜けたボンヤリをしていると、何やら青くて丸いものが坂を登り、真理奈の方へ向かってくる。
サッカーボールよりも小さいが、ツノや目や口らしきものがついている。生き物・・・か?
「ピキー!!」と声を出し、必死に走って来る。
よく見ると、青いのの後ろからウサギが追いかけて来ていた。
こちらもなぜか大きな1本のツノが額の辺りから生えている。
スピードをつけ、頭を低くし、青いのを突き刺そうと猛ダッシュをかけている。
青いのも頑張って逃げているが、とうとう転んでしまった。
ウサギがチャンスとばかりに青いの目掛けてジャンプする。
「危ない!!」
真理奈はとっさに飛び出し、ウサギを思いっ・・・きり蹴飛ばした!
タタタタ タータッタ〜ン♪♪♪

23 :暇潰し ◆ODmtHj3GLQ :2006/03/14(火) 19:53:06 ID:cee3+gQZ0
「ピー、ピー」
青いのが真理奈の足に擦り寄って来る。
「お〜よしよし」
持ち上げて体を撫でてみる。
不思議な感触だ。プヨプヨと柔らかいが、形を崩しても元に戻る。
色は真っ青で、向こう側が透き通っている。
ツノを体の中に押し込んでみると「プニュ〜・・・」と困ったような声と顔をした。
「ねぇ、ここはどこなの?」
さすがに人間の言葉は分からないみたいだ。
「ピー!」となぜか嬉しそうな返事をされてしまった。

「おい!お前そこで何してる?!」
突然、若い男の声が聞こえた。
振り返ると2人の男がこちらに向かってくるのが見えた。
しかし格好がおかしい。
映画に出てくるような鎧を着、手には槍が握られている。
「見かけない奴だな。どこから来た?」
「どこって・・家だけど?」
「家はどこかと聞いてるんだ!」
「怒鳴らなくてもいいじゃん・・・」
「こんな服見たことないし・・怪しいな。先輩、どうします?」
「そうだなぁ。とりあえず報告だな」
「分かりました。ほら、こっちこい」
若い方が真理奈の手を引く。
「ちょっと!引っ張らなくてもいいじゃん!」「ピー!」
「なんだ?・・スライムか。こんなの持って、ますます怪しい奴だ」
若いのはそう言うと、青いのを掴み投げ捨てた。
「あぁ!!」「いいから行くぞ!」「ピ〜・・・」
スライムは強引に連れて行かれる真理奈をいつまでも見つめていた。

24 :暇潰し ◆ODmtHj3GLQ :2006/03/14(火) 19:55:02 ID:cee3+gQZ0
「ね〜ここはどこなの?」
「ん?アリアハンに決まってるだろ?」
「アリア・・・?」(そんな国あったっけ?)
「お前はどこから来たんだ?」
「幕張だけど?」
「マク・・?どこだそれは」
「千葉よ、日本の。ジャパン。分かる?」
「そんな国は聞いたことないな・・・」
話がまったく通じなかった。いや、日本語は通じるのだが、内容が話にならなかった。
「先輩、やっぱりモンスターが化けてるんじゃ・・?スライム持ってたし」
「誰がモンスターなのよ!」
「ん〜それはないだろ仮にモンスターだとしても、俺達にこんな嘘を付く理由がない」
「なるほど・・・それもそうですね」
「それにもうモンスターは―――」
話をしている内に、3人はアリアハンの町に入った。
何の事はない。真理奈がこの世界に現れた時は、アリアハンに背を向けていたのだ。
町の道路はまったく舗装されておらず、車はおろか、自転車の一台も走ってはいない。
そして都会のように小走りで歩く人もいない。皆運ばれてくる風を楽しむかのようにゆっくりと歩く。
建物はまばらで2階建てが多く、一軒一軒の敷地は広かった。確実に日本家屋とは様子が違う。
唯一高い建物と言えば、左手に見えるお城だった。これまた映画に出てくるような西欧のお城である。
真理奈はそれらを眺め、初めて今までと違うトコロにいるんだと実感した。
しかしまったく不安や焦りを感じなかった。
それはアリアハンの持つ、どこかのどかな雰囲気のおかげかもしれない。

