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もし目が覚めたら、そこがDQ世界の宿屋だったら

391 :DQ2:2005/05/02(月) 19:02:49 ID:ta90aZiM
「王子!王子!」

 どこか遠く、そう、まるで違う世界から響いてくるような声。
うるさい。俺はこの朝のまどろみの時間が何よりも好きなんだ。

「王子!王子ー!」

 だから誰だよ、朝っぱらから大声を出してる奴は。
俺のアパートは閑静な事だけが売りのアパートだったはずだ。
気違いのように叫び声を上げる住人などいない。

「王子!王子!」

 ふと違和感を感じる。
少しずつ覚醒していく意識と共にそれは大きくなっていく。

「いい加減になさいませ!王子!今日は大切な日なのですぞ!」

 バタン、とドアの開く大きな音と共に初老の男が部屋に入ってきた。
その音があまりにも大きかったために、驚いた俺は思わず起き上がった。
……誰だ?
いや、それ以前にここはどこなのだ。

「探しましたぞ、王子」

 王子王子って俺は及川光博じゃない。

「お部屋におられぬ故どうしたのかと城内を見回りましたがどこにもおられず、
もしや王子の御身に何かあったのかと死にもの狂いで探し回ってみればかような所で高鼾とは……。
あれほど市井の者に迷惑を掛けぬよう教え込んだこの爺の努力は何だったのか……」

392 :DQ2:2005/05/02(月) 19:03:51 ID:ta90aZiM
 質素なベッド。
石造りの部屋はあきらかに日本の文化には無い建築方法だ。
調度品はこのベッドと古びた机、小さいクローゼットだけだった。
小さな窓から朝霧にかすむ城が見える。

「王子!」
「耳元で大きな声を出さないでくださいよ。さっきからなんなんですか」
「まさか今日が何の日なのかお忘れしたわけではありますまいな?」
「は?いやそれよりも貴方は誰なんですか。そしてここは何処ですか」
「……まだ寝ぼけておられるようですな」
「いや、もう起きてますから」
「今日は我がローレシアの第一王子が魔王を討つべく出立なされる日でござりますぞ」

 ローレシア……。
どっかで聞いた事のある名前だ。
なんだっけな。ワルキューレの塔じゃないし……。

「すみません、多分人違いです」

 そう言いながら俺は一つ確信した。
これは夢だ。
現実感の無さといい、この自分の意志でままならない感じも夢としか考えられない。
しかし、せっかくの休日に見る夢としてはかなり最悪なレベルの夢だ。
せめてこのジジイが佐藤寛子だったら一気に殿堂入りするのだが……。

「うははは、なかなか面白い冗談ですな王子。しかし今は談笑している場合ではござりませぬ」
「いやあの、冗談を言ったつもりはないのですが」
「ささ、参りましょう。お父君であるローレシア王も心配されております」

 夢であると確信した今、これ以上の押し問答は必要ないだろう。
どうせならこのリアル極まりないRPGを楽しんだ方が良さそうだ。

393 :DQ2:2005/05/02(月) 19:04:23 ID:ta90aZiM
「おお、心配したぞ。ささ、こちらへ参れ」

 絵に描いたような王様が飛び出してくる。
王冠。杖。金襴緞子を思わせる派手なガウン。
我ながら貧困な発想力だな、と思う。

「皆の者、今日は我がローレシアの勇敢なる王子が魔王を討つために旅立つ。
世界が待ちわびた勇者がこのローレシアから生まれたのだ。
この偉大なる王子に祝福があらんことを!」

 俺の父親という設定らしい王様が杖を高々と掲げると、
緋毛氈の敷かれた通路の脇に控えていた兵士が雄叫びを上げる。
……これだけの兵士が居ても太刀打ちが出来ない相手と一人で戦うのか。
まさにRPGの世界だな。

「王子よ、皆に出立の挨拶を」

 王様に促されてくるりと身を翻す。
城内中から集まったと思しき人たちの視線が俺に集まる。
何か気の利いた事を言わなければならないのだろう。
どうせ夢だ。ちょっと臭い事を言っておくか。

「えー、おほん。魔王に怯えていた時は終わった。命に代えても魔王を討つ。
今日が我々の独立記念日である!」

 うおおお、と地鳴りのような声が城内に響いた。
見れば先ほどのお目付け役がおいおいと涙を流している。
王様も身を震わせて涙をこらえている。
……あんなインデペンデンス・デイのパクり台詞でいいんだろうか。
いいのか。この世界で見た事のある奴はいないだろう。
なるほど、たまには勇者になるのも悪くない。

394 :DQ2:2005/05/02(月) 19:05:27 ID:ta90aZiM
「さあ、これを持って行くがいい。旅立ちに必要な物は用意しておいた」

 従者が宝箱のような物を運んでくる。
ははあ、ここで魔王を討つための伝説の剣が出てくるんだな。
箱が開かれて豪華な装備が……出るはずだった。
はずだったのだ。
が、その豪華な箱から出てきた物は単なる木の棒だった。
青銅色をした剣。まさかこれが伝説の剣ではあるまい。
普通の布で出来た、何の変哲もない服。
防具らしき物としては、何かの動物の革で出来ていると思われる鎧が一つ。
それだけだった。あとは薬品が少々と通貨らしき物が袋に入っていた。
王国の威信を掛けた戦いである。
かなり高価そうな金の通貨が出てきたが、刻印には「1」と記されていた。
おいおい、夢なのに条件が厳しすぎだぜ。

「なにこれ」
「装備と薬品とゴールドじゃ」
「伝説の剣とか鎧は?」
「ない」
「いやいやいやいや、違う違う。普通ここで王国に伝わる伝説の剣とか出てくるべきで」
「そんなもんがあったらワシが魔王を倒しに行くわい」
「え?あれ?マジでこれだけ?」
「さあ王子の出立じゃ!送迎の拍手を!」

395 :DQ2:2005/05/02(月) 19:07:12 ID:ta90aZiM
 兵士達の拍手に包まれて歩き出す。
正確には王様に背中を押されて無理矢理歩かされた。
兵士の中には鼻水を垂らしながら泣いている人もいる。
ちくしょう、ハメられた。
「ごめん、やっぱやめ」
なんて誤魔化せる雰囲気ではなくなってしまった。
腰に括り付けた銅の剣で王様を殴り倒して、
「いっそ全員でかかってこい!」
という展開にしてしまおうかとも思ったが、それもあんまりな展開だろう。
泣く泣く俺は城を出る。

 まさか世界を救う勇者がこんな格好をしているとは誰も思うまい。
城下町の入り口を守る兵士に敬礼をされながら一先ず町を出る事にする。
何で淫夢はすぐに目が覚めるのに、こういうろくでもない夢は長く続くのだろう。
限りなく続く森と平原を見つめながら、俺は途方に暮れていた。

396 :DQ2:2005/05/02(月) 19:07:46 ID:ta90aZiM
ごめん、書いてみたらすげえ長くなった。
今は反省している。

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