25 :暇潰し ◆ODmtHj3GLQ :2006/03/14(火) 19:57:15 ID:cee3+gQZ0
「キャー!!」
突然女性の叫び声が辺りに響き渡った。
真理奈を連行していた2人はとっさに走り出す。
「お前はそこで待っていろ!」
先輩の方が走りながら振り返り、真理奈に言い放つ。
「・・・まったく何なのよ・・・」
真理奈は1人取り残され、またしても呆然とする。
2人と入れ替えに青年が町の中に入って来た。腕にはぐったりとした女性を抱きかかえている。
「モ、モンスターだ!モンスターが攻めて来たぞ!!」
青年は町中に警告するように声を上げた。町人はすぐそれに反応し、家の中に避難していった。
(モンスター?あの2人もそんな事言ってたっけ・・・あのウサギや青いのの事かな?)
持ち前の行動力からか、単に騒ぎが好きなのかどちらかは分からないが、真理奈は2人を追いかけることにした。

町の外では2人がモンスターと戦っていた。
普段からの訓練が活かされているのか、次々と撃破していく。
「中々やるようになったな!」「先輩のおかげです!!」
なんて熱血する余裕もあるみたい。と言ってる傍から後輩の後ろに大きなカエルが突進してきていた。
「おぉ〜りぃやぁ〜〜!!」
真理奈はダッシュの勢いを付けカエルの腹に蹴りをぶち込む。カエルは泡を吹きながら吹き飛んでいった。
「油断よ、後輩ちゃん?」「お、お前!どうしてここに・・・」
「いいからいいから〜。私ちょっと自身あるんだ。一緒に戦うよ」
「何言ってるんだ!ダメに決まって――」
「口論してる場合かなぁ?先輩が大変そうだよ?」
真理奈の指差す方を見ると、先輩がカラス達に骨やら石やらを頭上に落とされて困っていた。
「あ・・」「ほらほら、行くわよ!」真理奈は走り出す。
「・・・・」そして後輩ちゃんも真理奈の背中を追うように走り出した。

その頃、アリアハンへと続く道には続々とモンスタ−が集結していた。

26 :暇潰し ◆ODmtHj3GLQ :2006/03/14(火) 19:59:06 ID:cee3+gQZ0
「お前やるなぁ〜!」「でしょでしょ〜!!」「ありがとう。礼を言うよ」
カラス達を撃退した後、お城からの兵士が援軍に駆けつけ、事態は終息を迎えようとしていた。
真理奈は先輩後輩コンビと一休み。最初の疑いはどこへやら・・・
「しかし、なぜ今さらモンスターが凶暴化したんでしょうね?」
「分からん・・・」先輩は心底不思議という顔をしながら言った。
「今までもモンスターが襲ってくることはあったが、こんなにも多くのモンスターが攻めて来ることはなかった」
「???モンスターは凶暴なものなんじゃないの?」真理奈も不思議な顔をして尋ねる。
「ここ数年は大人しかったんだ。こんなの初めてだ・・・」
「お前はまだ若いからな。あの頃は―――」
ドド・・ドドドドド・・・ドドドドドドド・・・・!!!
地面がかすかに揺れる。それはゆっくりと、確実に力を増しながら近くなってくる。
「隊長!!モンスターの大群が・・!」兵士が走りながら報告する。
兵士の焦り具合を見ると事態は良くないようだ、と推量できる。
実際に群れを見て推量を確信に変える。が、隊長としてひるむ訳にはいかなかった。
「・・・よし!隊列を組みなおせ!!傷を負った者は今の内に治療しておけ!!」
先輩は兵達に声をかけていく。
「さ、さすがにあれは無理だ。ここからは俺たちに任せて、お前は避難しろよ」
「震えながら何言ってるのよ後輩ちゃん。ここまで来たら最後まで付き合うわ」
「でも・・・」
「負けたら町の中にいても同じじゃない」
「それは・・そうだけど・・・」
「じゃあ決まり!」
「巻き込んですまない。だが無茶はするなよ」先輩が戻ってきて言った。
「大丈夫だって!」
真理奈は満面の笑みで答える。その顔に2人はどこか安心感を覚えた。

27 :暇潰し ◆ODmtHj3GLQ :2006/03/14(火) 20:02:11 ID:cee3+gQZ0
モンスター達はアリアハンから200m、兵士達からは100mの辺りで進行を停止した。
まるでその数を見せ付けるように、横一列に並んでいる。
そのちょうど真ん中には一際大きなモンスターが見える。
「馬鹿な・・・あれはグリズリーか・・・」
「え?!グリズリーってアリアハンにいるんですか?!」
「いや、いない。いるはずはない・・・」
(あれって熊よね?そりゃヤバいわ・・・)
日本にもいるが、当然遭った事はない。
「よし、俺達はあれをやるぞ」
「・・・お前、この盾使えよ。さすがにその装備じゃ辛いだろ」
後輩ちゃんが真理奈に盾を差し出す。
「お、ありがと」・・と、受け取ろうとする手を先輩は遮った。
「いや、俺のを使え。少なくともこいつよりも俺の方が強いからな」
先輩はニヤリと不敵に笑った。

グア〜オオォォオー!!!
グリズリーが雄叫びを上げる。それに呼応するように他のモンスターも奇声を発した。
「怯えるな!日頃の成果を見せる時が来たぞ!
 薬草と聖水忘れてないな?!何としてもアリアハンを守るんだ!!」
先輩が檄を飛ばす。
グァアアァァ〜!!!オオオオオオオオオ!!!
グリズリーが再び吠え、モンスターに突撃を命じた。一斉に動きだすモンスター達。
「行け〜!!」
隊長の掛け声に合わせて兵士達も迎撃に向かった。
真理奈も同じく駆け出す。真理奈の制服は戦場でも目立っていた。

28 :暇潰し ◆ODmtHj3GLQ :2006/03/14(火) 20:06:11 ID:cee3+gQZ0
ほとんどの兵士が善戦する中、真理奈達3人は苦戦を強いられていた。
グリズリーがその巨体に似合わず俊敏な動きで真理奈達を翻弄したからである。
素早い攻撃を何とか盾で受け止めるものの、盾がひしゃげる程の威力があった。
「うあぁぁー!!」ガキン!!後輩ちゃんへの攻撃を真理奈がかばう。
「後輩ちゃんしっかり!」
「ふんっ!!」先輩が力を込め、グリズリーの心臓目掛けて槍を突き出した。
が、皮膚を少し傷つけることしかできなかった。
「!!」
渾身の攻撃が効かなかった事で先輩は少し怯む。怯みは隙となり、戦闘中の隙は致命傷である。
グリズリーの爪が先輩の腹を貫いた。
「せんぱ・・・こんちくしょー!!!」
後輩ちゃんが怒りに任せて突撃する。
しかしそれも虚しくグリズリーにかわされ、後輩ちゃんは蹴り飛ばされた。真理奈がフロッガーにしたように・・・
(先輩・・・後輩ちゃん・・・)
2人を片付けたグリズリーは、なおも攻撃の手を緩める事なく真理奈に迫ってきた。
左右の腕を交互に振り上げ、真理奈を裂くために動かされる。
ヒュッ!!ガキンっ!
盾が使い物にならなくなり、紙一重で避ける真理奈の服は少しずつ破れていった。
(ヤバっ・・・間に合わ――)
右からの攻撃をまともに受け、吹き飛ばされる。
グリズリーの爪は真理奈の背中左脇と左腕を切り裂いていた。
血がブラウスも赤く染めていく・・・
(もうダメか・・・)
朦朧とする意識の中、グリズリーが近づいて来るのを確認する。
グリズリーは勝ち誇ったような笑みを浮かべている。最後の止めを刺す為に腕を振り上げた。
(お母さん・・・!)
その時、青くて丸いものが飛び出し、真理奈を守るかのように立ちはだかった。
「ピーー!!」「お前・・!」
しかしスライムではグリズリーの抑止力にはならない・・・!
ズシュ!!!
戦場では珍しくない肉の千切れる音がした。

29 :暇潰し ◆ODmtHj3GLQ :2006/03/14(火) 20:08:45 ID:cee3+gQZ0
次に真理奈が目にしたのは空中を舞うグリズリーの腕だった。
「大丈夫か?」
見知らぬ青年が真理奈に声をかけて、返事を待たずにグリズリーとの戦闘に戻っていった。
「ベホイミ」
凛としたその声とともに体の痛みが消える。
振り返ると、少女が真理奈を見ていた。
「・・・あなたがやってくれたの?」
少女は答えない。
「大丈夫かの?」
その後ろからおじいさんがやってきた。
「は、はい。あなたは?」
「自己紹介は後じゃな。今は勝つ事だけ考えるべきじゃ」
少女が真理奈に何かを差し出す。パンチングマシーンのグローブのようなものだ。
甲の部分にカッターの刃のようなものが3本取り付けてある。
しかしそれはカッターよりも刃が太く、簡単には折れそうになかった。
「これは・・・?」「鉄の爪じゃよ。最後の一撃、頼みますぞ」
そう言うとおじいさんはグリズリーの方へ向かっていった。
「ありがとね」真理奈は少女に礼を言う。
「ピー!!」スライムが自分も忘れるな、と声を上げる。
「お前もありがとね」
スライムを持ち上げナデナデする。
そして真理奈は鉄の爪を右手にはめてみた。不思議と手に馴染む・・・
「よし!じゃあ行ってくるよ!こいつよろしく!」少女にスライムを渡した。
ニッコリと微笑むと、少女は真理奈に小さく手を振ってくれた。
「ピ〜!」
スライムの声援を背中に受け、真理奈は再び戦場に舞い戻る。

30 :暇潰し ◆ODmtHj3GLQ :2006/03/14(火) 20:11:10 ID:cee3+gQZ0
片腕を無くしたグリズリーは痛みと怒りに狂い、滅茶苦茶な攻撃を青年に仕掛ける。
スピードはやや落ちたものの、攻撃力は増している。
まともに受ければ命はないだろう。
しかし、避けきれない程ではなくなっていた。
チャンスが生まれるまで青年は走り回った。
「さてさて、久しぶりに頑張ろうとするかのう」
おじいちゃんがMPを練り、青年と目を合わしてタイミングを取る。
「ヒャダルコ!!」
氷の波が地面を這い、青年を攻撃することだけに執着していたグリズリーの両足を凍らせた。
グァワァァァ〜!!!
突然動きの取れなくなったグリズリーはバランスを崩す。
その隙に青年はグリズリーの残りの腕に剣を突き刺し、腕の動きも奪う。
「今だ!!」
青年が叫ぶと同時に、真理奈が走りこんで来る。
(何かよく分かんない内にこんなことになっちゃったけど・・・)
(先輩と後輩ちゃんの仇は取る!!)
「ルカニ!」
「やぁぁぁああぁぁ〜!!!」
真理奈は疾走の勢いを殺さずに飛び上がり、グリズリーの胸に鉄の爪を突き立て、心臓を貫いた。
グリズリーは空を見上げるように顔を上げ、動きを止めた。
オオオォォォオオ・・・・
戦場に戦いの終わりを告げるグリズリーの断末魔の叫びが響き渡った。

31 :暇潰し ◆ODmtHj3GLQ :2006/03/14(火) 20:15:25 ID:cee3+gQZ0
夜―――この世界で迎える初めての夜である。
真理奈は夜中に目を覚ましてしまった。
ここは宿屋2階のベッドの上。
横にはスライムが「ピー・・・ピー・・・」と寝息をかいている。
微かに笑った後、ベッドを抜け出して窓を開け、窓枠に腰掛ける。
まったく静かな夜である。
家屋の軒先には明かりの炎が焚かれているが、空の色を変えたりする程ではない。
視線を少し上げると、数ケ所に設置されている、民家と同じく小さい炎の中に浮かび上がるお城が見える。
夜空に浮かぶお城というと不気味に聞こえるが、決して威圧感を与えるような風景ではない。
時々運ばれてくる風に髪を揺らされ、どこか懐かしいような香りを感じる。
そして真理奈は自分の家の事を思う。
母親は心配していないだろうか、と。
いやあの母親では逆に、帰った時に怒られるのを心配した方がいいかもしれないが・・・
(携帯繋がらないかな・・・?)
ふとそう思い、携帯を取り出してみる。
・・・・・・・・圏外だ。
(そりゃ当たり前か)
諦めの表情に苦笑を浮かべる。と、携帯が鳴り出した。
♪♪♪あの虹を〜
「はいはいはい!もしもし?!」慌てて出る。
「ルビスです。ありがとうございました」
「あんたね〜!!」大声で怒鳴ってから、はっとする。
・・・良かった。スライムは起きなかったようだ。
「あなたには申し訳ないと思っています。しかし、これしか時間も方法も無かったのです」
「はいはい、そ〜ですか」投げやりに答え、窓の外に目を戻す。

32 :暇潰し ◆ODmtHj3GLQ :2006/03/14(火) 20:16:27 ID:cee3+gQZ0
「で?もう帰してくれるの?」
「・・・それはまだできません。この世界を救って下さい。そうすればあなたの世界に帰します」
「随分な条件だこと!」
「お願いするしかありません。私の力は、あの力には及ばないのです」
「偉そうなくせして役立たずね〜」
「・・・1通だけメールを送れるようにします。お母様によろしく」
「え?!」ツーツー・・・・
「何なのよ!」
終了ボタンを押し、画面を見ると確かにアンテナが4本立っている。
「マジ?!」
慣れた手つきで母親のアドレスを呼び出し、メール作成画面に入る。
「えーっと、えーっと・・・何て書けばいいの・・・」
迷っていると、アンテナが3本に減った。
「え?!ちょっと待ってよ・・・」カコカコカコ
【お母さんごめんなさい。何か帰れなくなっちゃった。怪我とかしたけど、心配しないで―――】
「って怪我したって言ったら心配するじゃん!」
アンテナはもう1本になっている。
「こら〜ルビス〜!まだ終わってないんだからちょっと待て〜!!」
・・・・ちょっとだけ2本に戻った。
【―――ちゃんと帰るから怒らないで待ってて。真理奈】
「よし!送信!」送信完了と共に、再び圏外に戻ってしまった。
「ふぅ・・・今度から着信拒否しよっかな・・・」
少し本気で考える真理奈であった。

33 :暇潰し ◆ODmtHj3GLQ :2006/03/14(火) 20:20:56 ID:cee3+gQZ0
夜空を見上げると、本当に真っ暗で星が良く見えた。
あの星のどれか1つに自分の故郷があるのではないか。
そんな思いがするくらい、自分の世界が遠く感じる。
「世界を救って下さい・・・か」
昨日までそんなことを言われたこともなければ、考えたこともなかった。
真理奈の世界も色んな危機に瀕していると言えるだろう。
しかし、その危機を救おうとしているのは全人類のごく一部の人である。
ほとんどの人はその日を精一杯生きるのみである。
真理奈とてその中の1人である。
こっちの世界の危機がどんなものか知らないが、本当にそんな事ができるのだろうか。
ヒト1人の力なんてたいしたものではない事を真理奈はよく知っている。
漫画のように何か秘めた力でもあれば可能なのかもしれないが、そんな力を持っている訳ではない。
それに「世界を救う」と言われても漠然としすぎているし、事が大きすぎてさっぱり実感が沸かない。
「これからどうなっちゃうんだろ・・・」
自分がルビスに選ばれた訳や、この世界の事、それに元の世界の事・・・
色々と知りたいことはあるが、今日のところは寝るしかなさそうだ。
使わない頭で考えすぎて疲れてしまった。
(何か知らないけどやるしかない、か。自分の世界に帰りたいしね)
ベッドに戻り、スライムを起こさないように手に乗せる。
スライムが息をする度にその体が膨らみ、しぼむ。それの繰り返し。
その緩やかなリズムによって、真理奈の心はまどろみの中に誘われる。
「おやす・・み・・・」
そんな初夜だった。

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